ミッション破壊作戦～モザイクを晴らす為に

■リプレイ

●魂の叫び
　ミッションの破壊。
　ケルベロス達が作戦の部隊に選んだのは、兵庫県神戸市北野坂。「北野坂連続盗難事件」のミッションだ。
　現場上空、高高度を飛ぶヘリオンから、８人のケルベロスが飛び出し、真下の魔空回廊目掛けて降下していく。
（「グラディウス……。実物に触れるのは初めてだけど、これがあれば魔空回廊を破壊できるんだ……よし！」）
　デウスエクスに襲われて能力に目覚めた榊原・一騎（銀腕の闘拳士・e34607）は空を落ちながらくせっ毛を揺らし、初めて触れた小剣グラディウスを握りしめる。
「これ以上誰かの宝物は奪わせないし、人々の平和を脅かす配下も作らせない！」
　この地に巣食っているドリームイーターは、誰かの大切な『宝物』を盗むという。一騎はそれを阻止すべく、想いを込めて叫ぶ。
「その為にも、この魔空回廊は破壊するんだ……。いくぞ、グラディウス！」
　真っ先に、一騎は真下へとグラディウスを突き出す。光る刀身が魔空回廊を包み込むバリアに触れると、硝子のように乾いた音を立てて砕け散る。
「みんなのお宝は、わたしが守ります！」
　続いて、勢いよく飛び降りてきたのは、魔法少女のスタイルを意識した姿をした藍川・由衣（普通の女子小学生・e34237）だ。
　彼女は自らの足へと装飾のウェポンエンジン込みでグラディウスを装着し、蹴りを繰り出す。
「必殺！　グラディウスキーック！！！！！！！」
　吠える彼女の足から放射される蒼白い光。一振りの槍にも似た一打と共に、グラディウスの刃を魔空回廊へと埋め込む。
　その瞬間、魔空回廊からも強烈な雷光が発した。目が眩むほどの光に、この場のデウスエクス達がどよめく声が聞こえる。
　ただ、ケルベロスの襲撃は終わらない。続けて３人がグラディウスを握りしめていた。
（「……宝物が欲しい？　……良く分からないが、他人の宝を欲しがる奴もいるのか」）
　上野・零（シルクハットの死焔魔術師・e05125）は一度自身の黒いシルクハットを押さえる。
　――……奪えるならば、奪うといい。だが、そう簡単に奪われるほど、僕らは柔な存在でない。
　右目の地獄を燃え上がらせる零は、さらに強く想う。
　――……それに、奪うつもりなら、自身が僕らから何かを奪われる可能性も考えるんだね。
「……君らに『今』恨みはないが、この地は奪うし、バリアは破壊してやる……」
　小声で呟き始めた彼は自身の大切な物を奪われる懸念を示し、小剣を握る。
「人々の大切なものを、引いては心や笑顔まで奪い去る様な行いを、許す事など出来ません」
　こちらは、緩く波打つ髪に白藤の花を咲かせた、卯京・若雪（花雪・e01967）だ。
　彼がこの場にいるのは、共に立つ仲間の因縁と、奪う事でしか満たされぬ憐れな宿命に終止符を打つ為。そして、この神戸市北野坂の地に平穏を取り戻す為だ。
「持てる全てを尽くしましょう」
　叫びこそしないが、凛とした雰囲気を纏う若雪は、内に抱く覚悟を魔空回廊へとぶつけていく。
「皆の大切な物を盗んじゃうなんて、サイテーだよ！」
　３人の中で、長谷川・わかな（笑顔花まる元気っ子・e31807）が最も声を荒げる。
「誰かの大切な物より、自分にとっての大切な物の方が何万倍も価値があるのに！」
　あれも欲しい、これも欲しいと盗みを働くドリームイーターはきっと、聞き分けのない子供のような性格なのだろうとわかなは考え、グラディウスを握る手に力を強めた。
　３本の小剣が同時に、魔空回廊へと突き出されて。
「……先に奪われる前に、全部奪わせてもらうぞ……っ！」
「僕にとっての何より宝は、人々の笑顔と安寧。――必ず、返して頂きます」
「人の物ばっかり欲しがっていないで、たまには自分で見つけてみなよ！」
　零は漏れるような大声で。若雪は静かな口調で。わかなは有り余る元気と共に、自らの魂の叫びをグラディウスへと込めて魔空回廊を斬りつけていく。
　さらに強い光が起こり、周囲に爆発が巻き起こる。
　この光景は幾度目か。カティア・アスティ（憂いの拳士・e12838）にとって、今回は自身の宿敵が相手ではない。……しかし。
「あなたは、考えたこと、ありますか……？　あなたが、盗んだ、そのあとを。盗まれた側の、思いを……！」
　形も相手も異なるが、カティアにとって『ドリームイーターに奪われた』という点では共通する相手。そいつが奪われた者の気持ちを考えることなど、これっぽっちもないのだろう。
「……なら、今日ここで、知ってください。奪われる側の、悲しみを、辛さを、怒りを……！」
　盗み、奪い、悦に入り、自身だけが幸せを感じる。そんな夢喰いに、地獄化した髪を揺らす彼女は胸の内から憤りと悔しさがふつふつとこみ上げてきていた。
「……お前達デウスエクスは、いつもそうだよな」
　ルト・ファルーク（千一夜の紡ぎ手・e28924）の脳裏に過ぎる過去。隼のような天使の翼を羽ばたかせ、彼は悪態つきながら語る。
　デウスエクスはいつだって、相手のことはお構いなし。そうやって、大切な物を奪って、奪って、皆の心を踏みにじって、それを嘲笑って……。
「オレは自分を満たす為に、私利私欲の為だけに、皆の大切な物を奪おうとするお前達デウスエクスを、ドリームイーターを、許さない。……許したくない！」
　ルトの叫びに応じ、小剣が強く輝く。その強い想いがあればこそ、グラディウスは力を与えてくれるのだ。
　デウスエクスが生み出す理不尽の連鎖を断ち切る為。ルトは自身の想いの全てをその刃へと託し、全身全霊を込めて未来を切り拓く番犬の牙を突き出す。
「はっきり言って、不快です……！　……これ以上、奪わせません……！」
「だから……応えろ、グラディウス！　貫き穿て！ 悲しみを生む、その全てを！」
　２つの刃がさらに、深々と魔空回廊へと突き刺される。雷光と爆炎が濃いスモークを巻き起こし、周囲を包み込んでいく。
　最後に飛び降りてきたのは、この地に因縁の相手がいる、グーウィ・デュール（黄金の照らす運命・e01159）だ。
　同じく因縁を持つ夢喰いが巣食う別ミッションに行きたかったはずのカティアを始め、策を練り、手を貸し、心を寄せてくれた今回のチームメンバーに、グーウィは感謝をしていた。
　だからこそ、この場で……。彼女は真下の広がる魔空回廊を見つめる。
「お前は前回言ったな。『心より宝』だと」
　普段は軽口を叩く彼女だが、今回ばかりは素直な感情を示し、それをグラディウスに込めていく。
「じゃあ、食らってみろ。今回の仲間と、前回と、それにあっしの、指し当たって１５人分の心を！」
　吠えるグーウィが柄ごと魔空回廊を抉る。渾身の力による一撃。より濃いスモークが周囲を漂う。
　そうして、地面に着地するメンバー達が頭上の魔空回廊を見上げる。
　……小さなひび割れは見えるものの、残念ながら破壊には至らない。
　破壊に至らずとも、ぼやぼやしてはいられない。敵が態勢を整える前に。周囲のスモークが晴れる前に、この場から離脱しなければならないのだ。
　一騎はすぐにグラディウスを外目でわからぬように収納し、わかなは希望のあるメンバーから小剣を受け取って同じくポケットに仕舞う。
「おっと、お客さんだね」
　そこで、どこからか声が響く。煙の中から姿を現したのは、小柄の女性だった。
　豊満な体を持つそいつは一見ドワーフにも見えるが、背負うモザイクがドリームイーターだと疑わせない。
「あなた達の『宝』いただくよ」
「人々の安らかな日々を脅かす存在は、打ち払うまで」
　ツルハシ状の鍵を肩に担ぐ、盗掘者ヴィゴラス。若雪がそれを前にして、刀に手をかけた。
「皆の心に報いる為、お前に何も奪わせず、お前から奪い返す！」
　仲間に合わせて、前線に飛び出すグーウィは全てを奪った敵を破壊する為、大鎌を手に取る。
　対するヴィゴラスは事も無げに微笑み、ツルハシ状の鍵を振り上げるのだった。

●人の宝を奪う夢喰い
　飛び出す盗掘者ヴィゴラスは早速、ツルハシを大きく振るって叩きつけてくる。
　グーウィを狙った一撃を一騎が庇いつつ、自身の周囲に光の盾を展開させていく。
「メルちゃん、私に力を貸してね！」
　後方では、わかなが肩に乗せたオウガメタルに声をかけると、メルちゃんは力強く跳びはね、光り輝くオウガ粒子を前線メンバーへと放つ。
　それによって感覚を覚醒させた零は素早く敵に迫る。
　友人に思慕する女性。自身にとっての宝を思い浮かべた零は、グラビティを込めた一蹴を繰り出す。
「危害など、与えさせはしないよ」
「……へぇ」
　打撃箇所が瞬時に凍りつき、ヴィゴラスは目を丸くした。
「咲き誇れ」
　さらに、若雪が流れるような身のこなしで刀を舞わせる。そして、夢食いの体に刻まれた傷痕に、たちまち幻の花が咲く。その花から漂う優しい香りは、敵に目眩をもたらす。
　続けて、カティアが怒りの感情を燃やしながらも、バトルガントレットを纏わせた拳を振るって凍りつく弾丸を撃ち出した。
　ルトも後方から、砲撃形態としたハンマーから竜の弾丸を発射していく。重ねてグーウィは竜語を操り、竜の幻影を放って夢喰いの身体を焼き払わんとする。
　ただ、致命打には至らない。再び、グーウィを狙ったヴィゴラスは、ツルハシの柄となる鍵を突き出す。それは、相手の宝すら奪う鍵だ。
　そこで、由衣がその身を盾として受け止め、反撃とばかりに敵の体を蹴りつける。
　ツルハシで地面を突き刺しつつ態勢を整えたヴィゴラス。その身には確実に痺れが走り出していた。
「まずは、その脚をとめる！」
　さらに、一騎が流星の蹴りを敵の腰へと炸裂させる。
　その隣にいたカティアはというと、自身のグラビティ・チェインをたくさんのスミレの花を模したエネルギーへと変えて。
「当たって、ください……！」
　カティアの声に応じて風に舞うその花々は可憐な見た目だが、花びらの切れ味はさながら鎌鼬のように夢喰いの身体を切り裂いていく。
　素早い敵だが、徐々に仲間が機動力を削いでいる。ルトも合わせて重力を宿す一蹴で夢喰いの脚を刹那止めれば、大鎌「滅ト幸ヲ掻キ抱ク刃」を振りかざしたグーウィが強烈な斬撃で敵の体を裂き、さらに動きを止めた。
「ますます欲しくなるね」
　ギラリと目を光らせる盗掘者。まるで、ケルベロスを炭鉱の壁のように見立て、ツルハシを振るってくる。
　その鋭い切っ先で身体を突き刺され、傷つく由衣は肩を息をしている。わかなはすかさず歌声を響かせ、彼女に力を与えていく。
「絶対にみんなで帰るんだから！」
　これも、回復役としてのわかなの矜持なのだろう。
　その手前からは、若雪が斬霊刀の刀身に雷の霊力を纏わせて夢喰いの身体を貫いた。
「――この身を焦すは豪の焔――彼の身を貫くは紅蓮の刃――」
　身体を駆け抜ける電撃で動きを止めた敵に向け、魔力を極限に高めた零が言の葉を紡ぐ。
「地球の核から溢れて轟け―― 逃げ場なき焔の地獄――燃やし尽くせ――ッ！」
　呼び起こした熔岩のような物で、紅蓮の竜巻を巻き起こした零。それにしばし身を包まれたヴィゴラスは体に火傷を負いながらも、ニヤリと微笑む。
「ああ、もう、欲しくてうずうずしちゃうよ」
　このような状況においても、敵は物欲が首をもたげていたようだ。

　盗掘者ヴィゴラスは孤軍奮闘し、ケルベロスへとツルハシを振るってくる。
　ナノナノのナノポンのばりあで包まれつつ由衣が夢喰いを抑えるが、その傷は浅くない。
「その機動力を奪う！」
　思いっきり武器を振り回す小柄な夢喰い。一騎は動きを止めようと敵の膝目掛けて脚を振るう。
「くっ」
　それでも、ヴィゴラスは強引に身体を動かし、鍵を突き出して応戦を続ける。壁役となる２人が出来るだけ耐えられるようにと、わかなは呼びかけた。
「もう少しだけ頑張って！　絶対に助けてみせるから！」
　彼女が響かせる歌声は、仲間の魂すらも震わせその負傷をも大幅に回復させていく。
　その間も、全力で攻撃を仕掛けるメンバー達。
　零はファミリアのもずが変身した杖「枯れ枝の百舌鳥」の尖端から、魔法の矢を発射させる。
　カティアが追撃し、光り輝く左手で夢喰いの身体を掴み、漆黒を纏う右手で力の限り殴りつけた。
「あっ……！」
　煽られるヴィゴラスの背中に背負ったモザイクが零れると、ヴィゴラスがそちらへと視線をやる。
「残念ながら、貴方のモザイクを晴らす術は持ち合わせません」
　その一瞬の隙に、若雪は肉薄していく。
「ですが、人々の憂いを晴らす術は、此処に。……貴方には引導を渡すのみ」
　大きく弧を描き、若雪は夢喰いへと斬りかかる。何一つ、その残骸など残さぬように。
　すかさず、ルトが腰に差した短剣ジャンビーヤを構える。
「貫き穿つ！　お前の体も、その魂も！」
　ルトはその短剣を鍵の様に回転させ、異世界への扉を開く。その扉の先、雷鳴蠢く漆黒から、激しい雷光が一閃し、夢喰いを射抜いた。
　よろける敵を目にするメンバーがグーウィを見やる。
　そんな仲間の気遣いに感謝しながら、彼女は水晶玉を敵の眼前へと突きつけた。
「お金があれば、大体のことは何とかなります。しかし、どうにもならないこともある。例えばそう、ここに見える貴方の終焉のように」
　玉に映し出されたのは、覆すことの出来ぬ滅びの結末。
　……いや、それはヴィゴラスにしか見えてはいない。あくまで視えているのは幻影。それに気を取られる相手へ、グーウィは敵のみぞおちへと魔力の塊を叩きこみ、トドメを刺す。
「ふふ、あたしは死なないよ。宝を手に入れるまで……」
　夢喰いは一言告げてよろけ、ドサリと地面に倒れた音がした。
　スモークの中、メンバー達はその姿を確認しようとしたが、ヴィゴラスはモザイクごと消えてなくなっていたのだった。

●再び来ることを誓って
　ヴィゴラスが姿を消し、ケルベロス達は離脱準備を急ぐ。
　由衣は大事に小剣を抱え、ルトもグラディウスを回収しながらも味方の状態を確認する。幸いにも、重傷を負った者はいない。
　わかなは預かったグラディウスを確認の上、魔空回廊に突き刺さったまま、あるいは地面に落ちた物がないかと見回してから撤退を行う。
「……いつまでも跋扈など、させません」
　若雪がそんな言葉を残し、すでに敵影の薄い方向へと駆け出していたようだ。
　グーウィもまた、仲間の背を追いながら、後方を振り返る。
「何度だって殺しに来てやる。奪い返せるまで！」
　今なお動き続ける魔空回廊へと彼女は叫び、この場から背を向けたのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年5月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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