●激化する螺旋忍軍の抗争に……
東京都都内――。
夜闇に紛れて火花を散らし、ぶつかり合う螺旋忍軍。その数は双方共に少なく、小競り合いといったところ。彼らは摩天楼の中を駆け抜け、手にする刀と手裏剣を交錯させる。
忍軍の飛ばした手裏剣を相手が軽やかにかわせば、手裏剣はビルをやすやすと切り裂いてしまう。
応戦する相手は直接刀で切りかかるが、難なく身を翻す。近場の消火栓が切り裂かれ、勢いよく水が噴き出し始める。
刀を避けた忍軍は、分裂する手裏剣を降り注がせた。相手は跳躍してその雨から逃れたが、地面に落下するそれらは停車していた車を破壊し、アスファルトを抉っていく。人的被害がなかったのは、不幸中の幸いと言えた。
「あちきの思った通りっす」
その抗争を、とあるビルの屋上から見下ろすレプリカントの少女の姿。鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)は、激化する螺旋忍軍の抗争をどうしたものかと考える。
「東京23区の平和を守るには、やっぱり、アレが必要っすよね!」
五六七は思いついた作戦を実行すべく、その場から姿を消していった。
ヘリポートにて――。
「東京23区の螺旋忍軍同士の戦いは、激化の一途を辿っているようだね……」
鯖寅・五六七がもたらしてくれた情報を元に、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が作戦説明を行う。
「ケルベロスが撃破した螺旋忍軍の被害を、忍軍達が互いに相手の忍軍の攻撃によるものと誤解した状況が多かったと予想されるよ」
現状、螺旋帝の血族の捜索よりも敵対忍軍の撃破が主目的となっている様相らしい。他忍軍の壊滅の為に動く一派がいたことも、疑心暗鬼の元となったようだ。
「この状況を解決するべく、正義のケルベロス忍軍を結成すべしという提案を、五六七がもちかけてくれたよ」
つまり、一般人を守る為に戦うだけでは無く、忍軍達と同じ土俵に立って『螺旋帝の血族』を捜索し、他の忍軍と抗争しようと言うのだ。能動的に事件へと介入する作戦も時に重要だということだろう。
「今、それぞれの忍軍は他忍軍全てを敵と見なして総力戦を行っているから、本拠地は手薄になっている勢力も多いはずだよ」
この好機を生かせば、螺旋忍軍達に大打撃を与え、螺旋帝の血族を探し出して発見するチャンスも巡ってくる事だろう。
「忍軍の分布を分析して、重要なエリアを絞り込めないかと考えているのですが……」
「うん、それも目的の一つだね」
そこで、ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)が口にした意見に、リーゼリットが頷く。
詳細は不明だが、螺旋忍軍は螺旋帝の血族の為に抗争を行っている。ならばこそ、先に発見して適切な処理を行う必要があるのは間違いない。
「敵勢力の状況だけれど……。数が多いから1つずつ。まず、月華衆だね」
月華衆は大きな勢力だが、指揮官『機巧蝙蝠のお杏』を撃破すれば、当面動けなくなるはずだ。
拠点となる豊島区の雑居ビルは、正面入り口、裏口、隣のビルから屋上に飛び移る、壁を登って窓から潜入、下水道を通って地下から潜入という5つの方法で突入する事ができる。
「次に、魅咲忍軍。小規模だけど、指揮官である魅咲・冴以外にも、7色の軍団とその指揮官がいるようだよ」
魅咲・冴を狙うと他指揮官が救援に来る可能性が高く、討伐しきるのは難しい。ただ、ある程度打撃を与えれば、戦力を整える為に配下を動員しようと動く。上手くいけば、螺旋帝の一件から手を引くかもしれない。
彼女達は、反社会勢力が良く利用する港区の倉庫を占拠している。襲撃の際に撤収する敵が持ち出そうとする資料の確保も試みたい。魅咲・冴の撃破にはそれなりの戦力が必要だが、撃破せずとも援軍にきた指揮官を倒せば、魅咲忍軍に大きな打撃を与えられるはずだ。
「大企業グループ『羅泉』。実在する企業ではなく、『会社組織』の形態が、忍軍の組織に相応しいと考える一派だね」
拠点は世田谷区のオフィスビル。代表取締役社長、鈴木・鈴之助はオフィスの社長室で指揮を取っている。残業する社員もいるが、その能力は高くない。鈴木・鈴之助の撃破は戦力を集中させれば可能だが、彼はかなりの力量を持つので、油断なく相手をしたい。
また、『羅泉』配下には下部組織もあり、鈴木・鈴之助の統制が無くなれば、それらの組織が個々に動き出す危険もあることを留意しておきたい。
「真理華道。新宿区歌舞伎町のバーを拠点としているよ」
真理華道の他の組織は不明だが、幹部ヴァロージャ・コンツェヴィッチを撃破すれば、その動きを止めることはできるだろう。戦力も少なく、ヴァロージャ撃破の可能性も小さくない。
「銀山衆指揮官、霊金の河の地下コンサートが千代田区の電気街で開催が確認されているね」
会場には銀山衆の他の幹部も警備に当たってはいるが、ここを襲撃すれば、霊金の河を撃破できるかもしれない。
「黒螺旋は東京に本拠がないようだけど、指揮官『黒笛』のミカドさえ討伐できれば、黒螺旋の勢力を23区から一層できると思う」
本拠地から増援を送るにしろ、時間を稼ぐことはできるはずだ。
『黒笛』のミカドは大田区の高級住宅街の豪邸を制圧し、拠点としている。庭には番犬代わりの下忍達が放たれており、気づかれずに潜入するのは難しい。この対処の為、下忍撃破班と豪邸侵入班に分かれる必要があるだろう。
「あと3つ。白影衆は他の螺旋忍軍壊滅に動いているから、今は敵対する必要がないかもしれないね」
台東区の神社の境内の一部に拠点を設けている。指揮官、雪白・清廉もそこにいるはずだ。
「テング党は中規模な忍軍で、江戸川区の河川敷に秘密基地を作っているよ」
こちらも、ある程度戦力を集中させれば、マスター・テングを討つことはできる。ただ、その下には強力な四天王天狗が控えている為、その撃破には多くの戦力が必要となる。
「最後に、螺心衆。幹部の派遣がないようだから、比較的たやすく本拠地を破壊できそうだね」
東京支社とも言える足立区雑居ビルの拠点を制圧すれば、螺旋帝の一件に螺心衆が関わってくることはなくなると見ている。
一通り説明を終え、リーゼリットは更に続ける。
「いずれも敵の拠点だから、油断は禁物だよ」
襲撃には、『正義のケルベロス忍軍』を名乗っておきたい。こうすることで、抗争相手が別の忍軍がケルベロスの忍軍を雇った可能性を考え、混乱を見込めるからだ。
また、拠点を調べることで、螺旋帝の血族の情報が得られる可能性もある。これを解析すれば、何かつかめるかもしれない。
「螺旋忍軍の抗争を止める為に。よろしく頼んだよ」
抗争を止め、都内の人々に平穏を。リーゼリットはそう、ケルベロス達へと願うのである。
参加者 | |
---|---|
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880) |
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708) |
フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002) |
御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308) |
アーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827) |
エストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843) |
●潜入に際して
東京都世田谷区。
この地のオフィスビルに、大企業グループ『羅泉』の拠点があるという。
ヘリオンから降下するケルベロス達。4人の有翼種族のメンバーが他4人をそれぞれ抱える形で、ビルの屋上にゆっくりと降り立っていく。
そこで皆、纏っていた外套を取り去り、下に着ていたスーツ姿となる。
「みんな決まってるね~!」
アーシィ・クリアベル(久遠より響く音色・e24827)は声を潜めつつも、仲間の姿にニコニコとしていた。
背中の光の翼を隠し、それらしく見えるように眼鏡着用、長い髪も後ろで纏めたアーシィ。彼女はビシッと、仕事できるぞウーマンポーズを元気に決めてみせる。
「さて、螺旋忍軍の中で何が起きているのか……、確かめなければな」
チーム唯一の男性、ドラゴニアンのアルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)も人派の姿となり、翼、尻尾を隠してから仲間達へと告げる。
メンバー達の目的は、『羅泉』に関する情報収集。それを分析し、螺旋帝の血族への重要なエリアを絞り込むことだ。
だが今回、『羅泉』の潜入に臨むのは、自チーム合わせても2チームのみ。社長、鈴木・鈴之助の撃破はおろか、オフィス制圧すらも望めぬ状況ではある。
「戦いに勝てなくても、情報さえ持ち帰れればよいのです。やれることをやりましょう」
そう主張するミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)に寄り添うフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が頷く。
これが、仲間や人々を守ることに繋がるなら。大人びた少女、御門・愛華(魔竜の落とし子・e03827)もそれに同意していた。
冷めた態度をした赤目白髪のファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)も、粉骨砕身の気概で作戦に臨む。普段は喪服姿のファルゼンも作戦に従い、スーツ姿での参戦である。
「この剣に誓って、必ずや皆様のお役に立ってみせます!」
対して、ハイテンションに己の星厄剣を携えるエストレイア・ティアクライス(さすらいのメイド騎士・e24843)。メイド騎士を自称する彼女もまた、スーツ着用だ。
「やれることを、全力で私達にしか出来ない事を!」
さすがに、声を上げるエストレイアを全員で抑える。……どうやら、羅泉には気づかれていないらしい。
「羅泉……今は手が届きませんが、いつか必ずあなた達を倒してみせます」
その為にも、今作戦の成功を。栗色のウェーブヘアを翻しつつ、フィルトリア・フィルトレーゼ(傷だらけの復讐者・e03002)は仲間達へと促すのである。
●羅泉の握る情報とは……
ビルに潜入し、オフィスを見定めて忍び入るケルベロス一行。
メンバーは予め通信手段を用意し、活性できる者は隠密気流を使い、出来る限り息を潜めて探索を始める。
エストライアは早速、地図や書類をメインに、有益な資料を探す。重要エリアを絞り込む為に、『羅泉が重点的に配備されている地区』が分かればと考えていたのだ。
探索の最中、アルディマはデジタルカメラ『オービタルアイズ』を手にし、オフィス内部を撮影していく。
その際、アルディマは資料も録画する。螺旋忍軍の主星「スパイラス」の位置が分かればと思うが、そう簡単に欲する資料は得られない。
フィルトリアもまた、所持するデジタルカメラで内部の構造を写真へと収めていたのだが……。
コツコツコツコツ……。
廊下を響かせる乾いた靴音。それに、メンバーは皆、身を竦ませる。
(「早く、あっち行って~~!!!」)
そのオフィスで、最も偉そうな人の机に目星をつけて物色していたアーシィ。彼女は机の下に隠れ、心臓をバクバクさせていた。
戦闘は極力避ける方針の一行。足音が去っていくのを確認し、ホッとしたメンバー達は探索を再開する。
「この机のパソコンの調査をお願いします」
忍軍のフリをするアーシィは、普段はしない敬語でフローネに依頼する。
応じたフローネは情報端末使用しつつ情報の妖精さんに尋ねてみるが、どうやらそのパソコンは外れだったようだ。
そうして、メンバーは別の部屋へと移動するのだが、その際、愛華が調査済みの部屋に爆弾を仕掛けていく。後ほど、これを爆破させ、更なる侵入者があったと羅泉に誤認させて撤退時間を稼ぐ狙いだ。
周囲の警戒は続けながら、ファルゼンはパソコンを調べる仲間を見守る。
もし、うまく有益な情報を引き出せそうなら、いっそパソコンを壊して基盤だけでも抜き取ろうとファルゼンは考えるが、なかなかそれらしき情報は見つからない。
ミチェーリも羅泉の配備状況などが分かる資料、また、忍軍大戦に関するを求め、書類に目を通していたが……。
「……来ます」
何かの気配を察したミチェーリ。こちらへと駆けつけてきた足跡はすぐに、オフィスの扉を開いた。
「何者だ!!」
「……こちらには怪しい連中は居ませんでした。そちらは?」
現れた羅泉社員に対し、アーシィは平然と白を切って見せる。
「物色された痕跡がありますね。向こうのオフィスを見て来て頂けますか?」
「とぼけるな、侵入者め。どこの忍軍だ……!?」
現れた社員は武器として使用すべく、アタッシュケースや名刺を用意する。
さらに、ビル内にけたたましい警報音が鳴り響き出してしまう。
「あ、あはは……。バレちゃったなら、仕方ないねっ」
愛想笑いするアーシィは構えを取る。ファルゼンもこの状況でも冷静に対処し、惨殺ナイフを取り出した。
アルディマも社員のフリで通すのを諦め、竜派の姿へと変貌する。高貴さを抱くからこそ、彼はこの姿で戦いに身を置く。
「出来ることなら、地球を巻き込まないで貰いたい所だ」
迷惑極まりない螺旋忍軍の抗争。それを止める一手となることを信じ、アルディマはケルベロスチェインを操るのである。
●超エリート社員を叩け!
この場へと駆けつけ、6人の平社員達を率いる『羅泉』の超エリート社員。
「私に続け!」
眼鏡をくいっと吊り上げたそいつは、一直線にケルベロスへと向かってくる。
その前にミチェーリが立ちはだかり、他のメンバーもまたそれぞれの立ち位置を確認して羅泉を叩く。
向かい来る羅泉に対して先制の一手を繰り出したのは、並外れた膂力で飛び出した愛華だ。
「遅いよ」
愛華は氷の粒子を纏った右拳を振りかぶり、敵を殴り飛ばす。
ファルゼンもボクスドラゴンのフレイヤに仲間のカバーを任せ、自らは手にする惨殺ナイフを煌かせる。それによって、前線に立っていた平社員が何やらトラウマを発症して叫び始めていた。
ただ、その叫び声よりも大きな音で警報が鳴り響いており、いつ増援が来てもおかしくはない。
「速攻で撃破しませんと……!」
フィルトリアは手前に並ぶ平社員と超エリート社員目掛け、オウガメタルによって頭上に黒太陽を具現化し、黒光によって羅泉社員を照らす。
強く眩く、絶望を感じさせる光に足を竦めた敵へ、アーシィが迫る。思った以上に命中率を維持できないと判断した彼女は、全身を光の粒子に変えて敵へと突撃していく。
対して、羅泉社員。前線の社員はアタッシュケースで殴りかかり、後方社員は名乗りがてらに名刺カッターを投げ飛ばしてくる。
「このメイド騎士に、ティアクライスのエストレイアにお任せ下さい!」
名乗りなら負けないとエストレイアは叫び、腰に携えていた名称不明の二本の長剣を取り出す。
「私達の行いは、決して無駄ではない。そう証明してみせましょう!」
そうして、エストレイアはその尖端から発した弾丸を前に立つ平社員へと叩きつける。
「悪いが、押し通らせてもらう!」
後方で、機を窺っていたアルディマ。彼はケルベロスチェインで傷つく平社員を強く縛りつけた。
力尽きた平社員は鎖から解かれると、うつ伏せに倒れ行く。
「何者だ……?」
超エリート社員は眉を顰め、さらに攻撃を仕掛けてくるのである。
フィルトリアはふと、戦場を見回す。
サイレン音が響き、赤いランプが点滅する中での戦い。
羅泉社員は平然と、仲間……ケルベロスを傷つけてくる。彼らを野放しにすれば、多くの人々が傷ついてしまう。
そんな思いを抱くフィルトリアは、敵の持つネガティブな感情を吸収して。
「貴方の罪、私が断罪します……!」
それを漆黒の炎へと転化し、フィルトリアは一気に地獄となった地獄の右腕から放出する。炎に包まれた平社員は、呻き声を上げながら崩れ落ちていった。
前衛の盾が崩れれば、螺旋忍軍とて布陣は崩れたも同然。ケルベロスは阻害役となる社員を見定めて叩く。
「いくよ、ヒルコ」
その身に取り込んだ獄竜の力を解放した愛華は左目を赤く灯し、傷痕のある左腕をドラゴンクローへと変化させる。そして、彼女はその鉤爪で、羅泉社員の体をいとも簡単に引き裂いてしまった。
「くっ……」
次々倒れる平社員に、超エリート社員もなす術がない。栄養ドリンクを口にして態勢を整え直すが、ケルベロス達はそれを待ちはしない。
仲間が超エリート社員に狙いを定めてグラビティを繰り出す中、ミチェーリはフローネと超エリート社員を挟み込む。
「この一突きで穿ち抜く! 露式強攻鎧兵術、“氷柱”!」
ミチェーリが己の重装甲ガントレットに装着したのは、冷気のオーラを圧縮して実体化させた氷の杭。彼女はそれを高速射出し、敵の腹を貫く。
串刺しとなって動きを止めた超エリート社員の背から、フローネが迫る。彼女は手にするエメラルド・ソードに、愛用のアメジスト・シールドを展開する装置を連結させた。
「エメラルド姉さんの奥義――全てを、断ち斬ります!」
エメラルドとアメジスト。2種の光が包む剣を、『紫水晶の盾』であるフローネが振るい、目の前の敵を断ち切ってしまう。
「こ、こんな、馬鹿なぁぁっ……!」
白目を向いて崩れ去る超エリート社員。羅泉社員の撃破は時間の問題だった。
●こ、こいつ、ただの平社員じゃ……!
刻々と過ぎ行く時間。
増援を気にしながらも、ケルベロスは着々と敵の数を減らす。
フローネがエメラルド・ソードで切り裂いた平社員へ、ミチェーリがブーツで一蹴して平社員を床に沈める。
敵のダメージを見計らっていたフィルトリア。程なくして、鋼の鬼と化したオウガメタルで彼女が平社員を殴りつけると、そいつもまた卒倒していった。
残る社員は、たった1人。
「ドモドモ、こういう者ッス」
やや小太りで、やる気なさそうな万年平社員といった印象である。彼が投げつけてくる名刺カッターには、『濱田・浜輔』と書かれてあった。
どんな姿であろうが、地球に仇なす敵には変わりない。アルディマは率先してそいつへと吠える。
「受け継ぎし魂の炎を今此処に! 竜の火よ、不死なる神をも灼き払え!」
竜の力を最大限にまで高めたアルディマは、前方に展開した魔法陣の力を借り、炎の息吹を平社員へと収束させる。
「あちちッス」
多少、服や身体を焦がすその平社員はアタッシュケースを振り回す。受け止めたミチェーリはかなりの衝撃を受けていたが、その瞬間に平社員はよろけていたようだ。
「喰らい尽くして、ヒルコ」
愛華は竜化した左手で平社員のだらしない腹を殴りつけ、そいつの魂を喰らおうとする。受けたそいつは脂汗をかきつつ、愛想笑いをしていた。
「祈りを捧げます。かの者に、守りの加護を!」
盾となっているミチェーリの疲弊を察し、エストレイアは何かに対して祈りを捧げることで防護の力を授けていく。
「ドモドモ」
依然として、平社員は大儀そうに戦う。
一見すれば、ケルベロス達は順調に冴えない平社員を攻めているようにも見える状況だが、ケルベロス側がいくらグラビティ繰り出しても、そいつはなかなか倒れる素振りを見せない。
(「麻痺、魅了といった効果は、敵のグラビティにないようね」)
増援が近づくはずの状況においても、ファルゼンは焦りすら見せることなく敵の攻撃方法を分析する。
彼女は溜めた気力を撃ち出し、前で頑張って身を挺するフレイヤの傷を癒していた。
一方、応戦を続ける濱田・浜輔はそこで、他の平社員は取らなかった構えを取る。
「いやー、だるいッス」
だらけた態度でグラビティを発する濱田。その気だるいオーラは、前線メンバーの身体の所々を石のように硬直させてしまう。
「…………っ」
クールな態度こそ崩さぬが、ミチェーリは体が動かぬことに驚きを隠せない。
そんな彼女の姿にフローネは静かに怒りを燃え上がらせ、稲妻を纏わせたサファイア・グレイブで敵を貫く。
「手ごわい……ですね」
見た目に反し、並々ならぬ能力を持つ平社員、濱田。フィルトリアもまた、動かぬ体にしばし戸惑いを見せる。
「戦場で私の前に立ちはだかるというのなら……。いきます!」
愛用の日本刀「星河」の刀身を、アーシィは冷気で包み込む。石となる腕を何とか動かす彼女は、高速の太刀筋で濱田に切りかかるが……。
「いや、キツイッス」
いくらか斬撃を浴びたはずだが、濱田はなおも後頭部を押さえつつ立ちはだかる。
「そろそろ潮時……かな!?」
鳴り響くベルに紛れて階下から聞こえる足音に、アーシィはたらりと冷や汗を流すのである。
●成果は得られず……
廊下を駆けてくる多数の足音。
多勢に無勢だと感じたケルベロス達は、この場からの離脱を行うこととにし、オフィスの窓ガラスを爆破していった。
さらに、予め別の場所に仕掛けていた爆弾も起爆させ、離脱の為の時間を稼ぐ。
「逃げるッスか?」
それならそれでと、濱田は構わないという態度。どのみち他の社員がすぐに駆けつける上、何も情報は取られていないと確信していたのだろう。
一方、ケルベロス達は手早く降下時と同様、有翼種族メンバーが他4人を抱える態勢を取る。
「私達は、正義のケルベロス忍軍。この螺旋忍軍大戦に参加するもの」
愛華が高らかに告げると、ミチェーリは「正義のケルベロス忍軍、参上」を書かれたビラを周囲に撒き散らす。
「正義のケルベロス軍団をよろしくね~!」
「それでは、羅泉の皆さん。また会いましょう?」
アーシィと彼女に抱えられた愛華がそんな捨て台詞を残し、窓から斜め下方に滑空し始める。
他メンバーも次々に、ビルの外へと飛び出していく。
しばし、アルディマは後ろを振り返っていたが、追っ手が来る様子はなかった。
「皆様、お疲れ様で御座います!」
敵から上手く逃れたところで、エストレイアが仲間に呼びかける。しかし……。
「……平和に近づく一手となれず、無念です……!」
有用な情報は全く得られず。メンバー達は俯き、拳を震わせ、悔しさを滲ませていたのだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:失敗…
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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