研ぎ、澄まして

作者:雨音瑛

●研ぎ師のもとへ
 道化師と軽業師の格好をした螺旋忍軍が、ミス・バタフライに頭を下げた。あなたたちに使命を与えます、とミス・バタフライは言葉を続ける。
「この商店街に、日本刀を研ぐことを生業としている人間がいます。彼と接触し、仕事内容を確認するのです。可能ならば技術を習得した後、殺害しなさい」
「恐れ入りますが、グラビティ・チェインは——」
「略奪してもしなくても構わないわ」
 問いかけた螺旋忍軍の言葉を遮り、ミス・バタフライが答えた。螺旋忍軍は、うなずき、立ち上がる。
「承知いたしました、ミス・バタフライ。意味の無いように見えるこの事件も、やがて地球の支配権を大きく揺るがすのでしょう」
 螺旋忍軍たちは頭を下げ、その場を後にした。

●ヘリポートにて
「ミス・バタフライという螺旋忍軍が動き出したようだ」
 ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)が、ヘリポートに集まったケルベロスたちに告げる。ミス・バタフライが起こそうとしている事件そのものは、大したことが無い。しかし、巡り巡れば大きな影響が出てしまうかもしれないという、厄介な事件だ。
「警戒したのは確かに俺だが、本当に日本刀の研ぎ師が狙われるとはなあ」
 不知火・梓(酔虎・e00528)の言葉に、ウィズがうなずく。
「今回、螺旋忍軍は日本刀の研ぎ師のところに現れる。仕事の情報を得たり技術を習得したりといった行動の後、研ぎ師を殺そうとする、という事件となる」
 この事件を阻止できなければ、風が吹けば桶屋が儲かるかのように、ケルベロス側に不利な状況が発生する可能性が高い。
「そうでなくとも、デウスエクスに殺されようとする研ぎ師をみすみす見逃すことはできないだろう」
 研ぎ師の保護と、ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破。それが今回頼みたいことだという。
「さて、敵との接触方法だが……基本的には、狙われる研ぎ師を警護し、現れた螺旋忍軍と戦うことになる。ただし、事前に事件について説明して研ぎ師を避難させてしまった場合は、螺旋忍軍は別の対象を狙ってしまう。結果、被害を防げなくなってしまうので気をつけてくれ」
 そして、今回は事件の3日前くらいから研ぎ師に接触できる。事情を話して仕事を教えてもらえれば、螺旋忍軍の狙いを自分たちに変えられるかもしれない。とはいえ、囮になるには見習い程度の力量を求められることになるが。
「研ぎ師の見習い、か……かなり必死に修行する必要がありそうだな。囮になる場合は、ぜひとも頑張ってくれ」
 次は敵の情報を、と、ウィズがタブレット端末の画面を切り替えた。
「戦うことになる螺旋忍軍は2体。片方が道化師のような格好を、もう片方が軽業師のような格好をしている」
 道化師はさまざまな状態異常をいくつも与える攻撃を、軽業師は日本刀を使った攻撃を仕掛けてくる。
「なお、囮になることに成功した場合、技術を教える修行と称して2体の螺旋忍軍を分断したり、一方的に先制攻撃を加えるといったことが可能だ」
 うまく事を運べば、有利な状態で戦闘を開始できるだろうと、ウィズは説明を終えた。
「最近は鍛冶師が注目されがちだが、研ぎ師だって大事だからなあ」
 と、梓は自身の所持する刀をちらりと見た。


参加者
アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)
不知火・梓(酔虎・e00528)
ナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
巴江・國景(墨染櫻・e22226)
ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)
ローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)

■リプレイ

●黄金刀も差いてみよ
 さびれた商店街を行き交う人は少なく、シャッターが降りたままの店も目立つ。その中でもひときわ古い店舗が、ケルベロスたちの目指す場所だ。
「まさか、ホントに砥ぎ師が狙われるとはなぁ。この場合は、事前に判って良かった、っつーとこか」
 不知火・梓(酔虎・e00528)が、木製の立て看板をじっと見た。
 入り口となっている磨りガラスの引き戸、その隣には不釣り合いなインターホンがある。巴江・國景(墨染櫻・e22226)がボタンを押した。数秒ののち、無愛想な声が返ってくる。
「はい、刀剣研工房の石渡です」
「本日は刀の研ぎ方について習得に参じました」
 國景がそう言うと、インターホンでの通話が終了する。室内から足音が聞こえて扉が開き、白髪交じりの老人が顔を出した。刀剣の研ぎ師、石渡・源五だ。
「いち、にぃ……8人か、すまねえが、一度にやるにゃあちょっと場所が足りねぇ。……待てよ、金属棒の残りはどれくらいだった……?」
 ぶつぶつと続ける源五の話を遮るように、鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)が前に出る。
「ごめんな研ぎ師さん、体験じゃなくて……ああ、結果的には体験することにはなるんだけど、俺たちはケルベロスなんだ」
「うん? ケルベロスが連れ立って研ぎ体験?」
 首を傾げる源五の前に、ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)も進み出た。螺旋忍軍が研ぎ師の技術を狙っていること、源五の命が危ないことを説明する。
「私も剣士の端くれ、刀を振るうことができるのは鍛冶師や研ぎ師の方々の力あってこそ、ということは理解しているつもりだ」
 丁寧に言葉を重ねるヴァルカンを、源五がじっと見ている。
「此度は貴方を守るためというのも勿論だが、我等を支えてくれる技術の一端、是非ともこの身で味わいたく。どうか、御教授願いたい」
 ヴァルカンは両手をつき、深々と頭を下げた。沈黙の中、源五のため息が聞こえる。
「兄さん、顔を上げな」
 ヴァルカンが顔を上げると、源五の顔には笑みが浮かんでいた。
「そこまで言われたら、教えないわけにはいかないわな。作業場は狭い、一度に全員は無理だが、入れ替わりながら教えてくぞ」

 源五の指導のもと、國景は持ち込んだ脇差を鞘から抜き、柄を外した。
 まずは砥石を使って刀の形を整えるところから。最初は目の粗い砥石で、続いて前段階よりも目の細かい砥石で。
「粗い砥石での研ぎ目を消すようにしてな。研ぐ方向は少しずつ変えるんだ」
 源五の言葉に無言で首肯し、國景はただただ研いでゆく。
「拙者は『蜘蛛切り』という包丁を参したでござる!」
 マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)が取り出したのは、5本の包丁。その様子に、源五は申し訳なさそうに言葉を濁す。
「包丁、か……包丁は刀とは勝手が違ってなあ。研ぐところまでしか教えられねえが、それでもいいか?」
「なんと、そうなのでござるか! もちろん、この包丁を研ぐのだけでも十分でござる!」
「よし、それじゃあ後の行程は金属棒で体験するとして、嬢ちゃんはこっちの包丁用の研ぎ石を使ってくれ。私物で悪いがな」
 源五に渡された砥石を水に浸し、数分待つ。砥石を滑り止めの上に置き、マーシャは包丁を構えた。
「包丁の角度は、10円玉が一枚入るくらいの角度でな」
「10円玉一枚でござるな……こ、このくらいでありまするか?」
 源五はそっと包丁に触れ、マーシャが構えた角度を微調整する。
「このままゆっくり、な」
「むむ……ちゃんとやるとなると、包丁でも十分難しいでござるな……」
 眉根を寄せ、マーシャは包丁を研ぐのだった。

●白刃踏む可し
 刀身の丘陵、その曲線を消さないように。そんなアドバイスを受け、アマルティア・ゾーリンゲン(リビングデッド・e00119)はじっと刃を見つめた。
「普段は研ぎ師に任せていたが……実際はこんな風にやっているのか」
 興味深そうに作業を教わっては、アマルティアは手を動かす。同じく自身も研ぎは知人に任せ、普段の手入れは軽く済ませているナディア・ノヴァ(わすれなぐさ・e00787)が、こくりとうなずいた。
「私も研ぎは初めてだ。……上手く研げるだろうか?」
 持ち込んだ斬霊刀を手に、ナディアは不安そうな表情を見せている。
「おいおいナディア、大丈夫か? 自分の手研がねェようにな」
「ローデッドこそ。体験用の金属棒を削りすぎて折らないようにな」
 軽口を叩くローデッド・クレメインス(灰は灰に・e27083)に、ナディアも言い返す。
 研ぎが終わったら『金肌拭い』。源五の用意した『金属の粉末に油を混ぜたもの』を刃に置く。そしてそれを綿で拭い、刃に黒い光沢を出してゆくのだ。
「酸化鉄の微粉末と丁子油を混ぜたものを漉したのが、これだ。配合は職人によって違ってな……ま、企業秘密みてえなもんだ」
「なるほど。しっかり技術を身に付けて、いつか日本刀のほうも研いでやりたいな」
「日本刀のほう?」
 ナディアの言葉に反応したのは、郁。
「形見なんだ、大事な人の」
 答え、やや不器用ながらも刃の上に油を混ぜた微粉末を置いてゆく。
「……俺ぁの鈍らも斬れるよぅになんのかねぇ……」
 梓が首を傾げ、持ち込んだ斬霊刀「Gelegenheit」に置いた粉末を油で拭った。
「戦闘時はグラビティで強引に斬ってるんだよなぁ……」
 鈍らとはいえ、大事な梓の相棒だ。梓は煙草代わりの長楊枝をくわえてぼやきながらも、修行自体は真剣に行ってゆくのだった。

 金肌拭いが終わったら、刃の刃文を見えるようにする作業だ。
 どこまでも丁寧な作業に、誰もが肩に力が入ってしまう。肩をぐるりと回し、ローデッドがつぶやく。
「身近に刀使いは多いが、こうやって向き合うのは初めてだ。でも折角習う機会が得られたんだ、あいつらの得物も手入れ出来る手前を目指したいな」
 黒く光る金属棒を手に、丸く切った紙やすりのようなもので刃文を見えるようにする。
「その調子だ。親指の先で擦るんだ」
 源五の助言にうなずき、ローデッドは丁寧に作業をする。しかし時間は限られている。可能な限り本数をこなそうと、終えたそばから金属棒を砥石で研ぐ作業を始める。
「歪んでるようにも見えるな……こんな感じでいいのか?」
 手先が器用な方ではないものの、武装を綺麗に強くしようと郁は奮戦していた。源五や仲間に都度問い、納得してはゆっくりと手を動かす。
「刀は繊細ですね……如何に集中力を保つかという所が分岐です」
 輝く刃文の出来た刃を、國景は目を微笑みながら見遣る。
「刀そのものも然ること乍ら、研ぎの技術は芸術のようですね」
 角度をつければ、黒と白のコントラストが際立った。

 そうして3日間はあっという間に過ぎ、螺旋忍軍襲撃の日が訪れた。
「囮ができそうなのは、ローデッド、國景、ヴァルカンの三人だな」
 源五の言葉に、ケルベロスたちは視線を交わしてうなずいた。囮となる者以外は外に身を隠す算段となっている。
 三人が店に並び、螺旋忍軍を待ち受ける。
 店内の日本刀を眺めながら待てば、突如二人の螺旋忍軍が訪れた。
「失礼する。刀の研ぎを教わりたいのだが、研ぎ師はいるか」
「私たちがそうだ」
 ヴァルカンが答えると、螺旋忍軍のひとりは刀を取り出した。
「では早速……」
「待て待て、まずは材料を取りに行く必要がある。いったん外に出ようぜ」
 ローデッドの言葉に、螺旋忍軍が不服そうに刀を下げた。
「これも貴方方を見込んでの修行。受けることに全ての神経を研ぎ澄まして下さい。そうすれば必ずや研ぎの精神に辿り着くことを保証致しましょう」
 さあ、と、國景は店の外に出るように促した。

●いざ、尋常に
 三人が店から出てくるなり、他のケルベロスたちが螺旋忍軍を取り囲んだ。
 鍔のない直刀を手に、アマルティアが進み出る。
「悪いが、この業を持ち逃げさせるわけにはいかないな――今なら瞬きの間にお前たちの首も落せそうだ」
 研ぎたての刀で風を斬り、見得を切るアマルティア。縛霊手「Strafe」を構え、祭壇から仲間の耐性を高める紙兵を散布する。続けて郁も同じように紙兵を降らせた。
 ボクスドラゴン「パフ」はパフは封印箱に入り、箱ごと軽業師へと体当たりをする。
 長楊枝を吐き捨て、梓はGelegenheitの柄を握った。意識は戦闘へ。軽業師に達人の一撃を加え、反対側に回りこむ。
 地獄の炎を惨殺ナイフに纏わせた國景が、軽業師の懐へと踏み込む。直後、勢いをつけて叩きつける。
「先生は拙者が護るのでござる……!」
 店の入り口を背にしたマーシャは縛霊手「【城塞】倶利伽羅砦」を向けた。光弾を発生させ、敵に向かって放つ。着用した新撰組の羽織がはためき、着弾音が響いた。
「研ぎの技術を盗もうなどという不埒な輩は、拙者たちが完膚なきまでに叩きのめすでござる! まちゅかぜも続くのですぞ!」
 マーシャは後方にいるライドキャリバー「まちゅかぜ」へと声を掛け、攻撃を促す。まちゅかぜは敵の前を奔りながら、内蔵ガトリング砲を浴びせてゆく。
 自身が研いだばかりの斬霊刀を構え、ナディアは目を細めた。
「性根の腐った魂ごと斬り刻んでやろう」
 斬霊刀を非物質化し、霊体のみを汚染破壊する斬撃を放ちます。
「さっすがナディア、戦闘は頼りになるな。……それじゃ、俺も行くか」
 ローデッドがエアシューズで加速し、跳躍する。
「気持ちから鈍ってんじゃ技術なんざものになるもんかよ、門前払いだ」
 兎のウェアライダーらしく、軽やかな蹴りを放ち。
「尤も帰してはやらねェが、な――脳天で受け取っちまいな、天国見せてやらァ」
 軽業師の側頭に、一撃を決めた。
 同時に体勢を立て直した敵が、ケルベロスたちに迫る。
「くっ、罠だったとはな……!」
 軽業師が日本刀を手に、流れるような動作で前衛を薙ぎ払う。しかしほとんどのケルベロスはその一閃を回避する。
「だが、私たちも退くわけにはいかないのでな!」
 道化師はマーシャの動きを真似、体力を奪う。
「それはこちらも同じこと。しかし、私たちには守るものがあるのだ」
 戦闘態勢を整えたヴァルカンが日本刀を向け、螺旋忍軍二人に言い放った。

●快刀乱麻を断つ
 奇襲によって与えられたダメージの功績は大きかった。ケルベロスたちは、順当に螺旋忍軍の体力を削いでゆく。
「道化師の攻撃は厄介でござるな……矢倉は将棋の純文学と人は言う!」
 マーシャが拳を掲げると、郁の傷が癒え、状態異常も消えてゆく。まちゅかぜも役割を果たそうと、激しいスピンを仕掛けてゆく。
「火達磨になれ」
 ナディアが指先で斬霊刀に触れ、獄炎を纏わせる。そのまま斬るように叩きつけ、炎を灯す。また、ローデッドは仲間の様子を確認し「此の岸」でアマルティアを青い炎で包んだ。
 追い詰められようとも、螺旋忍軍たちは決して撤退するような素振りを見せなかった。道化師はナディアへとナイフを投げつけ、軽業師はローデッドを曲線で斬りつける。
「その程度の傷、すぐに癒やしてみせるさ」
 すぐに反応したのはアマルティア。バトルオーラ「七剣星」がナディアを包むのに続き、パフがロードデッドへと属性をインストールする。
「心強ぇなぁ。俺も自分の仕事をやるとするかなぁ……我が剣気の全て、その身で味わえ」
 正中に構え、刀身に全剣気を貯める。放つ斬撃と共に剣気を飛ばし、軽業師へと浸透した。軽業師が疑問を抱くのはただ一瞬のみ。心臓に到達するや、解放された剣気が軽業師の残る体力を全て奪った。
「斬り結ぶ 太刀の下こそ 地獄なれ 踏み込みゆかば 後は極楽、ってなぁ」
 うそぶき納刀する梓を、残る道化師が睨むように見る。
「あと一体だな!」
 勢いづき、郁がドラゴニックハンマーから竜砲弾を撃ち出した。
「続くぞ」
 ヴァルカンが郁の隣から駆け出し、道化師に雷を帯びた突きを繰り出す。そんなヴァルカンを、すかさず國景が溜めたオーラで癒やす。
 郁にとって、ヴァルカンは憧れ、そして尊敬できる人生の先輩。肩を並べて戦えることを心強く思いながら、敵へと向き直った。

 残る道化師の螺旋忍軍を、ケルベロスたちは見る見る間に追い詰めていった。
 ローデッドが氷の螺旋でいくつもの氷を道化師にまとわせ、ヴァルカンが内なる地獄を解き放つ。
「煉獄より昇りし龍の牙――その身に受けてみるがいい!」
 巨大な炎の龍に変貌したドラゴニアンに捕らえた道化師は、燃えさかる業火に焼かれ呻く。
 よろめきながらも起き上がる道化師の動きに、國景が注視する。
「来ます!」
 言うが早いか、道化師は玉に乗り梓へと突撃した。しかし、梓の前に郁が飛び出し、代わりに傷を受ける。
「状態異常があるのは……複数か。ならば」
 アマルティアは地獄化した「心臓」から漏れる炎を溢れさせる。
「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え、死と絶望の炎が我が前に燃え上がる。聞けよ、聞け。神々よ聞け、この呪いを」
 アマルティアの放った傷や変調を焼き払う炎が、前衛の周囲に広がる。アマルティアがうなずけば、パフもまたマーシャを癒やして回復に徹する。
 エアシューズ「steife Brise」で摩擦を起こし、炎の蹴りを喰らわせるのは郁。道化師が軽く吹き飛び、地面に身体を打ち付ける。
「さっきはありがとなぁ。俺も負けてらんねぇなぁ」
 と、梓は郁を一瞥し、起き上がったばかりの道化師の傷を広げる。
「好機ですね。畳みかけましょう」
 國景の地獄の炎が、道化師を襲う。さらにマーシャの巨大光弾が浴びせられ、まちゅかぜが炎をまとって突撃する。
「――たんと降れ」
 ナディアが道化師の頭上から降らせるのは、地獄の炎。
「場所によっては、隕石に当たって死ぬ確率は落雷で死ぬより高いらしいが――それが今、この場所だ」
 小さな隕石のように、機関銃のように降る炎の隕石を全身に浴び、道化師の螺旋忍軍もまた消え去った。
「私たちの勝利、だな」
 納刀し、アマルティアが微笑んだ。
 周辺のヒールを終えて店を訪れると、工房自体には被害は無いことがわかった。引き戸が開く音で姿を現した源五に、ナディアが綺麗な角度で頭を下げる。
「無事、螺旋忍軍を倒すことができた。協力に感謝する」
「いやいや、俺の命があるのはあんたらのおかげだ。なんとお礼を言っていいやら……何かしらのお礼でもできればいいんだが」
 困り顔になる源五に、マーシャが迫る。
「では、研ぎを再開するでござる!!」
「おう、俺ももちっとじっくり習いてぇなぁ。手前ぇの得物くれぇ、手前ぇで手入れしてぇかんなぁ」
 と、梓も進み出る。源五は、ふむ、とうなずいた。
「もちろん、大歓迎だ」
 笑い慣れていない顔は、それでも嬉しそうに。
 源五は、ケルベロスたちを作業場へと誘った。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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