●予知
「ば、馬鹿なっ! 俺達に勝てる奴なんている訳が……」
不良の一人が悔しそうに唇を噛む。
手当たり次第に喧嘩を仕掛け、沢山の仲間を集めてグループを作り上げ、向かうところ敵なし……のはずだった。
だが、たったひとりの相手にグループのメンバーは殺され、死体の山が築きあげられていた。
「……おそらく、夢でも見ていたのだろう。ハッキリ言って、ゴミ以下だな」
その相手は人間ではなかった。
攻性植物……人あらざるモノ。
それは敵対グループが差し向けた刺客であった。
「さあ、楽しもうじゃないか。俺はまだまだ物足りない」
そう言って攻性植物が再び不良達を殺し始めた。
●都内某所
「近年急激に発展した若者の街、茨城県かすみがうら市。この街では、最近、若者のグループ同士の抗争事件が多発しているようです。ただの抗争事件ならば、ケルベロスが関わる必要は無いのですが、その中に、デウスエクスである、攻性植物の果実を体内に受け入れて異形化したものがいるのならば、話は別です」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「攻性植物以外のグループの若者達は、ただの人間なので、脅威には全くなりません。彼らは、攻性植物とケルベロスが戦い始めれば、勝手に逃げていくでしょう」
そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「かすみがうら市の攻性植物は、鎌倉の戦いとは関わっていない為、状況は大きく動いていません。……といっても、見逃す事は出来ないでしょう。必ず倒して、町に平和を取り戻してください」
そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。
参加者 | |
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アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051) |
リフディオン・バクラード(深緑の竜・e01748) |
ベアリス・シュトウ(緑眼の医獣・e03214) |
如月・春香(欠落した赤い月・e03258) |
ミレィ・ミィ(可愛いものスキーなコタツムリ・e06463) |
ヴィオラ・セシュレーン(百花繚乱・e11442) |
大倉・郎朗(ブタマンアーミー・e11673) |
エレオノーラ・フラウ(フェイカー・e14696) |
●茨城県かすみがうら市
「この時期だと、特産は梨柿葡萄? 終わったら旅団のみんなにお土産買って帰らなきゃですぅ。大倉さんは何を買ってかれますぅ? 被らないように気を付けないといけないですぅ……」
ミレィ・ミィ(可愛いものスキーなコタツムリ・e06463)は他のケルベロス達を連れて、茨城県かすみがうら市の廃工場にやってきた。
廃工場は不良達の溜まり場になっているらしく、中からはむせ返るほど濃厚な血の臭いが漂っていた。
事前に配られた資料を読む限り、ここを拠点にしていた不良達が、敵対グループの不良を連れ去り、ここでリンチを行っていたらしい。
それは自分達の強さを敵対グループに示すため。
自分達に敵対する事が、どういった事なのか、相手に教えるための行為……。
「攻勢植物を受け入れた奴が相手なら、アームドフォートを使わざるを得ない!」
大倉・郎朗(ブタマンアーミー・e11673)が廃工場をジロリと睨んで、キリリとした表情を浮かべる。
廃工場からは不良達の叫び声が響いており、今にも殴り合いの喧嘩が始まりそうな雰囲気だった。
「あらあら……、好き放題やってくれとるやない? そら、一般人相手やったら、無双出来ると思いますけどなぁ……。そぉゆう力に手ぇ出したら、うちら、ケルベロスとおんなじ土俵に上がるゆうことぐらい。……わかっとったやろ」
ヴィオラ・セシュレーン(百花繚乱・e11442)が廃工場に足を踏み入れ、美しいが物凄く迫力ある笑顔で殺界形成を使う。
その途端、攻性植物のまわりにいた不良達が、蜘蛛の子を散らすようにして逃げだした。
「おい、こらっ! 勝手に俺の獲物を奪うんじゃねえ。せっかく、これから楽しいショーが始まるところだったのに……」
それに気づいた攻性植物が、不機嫌そうに唾を吐く。
「どうやら、弱い者いじめが趣味のようね。……まぁ、気持ちは分からないでもないわ。あなたを始末するのはさぞ楽しいでしょうから……」
如月・春香(欠落した赤い月・e03258)が、凍るように冷たい視線を送る。
攻性植物は樹木の如くゴツイ身体をしており、いかにも強そうな雰囲気が漂っていた。
「おいおい。それじゃ、まるで俺の方が悪党じゃねえか。こいつらだって、かなり酷い事をやってきたんだぜ。窃盗、暴行、脅迫、その他もろもろの悪事を働いてきたんだから……。悪いのは、俺だけじゃねえよ」
攻性植物が笑い声を響かせた。
だが、その笑いは何処かぎこちなく、精神的にも壊れているようだった。
「ただの喧嘩であればケルベロスが出る幕ではなかったんですが……。こうなってしまっては、更生も難しそうですね」
郎朗が残念そうに溜息をもらす。
「更生……? おいおい、何を言っているんだ? 俺は世直しをしているんだぜ。こうやって、悪い奴等を殺しまくってな。まあ、俺より強い奴は全部、悪党だがな」
攻性植物が含みのある笑みを浮かべた。
既に戦うつもりでいるらしく、舐めるように視線を送って、品定めを始めている。
「……小物が! たいした粋がりようだな。まったく、滑稽なものだ」
リフディオン・バクラード(深緑の竜・e01748)が攻性植物を前にして、嫌悪感をあらわにした。
「せっかくのパーティを邪魔したんだから、相手をしてくれるんだよな? 大物さん達よっ! 頼むから、少しでも長生きしてくれよ。俺が本気を出す前に死なれたら困るからさ」
攻性植物が蛇のように長い舌を伸ばす。
「身も心も取り返しがつかないくらい壊れてしまっているようね。こんな人間……いえ、化け物を雇った側もアレだけど……。まあ、いいわ。力に自信があるなら、集団で襲い掛かられても文句はないだろうし、個人主義に団体の強さを見せつけてあげましょう」
アシェリー・サジタリウス(射手座の騎士・e00051)が、攻性植物の前に陣取った。
「おお、纏めて掛かってくるのか。いいね、いいね。雑魚ほど、よく吠えるって言葉は、本当だったようだなァ!」
攻性植物が小馬鹿にした様子で笑い飛ばす。
おそらく、今まで負け知らずだったのだろう。
自分が最強であると勘違いをしているのか、何を言われても笑い話にしか聞こえていないようである。
「お前は強者を求めているのだろう? ならば我々と戦い勝利を勝ち取れたならば、その実力が証明されるだろう。さあ、いざ勝負といこうではないか」
ベアリス・シュトウ(緑眼の医獣・e03214)が、攻性植物を挑発する。
「ほお、よほど死にたいようだな。しかも、馬鹿がつくほどの命知らず……。だが、嫌いじゃない。むしろ、大好きな人間の部類だな。だからこそ、お前達は俺に殺される価値がある。……安心しろ。俺に喧嘩を売った事を死ぬまで後悔させてやる」
攻性植物が含みのある笑みを浮かべる。
次の瞬間、攻性植物が身体の一部をハエトリグサの如き『捕食形態』に変形させ、ベアリス達に攻撃を仕掛けてきた。
「これ以上、一般人に被害を出す訳にはいかねぇ、阻止させて貰うぜ!」
それに気づいたエレオノーラ・フラウ(フェイカー・e14696)が攻性植物の死角に回り込み、攻撃を仕掛ける機会を窺った。
●命のやりとり
「強さを誇れば、もっと強い人に薙ぎ倒されますしぃ、群生する自然ならまだしも単体の植物は普通人に勝てないですぅ。何を言いたかったかと申しますとぉ……、植物を選んだ段階で、ダメダメですぅ」
ミレィが攻性植物に対して、駄目だしをする。
「ならば、お前達は俺より強い……と言いたいのか、ふざけるなっ! 俺は最強の力を手に入れたんだっ! お前達なんかに負けはしないっ!」
攻性植物が信じられない様子で、蔓触手を伸ばしていく。
「一体、どこを狙っているん?」
それに気づいたヴィオラが、分身の術を使って、蔓触手を避ける。
「な、なんだ、その力は……! お、お前達……、何者だっ!」
攻性植物が信じられない様子で汗を流す。
「ケルベロスって言えば分かるか?」
ベアリスが攻性植物を威圧するようにして、自らの武器に電撃を込めてバチバチと放電させる。
「し、知らねーなっ! 正義の味方みたいなモンか。まあ、誰であろうと俺より強い奴なんていねーけどな!」
攻性植物が鼻で笑って、答えを返す。
「だったら、俺達に試してみるか? その言葉が本当か、どうか……」
エレオノーラが宝具『赤龍帝』を自身に夢幻贋作(インストール)し、龍の鎧を纏って攻性植物の前に陣取った。
その途端、蔓触手が伸びてきたが、拘束される前にギリギリのところで攻撃を避けていく。
「そ、そろそろ、本気を出す頃だな」
攻性植物が妙に強がった。
実際には最初から本気を出しているのだが、この状況で苦戦している事を認める訳にはいかないようだ。
「そぉどすか……。ほな、自分の最期の時間まで目一杯、うちらのお相手したってや。きっちり、一緒に遊んであげますさかいになぁ」
ヴィオラが含みのある笑みを浮かべて、少しずつ間合いを取っていく。
「お前達……、知っているか? 雑魚ほど、よく吠えるって!」
攻性植物が皮肉混じりに言い放つ。
その途端、ヴィオラ達は思った。
攻性植物に対して、手鏡を向けるのが、礼儀なのかも知れないと……。
おそらく、攻性植物に自覚はない。
自分自身がその雑魚であるという事に……!
(「やっぱり、口だけのようね。一般人達が相手ならまだしも、これじゃ拍子抜けだわ」)
春香がげんなりとした様子で、攻性植物の攻撃を避けていく。
「おらおら、どうした、どうした! ひょっとして、ビビッちまったのか? だからと言って、いまさら命乞いをしたって無駄だぜ! 俺はトサカにきちまっているからなっ! この怒りは、お前達の命じゃねえと償えねえ!」
攻性植物が狂ったように笑い声を響かせ、再び触手を伸ばしていった。
「本当にこれで本気を出しているのか? 殺気と全く変わっていない気がするんだが……」
エレオノーラが険しい表情を浮かべて、攻性植物をジロリと睨む。
「そ、そんな訳がないだろ! 俺は本気だっ! 本気の本気! お、お前達こそ、動揺して俺に恐怖を感じているんじゃねーか」
攻性植物は焦っていた。
ここまで苦戦する予定ではなかった。
少なくとも、戦うまでは……。
だが、いまさら一対一で戦わせてくれとも言えなかった。
「突出した個は最終的に群れに勝てないんですよぉ……どんなに悔しくても、貴方はこんな状態になるべきじゃなかったですぅ」
ミレィが攻性植物に語り掛けながら、間合いを取ってスターゲイザーを放つ。
「……ぐはっ!」
その一撃を食らった攻性植物が、バランスを崩してよろめいた。
「さっきと比べて、随分と顔色が悪くなっているようだけど……。ひょっとして、怯えているの?」
春香がエレキブーストを使い、攻性植物に視線を送る。
「ば、馬鹿を言うんじゃねえよ。お、俺が怯えている訳ねえだろ! お、お前らなんて、楽勝、楽勝。俺が本気を出せば、イチコロさ」
攻性植物が酷く焦った様子で答えを返す。
こんなはずではなかった。こんなはずでは……。
そんな気持ちが強いためか、だんだん攻撃が当たらなくなっていた。
「悪あがきもそれまでだ。弱者に、死に方を選ぶ権利はない」
リフディオンが攻性植物を見下し、絶空斬を炸裂させる。
「うぎゃああああああああ」
その一撃を食らった攻性植物が断末魔を響かせ、その場に崩れ落ちた。
「……哀れだな」
ベアリスが攻性植物に視線を送る。
この様子では、自分の力を使いこなす事が出来ていなかったようである。
そう言った意味で、倒す事は難しくなかったが、自分の力を理解した上で、使いこなす事が出来ていたら、文字通り強敵になっていた事だろう。
「己の器以上の力を得れば、扱いきれぬのも当然のこと。私も、同じ過ちを繰り返したくないものだ」
リフディオンが自らの持つ妖刀に視線を送る。
「結局、個人の力なんて、こんなものよね」
アシェリーがやれやれと首を横に振る。
だが、あのまま放っておけば、敵対する不良グループどころか、自分が所属していた不良グループも壊滅させ、自ら最強を名乗っていた事だろう。
「とにかく、焼却しておきましょう。このまま放っておいても、良い事なんて何ひとつありませんからね」
そう言って郎朗が攻性植物の残骸を、ナパームミサイルで焼き払う。
これで妙な噂が立つ事なく、人々の記憶からも、忘れ去られていく事だろう。
「もしかすると、これからも人間に警鐘を鳴らす第二第三の刺客がっ……」
そんな中、ミレィが不安げな表情を浮かべ、どこか遠くを見つめるのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2015年10月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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