二つの果実が揺れている

作者:久澄零太

 仕事上りの疲れ切ったサラリーマンが大きく伸びをする。疲れ切った彼が雑木林を通りかかった時だ。人の声のようなものが聞こえた気がして、ふと足を止める。既に薄暗いこの時間帯に林の中から声がする。何か事件でもあったのだろうか……心配になった彼はケータイを片手に、慎重に踏み込んでいく……。
「……果物?」
 そこにあったのは、たわわな果実を実らせた木と……大きな果実(意味深)を持つ女性の姿。それを目にした途端、頭がぼーっとした男性はふらふらと近づいて、果実に手を伸ばそうとするがその指が触れる前に抱き留められ、顔を果実に埋められる。
 柔らかな谷間に沈んだ男性は段々意識が遠のいていき、女性の手が彼のベルトに伸びて……やがて搾り取られた彼は木の根元に埋められて、死してなお木の養分にされていく。

「皆大変だよ!」
 大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、大阪城付近の林を示す。
「大阪城に残った攻性植物達の調査をしてた番犬達が集めてくれた情報なんだけど、この辺りで男の人を誘惑する『たわわに実った果実』的な攻性植物、バナナイーターが出るみたいなの。バナナイーターは十五歳以上の男の人が近寄ると現れて、その果実の魅力で男の人を誘って、絞りつくして殺しちゃってグラビティ・チェインを奪おうとするんだ」
 時折グッと拳を握るユキ。人一倍憤りを覚えているようだが……その理由はまぁ、その、うん、アレだろう。
「攻性植物は、こうして奪ったグラビティ・チェインを使って新たな作戦を行うつもりなのかもしれない……皆にはこのバナナイーターを撃破して、犠牲者を助けて欲しいの」
 ユキは被害者より先に現地に到着できることを示してから、囮役こと四夜・凶(砂時計の命・en0169)を示す。
「一応保険として撒餌をついて行かせるから、もしもの時は使ってね」
「せめて囮って言ってく……ゴフッ!?」
 裏拳で鳩尾にクリティカルした凶が崩れ落ち、ユキは酒と水を取り出して。
「番犬にはバナナイーターの誘惑が効かないから、囮役は誘惑される演技が必要なの。それも一瞬じゃダメだよ。三分くらいは騙さないと、敵は逃げちゃうから……」
 つまり、酔った凶を餌にして、戦闘前には水をぶっかけて酔いを醒まさせればいいらしい。
「バナナイーターは大阪城から地下茎を通じて出てきてるみたいでね、囮と同じ数だけ出てくるみたい。でも、最初の一体以外は弱いみたいだから、ある程度数を出して一気に倒しちゃってもいいの」
 グッと拳を握り、自分が出撃するわけでもないのに気合十分なヘリオライダーは敵の姿を描く。
「敵は胸に相手を挟んで捕まえたり、捕まえた相手から……その……を吸い取って、それを果実に変えて回復したり、番犬にも効く強力な魅了をしてきたりするみたい」
 一部よく聞こえなかったが、察した番犬達はあえてツッコまなかった。頬の熱を取るように両手で顔を挟むユキは火照りが冷めてから番犬達に向き直る。
「ふふふ……果実を使って人を誘惑するなんて、間違ってるよね……犠牲者を出さないためにも、こんな敵は何としてもかっくっじっつっに! ……倒さないといけないよね……?」
 影のある笑みを浮かべた少女の絶壁が、いつもよりも平坦に……もとい、冷徹に見えた。


参加者
シグリット・グレイス(夕闇・e01375)
アリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・e01753)
シィ・ブラントネール(星抱くオロル・e03575)
アレーティア・クレイス(万年腹ペコ竜娘・e03934)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)

■リプレイ


「妹と比べればどっちが大きいだろうか」
 本当に比べたら怒られるんだろうな……なんて遠くを見るシグリット・グレイス(夕闇・e01375)。
「じゃ、後は任せた。安心しろ、骨は拾ってやる。俺の事は気にせず逝ってくると良い」
「いや助けてくださいよ!?」
 火挟みをカチカチ、実にいい笑顔を浮かべるシグリットに凶がツッコミ、白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)はフッと髪をかき上げる。
「やだなー、俺が誘惑に負ける訳無いじゃないかー。囮役だからってはしゃぐ訳無いじゃないかー……まさか胸なんかに陥落すると思ってるのか? 立派に囮役を果たして見せるぜ」
 棒読みで言われても、説得力の欠片もないんですけどね?
「お困りのようだな!」
 始まってすらないよ? 蒼眞がビルの屋上から華麗に着地、親指ビシィ。
「バナナイーターと言えばこの俺! 他の作戦にも参加予定だが、助太刀しちゃうぜ!」
 あんたいくつ参戦してんだ……マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)は真面目に……。
「……良いわね、アレ。手懐けてうちで栽培出来ないかしら?」
 何を言ってるんだ……。
「何って、そりゃあナニでしょ。ちょっとバナナ(意味深)の大きさが物足りないけどそこら辺は魔術なりで品種改良なり出来そうだしね」
 見えないなー、と目を凝らすマイアだけど、あれは雌の個体よ?
「そろそろ作戦開始です」
 卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は水筒を取り出して、凶にそれを差し出す。
「屍は拾ってあげます……頑張ってきてくださいね。まずは一杯どうぞ」
 救えない者を最後まで見届けようとするような、柔らかく慈愛に満ちた微笑みの紫御に首を傾げつつ、身の危険を感じて受け取らないそれを代わりにマイアが取った。
「駄目よ、人に飲んでほしい物は、そういう渡し方しないの」
 そっと口に含んで、凶を素早く抱き寄せた。
「え……ンッ!?」
 疑問を紡ごうとした口をマイアのそれが覆い隠し、閉じた唇を舌先で割り、含んだ液体をゆっくりと流し込んでは舌を絡め、むりやりにでも嚥下させる。それから数秒、酔いが回ってトロン、凶の瞳が蕩け……。
「いってらっしゃい!!」
 る前に、やたら不機嫌なフィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)に突き飛ばされた。そこで永代はあることに気づいた。
(女性陣に見られながらってやりづら!? 誰も見てなければ全力で飛び付いたのに……悔しい!!)
 ……あ、うん。


 三体のバナナイーターが出現し、蒼眞は美しい放物線を描いて果実の谷間へと飛び込んでいく。
「これだよコレ……いつもならヘリオライダーの胸に飛び込むところだけど、今日の女の子は絶壁だったからな……」
 あぁ、だから珍しく落下せずに普通に出てきたのか。頬を二つの果実で挟まれ、自分の両腕を背中から回して押し込むように抱き着く蒼眞。こいつ、慣れている……さすがはおっぱいダイブ&ヘリオンダイブのプロ……!
「さ、触りたい……だけど俺には……ぐわぁぁ!! えっろい!!」
 中二病風に思いっ切り鷲掴みにする永代は歯を食いしばり、いかにも洗脳されてる感を出しつつ指が沈み込む感触ににやけていく。
「手、手が勝手に!? 鎮まれ、右手! 触ったら、触ったら駄目なんだ!」
 震える右手を必死に下げようとしながら、左手はモミモミ……弾力を確かめるかのように握ったり開いたり撫でたりこね回したり……。
「あいつらは何をやってるんだ……」
 そんな様子を眺めるシグリットは虚ろな眼差しに。
「いや、囮役としては何も間違っていないのだろうが」
 主に妹のせいで耐性がついているシグリットには、奇妙な光景にしか見えないのだろう。妹さんそんなにヤバいの?
「胸に誘惑されてみろ、本部に上がった報告書から知れた途端、殴られる。アレで殴られると痛いんだ」
 アレとは?
「妹と……妹の胸だ」
「なんですかソレ!?」
 ガッとシグリットの肩を掴んで兎なのに狼の如き眼光を見せるフィオ。
「胸で殴るってどういうことですか!? 体当たりですか!?」
「いや、その、な?」
 フィオを引き離したシィ・ブラントネール(星抱くオロル・e03575)が彼女を抱きしめる。
「フィオ落ち着いて、あなた焦ってるのよ」
「シィさんお願いだから離して、もっと荒ぶりそう……」
 背中に押し当てられる二つの膨らみに、フィオはぶつぶつ……。
「二歳しか違わないのに、なんでこんなに差が……」
「ほら、何事も個人差があるでしょう? フィオには成長期が来てないだけよ」
「私もう十六なんですけど……!」
 後はほら、血? シィさんの前世は巨乳巫女だったから……。
「そこそこ発育は良いみたいだけどまだまだねえ」
 背中に触れる柔らかな圧力を前に、虚ろ目で自分の胸を撫でるフィオ。戦闘前からKO状態の彼女に対して、マイアはじっと敵を観察。
「そうね……確かに大きいけど、(大きさ的な意味で)物足りないわね」
 三分の待機と言われてカップ麺を持ってきたものの、我慢できなくて麺を割り、そのままおやつタイムなアレーティア・クレイス(万年腹ペコ竜娘・e03934)にマイアが少し目を開いた。
「あら、分かる? もっと(色香的な意味で)匂わせてあげないと。相手の方から無意識に手を伸ばすくらいじゃなくちゃ、人の心は掴めないわ」
「そうよね……色と形がどれだけ良くても、(果実的な意味で)味わえなくちゃ本物とは言えないわ」
 食い違う二人。その勘違いはもうしばらく続く。
「駄目だ駄目だ駄目だ……!」
 台詞とは裏腹に谷間に顔を挟んでスリスリと頬スリをする永代。蒼眞のヤリ方を見て学んだのか、抱き着きながら谷間に沈んでいく。
「く、こんなおっぱいに……!」
 負けてますね。胸元を隠す葉を引き剥がして、カプッ。膨らみに吸い付いてみる。
(敵は人から吸い取って殺す恐ろしい敵……つまり、これは敵を知るために必要な事なんだ……!)
 自分に言い聞かせるように、先端の突起に舌をこすりつけていく……。


「ああああおっぱい様おっぱい様あああああ我らに乳のお恵みを豊かな実りをこの胸にああああおっぱい様おっぱい様あああああ」
 発狂したようにシィの周りを踊り狂うアリス・セカンドカラー(腐敗の魔少女・e01753)。
「胸は揉めば大きくなるって聞きました、誤利益にあやかるのです」
「揉むんじゃなくて、揉まれると大きくなるのよ?」
「え、大きくなるのは揉まれた方?」
 困ったように微笑むシィに、一瞬キョトンとしたアリス。
「嘘だ! いくら揉んだってそんな気配はいっこうにないわ!」
 瞳孔が開き、憎しみを纏うアリスが絶叫。
「あなたたち『持つ物』のはいつだってそうだ! 私達『持たざる者』の気持ちを平気で踏みにじっていく! ちょっとくらい分けてくれたっていいじゃない! ちょろっと揉ませてくれて誤利益にあやからせてくれたっていいじゃない!」
 あぁ、自分で揉んでも膨らまなかった憎しみを込めて『誤』利益なのね。
「それは必要な条件が揃ってないんじゃないかしら?」
「「えっ」」
 アリスとフィオが同時にシィを見る。そこに、微か希望でも見出したような……。
「胸を大きくしたかったら、大好きな人に揉んでもらうの。それがコツね☆」
「綺麗ごとなんかいらないッ!! いいから、その乳揉ませろぉぉぉ、誤利益をよこせぇぇぇ!」
「シィさんの馬鹿! 巨乳!! リア充!!」
「え、えぇ……?」
 ジタバタと暴れるフィオを離し、襲い来るアリスをかわしたシィは困ったように笑うしかなかった。
 ちなみに、シィは一言も『自分も揉まれて大きくなった』とは言ってない。つまりフィオとアリスの胸は……いや、言うまい。
(しかし、なんでこう。男よりテンション高い女の子と一緒になるんだろうね?)
 後方が騒がしい事に首を捻る永代。前にオークの依頼に出向いた時だろうか、その時も色んな意味で酷かった。
(まぁ、おっぱいには万物を引き寄せる重力があるって事かな!)
 こりゅこりゅ、甘噛みしては舌先で撫でて転がし、果実が耐えるように身をよじらせればそっと離し、膨らみを枕に。
(夢にまで見たおっぱい枕が……ここに!)
 謎の達成感に浸る永代だが。
「囮役とはいえ、あそこまでやる必要はあるのでしょうか……」
 紫御が疑惑のジト目を永代に向け、スッと凶の方に目を流すと。
「アウトです、誰が何と言おうと」
 虚ろ目になる紫御。後方の未成年を気にする元教師としては胃が持たなそうですね?
「仕方ありませんよ、これもお仕事ですから……」
 お腹を押さえる先生が胃薬とお友達にならない事をお祈り申し上げます。
「そろそろかしら」
 Tレックスの焼肉を頬張り、一キロのおじやに三十粒の梅干しを混ぜて一気飲みした後、一リットル半のコーラで流したアレーティアが身構えた。
「デザートタイムよね? そうよね?」
 あ、オヤツが尽きたのね。
「誘惑って言うから色々と期待してたんだけど期待外れねえ」
 ふぅ、短くため息をこぼしたマイアが憂い気に敵を見た。
「もっとヤリようもあると思ったのだけど……興醒めだわ。もうこれ以上見ててもつまらないし、仕留めましょう」
「そろそろ戦闘ね! ……あら、フィオどうしたの?」
「あっちが終わる前にシィさんに思いっきり水ぶっかけたくなってくるから目の前で果実揺らさないで下さいお願いだからホント」
 心を閉ざして深淵の眼差しを果実(意味深)に向けているフィオはもう振り向きもしない。蒼眞が思いっ切り顔を埋めたのを見て、自分の胸を見下ろして、歯噛みした。
「私だって……!」
「フィオ、悲しむことはないの。世の中にはああいう人もいるから……」
 シィに釣られてフィオが凶を見て……カァ。
「何やってるんですかー!!」
 ピッチャー、振りかぶって、投げたッ!


「ゴフッ!?」
 容器が頭にぶつかり、水浸しになる凶。酔いがさめた彼の前には、蕩けた表情で物欲しそうにジッと見つめるバナナイーター。
「何があった!?」
「もう時間か……残ね……もとい、本気で行こうか!」
 本音が漏れかけた永代が体に白焔を纏うのだが。
「ああいうの、酔ってないとやってくれないの?」
「え、待って、私何かやらかしてませんか!?」
 記憶を失った凶にマイアと腰砕けの果実が迫ったり。
「ああああおっぱい様おっぱい様あああああ我らに乳のお恵みを豊かな実りをこの胸にああああおっぱい様おっぱい様あああああ」
 アリスが果実の周りで踊ってたり。
「何としても倒す……!」
「その果実はどんな味がするのかしら……」
 大斧を肩に担いで瞳を真っ赤にしたフィオと涎を垂らして爛々と目を輝かせるアレーティアが捕食者オーラを放ってたり。
「もはや戦闘じゃねー!?」
 そりゃ変態枠の永代もツッコむよね。
「守りを固めましょう。ええ、しっかりと、強固に、確実に」
 遠い目をした紫御が「見せられないよ!」のフリップを持った分身を展開、フィオ、アレーティア、アリスと言ったお子さま達の前に立ちはだかり(一部手遅れだけど)健全な心を守れるように待機しつつ、特に被害に遭いそうなフィオに加護を与える。
 紫御もまさかこうなるとは思っていなかっただろう。学生の恋心を守ることになりそうな依頼より、複数の子どもが見てはいけない物を見てしまいそうな依頼に参加した結果、抑止力として働くことになるとは。
「いいんです……教師とは子どもたちの成長を見守るもの……あぁああでもなんでこんな時にぃいいいい」
 出撃前に呼び出しが来た為に諦めたせいか、崩れ落ちる紫御なのだった。
「早急に仕留めるとしよう」
 主に胸を見ていたとか、触れあっていたがっていたとか、その手の噂が立つと自分の身が危ないシグリットが二挺拳銃を構え、果実は花粉のようなモノをまき散らすのだが。
「おっと、出番だぞ」
「なにゆえっ!?」
 永代を蹴り飛ばしてバナナイーターにぶつけ、被害を彼一人に抑えた。
「あんなに飛び込むことを楽しんでいたじゃないか」
 実に淡々と答えられてふらふらと帰ってくる永代。
「胸に貴賤なし!」
「私ぃ!?」
 紫御の文字通り小さな胸にダイブ……(外見)十一歳の幼女に飛び込む成人男性というヤバい構図に。
「小さくて平坦なのもありだと思うんだッ!!」
「いーやー!」
 ジタバタもがく紫御だが、まぁ体が子どもだからね、うん……。
「長引かせると痛手を負いそうだな……社会的な意味で」
 金銀二挺の銃に銀弾を装填、刻まれた退魔の文字に重力鎖を走らせて、銃の銃底を重ねるように構えたところでアリスが射線に入ってきた。
「駄目よ! 撃ってはダメ!!」
「お前も洗脳されたのか……?」
 弾倉を回転させ、銃弾をヒール用に切り替えようとするシグリットだが、違うっぽい。
「おっぱい様を揉みしだくことで私たちは新たなステージへ進むことができるの! あなたに私の未来は奪わせない!!」
 呆れかえったシグリットの前で、アリスは腰を抱き寄せて胸を鷲掴みに。女性に襲われ逃げ出そうとするも、キュッ。強めに握った刺激で脱力させられ動きが鈍くなる。
「さぁおっぱい様、私にその誤利益を……!」
 掌で包み込むようにして掴み、少しずつ握り込むようにして柔みを味わいながら手の中で転がし、その先端に食いついた。
「ずるい、私だってお腹空いてるのよー!!」
 反対側の膨らみにアレーティアが食いついてかじかじ。しかし弾力を前に噛み切ることはできず、歯が表面を滑りその度にピクッと震えて。
「感じてるの? ふふ、おっぱい様も実は初心なのかしら……」
「食べにくいわね、やっぱり先にもがないとダメかしら」
 二人の手が、淡く魔力を纏う。
「さぁ、誤利益を寄越しなさい!」
「たわわに実った果実は全部私がもぎ取ってあげるわ!」
 左右から膨らみを掴まれ、むにぃいいい……。
「……介錯、というやつだ」
 あられもない姿で悶える眉間にシグリットが弾丸を撃ち込み、撃破。その様子を眺めていた二体目は周囲に木々を生やして障害物とし、身を隠そうとするのだが。
「ヴィト!」
 翼を広げて飛び立つシィの体を刺々しい鱗の蜥蜴が這い上り、手元でサックスに姿を変えた。大きく息を吸い込むと共に、地上の紳士的な心霊がピアノを呼び出し、そっと腰を据える。
「いくわよレトラ、私達の三重奏を見せてやりましょう!」
 上空と地上で奏でる二重奏。ピアノがリズムを刻み、旋律の上でサックスの音色が踊る。重なるメロディは木々をすり抜けて、触れた邪魔者を焼き尽くし、道を切り開く。反撃に移ろうとする果実へ、くすり。
「言ったでしょう、これは三重奏なの」
 シィの微笑みに果実の片腕が宙を舞う。広い空間は『彼女』の独壇場。
「わざわざ見せつけてるんですか……!」
 瞬く間に距離を詰めたフィオが槍斧を短く構え、斬り上げた慣性に体を持っていかれるようにして後方へ引き絞り、踏みとどまる脚に力を込めて全体重を前へ。殴りつけるようにして反対の腕を斬りおとし、後退ろうとする果実を二つの音色が紡ぐ炎の壁が覆い、その場に縫いとめる。
「私だって、少しくらい実ってるんだからぁあああ!!」
 叫びと共に根を断ち、背後に回れば幹を斬りつけて、振り向き様にその顎を柄で打ち上げて姿勢を崩し、そのたわわな果実を抉るように刃を突き立てて武器を手放し後方宙返り、両手で体を支えて狙いを定め、全身のバネを持って蹴りつける。
「やっぱり素敵ね」
 見惚れるシィの眼下、果実をぶち抜いたハルバードが彼女の前まで飛翔、それを回収に跳んだフィオの真っ赤な瞳と見つめ合い。
「あら、泣いてるの?」
「泣いてない、グラビティのせい!」
 ぷいっ、ソッポ向いたフィオが地上へ帰って行く。
「……手懐けるのは難しそうねえ。ちょっと、ミストルティン? 貴方、アレを取り込んで支配とか同化とか出来ないの?」
 話しかけられた水仙の花が首を振るように花弁を揺らす。いや無理だから! と言わんばかりの様子にため息。
「仕方ないわね……種でも採って帰りたいのだけど」
 頭からつま先まで、舐めるように降りていく視線にビクッ、身の危険を感じたのだろう、ゆっくり逃げようとする果実を後ろからマイアが抱き留めて、バッと振り返った瞳を見つめ合う。
「さぁ、あなたの種はどこかしら?」
 少しずつ、少しずつ、指先が肌を滑り、その度にこそばゆい感触が全身を駆け抜けて、やがて激しく痙攣した果実はくたっと地面に倒れ込み、もう動くことはなかった。
「お疲れ様でした……お酒が変な形で回っていたりしませんか?」
「うぅ、早く耐性をつけないと悪用されそうです……」
 紫御が凶に水を差し出し、けれど彼は首を振る。戦闘も挟み、酔いが抜けた凶は背中にマイアの視線を感じていた。ちゃんと水を使ってもらえなかったら、危なかったかもしれない。
「一体どれほどの男性がこのバナナたちの餌食になったのだろうか……いや、一部は楽しんでいるから餌食ではないのか?」
 色々思うところはあるけども、シグリットが締めくくり一同は帰路へ。
「待って、置いてかないで!?」
「またバナナイーターに会えるかもしれんぞ?」
「それはそれで……いやいやいや、危ないって、降ろして! 助けてぇえええ!?」
 紫御に縄でグルグル巻きにされて木から吊るされ、シグリットにも見捨てられた永代の悲鳴が響いていく……。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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