理不尽な社会へ報復を!

作者:霧柄頼道

 ぱちぱちと、天井の電球が頼りなく瞬く薄闇に包まれた室内。赤黒い染みだらけの実験台の上で大の字になって眠っていた彼は、ふと目を覚ました。
「喜びなさい、我が息子よ」
 すぐ隣には仮面を着けた黒い衣装の男が佇んでおり、彼の覚醒を促すようにゆっくりと語りかけてくる。
「お前は、ドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得た。あらゆるしがらみから解き放たれ、人の身を超越したのだ」
 目を見開く彼に、仮面の男はにやりと口元を曲げ、話を続ける。
「しかし、未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、いずれ死亡するだろう」
「そ、そんなっ。せっかく特別な存在になったのに! 話が違うぞぉ!」
「落ち着け。定められた死を回避し、完全なドラグナーとなる為には、与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取る必要がある」
「つ、つまりどういう事なんだ、もってまわった言い方はやめろッ!」
「落ち着くのだ。……早い話が、これまで自分を虐げ、排斥して来た憎き相手に報復していけばいい」
 復讐。仮面の男がそのキーワードを出すや否や、彼の瞳に黒いよどみが満ちていく。
「元々人生をリセットするつもりだったんだ……あいつらを巻き込めるなら願ったりかなったりだ。やってやる――思い知らせてやるぞおおぉぉぉ!」
 実験台から飛び降り、彼は奇声を張り上げながら部屋を飛び出していく。その左半身は禍々しく混沌化し、凶悪なドラグナーの異形を覗かせていた。

「ドラグナー『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった人が、事件を起こそうとしているっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は、集まって来たケルベロス達に向けてそう告げた。
「この新たなドラグナーはまだ未完成とでも言うべき状態で、完全なドラグナーとなるために必要な大量のグラビティ・チェインを得るためと、ドラグナー化する前に惨めな思いをさせられた復讐と称して、人々を無差別に殺戮しようとしてるんす」
 犠牲者が出る前に早急に現場へ向かい、未完成のドラグナーを撃破する必要がある。ダンテの言葉に、ケルベロス達は了解の意味で頷いた。
「ドラグナーの名前は二十代半ばと思われる男性、黒川・則夫。とある株式会社に勤めていたんっすけど、ついこの間首になり、その恨みを晴らそうとしているようっすね」
 だが、原因のほとんどは本人にある。会社に入る前はフリーターとしてアルバイトを渡り歩いていたのだが、どの仕事も不真面目かつずさん。ちょっと働いてはすぐ辞めるの繰り返しなため、そんな調子で新入社員になってもまず使い物にはならない。
「度重なる仕事のミスや無断欠勤はもちろん、仕事に無関係な私物を大量に持ち込み、注意されれば暴言や恫喝をまき散らし悪びれずと上司の評価も周囲の評判も最悪で、勤務開始から一年足らずで首になったのも頷けるっす。流行の五月病とかとは違う根本的に駄目な人みたいっすね」
 軽率で飽きっぽく、衝動的な性分なものだから、今後について何の展望も見えなくなっていたところにアウルの誘いへ乗っかったようだ。そしてそれまでの惨めな人生を不当だの環境のせいだのと八つ当たりし、自分は都合良く何もかもやり直そうとしている。
「だから皆さんは先んじて会社へ向かい、社員の皆さんを避難させた上で黒川を誘い込み倒して欲しいっす。ビル周辺の一般人達も避難させたいところっすけど、それをしてしまうと予知が変わり黒川に察知されてしまうので、ビル内で仕留めるのが無難っすね」
 黒川は怒りをぶつけられる相手を探しているので、ケルベロスが立ちはだかっても逃走はしない、とダンテは付け加えて。
「逃げはしないもののビル外へ出られると被害が広がる危険性もあるんで、戦闘中に別働隊が周辺の人払いをしたり、そもそも外へ出さないよう工夫などしておいた方がいいかもしれないっす。敵は黒川一人だけで、配下や竜技師アウルといった増援の心配はしなくていいっすよ」
 また、黒川は未完成のドラグナーなため、ドラゴンへの変身能力は持ち合わせていない。
「黒川の使う武器は簒奪者の鎌、ポジションはクラッシャーっす。相手は一人とはいえ強敵、心してかかって下さいっす!」
 根拠のないプライドに裏付けられた己も周りも顧みない破滅的かつ、自暴自棄な前向きさは時として大きな脅威となるだろう。
「元々は軽薄で刹那的なだけだった黒川を救う事はもうできないっすが、せめて罪を重ねる前に、皆さんの手で引導を渡して欲しいっす!」


参加者
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)
リオル・アイオンハート(天狼疾駆・e02015)
嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)
ザハク・ダハーカ(スカーレッド・e36065)

■リプレイ


「ったく、困った奴は居る所には居るモンだねえ。下手をすれば迷惑度だけならドラグナー以上ってか」
 黒川が襲撃する予定の会社へやって来たケルベロス達。仕事を中断させてしまう事に心を痛めつつも、嘉神・陽治(武闘派ドクター・e06574)は社内の人間へ自分達の身分を明かし、デウスエクスの接近を知らせて避難を促す。
「まだ猶予はありますので慌てず、通用口や非常階段から避難をお願いしますね」
 メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)もともに隣人力を用いつつ、安心させるように落ち着いた口調で伝えていく。
「戦闘に巻き込まれないよう避難してくれ。オレたちはビルの一階で迎撃させてもらう」
 ハートレス・ゼロ(復讐の炎・e29646)に先導され、社員達は混乱なく移動を始める。ライドキャリバーのサイレントイレブンは戦いに備えてロビーへ待機させていた。
「逆恨みでヒトである事をやめちゃうなんて……ある意味被害者だけど、許される事じゃないわね」
 作戦の進捗を無線機で仲間に報告しつつ、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)がぽつりと呟く。
「己が原因にも関わらず、か。遠慮無く殺らせて戴くとしよう」
 リオル・アイオンハート(天狼疾駆・e02015)も思うところはあるが、どう見ても自業自得と嫌悪の方が大きい。
 出入り口を警戒しつつ、順調に社員達を脱出させる。外へ避難してくれれば予知にも引っかからず、殺界形成で戻って来る事もないだろう。
「テメーの素行の悪さが原因でクビになった会社に報復とか完全に逆恨みじゃあねーか!」
 ったく、と黒川のろくでなしぶりにもの申してやりたいケルベロスもここに一人。ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)は隠密気流で身を隠し、ビルの正面口で索敵を行っていた。
 一応、前日には最寄りの警察署でデウスエクス襲撃の件を話し、交通整理も頼んである。タイミングも黒川がビルへ入ったあたり、と段取りはつけてあった。
 その近くにあるテナントビルの屋上には、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)が翼飛行で上がり、隠密気流で気配を消しながら無線機片手に監視に注力している。このように高所へ陣取れば、地上のジョーイと互いの死角を補う索敵が可能なのだ。
「あれは……どうやら現れたようですね」
 その時、路地裏から歩み出るフード姿の男を目視し、悠乃は無線機を持ち上げる。
「来たか……これ以上醜態晒して罪を重ねる前に引導渡してやるとしよう」
 一階ロビーに潜伏した陽治達は、連絡通りフードを外して堂々と乗り込んでくる黒川を視野に収めていた。
 社内では何度か、社員集合を告げる偽の放送が流されている。おかげで黒川もこの場に獲物が集まるだろうと、喜び猛ってケルベロス達の罠の中へ走り込んで来ていた。
「こちらリリー、獲物が檻に入ったわ。どうする?」
 螺旋隠れを使い机の下に身を潜めていたリリーが声を低めて無線機へ尋ねる。すると黒川を追うように、開かれたままの正面口からジョーイと悠乃がロビーへ忍び入り、油断なく扉を施錠した。
「準備完了です。お願いしますね」
「オーケー悠乃ちゃん、作戦開始ね……ステルスオフ、殺界形成!」
 勢いよく飛び出しながら殺界形成を展開。それに合わせて他の仲間も一斉に現れ、正面口側の二人が後方を塞ぐ形で包囲網を作り上げた。
「な、なんだあぁお前らはッ!」
 ケルベロスだ、とザハク・ダハーカ(スカーレッド・e36065)が進み出て名乗ると、黒川の恐慌は早くも頂点に達したらしく唾を飛ばしてわめき立てる。
「なんなんだよ、なんで俺が狙われなきゃならないんだよぉ! ふざけんじゃねえぞ!」「己の所業を棚に上げた挙句に周りへ八つ当たりとはな。そこらに居る子供と変わらんな……」
 ふん、と鼻を鳴らしやれやれと肩をすくめるザハク。
「いや、子供とて注意されれば反省はするか。貴様のような輩と一緒にしては未来ある子供に失礼か」
「ああああああああ! 誰がガキ以下だって、この――」
 黒川が聞くに堪えない悪口雑言をぶちまけるが、奴の標的はこちらへ絞れたようだ。いよいよ、なりふり構わぬ自暴自棄の未完成ドラグナーとの死闘が始まったのである。


 黒川が身をひねり、ありったけの力を込めた簒奪者の鎌を投げつけて来る。
「置き忘れた純真、在りし日の姿、案じる想いを今ここに」
 その射線上にいた悠乃は軽やかなステップで側方へ避け、なおかつ意識を集中させながら自らの時を逆行、幼き癒しの天使へと還る。
「聖なるかな――聖なるかな、聖なるかな。私は世界に《神》の面影を見ます」
 メリーナの放った影絵芝居『イデアの似姿』・第二幕。湧き出でた大量の影が黒川を取り囲み、悲喜劇を演じながら湧き上がる怒号ごと呑み込んでいく。
「自分がなぜ狙われなければならないか、誰が悪いのか――お分かりになりますか?」
「そんなもん俺以外の奴だ、会社の連中も家族も誰も彼も俺を見放しやがって殺す潰す、ぶっ殺してやるぅああああッ!」
「クビになったのはお前さん自身の行いが原因とは、思いもしなかったかい?」
 メリーナの問いかけに怒声で応じる黒川へ、陽治が肉薄し達人の一撃を見舞う。それは黒川の防護を突き破り、鈍い音を立てて頭部へ炸裂した。
「報復したけりゃあ俺等を倒さねェと……」
 脳震盪と氷の異常によろめく黒川へ、間合いを詰めたジョーイが大上段へ刀を構え。
「――なァッ!」
 渾身の威力で振り下ろされた一閃は黒川を引き裂き、噴水の如く鮮血を吹き出させ赤で染め上げた。
「悪いけど、その牙折らせてもらうわ」
 黒川の背後を取ったのはリリーだ。振り上げられる鎌めがけ、螺旋手裏剣を投げる。手裏剣は螺旋の軌道を描き、黒川の腕を傷つけるにとどまらず鎌の刃をも砕いてのけた。
「復讐に狂ってデウスエクスに魂を売ったか。――その怒り、オレの地獄で焼き尽くしてやる」
 意味の分からない奇声を張り上げる黒川に、ハートレスは臆した風もなく気咬弾を放つ。叩き込まれるオーラに黒川がもがいている内に突っ込んだサイレントイレブンが、正面衝突よろしく盛大に吹っ飛ばしていった。
「さぁ、貴様の魂を己に喰わせろ……!」
 デウスエクスの側へつき、心身ともにすでに人にあらず。ならば容赦の必要もなしとザハクは獰猛な笑みを浮かべ、空間を震わせるような咆哮を響かせて突進する。
「内より蝕む毒の牙……どこまで耐えられるか、試してみるがいい!」
 赤傷竜の喰毒。その正体は攻性植物の魂より生成される猛毒である。組みかかったザハクが猛烈な勢いで黒川へ牙を打ち込み、毒を流し込むや否や混沌化した腕が溶解していく。
「くそっ……があああぁ! こんな下らねぇ世界、ぶっ壊してやるうぅぅぅぅ!」
「『自分が良ければそれでいい』と考え更に逆恨みか。悪いが俺が嫌いなタイプだ」
 食らいつく顎を無理矢理に振り払い、鎌をやたらめたらぶん回す黒川だが、その隙だらけの懐へリオルが飛び込み。
「遠慮無く殺させてもらう」
 素っ気なく言い捨て、体重を乗せて思い切り蹴り飛ばす。黒川は床へヒビを走らせながら後退し、鎌を床へ突き立て強引に停止する。その眼光は真っ黒な殺意にぎらついていた。


 暴れ狂う黒川とは対照的に、ケルベロス達は時に挑発し時に位置取りし、黒川がビル外へ出ないよう調整しつつ戦いを運んでいった。一撃一撃は強力だが、こちらの連携も良好で充分に対処は可能。戦闘はケルベロス側が優位に進める事ができていた。
 ――だが、常に憤怒に身を焦がしているという事は逆に言えば、どの時点で黒川の臨界点が限界を迎えるか、判断が付きづらいわけでもある。
 誰の言葉か、もしくは行為がその引き金になったのかは分からない。ただでさえ額に青筋を立て、ぎちぎちと歯を食いしばり、拳から血を流すほどの怒りに身を委ねていた黒川が、ふと視線を上げて。
「これは……皆さん、注意を……」
 御業から炎弾を射出し、牽制していたメリーナは直感的に危機を感じ取る。近くの仲間の袖を引き、一旦挑発を止めさせようとした瞬間。気づけば目の前に、黒川の鎌が急速に迫っており。
 命中していればごっそりと体力を奪われていただろう。しかし直前、割って入った陽治が代わりにその身へ重い鎌の一撃を受けていたのである。
「っつー……さすがキてるからかねえ、こいつは効く……」
「陽治さん……!」
「すぐに回復します、もう少し耐えて下さい」
 今度はメリーナが前方へ出て敵の注意を引く間に、すかさず悠乃と陽治自身のマインドシールドを張り巡らし、負傷をみるみる治癒させていく。
「さっさと死ねよおおおおなんで生きてるんだよおおぉあぁぁッ! なんでなんでどいつもこいつも俺に逆らうんだああぁ!」
「テメーの素行の悪さが悪いんだろうが! この半端モンが!」
 あまりのヒステリックな自己中ぶりにこっちの神経も逆なでされるというもの。ジョーイは負けじと言い返し、正論の刃とばかり冥刀を縦横に振るい斬り刻む。
「そんなお粗末に振り回してるだけじゃ、いくらやっても当たるわけがないわ。本当の鎌の使い方、教えてあげる……!」
 突き進む黒川を幻惑するように、リリーがロビーの机から机へ飛び移りながら空中へ身を躍らせ、彗星のように鎌を投擲する。
「紛い物の力なんて……戦艦竜に比べたら!」
 飛来する鎌はものの見事に黒川を斬り裂き、間髪入れずハートレスも炎弾を浴びせて援護射撃し、反撃が来ればサイレントイレブンがかばいつつ身体をスピンして薙ぎ払う。
「激怒するあまり判断力は落ち、攻撃もぞんざい……しかし腕力だけは目を見張るものがあるな。皆、気をつけてかかってくれ」
 攻撃、回復、挑発……ここからはよりその使い分けが重要となるだろう。そう見て取ったザハクは少し距離を取り、歴戦の経験から改めて黒川の戦力を推し量りつつ、警告とともに傷ついた仲間達へ紙兵を散布し、守護させる。
「とはいえ、もうこちらの言葉がまともに届くような精神状態でもないだろう……ならば」
 肩で息をする黒川の間隙を突き、側面から距離を詰めたリオルが縛霊撃をぶち込んで身動きを封じる。ろくに会話が成り立たないのなら、こうして実力行使に訴えるのみ。
「こんなの理不尽だ、意味分かんねぇ! なんで俺ばっかりこんな目に……!」
「……クッソ面倒臭ェ」
 決着は近い。なのにこの期に及んでも自らの過ちのなんたるかに気づいた様子のない黒川に、ジョーイはため息混じりに舌打ちした。


「あなたは一体、どうして欲しかったんです? 何もかもが自分の思い通りになると、本当に思っていたのですか?」
 それでも会話を試みようとするメリーナに、荒れ狂っていた黒川は動きを止め、きょどついたようにそこかしこへ視線を走らせると、不安そうに口を開けて。
「そうだよ。ただちょっと運が悪かったんだ。俺は騙されたんだよ。ほんと不幸だ。不条理だ。だから許せないだろなあ……殺してやる殺してやるよおおおぉぉぉぉぉぉッ!」
 次の瞬間完全に理性が消し飛んだが如く、般若のような形相へと変貌し襲いかかってくる。対し、メリーナは静かに微笑んで。
「それはお可哀想に」
 黒川と半身を交錯させ、すり抜けざまに両手に握ったナイフで無数の斬撃を刻みつける。黒川は目を剥き、ごばっと鮮血をまき散らす。
「よくもこれだけ暴れてくれたわね――食らいなさい、バーニングエルフキィィック!!!!」
 リリーが続けざまに飛び上がり、中空でくるりと一回転しながら加速をつけると、満身籠もった炎のキックを黒川へ直撃させこれでもかと壁際へ叩き込む。
「あなたの憤怒も潰えかけている様子。終わりにしましょう」
 悠乃が幾度目かのマインドシールドで味方の体力を万全にしている矢先、黒川が懲りずに鎌をぶん投げて来る。
「だが、最後まで気は抜けないってな」
 悠乃の前方へ立ちはだかった陽治が、襲来してくる鎌をエクスカリバールで打ち返しつつ、返す刀で黒川の側頭部をフルスイング。きりもみ回転させながら壁面へ叩きつけた。「ま、待て……待ってくれ! 俺だってこんな事やりたくてやってるんじゃないんだ! アウルに命令されて――」
「その力は過ぎた玩具だったな」
 構わず詰め寄ったザハクが、黒川の腹部を降魔真拳で穿つ。黒川は激しく吐血しながらよろよろと歩き、やがて鎌を杖代わりに立ち止まる。
「お前はオレと同じ復讐者だ」
 ぶつぶつとなおも恨み言を吐く黒川へ、ハートレスがゆっくりと望遠鏡砲の照準を合わせた。
「そしてオレの敵の仲間だ――死ぬがいい」
 放出される強烈な光弾は慈悲なく黒川を焼き、身も世もない悲鳴を上げさせる。
「命乞いしようと、手は抜かん」
 ――狼破突襲。【魔狼】に秘めた力の一部を身に纏い、素早く疾駆し突撃したリオルが、魔を宿した右ストレートを黒川の顔面へ埋め込み、弾けさせた。
 半死半生の体で四肢をばたつかせ、涙を流し小便を漏らしと見るも無様だが、それでも一矢報いようとする黒川へ、ジョーイが最後の引導を渡す。
 瞬く刹那。納刀状態から引き抜かれた神速の剣閃が黒川の胴体を通過する。
「何やってもしくじるもんだ……テメーのような半端モンはな」
 あばよ、と冥刀を収めると同時に黒川は倒れ伏し、その肉体は融解し地上から消え失せた。

 ザハクやリリー、悠乃らが損傷した建物内のヒールを行う中、ジョーイとリオルもそれぞれ、協力してくれた警察やヘリオライダーへ連絡を入れていた。
「こんな手段でなく……きちんと、やり直して欲しかったですよ」
 と、メリーナは黒川が消え去ったあたりへ目線を移す。
「きちんと段階を踏んで、謝って、考えて、背筋を正して……この人にだって、別の可能性があったと思うんです。なのに……こんな、デウスエクスになるなんて最後はあんまりです――……っ」
 その隣へ陽治もやって来て、虚空へ語りかけるように口を開き。
「やり直すなら自分の力だけですべきだった、ドラグナーを頼った時点でお前さんはやり直す機会さえ失っちまったんだよ」
「行く末が破滅だろうと、怒りや復讐心を捨てることなど出来ん。そんなものだ」
 ハートレスの言葉に、陽治はそうかねえと呟き、仕事終わりの一服をしようとして煙草を控えている事を思い出すと、微苦笑しながら懐に仕舞い込む。
 一方で悠乃は、この会社に非を問うべきではないと、経緯の記録や黒川の経歴をケルベロスとして企業の人間に交付し、デウスエクス撃破のため真摯に貢献したとしてネット上に掲載するつもりでいた。それもまた、守るべきものだから。
「……えへへ、お疲れ様でした♪ 帰りましょ!」
 後味の良い結末ではなかったかもしれないが、多くの人の命を救えたのは確か。だからメリーナはようやくいつものように笑い、帰路へとつくのだった。

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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