正義のケルベロス忍軍~TOKIOサバイバー

作者:銀條彦

●一石
 深夜二時とあるビジネス街、その上空。
 一点の曇りなく几帳面に磨きぬかれた革靴が灯りの消えたネオン看板を蹴りつける。
 ありふれた会社員としか言い表しようのないスーツにネクタイ姿の男が、信じられぬ脚力を発揮して人気の途絶えたビルからビルを次々に跳び渡っているのだ。
「くそ……っ!」
 そしてその動きに平然と追い縋る4つの影。
 通り過ぎた背後からは先に足場とした巨大な看板が派手に砕け散る音が響く。よく見ればサラリーマンの男は既に傷だらけであった。
 男は……『羅泉』の超エリート社員は探索中に別働した折り不運にも『螺心衆』の下忍達に発見され抵抗むなしく討たれようとしていた。
「――無駄だ」
 4つの手から同時に放たれた螺旋手裏剣が男を仕留めると、無人の路地裏にぽとりと1個のコギトエルゴスムが転がり落ちる――。

 住民を巻き込まぬ程度の規模に収束した忍軍と忍軍のこの戦いは、だが、偶然そうなったに過ぎない。
 たまたま人の無い時と場所で勃発し早々に決着がついた、ただそれだけの幸運の賜物だ。
「あちきの思った通りっす。忍軍同士の戦いは激化の一途っす」
 宝石化した敵を回収した後すみやかに撤収する『螺心衆』の後姿を遥か遠景に。
「東京23区の平和を守るには、やっぱり、アレが必要っすよね!」
 鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)もまた一つの秘策を胸に、夜闇へと消えるのであった。

●ならば、ニンニンでいこう!
「鯖寅・五六七さんの調査によれば東京23区の螺旋忍軍同士の抗争はますます激化の一途を辿っているみたいっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)によればおそらくはいまだ螺旋帝の血族とやらの確保に成功した陣営が出ていない事。そしてなにより、ケルベロスによって撃破された忍軍達の被害もすべて他陣営からの攻撃によるものと互いに誤解し合っている事もその一因となっているらしい。
「もう完全に疑心暗鬼でやられる前に殺れって、捜索それ自体より敵対忍軍の討伐が主目的になってるところばかり。総白影衆化っす」
 このまま静観し戦いを続けさせれば同士討ちで東京中の螺旋忍軍が潰しあう……よりも前におそらく東京の方が保たない。
 人命被害の予知が出るたびケルベロスが出動する対処療法だけではキリが無い。
「そこで五六七さんからこの状況を打開する為、『正義のケルベロス忍軍を結成すべし』という提案があったんっす」

 つまり、広大な東京のどこでいつ起こるか解らぬ一般人への巻き添えをその都度はね除け守りに徹するのではなく……いっそこの螺旋忍軍大戦に参戦して積極的に討って出、螺旋帝の血族を確保してしまえばよいという大胆な策である。
「現在、都内での活動が確認された九つの忍軍はそれぞれ他の全ての忍軍を敵として総力戦を行っているっす。つまり何処も本拠地を手薄にしてるはずで、この好機を活かせば忍軍達に大打撃を与えて、さらに螺旋帝の血族発見の手がかりも得られるかもしれないっす!」
 既にヘリオンの重力子演算から各勢力の東京都心においての本拠地の所在や指揮官クラスの有力敵、おおまかな現況等についてはすべて割り出し終えているという。
「詳細は資料に纏めておいたのでそっちを参考にして欲しいっす」
 今回の襲撃作戦だけで全ての組織を壊滅させることは難しいだろうが、どの勢力を優先して潰すか、あるいは、どれだけ痛手を負わせておくかが今後を左右する重要な選択となるのは間違いないだろう。
 一方で『螺旋帝』に関する情報はいまだ皆無のままだ。だが螺旋忍軍達がこぞって派手に戦力を投入し、殺し合ってでも奪う価値有りと考える存在である以上、早急に発見し適切に対処すべきである。

「それと最後にもう一つだけ。特に問題が無ければ皆さんには襲撃時に『正義のケルベロス忍軍』を名乗って欲しいんっす!」
 その名を前面に出すことでケルベロス単独ではなく自分達以外の8勢力のいずれか、あるいはいまだ姿を現さぬ新たな螺旋忍軍の一派がケルベロスと協定を結んだのではないか――と勝手に考えてくれれば今後の螺旋忍軍間の抗争に対して大きな牽制となるかもしれない。
「……あ、『正義の』は要らないんじゃないかって考えてないっすか? ないっすよね?? いいっすか皆さん、旗印は『正義のケルベロス忍軍』っす。よろしくお願いするっす!」


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
立花・恵(カゼの如く・e01060)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)
ネフィリム・メーアヒェン(機械人間は伝奇梟の夢を見るか・e14343)
ユーシス・ボールドウィン(ウェアライダーの鹵獲術士・e32288)

■リプレイ


 空低く翔けた野鳥が、突如、宙で肉片と化して墜ちていった。
 庭園内を警備する黒螺旋下忍のいずれかが放ったグラビティの為せる業だろう。
(「見つかりそうになったらこう、ゴロゴロって、動物のふりして誤魔化せたらとも考えたけれど……やっぱり通用しそうにないみたいですね……」)
 東京の高級住宅街という状況下においても通りすがりの雄ライオンで押し通せるだろうかと検討できるあたり本人が思うほど結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は小心でも無いのかもしれない。むしろ大物感すらある。
「まったく、内乱なら自分の星でやってほしいもんだぜ……。とにかく東京を好き勝手にはさせられないな。しっかりとっちめてやろうぜ!」
「ふふっ、正義のケルベロス忍軍を名乗れる事を誇りに思うよ。人々の平穏を守る為にも、ケルベロスの正義を此処に示す為にも、ボクも最善を尽くす事としよう」
 立花・恵(カゼの如く・e01060)の真っ直ぐな義憤に陶然と耳を傾け全力で頷きながら、ネフィリム・メーアヒェン(機械人間は伝奇梟の夢を見るか・e14343)も熱く語る。同じ熱さでも恵の熱血とはまた随分と性質の異なるものではあったが。
 完全制圧可能と演算された戦力を下回る1チーム突入となっても、尚、決して黒螺旋攻めを諦めなかったケルベロス一行が選択したのは潜入作戦。
 推奨された、庭を警備する下忍集団を引きつけ撃破する別働チームとの連携抜きで強行されるミッションをそれでも懸命にやり遂げるべく消音等装備にまで気を配って臨む者も少なくは無い。
「ヒャッハーニンジャスレイヤーっスよーアメコミヒーローテンション上げ上げっス!! 前からニンジャに憧れてたんスよね。女のニンジャはくノ一っスよね!」
 美少女くノ一スタン見参! っス!! ……とヘリオン内では最初っからフルスロットルだったコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)も、今はすっかりと私語厳禁。仲間と共に物陰に潜み豪邸を囲む外塀の様子を注意深く窺っていた。
「僕らだけでミカドを倒すのは難しいだろう。だからまずは豪邸に潜入しての情報収集、叶うなら威力偵察も視野において動くとしよう」
 コンスタンツァはここに来るまでに彼女の恋人ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)が改めて挙げてくれた目標を脳内で反芻する。
(「一緒で心強いっス、背中は預けたっスよダーリン」)
(「腕前は確かなんだけどスタンは無理無茶や強がりをしがちだから……」)
 キラキラとした翠眼を相棒へと向けるガンスリンガー少女と、柔和な微笑みを返しながら彼女を気遣うガンスリンガー青年はある種バランスの取れたナイスカップルなのだろう。
 そんな若者達の織りなす純情可憐忍者活劇(BYコンスタンツァ)な光景に一瞬だけユーシス・ボールドウィン(ウェアライダーの鹵獲術士・e32288)が和みを得ながらもその狐面の表情は険しい。
 ざっと見回ってみた限り庭を通らずに目指す『忍者屋敷』に近付く手段は皆無だった。もっともそんな手段やルートが存在すれば事前にヘリオライダーが告げてくれただろうからそれはまあ最初から予想の範囲内。
(「問題は、本職の忍者さん相手に庭を突破する具体的な方策なのよね……」)
(「――【黒笛】の事じゃ、万一に備えた罠や監視は怠っておらぬはず」)
 出立前とは全く雰囲気を異にする金髪赤目のいでたちの姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089)は、おそらくは今作戦ではまともに対峙する機会は無い、もしもあればそれは危急時と認識する敵指揮官……あるいは楓ならぬ『カエデ』にとって宿敵の一人たる男の狡猾さを思い返しその思考を推し量らんとした。
 ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)が裏手で見つけた勝手口は塀から豪邸への最短距離ではあったが全く庭を通らないと言う訳にはいかず、何よりその近辺は庭園として飾る必要が無い為か庭木等の遮蔽となる物陰がほぼ見当たらなかったのだ。
 カエデ曰く、策士型で自分から前へは出ない性質だというミカドは、堀の代わりに庭園を廻らせ、其処へ、水の代わりに下忍を巡らせる事で本丸たる豪邸の防備を固めていた。その狙いに添う造りの豪邸をはなから狙って制圧したのだろう。
 ケルベロス一行は潜入時に使用するハンドサインの確認を手早く済ませた後、【黒笛】のミカドが制圧中だという豪邸近くにまで到り其処で、立ち往生を余儀なくされていた。

 結局、他に突破口となりそうなルートは見当たらず、勝手口迄のひらけた空間を最短踏破する強攻策が採られる。
 まず隠密気流や螺旋隠れの使い手達が下忍の眼や監視カメラ等を避けつつその位置を確認しながら駆け抜け、そういった手段を持たない味方を可能な限り安全に誘導する。
(「どんな微細な変化でも見逃さず注意喚起し合いましょう」)
 ローザマリアの再確認はハンドサイン頼みだったが大体の意味する所は全員に通じた。
 かなりの出たとこ勝負、運任せに近い作戦となってしまうが、根本的な方針転換でも決断せぬかぎり今の一行が択べる策はそう多くは無い。
(「敵の本拠地への潜入ミッション。き、緊張しますね……。人数的に大きな攻撃は出来ませんが、それでも情報を手に入れられれば今後優位に立てます頑張りましょう。 ……こ、恐いですけど!」)
 中型犬ほどの大きさへと縮まったレオナルドは先行する仲間達のともすれば見失いそうになりがちな後姿を懸命な集中力をもって目で追いながら、喪った心臓の代わりに高鳴るように燃え盛る『地獄』を必死に抑え、コンスタンツァと共に塀を乗り越えて駆け出した。


 ――その時、庭園内へと響き渡ったのは呼子笛の音。
 まずひときわ音高く長い一吹きの後、続けて短く二つ。侵入者発見とその数を伝える合図だと殺伐とした生まれのなか育まれた勘で察したコンスタンツァは即座に音する方角にあるやや遠い庭木の枝にすぐさま黒い頭巾装束の人影を発見した。
「なんて正統派クラシカルスタイル! やっぱニンジャフジヤマテンプラゲイシャは日本の華っスよね!」
 両掌に収まる爆破スイッチがONされると同時、不可視の爆弾が次々に樹上へとセットされて黒装束の下忍を連続爆破の爆炎が飲み込んだ。
「闇に隠れて悪を斬る。正義のケルベロス忍軍、ここに見参だ!」
 もはや戦闘は避けようもないと意を決して変身を解除したレオナルドの口上。
 忍者っぽく逆手に構えた惨殺ナイフから惨劇の鏡像を繰り出してコンスタンツァの攻撃へと重ねた。呼子笛を螺旋手裏剣へと持ち替えて下忍も応戦するが既に傷深い。このまま残る全員が隠密状態を解いて彼と彼の呼び寄せた下忍をチーム一丸で瞬殺した後に勝手口から飛び込めば豪邸内への到達は果たせるかもしれない。
 だが痕跡隠しの時間を割けぬ以上それでは潜入とはならない。庭の下忍と邸内戦力から挟撃を受け資料や情報を得る前に早期撤退を迫られては意味が無い。
 一方で――押し寄せる敵はまだ侵入者数は2とだけしか把握できていない可能性が高い。そしてその2名がたまたま、陽動役としてうってつけすぎる単ヒール使いのディフェンダーとドレイン使いクラッシャーの実力者なのである。
(「……こ、このまま自分達だけが残って戦えば……皆を邸内潜入へ、送り込める?」)
 レオナルドはふと新たな潜入策を閃き、震えた。当初目指した庭警備撃破と豪邸潜入の形が今擬似的に出来つつあるのではないのかと隠密気流を維持したまま勝手口を目指していたケルベロスの何人かもその選択肢に思い至る――だが。
「そう、俺達は正義のケルベロス忍軍っ! あんたらの企み潰しに来たぜ!」
 仲間を捨て石とするも同然の策などよしとしない恵が足と気流を止めて、愛銃を握る。
「チーム一丸での行動を心がけないと結局は敵地の只中でジリ貧だろうしね……いっちょやってやりますか!」
 滑らかなガンスピンの動作から古びた愛銃を構えたファルケも続いて気流を解いた。2人の拳銃使いが相次いでグラビティを撃ち込めばそれで下忍ひとり仕留めるには充分だった。
「嗚呼それでこそケルベロス! 正義のケルベロス忍軍という物語が今ここに紡がれようとしているのだね!」
 西部劇のアメリカンシェリフもかくやという勇姿と決断を目の当たりにする事が出来た自称『語り部』のレプリカントは喜びこそすれ異議などあろう筈もない。
 先の合図を受けて続々と現れ始めた警備の下忍達を向こうに廻し、ケルベロス達は皆躊躇なく総力あげての迎撃の布陣を取るのだった。

「ウフフ、改めて名乗らせていただくとしようかしら――我ら正義のケルベロス忍軍!」
 おばちゃんのガラではないと内心ではやや照れながらも、颯爽と大見得切ったユーシスが艶めかしいくの一ポーズと共に解き放った『ドラゴニックスパーク』はさしずめ雷遁の術といった処だろうか。
「ケルベロスの、忍軍……だと?」
 どういう事だと一部に動揺走る下忍達のいずれもが黒頭巾に黒装束。東京中に派遣された黒螺旋の下っぱはいずれも平安の陰陽師を思わせる扮装や言動だったと伝え聞いたがそういった者はここまで一兵たりと庭には見当たらなかった。
「あるいは子飼いの部下共は【黒笛】近辺に侍り身辺警護へあたっているのかもしれんの」
 そう呟きつつカエデは己の内なる枷に触れ、グラビティの発動と共に持てる力の一端を覚醒させてゆく。途中彼女の耳にだけ届く『……皆を助けてあげて……』という弱々しい声が聞こえたような気もしたが金髪の異形はただ不敵に微笑むばかり。

 多勢を恃みに一気に侵入者を押し包まんとする下忍達の攻勢をまず切り崩したのは大太刀『稻羽白兎』の剣閃――桜花舞うレオナルドの一薙ぎ。
「こいつで、蹴散らす!」
 唯その一吼えのみで彼と共に在るオウガメタルには通じる。黒太陽の輝きがジャマーたる恵から照射されれば黒き下忍の群れは一気にその機動を奪われる事となる。
「この戦力では無理は禁物ね……」
 また、後方列からケルベロスを狙い定めようとしていた敵に対してはすかさずユーシスの歌声が絡みつき武器揮うその心を揺らがせた。そして、真黒き剣ノ型を択んで振るうカエデから発せられた魔気を重ねて浴びせられればその侵蝕は急速に深化する。
「――地獄の番犬の名に誓い、全ての不義に鉄槌を!」
 旧き詠唱の最後にそんな決め台詞を添えたローザマリアの掌からは魔法の光線が放たれ、既に傷深く回避も大きく制限されていたその下忍は石化を待たずその場へと崩れ落ちた。
「ローザマリア嬢までも! ああっ、まったく皆なんて素晴らしいっ!」
 まるで子どもの様にはしゃぎながら蜂蜜色の髪の青年が恭しく掲げた聖なる果実からは黄金の癒光が振り撒かれ、英雄達の歩みを妨げる不浄を打ち祓う。
 息つく間も与えぬとばかり、直後、ケルベロスへと襲い掛かった氷結の螺旋や急所を狙う月光の斬撃を見越しての治癒と付与はネフィリムの『観察』が、ケルベロスのみならず彼ら主役に対しての敵役たるデウスエクスにも等しく注がれているが故。
「あの銃使いの女を仕留めろ!」
 その怒鳴り声へ敏感に反応したファルケだったがそういえば今日のスタンは美少女くの一モードとやらでリボリバー銃ではなかった。まさかと振り向いた先ではいたくご立腹の様子の恵がT&W-M5キャットウォークにグラビティ・チェインを籠めての早撃ちで発言者とおぼしき下忍にトドメの銃弾を撃ち込み終えていた。
 唯一の中衛役として攻防両面で目覚ましい働きを続ける『彼』からまず止めるという狙い自体は良かったが……口は災いの元である。
 ディフェンダーとして恵への攻撃の一部を自ら引き受けつつ、背後へと廻り込もうとする下忍の懐にまで愛銃を握ったまま肉薄したファルケ。
 打撃武器の如く敵を殴打した銃床の速さは音速を超え、敵の守りすら突き破った。
(「完全に退路を断たれる事だけは避けないと……」)
 常に逃走経路の確認と保持に意識リソースを割き続けながら戦場を駆け回るファルケの戦闘――それを可能とするのは背中を預けられる相棒の存在あればこそ。
 踊るは金髪のツインテール、BANGとガンフィンガーのポーズに掲げられた一本指。
「お色気の術で悪いニンジャをめろめろにしちゃうっス! ゴー・トゥー・ヘヴン!」
 今日だけはテキサス・トルネード改め、テキサス忍法。派手に吹き飛ばされた下忍は暴れ牡牛の大群に呑まれる幻覚の中で息絶えた。
「……ど、どっスかファルケときめいたっスか!? ぐっときたっスか!?」
 恋人の前でウインク一発ばちこんとキメたコンスタンツァ。そりゃもう君にドキドキだよとファルケは微笑むのだった。


 もはや潜入作戦の実行は望めぬ中、味方の脱落はゼロだが多少の下忍戦力を削った以外の成果もいまだゼロという奮戦続く庭園内。
「あな不甲斐無や下忍奴輩めが」
「よもや番犬の任一つ満足にこなせぬとは……」
 豪邸内から紫衣の陰陽師風の男達の一団と新たな黒頭巾部隊が増援として到着した事で、戦況は一変する。
「名残り惜しいけどここが潮時かな」
 撤退判断を託されていたネフィリムがおどけた仕草で迅速な決断を下す。
 各人間で多少の差異はあれども跳ね返せぬ戦力差となる敵増援出現は多くの者が戦闘不能者数と共に撤退条件にあげた事項である。
 ローザマリアが真っ先に『因果』『応報』の二刀を構え外塀の方角に立ち塞がる敵下忍の列へと斬り込むが仲間とのタイミングが合わず、また露払いにと択んだ剣技も得手不得手の極端な彼女にとってスナイパーのポジションから放ってなお精度の安定せぬもの。
 俄かに突出し集中砲火の危機となるが自身の実力とディフェンダー陣の援護が功を奏し、致命傷には至らず。幸い邸内防衛部隊の筈の増援も符術が加わった以外は今までの下忍達と大差ない者ばかりだった。
「……なのにあんなに偉そうにしてるんですね」
 その点レオナルドには不思議だったが今は考えている余裕は無い。後方で指図する陰陽師達を死天剣戟陣で脅かせば敵陣は乱れを見せ始める。
 今だとの号令を合図にケルベロス達は広大な庭園内を一点突破、後は外塀を越えるのみとなった所で再び下忍の一部が追い縋る。
 阻むとあらば蹴散らしてくれようぞと不遜に言い放ったカエデがゆらり塀上に立ち、雷気纏う黒穿螺旋を超音速の刺突で追っ手を食い止める間に一行は邸外への脱出を果たす。

 それ以上の追撃は行われずケルベロスは全員帰還を果たした――だが無事とはいかず結果として殿役となったカエデは深手を負い今はネフィリムの背の上だ。
「……私達を……『人』を、惜しいと想ってくれて……ありがとう」
 かえで、と、他ならぬ楓の口から漏れた小さな独り言を青年が『記録』したか否かは知る由も無い。

作者:銀條彦 重傷:姫宮・楓(異形抱えし裏表の少女・e14089) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月6日
難度:普通
参加:8人
結果:失敗…
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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