正義のケルベロス忍軍~スーパー忍者大戦

作者:蘇我真

 それは、注視しなければ見逃してしまうであろう速さだった。
 ビル街の壁面を駆け上る忍者と、それを追うくのいち。
 後ろから投げつけられた螺旋手裏剣を忍者は振り返りもせずに日本刀ではじき返していく。
 はじかれた手裏剣が疑似シュリケンスコールとなって近場のビルの窓を破り、駐車してあった車のボンネットに突き刺さる。
 壁を蹴り、跳躍して逃げる忍者を別のくのいちが追う。エアシューズの加速で追いつくと、空中で忍者を羽交い締めにし、脳天からコンクリートの地面へと叩きつける。
 モズ落としで陥没するコンクリート。走行していた車は慌ててハンドルを切るも立て直せず、蛇行してビル1階に入っていたコンビニへと突っ込んでいく。
 そんな見るも無残な戦闘の爪痕を、ビルの屋上から観察していた者がいる。
「あちきの思った通りっす。忍軍同士の戦いは激化の一途っす。東京23区の平和を守るには、やっぱり、アレが必要っすよね!」
 鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)は、そう確信して、その場から姿を消すのだった。
「この前は螺旋忍軍同士の戦いへの介入、大変だったな」
 集まったケルベロスをねぎらう星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)だが、その表情は暗い。
「だが、調査によると東京23区内での抗争は激化の一途をたどっているようだ」
 事態が収束しなかった理由として、瞬はケルベロスではなく、螺旋忍軍同士が互いの勢力に倒されたと誤解しヒートアップしている面もあると説明する。
「今では落ちのびた螺旋帝の血族保護よりも、他勢力を排除を優先する有様だ。もともと白影衆のように、他の忍軍を滅ぼそうとしている忍軍が抗争に参戦していた事も、疑心暗鬼の元になったのかもしれないな」
 同勢力間での完全なる内輪もめと化している現状に、五六七は更なる一手を打つべしだと主張した。
「そこでケルベロスも『正義のケルベロス忍軍』として参戦し、螺旋帝の血族の確保へと乗り出すことになった」
 これまでは一般市民を守るため勢力間同士の争いに割って入るだけだったが、こちらから精力的に打って出ること。これが五六七の提案だった。
 守りに入ると後手に回ってしまう。先手を打って攻めに転じることもときには重要だろう、と瞬は補足する。
「現在、それぞれの忍軍は他の全ての忍軍を敵として総力戦を行っている。つまり、各勢力の本拠地が手薄になっている可能性が高い。この好機を活かし、本拠地を急襲できれば大打撃を与えられる。そうすれば螺旋帝の血族を探し出し発見する機会もあるはずだ」
 螺旋帝の血族は性別や氏名など外見一切不明だが、螺旋忍軍が互いに殺し合ってでも奪う価値がある存在だ。
 殺害や保護、交渉のカードにするなど、発見して適切に処理する必要があるのは間違いない。
「ちなみに、参戦するのはケルベロスではなく『正義のケルベロス忍軍』という建前だ。他の組織、或いは別の忍軍が、ケルベロスと協定を結んで協力しているのでは無いかと螺旋忍軍を惑わせるためだ。他の組織ならともかく、疑心暗鬼に陥っている螺旋忍軍相手には効果が見込めるかもしれない。絶対なりきらなくてはいけない訳ではないが、一応心に留めておいてほしい」
 次に瞬はプリントした資料をケルベロスたちへと回す。それは今東京23区でしのぎを削っている螺旋忍軍、9勢力についてまとめたものだった。
「量は多いが、どの勢力を狙うかの参考になるはずだからしっかり頭に叩き込んでくれ」
 1つめは月華衆。豊島区の雑居ビルの一つを貸しきって拠点としており、作戦指揮官である『機巧蝙蝠のお杏』を撃破する事ができれば当面は活動できなるだろう。雑居ビルへの侵入方法は複数あるので、別途検討する必要がありそうだ。

 2つめは魅咲忍軍。港区の倉庫を拠点としている。指揮官は魅咲冴なるくのいちだが、そのほかに七色の軍団とその指揮官が存在する。魅咲・冴を狙った場合、他の指揮官達が救援に来る可能性が高い為、倒しきるのは難しいかもしれない。
 だが冴を倒せなかったとしても救援に来た指揮官たちを倒したり、拠点の資料などを確保したりと、ある程度の打撃を与える事ができれば当面の行動を封じることができるはずだ。
 螺旋帝の事件への関与を諦めるか、諦めない場合も、配下の全忍軍を動員して戦力を整える必要が出てくるからだ。

 3つめは大企業グループ『羅泉』。こう書くと実在の企業にも見えるが、あくまで忍軍内の概念にすぎない。
 組織拠点は世田谷区のオフィスビルを不法に占拠して使用している。指揮官は代表取締役社長、鈴木鈴之助。オフィスビルで指揮を取っているようだ。
 鈴之助を撃破できれば、大企業グループとしての活動は難しくなるかもしれない。ただ、『羅泉』には様々な形態の下部組織があるようなので、鈴之助の統制が無くなった場合、それらの下部組織が暴走し、勝手に動き出す危険性も予測される。

 4つめは真理華道。新宿区歌舞伎町のバーを拠点にしている。指揮官はヴァロージャ・コンツェヴィッチ。
 真理華道の他の組織は不明だが、幹部であるヴァロージャを撃破する事ができればその動きを止める事ができるだろう。
 今までの面々に比べて拠点が小さいことからもわかる通り、勢力としては比較的小さいようだ。

 5つめは銀山衆。指揮官である霊金の河が開く地下コンサートが千代田区の電気街で行われる事がわかった。
 地下コンサートを襲撃すれば、指揮官である霊金の河を撃破する事ができるかもしれない。
 が、会場には配下であるアイドルオタク軍団もひしめいており、銀山衆の他の幹部も警備に出向いているという情報もある。油断は出来ない。

 6つめは黒螺旋。彼らの拠点は東京には存在していないようだ。
 よって指揮官である『黒笛』のミカドさえ討てれば、黒螺旋の勢力はこの内輪もめから手を引き、撤退することが予測される。
 『黒笛』のミカド自身は、大田区の高級住宅街の豪邸を制圧して、拠点としているようです。
 豪邸の庭には番犬代わりの下忍達が放たれている。忍びの拠点に潜入するのは、複数のチームで連携しなければ骨が折れるかもしれない。

 7つめは白影衆。雪白清廉が指揮官を務める彼らは台東区の神社の境内の一部に拠点を設けていることが確認できたが、無理に敵対する必要はないかもしれない。
 なぜなら彼らは、他の螺旋忍軍を滅ぼす事を目的として動いているからだ。敵の敵は味方という言葉もある。
 ただし、小競り合いが東京23区の破壊につながっていることも確かだ。他の勢力を倒すまでは見逃すかどうか、判断が問われるだろう。

 8つめはテング党。9つの勢力の中では中規模に位置し、江戸川区の河川敷、橋の下に秘密基地を作っている。指揮官であるマスター・テングを討つ事ができれば、テング党の組織は壊滅する。
 だが、マスターテングは強敵なうえ、その下には強力な四天王天狗が控えている。
 マスターテングを討つ為には、他の忍軍の幾つかの攻撃を諦める必要があるかもしれない。

 9つめは螺心衆。彼らは今回の騒動で幹部を派遣していない。よって、東京支社ともいえる足立区の雑居ビルの拠点を制圧さえすれば、少なくとも今回の騒動からは手を引くことが予想される。
「全てに、目を通してくれただろうか。皆には、この勢力のうち、どれか1つを選んで戦ってもらいたい。恐らく他のチームとの共闘で、かつ困難な戦いになるだろう。しかし、皆の力で未来を明確に変えることができるまたとない機会だ。どうかよろしく頼む」
 そう締めくくり、瞬は皆へと頭を下げるのだった。


参加者
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)
烏丸・コジマ(魔忍ヤタガラス・e33686)

■リプレイ

●世を忍ぶ者たち
 新宿歌舞伎町、身体は漢、心は乙女なオネェたちがドドメ色の蝶となる夜。
「お兄さんイケメンねぇ、抱かれたいわぁ」
「そ、そうか……?」
 四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)はオネェな店員に言い寄られていた。
 情報によれば、この肩をむき出しにした、いかついマッチョドレスオネェも螺旋忍軍、真理華道の一員なのだ。緊張で固く拳を握る。
「あらぁ、お兄さんそんなカタくならないで? カタくするのはアソコだけでいいのよ?」
 オネェは沙雪の態度を初来店の緊張と受け取ったらしい。ド直球の下ネタで笑い飛ばしてくる。
「あ、ああ……それじゃあ、カンパリソーダを頼む」
「は~い! ママァ、カンソー一丁~!」
 オネェの野太い声を受けてママがマドラーを回す。恐らくあれがヴァロージャ・コンツェヴィッチだろう。
「働いてる人ってどれ位? 僕従業員さんに立候補しちゃおっかなー」
 そこで、アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)が援護射撃をする。
「ウチは少数精鋭、12名なの。あなたもソッチ系なの? ウチに来てくれるなら大歓迎よ~」
 答えたのはママだ。アルベルトは持ち前の朗らかさで既に客として馴染んでいた。貰った名刺には『ヴァロージャ』と名前が思い切り書かれていた。
 ママの言葉を信じるとすると従業員は12人。それにママをプラスして13人が敵ということになる。
「そんなにいるんだ? 店にいるのは8人くらいだけど……あ、そっか。控え室で待機とかしてるんだね」
 やや説明口調でひとり納得してみせるアルベルト。彼のポケットの中には、通話状態のスマートフォンが入っていた。
 通話相手は外に待機しているアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)だ。
 アイズフォンのグループ通話で他の班のレプリカントへと情報を共有していく。
「……はい、というわけで。控え室にいるのが4名ほど、裏口に回った班が抑えてください」
 言いながらアーニャはキープアウトテープを店の周囲に張っていく。歌舞伎町は雑多な通りで通路も多いが、人払いの為に手は抜けない。
「こっちは貼り終わったでござる!」
 フェニックス・ホーク(炎の戦乙女・e28191)も分担して、突入までにテープを張っていく。
「今のところ、店から出てくるやつもいないでござるよ」
 出入りを見張るのは烏丸・コジマ(魔忍ヤタガラス・e33686)だ。ござる口調なのはフェニックスと同様、ケルベロス忍軍を意識した結果らしい。
「突入指示まで、息をひそめて待つでござる……」
 包囲網は、完成しつつあった。

「飲んでくれ、俺のおごりだ」
 ワイングラスをくゆらせる月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)。切れ長の瞳が接客していたオネェを捉える。
「あらやだステキ……アタシは一目惚れしちゃったかモ」
 オネェは分かりやすく目をハートマークにしてしなだれかかった。美貌を最大限に利用する宝。客を装い雑談に興じていく。
「しかし、こういうバーに来るのは初めてだが……意外と女性客もいるのだな」
 宝が話題にしたのは四辻・樒(黒の背反・e03880)と月篠・灯音(犬好きの新妻・e04557)の女性二人組だ。
「アタシたちの出会いに……」
「かんぱーい!」
 オネェたちとグラスを重ね、ワイワイと楽しんでいる。
「そうネ、アタシたちは男と女、両方の気持ちがわかる最強ヒューマンだから。女の子たちの恋愛相談に乗ったりとか、グチ聞いたりとかフォローしてあげられるのヨ」
 それから、と目を伏せて声を潜める。
「あのふたりにみたいに、どっかの宗教じゃNGみたいな関係みたいな人たちが、羽根を伸ばせるように……ネ?」
 樒と灯音を見るオネェたちの目は意外なほどに温かく、優しい。
「だって理屈がどうこうとか関係ないでショ。好きになっちゃったんならしょうがないじゃナイ。お天道様が許してくれないんだから、せめてアタシたちみたいな地獄のモンスターくらいは許してあげなくちゃ。ネ?」
 全てを受け入れる懐の広さは、まさに母のようだった。
「はい、どうぞ」
 静かに飲みたそうな沙雪のことを察して、黙って酒を提供するオネェ。
(居心地のいい空間を壊すのは忍びないが……)
 それでも、何事にも終わりの時が来る。
「きゃあっ!?」
「な、何っ!?」
 刻限。合図と共に出入り口からケルベロスたちがなだれ込んでくる。驚きながらもオネェたちの対応は早い。すぐに立ち上がって持っていたナイフを抜き放っていく。
「ケルベロス忍軍、四乃森沙雪、推参!」
 客として潜入していたケルベロスたちも立ち上がる。
「体は漢、心は乙女の真理華道の忍び達よ。お前達に恨みはないが、これもまた任務」
「われら正義のケルベロス忍軍! 体は男、心は乙女! そんなプリティーな貴方がたのハートを狙い撃ちに参った次第っ。さぁさぁ! いざっ勝負っ!」
 仮面をかぶり、名乗りを上げる樒と灯音。
「な、なんなのヨ……もしかして、お兄さんモ……?」
 宝にメロメロだったオネェの目の前で、やってきたナノナノが宝の胸に飛び込んでいく。白いのを撫でながら、宝もライトニングロッドを抜き放つ。
「……ああ。ケルベロス忍軍だ。真理華道、おまえらを倒しにきた」
 オネェは、下唇を強く噛んだ。

●大乱闘オネェブラザーズ
「真理華道忍法、テーブル返しよッ!」
 店内は、すぐに大乱戦となった。置いてあったグラスはテーブルごとひっくり返され、灰皿は宙を舞う。流れ弾で酒瓶は割れ。店内にはアルコールの香りが充満していく。
「ボスはどこでござるか!」
 コジマはカウンターの奥にいたママ、ヴァロージャ・コンツェヴィッチの姿を認め、すかさず螺旋竜巻地獄を放つ。辺りのものを巻き上げて竜巻が向かう。
「フンガー!!」
 しかし、その竜巻は割って入ってきた別のオネェの筋肉によってかき消された。血だらけの胸板をパンプアップして、くつくつと笑うオネェ。
「漢女(オトメ)だからって、ナメてんじゃないわよ!」
 バトルオーラを纏い素手での攻撃を仕掛けてくる。スツールでガードしようとするコジマだが、その螺旋の張り手はスツールごと粉砕してきた。
「面白いニンジュツでござるな……ボクのマッポーと勝負だ!」
 コジマの全身に文様めいた魔術回路が浮き上がってくる。拳の一撃を掌で受け、螺旋掌を放つ。螺旋掌同士がぶつかり合い、お互いの身体から血液が噴き出す。
「まろーだー先輩! コジマさんの回復をしてほしいでござ……あー、めんどい! ござるなし!」
 ナイフの刀身にオネェのセクシーポーズを映し出し、トラウマを植え付けようとしてくる敵へ音速の拳を飛ばしつつ、指示しているフェニックス。
 ママは裏口方面へ向かっていくのが見えた。
「アーニャさん!」
「わかっています!」
 それだけで指示を察したアーニャがママの位置取りを他班へと共有する。
「なるほど、これは個性的な集団ですね……我が強く、殆ど個人能力頼みのようですが……このような乱戦の場合は、個人の強さがモノをいうでしょう」
「すました顔してんじゃねぇぞ、このガキゃあ! タマ、取ったらあぁ!!」
 大混乱の店内を、インラインスケートのように蛇行して障害物をかわすオネェ。ドスの効いた声と共に足に摩擦からくる炎が生じる。
「させるか」
 宝が振り上げた足を掴む。炎で手が焼けるのも構わない。いや、よく見れば雷の壁が炎を退けていた。
「その程度の炎で、正義の炎は消されはしない」
 捕まえた足へ殺神ウイルスの入ったカプセルを押し込む。苦悶のうめきを上げるオネェ。
「樒、早くみんなと合流するのだ!」
「ああ、そのためには目の前のコイツを倒さないとな……」
 樒は灯音を庇うように前へ出る。夜風と敵の短刀、二振りの惨殺ナイフがきらめく。
「覚悟」
 一気に距離を詰め、頸動脈、急所を狙った樒の一撃。しかし、それを見計らったかのようにオネェの首筋に短刀が添えられる。
 ジグザグに変形する短刀の刃。舞い散る火花。夜風が絡めとられ、そのまま滑るように樒の利き腕を歪んだ刃が傷つけていく。
 舌打ちする樒。一対一では分が悪い。
「さぁ、盟約の下……私に力を貸してオウガメタル。樒っ、いくよ 受け取って」
 なら、一対二にするだけだ。灯音の放ったオウガ粒子が樒の手傷を癒し、感覚を鋭敏にさせる。
「ん、ありがとう」
 片手を上げて答える樒を見て、相対したオネェは歯がみする。
「見せつけてくれてんじゃないの! その恋路、潰してやるわよっ!! 地獄へ落ちなさい!」
「駄目だよー。そんなことしたら」
 背後から、戦場に似つかわしくない朗らかな声が聞こえてくる。その一種異様な声色に、思わず振り返るオネェ。
「人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られて地獄へ落ちるぞ」
 いつの間にか、周囲には無数の刀剣が浮かんでいた。沙雪の死天剣戟陣だ。
「さあ、命のやりとりをしよう!」
 そして沙雪の後ろでは、アルベルトが大仰に両腕を広げていた。まるでこれから劇が始まるかのように、軽やかに謳いあげる。
 金色の瞳が、ギラギラと輝いている。自身の赤金剛鸚哥色の羽にも似た、赤い弾丸を射出する。
「ただ、全てを切り裂くのみ」
 それに合わせて、樒が動く。アルベルトの技に警戒してがら空きになった背中へと、夜風を滑らせる。
「ガ、ハッ……!」
 鮮血が、舞った。前からは射撃を、後ろからは斬撃を受けて絶命するオネェ。4人がかりでやっとひとり倒すことができた。
「さあ、どんどん倒しちゃおう!」
 アルベルトが調度品をぶち壊して道を作り、3人がそれに続く。入口方面は別動隊のチームが固めるように布陣している。近場で劣勢のメンツを探す。
 向かった先はフェニックスとマローダー先輩、それにコジマのトリオだ。切り結んでいる敵は1人だが、前衛がいない分押されていた。
「お酒のニオイもすごいし、大人の階段上っちゃいそうだよー」
「オラオラオラァ! マセガキはとっとと逝っちゃいなさいッ!」
 バトルオーラを守った手で、連射されるフェニックスの矢を払いのけている。その姿はまるでどこかの世紀末覇者のようだ。
「こいつ、タフすぎるよー! 火遁の術もあんま効いてない!」
「その程度の炎で日焼けサロンの紫外線で鍛えたアタシの肌を焼こうなんて、ちゃんちゃらおかしいわッ!」
 悲鳴を上げるコジマに、アルベルトたちが助太刀する。
「じゃあ、氷で冷やしてあげるよー!」
「ヌッ!?」
 爽やかな言葉と共に撃ち込まれる時空凍結弾。マッスルボディを、氷が浸食していく。
「舞えよ、熾炎。救急如律令っ」
 更に灯音の熾炎業炎砲だ。ポジション効果も相まって、コジマの3倍の炎がオネェを焼きあげていく。
「効かないのなら、通りやすくするだけだ」
 樒が夜風で傷口を切り開くと、一気に炎が噴出する。悶え、絶叫を上げるオネェ。
「カミカゼ・フェニックス!」
 怪しげな技名と共に突撃するフェニックス。燃え盛る己の不死鳥の翼を輝かせた体当たり。
「も、燃えるワァ……!!」
 暴走した炎と共に消し炭となり、倒れ伏すマッチョオネェ。これで2体目だ。手近なところにいる仲間を探す。
「ガードドローン射出……! 私がみんなを守る……!」
「辛いのは戦闘に持ち込むまでかと思っていたが、これは思った以上に、だな……!」
 アーニャと宝が、2人のオネェと戦っていた。
「よくもアタシの純情を弄んでくれたわネ! アンタを殺してアタシも死んでヤル~!」
「ダチの恋を応援しなくちゃ女がすたるってもんよ!」
 戦闘前から宝を接客していたオネェが、友人のオネェと共に決死の形相で宝へと殺到している。
 二人による惨殺ナイフの攻撃を必死に耐えているところだった。身体に受けた夥しい傷を、アーニャのドローンがハイペースで治している。
「そこまでだよ! 燃え尽き滅び黄泉還れ!」
 フェニックスの再生の炎がそこに加わり、回復量がダメージ量を上回る。
 これで8人全員が合流したことになる。8対2ともなれば、さすがにケルベロスたちが優勢になるわけで――。
「鬼魔駆逐、破邪、建御雷! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
 沙雪の形成した光の刀剣が、友人のオネェを切り伏せていく。
「シビっれっちまった、ぜ…………」
 仰向け、大の字に倒れこみ大往生する友人オネェを見て、もうひとりのオネェは涙を流す。
「アンタ……! アンタの仇は討つわヨ!!」
「それは無理な相談だな」
 宝の通告に、オネェの視界が歪む。それは涙のせいだけではない。
「しっかり見てろよ……」
 宝の攻撃だ。視覚を歪ませて自分を認識させづらくする。
「どこ……に……?」
 そうして出来た隙へと、強烈な一撃を食らわせる。鳩尾にめり込む鋼の拳。オネェの身体がくの字に折れる。
 薄れゆく意識の中、オネェは宝がいるであろう場所へと笑いかける。
「ねぇ……アタシたち、出会い方が違っていたら……もっと違った関係に……なれたわよ、ネ?」
「……それも無理な相談だ。俺はケルベロス忍軍だからな」
 あくまでケルベロス忍軍という設定を壊さずに、しかし宝は真実も告げた。
「それに束縛されるのは嫌いだ」
「そ……う……へへっ……」
 小さく笑いながらオネェは顔を伏せる。両ひざから床へと崩れ落ち、もう二度と動くことはなかった。
「ふう、これであらかた片付いた、かな?」
 店内を見渡すコジマ。店員はケルベロスたちによって皆倒されたようだ。通信を受けていたアーニャも頷く。
「……はい。わかりました。ヴァロージャ・コンツェヴィッチは別チームが無事に討ち取ったそうです! みなさん、お疲れ様でした!」
 朗報を受けて歓喜に沸くケルベロス忍軍。こうして、歌舞伎町の戦いは終わりを迎えるのだった。

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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