五月病事件~忘れてしまった夢

作者:青葉桂都

●自分はなにをしたかったんだろう
 扉の向こうから、母親の声が聞こえる。
 今日こそ仕事に行けというのだ。
 沙也香はベッドでスマホの画面をながめながら、ため息をついた。
「毎朝毎朝、よく飽きないな。放っておいてくれればいいのに」
 進学を拒否してまで、どうしてもやりたかったはずのデザインの仕事……でも、ゴールデンウィーク頃から、何故自分があんなにやりたがっていたのか思い出せない。
「お父さんやお母さんの言う通り、普通に受験したってよかったよね……」
 画面には流行っているというゲームの画面が写っていた。
「……つまんないゲーム」
 枕の横に、スマホを放り出す。
 読みかけの本でも取りに行こうかと思ったが、もう起き上がることさえ面倒だった。
 部屋の外からは、まだ母親の声が聞こえている。
「仕事を辞めて、来年改めて受験しようかなあ……」
 布団を頭からかぶって叱りつける声をさえぎり、沙也香は呟いた。

●五月病を打ち砕け
 連休が終わってからというもの、ちまたでは五月病が流行っているらしい。
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)はケルベロスたちに告げた。
「ジゼル・クラウンさん他、多くのケルベロスの皆さんたちが調査した結果、五月病の病魔が大量に発生していることがわかったっす」
 もちろん、五月病はすぐに命に関わるような病ではない。
 とはいえ放置しておけばどんどん社会復帰が難しくなってしまうだろう。
「どうかケルベロスの皆さんで、手遅れになる前に社会復帰させてあげて欲しいっすよ。よろしくお願いするっす」
 ダンテは頭を下げた。
 五月病にかかった人は別に意識を失っていたりするわけではない。
 普通に家を訪ねていけば会えるだろう。
「自分が予知したのは、沙也香さんっていう女性のことっす」
 4月に就職したばかりだが、ゴールデンウィーク以降ずっと休んでいるらしい。
「本人は部屋に閉じこもりっきりっすけど、ご家族もいるのでケルベロスだって名乗れば会わせてもらえるはずっす」
 集まった中にウィッチドクターがいれば病魔を引き離して戦闘を行うことができる。仮にいなくとも、地域の医療機関に協力してくれるウィッチドクターが引き出してくれるはずだ。
「どっちにしても難しいことはないんで、皆さんは引き出した後のことを主に考えておいて欲しいっす」
 ダンテはそれから、敵の戦闘能力について説明を始めた。
 牛のシルエットのような姿をした病魔は、まずやる気のない鳴き声を上げて気力を奪い取ってくる。声の聞こえる範囲内にいたものは、武器を扱う力を弱められてしまうだろう。
 体に浮かんでいる『臨時休業』の文字を飛ばして、敵を捕縛することもできるようだ。
 また、角で突進をかけることができる。緩やかな動きだが威力は高い上、麻痺したようにこちらの動きも鈍らされてしまう。
「五月病は怠けてるだけって誤解されやすいっすよね。でも、ケルベロスの皆さん方が病魔を撃破して治せば、本当に病気なんだってわかってくれる人が増えるかもっすね」
 再発しやすい病気なので、病魔を倒した後は話を聞いてあげるなど心のケアをしてあげたほうがいいかもしれない。
「助けてくれた皆さんの言葉なら、絶対に沙也香さんの心に響くっすよ」
 説明を終えたダンテは、最後にそう付け加えた。


参加者
ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)
相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
翼龍・ヒール(ドクトルドラゴン・e04106)
タカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)
シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)
アイシャ・イルハーム(純真無垢な黒き翼・e37080)

■リプレイ

●病魔を追い出せ
 住宅地の一角にある家に、ケルベロスたちは集まっていた。
「五月病、病魔の仕業だったのですね。たまーにやる気がなくなったりだらっとしてしまうのも……そういう事でしたか」
 ロゼ・アウランジェ(ローゼンディーヴァの時謳い・e00275)が言った。
「五月病、っていうんですか。確かに妙にやる気が出なくなったりする事、ありますよね……」
 アイシャ・イルハーム(純真無垢な黒き翼・e37080)が、この少女には珍しい気遣わしげな表情を浮かべた。
「一度気を抜くとズルズルと引きずってしまうよねぇ。暖かくなってきたこの時期だとなおさら」
 黒髪をツインテールにしたリョウ・カリン(蓮華・e29534)が、灰色のツインテールを持つ少女の隣に並んでいる。
「でもでも、そんな時こそ笑顔が大事! 折角の人生ですもん、出来る限り楽しみましょう?」
 すぐに明るい表情を取り戻すと、アイシャが元気よく声を上げる。
「ああ。あいにく俺には、心の病ってやつの辛さはわかんねぇが……俺達が出張らなきゃいけねぇって時点で大事だってのは分かる。早いとこなんとかしてやらねぇとな」
 無精髭のおっさんが少女たちに近づいてきた。
 相良・鳴海(アンダードッグ・e00465)は黒豹の獣人と共に仲間たちに合流する。
「とりあえず避難活動は無事に終わったよー。いつもはあわただしくやらなきゃいけないことばかりだけど、今回は楽でいいね」
 ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)は明るい表情で告げる。
 今回は敵が現れるのではなく、病魔を呼び出して戦うことになるので時間はある。
「……ゴールデンウィークが終わってしまったことを嘆く気持ちは、俺にもわかるがな」
 タカ・スアーマ(はらぺこ守護騎士・e14830)は、牙を覗かせた大きな口を開き、大きく息を吐いた。
 しばし後、家人の協力を得て、ケルベロスたちは2階にある部屋を訪れていた。
(「五月病って病気だったんですね……あまり考えたことがありませんでした」)
 大きな胸を持つ女医の見つめる先では、二十歳前であろう女性がベッドに半身を起こしている。ケルベロスが来たといきなり聞かされたのだから当然かもしれない。
 沙也香という名の女性は、不安そうな顔で布団を引き寄せる。
「ですが、病とわかれば治すのはウィッチドクター、そして、ケルベロスの役目ですね。お任せください」
 翼龍・ヒール(ドクトルドラゴン・e04106)は彼女に微笑みかけてみせた。
「それでは、広い場所に移動しましょうか。僕が運びますよ」
 シトラス・エイルノート(碧空の裁定者・e25869)が沙也香に近づいていく。
「ここで病魔を引き出すんじゃないの?」
 ルアが聞いた。
「戦いやすい場所のほうがいいんじゃないですか? 連れ出せない理由はなさそうですし……」
 寝込んでいるから動かせないといった事情もないし、すでに被害者は病魔に取りつかれているので予知に影響することもなさそうだ。
 言われてみれば、家の中で呼び出す必要は別にないかもしれない。
 全員で統一した意見があったわけでもないし、部屋を壊さずに済むならそれにこしたこともない。幸い、手ごろな空き地の場所に沙也香の母親は心当たりがあった。
 沙也香は拒否しようとしたが、10トンの荷物を運べる力で抱えあげられては一般人に抵抗することなどもちろんできない。
「ヒールちゃんよろしく!」
「ふふっ、たまには休息も必要ですよね。ですがそれが苦しむ原因となるなら……」
 ルアの言葉に振り向かずにうなづき、ヒールは不安を和らげるように柔らかく微笑む。そして、彼女は手際よく病魔を呼び出した。
 黒い体を持つ牛のような病魔が、空き地に出現した。
「わっ、ホントに出てきましたね、牛さん病魔!」
 アイシャが驚きの声を上げる。
「ふむ、こんな病魔も居るのですね。なかなか興味深い所です」
 シトラスはいつも通りのにこやかな笑顔で出現した病魔を観察していた。
 面倒くさそうに身を起こした病魔へと、ケルベロスたちは武器を向けた。

●戦うのもめんどくさい
 ゆっくりと起き上がった病魔へと8人のうち7人は攻撃をしかけようとした。
 ルアは座り込んでいる沙也香の手をつかんで、待機して警官のほうへ押しやる。
「安全なとこで待っててよ、沙也香ちゃん」
 グレイブと鎖を構え、彼も狙いを定める。
「んんんんん……もぉぉぉぉ~」
 ゆったりと動いている敵は、ケルベロスの誰もがまだ動いていないうちにやる気のない鳴き声を上げた。
「く……手に力が入らん」
 近距離で鳴き声を浴びたタカがうめいた。
 他の前衛たちも同じ状況のようだ。それでも、シトラスは自らを光の粒子に変えて突撃をしかける。
「さっさと仕事しなきゃまずそうだねぇ」
 ルアは呟いた。中衛に位置する彼の役目は敵の動きを止めることだった。
 ロゼが地を蹴ると、花靴より花弁が舞う。
 妖精のごとく宙を舞った彼女は重力を操って蹴りを叩き込む。
 足を止めたところにリョウの刀が弧を描いて襲いかかり、さらに敵の動きを縛った。
 軽く息を吸い込んで、ルアも口を開く。
「ヘッズ・アップ!」
 大きな声で敵を驚かす、それだけの技。けれどグラビティを乗せた声は衝撃を伴い、デウスエクスすらも麻痺させるのだ。
 ヒールやタカが、その間に前衛を支援していた。
 闇のオーラやオウガメタル粒子が、前衛の仲間たちの感覚を強化している。
 後衛から鳴海の放つ礫が素早く飛んだ。少し遅れて、アイシャも狙いすました蹴りを叩き込んでいた。
 ケルベロスたちの攻撃を受けても、病魔はあくびを1つしただけだった。
 ゆっくりと身を起こした病魔は、のんびりとリョウのほうへと移動し始める。
 その動きは見るからにのろく、回避は容易なように見えた。
 だが、気がついたときにはすでに病魔は回避しようのない距離まで接近していた。
「なによ、これっ!」
「任せろ!」
 タカはとっさに敵とリョウの間に割り込む。
 速度が乗っている様子もないのに、重たい衝撃が体の芯まで響く。
 命中率が高いだけでなく、威力もある。
 タカは地面に膝をついた。
「どうしたの? 大丈夫?」
 リョウが気遣う言葉を発する。
「大地の力を借りるだけだ。我らが古の龍神よ……癒しのチカラを我に貸したまえ」
 地に手を突き、龍脈の力を呼び起こす。タカの周囲で地面が光ったかと思うと、彼の傷が回復していた。
 ケルベロスたちの攻撃を浴びても、病魔は平然としていた。痛がることさえも面倒なのかもしれない。
 だが、時折回避されることはあっても、攻撃が無効化されているわけではない。
 アイシャは離れた場所からしっかりと狙いをつける。
 他の仲間たちに比べればまだまだ未熟な彼女だが、後衛からしっかりと狙えば攻撃はほとんど確実に命中する。もちろん、見切られるような攻撃をしなければ。
 ロゼが敵を爆破するのにタイミングを合わせて、ヒールが薬液の雨を降らせる。
 少し遅れて、黒い炎が敵を捉えて食らいつくように燃えた。鳴海の攻撃だ。
 同じく後衛から狙い撃つ攻撃はアイシャよりも多く敵の体力を削っているのだろう。
 けれどもアイシャは笑顔を絶やさない。
「まだまだ実力不足だけど、少しでも皆さんのサポートが出来たら良いな……!」
 敵に一気に接近し、真っ黒な体に触れさせる。
 螺旋の力が内部から敵を吹き飛ばす。スカートをひるがえして、彼女は距離を取った。
 やる気がなさそうな動きなのに、病魔の攻撃は強力だ。
 攻撃を引き受けているのはタカと、彼のボクスドラゴンであるプロトメサイアやロゼのテレビウム・ヘメラ、ヒールのミミックであるメディカルボックスだ。
 フラッシュをたいて挑発するヘメラを他の護衛役が支援する。
 もっとも、めまぐるしく動き回る戦場内で、常に彼らがすべての攻撃から仲間たちをかばうことができるわけではない。
 シトラスは飛んできた『臨時休業』の文字を回避することができなかった。
 文字が少年の体に絡みつき、動きを縛る。
「ふむ……思ったよりも厄介ですね。でもまぁ、この程度で動けなくなる程、やわではないですよ?」
 かばってくれている仲間たちのおかげでまだまだ体力には余裕がある。
 蒼天を穿つ神意の名を持つ得物を勢いよく振るい、叩きつけるように降魔の一撃を病魔へと繰り出し、シトラスは体力を奪い取る。
 彼が紳士然とした笑みを崩すことは決してなかった。

●死ぬのも面倒くさい
 戦場は空き地を出て徐々に移動していた。
 もっとも、近隣住民は避難するように手配しているので、家屋以外の被害はない。
 鳴海は地獄化した指先から炎を呼び起こす。
 黒い炎はまるで生き物のように彼の右腕全体を包み込んでいく。
「さっさと消えな。これ以上、女の子を苦しませてやるなよ」
 放つ黒炎は黒い病魔の体に食らいつき、むしばんでいく。
 ケルベロスたちの攻撃は、確実に病魔を削っていた。
「弱ってきましたわね。そろそろ、畳みかけるとしましょうか」
 ロゼは近くにいた鳴海やアイシャに声をかけた。
「ああ……そうだな」
「はい、最後まで油断はしませんよ!」
 答えながらアイシャも飛び蹴りを叩き込む。
 病魔が鳴き声を上げるのを聞きながら、ロゼは一族に伝わる詩を吟じる。
「運命紡ぐノルンの指先。来たれ、永遠断つ時空の大鎌――あなたに終焉を」
 詩に歌われる大鎌が光輝をまとって姿を見せる。
 鎌を手にしたロゼは金翼をはばたかせて病魔との距離を詰める。
 薔薇の天使が放つ一閃は銀河の如く無数の輝きを散らし、敵と共に切り裂かれた空気は鎮魂歌を奏でた。
 弱っていても病魔は手を鈍らせることなく攻撃を続けてくる。
 なにもかも面倒そうな敵だが、それでも死にたくないという思いはあるのだろうか。
 ヘメラへと飛ばされた光線をタカがかばう。
 だが、重量級のドラゴニアンはまだ倒れはしない。
「オーッホッホッホッホッホ!! 怠惰は罪ですわ! もがきなさい! あがきなさい! それこそが生であり、人ですのよ!」
 ヒールは高らかに笑った。
「戦いになると人格が変わるタイプだよね、ヒールちゃんって」
「……うむ」
 ルアとタカが言葉を交わす。
「頼りがいがあって、よろしいのではないでしょうか」
 ロゼが身に着けた白銀の薔薇が、鋼の拳に変わった。
 後方から一気に接近する彼女に追随したルアが、空の魔力を帯びたグレイブを振るう。
 彼女たちの動きで敵の視界がふさがれている隙に、ヒールは闇のオーラを放った。
「五感交わり、闘争せよ、六感使役し、打ち砕け」
 オーラは前衛のケルベロスとサーヴァントたちを包み込んだ。五感を強化し、さらに第六感を使用するための集中を高める。
「ククク、来たれ悪魔よ! 敵を燃やし尽くせ!!」
 シトラスが常とは違う笑いを浮かべたかと思うと、異形の悪魔が姿を見せた。
 悪魔は腐敗の炎をまき散らして病魔を焼く。
 リョウは近くにある民家の壁を蹴って、病魔の上空へと跳躍した。
 青い生地のチャイナドレスに、大胆に描かれた龍が宙に踊る。
「陰を守護せし影の虎、その蹴撃は万物の護りをも蹴り砕く!」
 ドレスから伸びた細身の足に影が纏う。
 金剛石すらも打ち砕くという必殺の蹴りは、牛型の病魔を完全に打ち砕いていた。

●きっと明日はがんばれる
 自分たちと、壊れてしまった建物とをケルベロスたちはヒールをかけていた。
 警察官に連れられた沙也香が、そこに通りかかった。
「無事でしたか? 命がけの戦いでも戦う気力がなくなってしまうほどの強力な病魔でしたからね。ゆっくりと癒やしていきましょう?」
 シトラスが紳士的に微笑みかける。
「俺達がぶっ倒したあの病魔は、病気が重ければ重いほど強くなる。手ごわかったぜ。よく頑張ったな」
 ぶっきらぼうな口調でだったが、鳴海も声をかけた。
「辛かったでしょう? でも、もう大丈夫! ……笑えますか? 笑えばきっと、元気が出てきますよ。ねっ?」
 アイシャが元気よく笑いかけて見せる。
 ケルベロスたちの顔を戸惑ったように見回す沙也香の手を、ルアが取った。
「ねえねえ、ちょっとこっちに来てみてくれない?」
「あ……はい」
 連れて行った先にはケルベロスたちがヒールした塀があった。
 ヒールで壁は直るが、元通りにはならない。元とは違った幻想的な姿になってしまう。
「デザインの仕事って俺よくわかんないけど、こういう風に綺麗になったり、可愛くなったり、感動したりってことができる仕事だよね」
 もちろん、本物のデザインはヒールによる変異とは比べ物にならないだろうが。
「最初の気持ち、頑張って思い出してごらんよ。初心わするれるれられる……初心…わすらるるれ……なんかそんな感じ!」
 最後は笑顔でごまかすことになったが、ルアはできる限りの言葉を尽くす。
「仕事がつらいのはよーくわかる。ただこのままやめてしまうとまた就活だぞ……」
 タカも言った。
「せっかく自分の意思でやりたいと思った仕事につけたんだから、もう一度向き合ってみるのがいいと思うぞ」
 必要なら病魔に取りつかれていたことを職場に伝えてもいいと付け加える。
 沙也香はまだ、答えなかった。
 ただ、ケルベロスたちの言葉に考えているようだった。
「気持ちに波ができるのは仕方のないこと……諦めるのは簡単です。けれど1度失った時間は戻らない」
 柔らかく微笑んで、ロゼが言った。
「貴女の好きな事、夢を見つけた時の想いを思い出して下さい。私、貴女のデザインを知りたいし、機会があれば依頼もしたいもの」
 しっかりと目を見て沙也香へと告げる。
「好きな事でもだらけてしまうことはある。けどそこで大事な夢を放り投げて欲しくないの。きっと後悔するから。デザインの夢を叶えた貴女はすごい!」
 語りかける言葉に徐々に熱がこもっている。
「私、まだまだ駆け出しだけど、『A.A』っていう名前で歌を歌っているんです。私のCDジャケットもお願いする人も探してるの。一緒に夢を楽しみましょ!」
 沙也香はなにかを言いかけ、けれどもまだなにも言えなかった。
「なにか悩みがあるときは話も聞きますし、相談に乗りますよ。私は医者ですから」
 ヒールが背を押すように告げる。
「何がやりたいかわからなくなったら、原点を振り返ってみると良いんだよ」
 リョウが声をかけた。
「部屋に、素敵なデザインの本があったよね? 貴方もあれが好きで、憧れて、自分でも創造したいと思って目指していたんじゃないのかな?」
「……はい。皆さんのおかげで……なんだか、思い出せた気がします」
 目を閉じた沙也香は何度も読んだであろう本を思い出しているようだ。
「私の作品を見て……もし気に入ってもらえたら、本当に依頼してくれると嬉しいです」
「ええ。きっと、そうさせてもらいますわ」
 目を開けて頭を下げた沙也香に、ロゼはまた微笑んだ。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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