ネオンの灯りが宝石のように煌めく、眠らない街――其処で享楽に耽る、或いは労働に勤しむ人々の頭上では、ひとならざる忍の者たちが刃を交えていた。
高層ビルの窓ガラスが砕け散るや否や、忍装束を纏った人影が空を舞う。月明りが一瞬照らしたのは、月下美人の模様であったのか――壁伝いに急降下する影の元へその時、螺旋の軌跡を描いて無数の手裏剣が飛来した。
――と、ガシャァンと派手な音を立てて街灯が砕け散り、路上に駐車していたタクシーが一気に陥没する。何かが起きているのは間違いないが、常識を超えた忍同士の争いを、只人が把握することは出来なかった。
大都会の中では異質な、古めかしい狩衣を靡かせて術を紡ぐのは陰陽師――否、彼らもまた忍びであるのか。そんな人知れず戦いを続ける螺旋忍軍たちの様子を、ビルの屋上から見下ろす者があったのだ。
「あちきの思った通りっす。忍軍同士の戦いは激化の一途っす」
猫耳と尾の戦闘デバイスを揺らし、闇夜を見通そうと目を凝らす彼女は、鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)。時折瞬く戦の火花を捉えた五六七は、僅かな逡巡の後でぱっと顔を上げる。
「となると、東京23区の平和を守るには、やっぱりアレが必要っすよね!」
――意味ありげな笑みを浮かべた次の瞬間、彼女の姿はふっと屋上から掻き消えていた。
東京23区の螺旋忍軍同士の戦いは、激化の一途を辿っているようだ。恐らくは皆が撃破した忍軍の被害を、互いに相手の忍軍の攻撃によるものだと誤解したのもあるかもしれない――エリオット・ワーズワース(白翠のヘリオライダー・en0051)はそう言って、最近の動向を皆へ説明していく。
「どうやら今では、螺旋帝の血族の捜索よりも敵対忍軍の撃破が主目的となっているみたいだね……」
元々白影衆のように、他の忍軍を滅ぼそうとしている忍軍が含まれていた事も、疑心暗鬼の元になったのかも知れないとエリオットは続けた。しかし、この状況を解決するべく、調査を行っていた五六七から提案があったのだと言う。
「五六七さん曰く、正義のケルベロス忍軍を結成すべし……つまり一般人を守るために戦うだけでは無く、忍軍達と同じ土俵に立って『螺旋帝の血族』を捜索し、他の忍軍と抗争しようと言うんだよ」
――確かに、発生した事件にその都度対応するよりも、能動的に事件に介入することも時には重要となるだろう。そして現在、それぞれの忍軍は他の全ての忍軍を敵として総力戦を行っており、本拠地が手薄になっている可能性が高い。
「だから、この好機を活かせば他の忍軍に大打撃を与えるだけでなく、螺旋帝の血族を探し出すチャンスも巡ってくるかも知れない」
螺旋帝の血族については不明な点が多いが、螺旋忍軍同士が対立してでも保護しようとしている存在の為、発見して適切に処理する必要があるのは間違いない。
それに此方が忍軍を名乗ることで、他勢力がケルベロスと協定を結んでいるのではないか、と思わせる効果も期待される。これも相手が、陰謀渦巻く螺旋忍軍だからこそだろう。
「……じゃあ、活動している螺旋忍軍の勢力をざっと紹介するね。全部で9つと多いから、どの勢力を攻略するか皆で決めて欲しい」
詳細を纏めた資料を手に、エリオットは其々の特徴を順に挙げていく。先ずは、勢力としては大きめの『月華衆』。だが、作戦指揮官である『機巧蝙蝠のお杏』を撃破する事が出来れば、当面の作戦は行えなくなる筈だ。
「次は『魅咲忍軍』だね。此方は指揮官の『魅咲・冴』以外にも軍団を抱えているようで、救援に向かう可能性がある」
続いて『羅泉』はオフィスビルを占拠しており、社長の『鈴木・鈴之助』はかなりの手練れのようだ。そして『真理華道』の他組織については分かっていないが、幹部の『ヴァロージャ・コンツェヴィッチ』さえ撃破出来れば動きを止められるだろう。
「あとは『銀山衆』が地下コンサートを開くらしくて、其処を襲撃すれば指揮官の『霊金の河』を倒せるかも知れない。一方の『黒螺旋』の本拠地は東京に無いみたいだから、『黒笛』のミカドさえ討てれば勢力を一掃出来そうだね」
他の螺旋忍軍を滅ぼす事を目的としている『白影衆』は、今のところ対立しなくても良さそうだが――規模はそう大きくは無いとのこと。反対に『テング党』はそれなりの規模があり、『マスター・テング』を倒すのであれば、他勢力の攻略を諦める必要も出てくる筈だ。
「最後の『螺心衆』は、幹部を派遣していないようだから、攻略は容易かな。……長くなったけれど、これが現在東京で暗躍する勢力になるよ」
どの組織に、どの程度損害を与えられたか――それによって、螺旋忍軍の勢力図は塗り替えられていくだろうとエリオットは言う。
「襲撃の際は、特に問題が無かったら『ケルベロスの忍軍』を名乗って欲しいんだ。そうすることで、向こうは他の忍軍との繋がりを訝しんで混乱するかも知れないから」
そうして、複数の忍軍の拠点にあった情報を集めて解析することが出来れば、螺旋帝の血族に関する手掛かりを掴めるかも知れない。その為、拠点を制圧出来た場合は、資料も集めてくれると嬉しい――最後に、エリオットはそうお願いして説明を終えた。
「螺旋忍軍同士の対立に飛び込んでいく形になるけれど、折角だから皆が憧れるような、格好良い忍者に扮してみるのも良いよね……!」
――超人的な力を振るう邪悪な忍者を、正義の忍者が成敗する。そんな映画のような活劇が繰り広げられたのなら素敵だよねと、エリオットは東洋の神秘に憧れるように、翡翠の瞳をきらきらと輝かせたのだった。
参加者 | |
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八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658) |
芥川・辰乃(終われない物語・e00816) |
桐山・憩(レプリカントのウェアライダー・e00836) |
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244) |
九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690) |
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841) |
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339) |
時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095) |
●真理華道の潜む街
眠らない都市、東京は新宿区歌舞伎町。日本屈指の歓楽街である其処は、真夜中でありつつもネオンの洪水とひとびとの喧騒に包まれていた。しかしこの街にひっそりと、螺旋忍軍の一派である真理華道の拠点があることを、道行くひとびとは知る筈も無い。
「賑やかですね……雑多でいて、全てを呑み込むかのようで」
一歩足を踏み入れてしまえば、危険な誘惑に捕らわれてしまいそう――危ういまでの熱を帯びた活気に、眼鏡の奥の瞳を瞬かせて呟くのは芥川・辰乃(終われない物語・e00816)だった。静かな古書店での暮らしと余りにかけ離れた街の様子に、彼女は虚を突かれたようであったが、それでも事前に目星を付けておくことは忘れていなかったようだ。
「んー、拠点のバーだけど、そんなに大きいものではないみたいだね」
「はい。入口も正面と裏の二か所で、其処から同時に突入することになります」
辰乃と共に真理華道の拠点を確認していた、颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)が人懐っこい表情で話を振ると、辰乃も改めて突入について皆に説明を行う。東京各地に拠点を持つ螺旋忍軍――一行が襲撃を行うのは、その中のひとつ真理華道であり、自分たちを含む4班で制圧に当たることになっていた。
「裏口には、他班の皆様が回っているのですよね。では、私たちは正面から行くと致しましょう」
突入は二手に分かれて、示し合わせた同時刻に一斉に行う――九条・櫻子(地球人の刀剣士・e05690)は静かにその時を待つが、楚々とした佇まいの女子高生が怪しげなバーの近くに居ると言うのは、ちょっぴり背徳感を感じさせる。
(「九条さんって、如何にも真面目な眼鏡の委員長タイプですし……これはギャップ萌え? 否、何かあったら大変ですしボクがしっかりしないと!」)
と、歓楽街に佇む美少女の姿に、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)がつい引き込まれてしまうが――彼は赤面しつつも、年上の男性である自分が頑張らなければと背筋を伸ばした。それはともかく、自分たちも忍軍を名乗れば相手を混乱させられるかもとのことで、襲撃に向けて東西南北たちは気合を高めていく。
「そう、ニンジャスレイヤーがいないなら、ボクらがニンジャスレイヤーになればいい! 男の子なら誰だって一度はニンジャに憧れますよ、燃えますね!」
いざ忍べと叫ぶ東西南北に、エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)は穏やかな微笑みを浮かべて頷いたが――彼が身に纏うのは、清楚な感じのワンピース。しかし、普段から女装しているとは言え心は立派な少年、礼儀正しい紳士なのである。
「ケルベロスが忍軍を名乗るというのも考えたものだ……。僕忍者じゃないけど、今日だけはなりきってみようかな」
「それに、敵同士の勢力争いに横槍を入れろって事なら、悪くないんじゃない? アタシはかなり好きだよ、そういうの」
一方のちはるは既にノリノリで、慣れた手つきで日本刀を扱う仕草からは、只者ではない様子がひしひしと伝わって来ていた。ドワーフ特有の幼い外見に騙されたら、一気に懐に入られて首を掻き斬られそうな恐ろしさがある。
「……白影衆の事は気になりますが、仕方ありません。今はとりあえず、真理華道を潰す事を考えねば」
どうやら、時雨・乱舞(純情でサイボーグな忍者・e21095)は白影衆と因縁がある様子であったが――他の忍軍の排除に動く彼らと、今は対立する利が無いと判断したようだ。また此方も数で押せるような状況では無く、どの勢力に戦力を集中させるのか慎重に見極める必要があった。
(「ここで上手く情報収集や戦力の削減が出来れば、有利に事を運べる可能性があるのですよね」)
そう思いを巡らせる羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)は、その為に一生懸命頑張ろうと怪しげなバーをきりっと見据えていた。但し前のめりになり過ぎないように、しっかり周りの様子を見ること。そして、悩んだら誰かに相談すること――これだけは徹底しておこうと胸に留めながら。
(「そうすれば、何か新しい発見や発想が出てくるかもしれませんから」)
――そうしている内に作戦決行の時は近づき、アイズフォンで連絡を取り合っていた桐山・憩(レプリカントのウェアライダー・e00836)が、皆を見て合図を送る。どうやら一斉突入の通達があったようで、一行は他班と予め決めておいた作戦通り、速度重視でバー内部へとなだれ込んでいった。
●正義の忍軍此処に在り
「おらァ!!」
他班の仲間たちと一緒に、憩が正面ドアをケンカキックで蹴り飛ばして突入――その後ろからライドキャリバーのシラヌイに騎乗した乱舞が、アクセルを豪快に踏んで突っ切っていく。
「我等正義のケルベロス忍軍! 只今参上!」
先程までは無表情であった乱舞の相貌は、今や戦を前にした高揚の所為か、狂気じみた笑みを浮かべており――正義と言うよりは極道、いやこれ以上は言うまい。そんなこんなで乱舞のカチコミに続き、ちはるも元気一杯に名乗りをあげた。
「てなわけで……正義のケルベロス忍軍、ちはるちゃんとちふゆちゃん! 参上だよ!」
ほら適当にポーズポーズと無茶振りされた、ちふゆ(ライドキャリバー)は健気にも、華麗なスピンを決めていて。正義を名乗ることに少々気恥ずかしさを覚えつつ、店内に足を踏み入れた辰乃は――其処で真理華道の幹部であるヴァロージャ・コンツェヴィッチを目にして、思わずこめかみを抑えた。
「い、犬……ですね……」
「しっかりしろタツノ。アレだ、着ぐるみだと思えばいい」
何とか憩がフォローしようとするが、犬が苦手な辰乃にとって人間大のボルゾイ犬は刺激が強すぎる。しかも彼は筋骨隆々なおねぇ忍軍を従え、此方を迎え撃とうとしているのだ。
「え、ええ……指揮官の撃破は、他班の皆さんにお任せすることになっていましたし。その、私たちは正義を果たす責任を、背負いに参りました」
――結局、ちょっぴり視線を逸らしつつの名乗りになってしまい、主人の様子を心配するボクスドラゴンの棗が、切ないまなざしを寄越すのが居たたまれない。
「……真理華道とは先日やりあいました。敵ながらあっぱれの漢気、見倣いたいものです」
しかし其処で東西南北が仕切り直しを行い、彼は回想シーンに浸るかの如く遠い目をしてみせた。ですが――と続ける声は悲哀に満ち、東西南北はきっぱりした口調で告げる。アナタ達が東京を荒らし回るなら容赦はしません、と。
「正義のケルベロス忍軍斬り込み隊長、八王子・東西南北参るッ!」
その声に応えるように、おねぇ忍軍たちが野太い咆哮をあげて――おねぇの根性見せたるわとばかりに、此方へ向かって来たのだった。
●おねぇと番犬、哀しき運命
正面と裏口から其々突入した4班は、真理華道の忍軍を囲むようにして布陣。此方の班は正面入り口を塞いで、退路を断ち敵の逃亡阻止を行うことになった――のであるが。
「……狭い、ですね」
思わず、と言った様子で呟いた櫻子に、他の面々は曖昧な表情で頷いていた。元々拠点のバーはそう広くはなく、そんな中で数十人が入り乱れての乱戦となっており――それに加え、此方の面子はサーヴァント持ちが圧倒的に多かったのだ。内訳としてはライドキャリバーが2騎、ボクスドラゴン2匹、後はテレビウムとウイングキャットが其々1体である。
「ごめん、もう少し詰めてね……」
エーゼットが申し訳なさそうにボクスドラゴンのシンシアを押して、一方で憩はウイングキャットのエイブラハムの尻尾を思わず踏んづけていた。
『もう建物ごと吹き飛ばせば、あと腐れが無いんじゃね?』――等と危険な思考に走ってしまうのも致し方無く、それでもこの状態なら向こうも逃げられないだろうと判断する。
「そんな訳で、辞世の句は後でメールしとけ。気が向いたら読んでやる」
既に臨戦態勢となった憩は、此方へ向かってくる螺旋忍軍――おねぇ3人にメンチを切りつつ、光輝く粒子を放って仲間たちの超感覚を引き出していった。そして後方から紺が、雷の霊力を帯びた槍による神速の突きで、忍軍の一角を切り崩そうと迫る。
「……忍者には、歴史小説などで触れてはいましたが」
――しかしまさか、怪しげなバーでマッチョなおねぇ達と戦うことになるとは思わなかった。正に事実は小説よりも奇なりと言う訳だが、紺の憧れるまだ見ぬ世界とは大分違う気がする。
「取り敢えず内輪で騒ぐのであれば、どうかこの星の外でお願いしたいもので」
野太いおねぇ達の声がバーに木霊する中、冷静に辰乃はそう告げたのだが――その声が届いているかは非常に怪しい。それでも彼女は、皆が攻撃を当て易くする為に制圧射撃を行い、更にちはるが神槍を振り回しおねぇ達を纏めて薙ぎ払っていった。
「ふっ、やるじゃない……でもッ!」
行く手を塞がれたおねぇであったが、彼いや彼女は、強烈な回し蹴りを放ってサーヴァント達を吹き飛ばして。それから回復に奔走するエーゼット目掛け、びしりと指を突き付けた。
「アナタの女装……少し華が足りないわね。そんなことじゃ殿方のハートは射止められないわ!」
「って、突っ込む所そっち!?」
まさか服装にダメ出しされるとは思わず、それでもエーゼットは律儀に答える。――僕、彼女いるから、と。
「きぃぃ、形だけ女装かよおねぇ舐めんな! 心も乙女になれ!」
「ごめん、何言っているかよく分からないんだけど……ってシンシア、何でそんな生暖かい目で僕を見るの!?」
真理華道とやり合う戦力は十分で、戦いは優勢の筈なのだが――おねぇ忍軍の強烈なキャラが、此方を食らおうと牙を剥いている。気を抜くと呑まれてしまいそうな中で櫻子は精神を集中し、祖父直伝の居合いでおねぇに立ち向かっていった。
「ふんッ、これ見よがしに見せつけてんじゃないわよ!」
――と、冷ややかな刃にも怯まずおねぇが睨みつけてきたのだが、それはどうも櫻子の剣術では無く、スレンダーな体型に見合わぬ胸囲のことを言っているらしい。実は大きめの胸がコンプレックスの櫻子は、反射的に胸元を隠してしまっていた。
「……と、そっちのお兄さんはなかなかのイケメンねぇ。寡黙そうだけど、何かの拍子に獣になりそうで」
一方でおねぇに迫られているのは乱舞であり、彼の放つミサイルの群れを突っ切って来たのだから、おねぇ忍軍恐るべしである。しかし乱舞は、其処できっぱりと己の想いを口にしていた。
「私は女性が好きです!」
「アタシ達だって心は立派な乙女よ!」
――しかしその主張はあっさりと退けられ、失意の乱舞はふらふらと視線を彷徨わせる。
「あの……どうしましたか、時雨さん?」
「そ、その……取り敢えず目の保養を」
そんなことをのたまいつつ、櫻子の胸元をチラ見する乱舞――と、何やかんやで戦場は混沌と化していた。しかし、此処に来て漢を見せたのが東西南北である。一見冴えないチェリーボーイにしか見えない彼を、当初おねぇ達はつまみ食いする気満々でいたのだが――ところがどっこい、東西南北の熱い生き様に彼女たちは圧倒されつつあったのだ。
「アナタ達と戦うのは心が痛みます。でもボクは手加減しない! ケルベロスだもの!」
以前彼が戦った真理華道のおねぇ達は、子供に優しい気のいいおねぇだった。それでも自分たちはケルベロス――愛する人とも戦わなければいけない。なんて残酷な運命なんだと叫ぶ東西南北を、テレビウムの小金井が動画で応援する。
「……出会った時と場所と、状況さえ違ったら友達になれたかもしれない。種族と性別の差を越えて愛を育めたかもしれない。でも……こうなるしかなかった」
訥々と語られる東西南北の告白に、瞳を潤ませるおねぇ。いや、それは絶対無い――と皆は思ったが、感極まったおねぇはノリノリで応えた。
「哀しいわね……そう、アタシ達は真夜中のパピヨン。花から花へ渡り歩くさだめ、流離いのジプシーよ」
――そんな彼らの姿は夜の蝶と言うよりも、誘蛾灯にたかる蛾のようであったが、実際に夜のパピヨンと言えば蛾のことを指すらしいので間違っていないだろう。
「ボク達はケルベロス、アナタたちはオネエ。ならば拳と拳で遠慮なくお突き合いしましょう!!」
『突く』の字がとてつもなく不穏だったが、落ち着いて狙いを定めた紺の黒影弾がおねぇの一人を侵食し、その息の根を止める。更に、愛らしい子供を装って近づいたちはるは、その瞬間一転して表情を消し――猛毒の短刀を振りかざして標的を滅多刺しにした。
「貴方がたに如何なる目的があろうと……私の最優先事項は護ることです」
残るおねぇへは辰乃が向かい、憩の操るドローンの援護を受けつつ、刀身を閃かせて惨劇の記憶を呼び起こす。其処へ櫻子が、卓越した技量で以って一撃を叩き込むが――止めを刺されたかに思われたおねぇは、最後の力を振り絞って尚も立ち上がった。
「いけっ、東西南北天下! これがボクのLOVEのカタチです!」
しかし東西南北が、熱い涙を流しながら攻撃! 攻撃! 攻撃! 畳み掛けるように攻撃! 巨大な火柱と鎖が不死鳥の幻影を成し、二重螺旋めいた軌跡を描く中で、火柱に呑み込まれたおねぇはしめやかに爆発四散していた。
●摩天楼のどこかで
こうして一行は激しい戦いを制し、幹部ヴァロージャも他班が無事に討ち取ったようだ。彼の着物の懐からは、螺旋忍法帖なるものが見つかったようだったが――他に残されたものは無いかと、皆は手分けしてバーの捜索を行うことになった。
「そう、目につく資料は多くないですが……」
周囲に気を配る紺は、暗号で書かれたと思しき書類を発見したが、向こうも何かあった時に備えていたのだろうか。忍法帖のように重要なものは、常に携帯していたのかもしれない。とにもかくにも東京での真理華道勢力は壊滅、一行はようやくむさくるしいバーを後にして大きく息を吐く。
「タツノ、折角だし一杯やってかね?」
激しい戦闘ですっかりぼろぼろになった袖を捲りつつ、憩が辰乃に声を掛ける中――歌舞伎町と言えばラーメン屋と頷く櫻子は、皆でラーメンでも食べて帰りましょうかと提案した。
「いいねー、ちはるちゃんも丁度お腹空いたし」
にこにこと微笑む、ちはるもそれに同意して。其処で、眼鏡を外して汚れを拭き取る櫻子を目にした乱舞は、今までのクールな印象とは違う、童顔で可愛らしい彼女の素顔をふと目にする。
「ヤダ、そんなに見ないでください、恥ずかしいですわ」
頬を赤らめる櫻子に、ちょっぴり気まずそうに顔を逸らしながらも――大切なものを失うこと無く戦いを終えた乱舞は、螺旋忍軍がこれからどう動くかについて思いを巡らせていたのだった。
作者:柚烏 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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