正義のケルベロス忍軍~真の忍者ここにあり

作者:秋津透

 東京都中央区、深夜。無人のオフィス街を、いくつもの影が激しく戦闘しながら駆け抜ける。ビルの窓ガラスがばりばりと割れ、街灯や街路樹が無残にへし折れ、道路が陥没する。深夜で無人だからまだいいようなものの、もし一般人がいる時間帯だったら、間違いなく犠牲者が出ている傍若無人っぷりだ。
 やがて、全身に手裏剣をつきたてられた濃灰色の忍者装束姿の人物が、歩道に墜落したかと思うと、派手に爆音と閃光をあげて爆発する。自爆したのか、あるいは微塵隠れのような目くらましか。いずれにしても、歩道には大穴が開き、近くのビル一階のガラスは粉々に砕ける。
 その惨状を、少し離れたビルの屋上から密かに眺めている者がいた。ケルベロス、鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)である。
「あちきの思った通りっす。忍軍同士の戦いは激化の一途っす。東京23区の平和を守るには、やっぱり、アレが必要っすよね!」
 意を決した表情で呟くと、五六七はそのまま姿を消した。

「鯖寅・五六七さんの調査によれば、東京23区の螺旋忍軍同士の戦いは激化の一途を辿っているようです。皆さんの尽力により人的被害は出ていませんが、物損は凄まじく、避難による損失も重なり、東京の都市機能に重大な支障が出始めています」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した表情で告げる。
「この状況を解決するべく、五六七さんから、正義のケルベロス忍軍を結成すべしという提案がありました。つまり、一般人を守るだけでは無く、忍軍達と同じ土俵に立ち『螺旋帝の血族』を捜索し、他の忍軍と抗争しようと言うのです。螺旋帝の血族がいかなるものかはわかりませんが、螺旋忍軍が互いに殺し合っても奪おうとしているのですから、発見して適切に処理する必要があるのは間違いありません」
 そう言うと、康は軽く肩をすくめて続ける。
「それに、現在、それぞれの忍軍は他の全ての忍軍を敵として総力戦を行っています。つまり、本拠地が手薄になっている可能性が高い。この好機を生かせば、螺旋忍軍に大打撃を与え、螺旋帝の血族を探し出し発見するチャンスも巡ってくる……かもしれません」
 不確定要素は多いですが、試みて損はないと思います、と言いながら、康はプロジェクターに画像を出す。
「現在、動いていることが判明している螺旋忍軍のグループは九つあります。第一に『月華衆』。大きな忍軍ですが、全軍で都内の作戦に従事しているわけではないようなので、作戦指揮官『機巧蝙蝠のお杏』を撃破できれば当面の作戦はできなくなると思われます。豊島区の雑居ビルの一つを貸しきって拠点としているようです。第二に『魅咲忍軍』。規模はさほど大きくないようですが、首領の『魅咲・冴』以外にも、7色の軍団とその指揮官が存在しているようです。首領を狙った場合、他の指揮官達が救援に来る可能性が高い為、倒しきるのは難しいかもしれません。拠点は、港区の湾岸倉庫を占拠して利用しているようです。第三に大企業グループ『羅泉』。実際に存在する企業ではなく、会社組織の形態が忍軍の組織に相応しいとして、そのように運営されているようです。組織拠点は不法占拠した世田谷区のオフィスビルにあり、首領の代表取締役社長『鈴木・鈴之助』がそこで指揮をしているようです。鈴木・鈴之助を撃破できれば大企業グループとしての活動は難しくなりますが、『羅泉』配下には様々な形態の下部組織があり、統制が無くなれば、それらの組織が勝手に動き出す危険性も生じます。第四に、えー、女装男性忍者の組織『真理華道』。幹部『ヴァロージャ・コンツェヴィッチ』のいる新宿区歌舞伎町のバーが拠点です。他の組織は不明ですが、ヴァロージャを撃破する事ができれば、動きを止める事ができるでしょう。第五に『銀山衆』。首領『霊金の河』は地下アイドル活動をしており、地下コンサートが千代田区の電気街で行われる事が確認されています。ここを襲撃すれば、『霊金の河』を撃破できる可能性があります。第六に『黒螺旋』。本拠は東京ではないようなので、現場指揮官の『黒笛』のミカドを討てば、東京23区から勢力を一掃できるでしょう。大田区の高級住宅街の豪邸を制圧して、拠点としているようです。第七に『白影衆』。『雪白・清廉』を首領とし、台東区の神社境内に拠点を設けています。他の螺旋忍軍を滅ぼす事を目的として動いているようなので、向こうから仕掛けてきたら仕方ないですが、こちらから攻める必要は無いかもしれません。……というか、他の螺旋忍軍を混乱させるためにも、生き残っていてもらった方がいい勢力だと思います。第八に『テング党』。規模は中規模ですが、首領『マスター・テング』の所在がわかっていません。通信教育の組織をたどることになりますが、強力な四天王天狗を撃破しないと、『マスター・テング』に会うこともできないようです。最後に『螺心衆』。この作戦に幹部を派遣していないようなので、足立区の雑居ビルにある拠点を制圧すれば、螺旋帝の事件に関わってくることはなくなるでしょう」
 そう言って、康は、ふうと吐息をついた。
「ほんとにもう、ややっこしい状況ですが、こちらから仕掛けることで整理、進展できればと思います。そのためにも、拠点を制圧した場合は資料を集めてきて欲しいですが……あくまで、螺旋忍軍の拠点殲滅が主目的ですから。戦力が出払って手薄になっているとはいっても、忍軍の拠点である以上、なんらかの仕掛けなどがあるかもしれませんので決して油断しないよう、よろしくお願いします」
 そう言って、康は深く頭をさげた。


参加者
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
シルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)
立花・ハヤト(白櫻絡繰ドール・e00969)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
皇・絶華(影月・e04491)
ミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)
イリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)
アニマリア・スノーフレーク(十二歳所謂二十歳・e16108)

■リプレイ

●アイドル対決! 盛り上げていくよーっ!
「河ちゃん! 河ちゃん! 河ちゃん! 河ちゃん! ウオオォォォォォーッ! ウオオォォォォォーッ!」
 そろいの法被を羽織り、サイリウムを手にしたファンたちが、声を揃えて絶叫する。
 千代田区電気街、地下アイドルにして螺旋忍軍『銀山衆』指揮官と目される『霊金の河』のライブ会場は、開演早々、大盛り上がりに盛り上がっていた。
「うわぁ……すごい熱気ですね」
 プラチナチケットを提示して受付を通り抜けたアリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)は、少々気圧されたような表情で呟く。彼女は、猫耳と尻尾を付けて虎縞柄のふわもこエプロンドレス風衣装に身を包んでいる。
(「ファンの皆さんは、本当に『霊金の河』さんが大好きなのですね。アイドルな忍者さんというのも素敵な感じですけど……正義のケルベロス忍軍として……任務を全うしなきゃです……」)
 一方、本業ソロアイドル、ライブハウスはわたくしの庭、荒らす輩はニンジャだろうがデウスエクスだろうが許しませんと豪語する立花・ハヤト(白櫻絡繰ドール・e00969)は、アリスとは対照的に闘志満々の口調で呟く。その姿はうさぎとバニー服の間くらいのアイドル衣装で、もこもこの耳と尻尾をつけている。
「なかなかやりますね。相手にとって不足なし、というところでしょうか」
 さあ、いきますよ、とハヤトは仲間を促しライブ会場へと踏み込む。ヒラヒラしたアイドルのステージ衣装っぽいドレスをまとったシルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)が先に立って、会場のドアを押し開いて叫ぶ。
「ちょっと待ったぁっ!」
 そして、次の曲に移ろうとしていた『霊金の河』に向け、ハヤトが凛とした声で宣言する。
「その名も轟く『もこもこ団』のアイドル8810(ハヤト)参上です! 週4でライブ活動を行ってるわたくし達と勝負で御座います!」
 週4で? すごい、本格的、と目を丸くするアリスに、ハヤトがアイコンタクトする。はっと気を取り直し、アリスは精いっぱい声を張る。
「私達、アイドルグループ『もこもこ団』ですっ☆ どちらが真のアイドルさんなのか……勝負ですっ……☆」
 そしてアリスに続き、虎耳と虎尻尾を着けたもこもこ虎柄衣装のイリス・フルーリア(銀天の剣・e09423)が、生真面目な調子で言い放つ。
「私達は『もこもこ団』! 『霊金の河』さん、私達とアイドル対決です!」
 更に、和風ゴスロリアイドル衣装をまとい、虎尻尾ともこもこ虎耳バンドを装着した皇・絶華(影月・e04491)が、落ち着いた声で告げる。
「我らもまたアイドル……ならばアイドルとして挑もうではないか。我ら『猛虎猛虎団(もこもこだん)』の華麗なる技……お見せしよう!」
 そう言って、絶華はびしっと構え、いや、ポーズを決める。実は、絶華は今回の参加メンバー内唯一の男性なのだが、女性陣に全然見劣りしないというか、華麗という点ではヘタすると随一かもしれない。ちなみに、『猛虎猛虎団(もこもこだん)』という名前を発案したのは彼である。
 そして、虎耳、虎尻尾、もこもこ虎柄アイドル衣装は完璧に揃えているが、どこか無表情気味なミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)が、何か少々棒読みっぽく言い放つ。
「わたしたち新生アイドルグループ、もこもこだん。あなた達に勝負を挑む」
 更に、ドアを開けて第一声を放ったはいいが、名乗りのタイミングを逃していたシルフィリアスが、ちょっと慌て気味に告げる。
「その程度でアイドルを名乗ろうだなんてまだまだ甘いっすね! あちしたちのアイドル力をみせてやるっす! 魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす!」
「こら、肝心の『もこもこ団』いうの忘れとるやないか」
 背後からシルフィリアスの頭をぺんと軽く叩き、ネコミミとしっぽつき衣装の小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が苦笑混じりに告げる。
「『もこもこ団』チームのご意見番、マナや。よろしくな」
 そして真奈は、ほい、最後しめてな、と、ネコミミ尻尾+執事服姿のアニマリア・スノーフレーク(十二歳所謂二十歳・e16108)に振る。
 え、私は執事で裏方でサポート役で、と、アニマリアは一瞬狼狽したが、真奈の有無を言わさぬおばちゃん眼力に押し切られ、観念して宣言する。
「サ、サポートの執事役アニマリアです。本日は、アイドルグループ『もこもこ団』をどうかよろしくお願いします」
「『もこもこ団』……あなたたち、ただのアイドルじゃないわね?」
 やっと名乗りあげを終えた八人の乱入者を見据えていた『霊金の河』が、楽しげな、だがどこか凄みのある口調で告げる。
「でも、アイドル対決を挑まれちゃ、あとになんて引けないわ!」
「うむ、さすがだな」
 絶華が応じ、『もこもこ団』一同はステージにあがる。客席のファンの中には銀山衆の忍者もいるはずだが、とりあえず手出しはしてこない。一方、ファンの中には相当数のケルベロスもしっかり入り込んでいる。
「では、挑戦した側として……歌わせていただきます」
 礼儀正しく告げ、アリスがオリジナルグラビティの呪歌『フラワリープリンセス・アスガルドディーヴァ』を発動させる。
「♪Flowery Princess Vanadialice♪―♪Princess Live♪――私も歌います……元気を出して……!」
「おおおっ!」
 会場のファンが、大きくどよめく。アリスは『女神のフラワリープリンセスポーチ』のデバイスに『スート・ザ・ワンダーランド』の内の「ハートのA」をスラッシュ、魔法音声と共に『変身』し広大な虹の花の園を召喚、光のホログラム等を投影しライブステージの様に展開。【もの言う花たち】をマイクに変化させ、可憐に歌い、ダンスで場の味方を鼓舞する。
 なんというか、どーみてもアイドル活動向きな鮮烈可憐なグラビティの発動に、乱入当初は露骨に何だこいつら的だった会場の雰囲気が、大きく『もこもこ団』側に傾く。
 すると『霊金の河』が、ステージ上のケルベロスには聞こえるが、客席には聞こえない、絶妙な音量の声で告げる。
「やるわね……あんたたち、いったいどこの忍軍?」
「ふふ、聞いて驚け。正義のケルベロス忍軍にして、アイドル担当やで」
 ドヤ顔で真奈が告げ、絶華が淡々と続ける。
「このステージは貴様らのホームグラウンド、我らは乱入者かもしれん。しかし、地球は我らのホーム、貴様らデウスエクスに勝手な真似はさせん。聞け、ケルベロスの戦歌『ヘリオライト』を!」
 本来、呪歌としての力も持つ『ヘリオライト』だが、バイオレンスギターによる演奏ではないため、グラビティ効果は出ない。しかし絶華は『ヘリオライト』を歌い、踊りながら、その動きに乗せて『霊金の河』へ重力蹴りを叩き込む。
「♪言葉にならない想いはいつも めくれた空のオレンジ色に飲み込まれて 掲げた理想は誰かを傷付けて かすれた地図の上を ずっと彷徨っているだけ♪」
「させない!」
 絶華の蹴りが『霊金の河』へ命中する寸前、バックダンサーの一人が飛び出す。客席からは、三人が一瞬交錯したようにしか見えなかっただろうが、ダンサーは身を挺して『霊金の河』を庇う。
(「ディフェンダーか……」)
 声に出さず唸り、絶華は舞いながら間合いを取る。すると『霊金の河』が、すかさず素晴らしい声量で治癒歌を歌い、配下の傷を癒す。
 一方、バックバンドの奏者たちは攻撃呪歌を奏で、バックダンサーたちはダンスの動きに合わせて螺旋の力で攻撃を仕掛けてくる。
(「これは、長引きそう……」)
 愛用のゾディアックソード『ヴォーパルソード』の紋章を光らせて仲間を治癒しながら、アリスは声には出さずに呟いた。

●あくまでも、どこまでも、アイドルとして
(「裂け、彼岸花」)
 完璧なアイドルダンスの動きに乗せて、ミレイがオリジナルグラビティ『彼岸花(ヒガンバナ)』を発動させる。客席からは見えない無数の鋼糸が展開され『霊金の河』に襲い掛かるが、今度はバックバンドのベースギターが飛び込んで、指揮官を庇う。
「ぐあっ」
 全身の皮膚を裂かれ、ベースギタリストが血みどろになって倒れる……と見えた瞬間、その身体が煙に覆われ消える。
(「自爆した!?」)
(「……ケルベロスに殺されれば真の死、それをコギトエルゴスム化で避けたか」)
 ケルベロスたちが目配せする間に、『霊金の河』がダンスの動きに乗せ、コギトエルゴスム化した配下を素早く収容する。
 そして『霊金の河』は、再び絶妙な音量で告げた。
「できれば、お客さんに本気で命懸けて闘ってるようには見せたくないんだけど……無理?」
「本気でそう思うなら、攻撃しないでほしい。こちらは、宝石と化して死を免れるような器用な真似はできない。もしも負けたら、無様に死体を晒すだけ」
 ミレイが、平板な口調で応じる。
「だから、絶対に負けられない」
「……そう言われてもね」
 まだ余裕のある態度で、『霊金の河』は軽く肩をすくめる。しかし、戦列を離れたベースギタリストの補充要員らしき者が客席からステージに上がってこようとした時、いきなり横合いから攻撃阻止されたのを見て、ぎょっとした表情になる。
「おまえたち……だけじゃないの?」
「そちらも、ステージにあがってない要員おるんやろ? お互いさまや!」
 真奈が応じ、イリスがオリジナルグラビティ『『漆』の魔弾・歪光(ディストーテッド・ライト)』を放つ。
「♪時空歪めし光、汝此れ避くるに能わず!」
 歌に乗せた詠唱に応じ、時空を歪めて光弾が飛ぶ。しかし、それでもダンサーの一人が飛び込んで庇い、『霊金の河』にはダメージが通らない。
(「どこまでも庇うなら、庇う者がいなくなるまでひたすら潰す……しかないでしょう!」)
 声には出さず呟くと、アニマリアもオリジナルグラビティ『天貫く色無しの冬を奉ろう針葉樹(カラーレスティンバーペネトレイター)』を歌に乗せて放つ。
「♪実り無き死の季節を奉ろう森の手よ、我が敵を貫け!」
 ギターケースから取り出したドラゴニックハンマー『ロザリオ【シルバーペイン】』で、どんとステージの床を叩くと、『霊金の河』の足元から透明な氷の樹木が生じ、身体を貫く。しかし、やはりダンサーの一人が身を挺して『霊金の河』を庇い、ダメージを引き受ける。
 だが、次の瞬間、ダンサーの姿は煙と閃光の中に消えた。
「その宝石を……!」
「いいえ、渡さないわよ」
 何しろ配下は『霊金の河』を庇った結果、自爆するのだから、距離は圧倒的に向こうの方が近い。二つ目のコギトエルゴスムを収容し、『霊金の河』は残った配下を治癒歌で癒す。
 そこへシルフィリアスが、髪の束の先端部分に牙の生えた口が現れ敵に食らいつくオリジナルグラビティ『トーベン・トイフェル』を駆使して攻撃を仕掛けるが、今度はドラム奏者が割り込んで庇う。
 ハヤトもオリジナルグラビティ『静寂の堕天使(オートマチックノイズキャンセリング)』を発動、眼の前の敵を駆逐し静寂に還すだけのオートモードで『霊金の河』を狙うが、こちらはキーボード奏者に阻まれる。
 そして『霊金の河』が残った配下を癒し、配下はケルベロスを攻撃、メディックのアリスが全力で仲間を癒す。
 ちなみに、回復役は当然ながら、攻撃を発動させている者も、敵味方双方、アイドルとしての挙動はしっかり維持している。特にハヤトが、殲滅のためのオートモードを発動しながら、同時に歌って踊って観客を熱狂させる様子は、さすが週4でライブやってるプロアイドル、と敵味方を唸らせる。
 そしてステージ上では、見た目は優雅華麗だが、その実、命懸けの攻防が続き、アイドル『霊金の河』を支えるバックバンドとダンサーたち、実は『霊金の河』を守る銀山衆鉄壁の直衛忍者隊は、一人、また一人と、コギトエルゴスムに姿を変えていった。
「♪欠けた地球が僕を笑っても それでもずっと輝いて ちぎれそうな空の隙間に 虹をかけるよ♪」
 最後は、ずっと『ヘリオライト』を歌い踊り続けていた絶華が、オリジナルグラビティ『四門「窮奇」(シモンキュウキ)』を発動させ、歌い踊り続けながらの超高速連続攻撃を『霊金の河』に仕掛ける。最後に一人残っていたキーボード奏者が、捨て身で飛び込んで攻撃を受け、煙と閃光を放ってコギトエルゴスムと化す。
 そして、銀山衆側でステージ上にただ一人残った『霊金の河』は、最後のコギトエルゴスムを拾うと、この期に及んでにっこり笑って告げた。
「楽しかったけど、ここまでだね」
「待て!」
 シルフィリアス、真奈、イリスが阻止しようと動いたが、なぜか他の五人……携帯通信機やアイズフォンを所持しているメンバーが動かない。
 そして、無傷の『霊金の河』は軽々と客席へ飛び、追い討とうとする三人を、他の五人が止める。
「撃ってはいけない。ファンに当たる」
 ミレイが淡々と告げ、アニマリアが溜息混じりに明かす。
「他の方向なら追いますが、客席方向は……待ち伏せの伏兵が一グループいるんです。庇う者がいるならともかく、単身では絶対に逃げられません」
「でも!」
 確実に斃すには追った方が、と言いかかるイリスに、絶華が告げる。
「万一にもファンを巻き添えにはできないし……何も知らないファンに、アイドルがアイドルを追い詰めて殺したと見せずに済むならその方がいい」
「……そやね」
 客席を見やって、真奈がうなずく。
 ファンの一部は、逃げた『霊金の河』を追おうとして右往左往しているが、一方、ステージに残ったケルベロスたちに歓声を送る者たちも少なくない。
「もっこもこ! もっこもこ! もっこもこ!」
「……ファンの夢は壊せませんっすよね。ここは、アンコールっすかね?」
 シルフィリアスが訊ね、アリスがうなずいて客席のファンに手を振る。
 そしてアリスは、声には出さずに呟いた。
(「できれば……任務抜きで、楽しくアイドル対決したかったかもです……」)

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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