めろんバナナめろん

作者:八幡

●爽やかな朝
 スズメたちがチュンチュンとさえずる爽やかな朝。やや肌寒い程度の空気もとても爽やかな朝。
「あー、朝日が黄色いわぁ」
 くたびれたスーツに身を包んだ1人の男が、森林公園のベンチに腰掛けつつそんなことをつぶやいていた。それから男はチュンチュンしてるスズメたちをうつろな瞳で見つめて、
「朝チュン……昨日はお愉しみでしたね? ……仕事をな! ハハ……はぁ!」
 何か面白いことを呟こうとするが、あまりのつまらなさに自分で溜息をつく……と、森の中から女性のような声に呼ばれた気がした。
 ついに幻聴まで聞こえたかな? と一瞬考えた男だったが、その声には抗い難いものがありふらふらと森の中へ入っていく。
 森の中に入ってしばらくすると、そこには半ばフルーツがたわわに実った木に埋まるように……もしくは気に張り付けにされたかのような姿の半裸の女性の姿があった。
「おぅっふ」
 男は女性の姿に思わず感嘆の声を漏らす。
 しなやかな肉体おっぱい。
 力無くうなだれる頭から垣間見える首筋おっぱい。
 引き締まった腰から太ももまでの流線美おっぱい。
 たわわなおっぱい。
 それら全てが男を魅了してやまなかった、そして何よりもたわわだったのだ、そう言うなれば2つのメロンだったのだ。
 男はそのメロンへ手を伸ばすと……とりあえず顔面をメロンの真ん中に埋めてみた。否である。気づいたら埋まっていた。そう、無意識に。それほどまでに魅惑的なメロンだったのだ!
「ファ!?」
 ただただ甘美な香りと柔らかさを堪能していた男は、唐突に足を掴まれ逆さづりにされて小さく悲鳴を上げる。
 反転した世界に一瞬視界を失った次の瞬間、蠱惑的に唇を舐める女性の顔が目の前にあった。
 捉えた獲物でどう遊ぼうか考える猫……そんな言葉が男の脳裏に浮かぶも次の瞬間には再び訪れたふわふわメロンな快楽に思考の全てを奪われる。
「こ……こんにゃのチュンチュンしりゃうひょぉ!」
 ふわふわがチュンチュンでエクスカリバーな中、あらゆるものを搾り取られた男は、その言葉を最後にこの世を去ったのだった。

●メロンを掴み取れ!
「『爆殖核爆砕戦』後、大阪城に残った攻性植物達の調査を行っていた、ミルラ・コンミフォラさんたちから、新しい情報が得られたよ!」
 小金井・透子(シャドウエルフのヘリオライダー・en0227)はケルベロスたちの前に立つとそんな話を始めた。
 調査によると大阪城付近の雑木林などで、男性を魅了する『たわわに実った果実』的な攻性植物、バナナイーターが出現しているようなのだ。
 バナナイーターは15歳以上の男性が近寄ると現れて、その果実の魅力で魅了し、絞りつくして殺害する事でグラビティ・チェインを奪いつくしてしまうという。
「攻性植物は奪ったグラビティ・チェインで新しい作成を行うつもりかもしれないんだ」
 中々にあこぎな搾取をしやがると唸るケルベロスに、
「みんなには、バナナイーターを撃破して魅惑されちゃう男の人を救ってもらいたいんだよ!」
 果物は美味しいから皆、魅了されちゃうんだよ! 何て真面目に透子は語る。
 幾人かのケルベロスが視線を逸らしたのに首をかしげつつも透子は説明を続ける。
「バナナイーターを出現させるためには男の人近づかないといけないんだよ」
 つまりは犠牲になる未来が見えていた男をそのまま囮にするか、男を避難させた上でケルベロスの『男性』が囮となる必要があるようだ。
 また、一般人がバナナイーターに出会う前に先回りすることは可能であるらしい。
「あ、みんなが囮をやると囮の人数に応じた数のバナナイーターが現れるみたいだよ」
 バナナイーターは攻性植物の拠点となっている大阪城から地下茎を通じて送られているようで、囮の人数に応じた数の攻性植物が出現するらしい。
 しかも1体目以外は戦闘力が低いという……つまり沢山のメロンに囲ま……ある程度の数を出して一気に叩くことも可能なのだ。
「バナナイーターが出現してから3分以内に攻撃をしかけちゃうと出現した地下茎を通ってすぐに撤退しちゃうから注意してね!」
 メロ……まとめて狩るか否かについて思案するケルベロスの瞳をまっすくぐに覗き込み、透子は3分以内の攻撃が出来ないのだと説明する。
 逆を言えば3分間はメロンをぱふ……戦闘をせずにバナナイーターと接触する必要があるのだ。しかもバナナイーター側も3分間は攻撃などを仕掛けてこずに対象の男性を誘惑してくるらしい。
 このため一般人を囮にしたとしてもすぐに絞りとら……どうこうなるわけではないのだ。
 けしからんな! と猛る一部のケルベロスへ透子は大きく頷き、
「男の人をしぼっちゃうなんてひどいよね! バナナイーターは胸を叩きつけて攻撃してきたり、口からねばねばしたものを吐いてきたり、自分の木に実ったももを食べて回復したりするみたいだから気を付けてね!」
 気を付けてね! と力強く拳を握る透子だが、気を付けるべきは主に倫理的な部分だろう。
 それから透子は心配するようにケルベロスたちを見つめる。
「大変だと思うけど……みんななら絶対大丈夫だと思うよ!」
「ふっ、必ずこの手でメロ……勝利を掴んで見せるぜ」
 信じてるよ! と笑顔を見せる透子に、メロンのことは任せておけよと、藤守・大樹(ウェアライダーの降魔拳士・en0071)は不敵に笑って見せた。


参加者
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
立花・恵(カゼの如く・e01060)
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
片白・芙蓉(兎頂天・e02798)
マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
バ・ナナ(バナナ天国・e36965)

■リプレイ

●目覚めの時
 頬に当たる風が冷たい……もうすぐ春も終わろうとしている時期だが、それでも朝は独特の寒さが残っている。
 そんな冷たい風から守るように、あるいは温もりを求めるように、小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)はボクスドラゴンであるイチイを両手で抱える。
 イチイを抱えながら優雨が周囲を見回せば、そこにはぐったりとした様子でベンチに腰を掛け、虚ろな眼差しを太陽へ向ける男の姿があった。
 あれが今回の被害者となる男に違いない。そして倒すべき敵も時期に姿を現すだろう……その敵は優雨の探していた相手とは違うが、見つけてしまった以上は倒すのみである。
「バナナイーターてことはバナナほしいの? バナナあげたら、おうちかえってくれる?」
 その敵、つまりはバナナイーターについて、バ・ナナ(バナナ天国・e36965)は小首をかしげながら素朴な疑問を口にした。子供らしいとても純粋な質問である。だが純粋な質問ほど回答には困るものでもある……優雨が考えあぐねていると、
「バナナと言っても男……」
「お引き取り願いましょう。私よ!」
 ナナに何かを教え込もうとする心の穢れた大人である、藤守・大樹(ウェアライダーの降魔拳士・en0071)の脳天を何故か真上から落ちて来た、片白・芙蓉(兎頂天・e02798)が踏みつけて黙らせた。
 それから芙蓉は、ごめんなさいね! 可愛くって! と地面に顔を埋めるおっさんへ挨拶をしてから男の方へ歩いて行き、そんな芙蓉の背中を暫く見つめていたナナが何かを理解したと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「おとこのひとのバナナじゃないとダメなんだね!」
 どうやら男の人からバナナをもらわないとダメなんだね! と言った意味で解釈したらしい。
「はい、そうですね」
 広義では間違っていないナナの解釈に、優雨は真面目に頷いた。何時か、その時が来ればナナも真実を知るだろう……だがまだ今はその時ではないのだと優雨はそっと目頭を押さえた。

「かなりお疲れのところ申し訳ありません……少々宜しいでしょうか? デウスエクスが貴方の様な疲れている方を狙っている様なので、避難して頂きたいのですが……」
 地面と口づけを交わすオッサンの方からとてとて歩いてくる芙蓉を確認しつつ、泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)は男へ事情を説明する。
「いつもありがと、お疲れ様ね!」
 いきなりのことで驚いた様子の男へ芙蓉は温かいお茶を渡す。馬車馬のように社会を回してくれる一般人が居てくれるからこそ自分たちが成り立っている部分もあると、まずは感謝を表した。
 芙蓉の感謝の言葉と温かいお茶は男の心と体へ染み渡ったようで、疲れ切った男の表情が好々爺のような表情になる。誰かの感謝が心に刺さる……そんな時もあるのだ。
「とりあえず詳細は省くが結論だけ言うとオマエは『こんにゃのチュンチュンしりゃうひょぉ!』と言って死ぬ」
 そんな男へダメ押しとばかりに、マサヨシ・ストフム(蒼炎拳闘竜・e08872)はこれから起こることを真面目に伝えてみるが……チュンチュンて、あんた大丈夫か? お茶飲むか? と真顔に戻った男に心配される始末である。
 クッ! 本当のことなのに! と拳を握り締めるマサヨシの肩を壬蔭が叩いていさめ、
「冗談みたいだけど本当のことなんで、早く非難を」
「そうか、ケルベロスの邪魔をしちゃいけねぇな! ありがとよお嬢ちゃん!」
 立花・恵(カゼの如く・e01060)がこれまた真面目に説明すると、男はすぐさま納得したようだ。
「お、俺はおと……」
「ねぇ、今は何時だったかしら」
 お嬢ちゃん呼ばわりされた恵が頬を赤らめて抗議しようとするも、その言葉はたわわなメロ……スイカに阻まれた。
「今は午後30時……ねぇ、ちょっとこちらにいらして?」
 唐突に耳元でささやかれた男が吃驚して振り返れば、そこには2つの柔らかスイカという名のウェポンを装備した、エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)が居た。
 抗議の言葉を遮られ耳まで赤くしながら両手を縦にぶんぶん振る恵を他所に、エルネスタは突然のスイカにしどろもどろする男の手を掴むと公園の入り口まで誘導し、「そうね……後ろを向いてしゃがんで、5秒を数えて?」と再び耳元でささやく。そんなことを耳元で囁かれたら男子たるもの従わぬわけにはいかぬだろう。男は従順にエルネスタの言葉に従い……頬にあてられた柔らかな感触に驚いて目を開けた。
「だましてごめんなさい。いま、このこーえんはきけんなの」
 目を開けるとそこにはエイティーンを解き、少しだけ申し訳なさそうに、上目使いで男を見つめるエルネスタが居た。
「おにーさん、おしごと、がんばってね!」
 それからエルネスタは自分の身に起こったことを飲み込めないでいる男へ悪戯っぽく笑うと、手を振って仲間の元へ駆けて行く。
 その後ろ姿を暫く見守っていた男は、柔らかな感触の残る頬に手を当て……、
「ふっ、イエスロリータ……ノータッチ……か」
 後30年は戦っていける気がしたのだった。

●さよならバナナ
 正義とは何であるのか……空木・樒(病葉落とし・e19729)は考えない。
 各々が各々の在り方によって成り立つものであるため、それを定義することに意味などないのだ。そしてそれ以上に、決して無くならぬ汚れ仕事の担い手が、自らの在り方だと樒は思っているからだ。
 だがそんな在り方をしていてもなお……否、それも一つの在り方であるからこそ、そこに正義は生まれたのかもしれない。
「今だけはわたくし、正義の代弁者を名乗りましょう」
 薬匙を模り、生の薬草毒草を吊るした雷杖を握る手に力を込め、樒は普段と変わらぬ笑顔を浮かべた。たわわなアレは絶対許さないと、持たざる者の信念をたぎらせて。

「殺気を感じるんだが……」
 たわわにたわわなメロンの誘惑に乗ったふりをして囮になろうとしている壬蔭は、ピンク色の瞳から発せられる狂気じみた感情に身を震わせた。
「さて、ここからはケルベロスの……いや、男の時間だ」
 そんな壬蔭の背中を叩き、興奮……武者震いか? 大丈夫だ力抜いてけよとマサヨシは親指を立てる。
 そう一般人を護ること、仲間を守ること、地球の平和を守ることはケルベロスとして、マサヨシの矜持として当然のことである。故に今回も決して自身の欲望だとか、私利私欲のためにおぱーいをバナーナしてチュンチュンしたいわけではない。ないったなら、ない。
「い、居たぞ!」
 さめざめとした表情の壬蔭を他所にモノローグを背負って拳を握るマサヨシの横で、緊張した面持ちの恵が声を上げる……そこにはメロンがメロンメロンなバナナイーターの姿が複数あって……、
「ぐへへ、ネーチャンえぇおっぱいしとるのぉ!」
 それを見た瞬間、迷うことなくマサヨシがその谷間へとダイブしていった。こんな美味し……危険な任務、普段であれば何らかの落とし穴がありそうなものだが、今回に限っては問題ない。それどころか囮としてはマサヨシの行動は正しいのだ。そう、己が欲望のままにメロンへダイブ。それこそが囮たるものの正しい姿!
 壬蔭と恵は互いの顔を見合わせると、ゴクリッと唾をのんで――マサヨシの行動に倣った。人類のため、世界のための尊い犠牲となるために!

「……あれ?」
 現れたバナナイーターの大きさという暴力に茫然としている樒の前にエイティーン姿のエルネスタが現れた。
「おやつを食べますか?」
 メロンならぬスイカという、さらなる暴力を前に打ち震える樒を他所に、のんびりとした様子の優雨から差し出されたおやつをありがとう! とエルネスタは受け取り、
「囮の皆を見ていることしか出来ないなんて、ッカー不甲斐無いのだわー!」
 芙蓉は中々のたわわ。私のお耳とイーブンという所かしらね? なんてたわわについて評しつつメロンに挟まり至福……苦悶の表情を浮かべる男たちの雄姿をその目に刻む。一生忘れないとばかりに。
「このまま3分待ったらいいんだよね。たわわなおねーさん、何してるの?」
 真の勇気とは何であるのかを示してくれている男たちへ素直な気遣いを見せる芙蓉の横で、ナナは小首をかしげる。ふわぁ~となってる壬蔭たちとバナナイーターを見守るも、彼らがナニをしているのかナナにはまだ分からないのだ。
「時が来れば、おじさんが教え……」
 ナナの純粋な疑問に不審なことを言い出したおっさんの口へおやつを突っ込み、エルネスタもまた小首をかしげ……おっさんの姿に最初の疑問に戻る。囮になっているはずなのになんでいるの? と。
 心! 苦しいけど! お願い! なんて可愛い芙蓉から囮役を依頼されていたおっさん。無論言われずともやる気だったのだが……おっさんはおやつをもぐもぐしながらバナナイーターの方を指さした。

「お前はコブラかよ」
 そこには砕けろメロン! と言わんばかりにメロンをぎゅむぎゅむする日柳・蒼眞と、これまたメロンに包まれながらもニヒルな笑みを浮かべる玉榮・陣内の姿がそこにはあった。
 おっぱいを揉む機会を得るのは全てにおいて優先されるもの……とは誰かの台詞だが、つまりはそういうことだ。
 そしてそんな陣内たちの様子を、お目付け役として付いてきていたらしい比嘉・アガサが気の影からこっそりと撮影している。
 熟女が好みといいつつ年若すぎる恋人を持ちながら嬉々としてバナナ……いやメロン? の囮役を引き受けるなんて、並大抵のことじゃ出来るもんじゃないよね。いやほんと、お疲れさまですなんて淡々と撮影している。
 ほのかに頬を上気させながら「バナナを切り落とさなきゃ」と微笑んでいたあの娘を思い出し、身を震わせるケモノの様子もすべて、眉一つ動かさずに撮影している。
「きゃー! 恵だんちょー素敵ー!」
 だが、そんな戦慄の未来が待つのは陣内だけではないらしい。
「うぅ、これが……いや、でもっ……!」
 なんて葛藤の中に新たな喜……複雑な表情をしていた恵だったが、唐突なフラッシュと馴染みのある声に驚き振り返る。そこには長谷川・わかなの姿があり、その手にはしかりと新世界へボンボヤージュする恵の姿を抑えたらしい携帯電話的なものが握られていた。
「んぁ?! ちょ! えぇええ!?」
 きっとそこには人には見せられない、むしろ自分でも見たくない顔をした自分が居るはずだ! 恵はそれ以上イケナイと手を伸ばすが……バナナイーターは逃すまいと恵の顔を自分の胸へ埋め込んだ。

●こんにちはメロン
 鼻腔を擽る甘い芳香と、何もかもを包み込むような柔らかな弾力に意識の飛びかけた恵だが、
「アブねぇ!」
 マサヨシが恵の襟首をつかんでバナナイーターから強引に引きはがした。そして、胸を左右に振りたわわなメロンを打ち付けてくるバナナイーターのそのメロンをマサヨシは恵の代わりに受け止めた。
「クハハ! 効かねぇなぁ!」
 ぷるんぷるんな弾力を顔面で受けたマサヨシだが、引きはがされた拍子にしりもちをついた恵と攻撃を仕掛けて来たバナナイーターへ、この程度何ともないぜと獰猛な笑みを浮かべる。それからすぐさま蒼炎を右手に纏い、
「我が炎に焼き尽くせぬもの無し――我が拳に砕けぬもの無し――我が信念、決して消えること無し――故にこの一撃は極致に至り!」
 極限まで研ぎ澄まされた集中、限界まで引き上げた身体能力をもって蒼炎纏う拳をバナナイーターへ突き立てる。
 マサヨシの一撃をまともに受けたバナナイーターは灰となって崩れてゆき、そこはかとなく残念そうに下を向く恵の目の前に積もっていった。
「ニャーン!」
 バナナイーターが動き出したということは囮の役目が終わったのだろう。芙蓉は魔力を籠めた咆哮でバナナイーターたちの足を止めつつ、演技じゃ無かったみたいだったわね! と壬蔭たちをねぎらう様に片目をつむる。
「こんな手に掛かる訳ないだろ……」
 やれやれと息を吐くと壬蔭は芙蓉の咆哮で一瞬足の止まったバナナイーターから一歩離れ、すぐさまその首筋へ電光石火の蹴りを打ち込む。壬蔭は違わずバナナイーターの首を貫き……首をもがれたバナナイーターは重い音を立てて地面へ転がった。
「も、もちろん!」
 失われゆくメロンを複雑な表情で見つめていた恵もハッと我に返り、後ろへ下がりながら天空より無数の刀剣を召喚する。恵の動揺っぷりに壬蔭は「え? まさか……」なんて口に出していたりもしたが、恵は何も答えなかった。
 召喚された刀剣が次々と落ちてくる中、マサヨシの背後でカラフルな爆発が起こる。優雨による士気向上の爆発、男性陣には存分に目立ってほしいとそんな思いが乗っているようだ。
 カラフルな煙渦巻く中、耳まで赤くなっている恵の横をすり抜け芙蓉のテレビウムである帝釈天・梓紗がバナナイーターの頭部を凶器で殴打し、イチイがブレスを吐いて焼き払う。
「そんなので勝てると思ったの?」
 汁を滴らせほんのり焦げたバナナイーターのメロンを圧倒するスイカを見せつけ、エルネスタが御霊が憑依し巨大化したハンドミシンを構え、
「みたまさんおねがい!」
 そのハンドミトンより御霊を載せた針を発射すると、針がバナナイーターの脳天を貫いた。
「……」
 針に貫かれたバナナイーターが灰となって崩れ落ちる中、樒は右掌を天に掲げ螺旋の力を集める。無言で、変わらぬ笑みを浮かべて。
 だがその笑みの裏には、この世の全てのメロン……スイカ……否である、モモだろうがマンゴーだろうが、果実的なふくらみなどすべてもぎ取る。そうだ、何もかもをこの右手でもぎ取るのだと、それこそが持たざるものとして樒がなさねばならぬことなのだと、そんな使命感が隠れているようだった。
 それから、ナナの士気を高めるカラフルな爆発を背負った樒はバナナイーターの胸元へ飛び込むと、バナナイーターのアレに螺旋の力を込めた掌を当て、
「なんなのですかこの感触は! この弾力は! こんなアレがあるから、惑わされる人がいるんです! 悲しむ人がいるんです!」
 血を吐くような台詞を笑顔を崩さずに口にし――バナナイーターのアレを見事にもぎ取ったのだった。

●忘れえぬ雄姿
「戦いは、いつも虚しいですね」
 執行された正義……樒の手から零れ落ちるアレだった残骸の灰……優雨は小さく息を吐き、戦いは虚しいと小さく頭を振る。
 結果だけを見れば圧勝だったのだが、失ったものは大きいように思えた。だが手に入ったものも勿論ある。男たちの雄姿の映像とか。忘れえぬメロンの感触とか。
「あの感触……クッ」
 そんなあれこれを思い出しつつ赤面する恵の姿にそっと息を吐き、
「お疲れ……さんでした」
 壬蔭はヒールグラビティであちこちを修復しだした。全てを元に戻し、もういっそ何もなかったことにしようとしているのかもしれない。
「漢たちの雄姿……忘れないのだわ!」
 しかし、どれだけ元に戻そうともメロンに挟まる彼らの雄姿を忘れることなど出来ぬのだ。芙蓉が慈悲の心でタオルを漢たちへ配りつつ、むしろこれを機に一皮むけたわね! くらいの勢いで親指を立てると、
「この程度ではオレのバナナは枯れんよ!」
 初めから吹っ切れているマサヨシはニヤリと笑って見せた。すでにやってしまったことは取り戻せないのだ、ならば前向きにとらえるべきだろう。女性への耐性が付いたとかそんな感じで。
「みんなにナナのおいしいバナナごちそうするー!」
 マサヨシたちがそんなやり取りをしていると、バナナに反応したナナが顔を輝かせ、どこからともなくバナナを取り出し仲間たちへと配る。ナナはバナナに対して並々ならぬこだわりを持っているようだ。
「やっぱりメロンよりスイカじゃない?」
 そして特定の食べ物にこだわりを持つのはナナだけではないらしい、エルネスタもまた何故かスイカを推してくる。
「ああ、それってむね……」
「美味しいですよね。スイカ」
 ナナから受け取ったバナナをもしゃりつつ、こだわる理由について大樹が思いついたままを口にしようとするが……その言葉を、樒が優しげな微笑みを浮かべながら遮った。
 エルネスタは、樒の笑顔に戦慄するおっさんに小首をかしげながらも「たべにいこー!」と、主張する。

 ――空を見上げれば、晴れ渡る空に太陽が輝いている……今日は暑くなりそうだ。まだ夏には早いが、こんな日にはスイカをかじるのも良いかもしれない。
「なら、さっさと片づけて行くか」
 恵は、何かを吹っ切るように青空へ向けて大きく伸びをしたあと仲間たちへと振り返り……一行はそれに頷くと、てきぱきと片づけを始めたのだった。

作者:八幡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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