ミッション破壊作戦～強固なる魔空回廊を砕け！

■リプレイ

●積み上げてきたもの
　グラディウスを手に持ったケルベロス達は、覚悟を決めてヘリオンより飛び降りた。
　佐賀県唐津市。ここは現在『巨大人型デウスエクス』、ユミルの子達によって制圧されている地域だ。
　ケルベロス達は、この場所を知っていた。それは直接的であったり間接的であったりと様々であった。
「さあて、明日のぐーたらのためなら、おねーさんがんばっちゃうぞー」
　クリームヒルデ・ビスマルク（自宅警備ヒーラー天使系・e01397）は、眼下に広がる荒廃した唐津市を見て思う。
（「唐津の烏賊の一夜干しとかハウスミカン、甘夏みかんもおいしいです」）
　それを感じ取ったバン・トールマン（番頭するマン・e25073）が頷く。
「ここにもかつて温泉街があったって聞きやす、まあ、同業というやつです。
　その活気も、オレ達ヴァルキュリアの過去もエインヘリアルに奪われた」
　バンはそう言って、グラディウスを握り締める。
「オレ達の過去は取り戻せなくても、この場所の活気は、オレにとっての家族の象徴である温泉宿は、取り戻すことが出来る！
　だからここで必ず返してもらいやすぜ。オレ達の過去の分まで、地球の人達の未来をなッ！」
「おー。熱いですね！　ここで盛り上げるのが、プロフェッショナルな自宅警備というものです。みなさん、行きますよ！」
　バンの言葉にクリームヒルデはそう言って、衣装をゼーミアミン・ドレスへと変える。
「唐津の人々を恐怖に陥れるだけでなく、奪還を試みる毎に暴走者や負傷者を出してきた。それでも尚、我が物顔で闊歩するお前達を許せない」
　二人を見ながら、自らも感じていた思いを吐き出すアトリ・セトリ（常盤の片影・e21602）。
「何を想い蹂躙の限りを尽くすのか……。でも、そんな事は重要じゃない。全力を以て作戦に臨んだ方々に応える為にも、回廊は絶対に破壊する」
「ええ、アトリさん。俺も同じ想いがあります」
　北條・計都（凶兆の鋼鴉・e28570）は、アトリの言葉に、この地で暴走した自らの先輩を思い浮かべる。
「こんな奴らのためにこれ以上誰かが犠牲になる、そんなの俺には耐えられない……！
　だから！　これ以上犠牲を出さないためにも、今ここで砕く……！　終わらせる！
　唐津市は返してもらうぞ、ユミルの子ッ！！」
「その通りです。突然失われる事は珍しくないけど、だからこそ日常ってかけがえのないもの」
　御子神・宵一（御先稲荷・e02829）もこの地で暴走した友人に想いを馳せる。無事に帰って来たとはいえ、本当に心配だった。
（「彼や彼女や同行してた人達が、心も体も傷付けられたのは事実だし。皆で迎えに行くから大丈夫だと思っていた一方で……もう戻って来ないんじゃないかという不安はずっとあった……」）
「そういえば、此処に行くって言ったら、心配されてしまいましたね……」
　宵一はそう呟くと、眼下にいる強敵を想像する。
「さてユミルの子とやら、友人達を傷つけてくれた返礼だ。此処で重傷を負ったり暴走した人達の献身に応える為にも、かけがえのない日常を共に過ごす仲間をこれ以上傷つけさせない為にも、必ず此の回廊は破壊する！」
　それぞれの叫びに呼応するように、グラディウスが輝きを増していく。
　その光を受けながら、津雲・しらべ（ますこっと・e35874）は先日の戦いで暴走した仲間の事を想う。
「無月さんが、暴走した……場所……。たった一度の縁……でも……私には宝物……。大切な仲間が、暴走させられた……。
　それに、唐津を……大切に、思う人から……奪った……。
　それが……許せない、赦さない……！」
　暴走した仲間、それは彼らダリル・チェスロック（傍観者・e28788）と岡崎・真幸（脳みそ全部研究に費やす・e30330）の目の前で起こった悲劇でもあった。
　彼らは、再びこの地に来た。その仲間はまだ見つかっていない。きっと誰かが見つけてくれるはずだ。
　それよりも、まずこの地に終止符を打つ事を選択したのだ。
「共に戦った無月君の行方も未だ知れず。彼女や、住人や、仲間達に理不尽な戦いを強いる存在を許してはおけない。五度目だとか、そういったは些細な事。破壊する」
　ダリルはその言葉と共に、ふがいなかった自分への怒りも込めた。その声は低くただただ、貫き、破壊するを強く願った。
「俺も……同じだ」
　真幸は、自分より若い奴を暴走させてしまった後悔と、情けなさ。そして、仲間から聞いたかつての唐津市の景色の事を想う。
「お前らのせいで大勢に借り作りすぎて返せねえ……。他の奴らもここでつまづいてるし、今一番の障害だ。
　マジで回廊邪魔なんだよ……。でもな、もう死人も重傷も暴走も出させねえ！
　それに、俺はこの地の景色。美しい景色を見たい。……それを荒野にしやがって。
　それだけの文明築くのに人間がどれだけ時間かけてると思ってやがる！　価値が分からない奴らだ、許せねえ！
　お前らが居ない景色を取り戻す。どんなに時間かかろうとも復興させてやるよ！」
　それぞれが想いをグラディウスにこめていく。各々のグラディウスから雷鳴がほとばしると、そしてそれは一つの輝く龍の如き様相を作り出した。
　そして、ケルベロス達がグラディウスを振り下ろすと、爆音が発生し、その雷が強襲型魔空回廊の周囲を覆っていたバリアとへと直撃する。
　いつものように弾き飛ばされてしまうのか。いや、もうそんなことはさせない。弾かれても、何度も何度もバリアへと襲い掛かる雷光。それは、ケルベロス達の想いを具現化していた。
　ケルベロス達は更に叫び、ありったけの想いを込めた。
『閃かせ、征伐の刃を！　期は熟した、今こそ蒼き海と緑の風に抱かれし彼の地を解放する時！　彼の地の恵みを！　再び我らの手に！』
『ここで、砕けろぉぉぉ！！』
『胸の内に煮え滾る想い……その全てを込めて撃ち抜く！　潰えなよ、魔空回廊！』
『この剣の輝きはッ！　お前の犠牲になった人々の！　土地の！　そして俺の怒りだッ！！』
『もう誰も傷付けさせない！　今此処で砕け散れ！』
『さぁ！　復讐を！　報復を！　ユミルの子に、魔空回廊に、鉄槌を！　すべてを砕け、グラディウス！』
『今すぐ、この地から、消えて無くなれ。……無月君を帰して貰おうか！』
『今回こそこの地を奪還する。消え去れ！』
　すると、バリアに発生していた一つのほころびから、ひび割れが走っていく。そのほころびは、以前につけられた溶けることがない力だった。
　そしてそのひびは、バリアを一瞬に覆いつくし、壊れた。
　あっけなく、音も無く、崩壊していく強襲型魔空回廊のバリアをもてあそぶように、その龍は縦横無尽に駆け巡り、地上へ、そして回廊そのものへと達していった。
　消滅していくバリアはキラキラと月光を反射し、そして消えていったのだった。
　夜空を見上げると、覆っていた雲が割れ、月の光が差し込んだ。それは、魔空回廊の破壊を意味していた。

●覚悟
「よし。引くぞ！」
　地上に降り立ったケルベロス達は、その場所にいるユミルの子に雷光が襲い掛かるのを確かめ、素早く離脱していく。
　増援の無くなったユミルの子は、程なくミッションを行うケルベロス達によって駆逐されていくだろう。
　やっと破壊できた魔空回廊。だが、グラディウスを守って無事に撤退するというその任務が、かなりの難度である地域であることも知っていた。
　この後やってくる、化け物。何人ものケルベロス達が暴走した敵が向かってくるはずだ。
　ケルベロス達は、自分に何があっても良い様に、グラディウスをクリームヒルデに預けながら走る。
「……！」
　その時、ぞわりとした殺気にバンが後ろを振り返った。凄まじいまでの殺気がケルベロス達の後方から迫ってきていたのだ。
　その殺気は、ケルベロス達の上空をやすやすと通過すると、ケルベロス達が向かうはずだった先へと到達し、ゆっくりと振り返った。
「来たか……！」
　前回ユミルの子と相見えたダリルと真幸は、これまでとは全く異なる殺気であることに気がつく。月光に照らし出されたユミルの子の姿に、恐怖の二文字が直撃する。
「怒ってる……のか！？」
「さて、どうでしょうか……。ですが、こちらも準備はしています」
　ダリルは真幸にそう返しながら、前に出る。
「ええ……」
　宵一もダリルの隣に並び、斬霊刀『若宮』を抜き放ち、狐の耳をぴくぴくと動かす。
「キヌサヤ、頼んだよ」
　アトリがウイングキャットの『キヌサヤ』と共に最前列へと進み出ると、計都のライドキャリバー『こがらす丸』と真幸のボクスドラゴン『チビ』が続き、その他のメンバーは後方へと下がった。
　自らの経験や、他のケルベロス達の報告書から、敵の強さ、特徴を全て把握していたケルベロス達は、この為に用意した作戦を決行する。
「ガアアアアアアア！！」
　そして、突然ユミルの子から右の拳が放たれた。
　ドゴッ！
　鈍い音を立て、チビが吹き飛ばされ、気絶する。
「やっぱり早いね！　……キヌサヤ！」
　そして、間髪いれずに放たれた左の拳が、アトリを守ったキヌサヤに叩きつけられ、キヌサヤも気絶した。
「キヌサヤ……有難う」
　アトリはそう言って、オウガ粒子を放出させ、前へ行くメンバーに降り注がせる。
「混沌の子だって、蹴り砕いてみせるさ……」
　計都が怯む事無く、その巨大な足に飛び蹴りを放つ。
「デカブツは末端を狙え、師匠から教わった鉄則でね……！」
　計都の蹴りは、ユミルの子の腱に直撃する。それを見てダリルが飛び上がり、電光石火の蹴りを放つ。だがその蹴りは空を切る。
「まだ、足りないようですね」
「行きます！」
　宵一が叫び純白の狐の姿をした雪の精を召喚する。
『雪華を具して参れ。』
　若宮に施した雪の霊力を、その腹部へと切りつけ、すぐに距離を取る。すると、その切り口から氷が発生する。
「まずは、その回避力を奪ってやる！」
　真幸の狙い済ませた飛び蹴りが、ユミルの子に膝をつかせた。
『祈りましょう、明日のために。願いましょう、人の子等の安寧を。唱いましょう、天上に響く高らかな凱歌を。』
　クリームヒルデが祈りを込めた歌を高らかに響かせる。その歌声は言霊となり、後方の者達に勇気を与える。
「すべて……守ると……決めたから……」
　クリームヒルデから貰った言葉を力に変換し、前衛へとヒールドローンを与えるしらべ。その瞳の力は、護り抜く覚悟で溢れていた。
『忍法、影縫い』
　バンがグラビティを込めた下駄箱鍵を月光によって作り出されたユミルの子の影へ向かって投射する。すると、その影と鍵が結び付けられた。
「混沌や闇の中は、オレのフィールドでもありやすぜ！」
　ケルベロス達は盾の力を施し、まず、敵の足を止めることに集中させた。ケルベロス達の策とは、中衛を捨て去ることだった。
　攻撃に長けた者、防御に長けた者、そして狙いに長けた者と少しの時間でも耐え抜く力を与える者のみに絞ったのだ。
　ほぼ全員が、皆で帰還する事を考えながら、犠牲は自分ひとりで十分だと考えていた。策も、力も、そして覚悟もある。
　ユミルの子が、宵一に向かって拳を放つ。
　ドゴ！！
　それを庇ったアトリが吹き飛ばされ、瓦礫に身体を打ち付ける。
「アトリさん！」
　だが、彼女はその瓦礫をどけながら、また、前に出る。
「大丈夫だよ……まだ行ける。ここで倒れてちゃ格好つかないもの、ねえキヌサヤ」
　彼女が立っていられたのは、先ほどのヒールドローンが幾分かダメージを肩代わりしてくれていたおかげだった。
　クリームヒルデとしらべが素早くその傷を塞いでいく。
「有難う。……皆で、生きて帰るよ」

●想いは一つとなりて
　ケルベロス達は後方から、足止めの力の効果を一気に加速させていった。
『生を啜られゆく感覚、じっくりと味わいなよ』
　そこに、アトリが活性能力を徐々に奪う仄暗き影の弾丸を撃ち込み、宵一と真幸によって一度打ち込んだ様々な力を増加させ、更に計都が氷を付着させていく。
「コオオオオオオオ！！」
　ユミルの子は叫び狂うように、こがらす丸を動けなくしていく。まだその力そのものは健在のようだった。
　だが、ケルベロス達も、その力を封じるべく動く。今度はその腕を強襲させ、拳を封印すべくグラビティを力の限り打ち込んでいった。
　完全に足が止まったユミルの子の拳に、容赦なくグラビティが直撃していく。
　だが、まだ完全に防げていたわけではない。
「コオオオオオオオ！！」
　再び怒りの叫びにより、アトリが膝から崩れ落ち、倒れる。
「結構……もったね。みんな、あと……頼んだ、よ」
「すまん。後は俺たちに任せろ」
　真幸がそう言うと、異界の神を一部召喚していく。
『来たれ神性。世界に恐怖を刻みつけろ。』
　動けなくなったユミルの子に、今度は逆に恐怖を植えつける。そして更にケルベロス達は猛攻を加えていく。
「グ……ガアアアア」
　ユミルの子は、その傷を塞ぐべく、力を籠める。だがその傷の治りは、余り上手く塞ぐことが出来ていないようだった。
　それは、アトリによる置き土産だった。
　それどころか、幾重にも張り巡らされた氷で、自らを傷つけていく。
「グオオオオ！！！！！」
　更に反撃を試みようと叫ぶが、その拳は既にユミルの子の意思に反して動かない。
「みなさん！　唐津くんちみたく、盛り上がりますよ！」
　勝機と見たクリームヒルデが、取り出した爆破スイッチを勢いよく押すと、後方のメンバーの背後にカラフルな爆発を発生させる。
「ここで負けるかぁぁぁ！」
　無理矢理動こうとするユミルの子の影に、渾身の力で再び鍵を打ち込むバン。そして宵一が若宮でその頭部を切り付ける。
「こがらす丸、一緒に……」
　計都が動けなくなったこがらす丸と合体し、その力を増幅させ、飛び上がった。
『これが、俺の…俺達の！精一杯だぁぁぁッ！！』
　ユミルの子の遥か上空まで飛び上がると、背中から炎の翼を噴出させながら一気に急降下し、その肩口を破壊していく。
「轟けや閃光、駆け抜けし雷鎖。彼方、雷雲より響き渡るは地を揺るがす轟音の。震えし気は塊となり、遮るものを突き破る。いかなる術で耳を塞ごうと、破壊の鳴は高らかに謳う」
　ダリルが雷雲を呼び出し、煙草に火をつける。そして、吐き出す煙と共に命令する。
『謳え雷、地に響け』
　ドォン！！！！
　その凄まじい轟音が、ユミルの子の肉体を破壊し、倒れていく。
　そして、その倒れたユミルの子にしらべがゆっくりと歩み寄り、抱擁する。
『……あなたに…贈る…最期の……温もりを………さようなら…』
　しらべの刃がその首を切り落とした時、ユミルの子は叫びを上げることも無く、唯静かに消滅していったのだった。

　月明かりが朝日へとその光の行方を変えていく。遠くに、迎えのヘリオンが見えた。
　それは、長きに渡りケルベロス達を苦しめた、この地域に差し込んだ光だった。

作者：沙羅衝	重傷：アトリ・セトリ（深碧の仄暗き棘・e21602）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年6月1日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 16／感動した 2／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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