揺れる果実の罠

作者:小茄


「吉宗が享保の改革で作成した法典は……公事方御定書。下巻は御定書百箇条……」
 ぶつぶつと呟きながら、夜道を歩く1人の青年。
 僅かな時間も惜しんで勉強に励む、真面目な受験生である。
「うふっ……あはぁん」
 と、そんな彼の耳に聞こえてきたのは、吐息混じりの女の声。
「な、なんだ?」
 それも、ひとけの無い雑木林の中から聞こえてくる様だ。
 彼は数秒考えてから、声のした方へと足を向ける。純粋な好奇心か、事件性を鑑みての正義感か、それは当人にも判然としない。
「……えっ?!」
 草木を分け入って見ると、やや開けたスペースに一本の木。それも南国風の樹木で、彩りも鮮やかな果実まで実らせている。
 とは言え、彼が驚きの声を上げた原因はそこではない。
 その木の傍……と言うより、木の洞の中と言うべきだろうか、女性の姿があったのだ。それもただの女性ではなく、一糸纏わぬ裸の女。
「……」
「こっち……キて?」
 青年が声を失って立ち尽くしていると、女は煽情的な表情と囁く様な声音で彼を手招きし始めた。
 緑色の肌。樹木と一体化する様な異形の姿。
 にも関わらず、彼は吸い寄せられる様に彼女の元へと歩み寄って行く。
「さぁ、イラッシャイ」
 両手を広げ、母性と妖艶さを兼ね備えた微笑みで彼を誘引する謎の女。
 危ない。近づくべきではない。理性はそう警告したが、腕の間でふたつの果実が揺れるのを目にすると、彼は考える事を止めてその谷間へダイブした。
 禁欲的な受験生生活を送っていた彼が、たゆたう双丘の誘惑に屈したとて誰が責められよう?
「んはっ?! ちょ、そこは……ンアァーッ!!」
 が、その代償は大きかった。
 彼は豊かな胸と快楽に溺れ、そのまま全てを搾り取られて絶命したのだった。


「『爆殖核爆砕戦』後、大阪城に残った攻性植物達の調査を行っていた、ミルラ・コンミフォラさん達から、新たな情報が得られました。調査によると、大阪城付近の雑木林などで、15歳以上の男性を魅了する『たわわに実った果実』的な攻性植物、バナナイーターが出現しているようなのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)によれば、今回の事件もその一端。
 塾帰りの高校生が、やはり雑木林に出現したバナナイーターに魅了され、色々な物を搾り取られて殺されてしまうと言う。
「この様にして奪われたグラビティ・チェインを使って、何か目論んでいるのかも知れませんね……いずれにしても、罪なき一般人を見殺しには出来ません。バナナイーターを撃破して下さい」
 放置すれば人命が損なわれるだけでなく、彼らの新たな作戦行動に繋がりかねない。何としても阻止する必要が有る。
「幸い今回は被害が出る前に、バナナイーターが出現する予定の地点に先回りする事が可能です。予知の通り、塾帰りの男子生徒が通れば、彼を捉える為に出現するでしょう。或いは……」
 ケルベロスに15歳以上の男性が居れば、出現させる為の囮役を務める事も可能だと言う。
 ちなみにバナナイーターは獲物の数と同数出現する為、例えば囮が3人居れば3体出現する。
 最初に出現する1体の他は、戦闘力の低い個体らしいので、可能であれば複数出現させて退治するのも効率的だ。ただし余り多く出現させてもリスクが上がってしまうので、最大で4体を目安にすると良いだろう。
「それと……バナナイーターはあくまで一般人からグラビティ・チェインを奪う為に行動しています。出現した直後に攻撃を仕掛けると、戦闘を避けてそのまま撤退してしまうと思われます」
 これを防ぐには、出現後しばらくの間はバナナイーターに魅了された一般人男性のフリをする必要がある。
「そうですね、時間としては3分が目安です。ケルベロスにバナナイーターの魅了は効きませんし、彼女(?)達も魅了したと判断した相手に物理的攻撃を仕掛けてくる事もありません」
 とは言えバナナイーターの誘惑と責めを耐えつつ、魅了された様に装う事も必要。色々なものが試されそうだ。
 3分耐えた後はいよいよ戦闘と言う事になるが、バナナイーターは基本的に、樹木に実った果実を投げつけて攻撃する。食べて体力を回復すると言った戦闘方法を採る。
「その他に……抱きついて、相手の顔を胸に押しつけさせると言った……変則的な近接攻撃もあるみたいです」
 どうも物理的なダメージよりも、違う部分を攻めてくるような敵であるらしい。必ずしも強力な戦力を有した敵ではないが、油断は禁物だ。
 ケルベロスが戦う際、バナナイーターが一般人を優先的に攻撃する危険性は無い。戦場の足場や広さも申し分無いので、そちらへの配慮も必要無いだろう。
「色仕掛けによって罪の無い男性を殺める様な、卑劣で卑猥な攻性植物を見過ごすことは出来ません。何としても、討伐して下さい」


参加者
久遠・翔(銀の輪舞・e00222)
ミシェル・マールブランシュ(肉親殺し・e00865)
分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)
天野・司(陽炎・e11511)
除・神月(猛拳・e16846)
マロン・ビネガー(六花流転・e17169)
佐久田・煉三(直情径行・e26915)
豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)

■リプレイ


『爆殖核爆砕戦』終結から数ヶ月、大阪城の攻性植物が鳴りを潜めた事もあって、人々は次第に日常生活の範囲を拡大しつつあった。
 恐るべき攻性植物、バナナイーターが出現し始めたのは、そんなタイミングの事である。
「教育上もよろしくない敵ですからね。なんとしても駆逐せねば」
 妻子持ちのミシェル・マールブランシュ(肉親殺し・e00865)は、保護者や親としての理性的目線からそんな感想。
 事実、今回の予知で犠牲者となったのは前途ある若者。貞操だけならまだしも(?)、結局命まで奪われるとあっては見過ごせよう筈も無い。
「今回は無事で済めばいいんっすけど……」
 と、不安げに呟くのは久遠・翔(銀の輪舞・e00222)。
 彼は先月にもバナナイーター討伐に参加していたが、その際の激戦においてもかなりの流血を強いられていたからである。
「つい先日も討伐したばかりだってのにしょうがないな~」
 と、やや連戦気味なのは、謎の棒読み口調で言う分福・楽雲(笑うポンポコリン・e08036)も同様か。
 彼もまたその戦いにおいて、何かしらの後悔を背負ったのかも知れない。
 いずれにしても、自らの犠牲を顧みず、一般人を守らんと卑劣な敵との戦いに身を投じるケルベロスの心意気や良し。
 まさかバナナイーターのおっぱい目当てと言う、よこしまな想いで本作戦に参加している者など、居よう筈も無い!
「まったくだ。罪の無い男達を死なせる訳にはいかねぇからな」
 心なしか、こちらも余り感情のこもってない口調で応える天野・司(陽炎・e11511)。
 いや、きっと気のせいだろう。例えその両手が、何かを揉む気満々のいわゆるモミモミポーズになっていたとしても。
「上限と言われた4人分囮に志願するとは、大したもんだゼ」
 賞賛の意味合いか、はたまた呆れか、或いは両方かも知れない。軽く肩を竦める除・神月(猛拳・e16846)。
 彼女を初めとする女性陣は、男性陣が敵を騙す間、待機班となる。
「む、危険な香りのバナナさんですね?」
 今回最年少のマロン・ビネガー(六花流転・e17169)は、バナナイーターがどの様に男性を魅了し、どの様に捕食してしまうのか等、細部についての知識は持っていない。
 情報化社会に生きる今時の少女には珍しい、純真無垢さの持ち主である。
「実っている果実はただの武器か。もしグラビティ・チェインがあの果実に凝縮されているんだとしたら……」
 他方、正義感やよこしまな動機とは別に、攻性植物の生態に対する好奇心を強く持っているのが佐久田・煉三(直情径行・e26915)。
 事前に得られている情報の中から、バナナイーターが一体化した樹木に実ると言う多様な果実に着目している様子。
「やれやれ、バナナだと思ったらメロンのおまけ付きかい? 個人的には赤肉メロンの方が好みだけどね」
 軽い調子で言うのは、豊田・姶玖亜(ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077)。
 女性でありながら女性の胸に並々ならぬ興味を示す者も多い昨今、そう言う意味では彼女は至ってストレート。バナナイーターの色香よりも、果実の方に興味が行っている点は煉三と同様だろうか。
「じゃあ始めるカ……あたしは例の学生を帰らせてから合流するヨ」
 神月の言葉に頷いた一行は、妖艶なる食人植物が棲むと言う雑木林の中へ、足を踏み入れるのだった。


「吉宗が享保の改革で作成した法典は……公事方御定書。下巻は御定書百箇条……」
「……あはぁん」
「ん?」
 その日の授業で学んだ内容を復習しながら、夜道を歩く青年。その耳に、微かに聞こえ来る女の悩ましげな声。
 数秒間立ち止まって考えた後、彼は声のした方へ足を向けようとするが……。
「お前、そこから先は立ち入り禁止だゼ」
「えっ、あの?」
「ケルベロスのお仕事サ。勉強熱心なのも構わねーけどヨ、たまには遊んどかねーと悪い遊びにハマっちまうゼ?」
「ふぇっ? は、はひっ」
 戸惑う青年に身体を寄せると、意味深に耳元で囁く神月。
 顔を赤くした男子学生は、そのまま逃げる様にその場を去って行った。
「さてと、問題はこっちの男子だナ……」

「ねぇ、触ってもイイのよ?」
「くっ……これは真面目くんにゃ刺激が強すぎるな」
 視界いっぱいに広がるなだらかな曲線。これ見よがしに揺れる二つの丘。楽雲は左右に被りを振って、消えそうになる理性を呼び戻す。
 雑木林に踏み入った男子達は、妖艶な植物達による理性への攻撃を必死で耐えていた。
「だめだ、いけない、スノーエルに何て言えばいいんだ」
「その子とワタシ、どっちが良いか……確かめてみなきゃ解らないでしょう?」
 愛する妻の笑顔を思い浮べ、誘惑に抗うミシェル。バナナイーターは、妻子持ちだろうと容赦なく誘惑してしまう恐ろしい植物なのだ。
「そうだ、俺は悪くない! 女体がこんなにも、柔らかくて暖かくて心地良いのが悪いんだ! 理性に対する暴力だこんなもん!」
「あぁん♪ そう……アナタは悪く無い。もっと自分に素直になって良いのよぉ?」
「柔らかさやっべぇ! こんな構造に進化した人体ってマジ偉大だわ、スケベ遺伝子は大事な事をわかってやがる……!」
 中には誘惑に抗うステップを飛ばし、欲望に身を委ねる者も居た。司は豊満な胸に両手を這わせ、これでもかと揉みし抱く。
 緑色の肌や樹木と一体化した身体は一見すると硬質な印象を与えたが、いざ触れて見ると柔らかく、それでいて適度な弾力が彼らの指を大いに楽しませる。
「いやでも少しくらい……? うん、そうだ、普段頑張っているのだからたまにはハメを外したって」
「そうよ、奥さんだってアナタが愉しい気持ちになってくれたら、喜ぶに決まってるわぁ」
「あぁ、でもどうせなら胸はもう少し小ぶりな方が好きだった」
 掌に収まり切らない乳房の質量を感じつつ、ぽつりと呟くミシェル。
 贅沢な事を言うなと思うだろうか? 否、理想のおっぱいに対する飽くなき追求こそ、人類に与えられたフロンティア精神そのものなのだ。
「ん、俺にあんたのイイ場所を教えてくれ」
「あぁん、良いわぁ……そこ、っ……とっても上手」
 巨乳サキュバスから様々な手管を教え込まれたと言う煉三は、バナナイーターの女体を楽しむのではなく、逆に相手を愉しませようと言う試み。
 首筋に舌を這わせ、鎖骨のラインを指先でなぞる。吐息混じりの声を上げる相手に、そのまま軽く歯を立てる。
「かはっ……」
 噴き出す血を抑え、あわててティッシュを鼻に詰め込む翔。
 鼻血の止血方法としては、出来るだけ柔らかい脱脂綿が望ましい所だが、今はそんな事を言っている場合ではない。
「おーおー、始まってるナ……あ、やベ。なんか見てるだけでもクるもんあるナ」
「あぁ、年頃のお嬢さんには少し刺激が強いね」
 青年を見送って合流する神月の言葉に、片手で目を塞いでその合間から覗きつつの姶玖亜が応える。
「あのバナナさんは文字通り肉食系のイーターさんですが、男の人ってやっぱり大きな胸の女の人が好きなんです……?」
 もう片方の手は青少年の保護と育成に鑑みマロンの目を塞いでいるが、こちらも隙間から見えてしまっている可能性が高い。
「ほら、もっと欲望を解放して……熱く滾らせて……?」
「尻の感触も最高だ! やっべぇ女体マジやっべぇ!」
「ほらぁ、奥さんはこんな事シテくれるの……?」
「ううっ……いけない、これ以上は……」
「ここがイイんだな?」
「あぁ、そうっ……そこ、もっとぉっ」
「あぁすごい、もうこんなに……ラクにして、上げましょうか?」
「そ、そこはダメだっ……そんな風にしたら、ぁっ」
「こいつは驚いた。最近のホットドッグは、パンじゃなくてメロンで挟むのかい?」
「バナナさんが、バナナで共食いするですー!?」
「あの……そろそろ時間」
 暫く音声だけでお伝えせざるを得ない状況だったが、ストップウォッチを示して囁く翔。
「ん、あぁ……あいつらスゲェ楽しんでるっぽいシ、暫くあのままで良いんじゃねーかって気がしてきてんだけド」
「確かに、演技だとしても迫真だね」
「邪魔して怒られたりしないです?」
「いやいや! このままじゃ戦う前に皆の腰が抜けちゃうっす!」
 若干消極的な反応を見せる女性陣だが、翔は同胞を救わんと草むらから飛び出す。
「そこまでっすよ! って、うわっ?!」
 しかし、勢いよく飛び出した彼の眼前に飛び込んできたのは、都合8つものたわわに実った果実。魅惑的に揺れて彼の目を釘付けにする。
 勢いよく噴き出す鼻血。大量の失血によろめいた翔は、足下の石に躓きバランスを崩す。
 むにゅっ。と、転び掛けた彼が掴んだのは柔らかく弾力のある果実。転げる者は胸をも掴むと言うラッキースケベの法則だ。
「あぁん、もう1人居たのね?」
「ぐはっ!?」
 自分が鷲掴みにし、顔を埋めているものの正体に気づき、再び鼻血を噴き出して吹き飛ぶ翔。戦いが始まる前から瀕死である。
「やれやれ、フルーツにおいしく食べられるのも勘弁願いたいし、始めるとしようか」
 言いつつ腰を上げる姶玖亜に続き、女性陣も一斉にステージへ。


「この空の下で生きる命のため……ボクらは、負けられない。さあ、一仕事といこうか!」
 夜空に打ち上がるのは、七色の軌跡を描く弾丸。
「ようやく、時間の様ですね」
「……何?」
 姶玖亜の放つ再起の号砲を合図に、スルリとバナナイーターの傍を離れるミシェル。
「参りましょう、カエサル」
「きゃあっ?!」
 そのまま爆破スイッチのボタンを押せば、地面から次々と巻き起こる爆煙。シャーマンズゴーストのカエサルは、祈りを捧げる事によって仲間の立ち直りを加速させる。
「ぐへぇえ! なに人の逢瀬邪魔して……え、3分もう経っちまったの!?」
 戦端が切られた事に気付いた司。急ぎ愛用のドラゴニックハンマー「殲刻」を砲撃形態に変化させる。
「まったく、3分がこんなに短かったとはな!」
 同意しつつ、叶うことなら3日でも3ヶ月でもあのままで良かったのにと呟く楽雲。
「私達を騙してたのね……悪い人達」
「お仕置きが必要ね」
 触手状の蔦を伸ばし、先ほどまでの抱擁ではなく拘束で此方を捕えんとするバナナイーター。
「捕まえたわぁ」
「っと……!」
 それは素早く楽雲の左腕に絡みつき、再び胸元へ彼を引き寄せる。
「今度のタッチは、ちょっとキくぜ」
 が、引き寄せられたのを幸いとばかりに、再びバナナイーターの胸にむにゅりと触れる。
「あらぁ、やっぱりワタシの身体ぐあううぅっ!?」
 勝ち誇った笑みを浮かべた艶女の言葉が、苦痛の声で途切れる。螺旋の力が彼女の内部よりその身体を破壊したのだ。
「女体に罪は無いが、喰らえ!」
「ギャアァァッ!」
 続けざまに放たれた司の竜砲弾が、苦悶の表情を浮かべるバナナイーターに直撃。
「俺だって、やってやるっす!」
 愛用の鉄塊剣「血染めの刃ー斬馬刀ー」を地獄形態へ変化させ、気合を入れ直す翔。いつまでも鼻血を出してフラついている訳には居られないのだ。
「あぁん、すごくおっきいのね……それでわたしをどうするつもりなのぉ?」
 両腕で胸を挟み込み、尚更サイズを強調するバナナイーター。
「がはっ」
 再び、いやみたび鼻血を噴き出し、その場に膝を突く翔。事前に輸血でもしておいた方が良かったのではないかと思われる程の出血量だ。
「おいおい、あんまり純粋な男子を虐めるなヨ?」
「っ?!」
 跳躍し、ルーンアックスを最上段に構えた神月。落下の勢いもそのままに、バナナイーターの脳天へと振り下ろす。
「弱肉強食は世の習い、なら食べられる前に食べ……退治ですっ。特に胸を退治なのです」
 マロンの手に握られたアルジャーノンロッドから、無数に放たれるのは魔力の矢。
 彼女なりにバナナイーターの生態を考えた結果、これ見よがしに男を誘う胸に対して敵愾心が沸き起こったのは、生物的に正しい反応なのかも知れない。
「グ、アアァァッ!」
「くっ……ねぇ、アナタ……さっきのとっても良かったわぁ。だから、もう一度キて?」
 次々に屠られてゆく仲間に焦りの色を浮かべつつ、煉三を手招きするバナナイーター。
「……」
 その招きに応じるように、ゆっくり近づいて行く煉三。艶やかな緑色をした唇が、してやったりとばかりに薄く歪む。
「ガッ――!?」
 仕掛け杖『道摩煉獄』の刃が展開されるが早いか、女の胸の谷間へ深々と突立てられる。
 心を形成する地獄を、戦いに集中している彼にとって、目の前の相手は標的でしかないのだ。
「聞いた話だと、南の方ではバナナを焼いて食べるらしい。キミも焼いたら、おいしくなるかもしれないね」
 姶玖亜の召喚した御業が放つのは、燃えさかる業炎。瞬く間にバナナイーターと、彼女が同化している樹木をも炎に包み込む。
「グウウゥッ!? まだ……わたしはこの程度の責めじゃ、満足しないわ……ぁ」
 身を焼かれながらも、樹に成る果実を囓って体力を回復し、ファイティングポーズを見せるバナナイーター。
「眼が霞んで、足が言う事を聞かないっす……でも、この一撃に賭けるっす!」
 1人だけ、少年漫画の強敵と戦った主人公の様に瀕死になっている翔。しかし最後の力を振り絞る様にして、斬馬刀をぶん回す。
「砕け、全てを!」
「グアァァッ!!」
 竹の如く、真っ二つに割れた木とバナナイーターは、燃えさかる炎に飲まれ、やがて跡形も無くなった。


「なんだか、甘くて良い匂いがするのです」
 キープアウトテープの回収と共に、バナナイーターが残した果実を袋に詰めるマロン。
「焼いたバナナは、身体にも良いらしいね。これも食べられそうだけれど」
 黒く焼けたバナナを拾い上げ、手渡す姶玖亜。
「栽培してデウスエクスとの交渉材料に出来ないものか……」
 一方の煉三も、焼けたリンゴを拾い上げて回収する。
「おいおい、大丈夫カ? 凄い量だった気がするゾ」
「だ、大丈夫っす。造血薬も持って来てるっす」
 神月の手を取って立ち上がりながら、丸薬を口に放り込む翔。それもまた名誉の負傷と言ったところか。
 戦闘と言うよりも、興奮による流血ではあったが。
「いやぁ、今回も厳しい戦いだった……まぁでも、身体を張ってみんなを守る。それがヒーローとして最高の悦びだと思いませんか?」
 一方こちらは、艶やかに良い笑顔で言う楽雲。
「おっぱい……お前の感触、俺は忘れないぜ」
 雑木林から微かに覗く星空を見上げ、遠い目で悼む司。
「では皆様、そろそろ戻る事に致しましょうか」
 ぽんぽんと服をはたいて、皆へ呼びかけるミシェル。彼は紳士然とした普段通りの振る舞いに戻って居る。

 身を挺した囮役を務めて何かを得た者、何かを失った者、様々あろうが……とにもかくにも、雑木林のバナナイーターは討伐され、罪なき人々の命は守られたのだった。

作者:小茄 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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