闇間の力企てし者

作者:幾夜緋琉

●闇間の力企てし者
 ポツ、ポツ……と、雨雫が滴り落ちる、どこかも解らない闇の中。
『……っ……はっ?』
 ……気絶していた男が、気を取り戻す。
 暗闇に目が慣れるまでは、暫しの時が掛かる……なので。
『……っ……な、なんだよこれ!? 足も手も、縛られてるっ……!?』
 両手両脚が、冷たい貼付け台の様の上に完全に縛り付けられている。
 ……が、そんな男の声を聞いた男……竜技師アウルが。
「ふふ……起きましたか」
『はぁ、何だよてめえは!!』
「喜びなさい、我が息子よ。オマエは、ドラゴン因子を植え付けられた事により、ドラグナーの力を得たのですから」
『はぁ、ドラグナーの力だとぉ!? そんなの知らねえよ!! 早く、早く離せ!!』
 ガタガタと腕足を震わせて、どうにか引き剥がそうとするが、全然離れない。
 更に、アウルは、その言葉を聞いてか聞かずか。
「未だドラグナーとして、オマエは不完全な状態なのだ。このままでは、いずれ死亡するのが目に見えている」
『な、なんだと……そんなの、頼んだ覚えねえよ!』
「お前が死を回避し、完全なドラグナーとなる為には、与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺し、グラビティ・チェインを奪い取る必要がある。恨みを果たしたい者が居るのであろう?」
 ニヤリ、と微笑むアウル……それに、男は。
『……ああ、いるよ。俺の好きな女を横から掠め取っていった、あの男……絶対許せねえ!!』
「そうです。その恨みこそ、その力。その男を殺すのです!」
 その言葉と共に、腕足を縛り付けていた拘束具がカタン、と音を立ててハズされる。
 そして、男は獰猛な笑みを浮かべて、表へと出て行くのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、早速ですが、説明させて頂きます」
 と一礼しながら、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスらに。
「今回、ドラグナーの『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなるドラグナーとなった人が、事件を起こそうとしている様なのです」
「この新たなドラグナーは、まだ未完成とも言うべき状態であり、完全なドラグナーとなるが為に、必要な、大量のグラビティ・チェインを得る為、又、ドラグナー化する前に、惨めな思いをさせられた復讐と称し、人々を無差別に殺戮しようとしています」
「そこで皆さんには、急ぎ現場へと向かい、未完成なドラグナーを撃破して来て下さい」
 そして、続けてセリカは。
「今回の未完成ドラグナーですが、元々は極々普通の男でした。多少、性格は荒かった様ですが……」
「この未完成ドラグナーは、この一体のみで、配下は居ません。又、未完成な状態故、ドラゴンに変身する様な能力も持ち合わせてはいません」
「彼がドラグナーになった原因は、恐らく……他の男に恋人を取られてしまったが為、その怒りにいつの間にか自堕落な生活に落ちてしまったところを狙われた、というものの様です」
「そして、彼は、その奪った男と、女がデートをしている、海の見えるデートスポットに現れる様です。そして、廻りにいる人を次々と殺戮しようとします」
「このドラグナーの戦闘能力ですが、簒奪者の鎌を振りかざし、首を刈り尽くそうとしています。ほぼ自暴自棄に陥っている為、ほぼほぼ攻撃のみを行い、防御は殆ど行わない様です」
 そこまで言うと、セリカは。
「何にせよ、もうこのドラグナーとなってしまった人を救出する事は出来ません。ですが、理不尽で無差別な復讐を行わせない為にも、事件の阻止をお願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
武田・克己(雷凰・e02613)
リヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)
佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)
リン・グレーム(銃鬼・e09131)
暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)
御忌・禊(憂月・e33872)
雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)
月見里・ゼノア(鎖された物語・e36605)

■リプレイ

●その力は怒りと共に
 突如、ドラグナーの力を手に入れし悪人。
 その理由こそ、好きな女を奪われた恨み……現場は彼女と彼氏のデート現場である、お台場の海浜公園。
 時刻は夕方ともなれば、多くの一般人達が海浜公園には居る事だろう……そして、居るカップル達こそが、この未完成ドラグナーが殺すべき相手、でもある。
「やー、いい景色ですねぇ……あー、夕陽も良い感じですよ。ほら、見て下さい。リア充達がイチャイチャと……絶景ですよねぇ」
 と、ニコニコ笑顔で周囲を見渡す月見里・ゼノア(鎖された物語・e36605)に、暮葉・守人(狼影を纏う者・e12145)も。
「そうだね。海浜公園かぁ……初めて来たんだけど、潮風が気持ちよくて良い所だね」
 と頷きつつ、ちょっと周囲のイチャイチャっぷりに苦笑する。
 ……夕陽を見上げる頃合いとなれば、ここは最良のデートスポットの一つなのは間違い無いだろう。
 まぁ……独り身にとっては、周囲の環境が妬み、恨み、怒りの原因にもなるのだろうが。
「独り身にこの風景は少し酷な気がするっすけど……それはそれ。仕事はキッチリとこなしますよっと」
 とリン・グレーム(銃鬼・e09131)がカップル達に視線を向けない様にしながら、バスターライフルに弾込めをしていると、守人も。
「そうだね、お仕事お仕事ーっ……んっあっ、あのさぁ、今気づいたんだけど「殺界」を使うと、俺なんか、すげぇリア充を妬んでる奴っぽくない?」
 殺界形成は、殺気を放って一般人を遠ざけるもの。リア充を妬んで殺界形成……確かに。
「んま、確かにな。しかし恋人を取られた悔しさか。俺にはまだまだ判らん感情だよな」
 と武田・克己(雷凰・e02613)に、御忌・禊(憂月・e33872)が。
「……恋心というものは……とても、複雑なのですね……人を好くという事は、本当に難しいです……」
「そっか? ま、俺は今の女を手放す気は無いが、相手が見限ったらそこまで、とすっぱり諦めたいね。泣くだろうが」
「……そう、なんですね……」
 克己の言葉に、禊は理解したのか、していないのか……分からない様に頷く。
 ともあれ、彼は恨み言を胸に、竜技師アウルによって利用された被害者の一人でもある訳で。
「まったく懲りないというかなんというか……生きてればもっといい方法なんてたくさんあるだろうに。ともあれこう何か幸せそうな人が沢山いるんだし、いい具合に守らないとね」
 と佐々塚・ささな(やりたいほうだい・e07131)がうんうんと頷くと、雨宮・利香(黒刀と黒雷の黒淫魔・e35140)が。
「そうだねー。恋の病って恐ろしいね……まあ、一番許せないのはそれを利用する奴なんだけれども。でもこの公園、素敵な場所だね~、私も彼氏を作ったら行こうかなー? なんてね? ……作るつもりはないよ?」
「作らないのー?」
「ないない。まぁ、ね♪」
 と、ひらひらーっと手を振りながら流す利香、そして。
「何にせよ、逆恨みの果てに平和な時間を過ごす無関係の者を手当たり次第殺すなど言語道断。此処で下らん妄想を叩き潰すだけだ……!」
 拳を握りしめ、熱く語るリヴィ・アスダロス(魔瘴の金髪巨乳な露出狂拳士・e03130)。
 そしてケルベロス達は、早速ではあるが、リア充達……いや、海浜公園を訪れている一般人達の避難誘導を始めるのであった。

●夢を怒りに
 そして、ケルベロス達は海浜公園に到着するとすぐに……逆の方から現れる、未完成ドラグナー。
『……ちっ。どいつもこいつも……くそ、こうなりゃ、全部殺してやらぁ!!』
 と恨みを吐き捨て、簒奪者の鎌を抜き、空高く掲げるドラグナー。
 一部は気づいているものの、まだ大多数は気づいていない……それを見て、すぐに。
「さて、と……それじゃ殺界形成、お願いね?」
 と利香が守人の肩を叩き、守人は。
「りょーかい。んじゃ……ほーら、みんなあぶねーから早く逃げろー!」
 と言いながら、一気に殺界形成を其の場に展開し、周囲の一般人を逃げる用に指示。更にリン、ゼノア、ささなも。
「ほらほら男ども! アレはあっし達ケルベロスが抑えるんで、ちゃんと女性を安全なところまでエスコートするんすよ!!」
「はいはーい。爆発したく無かったら、さっさと逃げてくださーい」
「ほらほら逃げた逃げたー!!」
 と、大きな声を上げ、手を上げて避難方向を指示し、逃がしていく。
 その一方でリヴィと利香が、先ずは未完成ドラグナーの前へと立ち塞がる。
『てめぇ、何だよ邪魔なんだよ!! どけどけえ!!』
 と苛立ち、鎌を振りかざす。
 が、それに一切怯む事無く、リヴィは。
「恋人を奪われた等と聞いているが……貴様は奪われない様に何か努力をしたのか? 奪われた後、心を切り替えて見たのか? それが出来なかった身で当たり散らすなど……恥を知れ!!」
 と、強い口調で言い放つ。
『う、うるせえ!!』
 心の中を見透かされた未完成ドラグナーは、叫ぶ。更に利香も。
「そうだね。同情はするけど、罪の無い人の血を流させるわけには……いかないよ!」
 と、魔刀『供羅夢』を構えて睨み付ける。
『くそっ……しゃらくせえ、邪魔するなら女だって許さねえ!!』
 と沸点超えた未完成ドラグナーが、その鎌を振り落とす。
 ……がその一撃、横から禊がケルベロスチェインを飛ばし、その太刀筋を受け止める。
『っ……!』
「……申し訳ありません……本当は戦いたくなどありませんが……これもまた、無事の方々を守る為ですので……」
「そうだね。さぁここからが本番!!」
 と、禊にささなが頷き、バトルオーラを燃やし、未完成ドラグナーとの間に割り込んで行く。
 そしてそれを補助する様に、禊は分身の術で前衛陣にBS耐性を付与する。
 ……そうしている間に、一般人の避難も殆ど終わり、砂浜の上に残るは未完成ドラグナーと、ケルベロス達のみ。
「さあ、行くぞ!」
 と、先陣切って斬りかかる克己、懐に飛び込み、雷刃突を叩き込むと、同時に利香が。
「そんな付け焼き刃の力で、この攻撃が見切れると思ってる!?」
 と威勢良く、『雷神月翔斬』の一閃で斬りかかると、更にささなも。
「覚悟……は多分してないんだろうね。でもなった以上は、喰らうのみさ!」
 と『超電竜撃滅衝』を叩き込んで行く。
 そんなクラッシャー陣の猛攻一巡した後に、続くは守人。
「自暴自棄の大雑把な動きだけど……威力は十分てか? まあ、備えあれば憂いなし、切れなきゃただのなまくらさ」
 と『心影開放:神風-纏-』を前衛陣に放ち盾を付与。
 そしてリンが。
「不幸な事が重なってるのは分かりますし同情もしますがね。それも八つ当たりのような虐殺を容認する事は出来ないっす」
 と轟竜砲を放つと共に、ディフェンダーのリヴィも。
「さぁ……これでも喰らえ!!」
 と威風堂々とした気咬弾の一撃を叩き込む。
 ……そして、最後にゼノアは、皆の状況を確認した上で。
「汝、盟約の下、慈愛の雨を与え給え」
 と詠唱し、空高く小瓶を放り上げた後、体をぐるり一回転、遠心力を利用し、隠し持ったナイフを小瓶に向かって投げつけて、小瓶破壊し、薬品の雨を前衛陣に降り注ぐ。
 そして、次の刻。
 未完成ドラグナーは一端距離を取り、更に鎌の一撃を繰り出してくる。
 が……今度はその一撃を、リンのボクスドラゴンのディノニクスが身を呈してカバー。
 吹き飛ぶディノニクス……傷だらけでも立ち上がるボクスドラゴンに、リンは。
「すまないっすね。頑張るっすよ」
 と後ろからバスタービームでプレッシャーを放つリン。
 対し守人は再度『心影開放:神風-纏-』で前衛陣に更なる盾を付与する。
 そして、ゼノアが。
「各自、油断しないようにして下さいね」
 と言いつつ、ウィッチオペレーションで回復をディノニクスに飛ばす。
 回復の後、克己が絶空斬で斬り抜けると、ささながセイクリッドダークネス、禊がブレイズクラッシュで炎を付与、そしてリヴィも懐まで潜り込み、ハウリングフィストを深々と叩き込んで行く。
 ……確実に、時と共に未完成ドラグナーの体力は削れる。
 ただ、彼自身も心に秘めた恨みで以て、どうにか恨みを晴らせないか、と攻撃。
 でも、ゼノアが回復に集中する事で、ダメージを後に残さぬ様に戦況を進めていく。
 そして、経過する事十数分。
『ぐっ……ぅぅ……!!』
 と、その場で崩れ墜ちる未完成ドラグナー……それを見て。
「この状態になってしまっては我々でもどうしようもない。せめて罪を犯してない今の貴方のまま……終わらせるっす」
 と、『臨界突破圧政射』で一気に追い込んでいくと、リヴィも。
「極大の恐怖の嵐に、震え上がるがいい!」
 と、『テラー・テラ・テンペスト』で殴り掛かり、そして克己が。
「この一太刀で、神すら斬ってみせる!」
 と全力の『神斬』を一閃し……未完成ドラグナーは、一刀両断に崩れ墜ちていくのであった。

●片夢の跡
 そして……未完成ドラグナーの姿が完全に消失し、その気配も消え失せた後。
「……風雅流千年、神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されていないんだよ」
 と、刀の血を振り払う様にしながら、言い放つは克己。
 そして、克己に続き、禊も。
「……皆さん、お疲れ様です……怪我は、ありませんか……?」
 と言いながら、怪我を分身の術にて回復していく。
 ……一通り、自分達の回復が終わった所で、残るは周囲で傷ついた所のヒール。
 砂浜は何カ所も穴が空いていて、焼けてしまっている所もある。
「……海浜公園……とても、綺麗ですよね……ヒールが終われば、少し見てから帰りましょうか……」
 と、禊の言葉にリヴィ、ささな、守人、利香にゼノアが次々と回復グラビティを飛ばして、傷ついた所を一つ一つ修復。
「ほら、これなんか絵になるでしょ?」
 とささながニコッと微笑みながらヒールドローンをばらまいていると、それに利香も。
「そうだね! まぁ、ファンシーになっちゃうけど……まぁ、元から少しロマンチックな所だから、いいかな?」
 と苦笑。
 ……と、そうしている間に、すっかり夕陽が地平線に落ちる頃。
 そんな夕陽の光景を見上げながら……。
「こういう平和を守るのも、ケルベロスの仕事ってね。まぁ、罪滅ぼし的なものもあるけど」
 と、ささなが呟くと、それにリンが。
「そうっすねぇ……それにしても、ほんと綺麗っすよねぇ……」
 と、煙草をふかしながら一言、そして守人も、買ってきた缶コーヒーを開けながら。
「……確かにこれは、リア充が喜びそうな光景っすよねぇ……」
 と……その言葉を聞きながら段差に腰掛け、足をぶらぶらとさせながら、誰にも聞こえない位の小声で何かの歌を奏でるゼノア。
 ……そして夕焼け空は段々と暮れていき……夕焼け空から夜空と星空に変わりゆく。
 頭上に広がる星空は、何処か美しさに暫し時を忘れて。
「……本当、綺麗っすよねぇ……」
「……そうだなぁ……いつか一緒に来られたらいいよな……」
 と、リン、守人は、そんな星空に呟くのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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