白刃の煌めきは波間に消える

作者:荒井真

● 
 魅咲忍軍の首領、魅咲・冴はここ港区にある廃ビルの一室で静かに佇む。露出度がやたらと高い衣装だが、妙にこの廃墟とマッチしている。
 ボロボロになったカーテンの隙間から日差しが差し込み、その光に照らされたホコリが微かに揺らめく。
 それと同時に、音もなく冴の眼前に現れる6つの人影。
 女性特有の丸みを帯びた体のライン。それぞれが無個性な白い装束をまとっているが、髪型はポニーテール、ツインテール等にしている。見た目が無個性な彼女たちなりの個性、ということだろうか。
「よーし、皆これで集まったね。実は螺旋帝の一族がこの都心部、港区に出現したって情報が入ったの。木を隠すのには森の中。人も多くて、目につきにくい……中々やってくれるよね! でも、この情報が本当なら、私達、魅咲忍軍にとっては最大のチャンス!」
 この廃ビルの裏寂れた一室には似合わないような声色で、配下の忍軍に語りかける。
 魅咲忍軍の忍びたちも、それにつられてか嬉しそうに頷く。
「そんなわけで、いますぐ港区に向かってもらうよ。なんとしてでも、草の根わけても探し出してきてちょうだいね!」
「御意。して、他の忍軍を発見した場合は、いかように?」
 ポニーテールに髪を結った忍びが、問いかけた。
 その問いに、無邪気な笑みを崩さず冴は、ああ、と両手を打つ。
「ふふん、もちろん問答無用で皆殺し、分かってるわよね!」

 その一方。いつ崩れてもおかしくないような廃工場の一角で静かに、そして乱れもなく直立不動で横一列に並ぶ四つの影と、その彼らの前に佇む一人の影。
 それぞれが一様に白い忍び装束と螺旋を模した特徴的な仮面。だが、彼らの前に佇む忍びだけは、デザインの異なる白仮面だ。恐らくはリーダー格、指揮官に相当する者だろうか。
 明らかに目を引くような出で立ちだが、人通りが絶えたこの場所では、誰も咎めるものはいない。
 指揮官らしき忍びは、身動き一つしない忍び装束の四人を見渡すと、仮面を外しながら、言葉を紡ぐ。
「ここ最近複数の忍軍が都内で活発な活動を行っているようです。よって……我ら白影衆頭領、雪白・清廉において、お前たちに命を下します。都内に散っている忍軍を見つけ出し、狩りなさい。今こそ白影衆の力を見せる時です」
 清廉の命が下ると同時に、あふれ出る殺気。それは、鋭い刃の如く。
「螺旋忍軍滅ぶべし」
 呼応するかのように四人が同時につぶやく。その言葉が合図なのか、おおよそ普通の人間では出来ないスピードで清廉の前から飛び去っていく。
 やがて、遠ざかる気配、殺気を肌で感じながら、残された清廉は屋根に空いた穴を見上げる。こぼれる陽光に目を細めながら、静かにそして、力強く呟いた。
「……螺旋忍者滅ぶべし」


 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、神妙な面持ちでケルベロスたちを出迎えた。彼らもそんな彼女の様子を見て、何か良くない事が起こっているのだろうと察する。
 ややあって、セリカが口を開く。
「この東京都心部で螺旋忍軍が複数、それも大規模な活動を開始しました。各所で螺旋忍軍同士の戦闘に発展し始めているようです。これがデウスエクス同士で争うだけなら問題はありませんが、都心は人口密集地。このままでは、都心だけでなく、市民への犠牲は避けられません。そこで皆さんには、争い始める螺旋忍軍の撃破をお願いします」
 セリカはここで言葉を区切り、一呼吸する。そして、再び話を続けた。
「方法は二つ。一つ目は戦いが始まった直後にわって入り、各個撃破です。そして、二つ目。お互いを争わせて、疲弊したところを攻撃、つまりは漁夫の利です」
 そして、どちらの作戦もあからさまな行動は、双方が結託し、さらに戦況は不利になる、とセリカが付け加える。
「螺旋忍軍は魅咲忍軍が六人、白影衆は四人です。魅咲忍軍ついてですが、集団戦闘が得意なぶん、個々の戦闘能力は大したことがありません。逆に白影衆は個々の戦闘能力が高いですが、集団戦闘が不得意なようです。戦場となるのは、港区になります」
 セリカはそう説明が終わると、ケルベロスたちを見回し、最後の言葉を紡ぐ。
「彼らが何を求めて、この事態を引き起こしたのかわかりませんが、市民への被害は食い止めなければなりません。建物はヒールで治りますが、失われる命は元に戻ることはありませんから……皆さん、どうかお願いします」
 そう締めくくると、ケルベロスたちを戦場へと送り出すのだった。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
ペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
天喰・雨生(雨渡り・e36450)

■リプレイ

●終わる平穏
 港区の客船ターミナルは、子供の声、異国の言葉、恋人同士の会話。それらがごちゃまぜになり、騒々しさに支配されている。
 そんな平和な光景の中、突如響き渡る金属音。それは金属、と言うよりは刃と刃が合わさり、弾かれるそんな非日常的な音。
 先程までターミナルを支配していた人々の声は静まり、そして非日常が始まったことを知らせる悲鳴で埋め尽くされた。
「キャー!!」
「助けてくれー!!」
 その様々な悲鳴を聞きながら、ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)はライドキャリバー『クラヴィク』で急行していく。
 手にはチェーンキー『紫炎』。それを空中で一回転させて、掴み直し、錠前型のバックルが付いた『ライゼファクター』の鍵穴に、正確に突き刺す。
「まったく、同時に現れるとは騒がしい事だよ。……変身!」
 その瞬間、『魔導装甲』チェインドライヴ【緑火】を身にまとい、『クラヴィク』から跳躍、そして滑るように着地する。
「本当にね。忍者なのに、こんな人目につくところで暴れていいわけ?」
 その横に並んだ天喰・雨生(雨渡り・e36450)が、呆れたかのようにライゼルに同意する。
 その時、避難している群衆の中から、一人の女性が転倒するのが見えた。ひどく動揺し、目に涙を浮かべながらも立てないでいる。
 すぐさま雨生は女性に駆け寄ると、優しく語りかけ、手を差し出す。
「もう少しで出口だから、がんばろう。さ、立って」
 その手を握り返し、どうにか立ち上がる。
「僕達が見えなくなるまで、振り返らずに逃げて」
 雨生はそう言うと、力強く頷く。女性は頷き返すと、言われた通りに駆け出していった。その後姿を見送ると、この騒動の元凶へと向かう。
 八代・社(ヴァンガード・e00037)の目の前には、切り結ぶポニーテールの忍者と螺旋を模した仮面を着けた忍者。
 情報のあった通り、個の力で勝る白影衆が押しているようだ。だが、魅咲忍軍の方も、その実力差を埋めるかの様に周りがフォローし、ほぼ互角。
 早期介入と避難を呼びかけたのが功を奏したのだろう。今のところは、目立った一般人の犠牲は出てない。
 社は魅咲忍軍と切り結んでいる白影衆の忍者に、横合いからゾディアックブレイクを叩き込む。
 完全に油断していた白影衆は、防御もままならず星座の重力を宿した一撃を甘んじて受け、その脇腹に鮮血を垂らしながら、後ろに飛び去る。
 突如の一撃と、第三者の登場にも一言も発することのない。だが、その驚き様は他の白影衆同様に隠しきれないようだ。
「なんだお前たちは」
 突然の闖入者には白影衆だけでなく、魅咲忍軍も驚きを隠せない。ポニーテールの忍者が動揺しながらも、集まっているケルベロスたちを見回しながら、問いかける。
(さて……お芝居と洒落込もうじゃねぇか)
 社は心のなかでニヤリ、と皮肉げに笑みを浮かべ、両手を広げる。
「敵の敵は味方って言うだろ。――それに、女を傷つける趣味はないんでね」
 心のなかと同様に皮肉げに笑みを浮かべ、肩をすくめる社。
「お前たち、我らを謀ろう……という事か」
「ボク達は、あいつらに用があるんでね。疑うなら見てればいい」
 眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)が簒奪者の鎌『銀翅・艶姫』と、その赤い瞳を白影衆に突きつけながら魅咲忍軍の忍びに答える。人前ではテンション高く軽口も多い彼女だが、あえて演技に嘘がないことをアピールするために、多くは語らない。
 もし自分達は味方、とでも答えようものなら、信頼関係もない魅咲忍軍に『私たちは怪しいです』と、あからさまに言っているようなものだ。
 リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)も、戒李に頷きながら魅咲忍軍に答える。
「……あちらへは思うことがあるだけです」
 言葉少なく、戒李と同様にただ目的のみを伝えた。余計な言葉を付け加えると、返って怪しまれる。不安そうな彼の両手にはボクスドラゴン『クゥ』。その少し気弱気な雰囲気は演技かそれとも、知らず知らずなのか。
 無言となる忍者。と、そこへ部下の一人がやってくる。
「こやつらはどうしますか。このままでは」
「……放っておけ。それに、だ。こやつらを利用すれば、事は早く済む」
 ポニーテールの忍者は決断する。共闘はしない。だが、とりあえずはケルベロスたちを攻撃する意思は無さそうだ。
 決断すると同時に、彼女たちは白影衆へと襲いかかる。
 ケルベロスたちも、上手く事が進んでいることを、お互い頷き合い、白影衆へと向かっていった。

●白刃の煌めき
 白影衆たちは第三者の乱入に驚きはしたが、魅咲忍軍、そしてケルベロスたちを見ると、どちらも敵、と判断したのだろう。武器を構え迎え撃つ。
(デウスエクス同士の喧嘩に、地球を巻き込まないで欲しいわねぇ)
 呆れ返ったようなペトラ・クライシュテルス(血染めのバーベナ・e00334)の金色の瞳の先には白影衆。
 集団戦闘が苦手ということもあり、バラバラに魅咲忍軍の忍者やケルベロスたちを攻撃していたりする。傷を癒やす者も居るようだが、それもどこか散漫。
 その時だった。ペトラに滑るように向かってくる白い影。腰を僅かに沈め、貯めた力を日本刀へ。そして一閃する。
 だが、その刃はペトラに届くことは無い。刃の先にはノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)が立ちふさがり、その刃を受け止めていた。
「忍軍同士の内ゲバに、僕らどころか一般人まで巻き込む気か? 勘弁してほしいんだけど?」
 碧と紅の交わる冷めた瞳で、魅咲忍軍に聞こえないよう小声だが、冷たく目前の忍者に言う。
「……我ら白影衆の使命のため、そのような」
 一般人などどうでも良い、とでも言いたかったのだろうが、言い切るより早くノチユは手にした武器で、白影衆の刃を弾く。
 ギィン、と鋭い音を立てながら弾かれる日本刀。弾かれた日本刀とその両手は宙をさまよう。
 そのノチユの背後からペトラが白影衆の懐に飛び込む。完全に無防備かつ、死角からの攻撃。
「もらったわよぉ」
 ペトラは破鎧衝を発動させ、その無防備になった胴体を一撃。
「……ぐ」
 思いもよらぬ一撃を受け、白影衆は後ろに飛び去る。
 その動きを見ながら冷めた瞳を魅咲忍軍に投げかけるノチユ。
「ほら、逃げる気だぞ、追わなくていいのか。あいつらへの攻撃、続けてよ」
 その言葉に、目を細めるポニーテール忍者。
「そのまま押し潰せ」
 だが、好機には違いないと判断したのだろう。すぐさま、先ほどダメージを負った白影衆の忍者に攻撃を殺到させる。
 ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)は、目の前にいる白影衆の一人、彼らの盾役にデスサイズシュートで攻撃を浴びせる。
(ひきょうなこと、きたないこと……。やっちゃいけないって、わかってるけど……)
「けど……ちからのないひと、まもるため……だから、しかたない……よね」
 簒奪者の鎌がその手から離れる瞬間、ロナの心にのしかかる罪悪感。だがそんな自分に言い聞かせるように小さいつぶやき。
 その罪の感情を振り払うかのように、放たれる簒奪者の鎌。身に纏う装飾が、リィンと涼し気な音を立てた。
 鎌は回転しながら鋭利な光を放ち、白影衆の盾役へとロナの決意とともに飛翔する。そして、敵が飛翔する刃の嵐に気づいた時には、もはや避けるすべはなかった。
 切り裂かれた腹部を押さえながら、片膝を地につける忍者。
「……あ」
 その純真無垢さ故、傷ついた忍者に一瞬、戸惑うが、力なき人たちを守るため、と己を再び鼓舞するロナ。
「貴様ら……」
 傷の痛みに耐えながら、ようやく立ち上がりはするものの、ケルベロスたちが加わったことで、ほぼ同等だった戦力バランスは完全に崩壊している。
 そこへライゼルが猛然と迫る。
「おのれ!」
 最初の頃の冷徹さとは打って変わり、怒りに声を震わせ、居合い斬りを解き放つ。
 放たれた斬撃は、ライゼルの腹部を切り裂くが、止まらない。痛みに顔をしかめつつも、その忍者の片腕をつかむ。
「これで終わりにさせてもらうよ。クラヴィク!」
 ライゼルの言葉とともに、スキール音をわななかせ、突進するサーヴァント『クラヴィク』。動けない敵に、デットヒートドライブが炸裂し、その体は宙を舞う。そして背中から地面に叩きつけられる。
「ここで終わる、わけ……」
 立ち上がろうともがくが、次第にその動きは緩慢となり、やがては何かが抜け落ちていくように動きを止めた。
 盾役を倒した今、白影衆の敗北は決定的なものとなった。見れば、魅咲忍軍も白影衆を一人倒しており、残るは二人。それでも、彼らは無言なまま、バラバラに攻撃を続けていく。
 社はそばにいた戒李と目を合わせる。
「ついてこれるか?」
 皮肉めいた笑みと問い。だが、彼の普段をよく知っているのだろう、まるで意に介さず、笑い返す戒李。
「そもそも君についていけるのなんて、ボクだけでしょ?」
「大口利くね。じゃあ、お手並み拝見」
「勿論、一緒に片付けちゃおう」
 同時に敵との距離を縮め、『銀翅・艶姫』を左斜めから逆袈裟懸けに切り裂く。
「ぬっ!」
 短く悲鳴を上げる忍者。日本刀を振るおうとするが、それよりも早く背後には社。そして敵がそのことに気が付き、振り返るがもう遅い。
「熾きろ……D/I!」
 溜め込んだ力が脚から地面へと伝わり、爆発的なスピードを実現する。リボルバーから弾丸を一射するごとに加速、そしてさらに加速を繰り返す。そして放たれた魔弾は敵へと迫り、タイムラグを感じさせない着弾、それと同時に衝撃は共鳴し、致命的な傷を敵に与えた。
 着弾のタイムラグは殆ど無い。そして放たれた銃弾は計32発。その攻撃に耐えられるはずもなく。前のめりに忍者は倒れ込むと、二度と起き上がることはなかった。
 最後の一人になったことに動揺しながらも手裏剣を放つが、戒李は止まらない。
「知恵ある限り、世界ある限り、終ぞ消えぬ枷の重さを……君に」
 力ある言葉に従うかのように、彼女の周囲に現れる魔力の矢。そして、手をゆっくりとかざし、最後の言葉を紡ぐ。
「罪に溺れろ!」
 相手の罪の意識を形状化した魔力の矢の連打。それを避けることは叶うはず無く、鋭利な矢は白影衆、最後の一人へと殺到し貫いた。
 暴雨のような矢の嵐が過ぎ去った後には地に伏した白影衆。
 そして静まり返る客船ターミナル。だが、平穏とは程遠い剣呑な雰囲気が、まだ辺りを包み込んでいる。
 ポニーテール忍者はケルベロスたちを見回す。手にはいまだ抜き身の日本刀。
 その時、社がああ、と漏らす。魅咲忍軍全員が意識を向ける。その様子をニヤリと笑って見る社。
「――言い忘れてた。デウスエクスは例外だ」
 無造作にクイックドロウを放つ。突如の不意討ちに、直撃をもらうポニーテール忍者。
「く、やはりか!」
 忌々しげに吐き捨て、傷を癒やす。
「そもそも……誰もあんたらの味方とは一言も言ってないだろ。言った? ああ、ならそれ、嘘だよ」
 ノチユが小首をかしげながら、笑う。そして、突き放すかのような一言。
「地獄が待ってる」
 冥府への標にも見える、狙い研ぎ澄まされた一撃はポニーテールの忍者を思い切り打ち据えた。
「ぐっ、始末しろ!」
 膝をつき、息も絶え絶えに部下に命令を下す。だが、魅咲忍軍はかなり疲弊しているようだ。ケルベロスたちも傷も負い、疲弊はしているが、ペトラが仲間たちの傷を癒やして立ち回っている分、損耗が少ない。
 もっと早く始末していれば。そうポニーテールの忍者が心のなかで後悔をするがもう遅い。
 どうにか立ち上がると、ぺたぺたと硬い床を歩く足音。そこにはペトラ。
「さぁ、これでおしまいよぉ」
 指を唇に当て、妖艶にそして純真な笑みを浮かべる。
 日本刀を振るい、なんとかペトラの足を止めようとするが、徒労と化す。そして、彼女の古代語魔法が発動する。
「総てを識る聖譚の守り手よ、古の契約に依り其の力を示せ。――さぁ、細切れにしてあげるわぁ!」
 優しくそして蠱惑的な仕草で、手のひらでポニーテール忍者の顔を撫でる。
 瞬間、ピンク色の魔法陣が足元に展開。その悪魔のひと触れは、空間の楔を打ち込むものだったのだろう。その楔を起点に古代語魔法の莫大な力が駆け巡り、そして爆炎を撒き散らかした。
 その爆炎が収まると、全身を駆け巡った力により、致命傷を負う敵の姿。
「無念……」
 カランと、手にした日本刀を床に落とす。そしてそのまま力なく床に倒れこむと動かなくなった。
 指揮するものがいなくなり、もはや魅咲忍軍は連携など取れる状況ではなくなる。
 リュートニアは、手にしたリボルバー銃で、バラバラに行動する魅咲忍軍へと制圧射撃を行う。放たれる弾丸は、傷が癒えきってない忍者たちを打ち据え、何人かはそのまま二度と立ち上がらない。耐えたものもいたが、回避がままならないほどに動きを鈍らせる者もいるようだ。
 その内の一人が、リュートニアへと、螺旋手裏剣を投げつけた。放たれた凶刃は彼の体を切り裂く。だが、すぐさまその傷は癒えていく。彼女のボクスドラゴンの『クゥ』が、すぐさまに傷を癒やしたのだ。
「ありがとう、クゥ」
 優しく笑みを浮かべて、クゥにうなずき返し、跳躍。なおも攻撃を試みようとする魅咲忍軍の忍者へと肉薄する。そして、彼の戦術超鋼拳による一撃は、あっさりと敵の意識を無に返した。
 一人また一人と倒され、残る魅咲忍軍はただ一人。それでも、必死に攻撃を繰り出す忍者。
 だが、一般人を巻き込むことに、ためらいすらしない敵を逃がす雨生ではない。
「これでお仕舞い。さよなら」
 愛用の一本足の高下駄をカン、と床に打ち付ける。梵字の魔術回路が赤黒く輝き、そして力の言葉が実行された。
「血に応えよ――天を喰らえ、雨を喚べ。我が名は天喰。雨を喚ぶ者」
 その言葉と同時に忍者の体がビクン、と跳ね上がる。宙をもがき、その姿はさながら水に溺れるよう。やがて、口から水を吐き出しながら倒れ込む。
 最後に残った魅咲忍軍の一人は、言葉を発することも出来ぬまま、浮かび上がることが出来ない闇へ沈んでいった。

●始まる平穏
 ロナは戦闘の余波で破壊された場所をヒールして回っていた。
 その表情は晴れない。『この作戦で力のない人が救われるなら』と戦いの最中、腹はくくっていたつもりだったが、いざ戦いが終われば、多かれ少なかれの罪悪感が心を締め付ける。
 苛まれながらも船舶の損傷を見るため、窓を覗いたときだった。
 恐らくは避難した人たちだろう。お互いの大事な人無事を確認し合う人々が大勢いる。特に怪我を負っている人はいないようだ。
「よかった……だいじょぶみたい……」
 心の底から、安堵する。その守った人たちの光景と、暖かさに彼女の心は救われていく気がするのだった。

作者:荒井真 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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