愛はカノンを奏でたい

作者:ハル


「お兄ちゃんはね、カノンとね、約束したんだよ。ずっと一緒にいるって……大きくなったら、カノンをお嫁さんにしてくれるって……!」
「……カ、カノン……ちゃん……」
 一軒家の二階にある、扉に『カノン』とプレートがかけられた部屋。ピアノに加え、女の子らしい小物や雑貨、ぬいぐるみなどの可愛らしいものに包まれたその部屋で、凶行は始まろうとしていた。
「や、やめて、カノンちゃん……!」
 カノンと呼ばれる少女の手には、包丁が握られていた。羽毛が至る部位から生えたその姿は、異様という他になく、熱に浮かされたようなその瞳には、まだ12歳という幼さを感じさせない程の憎しみが込められている。
「だから、カノンはね、初めて会った時から、お姉ちゃんの事が大嫌い!」
 そして、カノンに包丁を突きつけられている人物こそ、カノンのお姉ちゃん。といっても、実の姉ではない。あと一月も経たぬ間に、カノンの義姉となる存在だ。
「お姉ちゃんが、お兄ちゃんのお嫁さんになる……? そんなの……カノンは絶対に認めないんだから!」
「……ひっ、いぐぅ……っ!!」
 カノンが、包丁を一閃させる。刃は義姉の顔を深々と切り裂いた。顔を押さえ、義姉は悶絶する。
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんには相応しくないんだから!」
 カノンはただ、無心となって義姉の全身の至る所を傷つけ続ける。
 家に帰ってきた兄が、傷だらけで動かなくなった義姉に失望し、諦めることを願って……。

「子供とはいえ、やはり女の子は女の子……なのでしょうか。フォトナ・オリヴィエ(マイスター・e14368))さんの調査の結果、とある一軒家の一室にて、ビルシャナを召還した少女――カノンさんが、事件を起こそうとしているのが分かりました」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、ふぅーと息を吐く。子供が事件に巻き込まれるのは、たとえどんな形だろうと悲しいものだ。
「事件の原因は、カノンさんのお兄さんと、お付き合いをしていた愛さんが、婚約した事にあります。無事にいけば、来月挙式を挙げられるそうなのですが……」
 暗雲立ちこめていると言わざる得ない。カノンは兄を非常に敬愛しており、幼さも手伝って、愛の存在を認められずにいる。
「カノンさんとお兄さんのご両親は、カノンさんが生まれて間もない頃に亡くなっています。それ以降、カノンさんは、実質的にお兄さんに育てられたような形になっていたようです」
 執着の原因は、恐らくはその辺りだろう。
「お兄さんは愛さんと出会って以降、少しだけ家を空ける機会が増えたようです。結婚後は三人で同居する事が決まっており、カノンさんは自分の居場所を取られたように思ってしまったのかもしれません」
 とはいえ、カノンの兄も二十代で若い。今まで、カノンのために身を粉にして働いてきたようだ。最も、その立派な背中こそが、カノンの強い執着を生んでしまっているのは皮肉なものだが。
 このまま願いが叶えば、カノンは心身共にビルシャナになってしまい、もちろん婚約者である愛も殺されてしまう。
「家の鍵については、家主であるお兄さんから預かっています」
 戦闘になった場合、ビルシャナと融合した人間は、復讐の邪魔をしたケルベロスの排除を行おうとする。
 苦しめて復讐したいと考えているので、復讐途中の人間を攻撃することはない。
 だが、自分が敗北して死にそうになった場合に限り、道連れで殺そうとする場合もあるので、注意が必要だ。
「……残念ですが、ビルシャナと融合したカノンさんは、基本的にはビルシャナと一緒に死んでしまいます。ですが、可能性は低いものの、カノンさんに『復讐を諦め契約を解除する』と宣言させれば、助ける事も可能です」
 契約解除は心から行わなければならない。
 カノンの命を盾にするなど、利己的な説得では救出は不可能だろう。
「相手が幼い女の子のため、慎重な判断を求められるでしょう。逆に、幼いからこそ有効な説得もあるかも……。愛さんは、その名の通りの女性だと聞いています。だから、本音をぶつけ合う機会さえあれば……きっと!」


参加者
ルヴァリア・エンロード(雷破の銀騎・e00735)
木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)
尾守・夜野(パラドックス・e02885)
セツリュウ・エン(水風涼勇・e10750)
ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)
レーヴ・ミラー(ウラエウス・e32349)
トーヤ・ランセム(地球人の鹵獲術士・e35295)

■リプレイ


「カノンはお姉ちゃんの事、絶対に認めないんだから!」
「お待ち下さい、カノン様ッ!」
「っ!」
 ケルベロスチェインを展開するレーヴ・ミラー(ウラエウス・e32349)の声が、カノンの動きを一瞬止める。間一髪、ケルベロス達が兄から受け取った鍵を用いて家の中へ踏み込むと、そこではまさに、カノンが愛に包丁を振り下ろさんとしていた!
「邪魔しないで!」
「そういう訳にはいきませんよ!」
 乱入者であるケルベロスに対し、愛は咄嗟の判断で、近くにいたミハイル・アストルフォーン(白堊・e17485)に孔雀型の炎を放出する。ミハイルは、ハンマーを盾のように構えると、衝撃の直前、ニオーの属性注入と、プラレチの羽ばたきによって、火傷の被害を最小限に抑える。
「こ、こちら、へ……」
 カノンとミハイルが睨み合っている隙をつき、ウィルマ・ゴールドクレスト(地球人の降魔拳士・e23007)は、霊力を帯びた紙兵を散布しつつ、愛の身体を背中で庇うようにして、カノンから引き離す。
「大丈夫、大丈夫……」
「あ、貴方達は……?」
 そして、愛の背中を笑顔のまま擦るウィルマに、嵐の如く過ぎ去る状況に、困惑の表情を見せる愛。
「俺達はケルベロスだ。どうやら、カノンの純真な心の裏に潜む闇に付け入る奴らが出たらしくてな。あんたも災難だが、カノンはカノンなりに必至で犠牲者なんだ。思い当たる節ぐらい、あるだろ?」
 だが、焦点の定まらなかった愛の瞳は、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・e02879)に状況を簡潔に伝えられた事によって、光を取り戻した。
「……カノンちゃん」
 自分の方が遥かに年上なのに、こんなになるまでカノンを追い込んでしまったのかと、愛は自責の念に駆られ、悲痛な表情を浮かべる。
「愛さん、大丈夫だよ。ボク達に、任せて欲しいんだよぉ!」
 変わり果てたカノンの姿を見ていられず、愛は顔を俯けそうになる。しかし、その間際、愛の横を尾守・夜野(パラドックス・e02885)が駆けていく。その手には、カノンの小さな体躯ならば、十分に映せそうな鏡があり――。
「カノンさん、今の自分の姿、見た事はあるのかなぁ? そして、これからどうなっていくのかも!」
 夜野が、とある写真をばらまく。それは、醜悪に変貌した、彼の知るビルシャナ達の姿。そして、カノンは夜野の持参した鏡によって、己の真実を知る。
「鳥さんになったら、一緒に居られなくなっちゃうよぉ? その姿でお兄さんの隣にいるのを想像できるの――」
 かい? ……と、最後まで夜野の口から発する事はできなかった。何故なら、発するより先に……。
「い、いやあああああああああっ!!」
(……そうだよねぇ、女の子だもんねぇ……)
 悲痛な悲鳴が、カノンの口から迸っていた。夜野は衝撃に備え、雷の壁を構築する。
(……弟子相手なら、一発殴って根性入れ直させるだけですむんだけれど)
 さすがに12歳の見知らぬ子相手に、問答無用でそうする訳にもいかない。ルヴァリア・エンロード(雷破の銀騎・e00735)は苦笑を浮かべつつ、迫り来る冷気の波に対応するために気合いを入れた。


「なに、なんなのこれぇ! 私、どうなって……! で、でも、お姉ちゃんを殺さないと……そうしないと、お兄ちゃんが、でも……っ!」
 羽毛に塗れ、醜い自身の姿に、カノンは半狂乱となっていた。
「良う耐えた。カノンの辛い心、存分に伝わるぞ」
 そして、そうなってもなお、カノンの胸中には殺意がある。セツリュウ・エン(水風涼勇・e10750)は、その殺意を少しでも宥めようと、穏やかに、慈愛を込めてカノンに語りかける。
「でもの、たとえ愛が死んでも、兄の心から愛が消える事はないのだ。カノンは、兄が死んだら忘れられるかや? ……忘れられぬだろう? 愛を傷つけても、兄は愛とカノンを忘れられずに独り苦しむことになるだけであろう?」
「違う、違う! カノンが忘れさせてあげればいいだけなんだよっ!」
 それができれば苦労はしない。だが、カノンに道理を問うても、理解は難しいだろう。それが、人生経験の差というもの。
「愛さん、カノンの言うとこを、見て、そして漏らさず聞いてあげていて欲しい。あの子の抱えているすべてを……な」
 暴れるカノンが発する念が、すぐ傍のウィルマを浸食する。ヘルキャットがノソノソと、面倒そうに翼を羽ばたかせるが、問答無用とばかりに前衛を氷の輪が切り裂き、愛の頰を返り血が濡らす。怯えて、目を閉じそうになる愛に、トーヤ・ランセム(地球人の鹵獲術士・e35295)は、それでも自分の目で見届けて欲しいと願う。
「あまり、仲がよろしく、なかったの、です、か?」
 ふと、ウィルマはレーヴのオーロラに包まれながら、そう愛に問うてみた。
「……お恥ずかしながら、あまり好かれてない自覚はありました。でも、私は……カノンちゃんとも、家族になりたい……」
「そうよね。改めて聞けて、安心したわ」
 ルヴァリアは、愛のカノンに対する愛情を感じ取る。彼女はカノンと家族になりたいと、心の底から想っているのだと。
「あなたが一緒になってもいいと思った彼は、カノンちゃんを育ててきた、彼、よね?」
「……はい」
「なら、大丈夫。愛さんが思って、感じたままの言葉を……カノンちゃんも合わせた、三人で新しい幸せを築きたいと思ってるなら、伝えてあげて?」
「はい、そうしたいです」
 愛は、家族を守るため頷いた。その覚悟は、決して婚約者の妹のためには抱けぬもの。
「なら、もう一踏ん張りしなくてはなりませんね!」
 長く艶やかな黒髪を揺らし、ミハイルはオーラを溜めて息を吐くと、ニコッと笑う。「……ええ、必ず助けましょう。私も、カノン様に伝えなければならない言葉がありますから」
 レーヴもまた、プラレチと顔を合わせ、祈るように掌を組んだ。


「オレがもしカノンのお兄さんだったら怖いよ。怖くて、一緒になんていられない」
「なに言ってるのか、分かんないよ!」
「いいや、分かるはずだ! カノンはお兄さんが、どれだけ愛さんの事を想っているか知っているはずだ! それはつまり、お兄さんの気持ちに包丁を突きつけていることと同じ事なんだよ!?」
「――ッ!!」
 怒りに任せ、カノンの炎がトーヤの身を焼く。苦痛に唇を噛むトーヤに、「任せろ、 俺のメロディーに身を委ねるんだ!」そうウタが叫ぶと、トーヤの身体はウタの歌声に包まれた。
 トーヤはウタに目礼すると、カノンに向き直って先を続ける。
「いいのか? 人間、好きな人を失ったら、もうその人の事しか考えられなくなるんだぞ? カノンだって、お兄さんがいなくなれば、きっとそうなるはずだろう!」
 そして、それはきっとカノンが愛を殺した場合でも変わらないはず。図星をつかれた事を証明するように、周囲に迸る念が勢いを増していく。
「まだまだ……よ。いい加減観念して、その子から離れなさい!」
 直撃を受けたルヴァリアは、催眠が積み重なって仲間を背中から斬る事がないように、咆哮を迸らせる。
「あんたの兄貴の事は、あんたが一番分かってるはずだ! 愛さんを捨てるような、冷たい人間じゃないって事は! 兄貴が大好きなら、あんたがやるべき事はこうじゃないはずだ!」
「……ぅ」
 メディックとして、ひたすら耐えるという難題を遂行する仲間にヒールを施しながら、ウタが叫ぶ。すると、カノンの反応が、少しだけ変化している事に気付く。今までのパターンなら、激昂してウタを標的にしていたはずだが……。
「う、……うう、カノン、分かんないよ……もうっ、分かんない! 頭が……っ、いたいの……!」
 呻きながら、カノンは頭痛を堪えるように頭を抑えているのだ。
「……あなたは今す、すっきりして、不満がなく、なって……た、楽し?」
 ウィルマは、愛の表情がカノンによく見えるような角度に調整する。きっとカノンには、自身を心から案じる家族の顔が見えているはずだ。
「そう、しなければいれらなかった、気持ち。きっと、誰も、全部は分かって、あげられない」
 たとえそれは家族でも。愛の親愛する兄であっても変わらない。だからこそ、ウィルマは思う。
 ――ああ……。本当に、本当に、人間ってめんどうくさい……と。
 そんな愉悦を笑みで噛み殺しながら、
「それが、本当に、あなたの望み、ですか?」
 ウィルマは最後に、そう告げた。
 その時!
「……違う、こんなの違う……」
 カノンは、胸中の殺意に抗うように、そう呟いた。
「恋をする、想いを抱くのは自由なもの……ですが、人を愛する行為は、その人を思い遣ることかと存じます。カノン様、貴女は……お兄様に、『恋』をしておられますか、それとも『愛』しておられますか…?」
 恋と愛は紙一重。だが、決定的に違うのは、自己のためか、他者のためかという点だ。
「そんな事言われても、分からないよ。……でも、お兄ちゃんは、家族……だから!」
 カノンには、まだ難しいだろう。だが、人は本能的に『家族』という形態に込められた想いを知っている。それは、家族愛と呼ばれる、永遠に途切れないもの。
「カノンさんは、やっぱりお兄さんがとても大好きなんですね」
 そのカノンの一言に、ミハイルは花が咲くように頬笑んだ。
「確かに、好きな人が離れるのは悲しいし、他の人の所に言ってしまうのは悲しいかもしれません。でも、カノンさんは賢い子……お兄さんがカノンさんを愛していることを誰よりもよく知っているはずです! 彼を信じて欲しい、そしてキミを愛するお兄さんが愛した女性を信じてあげて欲しいんです」
「そうなのよぉ。カノンさんの家族はどこにもいかない。離れたくないなら、繋いだ手は絶対に離しちゃいけないのっ! ……ボクみたいになっちゃ、ダメだよぉ!」
 ミハイルと夜野の言葉に、吹き荒れていた暴力が止む。
「誰もカノンなしに幸せになるなどせん。むしろ、カノンがおらねば誰も幸せになどなれんのだ」
 火傷に凍傷を負いながら、カノンに近づいたセツリュウは、その頰を撫でた。そして、愛の方を振り返ると、
「カノンに聞かせておくれ。どれ程その人を好きか、カノンに申し訳なく思うか……それでも好きで、カノンとも幸せになりたいと。……痛んでも歩み止まぬ真心を」
 そう言った。すると、覚悟を胸に、ミハイルとウィルマを伴った愛が、こちらへやってくる。
「……お姉ちゃん」
「……カノンちゃん」
 愛とカノンは、互いの顔を見た。涙で歪んだ、お世辞にも綺麗とも、可愛いとも言えない顔。
「カノンは――」
 先に、カノンが何かを言おうとする。愛はそれをスッと制すと……。
「何も言わなくて良いの。だから聞いて欲しい。――私と、家族になろう?」
「っ!」
 その一言を聞いた瞬間、カノンは泣き笑いのような表情を浮かべ、
「契約を解除します……よろしくね、お姉ちゃん」
 愛の胸に抱かれるようにして、気を失った。


「……こども、の世界、というのは……本当に、狭いもの、です、ね」
 良い見世物を見せて貰った。ウィルマは口角を吊り上げると、その場を離れようとしていたビルシャナの思念体に視線を向ける。
「お疲れ様、です……でも、これも、仕事、ですか、ら」
 次は、お前が踊る番だ。ウィルマの視線はそう告げていた。口から零れるのは、囁くような『さようなら』。だが、どこまでも冷めた殺意に汚染させたその一言は、蒼い炎を纏った剣となって顕現し、ビルシャナを力任せに薙いだ!
「ッッッ――――!!」
 その瞬間、ビルシャナの思念体は半狂乱状態に陥った。逃れられぬ死の予感を感じ取ったのだろう。炎を飛翔させ、レーヴを襲う。
「ニオー、そっちは任せました!」
 ミハイルの呼びかけに応じ、ニオーが庇いに入る。カノンの説得の過程で、複数のBS体勢を備えていたニオーは、その程度の炎ではビクともしない。
「助けて頂き、ありがとうございます。ニオー様、ミハエル様!」
 言いながら、ニオーの背後から飛び出したレーヴは、プラレチの鋭い引っ掻きに合わせ、電光石火の蹴りでビルシャナの次の攻撃を制する。
「あなたの目論見は外れたんだから……ついでにとっとと退散しなさいっ!」
 ビルシャナの出番はもう終わり。これからは、家族の時間。ルヴァリアは一歩踏み出すと、ゲート状に展開したカードの輪をくぐる。そして、ルヴァリアがビルシャナにビシリッと指先を突きつけると、そこを目指して、一斉に魔力を帯びたカードが突撃をかけた。
「ウウウゥゥ!」
 思念体の発する声は、まるで亡霊のよう。事実、似たようなものなのだろう。ビルシャナが、冷気を帯びた輪でケルベロス達を薙ぎはらう。
「たくっ、お子ちゃまの……カノンの心に付け込みやがって。鳥野郎、覚悟はできてんだろうな!」
 氷が付与された仲間に対して、ウタがバイオレンスギターをかき鳴らす。それは、「ブラッドスター」と呼ばれる曲だ。
(ウタさん、分かっていますよ)
 これまで、援護に努めてくれたウタの想いは、ヒールと共にミハイルの胸の中へ。
 カノンにとって、今日という日を……時が経てば赤面し、ベッドの上を転がって悶えるような、微笑ましい思い出に変えるため――ハンマーを変形させたミハエルは、竜砲弾をビルシャナに放つ。
 ドガンッッ!!
 轟音が響き、ビルシャナの思念体が動きを止めた。
「狙い撃ちだよぉ!」
「撃ち抜け! おい、セツリュウ、そっちにいったぞ!」
 晒した隙に、夜野が近距離から獣化した拳を打ち込み、怯んだ所をトーヤが多量に展開させた魔力弾で、多方向から撃つ。
 そして――。
「応! 天よ照覧あれ、我、命奪う『番犬』なり。――戴くぞ」
 ビルシャナは、爛々としたセツリュウの瞳に射貫かれていた。しかし、気を抜いた訳ではない。だが、気付けばセツリュウはビルシャナに肉薄しており!
「――――!」
 それは、最早呻きを上げる暇さえない早業。まるで暴風の如くビルシャナに突き立てられた爪は、白い花弁が咲き誇ると同時に、ビルシャナを無に帰すのであった……。

「よかったな。これで大好きな兄さんと、あんたを大好きな愛さんと、一緒の時を歩んでいける。いつまでも仲良し家族でな」
 元通りになったカノンの部屋で、鎮魂歌を奏でながらウタは言うと、サムズアップでエールを送る。
 すると、愛と夢中になって会話をしているカノンが振り向き、同じ仕草を返してくれた。
「もう、大丈夫そうでございますね」
「やれ、まことの姉妹のようだ」
 レーヴとセツリュウは、忘れ物を取り戻すカノンと愛の姿に、抑えきれぬ微笑。
「好きな気持ちが憎しみに変わらなくて、本当に良かったです!」
 そんなに悲しいことはないのだと、ミハイルがホッと息を吐くと、
「あの二人には、最初からそんな心配はいらないんだよ。だって家族だからねぇ」
 夜野は『家族』の幸せを願い、ソッと目を瞑った。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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