デカスイカ伝説

作者:蘇我真

「うぃー……ひっく」
 夜の大阪城。その付近を行く千鳥足のサラリーマンがいた。
 ネクタイを鉢巻のように頭へ巻き、寿司の折詰を片手に持っている。
 そしてやじろべえのように傾いては起き上がり、傾いては起き上がりを続けているのだった。
「ああちくしょう、こんな気分のときは酒とたばこと女に限るわ……ひっく」
 嫌なことでもあったのだろうか、クダを巻いているサラリーマン。そこへ、何処からか声がかかる。
「……さん。お兄さん」
「うん? なんやぁ?」
 首を巡らせ声の出所を探るサラリーマン。どうやら声は雑木林の奥から聞こえてくるようだ。
「お兄さん、いらっしゃい。気持ちよくしてあげるわよ……」
「なんやなんや……こない場所で商売かい」
 鈴のような軽やかな声。
「どれ、ここはひとつ説教してやらないかんな!」
 言葉とは裏腹に鼻の下を伸ばしつつ、サラリーマンは雑木林へと踏み入っていく。
「ふふ……」
 そこには周囲の木々とは全く違う、樹木が生えていた。
 スイカがたわわに実った一本の木と、その木と一体化したような裸の女性。
 局部は葉や茎でなんとか隠しているものの、申し訳程度であり、なによりも目を引くのはスイカと同じほどの大きさである巨大な胸であった。
「さあ、おいで……♪」
 女は誘うように自分の乳房を持ち上げる。豊かな胸が手首を覆い隠し、変形する。ごくりと唾を飲むサラリーマン。
 思えば雑木林に誘い込まれた時点で彼は誘惑に掛かってしまっていた。伸ばした手が胸の中に沈み込んでいく。
「さあ、蕩けて……ひとつになりましょう?」
 柔かな肉の海に、溺れていくのだった。

「スイカは果実的野菜だが、木になるように栽培する立体スイカもあるらしいな」
 星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)の説明はいつになく遠回りだった。
「何が言いたいかというとだな、大阪城付近の雑木林などで、男性を魅了する『たわわに実った果実』的な攻性植物、バナナイーターが出現しているらしい」
 これは『爆殖核爆砕戦』後、大阪城に残った攻性植物達の調査を行っていた、ミルラ・コンミフォラらによって得られた情報だった。
「バナナイーターは、15歳以上の男性が近寄ると出現する。その身体と果実の魅力で魅了し、生気を絞りつくして殺害する事でグラビティ・チェインを奪う……とのことだ」
 男は快楽の果てに幸せそうな顔をして逝くらしいが、そうやって貯めたグラビティ・チェインを使って新たな作戦を行われたらたまったものではない。
「そこで、皆にはこのバナナイーターを撃破して、誘惑されてしまう犠牲者を救ってもらいたい。ただ、少し面倒な条件がある……」
 瞬は一瞬言い淀むが、すぐに説明を再開する。
「予知の場所には先回りできる。だが、攻性植物が出現してから3分以内は攻撃をしてはいけない。大阪城周辺に張り巡らされた地下茎を通って、すぐに撤退してしまうからだ。その間は耐えしのぐしかない」
 ケルベロスの男性、もしくは当初狙われる予定だったサラリーマンを囮として3分耐える必要がある。
「不幸中の幸いだが、バナナイーターもこの3分間は攻撃をせず、男を誘惑する行動を取り続けるようだ。ケルベロスには効果は無いが、誘惑されているように振る舞う必要があるかもしれないな」
 続いて瞬は敵のバナナイーターについて説明を始める。
「今回の敵はスイカを武器にするようだな。スイカ型の爆弾を投げて来たり、スイカを食べて体力を回復したりする。それと、近くの者に抱き着いて胸で窒息させる捕縛攻撃もあるようだ。女の武器を活かした攻撃に、惑わされないようにしてほしい」
 夜の大阪城、雑木林で密かに行われる淫靡な戦い。
「己を律する心を胸に刻み、当たってくれ」
 瞬は真面目な顔で頭を下げるのだった。


参加者
八坂・茴香(乱レ淡華・e05415)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)
伊・捌号(行九・e18390)
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
寺井・聖星樹(爛漫カーネリアン・e34840)

■リプレイ

●まいったね今夜は
「この先に男を誘惑するデウスエクスがおる?」
 サラリーマンの酔いが、一気にさめていく。
「そうっす」
 伊・捌号(行九・e18390)がこくこくと頷くが、彼の視線は別の方向へと向いていた。
「えっと……おっきな胸で、男の人を……やだ、恥ずかしい……」
 口で説明するのも恥ずかしいらしい八坂・茴香(乱レ淡華・e05415)の胸元である。
 前かがみ、両腕を股の間に挟んでもじもじと内股気味になっているせいで強調されたそれは、まさに熟れたメロンやスイカと見紛うばかりのお宝であり、酔客の遠慮のない視線を独り占めにしていた。
「……男の人ってほんとにおっぱい好きだよね……」
 呆れたように呟くのはマヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)だ。サーヴァントであるシャーマンズゴーストはサラリーマンが怖いのか彼女の背中に隠れてしまっている。
「おかげで快楽エネルギーを効率良く摂取できるし、一長一短ってところね」
 サキュバスのパトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)はサバサバとしている。相棒のライドキャリバー、赤い車体にもたれかかり、煙草を咥える様はクールビューティーだった。
「胸の有無で全ての価値が決まるわけではないのですよ」
 妙にピリピリしているヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)。彼女の胸は、山脈というよりはなだらかな丘であり、それがイラつきの原因なのかもしれない。
「ほんと、か……カレシがこういう依頼に参加する気が無いみたいで良かったよ」
 恋人のことを口にする際、マヒナは照れくさそうにどもる。
「ねーねー、それよりその格好アップしていいかな?」
 もはや過去のものとなりつつある伝統的酔っ払いスタイルなサラリーマンにスマホを向けている寺井・聖星樹(爛漫カーネリアン・e34840)は、恋愛や色恋沙汰にはあまり興味がないのだろう。
 話を聞いても「男の人ってあーゆーのが好きなんだね」程度のリアクションだった。
「大丈夫大丈夫、ちゃんと顔にモザイクかけるよ。リツイート稼げそうだし」
 聖星樹と彼女のボクスドラゴンに囲まれたサラリーマンは困惑し、そそくさと退散していった。
「行っちゃったー……ま、いっか」
「なんにせよ、これで『一般人の』被害は防げたっすね」
 ノリで動いただけらしくそれほど惜しくもなさそうな聖星樹と、懐から水精霊のアップルチョコレートを取り出して、齧っている捌号。
 わざわざ一般人のと限定した意味は、すぐにわかることとなる。
「………まぁ男性陣はファイトっすね。失敗しても骨は拾うっす」

●ストリップ・ブルー
「……さん。お兄さんたち」
 雑木林から聞こえてくる声に、ふたりの男が反応した。
「くぁ、なんか声がするのだよ!」
 やってきたのは赤いペンギンの着ぐるみを身にまとったヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)だ。
「え……」
 雑木林の奥から聞こえる声に動揺が走る。果たしてこの男……かどうかも暗くてよくわからない生物を誘惑していいものだろうかと逡巡しているようだ。
「何かしらの理由があり、動けない方がいるのかもしれません。確認してみましょう」
 自然かつ紳士といった様子で続く鴻野・紗更(よもすがら・e28270)の姿を認めて、バナナイーターは露骨に安心した声になる。
「はい……来てください。どうか私を助けて……」
「これは助けねばなりませんね、ヒナタ様」
「合点承知のオチ!」
 キツネとタヌキの化かし合い。雑木林の奥、バナナイーターのテリトリーに、ふたりが足を踏み入れる。
「ふふっ、捕まえた……♪」
 両腕を前に投げ出し、歓迎のポーズを取るバナナイーター。身にまとったスイカの果実にも負けない豊満な胸がふたりを誘う。
「これは困りましたね……男は本来、たわわで柔らかなものに弱いものです」
 額に手をやり、めまいを抑えるような仕草をする紗更。その足はふらふらと、バナナイーターの元へと向かっていく。
「あっあっあっ……」
 同じくヒナタもバナナイーターに向かうのだが、彼が一歩進むとバナナイーターはなぜか一歩後ずさっていく。
「なんで逃げてるのかな」
 遠くから隠れて事態を見守っている女性陣。聖星樹の疑問にパトリシアが簡潔に答える。
「どうせ誘惑するならイケメンのほうがいいんでしょ」
「その気持ちもわからないのではないのですが……」
 苦笑するヒマラヤンの横、興味半分羞恥半分といった様子で覗き込んでいたマヒナが更に顔を赤らめさせる。
「は、始まったよ……!」
 シャーマンズゴーストも手で顔を隠すが、できた隙間からチラチラと様子を確認する中、バナナイーターは紗更を抱擁していた。
「ふふ、どう? 天国でしょう?」
 柔かな胸の谷間に顔を埋めさせ、耳元へふっと息を吹きかけるバナナイーター。
「ああ、男を喜ばせる要素が揃っていて、どうして抗えましょう……」
 胸の谷間から漏れ出るのは酩酊したような声。女の色香に酔いしれるかのごとく、完璧な演技だった。
「くぁ、身体が勝手に引き寄せられるのだぁ……」
「えっ」
 呼んでないんだけどと言いたげなバナナイーターだが、グラビティ・チェインを得るためには仕方がないと割り切ったのか、紗更を横にどけ、空いた胸をヒナタへと差し出した。
「……ほら、いらっしゃい、可愛らしいペンギンさん」
「すいか、めろん、ばな~な……すいか」
 大きな胸を枕にして、甘えるヒナタ。
「あれで本気で演技してるつもりなんすかね」
 ジト目で時刻を確認する捌号。まだ2分間。あと1分間は耐える必要があった。
「あっ……んっ、そこ、駄目……敏感だからぁ」
 胸を嬲られ嬌声をあげるバナナイーターだが、男を誘うだけではなく自分の気分を高揚させるために声を出しているようにも見える。
「……はふぅ……これは……刺激的ですね……」
 むしろ、見ている茴香のほうがあてられてしまっていた。
「あの胸使いは…勉強になります……なるほど……誘うように……胸を……こう」
 自分の胸を使い、バナナイーターの動きを実演する。円を描くように胸を動かしたり、上下に挟んで揺すったりする。
「わたしも……こ、興奮してきて……しまいました……」
 もじもじと太ももをこすり合わせ、股間にバスターライフルを挟み込む茴香。
「くうぅぅぅ……ん……」
「あ、アロアロ、見ちゃ駄目ですよ」
「むしろこっちがピンチだよー」
 茴香の痴態にマヒナや聖星樹ら女性陣が大混乱になっている間に、ようやく最後の1分間が経過する。
「時間よ」
「お楽しみはそこまでだよ!」
 パトリシアとマヒナが躍り出て、持参したライトで雑木林の奥を照らす。
「……っ!!」
 そこに映し出されたのは、憎々しげに睨み付けるバナナイーターの表情だった。

●ケルベロス舞踏会
「いざ、参りましょうか」
 女性陣が顔を出すと同時に紗更は後ろへと飛びすざっていく。
 そこには数瞬前まで豊満な胸で溺れていた影はない。鋼鉄のように変わらない表情、冷たさを感じるほどの眼差し。
「くっ、待ちなさい!」
「くぁ! 漢ヒナタ、ちゃんと踏みとどまったのオチ!」
 追いすがろうとするバナナイーターの身体にディフェンダーとしてしがみつくヒナタ。
「おとなしくやられるといいのです、このおっ……果物おばけ!」
「――ほ、惚けている場合……では……ありませんでした……ケルベロスのお勤め……果たしませんと……」
 ヒマラヤンと茴香がバスターライフルを構え、グラビティを発射する。
 放出される氷のレーザーが、バナナイーターの身にぶら下がったスイカに当たり、凍らせていく。
「氷が何よ、爆発させれば同じことっ!」
 バナナイーターは凍ったスイカをもぎ取ると投げつけようとしてくる。
「爆弾だよ!」
「スイカほどのインパクトはないけど、サクランボも小ぶりでおいしいよね」
 攻撃を見越してマヒナと聖星樹が紙兵を散布する。スイカの爆発から身を守るように立ちふさがる紙兵たち。
「チッ!」
 威力が弱まったスイカ爆弾は、着弾するよりも早く空中で爆発した。
 カバーに入ったボクスドラゴンがその身でスイカ爆弾を防いだのだ。
「エイト、よくやったっすね。冷やし焼きスイカにしてやるっす」
 捌号が、ローラーダッシュにより生み出された炎でグラインドファイアの蹴りを放つ。
 バナナイーターの胸に命中し、つま先に伝わる柔らかい肉の感触。
「爆破のやり方を教えてあげるわ」
 パトリシアが爆破スイッチを押す。いつの間にかバナナイーターにつけられていた見えない爆弾が起爆し、噴煙が上がる。
「厄介なやつらね……!」
 バナナイーターの割れたスイカが黄金色に光る。その果肉を口に含むと、身体に負った火傷や傷が癒されていく。
「くぁ、回復されたのオチ!」
「私はこのスイカで完璧な身体を作り上げたのよ。そこらへんの貧乳女には到底成し得ない男を魅惑する肉体にね!」
 勝ち誇るバナナイーター。しかし、彼女はまだ地雷を踏んだことに気付いていなかった。
「……ふ、ふふふ、誰が枯れた土地なのですか」
 ヒマラヤンの目が光り、チェーンソー剣に火を入れる。夜のしじまを切り裂く暴力的なエンジン音。
「え? いや、誰もそこまでは……」
「スイカやメロンが何だっていうのですか! そんなモノはこのBlade ∀ITAMAXで、スムージーにしてあげるのですよ!」
 小ぶりな胸を反らすようにして、大上段へチェーンソー剣を振りかぶるヒマラヤン。
「えっ、きゃっ! なにをっ!!」
 回復役のメディックが攻撃に回ってくるのは予想外だったのだろう、抵抗もできず二の腕やスイカをズタズタに切り裂かれていく。
「えっと、アロアロ! 回復を!」
 シャーマンズゴーストやウイングキャットといったサーヴァントが回復とブレイク付与に回りできた穴を即座に埋める。
「人の趣味嗜好は其々ですが……恐らくヒマラヤン様の欲する答えは異なるのでありましょうね」
 一時は距離を取った紗更が、今度は自ら詰めていく。白手袋を嵌めた手で花浅葱を握り、軽やかに一閃する。
 ハンマーより生じた竜の力が後押しとなった、回避困難な高速攻撃にガードを取る暇もなく吹っ飛ばされるバナナイーター。
「なら、盾を捕まえて……!」
 攻撃の盾にしようとしたのか、手近なケルベロスを捕縛しようとするババナイーター。スイカの抱擁が聖星樹に迫る。
「くぁ! 聖星樹さん、危なーーい!」
 しかし、それを阻んだのはヒナタだった。自ら食らわれようと身を投げ出してくる。
「くぁーーオノレーくぁーーー」
 抱きしめられてデレデレしているヒナタ。
「はいはい、枯れ地……じゃなかった、枯れ木に花を咲かせましょー!」
 一瞬ヒマラヤンの胸を見つつ、聖星樹が花咲かせでヒナタの捕縛を解いてやる。
「くぁ! 今だ全員撃て撃て撃て撃て~~~のオチ!!」
 ヒナタは自由になった腕で号令を出す。瞬間、喚び出された小型赤ペンギンたちが銃火器を用いてバナナイーターをハチの巣にしていく。
「うぅ、こんな、攻撃で……」
 息も絶え絶えな様子のバナナイーターへ、茴香が銃撃を仕掛けていく。
「あ、当たってください……!」
 銃身には聖星樹が刻んだ破剣のルーンが光り輝いている。バナナイーターの身を守るものは、文字通り全て無くなっていた。
「せめて、最後はイケメンを見て……逝き……た……」
「一足早いスイカ割りの時間だよ! アナタのスイカ、ココナッツで砕いてあげる!」
 天を仰いだバナナイーターだが、残念ながら最後に見たのは自らの頭上に降り注ぐココナッツであり……。
 マヒナの生み出したココナッツに埋もれて、完全に沈黙するのだった。

●バラッドのように眠れ
「ところでコレ、あっちこっちに生えてるみたいなのですが、地下で繋がってるのなら、毒とか何かあぶなそーなモノを流し込んだら本体にダメージとか行かないですかね?」
 ココナッツの山をどかしてみると、すでにバナナイーターは消滅していた。残っていたは地下茎だけだ。
 その地下茎をいじくっているヒマラヤン。暴走気味だった思考は捌号の癒しを受けた際に落ち着いたようだ。
「危なそうなもの……なんかある?」
 聖星樹にヒールされていたヒナタが叫ぶ。
「くぁ! にぼしならあるけど? いい出汁でるぞ」
「こ、効果あるんでしょうか……?」
 困惑する茴香。効果はなさそうだ。
「一応言っとくすけど、チョコを溶かすのも駄目っすよ」
 捌号はチョコを後生大事そうに抱えていた。
「とりあえず、手がかりがないか調べてみましょうか」
「回復終わったし自撮りして……ハッシュタグつけてアップしよっと」
 パトリシアが残骸から調査を行ったり、聖星樹がおもむろにスマホで撮影を始める中、紗更はバナナイーターの冥福を祈っていた。
「どうぞ、おやすみなさいませ」
 墓前に傍らに落ちていたスイカの花を添えてやる。
「スイカの花って、花言葉とかあるのかな?」
 マヒナの素朴な疑問に、紗更は微かに微笑んだ。
「御座いますよ。ヒマラヤン様は同意しそうな意味が」

作者:蘇我真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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