大阪のヤシにはご用心

作者:飛翔優

●ココナッツを戴きしもの
 晴れやかな陽射しと爽やかな風が混ざり合い、心地よい空気が世界を満たしているお昼前。大阪城近くの雑木林が見える道を、一人の男がバイクで走っていた。
 ライダースーツ代わりに羽織っている豪華なジャケットに、記されている文字は仏契! 仲間たちとの集会に向かうのだと、今日も元気に爆走していた。
「……ん?」
 道中、雑木林の隙間から自分を呼んでいるかのような女性の声が聞こえてきた。
 速度を緩め耳を澄ませば、やはり自分を呼んでいる。しかもどこか、艶めかしい。
 男は道の端のバイクを止め、口元をいやらしく歪めながら雑木林の中へと向かっていく。
 すると、ヤシの木と思しき樹の下に、葉っぱで申し訳程度にたわわに育った二つの果実と茂みがあるはずの場所を隠した見目麗しい女性が一人、とろけるような笑顔を浮かべ手招きしていた。
 招かれるまま、男は向かう。
 鼻の下をだらしなく伸ばしたまま、女性の元へ。
 ――きめ細やかな肌に目を奪われているから気づかない。女性が、ヤシの木と一体化していたことに。
 男がためらいがちにたわわに育った果実へと手を伸ばした時、女性は素早くその体を抱きしめる。
 抵抗することもなく男が身を委ねる中、女性は優しく優しく抱き続け、そして……。
 ……数十分後、下半身を露出させた男が倒れた。
 女性が唇をなめとる中、男はゆっくりと地面に埋もれていく。
 ヤシの木の……攻性植物の、新たな養分となるために……。

●バナナイーター討伐作戦
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は足を運んできたケルベロスたちと挨拶を交わしていく。
 メンバーが揃ったことを確認した上で、説明を開始した。
「爆殖核爆砕戦後、大阪城に残った攻性植物たちの調査を行っていたミルラ・コンミフォラさんたちから、新たな情報が入ってきたっす」
 調査によると、大阪城付近の雑木林などで、男性を魅了するたわわに実った果実的な攻性植物、バナナイーターが出現している様子。
「バナナイーターは十五歳以上の男性が近寄ると現れて、その果実で魅了し、絞り尽くして殺害することでグラビティ・チェインを奪い尽くしてしまうみたいっす」
 あるいは、攻性植物はこうして奪ったグラビティ・チェインを用いて新たな作戦を行うつもりなのかもしれない。
「なので、みなさんにはこの出現するバナナイーターを撃破し、誘惑されてしまう犠牲者を救ってもらいたいんっす」
 続いて……と、ダンテは地図を取り出した。
「出現場所はこの、道路近くの雑木林。一般人が攻性植物に出会う前に、先回りすることができるっすね」
 出現させるためには、そのまま一般人を誘惑させるか、一般人を避難させた上で十五歳以上の男性ケルベロスが囮となる必要があるだろう。
 また、バナナイーターは攻性植物の拠点となっている大阪城から地下茎を通じて送られているようで、囮となった人数に応じた数の攻性植物が出現するようだ。
「もっとも、出現する攻性植物は、一体目以外は戦闘力が低いみたいっす。だから、ある程度の数を出して一気に叩くことも可能となっているっすね」
 もっとも、注意点もある。
 それは、攻性植物が出現してから三分以内に攻撃をしかけてしまうと、出現した地下茎を通ってすぐに撤退してしまうということ。つまり、囮となった者は三分前後、攻性植物と戦闘せずに接触する必要があるのだ。
 幸い、その三分間の間は攻性植物側も攻撃などはせず、対象の男性を誘惑するように動く。そのため、囮が一般人であっても死んでしまうことはないだろう。
 また、先の説明とも重なるが、攻性植物はケルベロスであっても十五歳以上の男性ならば獲物として扱う様子。誘惑はケルベロスにとっては効果はないが、囮となる場合は誘惑されているような素振りを見せることも必要となるだろう。
「最後に、戦闘能力について説明するっす」
 今回、出現する攻性植物の中で戦闘力の高い一体目の存在となるのは、ヤシの木を元にした攻性植物。ヤシの木に、胸と股間を葉っぱで申し訳程度に隠しているスタイルが良く見目麗しい女性、と言う姿をしている。
 戦いにおいては妨害特化。相手を胸の間で抱きしめることで心を奪う。大事な場所をいじり精気を吸う。そして、ヤシの木の先端でココナッツを破裂させ、飛び散るココナッツジュースで複数人の加護を砕く、と言った攻撃を仕掛けてくる。
 二体目以降となる攻性植物も、力量が低い以外は一体目と似たような行動方針やグラビティを使ってくる。その辺りを考え、策を立てると良いだろう。
 以上で説明は終了と、ダンテは資料をまとめていく。
「攻性植物の目的はわからないっす。でも、今のうちになんとかしないといけないことは確かだと思うっす。だから、どうか解決してきて欲しいっすよ!」


参加者
天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
ラハブ・イルルヤンカシュ(通りすがりの問題児・e05159)
セット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)
ディスカ・コールハート(機動甲兵・e25540)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
香河・将司(魔王を宿す者・e28567)
愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)

■リプレイ

●その女はマンイーター
 涼しやかな風が吹き抜けていく五月晴れの日。大阪城近くの雑木林へといたる道の途中。豊かに育ちながらも未だ熟しきってはいない二つの果実を持つ齢十八歳ほどと思しき少女が一人、爆音を奏でるバイクを呼び止めた。
 少女は柔らかな双丘を支えるように腕を組みながら、柔らかな微笑みを浮かべていく。
「ねぇ、ちょっと乗せてくださらない?」
「……いいぜ、乗ってきな!」
「ありがとう」
 バイク乗りの男に促され、少女はバイクに跨り背中に体を密着させていく。
 相手の体が熱くなっていくのを感じながら、少女は希望の進路を指し示した。
「んじゃ、しっかり捕まってな!」
 バイクは勢い良く走り出す。
 少女の示すまま、雑木林から外れるように。
 何かしらの期待を抱いていたのだろう。男はしきりに笑みをこぼす。そのたびに、少女は膨らみを強く押し付けた。
 やがて、雑木林への道から外れて二つ目の交差点に至った時……少女は姿を変える。
 齢十にも満たない、幼い姿……エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)本来の姿に。
 違和感を覚えたか、男がバイクを停めていく。
 エルネスタは飛び降りて、ぺこりと頭を下げた。
「だましてごめんなさい。あのみち、デウスエクスがでてきけんなの」
「え、あ……そうか、なるほど……」
 盛大なため息を吐き、男は爆音を奏で遠ざかる。
 見送った後、エルネスタは仲間たちとの合流を目指し踵を返した……。

 エルネスタと合流したケルベロスたちは、即座に作戦行動を開始した。
「バナナイーターって、どうやって十五歳以上の男性を見分けてるんだろうな?」
 十八歳としての姿に変身した天満・十夜(天秤宮の野干・e00151)。六尺褌と最低限の覆いだけをした半裸の肉体を、筋骨隆々なジャッカル獣人としての姿を太陽に見せつけながら、静かな息を吐いていく。
「ま、十八歳に変身したオレ様のオトナのみりきで逆にメロメロにしてやるぜ! ……あ」
 不敵な笑みを浮かべ、キラキラと瞳を輝かせた。
「声とかもいつもと違う! カッケー!」
 そんな元気な彼を交え、四名の男性陣は雑木林近くの道を歩いて行く。
 程なくして、声が聞こえてきた。
 湿った吐息が入り交じる、四名の男性陣を招く女性の声だ。
 十夜が踵を返せば、他の三名も声の方角へと向き直る。
 腐葉土を踏みしめ進む中、ココナッツのような甘い香りを感じた時、木々が開けた場所へと到達する。
「お……」
 視線の先には、四名の女性。
 髪型や顔立ちに多少の差異はあれど、女性らしく成熟した肢体を惜しげもなく晒していた。胸や茂みを葉っぱで申し訳程度に覆っているけれど、薄っすらと形が浮かんでいる様は隠す気があるようには思えない。
 男性陣は、各々別々の女性へと歩みよる。
 亜麻色が艶やかに輝くウェーブヘアの女性と対面したディスカ・コールハート(機動甲兵・e25540)は、手を伸ばせば触れることができる距離で立ち止まり、戸惑う様子を見せていく。
 いじらしく思ったのだろう。女性は手を伸ばしてディスカの腕を引いていく。
 払いのけることはせず、けれど踏み出す勇気も持てないといった様子で瞳を揺らしながら、ディスカは常に女性たちの……背にしているヤシの木と一体化しているバナナイーターと呼ばれる攻性植物たちの動向を観察し続けた。
 彼女たちの誘惑行動に戦いのヒントが隠されているかもしれない。
 早期に一体しかいない強力な個体であるか否かを見極められれば、初動を有利にすすめる事ができるかもしれない。
 ディスカは観察と分析を続けていく。
 攻性植物は、駆除対象でしかないのだから……。

 もっとも、別の手段で誘惑されているふりをしているものたちもいる。耳を澄ませば、風や木々のざわめきに混じり蠱惑的な水音や悩ましげな吐息が聞こえてくることもあるたぐいの演技もあった。
 少しずつイケナイ光景に近づいていくさまを茂みの影に隠れて観察している女性陣。内、マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)は頬を赤らめ視線を逸しつつ、シャーマンズゴースト・アロアロの目を隠していた。
 男性陣にとって、今の状況は苦行なのか、それともご褒美なのか。
 恐らく、感想は各々違う。
 分かることがあるとするならば……。
「あの格好は……破廉恥ですね……」
 愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)はどことなく瞳に冷たい光を宿しながら、遠目に男性陣と攻性植物のやり取りを観察していた。
 既に、葉が落ちている個体もいる。
 少しずつ、内部への侵入を許している男性陣もいた。
「大丈夫でしょうか……? 誘惑されなければいいのですが……」
 心配する声音をよそに、次の段階次の段階へと進んでいく光景。
 また一体、二枚の葉が前触れもなく宙を舞い……ラハブ・イルルヤンカシュ(通りすがりの問題児・e05159)が一人、ため息一つ。
 なぜ、男はあんなのに誘惑されるのだろう。
「……胸か。あの胸部の脂肪の塊がそんなにいいのか」
 手近にある枝を握り砕かぬよう我慢しつつ、ぺたりと自分の体に触れてみた。
 様々な感情がない混ぜになった吐息が漏れる中、接触からおおよそ二分の時が経とうとしていた……。

 剥がれ落ちていく二枚の葉。
 見開かれたセット・サンダークラップ(青天に響く霹靂の竜・e14228)の瞳から、その二枚の葉は程なくしてフェードアウト。
 肌色と桃色の暴力だけが視界を支配し始めた。
「……あ」
 風の訪れと共に我に返り、慌てて手で顔を覆っていく。
 けれど指の隙間から覗いて見れば、クスクスと笑っている艶やかな黒髪少女の姿が見えた。
 固まっていくセットの視線の先、黒髪少女がゆっくりと手を伸ばしてきた。
 抗うことのできないセットの腕を掴み、優しく、ゆっくりと顔を覆う手を剥がしていく。
「……」
 視界が晴れた時、セットは生唾を飲み込んだ。
 楽しげに、少女は両腕を広げていく。
 惜しげもなくさらされていく白磁の肌を前に、セットは腕を伸ばし始めた。
 腕はガタガタと震えている。
 本能に抗うかのように唇を噛みしめる仕草も見せた。
 それすらも愛おしいのだろう。少女は柔らかな笑みを浮かべ、一枚の葉が茂みを隠すだけの格好で待ち続けていく。
 一方、香河・将司(魔王を宿す者・e28567)は既に透き通るような金髪少女と抱き合っていた。
 ――そんな恰好で誘ってくるなんて貴女も期待しているのでしょう?美女の期待には応えないといけませんね。
 言葉通り抱き合った後、キスを交わし潤んだ瞳で見つめ合った。
 強く体を押し付け合い、互いに温もりを与えあった。
 吐息が混じり合った時、将司は葉に手を伸ばす。生まれたままの姿を暴き立て、優しく時に激しく――。
 否。魔王らしく、強く、無秩序に弄んだ。
 嫌がる様子も見せず、少女は将司に身を委ね湿った声音を漏らしていく。
 果たして、先に出来上がったのはどちらだっただろう?
 いずれにせよ、確かめることはできないまま時は来る。
 三分の経過を告げる鐘が鳴り響く。
 ショートカットの少女のマウントを取っていた十夜が、素早くボクスドラゴンのアグニを呼び寄せた。
「んじゃま、戦闘開始だな!」

●バナナイータースレイヤーズ
「はいはーい、これいじょーはダメー」
 いち早く茂みの中から飛び出したエルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)が、男性陣及びバナナイーターを覆うようにしてすりガラスのように視界をぼやけさせる霧を発生させていく。
 内包されている守りの加護を受け取りながら、ディスカは装甲を纏い腰を落とした。
「ではまずは……この、亜麻色のバナナイーターを攻めましょう。このバナナイーターは強力な個体ではないはずです」
 示すため、懐へと踏み込み回し蹴り。
 バナナイーターをバナナイーターと一体化しているヤシの木型攻性植物ごと、走り寄ってきたラハブのもとへと蹴り飛ばした。
 目の前に落下してきた亜麻色のバナナイーターを見下ろしながら、ラハブは龍化しブラックスライムで形作った右腕の竜首に地獄の炎を走らせていく。
「……ん、いただきます」
 自分にはない山脈を見つめながら、狙い定めて振り下ろす。
 ヤシの木がへし折れんほどの轟音を奏でながら、その全身に熱き炎をもたらした。
 追撃のために一歩後ろへ下がる中、視界に写り込んでくるのは臨戦態勢へと変わったバナナイーターたち。観察による予測では、将司を誘惑していた金髪の個体が最も強いらしい。
 改めて金髪の個体とそれ以外を見比べてみれば、差があった。
 胸部に、ラハブと彼女たちほどではないけど、見て分かるほどの差が。
「……」
 そう言えばシスターも大きかったなと、改めて自分を見下ろしていく。
 固くなる表情。
 瞳に宿る光はは果たしてどんな意味合いか。
 何れにせよ、彼女たちを食い散らかす事に依存はない。
 セットが黒髪を回避しつつ、高速移動を開始し敵陣をかき回し始めていく。
「そらそら、全員吹っ飛ばすっすよ!」
 勢い良く体をぶつけられ、抱きつくどころではなく吹っ飛んでいくショートカットのバナナイーター。
 ギリギリのところで避けた亜麻色のバナナイーターは、跳ねるようにして将司へと飛びかかった。
「これは何とも避け辛い攻撃ですね、気を引き締めていきましょう」
 言葉にのみ名残惜しさをにじませながら、バックステップ。
 インパクトの瞬間をずらした上で、左右に視線を送っていく。
 周囲に仲間はいない。
「この力はあまり使いたくないのですが」
 自らの内に眠る力の蓋を僅かに開き、解放。
 浴びせかけられたバナナイーターたちが動きを止めた。
 すかさずラハブが踏み込んで、形作るは七つの罪。
「罪を抱えし咎人よ。強欲に色欲に怠惰に溺れ、憤怒を嫉妬を傲慢を以って、仇なす正義を暴食せよ」
 それらを象徴する悪魔たちが、バナナイーターたちに襲いかかる。
 拘束を振り払わんとしていく亜麻色のバナナイーターに、アグニが勢い任せのタックルをぶちかました。
 吹っ飛んだ先に、十夜は狙いを定めていく。
「死霊と氷塊、好きな方で逝っちまいな!」
 体に刻まれた紋用の呪力を開放し、無数の無数の死霊を呼び出し亜麻色のバナナイーターを受け止めた。
 その体に降り注ぐ、巨大な氷解。
 砕け散る頃にはもうそこに、バナナイーターの姿はなく……。
「っと」
 気にする様子もなく、金髪のバナナイーターはヤシの木の部分に実るココナッツを前衛陣の頭上に放り投げた。
 頂点に達すると共に爆発し白く濁った雨として降り注いでいくさまを見て、マヒナは眉根を寄せていく。
 ヤシの木は、故郷でも大切にされていた木。
 人を害することに使うバナナイーターは許せない!
「ヤシの木を破廉恥なことに使う敵は許さないんだから!」
 ココナッツにはココナッツで。
 攻性植物の暴虐を止めるため。
 マヒナが力を向ける先、黒髪のバナナイーターの頭上にヤシの木の幻影が現れた。
 小首をかしげ頭上を見上げていく黒髪のバナナイーターのもとへ、ココナッツを幾つも、幾つも降り注がせていく。
 枝を、幹を、頭をぶつけ埋もれていくさまを見つめながら、マヒナは悲しげに瞳を伏せた。
「……ココナッツは、ムダがなくてほんとに役に立つんだから。攻性植物に使われるのはもったいないよ。……?」
 背中をぽん、と叩かれ視線を向ける。
 アロアロが小首を傾げ見つめてきた。
「……うん、ありがと。大丈夫。ワタシは……負けない!」
 力強い笑みを見せ、アロアロを治療へと向かわせた。
 バナナイーターたちを倒すため、ケルベロスたちは攻撃の勢いを加速させていく!

 押し付けられた柔らかさ。
 意図せず得た温もりが心に入り込んでくるけれど、セットは杖を握り幹にその先端を押し付ける。
「惑わされたりなんてしないっす! 覚悟するっすよ!!」
 先端が熱く輝いた時、ショートカットのバナナイーターの全身に凄まじい電流が駆け抜けた。
 健康的だった小麦色の肌を黒く灼き焦がされ、そのバナナイーターは倒れ込んでいく。
 残るは金髪のバナナイーター……最も強力な個体だけ。
「……美しい女性に殴りかかり、倒していかなければならないという今にため息すら漏れてしまうが……仕方ありませんね、覚悟して下さい」
 将司が踏み込み、チェーンソー剣を横に薙ぐ。
 ヤシの木部分で受け止めながら飛びつこうとしていくさまを見て、エルネスタは再び将司を霧で包み込んだ。
「みせられないよ! とはじょうだんなのだけど……ひとりだけなら、もんだいないみたいなの!」
「蓄積してきた細かなダメージも、いずれ治療しきれるでしょうね」
 心恋はテレビウムのメロディと視線を交わした後、治療のために歌う高らかに。
 仲間たちが最後まで立っていられるよう、バナナイーターの餌食となってしまわぬように。
 メロディもまた楽しげな動画を流し、心恋をサポートした。
 故に注意を向けられたか、それともただの偶然か。
 バナナイーターが、金髪を風になびかせながらゆっくりを歩みよってくる。
 表情を消し、杖を握りしめた。
 間合いに踏み込んだ瞬間に振り抜いて、飛びかかろうとしてきたバナナイーターを打ち返していく。
「……ほんと、破廉恥な」
 深い深い溜め息を吐いた後、燃え盛る火の玉を撃ち込んだ。
 着弾と共に爆発し、バナナイーターを炎の中に閉じ込める。
 すかさずディスカが距離を詰める。
 二本の刀を横に構えながら。
「では、終わらせましょう」
 横に薙ぎ、幹に二の字を刻み込んだ。
 さなかには、再び罪の化身たちが飛びかかる。
「ん、食らい尽くす」
 ラハブが司る力のままに。
「残りはワタシが……!」
 マヒナがアロアロと並び立つ。
 原初の炎がバナナイーターを新たに蝕み始める中、ヤシの木の幻影を作り出した。
「ココナッツはココナッツで……埋め尽くす!」
 号令と共に、スコールのごとく降り注いでいくココナッツ。
 埋め尽くされたバナナイーターは、断末魔の声を漏らすこともなく焼き尽くされ灰と化した。
 静寂が、戦いの終わりを伝えてくれた……。

●平和を取り戻すため
 雑木林を駆け抜けていく風が、戦いの熱を冷まし始めてしばらく経った頃。治療などの事後処理を終えた後、十夜は最も強い金髪のバナナイーターが発生した場所を見つめしゃがみこんでいた。
「地下茎で繋がってるみたいだし、掘ってみたら何か出てこねぇかなー?」
「そうですね。何かが見つかれば、解決のきっかけにもなるでしょうし……」
 頷き、心恋も作業に協力していく。
 少しずつ春が終わり、夏へと近づいていく季節の中で発生した、男を狙うバナナイーター。今現在、大阪城周辺が危険と言える状態を、少しでも早く解決することができるように……。

作者:飛翔優 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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