埃っぽい部屋に、カーテンの隙間から光が差し込む。
「あー眩しい……。俺はまだ寝ていたいんだよ……」
連休も終わり、普通なら大学に向かっていなければいけない時間。それなのに、寝ても寝ても眠くて仕方ない。大学に行くどころか食事をとる事すら面倒くさい。
「起きていることすら、面倒くさくなってきた……」
そう言って青年は、布団を頭から被り、眠りについた。
「ゴールデンウィークが終わり、世間では五月病が流行しているようです。皆さんは大丈夫ですか?」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が集まったメンバーを見渡す。
「大丈夫そうですね。それでは皆さんには、五月病の病魔の撃破をお願いしたいと思います」
対象は大学受験を乗り越え、志望の大学へと入学した青年。大学生活にも慣れ始め、大型連休で気が緩んだ所に五月病が発症してしまったようだ。
「五月病の病魔におかされている青年は、部屋に閉じこもっていますが、意識などはあるので、家を訪ねれば会う事ができます」
居留守を使う場合もあるが、鍵を壊して踏み込んでも構わない。
「五月病の患者に接触した後は、チームにウィッチドクターがいれば、患者から病魔を引き離して戦闘を行う事が可能です」
ウィッチドクターがいない場合も、その地域の医療機関に協力しているケルベロスのウィッチドクターが臨時で手伝ってくれる為、問題はない。
「どうやら眠気を誘う攻撃が得意みたいです」
一通り説明を終え、セリカが顔をあげる。
「五月病は再発しやすい病気のようです。可能ならば、病魔撃破後は、救出した方の話を聞いてあげるなどして、再発しないようなフォローをできると良いかもしれません」
皆さんからのフォローがあれば、きっと、大丈夫でしょう。とセリカはケルベロス達を見送った。
参加者 | |
---|---|
天照・葵依(蒼天の剣・e15383) |
菅火野・藤隆(無音・e16808) |
カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834) |
オーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928) |
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875) |
卜部・サナ(仔兎剣士・e25183) |
佐伯・誠(シルト・e29481) |
須藤・花(ベリル・e29482) |
●五月病の学生
「俺も学生の頃はなってたもんですけどね、五月病。やる気が出ない時って誰でもあるじゃないですか。先輩は?」
「俺だって五月病くらいかかるさ。最近は手の掛かる後輩がいるせいで、やる気が出ないなんて言ってられんがな」
「……さ、さようで」
今回の被害者の住むアパートへと向かう道すがら、須藤・花(ベリル・e29482)と佐伯・誠(シルト・e29481)が先頭を歩きながら話している。
「あのね、ボク、五月病って今回の事件ではじめて知ったのっ」
2人の後ろをオーキッド・ハルジオン(カスミ・e21928)がついていく。
「あのアパートみたいね」
少し後ろを歩いていた卜部・サナ(仔兎剣士・e25183)が目的地を見つけ声をあげた。
アパートに到着し、駐車場で今回の作戦の確認を始める。
作戦はこうだ――。
周囲の避難をする組と訪問する組に別れ、訪問組が大家の元へ鍵を借りに行き被害者を連れ出す。その間に避難組がこの駐車場付近の一般人の避難をする。その後合流し、近くの病院から応援で来てもらったウィッチドクターに、被害者から病魔を呼び出してもらい撃破する。
「作戦開始だ」
誠の合図にケルベロス達は、二手に別れると行動を開始した。
「ケルベロスです。戦闘になるので、しばらく避難をお願いします」
「今から戦闘になるので退避をお願いします」
菅火野・藤隆(無音・e16808)と八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)が周囲に声をかけ避難を促す。
「危ないから近づかないようにねっ!」
オーキッドが元気に走り回り、避難誘導をしていく。
避難誘導を終わらせ、駐車場に止めてあった車も移動してもらった。これで戦闘に十分な広さは確保できた。仕上げにと、カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)がバイオガスを散布して、周りからの視界を遮断する。
「一応個人情報な所もあるだろう」
被害者とはいえ、騒動の中心となればいい噂にはならないだろうと、気を利かせるカジミェシュ。
準備を終え、4人は応援に来たウィッチドクターと共に、訪問組の合流を待った。
大家の家へと寄り、鍵を借りてきた訪問組の4人は被害者の青年の部屋へと到着。すぐにインターホンを鳴らし、反応を待つ。
「ごめんくださーい。起きてますかー?」
ドアをコンコン叩きながら訪ねるサナ。
「反応がないな。仕方ないが鍵を使わせてもらおう」
しばらく待ち、一向に返事がないため誠が借りてきた鍵でドアを開ける。
「警察です、……じゃなかった。ケルベロスです」
花の言葉にも全く反応がない。よく見ると布団を頭から被り、青年は眠っている。
「受験お疲れ! お疲れ様! よく頑張った! 偉いぞー!! でもそんなに頑張って入った大学なのに、ダラダラしてたらもったいないぞ! サークル活動や新しい出会い! そんな大学ライフが君を待っている!! ということで駐車場にGO!!」
部屋に入った勢いのまま、天照・葵依(蒼天の剣・e15383)は青年を担ぎ上げると駐車場へと歩いていく。起こして連れ出すより早いと感じた3人も葵依に続いて部屋を出た。
「では先生、お願いします!」
駐車場で青年を下ろし、ウィッチドクターへと葵依が声をかける。
ウィッチドクターは頷くと青年の元へと近寄り、体内から病魔を呼び出した。
呼び出された影が形を変えていく。そして現れたのは、パジャマ姿の少女。違うところがあるとすれば、頭に羊の角がついている事だろうか。
病魔を呼び出すのに成功したのを確認したウィッチドクターは青年を抱え、部屋へと連れて行った。おかげで青年が戦闘に巻き込まれる心配はなくなった。
「この見た目、何処か親しいウェアライダーさんに似ていますね。想う所は有りますが、やるべき事は果たしましょう」
鎮紅が武器を構える。それが合図となり、病魔との戦闘が始まる。
●少女の様な病魔
「センパーイ、可愛い女の子ってなんか攻撃しづらくないですか? ……相手が可愛いからかこう、うっかり武器落としそうーなんて……」
「……須藤、攻撃しづらいのは同意だが病魔だからな、こいつは」
そんなやり取りをしながら、花と誠は戦闘の準備を続ける。
「まずは護りを……紙兵散布!」
自分たちの周りへと、霊力を帯びた紙兵を散布するカジミェシュ。
「可愛いからちょーっと気が引けちゃうけどー……ごめんねっ!」
サナが日本刀『星火燎原』を構え、神速の突き。少女の姿にやりづらさを感じるが、相手は病魔。気持ちを切り替えて全力で戦う。
それに続いて誠の攻撃が病魔を襲う。
鎮紅が日本刀『緋鴉』を抜き放つ、斬撃は弧を描き、病魔を斬り裂く。
「ボクの蹴りをくらえっ」
飛び蹴りを放つオーキッド。ウイングキャットのなるとは羽ばたき自身の周囲に護りを付与していく。
「後衛の護りは私が!」
対象が被らないように紙兵を散布する葵依。ボクスドラゴンの月詠は葵依の邪魔をさせないよう、ブレスで牽制する。
病魔の飛ばした枕が、サナの顔面へと直撃する。
「あ、これすごいフカフカするー」
こんな枕で寝たらぐっすり眠れそうだ。あまりの心地よさに、攻撃の手を緩めそうになってしまうほどに。
バスターライフルを構え凍結光線を撃ち出す藤隆。花もケルベロスチェインで攻撃を加えていく。
「はなまる号、合わせろ!」
掛け声と共に、誠とオルトロスのはなまる号、2つの斬撃が立て続けに病魔へと襲い掛かる。
「これもおまけです」
誠達の連撃に、鎮紅がナイフを構え冷気を纏った斬り上げを追加する。
更にハンマーを砲撃形態へと変形させていた、オーキッドが竜砲弾を撃ち出す。
「ぐぅ……」
「眠ってる!?」
突然眠り始めた病魔に、ケルベロス達も驚きを隠せない。
「なんか傷がどんどん回復してるんだけど!」
病魔が眠り始めて数秒、与えた傷がみるみる塞がっていく。それを見てオーキッドは驚き声をあげた。
「なんて回復力だ、厄介な……」
カジミェシュは長期戦になりそうな予感を感じながら、とにかく攻撃するしかないと斬撃を加えていく。
「サナ達が倒れるのが先か、病魔が先か、我慢比べね」
そう言ってサナは星火燎原を振るう。
少しでもダメージ源を増やそうと、フロストレーザーを放つ藤隆。
「氷か、ならこいつも追加だ。時空凍結弾!」
花も続き、病魔へ氷を与えていく。
いつの間にか目を覚ましていた病魔は、近くにいるケルベロス達を見据えると一瞬、瞳が輝いた。
――ねむくなぁれ。
●眠りを誘う病魔
「ふにゃー……なんだかとっても眠たいの……」
どこから取り出したのか、抱き枕を抱きしめながら、眠たそうにしているサナ。
剣を地面へと突き立てて、体を支えるカジミェシュ。眠気を堪えながら、病魔へと飛びかかり、グラビティ・チェインを破壊力に変えると拳に乗せ叩き込む。
「眠気の我慢は職業柄慣れてる」
続けて誠が攻撃を加えていく。2人の攻撃で病魔とケルベロス達の間に距離があく。
「嗚呼、はいはい。今ご飯にしますからねえ」
ほぼ目を閉じながら、何処かお母さんめいた口調をする鎮紅。はっとなり周囲を見渡し、病魔を見つけると即座に飛び込み、ナイフで斬りかかる。恥ずかしさを隠すためか、いつもより攻撃が鋭い。
「ほら、起きた起きた。寝てたら危ないよ」
藤隆が歌を口遊むと、眠気もすっきりと消えていく。
「ふあ! 寝てた?! ななな、なーんて恐ろしい攻撃なのっ」
少しうとうとしていたサナの目も覚め、病魔へと向かっていく。
病魔が今度は後方のケルベロス達の方を見つめ、そして瞳が輝く。
――ねむくなぁれ。
眠い。眠い。眠い。頭の中が眠気に支配されていく。それでもどうにかあくびをかみ殺し、オーキッドが電光石火の蹴りを放つ。
頬を叩き眠気を吹き飛ばそうと頑張る藤隆。それでもそのまま眠ってしまいそうになる気持ちを堪え、放つフロストレーザー。
「寝てませんから!」
言葉とは裏腹に思い切り眠そうな花。それでもなんとか螺旋を籠めた掌を、病魔に向かって繰り出す。
「蓮を司る申の神よ! 我ら随神の道目指し、万里の波濤へいざ向かわん! 咲き誇れ水芙蓉、いざや聞こし召せ蓮ノ花神!!」
眠気を堪え、葵依が詠唱を終える。すると周囲に癒しの花が咲き誇る。
「ぐぅ……」
その間に病魔が眠りにつく、そして傷が癒えていく。
攻撃しては回復される。何度繰り返しただろうか……。ケルベロス達も病魔も、ダメージの蓄積が限界近い。そう判断したケルベロス達は勝負を決めるため、一気に攻撃を開始する。
誠がエクスカリバールをフルスイング。続いて花がケルベロスチェインで病魔を締め上げる。
「この身に代えても。其の全てを、断ち切ります」
鎮紅の放つ斬撃が病魔を襲う。
「バリケードクラッシュ!」
エクスカリバールを振り下ろすオーキッド。葵依、藤隆の攻撃が続く。
カジミェシュがグラビティ・チェインを武器に乗せ、叩きつける。ミミックのボハテルもカジミェシュの攻撃に合わせ追撃する。
「もーっ! そろそろ梅雨が来て、その後は楽しい夏が待ってるんだよ? だからもう、五月病は引っ込みなさーいっ! ……日月星辰の太刀っ!」
皆の攻撃で怯んでいた病魔に向かって、サナがトドメの一撃を浴びせた。
サナの攻撃を受け、病魔は霧の様に消滅した。
●休みは終わり
戦いが終わり、鎮紅は駐車場をヒールしていく。
長い戦いで、何度も眠気に襲われたせいか、気を抜くと眠ってしまいそうになる。
あくびをしている花をよそに、ボクスドラゴンのほむら丸はいつの間にか眠っている。
片付けが済むと、ケルベロス達は被害者の青年の部屋へと様子を見に行った。
部屋へと入ると、さっきまで眠って動きもしなかった青年は目を覚ましていて、ウィッチドクターの診察を受けていた。
診察を終え、もう大丈夫とウィッチドクターは先に部屋を後にした。
「……大学、金払ってんだったら行きなよ。勿体無い」
と、藤隆。行く理由ならこれでもいいのではとの提案だ。
「何のために受験を頑張ったのかを思い出せ! 大学に入るため、じゃないだろう? 入学した上でやりたいことがあったはずだ!!」
葵依が励ます。
「今ここならば、誰も見てはいない。一体どうしたのか、話してくれないだろうか」
カジミェシュの言葉に、青年が話し始める。受験の事、入学してからの事、連休の事。
「受験で頑張って減っていた体力がちょうど尽きる時期なんだろうな、この時期は五月病なんて名前があるくらい一般的な事だ。羞じることはない。学生の夏は楽しいというだろ? その為の充電期間だとおもえばいいさ」
青年の話を聞いて誠が答える。
「お兄さん、因みに気になってる子とかは?」
花が遠慮なく尋ねる。
「サナは大学がどんな所かまだ知らないし、お勉強は大変だけど楽しい事もいっぱいあるよね。寝てるだけじゃ勿体無いよっ」
微妙な空気を吹き飛ばすようにサナが話し始めた。
「ボク、ボク、お兄さんの夢、いっぱい応援するねえ!」
「長いお休みは自堕落になりがちですね。けれど、乗り越えてこその新生活。頑張りましょう」
オーキッドと鎮紅が青年を励ます。
その後も色々な話題で盛り上がり、青年も元気になった。その事を皆で喜び、ケルベロス達はアパートを後にした。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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