●
時折、金属を弾く音と火花を散らせながら、重力を無視してビルの側面を駆ける影が二つ。下をみれば、ゾっとするような高低差である。一歩でも気を抜けば、奈落(ならく)へ吸い込まれてしまうだろう。
影が飛ぶ下では、赤い点の連なりがのろのろと動いていた。点の先に視線を向けると、夜よりも黒い煙がもうもうと上がっている。螺旋忍軍たちの抗争のあおりをうけた乗用車が一台、最初に逃げる黒装束に屋根を踏み潰され、続いて黒装束を追ってきた藍装束が放った螺旋手裏剣の一枚がエンジンルームを貫通。火花がガソリンに引火して大爆発を起こしたのだ。
事故の様子――幸いにも怪我人はでなかったようだ――に気を取られているうちに、戦いの場は喧噪に満ちた表通りから暗い裏通りへと移ったらしい。ビルの谷間を吹き上がる上昇気流に乗って、ビルの外壁を穿つ鈍い音が左手から聞こえて来た。
鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)は一足飛びで屋上を渡ると、下を覗き込んだ。帝をめぐって敵対する螺旋忍軍たちは左右の壁を交互に飛び交いながら、谷間に火花を散らし、東の方へと去っていった。周りのことなど一切気にしていないあの様子では、いずれ大事故を引き起こすだろう。
「あちきの思った通りっす。忍軍同士の戦いは激化の一途っす。東京23区の平和を守るには、やっぱり、アレが必要っすよね!」
五六七は独りごちると、影を纏ってビルの屋上から姿を消した。
●
「みんなー、よく聞いてね」
ゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)は、ケルベロスたちが集まるとすぐに作戦の概要説明にかかった。
「鯖寅・五六七さんの調査で、東京23区の螺旋忍軍同士の戦いが激化の一途を辿っていることが確認されたよ。みんなが撃破した忍軍の被害を、互いに相手の忍軍の攻撃によるものだと誤解したのも激化の一因なんじゃかな」
螺旋忍軍の内部抗争は、いまでは螺旋帝の血族の捜索よりも敵対忍軍の撃破が主目的となっているようだ、とゼノは言った。
もともと、白影衆のように、他の忍軍を滅ぼそうとしている忍軍が含まれていた事も原因の一つだろう。
「そこでね、五六七さんからこの状況を解決するべく、『正義のケルベロス忍軍』を結成すべし、という提案が出されたんだ。一般人を守るための戦いから一歩踏み込んで、忍軍達と同じ土俵に立って『螺旋帝の血族』を捜索し、他の忍軍と抗争しようと言う試みだよ」
螺旋帝の血族がいかなるものか、ケルベロス側は一切把握していない。だが、螺旋忍軍が互いに殺し合っても奪おうとするほどだ。彼らに先んじて発見し、適切に処理する必要があるのは間違いない。
「というわけで、みんなには『正義のケルベロス忍軍』の1チームとなって、9つある螺旋忍軍の派閥のどれかに当たって欲しいんだ。どこと当たるかはいまから配る資料をよく読んで、みんなで決めてね」
ケルベロスたちは資料を手にするとすぐにページを繰り始めた。
『月華衆』は勢力としては大きいが、その全てがこの作戦に従事しているわけではないようだ。作戦指揮官である『機巧蝙蝠のお杏』を撃破する事ができれば、当面の作戦は行えなくなるだろう。拠点も豊島区の雑居ビルの一つと割れており、潜入方法も、「正面入り口」、「裏口」、「隣のビルから屋上に飛び移る」、「壁を登って窓から潜入」、「下水道を通って地下から潜入」と豊富である。
なお、同じ潜入口から2チーム以上が潜入した場合、潜入が事前に察知されて迎撃される可能性があるので注意が必要だ。
『魅咲忍軍』は組織としてはあまり大きくない。だが、指揮官である魅咲・冴以外にも、7色の軍団とその指揮官が存在しているのが確認されている。魅咲・冴にある程度の打撃を与える事ができれば、螺旋帝の事件への関与を諦めるか、諦めない場合も当面の間は作戦を行えなくなるだろう。
ただし、魅咲・冴を狙った場合は、他の指揮官達が救援に来る可能性が高い為、倒しきるのは難しいかもしれない。
拠点は、反社会勢力が良く利用する港区の倉庫だ。いくつかのチームが襲撃をかければ、拠点を捨てて撤退していくと予想されている。撤退時に持ち出す資料などを確保できれば、今後の作戦に役立つかもしれない。
『大企業グループ・羅泉』は、実際に存在する「企業」ではない。「会社組織」の形態で運営されている忍軍の組織だ。組織拠点は世田谷区のオフィスビルにあるが、どうやら不法占拠のようだ。
代表取締役社長、鈴木・鈴之助は、拠点のオフィスの社長室で指揮を執っている。敵の数は多いいが、戦力を集中すれば撃破も可能だろう。ただし、ゆめゆめ油断するなかれ。鈴之助は忍軍のトップとしても侮れない力量を持っているので、一瞬の油断が命取りになりかねない。
なお、『羅泉』配下には様々な形態の下部組織が確認されている。鈴木・鈴之助の統制が無くなれば、それらの組織が勝手に動き出す危険性があることに留意されたし。
『真理華道』は幹部の一人、ヴァロージャ・コンツェヴィッチが率いる忍軍の拠点が割れている。場所は新宿区歌舞伎町にあるバーだ。
真理華道の他の組織はどこに拠点を構えているのか不明だが、ヴァロージャを撃破する事ができれば、真理華道の動きを止める事ができるだろう。
戦力も少ないので少数チームで挑んでも、ヴァロージャを撃破できる可能性がある。
『銀山衆』の場合は特殊だ。
現時点で、銀山衆の霊金の河が開く地下コンサートが、千代田区の電気街で行われる事が確認されている。この地下コンサートを襲撃すれば、指揮官である霊金の河を撃破する事ができるかもしれない。
ただし、会場には銀山衆の他の幹部も警備に出向いているという情報もあり、油断はできない。
護衛の幹部1人を撃破するのならば少数、霊金の河と幹部の両者を狙うならば複数の戦力が必要であろう。
『黒螺旋』の本拠地は東京には無い。指揮官の『黒笛』のミカドさえ討てれば、黒螺旋の勢力を東京23区から一掃できるだろう。仮に、敵が本拠地から増援を派遣するにしても、かなりの時間を稼げるはずだ。
『黒笛』のミカドは、大田区の高級住宅街の豪邸を根城にしていることが判明している。豪邸の庭には番犬代わりの下忍達が放たれており、気づかれずに潜入するのは難しそうだ。下忍を撃破するチームと、素早く豪邸に侵入するチームに分かれる必要があるだろう。
『白影衆』は今回、あえて敵対する必要は無いのかもしれない。他の螺旋忍軍を滅ぼす事を目的として動いているかぎりはであるが。
なお、拠点は台東区の神社の境内の一部に設けているようだ。勢力としては小さい為、少数チームでも撃破が可能である。
『テング党』は、中規模な忍軍だ。戦力を集中する事ができれば、マスター・テングを討つこともできるだろう。マスター・テングを討つ事ができれば、テング党の組織は壊滅する。
逆に少なければ、マスター・テングに会う事すら叶わないので調整が必要だ。他の忍軍の幾つかの攻撃を諦める必要があるかもしれない。
『螺心衆』は、この作戦に幹部を派遣していないようだ。比較的容易く本拠地を破壊する事ができるだろう。東京支社ともいえる足立区の雑居ビルの拠点を制圧すれば、螺旋帝の事件に、螺心衆が関わってくることは、おそらくもう無い。
恐らく、3チーム以下で作戦に当たっても制圧は可能だ。
ゼノは咳払いで、資料に目を落とすケルベロスたちの気を引いた。
「それで、特に問題が無ければ、襲撃時は『正義のケルベロス忍軍』を名乗って欲しいんだ。そうすれば、敵は、抗争中の別の忍軍がケルベロスの忍軍を雇った可能性を考えてますます混乱するかもしれないから。あとは拠点内に残された資料なども、できれば回収して欲しい。お土産を期待してるよ」
参加者 | |
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ミライ・トリカラード(朝焼けの猟犬・e00193) |
天崎・ケイ(地球人の降魔拳士・e00355) |
エリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740) |
ドロッセリア・スノウドロップ(レゾナンスウォリアー・e04730) |
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716) |
志藤・巌(壊し屋・e10136) |
嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437) |
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723) |
●
手渡された名刺には濃紫に金字で店名が印刷されていた。アルバイトの配り子にお愛想して志藤・巌(壊し屋・e10136)は踵を返した。貰った名刺の裏を見る。『ヴァロージャ』とママの名が入っていた。
(「そのままじゃねーか」)
ここまでどうどうと名を出していながら、どうして今まで見つけ出せなかったのか。
名刺の店は歌舞伎町にあるバー。ニューハーフと呼ばれる女性たちが、ビジネスという名の争で戦い疲れた男を癒してくれる店。もとい、螺旋忍軍『真理華道』のアジトだ。これから複数の仲間たちと踏み込むことになっていた。
ヴァロージャのバーの近くで待機中の別班メンバーの前を素通りし、ひょいと角を曲がって裏路地に入る。
バーの通用口近く、ポリバケツを目隠しにしてレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)が空瓶の入ったビールケースに腰を下ろしていた。足音に気づいて立ち上がり、胸の前に手のひらをあげて狭い通路を塞ぐように立ちはだかる。
「すみません、ここは――」
レスターは巌の姿を認めて苦笑いした。振り返り、腕を上げて軽く振る。路地の反対側にいる別班たちに、「なんでもない」と知らせて再び腰を下ろす。
ミライ・トリカラード(朝焼けの猟犬・e00193)は黄金の羅針盤と名付けた懐中時計の蓋を閉じた。顔をあげて巌に笑いかける。
「おかえり。どうだった?」
「どうもこうも……まあ、普通だ。キープアウトテープを張っときゃ、大丈夫だろ」
「普通って……」
東京の大歓楽街、歌舞伎町という土地柄もあってか、通りは昼も夜も人で溢れている。歩く人も様々だ。だからこそ、ヴァロージャたちは堂々と素を晒して営業できていたのかもしれない。
隣でふたりのやり取りを聞いていたエリオット・シャルトリュー(イカロス・e01740)は、ひょいと肩をすくめ、「普通は普通さ」とミライの肩を軽く叩いた。
「緊張することはないぜ。いつもと同じように戦えばいい」
「だからと言って気を抜きすぎると怪我をするわよ」
すかさず氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)が注意する。
「中は結構人が入っているようだし、薄暗いだろうし……どうしたって混戦になるから同士討ちしないようにしないとね」
「そうですね。それ以前に、まず、お客さんを店外に出すことを最優先しなければ」
天崎・ケイ(地球人の降魔拳士・e00355)は壁から背を離した。
深呼吸を繰り返し、てのひらの汗を何度もズボンでぬぐっている嶋田・麻代(レッサーデーモン・e28437)に声をかける。
「突入の順番も決めなくてはいけませんし、私が行って、あちらの班と軽く打合せをしてきます」
「ん? ああ……、お願い」
かなり緊張しているようだ。むりもない。すぐそこに、長年追い求めて来た宿敵がいるのだ。いや、近年は追われていた、といったほうが当たっている。その因縁が、今夜で断てるかもしれないのだから。
ケイが傍から離れると、麻代は遠慮がちにドロッセリア・スノウドロップ(レゾナンスウォリアー・e04730)の背を指でつついた。
「店内の螺旋忍軍の人数と配置、判りました?」
アイズフォンから入ってくる音の解析に集中していたドロッセリアは、外部からの突然の刺激に驚いて、体をびくつと震わせた。
「イエ……マダ、デス」
顔の前で手を合わせ、驚かせてしまったことを詫びる。
他班のケルベロスが客を装って店内に先行潜入していた。予め敵の数と配置などが分かっていれば、余計な被害を出さないで済む。なによりも、ここまで追いつめておきながらみすみす取り逃がしてしまわないようにするためだ。なんとしてもここで一網打尽にしてしまわなくては。
「ア! 今――シー、オ静カニ」
四乃森・沙雪とアルベルト・アリスメンディが店内で探りだした情報を、アーニャ・シュネールイーツがもう一度、簡潔に纏めて全班のレプリカントに配信。それを口頭で集まってきた仲間たちに伝える。
「従業員……手下ガ12体。ヴァロージャを入レルト13体デス。ソノウチ、控え室ニイルノガ4体、ダソウデス。控え室ノ4体ハ、『裏口に回った班が抑えてください』トノコトデシタ」
他班との打ち合わせから戻ってきたケイが頷くのを見て、ドロッセリアが返信する。
「<レッサーデーモン班、了解>」
「突入のタイミングは合わせたほうがいいな。嶋田、おめえが決めろ」
「え? 私……が、ですか?」
「本日主役のおめえが決めなきゃ誰が決めンんだよ」
黒バンダナの下で光る眼に気圧されて、麻代は顔をひきつらせた。勘弁してください、とつい弱音を吐きそうになるが、ここで逃げてもしょうがない。誰かが決めなくてはならないのだ。
けばけばしいネオンの明かりを頼りに、ミライが差し出した懐中時計の針を読んだ。
「じゃ、23時00分。作戦行動開始……で」
「<レッサーデーモン班ヨリ各班に通達。23時00分、一斉突入。繰リ返ス、23時00分丁度に一斉突入セヨ>」
決定を受け、ドロッセリアが突入時刻を全班にいるレプリカントに通達した。
「あっちの班が先行するそうです。私たちは後から行くことになりました」
報告を入れるケイの後ろから別班のメンバーがやって来て、裏口の前で突撃隊列を組みだした。
邪魔にならないようにみんなで横へ移動し、小さく円陣を組む。
緊張が高まる中でかぐらが呟いた。
「こっちから攻め込むのはいいとして、分かってないのも入れたらどれだけのグループがあるのかしら……」
「さあ、な」
かぐらに答え返しながら、エリオットは突入に備えて背中の翼をできる限り小さく折りたたんだ。敵味方入り乱れる修羅場で、不用心して大切な翼を痛めたくない。
「俺たちが『正義のケルベロス忍軍』を名乗っても問題ないぐらいだ。たくさんありすぎてヤツら自身も把握してねえんじゃないかな?」
隣に立つ親友に話のバトンを送る。
「だろうね。まあ、小さなグループは今後も無視して大丈夫じゃないかな。今夜の作戦で名だたる螺旋忍軍の派閥がいくつか潰れるだろう……いや、真理華道はここで潰す!」
レスターは固めた拳を麻代の前に突きだした。
「東京は俺達が守る!」
突きだされた拳にちょこん、と固めた拳が当てられる。
横からエリオットが二つの拳に己の拳を寄せると、ほかのメンバーも次々と拳を一つに集めてきた。
「みなさん、宜しくお願いします」
円の中に、おー、と声が低く響く。
「いざ! レッサーデーモン班、突入!!」
●
乱暴に裏戸を開くと同時に、先行班の全員が一斉に店の中に飛び込んでいく。早速、バックヤードで休憩中だった螺旋忍軍のオネエたちと、彼らを制圧しようとしたケルベロスたちとの間でぐちゃぐちゃの乱闘が始まっていた。
飛び交う怒声、酒瓶が割れる音――。細かいほこりがたち、細い通路に落ちるスポットライトの中で舞う。
店舗のほうから頭を抱えた客たちが次々と駆けてきた。なにかやましいところでもあるのか、ケルベロスコートを見たとたん、セカンドバックで顔を隠す者もいた。
巌はバックヤードの入口を背でふさぎ、バックヤードから様々なものが通路に飛びださないようにして非難する客たちを通した。口の横に手をあてて、殿に向かって叫ぶ。
「おい、念のためだ。さっき抜けていったやつの身元を確認――」
「やりました! 先ほどの男性は螺旋忍軍ではありませんでした」
片手で裏口に張ったキープアウトテープを伸ばしながら、ケイは仲間の頭越しに叫び返した。
「よし、この中は別班に任せてどんどんい――ってえな、おい!」
後頭部に鈍く重い衝撃。手を当てる。じっとりと湿っていた。目の前に持ってきて確かめると、それは血ではなく酒だった。ガラスの破片もいつくか、手のひらにくっついている。
むっとして、振り返りざま、バックヤードの奥から飛ばされてきた螺旋忍軍の一人をぶん殴ってやった。そいつが酒瓶を投げたわけではないのだろが、この際事実関係などどうでもいい。
もう一発、誰か殴ってやろうと拳を振り上げたところで、中から鍋島・美沙緒(神斬り鋏の巫女・e28334)が声をかけてきた。
「指揮官はこっちじゃないのかな? 残念だけど……」
素早く敵の姿を確認して、美沙緒がいって、と合図を出す。
「ここはボク達が受け持つよ。今の内に奥に進んで?」
ミライは後ろから、なおも拳を振り上げている巌のコートを引っ張った。
「ほら、いこう。配下は後回しにして、ヴァロージャへ攻撃を集中させるよ!」
大きな体をバックヤードの入口から引き離すと、そのまま通路を進んでフロアに出た。
「な、何この人たち! これが噂のおねぇ忍者!?」
乱闘真っただ中、煙草の煙が立ちこめた薄暗い店内で、オネエ忍者たちもケルベロスたちも、でたらめに拳を振りまわす。その中にあって、一か所。ぽっかりと開けた場所があった。
ブロンドの髪をカールさせ、口紅は真っ赤、いくぶんポッチャリした体を白いドレスに包んだオネエ忍者が、戦いに加わるわけでもなく、高級かつ重厚そうなカウンターの前で踊っている。
レスターとエリオットは、班のメンバーを後ろに固めるとスクラムを組んだ。前進を阻む螺旋忍軍を押しのけ、押されてよろけたケルベロスを押し返し戻ししながら、お踊り子に近づいていく。
「――フラメンコ、か?」
「レスター、そんなことよりアレの後。あそこにいるのはもしかして……」
ゴージャスなシャンデリアが御影石をはめ込んだ壁を照らしている。長いカウンターの後ろにある酒棚に、さりげなく飾ってあるのは名の知れた高級ウイスキー。その前でリズミカルにシェーカーを振るのは誰であろう、『真理華道』の首領、もといママのヴァロージャ・コンツェヴィッチだ。
『ドローン起動』
かぐらはケルベロスコートの内からドローンを取りだし、飛ばした。
(「うーん、すごい人数……。ぎゅうぎゅうね」)
方々で振り回される腕に叩き落とされないように、天井ギリギリまで上げる。
『通常モードで展開。前線の兵に電子の盾を寄与せよ』
まずは親友を庇って前に出たエリオットと、いますぐカウンターを飛び越えていきたそうに体を揺らすミライの防御力を上げる。
「とりあえず。ほかの方は隙を見て……重ねていきましょう」
突然、床を強く踏み叩くヒールの音と、「オレッ!」と野太い声がフロアに響く。見れば、ぽっちゃりオネエが、高々と片手を上げてポーズを決めている。――と、流し目からバチッと重いウィンク。
「あら~ん? 拍手がぜーんぜん聞こえてこないんだけどぉ~」
全身粟立ちながらも、レスターは気持ちを振るい立たせる。
金の前髪を指ですきあげながら、少し首をかしげて淡く微笑んだ。
「ごめん、キミに見とれていた」
軽く床を蹴って飛び下がりつつ、重力槍を投げた。
「チェストォ!!」
しかし、分裂する前にオネエの光速手刀に叩き落とされる。否、右腕一本で攻撃を受けきられてしまった。
「もっと太いのをちょうだい、かぁわいい坊や。特別に根元までずっぽりしゃぶってあ・げ・る」
「あー、R-15でお願い。オカマ野郎」
麻代は中指を立ててオネエ忍軍を挑発すると、頭をひょいと下げて横から飛んできた食いかけのハンバーガーをかわした。
オネエの目がすっと細くなる。
「女とガキは死ね。つーか、まず名乗れブ――」
うって変わってドスの効いた太い声を、抑揚滅茶苦茶な機械音声が遮った。
「ケルベロス流正統! ドロシーちゃん!」
ドロッセリアが魔人降臨のポーズを取る。
「ワタシガ、ワタシタチが『正義のケルベロス忍軍』ダ!!」
「あー、はいはい。死ねブスども」
オネエがめんどくさそうに左腕をあげ、手から氷結螺旋を放った。
味方ガードにかぐらが立つ。
その前に、白雷の滝が流れ落ちて、飛んできた無数の氷片を落とした。
「そう簡単にやらせるわけにはいきませんッ!」
ババーンとケイがコートの前を開く。
「地上の正義を守るケルベロスの忍とは私達の事です」
黒皮のショートパンツとニーソの間、白い太ももが艶めかしく光る。
「うほっ♪」
差し出された餌に喰いついた。
『地獄の底まで落ちていけ!』
カウンターの前を離れて突進してきたオネエに、巌が横から腕を伸ばしてラリアットを豪快にぶちかます。床に倒れたところへ、怒涛の三連打。
腹を打たれて跳ねあがった頭に、エリオットが地獄の炎を纏った斧を振り下した。
「あーあ。綺麗な顔が台無しだぜ、オネエさんよぉ。まあ恨みは……ない事もないが」
「クソ、オラトリオがぁ!」
ミライが鎖を飛ばしてオネエを締め上げ、反撃を封じた。
「ここからが本番だ。地獄の番犬の力、見せてあげるよ!」
ドロッセリアが背中のミサイルポッドを開く。業火でオネエとその後ろのカウンターを中まで舐め焼きながら、後ろにいる麻代に、行け、と手を振った。
「ココは任セテ」
「さあ、早く!」
かぐらがオネエたちを超加速突撃で蹴散らして道を開いてくれた。
「ヴァロさん、おひさ! 正義のケルベロス忍軍です!」
麻代が前に立つと、毒気のある含み笑いを漏らした相手がカウンターから身を乗り出してきた。リズミカルにシェーカーを振ってから、グラスにすばやくドドメ色の液体を注ぐ。
「その、あの件まだ怒ってたりします? てか、覚えてます?」
「もちろん覚えているわよ。よくもまあ、しれっ、とアタシの前に顔を出せたものね。この裏切り者!」
ヴァロージャは細いグラスの足を指でつまんでもちあげると、麻代の顔に毒カクテルをぶっかけた。カウンターに手をついて飛び越えようとする。
『根性!』
目を焼かれても怯まず、麻代は犬面を平手で打った。もう一発。
「裏切者なんて笑わせる。真理華道に仲間意識なんて存在しない。お互いにモノを奪い合った仲だ、愉しく殺し合おうじゃん?」
「ざけんじゃないよ!」
カウンターから螺旋掌が飛んできた。避け損ね、左の肩をねじり切られて仰け反った。
ぽっちゃりオネエを片付けた仲間たちが、トドメを刺させてやろうと援護する。
「目ぇ離さんでくださいよ。逝かせてあの子のもとに送ってやろうってのに無視されたんじゃシラケちゃうよ」
壊れたシャンデリアの下で、斬霊刀が冷酷な光を放った。
●
麻代がヴァロージャの体を改めると、着物の懐の中から『螺旋忍法帖』と書かれた巻物が見つかった。その場で広げて読む。
螺旋忍軍の名前と帝の血族を捕縛せよという内容の命令が書かれていた。
一同が見下す中、『真理華道・ヴァロージャ・コンツェヴィッチ』が朱線で消され、代わりに『正義のケルベロス忍軍・レッサーデーモン麻代』に書き換えられる。
「これは……いったいどういう代物なんでしょう?」
疑問を持ちつつも、ケルベロスたちは忍法帖とその他に暗号書類や映像データを押収して撤退した。
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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