五月病事件~逃れられぬ春の陽気

作者:天木一

「あ~大学行きたくないなー」
 ごろごろと寝心地の良い柔らかなソファーの上でパジャマ姿の女性が寝っ転がっている。
「まだまだ単位なんてよゆーで取れるし、もうちょっといいよねー」
 そのままテーブルに手を伸ばしてジュースを飲み、スナック菓子をぽりぽりと食べる。床には脱ぎっぱなしの服や、ゴミの詰まったスーパーのレジ袋が散らばっている。
「あー極楽ー。もうずっとこのままでいいなー」
 何もする気がしないと、スマホの電源すら落として放り出し、垂れ流しのテレビを横目にしながらはだけたシャツに手を突っ込んでお腹を掻く。
「あったかいし、天気もいいしー、こんな日は家でのんびりするのが最高だよー」
 開けっ放しの窓から穏やかな風が吹き込む。暖かな陽気が差し込む中、まどろむように女性は瞼を閉じた。

「ゴールデンウィークも終わってしまいましたね。皆さんは楽しみましたか?」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)の言葉に集まったケルベロス達が各々返事をする。
「ですが、どうやら世間では五月病が蔓延しているようなのです」
 五月病の異常発生について集めた資料が提示される。
「ジゼル・クラウンさんをはじめ、多くのケルベロスの方が調査した結果、五月病の病魔が大量発生して、多くの人を五月病にしてしまっている事が分かりました」
 そう、五月病とはその名の通り病魔の仕業であるのだ!
「皆さんにはその病魔を退治し、五月病に掛かった人を社会復帰させてあげてほしいのです」
 なんともほのぼのした緊張感のない事件ではあるが、自分達にしか倒せないのであればとケルベロス達は説明の続きを聞く。
「五月病の病魔に侵された人は大学に入ったばかりの女性で、学校に行かずに一人暮らしを始めたアパートの一室に引き籠っています。ですが意識は普通にあり、意思の疎通が可能なので尋ねれば普通に会う事ができます」
 面倒臭がって居留守を使う可能性もあるが、その場合は無理矢理踏み込めばいいだろう。
「五月病の患者は、ウィッチドクターが居れば、病魔を引き剥がして戦闘する事が出来ます。居ない場合も、その地域で活動する医療機関のウィッチドクターに協力してもらう事が出来ますので問題ありません」
 ウィッチドクターの力で病魔との戦いへと持っていける。
「病魔はだらけた少女の姿をしていて、見境なく人々を怠惰の世界へと導いてしまうようです」
 魅了して相手をだらけさせる能力があり、対峙した者はミイラ取りがミイラにならぬよう、五月病に掛からぬように気を付けねばならない。
「誤解されていますが、五月病とは病魔に感染して発生する病です。皆さんがこれを退治する事で、一般に広まっている怠け癖のような誤解が解けるといいのですが……」
 だが五月病でなくても怠けている人が居たりもするので、なかなか難しい問題だとセリカは眉を寄せる。
「それと五月病は再発しやすい病気です。ですので救出した後に話を聞いてあげたりしてフォローすれば、再発防止になるかもしれませんね」
 セリカの言葉にケルベロスは任せておけと頷き、出発の準備へと向かった。


参加者
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)
ルビー・グレイディ(曇り空・e27831)
日御碕・鼎(楔石・e29369)
ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)

■リプレイ

●五月の陽気
「五月病って病魔の仕業だったんだ……」
 新事実にルビー・グレイディ(曇り空・e27831)は驚いた顔を見せる。
「命に関わる事もある以上、きっちり倒していかないとねー」
 倒して五月病を治そうと気合を入れる。
「……手が届く範囲が生活圏、わからんでもない……が。いやいや、そんなんじゃ干物になっちまうぜ」
 だらけた生活に思わず同意してしまいそうになったシュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)が首を振って邪念を払う。
「たしかにお家でぬくぬくごろごろしてるのって幸せだよねえ! 気持ちわかるなあ! でも、病魔が原因みたいだし、しっかり退治しちゃわないと、ね!」
 アルバイト制服を着たアルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)が笑顔を浮かべ仲間に元気に声をかける。
「五月病がこんなオオゴトになっちゃうなんてね」
 赤頭巾を被ったフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)は、毎年GWの終わりと共にやってくる病にこんな原因があったのかと興味深そうに思案する。
「ずっとゴロゴロも飽きないのかな? お外には知らない事、楽しい事いっぱいあるよ」
 天気のいい日はこうして外を歩くのも楽しいと、灰縞・沙慈(小さな光・e24024)は春の暖かな陽気を見上げる。
「春の陽気は確かに心地いいけれど、この時はずっとは続かない……今この瞬間の、貴重な時間を無駄にしていつかこの人は後悔するのではないかと思うんだ」
 ティティス・オリヴィエ(蜜毒のアムリタ・e32987)はアイオライトの瞳に穏やかな春の景色を映す。
「相手をだらけさせる敵ね。なら最初からだらけておけば! ……真面目にやるわよ」
 いいアイデアだと思いつつも、ソフィア・フィアリス(傲慢なる紅き翼・e16957)は視線をアパートの上階、五月病になった女性の居る一室に向けた。
「五月病、ですか。……。厄介な時期になったものです。ね。斯うして病魔として退治出来る事が救い、でしょうか」
 倒して治せるのなら問題ないと、日御碕・鼎(楔石・e29369)はアパートに足を踏み入れる。
「さ、て。仕事を全うしましょう」
 仲間と共に階段を上り、目的の部屋へと向かう。

●病魔
「宅配でーす! 受け取りお願いしまーす」
 段ボールを手に宅配を装ったアルベルトがチャイムを鳴らす。暫くすると中から声が聞こえた。
「んー? どこの人?」
「日頃ありがとうございます。常乍らの者は体調不良、でして。代わりに来ました」
 鼎が覗き穴から見えるよう礼儀正しく頭を下げる。
「あー、そういやジュース頼んでたかー」
 するとガチャッと鍵が開き扉が少し開いた。その隙間から二十歳前後のパジャマ姿の女性の姿が覗く。
「ケルベロスですー! 病魔のお引き取りにまいりましたーっ!」
 そこへアルベルトが開いた扉の中へと押し入る。
「なんなのー勝手に?」
 ぼーっとしながらも女性が抗議の間延びした声を上げる。
「あたし達はね、お姉さんを無気力にしてる病魔をやっつけに来たんだよー」
 ルビーは怪しい者ではないと安心させるように穏やかに話しかける。
「ごめんね、実は僕らはケルベロスで病魔を倒しにきたんだよ」
 バスケットを手にしたウィッチドクターであるフィーも部屋に入り込んで事情を説明する。そして薬液を振り掛けると、眠たげな少女の姿をした病魔が女性から引き剥がされた。
「ん~ねむねむ」
 とろんと目をさせ、うとうとと壁に寄り掛かって眠ってしまう病魔。
「なんだろうこの病魔、はじめ会った気がしないわ。乱れた金髪……眠たげな顔……やる気なさそうな言葉のTシャツ……誰だっけ?」
 病魔の姿に既視感を覚えながらも、ソフィアは意識を戻して縛霊手を遠隔操作して紙兵を周囲にばら撒き仲間を守る盾とする。
「さぁ、……骨の髄まで楽しもうぜ?」
 シュリアは八重歯を見せてニヤリを笑い、回し蹴りを脇腹に叩き込んで病魔を部屋の奥へと押し込んだ。
「トパーズはディフェンダーで皆を守ってあげてね」
 沙慈はウイングキャットのトパーズに声をかけながら、女性の体を担いで部屋の外へと避難させる。トパーズは敵に飛び掛かって注意を引き付ける。
「女性を運び出す間、少し大人しくしてもらうよ」
 ティティスも鋭い蹴りを脚に叩き込むと、力を失ったように敵の体が崩れ落ちる。
「まだお昼だよー、起きるには早いよー」
 そのままゴロンと転がって病魔は寝てしまう。すると周囲のケルベロス達にも同じように猛烈な睡魔が襲い掛かる。そこへミミックのダンボールちゃんも仲間を庇おうとして前に出て、パタッと倒れて眠り始めた。
 ミミックのヒガシバは蓋を開いて相手のほっぺを挟み込んで痛みで目覚めさせる。
「もうーなんなんー? まだ五月だよー?」
 病魔は眠くなるよな声で抗議する。
「さあ、もうGWは終わりですよ!
 リボルバー銃を抜いたアルベルトが抑えこんだ心を解放し、殺意を高めて銃弾を胸に撃ち込む。
「眠いなら、眠ったまま逝け」
 札を手にした鼎は狐を呼び出し炎を放った。
「あーづーいー」
 炎に巻かれた病魔はゴロゴロ転がって冷たい床でだらーんと伸びる。その脚にダンボールちゃんが齧りついて気を引いた。
「超重量級の一撃をお見舞いするよ」
 そこへ建物を揺らすような強い踏み込みから、ルビーが蹴りを腹に叩き込んでボールのように敵を吹っ飛ばした。
「争いなんて不毛だよー。一緒に横になってゆっくりしよ~」
 病魔がお腹を出して眠る。するとケルベロス達の瞼が重くなり、すぐにでも眠りたい誘惑に駆られる。
「気持ちよさそうね。おばちゃんも一緒に寝たくなるわ……」
 でもそういう訳にもいかないと、ソフィアは縛霊手を飛ばして殴りつけ霊力を絡み取って身動きを封じる。
「むにゃむにゃ……」
 だが敵は気にせず床を転がって部屋の隅で寝続ける。
「見てるだけで眠くなっちまう、悪いが邪魔させてもらうぜ」
 シュリアは火薬が燃えるようなオーラを放ち、敵にぶつけて壁に叩きつける。
「想い描く結末は――もうその掌の中に」
 フィーは小動物や小さな人形達の幻を生み出し、賑やかで可愛らしいオーケストラを指揮する。それは仲間達の心を温かく包み込み眠気に抵抗力を与えた。
「こんな美しい春の景色を外で見ないのは損だと思うよ」
 ティティスの体が光へと変わり高速で突進して敵の体を弾き舞い上げる。
「お外へ出て楽しい思い出をいっぱい作って欲しいから。私、この病魔さんを全力で退治するよ」
 沙慈は角度によっては紫色に見えるメタルを腕に纏い、拳を叩き込む。壁にぶつかり床を転がり顔から地面に着地する。
「あー冷たくて気持ちー」
 床の冷たさが心地良かったのか、そのまま病魔はだらりと弛緩する。
「動かぬ相手なら、当てるは容易い」
 弓を構えた鼎は矢を放ち、吸い込まれるように矢は敵の胸を貫いて床に縫い付ける。
「そんなところで寝てたら踏まれちまうぜ?」
 シュリアは敵を踏み潰すように蹴りを放った。そんな攻撃をされてもやはり病魔は動きもしない。
「なら眠っていられないくらい暑くしてあげるよ」
 沙慈から御業が現れ、炎を放って敵を燃やす。
「あーもーせっかく気持ちよかったのに、台無しー」
 病魔は炎から逃れようとあっちへゴロゴロ、そっちへゴロゴロと寝たまま転がっていく。そしてスナック菓子の袋にたどり着くとパリボリと食い散らかし、プシュッと炭酸ジュースで流し込んでそのまま眠ってしまった。
「なるほど……病魔というだけあって、人とは行動原理が違うみたいだね」
 ティティスは何をされてもマイペースに寝続ける病魔を蹴り飛ばす。
「そんなに眠いんだったら、時間ごと永遠に眠らせてあげるよー!」
 アルベルトが銃弾を体の真ん中に撃ち込む。すると時が停止したように敵は動きを止めた。
「さあ、共同作業といくわよ」
 そこへソフィアが縛霊手を腕に装着するとヒガシバのエクトプラズムを腕に纏わせ、まるで腕に引っ張られるようにして何度も敵を殴りつける。
「眠いんだから邪魔しないでよねーのんびりいこうよー」
 ボリボリとお腹を掻きながら病魔は眠たげにほのぼのした空気を醸し出す。それはケルベロス達にも影響し戦いの緊張感を奪い去っていく。
「見てるだけでこっちまで眠くなっちゃう……ってのんびり眺めてられないね!」
 フィーはバスケットの中からお手製薬を幾つか取り出し周囲にばら撒く、ハッカの香りのする薬液が仲間を癒し意識をすっきりとさせた。
「何をしても眠いって、それはもう病気だよね」
 ルビーは跳躍して上から踏みつけるように飛び蹴りを浴びせた。

●五月病
「ごろごろー」
 攻撃を受けても呑気に病魔は床を転がる。
「ごろごろして羨まし……じゃなくて、もうお休みは終わってるんだよ!」
 アルベルトの元から広がった黒い液体が敵の体を呑み込み、消化するように溶かしていく。だが病魔はその中で寝息を立ててリラックスタイムに入る。
「こんなにやる気の無い相手は初めてだな……ダラダラしてしまうのはわかるんだが、メリハリが大事だぜ」
 戸惑いながらもシュリアは攻撃の手を緩めず、オーラの弾を寝ていられないよう顔に撃ち込んだ。
「攻撃は好きじゃないけど、病気の子に元気になってもらうためだもん」
 沙慈は爪を刃物のように伸ばして頑張って斬りつけ、病魔の体に深い爪痕を刻む。
「もーめんどい事はやめちゃってさー寝っ転がろーよー」
 病魔はクッションを抱き枕のように体に挟んで気持ち良さそうにだらける。
「あーおばちゃん疲れちゃったから、後は任せるわね~」
 だらけたソフィアの元から両腕の縛霊手が宙に浮き、敵を左右から押し潰すように殴りつけた。
「人を惑わす術も、式神には効かん」
 鼎が札から鬼を呼び、その強靭な腕を一振りさせて爪で敵を引き裂いた。
「五月病が移るって、こんな姿を見てたら納得しちゃうね」
 フィーはもう一度薬液を撒いて仲間の頭をハッキリとさせる。
「見た目は人でも、病魔に容赦はしないからね」
 ガントレットを構えたティティスはジョット噴射で加速し、大砲のような拳を打ち込んだ。床に食い込むように病魔は凹む。
「ちょっとジュースでも飲んで落ち着きなよー」
 病魔は取り出した炭酸ジュースを口に運ぶ。それをトパーズが爪で弾き顔を引っ掻く。そしてヒガシバが内部から取り出した偽物の炭酸ジュースのボトルを転がすと、病魔が転がってそれを取りに向かう。
「正確に、急所だけを……!」
 狙いを定めたルビーの振るう刀が弧を描き、敵の腕を斬り飛ばす。
「働きすぎじゃないかなー、二度寝するくらい心の余裕が必要だよー?」
 病魔がゴロゴロと眠気を振りまく。
「二度寝なんてさせないよ!」
 フィーはバスケットから今までと違う瓶を取り出して投げつけた。それは強烈な刺激臭を放って眠りを妨げる。
「もう五月病は終わりだよ!」
 沙慈が鋼を纏った腕を振り抜き、敵の顔面を打ち抜いた。
「その眠たげな顔をスカッと目覚めさせてやるぜ!」
 続けてシュリアが指を鳴らす。すると腕に炎が巻きつき意思を持つように蠢いて敵に襲い掛かった。
「まだ五月だしーそれってロスタイムみたいなもんじゃんー」
 転がりながら病魔が狭い室内を逃げ惑う。
「見てるとこっちも五月病になっちゃいそうだから、移される前に倒しちゃう、ね!」
 アルベルトが殺意を高めると、ただ敵だけを見て銃口を心臓に向けて撃ち込んだ。
「これ以上だらけてるわけにもいかないわね」
 ヒガシバを宿した縛霊撃に引きずられるようにしてソフィアは敵を滅多打ちにする。
「みんな無理しなくていいんだよーそんな働いたら疲れちゃうでしょ? 嫌な事なんてやめちゃって、のんびりすればいいんだよー」
 病魔はゆるい空気を醸し出してケルベロス達を惑わそうとする。
「懸命に生きる美しさをしっているんだ、そんな怠け心には負けないよ」
 対してティティスは毒の詩を紡ぎ、煌めくルーンが流星を呼んで敵を貫いた。吹き飛んだ後には星の輝きを宿す月下美人が咲き誇る。
「疲れたら、寝るのが一番だけど、寝すぎは体に悪いと思うんだよ」
 ルビーが小さな体に力を漲らせ、鋼を纏った腕を思い切り振り下した。敵の体が叩きつけられ大きくバウンドして宙に浮く。
「病は跡形もなく消し去る、それが病気根絶の基本だ」
 鼎の元に狐が現れ、鬼火の如き青の焔が病魔を残さず焼き尽くした。

●始まりの季節
「はい、もう入っていいよー!」
 フィーが男性を締め出し、女性をパジャマからパーカーにデニムというラフな格好に着替えさせていた。
「あの、皆さん助けていただいてありがとうございました!」
 女性が頭を下げて礼を述べる。
「悩みがあるなら聞かせてよ、お姉さん。あたし達で良ければ力になるよー」
 優しく微笑んだルビーが安心させて女性から話を聞く。
「高校の頃はスポーツと受験と頑張ったんだけど、大学に入っちゃったら気が抜けちゃったの」
 女性は筋肉の落ちた二の腕をさすった。
「まー大学生、初めての一人暮らし……親の目も離れて気が緩んで仕舞うのもわかるけど、それこそ、今この時間を楽しむべきだと思うけどな。スポーツの楽しさを知ってるなら泳いでみてもいいし、後輩に会いに行ってもいいだろう」
 五月病予防にシュリアがあれこれと体を動かす提案をしていく。
「学校生活、まだまだ知らない事も多いでしょう。此れから、ですよ。行事とか、サークルとか」
 同世代の鼎もこれから色んな事にチャレンジしていけばいいと励ます。
「おばちゃんもねー、そういうロスするみたいな感覚わかるわー……何か出会いがあれば変わるかもね」
 ソフィアは過去の事を振り返り、自分が経験した事を元にアドバイスをする。
「ね、ごろごろ過ごすのも幸せだけど、ガッコの友達と遊べるのって今しかないよー? 勿体ないと思うよ。ね?」
 こうして仲間で集まるのが楽しいのだとアルベルトが見渡す。
「私もそんな仲間を大学で作りたいな……」
 羨ましそうに女性はケルベロス達を見る。
「外で楽しい事がありますように」
 沙慈が祈りを込めて折った折り鶴を女性の手の平に乗せる。
「きっと鶴さんのように素敵に羽ばたけるよ」
「ありがとう」
 女性は大切そうに折り鶴を見つめた。
「春は過ぎ、これから夏がくる。季節は巡るんだ。今ある時間を大事にね、もうこの一瞬は2度とこないんだ」
 ティティスは今この瞬間の大切さを語る。
「君にはまだまだ沢山の可能性がある……それを無駄にするのは勿体無いよ。君に永遠はないのだから」
 その想いの籠ったティティスの言葉に、女性は真っ直ぐに目を合わせて頷いた。
「私、大学でがんばってみるね! 楽しいライフキャンパスになる気がしてきたよ!」
 吹っ切ったような女性の晴れやかな笑顔に、ケルベロス達も安心した顔で笑みを返した。
 窓からは、清々しい春の日差しが降り注いでいた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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