まるで海外の間違った日本観に基づいて製作されたアクション映画の忍者のような出で立ちの者達が、人気の無い深夜にビルの屋上で争っている。
デウスエクスの一種族である螺旋忍軍の異なる勢力同士が、戦っているのだ。
屋上の至る箇所に日本刀の傷跡が刻まれ、巨大な手裏剣が貯水槽を破壊し水が零れ出している。さらには、戦いの衝撃で屋上が崩れ下の階に瓦礫が散乱してしまう。
一般人が居合わせていないため人的被害は無いが、別段そうしようという配慮があったということではない。偶々、この時間この場で鉢合わせたからに過ぎない。
螺旋忍軍達は1つのビルの屋上に留まりはせず、次から次へと手近なビルに飛び移りながら、戦い続けていった。戦いが終結する頃には、いくつものビルの屋上が壊滅してしまっていたのだった。
結果としてこの螺旋忍軍同士の抗争は人目に触れることはなかったが、唯1人だけ、遠くから監視していた者がいた。
鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)である。
「あちきの思った通りっす。忍軍同士の戦いは激化の一途っす。東京23区の平和を守るには、やっぱり、アレが必要っすよね!」
そう言い残し、万一にも螺旋忍軍に発見されないよう慎重に五六七はその場を後にした。
最近頻発している螺旋忍軍同士の争いについての依頼として、ケルベロス達は静生・久穏の呼びかけに応じてヘリポートに集っていた。
「鯖寅・五六七さんの調査により、東京23区での螺旋忍軍同士の戦闘は激しさを増す一方との事です」
推測だが、これはこの件の対処に当たったケルベロス達の活躍を他の螺旋忍軍勢力によるものだと誤解した結果でもあるようだ。このため、本来の目的であった螺旋帝血族の捜索よりも他勢力の排除が優先されてしまってすらいる。白影衆のような、他の螺旋忍軍滅亡を目的としている勢力が混ざっていたことも、この状況に拍車を掛けているのだろう。
「この状況を解決するべく、五六七さんから提案がありました」
そので一旦言葉を区切った久穏は、一泊置いてから続きを口にした。
「それは、正義のケルベロス忍軍の結成というものです」
言葉だけを聞くと子ども染みた提案のようだが、要するに後手に回るだけでなく、螺旋忍軍と同様に螺旋帝の血族捜索に加わり抗争に参戦するということだ。
「現在この活動に携わっている各勢力は、他勢力を全て敵と見做して総力戦を行っています。これによって本拠地が手薄になっていると予想されますので、巧く事を運べたなら勢力そのものに致命傷を与え、螺旋忍軍に先んじて螺旋帝の血族を発見する好機を得られる可能性すらあるでしょう」
そもそも螺旋帝の血族がどのような存在であり螺旋忍軍にとってどういった立ち位置であるのかも解ってはいない。それでも、螺旋忍軍がここまで活発に活動し殺し合いすら厭わない以上は、放置しておくべきではないだろう。
「今回の具体的な依頼内容ですが、現在活動が確認されている螺旋忍軍勢力を襲撃するというものです」
この作戦は当然ながら相応の危険が伴うが、それだけに効果も期待できるものだ。
「豊島区の雑居ビルの一つを貸しきって拠点としており、機巧蝙蝠のお杏が率いる『月華衆』。港区の倉庫を占拠している、魅咲・冴を筆頭に7色の軍団とその指揮官が存在している『魅咲忍軍』。世田谷区のオフィスビルを不法占拠中の鈴木・鈴之助が代表となるのは、まるで企業が実在し会社を構えているかのような『大企業グループ羅泉』。ヴァロージャ・コンツェヴィッチが幹部を務める、新宿区歌舞伎町のバーに拠点を据えた『真理華道』。拠点は不明ですが、霊金の河が開く地下コンサートが千代田区の電気街で行われる事が確認された『銀山衆』。おそらく本拠地を東京外に置き、今回は黒笛のミカドが制圧した高級住宅街の豪邸を拠点とする『黒螺旋』。雪白・清廉が指揮を執る、台東区の神社の境内の一部に拠点を設けた『白影衆』。マスター・テングのみならず、強力な四天王天狗を擁する江戸川区の河川敷に秘密基地を設た『天狗党』。有力な幹部を差し向けておらず、足立区の雑居ビルの拠点には並みの戦力しか確認されていない『螺心衆』。以上の9勢力のいずれかを、襲撃してください」
指折り数えながら、久穏は敵勢力のおおまかな情報を告げた。
「敵螺旋忍軍勢力は他勢力へ戦力と関心を向けていますが、それでも一筋縄でいける相手ではありません。くれぐれも、油断は禁物です」
ケルベロス達に警戒を促した久穏だが、それでも必ず成果を上げるという信頼は揺らいではいない。
「今のところ、どの勢力も螺旋帝の血族に関する決定的な情報は掴んでいないようです。ですが、複数の勢力拠点から彼らが集めた情報を合わせれば、進展があるかもしれません。敵拠点の制圧に成功した際には、資料などの情報収集をくれぐれもお忘れなく」
もちろん、その為には拠点襲撃に成功するための作戦打合せが必須であると付け加え、久穏はケルベロス達をヘリオン内へと促した。
参加者 | |
---|---|
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166) |
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168) |
八崎・伶(放浪酒人・e06365) |
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812) |
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631) |
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801) |
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532) |
●屋上からの襲撃
月華衆の拠点となっている、東京都豊島区の雑居ビル。それに隣接するビルの屋上で、8人のケルベロスが今まさに行動を開始しようと身構えていた。
「少し距離がありますが、これなら飛ぶ必要はありませんね」
目的のビルまでの距離は、常人であれば跳び越えようなどとは思わない。けれど、鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)は目測だけで飛行は必要ないと判断した。
念の為不安がある者がいるかどうか確認するが、無理だと判断する者はいなかった。
もちろん、跳び移る最中に何事かがあれば、飛行が可能な者がフォローできるよう注意するけれど。
「みんな行けるみたいだね。ルティエは僕が連れて行こうかな?」
「私なら大丈夫。さて、行きましょうか」
冗談めかしてはいるが、クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)が深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)を気遣っていることは傍目にも分かる。こういう状況でなければ、ルティエはその言葉に甘えていたかも知れない。
「では、まずはわたしが先行します。ヴェクさん、行きますよ」
ウイングキャットのヴェクサシオンを胸に抱き、遠之城・鞠緒(死線上のアリア・e06166)が月華衆の拠点ビルの屋上へと跳躍した。
「すぐさま発動する罠や迎撃の類は無いか。では、私も続こう」
冷静に周囲を観察していたティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)も、ほぼ間を空けず跳び移る。
「しかし、この服は動き易いんだか動き難いんだか分からないな」
今回のために誂えた揃いの衣装を翻し跳躍した八崎・伶(放浪酒人・e06365)は、改めて衣装を見つめ直した。忍者風の衣装ということで動きを阻害するものではないのだが、いかんせん着慣れていないためどうにも落ち着かない。まあ、気分の問題なので戦闘などに支障はないのだが。
そうしてケルベロス達は順に移動し、軽い助走で難無く跳んだ君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)と、その後に最後となったリューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)が到着し移動が完了した。
「感謝スる。互いに無事で何よリだ」
「だが、ここからが本番だ」
まず無いが、他のビルなどから狙撃されるといったような危険も考慮していたため、リューデは自分を最後にしたのだった。
それを察していた眸はごく自然に手短な礼を告げ、それ以上の不要な慣れ合いは行わない。仲間を想う事は、殊更に特別扱いするようなものではないから。
隣のビルではやや砕けた雰囲気だったケルベロス達だったが、ここからは敵地だという認識に、全員の表情に緊張が浮かぶ。
その瞬間に、偶然先頭にいたルティエに何かが飛来した。
●炸裂鎖鎌のお梅
屋上から襲撃を仕掛けたつもりであったが、むしろ敵に先手を許してしまった。
そう理解したルティエに迫るのは、鎖に繋がった爆弾のような形状の物体だ。
直後、屋上に爆発と轟音が木霊する。
「ケルベロスってのは、なかなか骨のあるヤツらみたいだね~。ま、屋上から来るってのは予測済みだったけどさ~」
語尾を伸ばした喋り声は、それに反して成熟した女性の色香すら薫るような声音であった。伸びた言葉からも、間の抜けた印象は一切感じない。むしろ、そこに気を取られては危険だとケルベロス達の本能が警告する。
声の主は、給水塔の影から3名の配下を引き連れ現れた女性であった。その出で立ちから、螺旋忍軍であることは疑いない。
「褒められても嬉しくはないけどね。ルティエに手出しされたくないってだけだから。なんてね、味方はみんな守ってみせるよ」
瞬時にルティエを庇い爆発を受けたクレーエだが、軽口で応じてみせる。けれど、受けた傷は軽傷とは言えない。
「何者でござ……。何者だ? 冥途の土産に、名前くらいは聞いておいてやらんでもない」
忍者風の衣装に見合うよう、時代劇を観賞し付け焼刃で覚えた口調を使おうとしたティーシャだが、途中で恥ずかしくなったのか言い直した。
「あーしの名前はね~、炸裂鎖鎌のお梅っていうんだよ~」
どうやら、思いがけず月華衆幹部と遭遇してしまったようだ。屋上からビル内部に潜入し敵戦力を削減する予定だったのだが、作戦を修正し目の前の敵の撃破に全力を尽くさなければならないようだ。
「けどさ~、これが冥途の土産になるのって、あんた等だよね~」
迫力に欠けるようで、どこか凄みのあるお梅の言葉。おそらく、敵のみならず味方からすらも自身を正確に計らせないための工夫なのだろう。
「せこい奇襲で思い上がったもんだな。俺達ケルベロス忍軍に、その程度の人数で太刀打ちできると思うなよ」
伶はあえてケルベロス忍軍と大声で強調した。今回はこのビルの月華衆撃破と螺旋帝に関する情報収集が目的だが、このケルベロス忍軍という存在を螺旋忍軍に吹聴することも後々に向けて行っておきたいからだ。
「えっと……なに~?」
確認ではなく、小馬鹿にしているのだろう。そんなお梅に、リューデは淡々と名乗った。
「……ケルベロス忍軍参上」
内心では照れているのだが、それを表情に出してはいない。もっとも耳が赤くなっているので、見透かされてしまっているのだが。
「ん~、聞いたことないや~」
明らかに胡散臭い名称ではあるが、螺旋忍軍の勢力は当の螺旋忍軍ですら把握して切れているものではない。そのため、そういうのもいるのだろうかといった認識なのだろうか。
「月華衆、ですって? 華があるのはどちらか見せて差し上げます!」
忍者衣装を強調するような決めポーズを取った鞠緒のオウガメタルが、光り輝くオウガ粒子を放出する。それと同時に、ヴェクサシオンも羽ばたいた。
それはただの演出などではなく戦闘行為に他ならないため、ケルベロス達の動向を注視していた月華衆達もそれぞれの武器を手に間合いを詰める。
「転ばぬ先の何とやら……ですかねっ。クレーエ、もう少し我慢してください。ルティエは落ち着きましょう」
味方前衛陣に雷の壁を構築した奏過は、次にクレーエを治療すると宣言するが、次の行動を取る際に戦局がどうなっているかは分からない。この行動でいくらかはクレーエの傷を癒せているのが、せめてもの救いだろう。
「リューデ、攻撃はワタシが防ぐ。敵の守りを崩しテくれ。頼んダぞ」
機械的な構造の妖精弓で妖精の祝福を宿した矢を放った眸は、リューデからの応答を待たず敵と対峙する。反応を待つまでもなく信頼していることの表れだ。
「私達はケルベロス忍軍……」
改めて名乗りを上げるルティエの声は、明白な怒りと闘志が籠っている。奏過の忠告が効いているのかいないのか。
眸のビハインドであるキリノが屋上に散乱していた瓦礫を念で飛ばし、それによって月華衆が負った傷をボクスドラゴンの紅蓮がブレスを発して増幅する。
「お前達には消えてもらう」
そうして回避が困難になったところに、獣化したルティエの腕が速く重い一撃を叩き込んだ。
「お~、やるね~」
怯む部下を叱咤するでもなく、暢気な様子の炸裂鎖鎌のお梅。しかし、ケルベロス達の実力の一端を見たことで、戦闘に本腰を入れたのだった。
●屋上の死闘
ケルベロス達の個々の実力は、月華衆に勝っている。しかし、それよりも炸裂鎖鎌のお梅は遥かに強い。
「予想通り屋上から来たり~、戦いもイマイチだし~、この程度なのかな~」
間延びした口調は、戦闘においても己の速度を誤認させる役割を果たしているとでも言うかのように、眸を切り刻む鎌の刃は到底避けられるものではなかった。
「気の抜けた声音で挑発しタところで、ワタシ達には通用シない」
この程度で倒れはしない、そして敵の戦術に乗せられもしない。眸は自分達が劣勢などではないと主張する。
しかし、このままの状況が続くようでは危ういのも事実。
(「あの武器、近接には鎌での斬撃、離れた場所には鎖先端の爆弾で単体にも複数相手にも対応できるか。しかも鎌で斬った際の返り血を浴びて回復している。厄介だな」)
月華衆の1人の脳天にルーンアックスを叩き付けながら、ティーシャはお梅の武器を分析していた。
こうなると、当初の敵先制攻撃が一撃だけだったのは不幸中の幸いだった。
その理由はケルベロス達がヘリオンからの降下作戦を敢行するという思い込みから空に注意を払っており、隣のビルから跳び移って来るとは予想していなかったためだ。敵にしてみれば突如ケルベロス達が屋上に現れたようなものだっただろう。身を隠していたことで、隣のビル屋上にいたケルベロス達に気付けなかったのも幸運だった。
それでも想定通りだと主張しているのは、ヘリオンのスーパーステルスによるものだと思い込んでいるためか。
どちらもが相手の意表を突いた形で始まった戦いは、今のところ五分。しかし、お梅の力量がこの戦いを支配しつつある。
味方前衛でも防御を担当する3人の内、防具が鎌の攻撃と相性が悪いのは眸だけだ。それを数手の攻防で見抜き、お梅は鎌での攻撃を眸に絞っている。単純に強いだけでなく、戦術眼もあるようだ。
「回復はお任せを……。皆様思う存分……やってくださいませ」
薬液の雨を降らせ前衛陣を治癒する奏過は、受け身に回ってしまえば負けると、仲間達に攻勢に打って出るよう促した。
「そうだな。俺も、やれるだけやってみせるぜ」
月華衆の日本刀の斬撃を浴びた伶だが、その傷は浅い。やはり、お梅以外はそれほど危険な相手ではないようだ。だからと言って、無視できる訳ではないが。
エネルギー光線で月華衆に反撃しつつ、伶は自身の役割は攻性防壁であると認識した。微量な回復を行うよりも、戦況を好転させる要素になるはずだ。
「そーかさんが後ろで支えてくれてるなんて、頼もしいなあ。伶さん、眸さん、僕達が倒れなければ、こっちの勝ちだよ」
この戦いは、お梅の攻撃でケルベロスが潰滅するのが先か、ケルベロスがお梅を倒すのが先かだ。そのため、防衛担当の3人の役割は重要だ。
「まずは取り巻きを排除します。紅蓮、お友達と一緒にそっちをお願いです」
赤みがかった刀身に地獄の炎を纏わせ、ルティエは愛用のナイフで月華衆の1人を斬り伏せる。敵戦力が1人減少したことで、少しだけ有利になっただろう。
残った2人の月華衆の一方に、紅蓮と伶のボクスドラゴン焔がブレスを吐き付けている。どことなく似た2匹は、心なしか息の合った動きをしているかのようだ。
「随分と暴れ回っているようだが、ここはお前達の戦場ではない。人々の暮らす土地だ。失せろ」
ブレスを浴びた月華衆を、リューデの放った物質の時間を凍結する弾丸が射抜いた。
先刻の名乗りを除けば、あまり感情を表に出さないリューデだが、この東京を抗争の舞台にしていること、それによって損害を齎していることが業腹なのだろう。
「お見せしましょう、ケルベロス忍法を。これぞ、鉄拳の術です!」
身に纏うオウガメタルを鋼の鬼と化し、鞠緒はその拳で月華衆を殴打する。口にした忍法は、ケルベロス忍軍の存在に説得力を増すための適当な思いつきだ。
攻勢に打って出ると決めたケルベロス達は、勢いを得て月華衆を押し返し始めた。堅実な戦いでは消耗戦となりいずれは破れていただろうが、この作戦変更によって勝機が見えて来た。
これが、この戦いの分岐点となった。
●華の散り際
さらに攻防を重ね、月華衆は1人、また1人と倒れ遂に敵はお梅1人となった。ケルベロス側もヴェクサシオン、焔、キリノがやられてしまっているが、戦線が崩壊しているという程の損害ではない。
そして、ケルベロス達はより一層激しく攻撃を重ねる。連なった攻め手は津波となり、お梅という強固な砦をも押し流すというように。
「耳を塞いでも無駄。種の魂を苛む歌だから……」
お梅を見つめ高らかに歌い上げる鞠緒の歌声は、綺麗な高音で鈴の転がる音色のようだ。
その歌によって引き出されたお梅が抱える恐怖の記憶は影となって現れ、お梅を襲う。
「一応聞いておくが、投降の意思はあるか? 降伏するなら命は保証するが」
「そうそう、無駄死にすることはないぜ。それとも、忍は敵の捕虜にはならないなんて言うのかな?」
攻撃の手を緩めないままティーシャは降伏を勧告し、反撃の鎌から身を呈して庇いながら伶もそれを促す。
「できないね~。ここを攻めて来たのって、あんた等だけじゃないでしょ~。お杏様に、お鈴、他にも1人でも多く撤退する時間を稼ぐのが、あーしの役割だからさ~」
お梅が己の使命に殉ずる覚悟であることは、火を見るよりも明らかであった。降伏などという選択肢は、元より存在していない。
「見事な覚悟ダな。その点だけは、同意できルものだ」
「なら、その覚悟を抱えたまま逝くんだな」
眸とリューデの連携攻撃に、お梅の足が傾ぐ。
「あーしは強いのにな~。どーして負けちゃうんだろ~」
お梅の疑問に、奏過はごく単純な理由だと告げる。
「平穏乱す者……私達ケルベロス忍軍の刃の前に露と散る……それだけのことです……」
その答えに、己の胸中で何らかの得心があったのだろう。
「これ以上は無理みたいだから~」
お梅は最期の力を振り絞りルティエへと迫った。
「せめて、1人でも減らしておかなきゃね~」
死力を尽くした鎌の斬撃は、凄絶を極める一撃であった。
「服の白地が台無しだよ。でも、ルティエが無事だからいいかな……」
この戦いの最初と同じようにルティエを庇ったクレーエは、もはや気力だけで身体を支えている状態だ。もしこの刃がルティエに届いていたなら、とても耐えられなかっただろう。
お梅は鎌を振るった直後、クレーエがそうすると分かっていたかのようなルティエの斬撃に急所を裂かれ、絶命していた。
散り際が美しいとされる花が存在するが、月華衆炸裂鎖鎌のお梅もまた、そうした華であった。
「……大丈夫? じゃないですね。守ってくれて、ありがとうございます」
クレーエの容体を確認しながら、ルティエは感謝を言葉にして伝える。戦闘中には言う余裕がなかったが、今は気持をありったけ言葉に込めて贈ることが出来た。
その後、ケルベロス達は、このまま屋上に留まることにした。本来はすぐにビル内に突入して作戦を続行するべきなのだが、これ以上の戦闘続行は負傷の深さからほぼ不可能で、屋上から脱出を試みる敵がいればそれを食い止めるのが精々だ。
少しの間治療を行いつつ休息していたケルベロス達は、ビル内が静かだと気付いた。どうやら、自分達が戦っている間に他のチームの戦いも決着したようだ。
今回の作戦目的としての情報収集やそれに伴った個人的な探し物をしたいという思いもあったが、どうやらそれは諦めるしかないようだ。
元々の作戦以上の戦果を上げた。それでだけで十分なのだから。
作者:流水清風 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|