黒曜の舞台

作者:秋月諒

●黒曜の舞台
 薄暗いホールに、幾つものロウソクの明かりがあった。吐息に、囁きに炎は揺れる。
「夜の民よ、月夜の日々よ」
 歌うように響くのは眼下の舞台にいる男の声であった。大柄の体に、狼の耳と尾をつけた男は、ある意味で役者であった。両の手を広げ、告げられるのは物語。夜の宴と良い、戯曲の始まりにありそうな言葉を並べ狂気の夜と今宵を歌う。
「ハロウィンパーティーも、最近は賑やかなものになったわね」
 吸血鬼の姿で、ボックス席のソファーに腰掛けているのは銀色の髪をした女であった。黒衣を纏う彼女に、影のように付き従っていた青年が眉を寄せる。
「それならば、断るという手もあったのでは」
「まぁそこは大人には付き合いね」
 一足早いハロウィンの仮装パーティーが開かれたのはイギリスの古城であった。マスターと呼ばれた娘ーーレイシーは、日本人を母に持つ資産家であった。パーティー自体は珍しいものではなく、ただこのタイミングかと一つ思っただけだ。
「勝利の後ならば、もうちょっと楽しいパーティーでもと思っただけよ」
 ケルベロス・ウォーでの勝利は記憶に新しい。
 失うことを知っていた女は、故にケルベロスたちに賭けたのだ。
「あなたにも世話を……」
「あら、そうかしら? 私賑やかなのも大好きよ? どんな格好していてもいいし」
「!」
 それは予想外の声だった。は、と顔を上げたレイシーの視界で、護衛の青年が崩れ落ちる。赤い血が、黒いソファーに沈んでいく。
「あなた、ヴィスを……!」
「あら。だって私とあなたがが話そうってのを邪魔しそうだったんだもの。邪魔者はちゃーんと排除しないとお仕事にはならないわ」
 うふふ、と笑ってボーイは上着を脱ぐ。そこに見えたのは螺旋をモチーフにした模様の仮面をつけた螺旋忍軍の姿。
「ケルベロスに協力した。貴方という邪魔者を殺すには、ね」
 艶やかな声を落とし、螺旋忍軍は女の胸を貫く。階下のフロアでは女の歌声が艶やかに響いていた。
●狂気の夜
「ケルベロス・ウォーに大きく貢献した、世界各地の有力者を、螺旋忍軍が狙っている事が判明しました」
 静かに息を吸い、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はそう言ってケルベロスたちを見た。
「彼らの狙いは、ケルベロス・ウォーに大きく貢献したものが、デウスエクスによって粛清されるという事実を突きつけることです」
 彼らの死は、結果として多くの人々の目につくことだろう。
「これにより、今後、ケルベロス・ウォーに協力する者を減らそうという目論見かと思われます」
 セリカはそこまで言うとひとつ、息を吸う。
「これが、有効な作戦であるのは事実です」
 世界各地の有力者が協力をしてくれた。
 その彼らの命を奪うことによって、起きる被害は多くの意味を持つ。
「皆さんには、螺旋忍軍による暗殺を防ぎ、螺旋忍軍を撃破していただきたいのです」
 今回、狙われるのはレイシー・フィルビケット。
 イギリスの資産家だ。亡くなった父親は貴族の次男で、彼女はフィルビケット家の当主でもある。
「彼女は、知人のハロウィンパーティーに招かれ、その会場で殺されてしまいます」
 護衛は一人。彼女の腹心でもある青年だ。
「今回の件で、レイシーさんには、ケルベロスが護衛につくことを説明してあります」
 普段通りに行動してほしい、と説明が済んでいるのだとセリカは言った。
「これは、襲撃を回避する為に予定を変えると螺旋忍軍が標的を変更する可能性があるからです」
 レイシーからの返答はすべて承知したとのことだったと、言ってセリカは顔を上げた。
「まずはパーティー会場についてですが、一階のフロアと、階段を上がった先には二回のフロアがあります」
 レイシーがいるのは二回フロアーのボックス席だ。ボックスといっても扉などの仕切りはない。襲撃のあった際は、主催の挨拶が行われており音楽が鳴り響いていたとセリカは言った。
「敵の螺旋忍軍は一体のみ。隠密行動中です。レイシーさんを襲うときはボーイでしたが、道中どんな姿をしているかは分かりません」
 彼女の護衛としてつき、その場に付くのがいいだろう。
「こちらも隠れた護衛となりますから。あと、パーティーが仮装パーティーなので皆さんにも何か仮装をしてきてほしい……とのことでした」
 どんな仮装にするかは自由だが、難しい場合はレイシーの吸血鬼に合わせて、薔薇を一輪胸元にさしているだけでも大丈夫だろう。
「襲撃発生後は、螺旋忍軍の撃破をお願いします。レイシーさんの護衛が、周囲の人の避難を担当してくれることとなっていますので皆さんは戦闘に集中できます」
 戦場と予想されるのは2階のフロアとボックス席だ。一階のフロアほど広くはないが、戦うのに問題はない。
「螺旋忍軍の武器は螺旋手裏剣です」
 毒手裏剣、螺旋射ちの他に、分身の術を行う。
 そこまで話すと、セリカはひとつ息をついて真っ直ぐにケルベロス達を見た。
「螺旋忍軍の暗殺を防いでください。今後のケルベロスの活動に支障が出ることもありますが……、なにより、世界のためにケルベロスに協力している人を、螺旋忍軍に殺させてしまうわけには、いきません」
 覚悟と共に彼女が協力してくれたのも事実だからこそ。
「皆さん、どうぞ宜しくお願いします」


参加者
アルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)
コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)
緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755)
世良・海之(碧の道先・e02888)
スバル・ヒイラギ(忍冬・e03219)
ルル・サルティーナ(ドワーフのミュージックファイター・e03571)
氷月・銀花(氷精乱舞・e09416)
佐々木・焔火(スナネズミの降魔拳士・e11818)

■リプレイ

●黒曜の舞台
 そこは、夜の宴に似合いの城であった。分厚い石壁に、足音響くフロア。蝋燭の灯りは薄暗く、されど今宵の宴には似合いの趣向だ。
 一足早いハロウィンパーティーと称して集められた客は、皆思い思いの仮装に身を包んでいた。
 ふ、と息を吐き――ガンマンは笑みを浮かべた。
「これはこれはレイシー嬢。実に見目麗しく。先日結婚していなければ口説いているところですよ」
 英語がスペイン訛りになっているのはご容赦を。
 ガンマンーーアルトゥーロ・リゲルトーラス(エスコルピオン・e00937)に吸血鬼に扮したレイシーはくすくすと笑った。
「あら、残念」
「言いよる男は星の数ほど、いや、護衛殿が近寄らせないかな」
 水を向けられた護衛の青年が眉を立てれば、アルトゥーロは軽く肩を竦めて退席を告げた。
「では、俺はこの辺りで警備に当たります」
「えぇ。宜しく頼むわ」
 レイシーの席を離れれば、二階の賑わいが目に映る。客の中に紛れ込むようにアルトゥーロは足を進めれば仲間の姿が見えた。
「今の所、怪しい奴はいないヨー」
 答えたのはカボチャをイメージしたデザインのドレスを着た娘だ。
「写真も完璧というわけじゃないからな」
 緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755)の言葉に、アルトゥーロは小さく息を吐いた。
 給仕たちの名前と写真。
 結火がレイシーに交渉した結果手に入れる事は出来たのだが、写真については穴あきだ。急なことで全員分用意することができない、というのが結論だった。名前の方は全員分のリストを確認することができた。
 すい、と結火は会場を見る。城内は仮装した客で賑わっていた。その中で働いている給仕もまた、夜会の雰囲気に合わせた仮装をしている。しっかりとした仮装ではないが履歴書写真では印象も変わってくる。
「写真は参考にするには良さそうですネ」
 呟いて、視線をあげる。
 怪しい動きをする者がいれば、アタリは確かだ。狙われるレイシーの側には仲間たちもついている。
「警戒を続けるしかないですネー」
 敵は、来る。
 息を吸った結美の横、ビハインドの火墨が妖精の服を揺らしていた。

●夜の民は語る
 夜会服のペンギン達が挨拶を終えて消えれば、可愛いひよこの着ぐるみでレイシーのソファーに寝転がっていたルル・サルティーナ(ドワーフのミュージックファイター・e03571)は小さく息をついた。
「ペンギンさんたちは関係なしー」
「えぇ。挨拶に来ただけね」
 レイシーはそう言って、緊張を残す腹心へと目をやる。相手は螺旋忍軍だ。暗殺、と聞けば警戒してしまうのも不思議はない。
「背中を壁に向けるとかして、不意打ちされないよう、注意していてね!」
「分かりました」
 深く頷いたヴィスを視界に、ルルはソファーに転がり直す。仮装は可愛いひよこの姿なのだが、どちらかといえば大きなぬいぐるみのようだ。螺旋隠れで気配を消せばーーそこにあるのは、フィルビケット当主と、可愛らしいぬいぐるみだけ。同じようにぬいぐるみのフリをしている、氷月・銀花(氷精乱舞・e09416)のボクスドラゴン・六花と共にルルはレイシーに一番近い護衛としていた。
 その次に近くにいるのは、隣のボックス席にいる二人だ。
 踵を鳴らして、ダークグリーンのドレスに、悪魔の耳と羽をつけた娘が席に座る。薄く口紅のひかれた唇で世良・海之(碧の道先・e02888)は微笑を浮かべた。
「スバル君、宜しくどうぞ」
「よろしく」
 応えたスバル・ヒイラギ(忍冬・e03219)は黒猫の仮装だ。耳と尻尾に、礼装を忘れずに黒のジャケット。カップルを演じ、適度に話をしながらも意識はレイシー達を見守る方に集中していた。
 警戒を強めるのは、階下にいるコクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)も同じだ。
「さすが、人が多いな」
 コクヨウは賑わいを増したフロアを見た。給仕役としている彼は、胸に一輪のバラを挿している。
「……」
 忙しく動き回る給仕たちに、リストに名前が無い者はいない。
(「正攻法でダメなら搦め手で、か。中々良い手だ。赤子の様に捻らせてもらうが、な」)
 敵は、襲撃の際はボーイの姿をしていたというがーー道中どんな姿をしているかは分からないともヘリオライダーも言っていた。不審な者がいないか、コクヨウは小さく息を吐いて夜の住人たちの間を歩いていく。
 その、時だった。一回のフロアに、道化師の格好をしたゾンビが現れたのは。
「あら」
 宴の客たちが、大仰な身振りで挨拶をするゾンビに興味の視線を向ける。フロアに置いたのはトランポリン。ゾンビの中身はーー佐々木・焔火(スナネズミの降魔拳士・e11818)だ。一つ息を吸い、エアライドを発動させると焔火はトランポリンで飛び跳ね始めた。
「まぁ!」
 太鼓のドーン、という音で勢いよく跳ねれば客がどよめき、手足をバタバタさせてバランスを崩してみせれば客は皆息を飲む。
 この余興は、作戦だ。
 客だけではなく、給仕たちの視線さえも集めーーこちらを向かない者がいれば敵と判断できるのではないか、という。
「さて、芸を無視してレイシー嬢を窺ってる輩はどこだ?」
 アルトゥーロは視線を巡らす。そこにあったのは喜び、驚く客と、慌てる給仕たちの姿であった。
 誰もが芸を見ている。
「え? あんなの予定にあった?」
「聞いていないわ」
 ざわめきは波のように広がる。一言、やるといっておけば彼らの反応も違ったかもしれないが、それでは反応を見る、というのはできなかったかもしれない。
「動きが変わった」
 二階から下のフロアを覗いていた銀花が息を吸う。給仕たちの動きが、変わったのだ。確認や上機嫌な客に呼び止められているのだ。
「はっはっは。皆様楽しんでいただけましたかな?」
 場を繋ぐように主催が声をあげる。早巻きに、パーティーの開始に繋がる主催の挨拶が始まる。
「何か起きているようね」
 呟いたレイシーのヴィスが警戒するように視線を巡らす。その声に応えるように、二階へとやってきたボーイが微笑んだ。
「秘密の余興はお楽しみいただけましたか?」
 お嬢さん、と告げたボーイの腕がーー動く。キラ、と光って見えたのは鈍色の武器。それはレイシーを狙って放たれた手裏剣だった。
「!」
「だめだよ!」
 だが、手裏剣は彼女の胸に沈まない。
 響く声ひとつ、ソファーに寝転がっていたひよこーールルがレイシーを庇ったのだ。

●剣戟の舞台
 じくじくと、痛む腕に、それでもくっとルルは顔をあげた。あら、と聞こえるボーイの方へ目を向けながら告げる。
「避難してね」
 頷いたヴィスがレイシーの腕を引く。仮装したボーイは、やれやれと息をついた。
「やっぱりいたわね。邪魔者さんたち。ま、そうだと思ってさっさと動いてきたのだけど」
 ボーイは上着を脱ぎ捨てる。そうして見えたのは螺旋をモチーフにした模様の仮面をつけた螺旋忍軍。
「けれど、あの余興でボロを出す私と思わないで頂戴。暗殺のお仕事で来てるのだから」
 離脱するヴィスとレイシーへと向いた視線を、遮るようにスバルは戦場となった空間に飛び込む。
「海之」
「えぇ」
 た、と響く足音にあわせるように、スバルは放つ鎖で螺旋忍軍を絡め取る。
(「暗殺なんてさせないよ。俺達ケルベロスに協力してくれるから殺されるなんて、絶対あっちゃダメだ!」)
 スバルの鎖に引きずられた螺旋忍軍の間合いへと海之は飛び込む。流星の煌めきをもって軌跡を描く海之の跳び蹴りが敵の胴に入る。く、と呻く声を海之は聞いた。
「あは。あぶり出されちゃった身だけど十分に、楽しいわ」
 視線が、こちらを向く。明確な殺意を感じながら海之は顔をあげる。
「血の赤はお祭りに鮮烈すぎる。ハロウィンと言っても、貴方の脅かし方は、苛烈すぎますよ」
 息を吸い、悪魔の羽をつけた娘は微笑んだ。
「守り手の私と少し、遊んで下さいませ」
 避難を、とヴィスの声が響く。告げる声を耳に客たちが一斉に二階席から去っていく。その中を、きりもみ回転をしながら、結火は一気に跳躍しーー距離を、詰める。
(「螺旋忍軍……私の手で葬ってくれる」)
 跳躍する結火と共に、火墨が舞う。その姿を見ながら、唇を引き結ぶ。火墨は螺旋忍軍に命を奪われた親友の姿をしていた。
「忘れはせぬ、あの日のことを。貴様らに奪われた友の命を。螺旋忍軍をすべて殺す……それが私の戦いだ」
「いいわね。研ぎ澄まされた刃って、好きよ」
 炎を纏う、一撃を受け止めた螺旋忍軍が笑う。腕を振り上げれば、手裏剣と結火の武器がぶつかり合い火花が散る。
「でも残念。お仕事はちゃんとしないとね。悪いけどみんな纏めて殺されてちょうだいね」
 敵の次の動きを見て、合流した銀花は叫んだ。
「来ます……!」
 毒を纏う一撃が、放たれる。
「避難はもうすぐ終わります……!」
 周りを巻き込む可能性を少しでも減らすように、少し後ろに立ちながら銀花は告げる。
「相手してもらおうか」
 螺旋忍軍の放った手裏剣をアルトゥーロがクイックドロウで相殺する。ギン、と高い音が響き、僅かに息を飲む敵に、コクヨウは奇襲する。
「影すら見せん 影すら残さん」
 その身に纏うのはグラビティの力で張り巡らせた迷彩。
「貴様らにケルベロスは絶対に屈しはしない!」
 絶影。
 コクヨウの刃が、敵に沈む。は、と螺旋忍軍は息を吐きーー腕を、振るう。放たれた手裏剣は螺旋の力を帯びーーコクヨウとその武装を狙う。
「はは、甘くみすぎちゃったかしらね」
 でも、と螺旋忍軍は言う。
「殺されるより、殺す方が好きよ。私」
 焔火の一撃を避け、合流を果たしたケルベロルたちを見据えて螺旋忍軍は言った。
「お仕事、させてもらうわ」
 剣戟と血が、舞う。

●血の宴
 床を蹴る音と、鋼と鋼のぶつかり合う音が響く。衝撃に火花が散り、抑えきれずに一撃を身に沈ませながらも、ぐっと結火は顔をあげる。受け止めた一瞬。それは敵の意識もこちらに向いている事を示す。その隙だけあればーー攻撃には十分だ。
 迫る一撃は、ルルのスピニングドワーフ。
(「……高速回転で、敵に体当たりするひよこちゃん……」)
「……超絶クール!!!」
 自分にうっとりしながら、衝撃を叩き込んだルルはたっと立ち上がる。息を吐いた螺旋忍軍が分身する。
「油断ならない子ね」
「一人だけ気にするってのもどうだろうな……!」
 スバルは氷結の螺旋を放つ。衝撃を真正面から受け止めた敵が舌を打った。
「その力も、やっかいね」
「どうも」
 言って、スバルは息を吸う。
 腕に残る痛みは毒か。これくらいならば、まだ動ける。
 敵の動きは最初よりは幾分か、鈍ってきていた。素早い動きはその名に似合いでーーだが、自分たちもただそれを追いかけているわけではないのだ。踏み込み、一撃を受けながらも刃を、一撃を届ける。流す血はあったがーー立ち止まる気などケルベロス達には無かった。
 防ぐと、決めたのだ。
 この暗殺を、この襲撃を。
 剣戟の音が古城の天蓋に届く。流れた血に、ケルベロスたちは床を蹴る。その姿を視界に、海之は回復の手を選ぶ。
「私が止める、私が癒す、守り通すまで、ずっとずっと」
 飛び込む仲間の姿を見ながら、告げる。
「大丈夫よみんな、傷は全部、治すもの」
 広がる癒しの中を焔火は駆ける。避難は全て完了した。皆怪我もなく、ただ向かうケルベロスたちを気遣いながら、送り出してくれた。
 息を吸い、焔火は螺旋忍軍の間合いへと飛び込みーーその拳を放つ。
「焔火の一撃は、大山すら鳴動させる一撃でチュ!!」
「っく……っ」
 奥義参拾六式・大山鳴動。
 渾身の一撃に、螺旋忍軍は呻く。空気さえ震わす一撃にグラスが落ちる。
「やられは……!」
 しない、と螺旋忍軍が吠える。放たれた毒手裏剣が焔火に突き刺さる。そのまま、一気に距離を詰めようとする敵に銀花はその腕を向ける。
「私の前で何かを失わせない、貴方を狩ります螺旋忍軍」
 舞った鎖が螺旋忍軍に絡みつく。締め上げる力に合わせ、六花が一撃を叩き込んだ。その姿に、銀花は真っ直ぐに敵を見る。
(「私たちを助けてくれた人、今度は私たちが助ける番です、六花さん頑張ろうね」)
「ぐ、ぁ」
「こっちも忘れてくれるなよ」
 言ったアルトゥーロが撃鉄を引く。
「《蠍》には毒がつきものさ!」
 血に濡れた腕で、口の端をあげて笑いーー撃つ。
「悪いが暗殺者にかける情けはない」
 先の鎌倉奪還戦では、世界中の人々に大恩が出来た。今回はそれを僅かなりとも返せる機会だ。
(「レイシー嬢の暗殺は絶対に防いでみせよう」)
 その為に、今ここにあるのだから。
「っち」
 螺旋忍軍が舌を撃つ。滲む毒に気がついたのだろう。一度距離を取ろうとしたそこにコクヨウが飛び込む。切り裂く刃が、毒を深く染み込ませれば息を飲む音がした。
 癒しを得ようとする敵にスバルと海之の一撃が届く。邪魔だと踏み込んだその身にルルの一撃が届く。
「ッチ」
 舌を打った敵が、は、と息を飲んだ。間合いへと踏み込んできた結火に気がついたのだ。背の翼を大きく広げ、彼女は紡ぐ。
「書を焼き、人を焼き、神をも焼く―。"Blazing Shot"―Ignition」
 向けるのは赤黒の拳銃。ーー放たれた炎の弾丸が何度も螺旋忍軍を貫いた。赤く、熱く。その思いを表すかのように。
「はっ……やはり甘くみすぎた、か……ケルベロス」
 熱が、飛び散る。
 は、と最後暗殺者笑う声はその身を燃やす炎にかき消された。

「さて、これでいいかな」
 コクヨウのルナティックヒールが仲間たちの傷を癒す。見れば丁度、スバルによって建物のヒールも終わったところだった。
「折角のパーティなんだから、楽しんでいきたいよね」
 嫌な思い出にはさせたくないから、というスバルに誰もが頷いた。
 足音が近づいてくる。
 戦いが終わった事に気がついたのだろう。六花を抱き上げてあやしていた銀花は、こちらを見てほっとしたレイシーに気がついた。
「皆さん、無事で安心しました」
 レイシーはパーティーが再開されることを告げた。
「楽しんでいって。何せこの瞬間があるのはあなた達のお陰なんだから!」
 ボーイ達が忙しく動き出す。
 ヒールされた城の灯りは不思議とさっきより暖かい。賑わいの中に、ケルベロスたちは歩き出す。
「クックック……ついに紳士の国で、ジェントル溢れる、ルルの付け髭を披露する日が来たんだよ……」
 歩きながらルルは、はたと気がつく。
「……あかん……着ぐるみ着てたんだ……」
 仕方が無いから、気楽に歌を歌って会場内をウロウロしていく。
「トリックオアトリート!」
 英語は分からないけれど、魔法の呪文があれば大丈夫。
「ね、今からが本当のパーティーです」
 ふふ、と笑って、海之は仲間を見た。
 さあ今は、皆々仮装で夜の民。守りきった時間と、人々と共に。素敵で苛烈なハロウィンパーティーの始まりだ!

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年10月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 5
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