ミッション破壊作戦～意志を鋼とし

■リプレイ

●神奈川県相模原市上空にて
　因縁というものは生きている限り、様々あるが――。
「……ここに前に来たのは1月11日……ざっと４ヶ月ぶりか」
「……長かったよね、レンちゃん」
　神白・煉（死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023）は堪え切れない激情を、グラディウスを強く握りしめることで押さえ込む。
　その思いを痛いほどに理解する――それは彼女の痛みでもあるからだ――神白・鈴（天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623）は、静かに顔を上げる。その青い瞳には強い決意を湛えていた。
　彼らの因縁はこの土地ではなく、ここで待ち受ける死神。そしてそれが好んでサルベージするは、かつてケルベロスと戦い、散っていったヴァルキュリア。
「よくもこんな悪趣味な事が出来るもんだ。本当に、よ」
　水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）がぽつりと零す。
　死神が何を考えているかは解らないけれど、パトリシア・シランス（紅蓮地獄・e10443）が火の付いていない煙草を咥えつつ、全くその通りだと肩を竦めた。
「ケルベロスだって万能じゃない――力及ばないこともある」
　だが、それを助けられるのはやはりケルベロスだけだ、村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）はそう煉と鈴に告げ、不敵に笑う。
「さぁ、鈴さんと煉君のリベンジマッチといこうか！」
「はい、今度こそ破壊するでありますよ」
　真剣な面持ちで日帝・泰山（白鴉・e15428）が力強く頷く。
　つと、降下場所を確認していた雪村・達也（漆黒纏う緋色の炎剣・e15316）が、皆へ振り返る。
「……そろそろだ。準備はいいか？」
　返ってくる視線は、いずれも強い意志が籠もっている。
　聴くまでもなかったな、彼は薄く笑みを浮かべて、頷いた。
「さテ、行くカ」
　くるくると弄んでいたグラディウスを逆手に握って軽く構えると、ヴェルセア・エイムハーツ（ブージャム・e03134）が口の端を歪める。
　この先に待ち受けるは悲劇か喜劇か――いずれにせよ、自らの意志で彼らは宙へと飛び込んだ。

●刃
「さて……ヴァルキュリアたちを辱めたオトシマエ。つけてもらおうかしら？」
　叫ぶのは性には合わぬと、パトリシアは静かにそう囁く。
　だが赤い瞳に、ゆらりと燃えるは、強い意志の炎――静かな怒り、それをグラディウスに籠め。
（「ケルベロスと戦ったヴァルキュリアたちは洗脳され、望まぬ殺戮を強いられ、その瞳から血の涙を流していたという」）
　柚月は目を細め、未だ漠然とした地上を見る。
（「意志を、尊厳を、心を奪われ使役されていたんだろう。絶望の淵にいたであろうことを考えると心が痛む」）
　荒廃した街並み、そこに眠るヴァルキュリア達を思い、グラディウスを構えた。
「お前がやろうとしているのも同じことだ！　命の一切を否定する所業を、俺は絶対に許さない！　その不死性故に知ることがないのなら俺たちケルベロスが、お前の死を以てその身に叩き込んでやる！」
　そう、叩きつけるは死神への怒り。
　弄ばれる命を解放するための一刀――しばし目を瞑ったまま、風に髪を踊らせていた鈴は息を吐く。
（「死神への怒りじゃ足りなかった。なら、次は一直線に想いを通すしかない！」）
　目を開けば、すぐ近くに煉がいた。彼の怒りに燃える瞳を見れば、言葉にせずとも、彼の考えている事はわかる。
（「ああ……認めるぜノクス。確かに前回は、てめぇじゃなくて、その後ろに親父の仇を見ていたよ」）
「この戦いは俺のためのもんじゃねぇ。グリゼルダ……地球を愛してくれたヴァルキュリア達のための戦いだ！」
　彼の叫びに応じるように、彼女も口を開く。
「望まぬ戦いを強いられ続ける魂に安息を。お父さん……力を貸して。グリちゃんのお姉さん達を救う力を！！」
　脳裡に描くは、友人の姿。かつて共に戦い、交わした言葉。
「ヴァルキュリアを縛る死神の楔……今度こそ破壊します！」
「いくぜ、ノクス。今度こそ俺の全力でぶち壊すっ！　あいつに……グリゼルダに姉殺しなんざ、悲しい結末を……与えてたまるかぁっ！」
　――友のために。二人で声を合わせ、グラディウスを構える。

　バタバタとケルベロスコートがたてる音がやけに煩い――だが、それを掻き消すように、達也は叫ぶ。
「ヴァルキュリア達に力を示せとノクスはそう言っていたらしいな。だがそこに彼女達の意思はあるのか！　彼女達はザイフリート王子と共に地球で生きる意思を示してくれた。だから俺達は、その想い応えなきゃならないんだよ！」
　それにな、彼はグラディウスを構えながら、結界を睨む。
「そこは元々俺等のモンだ！　いつまで我が物顔で占領してやがる！　いいかげん……返してもらうぞ！」
　穏やかな思わず荒れた口調になるほどの、叫び――まったくだ、同意するよう叫ぶは鬼人。
「このミッションの為に、どれだけの命が散ったと思ってる？　それだけでも許せないってのによ。命を蹂躙し、尊厳を踏み躙り続ける死神が大手を振ってのさばってるの、許せると思うか？　思えねぇよな！」
　風に向かって吼え、身体にグラディウスの柄を寄せ構えたまま、グラビティを練り上げる。風に煽られたロザリオが、きらりと輝く。
「だからよ、ここでその因果、断ち切らせてもらう！　このグラディウスの一閃で、な！」

　く、と場違いな笑い声が天へと流れていく。
「俺が戦う理由カ？　そんなもんねぇヨ。俺はてめぇらのすることに文句はねぇシ、何なら干渉する理由もねェ」
　ヴェルセアはせせら笑う。だが現実には盗むべき宝も見込めぬ戦場に、彼は身を投じていた――。
「だが俺は捕食者ダ。何を置いても自分の欲望を阻まれるのガ、他者に虐げられるのが我慢ならねェ」
　細めた冷たい瞳が何を見ているのかは、わからない。
「俺は二度と『強い者に屈して従う』コト、『自らの意思を奪われる』ことを受け入れねェ！　テメェら死神が気に入らねェ。俺がお前を倒す理由はそれだけダ！」
　欲望のままに、彼は笑ってグラディウスを振り上げた。
　――形は違えど、ここに集うもの達は、死神へ様々な怒りをそれぞれに抱いている。
（「これは人類とデウスエクスの戦争――戦争が故に死者を蘇生し手駒にするという手段は理解出来るであります。それらに嫌悪や憤りの念も無いであります……ええ、悲しいかな、自分にはそれらの念はまだ解らない」）
　泰山はグラディウスを手に集中を高めながら、死神のやり方を無条件に否定できない自分を認める。
　だが思考と同時に、己はケルベロスだという矜持を自覚する。
「しかし、自分は人類の側に立ち、人類を護ると誓った。ならば、この鋼の意志と誓いを剣に込め、力に変えて、この地を奪還させて貰うだけであります！」
　高らかに声を上げ、グラディウスを構える。
「聞け！　死神よ！　我らはケルベロス！　不死を否定し、蘇生を否定し、定命の物語を護る、冥府の番犬！　この名を以って、貴様らを成敗いたす！」
　それぞれの想いを込めた刃が、同時に結界へ触れる――同時、凄まじい爆風と雷光が生じ。
　彼らの姿ごと、すべてを覆い隠したのであった。

●夜を想う
　地上に無事降り立った泰山が身を起こすと、ドン、と小さな衝撃が背後から伝わる。
「くそっ！」
　小さく吐き捨て、煉は歯噛みした。近くにある壁に拳を打ち付けたようで、先程の音はそれか、と彼女は振り返った。
　レンちゃん、と鈴も浮かぬ顔色で彼の名を小さく呼ぶ。
　ソレも二人の思い入れを知っていれば、仕方あるまい――達也が天を仰げば、彼らの頭上に未だに強襲型魔空回廊は健在であった。
「この一撃は無駄じゃないさ」
　柚月は声をかける。あっさりとした言葉ではあるが、積極的にミッション破壊作戦に挑んでいる彼が発すれば、重い。目に見えた戦果が残らなくとも、破壊のための楔となったことは確かなのだ。
「反省会なラ、後にしナ。とっととズラかるゼ」
　ヴェルセアがくいと顎で示せば、すぐさま切り替えた鈴が撤退すべき方角を告げる。予め周囲の地形に目を向けていた鬼人が、ならばこっちだと皆を誘導した。
　パトリシアがライドキャリバーを先行して走らせ、荒廃した街を駆け抜けていく。スモークへ背に向け、いくらか走ったところで――不意に、煉が突如振り返って、低い姿勢で身構えた。
「来るっ！」
　ぞくりと肌が粟立つは、悪寒か、武者震いか。
　視界に揺れる影が横切った――咄嗟に、達也が漆黒の鉄塊剣を振るう。甲高い音と共に弾かれて、それは僅かに浮上しつつ、後退する。
　尾を揺らめかせ、夜葬華ノクスはヴェールの下に微笑みを浮かべる。いつか対峙したそれとは違う、だが同じ死神。
「私の領域へようこそ、ケルベロス。そして、さようなら」
　ふざけるな、鬼人は左の掌にオウガメタルで出来たダイスに炎を籠める。
　ダイス目が一から、ひとつずつ数を増やしていき、それが六となった時――。
「――お前の運命を極めるダイス目だぜ？　よく味わいな」
　BDⅥ、極小の太陽のように燃え上がるダイスを打ち込む。
　たちまち燃え上がるノクスの脇から、ドラゴンの幻影が食らいつく。ヴェルセアが放ったそれは更に強く燃焼を高めた。
　そこへ放たれるは、無数の雪の結晶。
「清らなる風に舞う雪の花！　顕現せよ！　シャインブリザード！」
　柚月がカードの力を解放し、生み出したそれを両の手で操り、叩きつける――。
　きらきらと輝く氷は美しくもあるが、刃となりて、容赦なく死神の肌を斬り裂いた。
「リューちゃん、みんなの支援、よろしくね――大地に眠る祖霊の魂…今ここに…闇を照らし、 道を示せ！」
　相棒のリュガに一声、鈴が召喚した光り輝く狼の群れのエネルギー体に導かれ、煉はオーラの弾丸を放つ。
「捨て奸とは名ばかりの技でありますが…！」
　畳みかけるように、武士、侍、帝国兵――泰山が心を削って生み出した機械兵士達が、それに続き、ノクスへと特攻していく。
　タイヤを軋ませ突っ込むライドキャリバーの炎が、後発的に起こった爆破で更に広がった。
「ノクス、といったかしら。何をどう考えてるのかわたしには分からない。ただ死者を蘇らせて愉しんでいるのは分かるわ。さぁ、さっさと倒されなさい！」
　燃えるような紅い髪を爆風にそよがせながら、パトリシアはそう啖呵を切った。
　ケルベロス達の怒濤の攻撃によって燻った空気を煩わしそうに軽く払うと、くすくすとノクスは笑う。
「無粋なのはどちらかしら……彼女達は今も尚、戦いたいと思っていてよ？」
　明らかな挑発だ――殊に顔色を変える兄妹の姿に、柚月は僅かに危惧を抱く。
　炎に包まれたまま、彼女は黒衣を翻して優雅に踊る。両手に握る短刀が、鈍く輝いた。

●夜を葬る
　情報がある分、対策を講じることができる――だが、やはりノクスは僅かに地力がケルベロス達を上回っていた。
　ゆらゆらとケルベロス達の合間を縫う二つの刃は氷を纏い。触れるだけで芯から凍えるような斬撃に、白い軍服が紅く染まる――膝をついた泰山を、鈴のオーラがすぐさま包む。主に付き添いながら心配そうに見つめるリュガの視線に、彼女は力強い視線で応え、立ち上がる。
「まだであります……！」
　青眼に構えながら、再び大和魂：捨て奸を召喚する。機械兵士達の特攻に合わせ、ジグザグに変形したナイフを振るい柚月がノクスの隙を誘い、間隙をケルベロスチェインが奔る。
　達也が操るそれが死神の腕を捉えると、距離を詰めた鬼人の刀が緩い孤を描いて、ノクスの黒衣を裂く。
　派手に仕掛ける彼らと相対し、忍び寄るはヴェルセア――きらりと輝く流星の蹴撃であれ、虚をつくように。彼女の目が完全に彼を捉える前に、武器を狙って撃ち込まれるパトリシアの弾丸。
　更に、ライドキャリバーが飛び込んで、阻害する。
　しかし、状況は一進一退。ノクスが傷を癒やす時にケルベロスも同じく体勢を整えねばならず、なかなか勝負を駆ける一撃まで持ち込めずにいた。
　今回のケルベロスの布陣であれば、敗北する可能性は低い相手であったが、じっくりと戦っている時間はない。
「とっとと終わらせねぇト、次が来るゼ」
　皮肉げにヴェルセアが零す。
　この戦場における援軍となれば、それは――。
「させねえ！」
　吼えて、煉が駆け出す。そう煽るな、と向けられた柚月の視線から彼は逃げており、その先で受け止めたパトリシアが、しょうがないわねと肩を竦める。
　時間をかけられないのは周知の事実――ならば、と達也が右腕の地獄の炎を更に強く燃え上がらせる。
「火ィ貸すぜ？」
　応じ、パトリシアはまっすぐに腕を伸ばす。見据えるは回復にいそしむノクスの眉間。
「地獄の焔に灼かれなさい」
　紅蓮地獄――焔の魔力をこめた弾丸が、達也の炎を巻き込んで、一気に燃焼する。更に、黒衣が作る煉獄の炎に紛れ、大鎌の刃に炎を纏わせたヴェルセアが迫る。
「そのナイフ……別ニいらねェナ」
　くるりと振り下ろした刃は白磁の肌を滑り、炎を更に広げる――紅いドレスを纏ったような死神は、遭遇した時と同じ表情のまま、艶然と笑っている。
　自分が滅んだところで、また次のノクスが現れる。それゆえの余裕なのかもしれない。
「レンちゃん、みんな、お願い！」
　絶対に打ち破る――再度、鈴は想いを託し、光り輝く狼を放つ。
　狼の群が導くより先を、声を放ちながら、白刃を構え泰山が駆けていた。届かぬかもしれない、だが仲間のために一太刀でも多く。
　炎に包まれた尾びれへと滑り込む斬撃。そこへ、更に光の剣が重なり、いよいよ断ち切る。
「命を愚弄する行為は絶対に止める――死神に死の鉄槌を！」
　柚月の一喝へ、応えるように続くは狼の咆哮。
「これが親父から受け継いだ、俺の牙だっ！」
　右手を覆うは蒼き狼と化した烈火の闘気、蒼炎の軌跡を迸らせ、煉は踏み込む。
　放たれた拳が捉えたはその右肩。美しい肢体は不格好に抉れ弾ける、衝撃波がノクスのヴェールを吹き飛ばし、冷たい瞳が顕わになる。
　ノクスは半身を失いながらも歌を紡ぎながら、残された腕で応酬しようと短刀を振り上げたが――。
「あの世ってのが有るんだったら、あっちでお前が弄んだ命に侘びを入れつつ、閻魔の裁きを受けな。特急券付きであの世に送ってやるからよ！」
　鍔鳴りが届いた時には、鬼人の刃は既にノクスの頸を捉えていた。
「ふ、ふふ……ならば、この徒労……何度でも、繰り返せばいいわ」
　最後にそう言い残し、ずるり、崩れ落ちて闇に溶けていく。
　それを見届け、ケルベロス達は踵を返した。

　彼女の言う通り――この地を解放しない限り、またノクスは現れる。だが、解放の時はそう遠くはあるまい。
　その時まで、新しい刃を研いで待つために。彼らは帰還する――。

作者：黒塚婁	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月6日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。