五月病事件~ねむねむひつじ

作者:犬塚ひなこ

●おそろしきやまい
 窓辺から見える空の色は透き通った蒼。
 陽射しもあたたかく、出かけるにはもってこいの快晴だ。だが、それを見ていた青年からは、ふああ、という間延びした声と共に気の抜けた欠伸が零れた。
 連休明けの平日。時刻は午前十一時を回った頃。
 大学の授業がとうに始まっている時間だというのに青年は一向にベッドから起き上がらない。これまで真面目に授業に出席していた彼としてはおかしなことなのだが、どうしても外に出る気になれないのだ。
「一日二日くらいサボっても良いよな。明日から頑張れば……」
 独り言を呟いた青年は寝返りを打って目を瞑った。
 俗にこれを五月病と呼ぶことは知っている。このままでは駄目なことも分かっている。だが、青年は抗いがたい眠気と気怠さを抱いたまま、何度目かもわからない眠りについた。

●五月の誘い
 ゴールデンウィークも終わった連休明け。
 雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は大変なことが起きていると告げ、仲間達へと説明を始めた。
「五月病でございます。五月病が大流行中していますのです!」
 ただそれだけを聞くとただの毎年恒例の軽い話だと思うだろう。しかし、多くのケルベロスの方が調査したところ五月病の病魔が大量に発生していることが判明したのだ。
 病魔といっても五月病。
 それゆえに放っておいても死ぬことはない。だが、こじらせると社会復帰が難しくなるので出来るだけ早い解決が求められる。
「ということで皆さま、五月病の病魔退治をお願いします」
 そして、リルリカは今回の敵が巣食う場所について語りはじめた。
 場所は閑静な住宅街にあるアパートの一室。
 ワンルームタイプの部屋の中には五月病に侵された大学生の青年が一人、ベッドですやすやと眠っている。彼は学校に行かずに部屋に閉じこもっており、普通に訪問しても居留守を使うだろう。
 それゆえに鍵を壊すか窓を割るかして内部に踏み込む必要がある。
「どうやってお部屋に入るかは皆様にお任せしますです」
 そうして、五月病の患者に接触した後は病魔を召喚するだけ。チーム内のウィッチドクターがいれば仲間に任せればいいし、いない場合は別のウィッチドクターが臨時に手伝いをしてくれるので特に心配はない。
 病魔が出現した後は相手を倒すのみ。
 敵は催眠の力や気怠くなる力を使って応戦するので注意が必要だ。されど皆で協力すれば勝てない相手ではないと話し、リルリカは笑顔を向けた。
「五月病は再発しやすい病気みたいです。もしよければ病魔撃破後に青年さんをフォローしてあげるといいかもしれません。よろしくおねがいします!」
 ただし、フォローと言っても説教をするのではない。
 曲がりなりにも病魔に侵されていたのだから悪いのは青年ではないのだ。授業を受けなかったことや、だらしなさを指摘するなどのマイナス面を責めればきっと再発を誘発してしまうことになる。
「五月病は怠けているだけという誤解をされやすい病気なのです。だから、まっすぐに前を向けるような……そんな励ましで未来を照らしてあげてくださいませ!」
 未来を護るケルベロスならばきっと出来る。
 そう信じたリルリカは明るい笑みを浮かべ、戦場に赴く仲間を見送った。


参加者
藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
メロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)
ジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)
詠沫・雫(海慈・e27940)
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)

■リプレイ

●五月の病
 或る晴れた平日の午前。
 もうすぐ正午になろうかという時刻の空の色はとても爽やかだ。頬を撫でていく風もやさしく、空気も澄んだ緑の香りがした。
 マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)をはじめとしたケルベロス達はとあるアパートの扉の前に立ち、これから始まる戦いに思いを馳せる。
「気の病とよばれるものが病魔だなんて厄介ね……」
 五月病という病の厄介さを思ったマキナに頷き、ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)はドアノブに手をかけた。
「扉はしっかり閉まっておるの。当然じゃな。これを開けるのは悪い気もするのじゃが中ではもっと危険な事が起こっておるからのぅ」
 そうしてミミが離れると、代わりに前に出た深月・雨音(夜行性小熊猫・e00887)が持参したヘアピンで鍵穴を弄る。
「雨音は悪いことにしてるわけじゃないにゃ。これも必要なことなのにゃ」
 ピッキングを実行する雨音は、部屋の中で眠っているであろう青年を起こさないようそっと作業を行った。フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)はその手際を眺め、軽く首を横に揺らした。
「お任せしますね。細かいのは苦手でしてー」
「はい、よろしくお願いします」
 詠沫・雫(海慈・e27940)も仲間を見守り、じっと扉を見つめる。ピッキングは穏便に侵入する為の策。作業中、雨音のヘアピンが曲がってしまったのでメロゥ・イシュヴァラリア(宵歩きのシュガーレディ・e00551)が役割を交代し、用意した工具でもう鍵穴をもう一度弄っていく。
 すると、カチリという音と共に鍵が開いた気配がした。
「行きましょ。病魔とご対面ね」
 メロゥが扉をひらき、そっと部屋の中に入る。藤咲・うるる(メリーヴィヴィッド・e00086)達もその後に続き、お邪魔しまーす、とそっと口にした。
 やや広めのワンルームの奥にはベッドで眠る青年の姿がある。
 このまま起こさない方が良いだろうと判断したジゼル・クラウン(ルチルクォーツ・e01651)は仲間達に目配せを送った。
 始めよう、と示す眼差し。その意味を感じ取ったうるるは青年の胸部に手をあて、病魔召喚の力を行使した。
「――さあ、ご馳走の時間よ」
 うるるの言葉に合わせて淡い光が周囲に満ちた、次の瞬間。
 ぽわん、という可愛らしい音と同時に部屋に羊のような少女が現れた。ふあ、と欠伸をしたそれこそが今回の五月病の病魔だ。マキナが身構え、雫とミミは其々にボクスドラゴンのメルとテレビウムに布陣につくよう願った。
 ジゼルはすぐさま青年を庇うように立ち、雷杖を握る手に力を込める。
「それじゃあ、五月病退治といこうか」
 そして――ジゼルの凛とした声と共に病魔との戦いが始まりを迎えた。

●眠りの羊
 あどけない少女の姿をした病魔は目を擦り、ぼんやりと此方をみる。
 病魔は宿主である青年には見向きもしていない。その様子を確かめ、うるるとジゼルは攻撃の矛先を逸らす為に立ち位置を変えた。
 この間にフラッタリーがゆらゆらと揺れながら、紙兵を散布していく。
「いつまでもすやぁしてる訳にも行きませんのでー、テキパキと参りましょうかー」
 瞬間、フラッタリーのサークレットが展開し、金色の瞳が開眼する。額に隠した弾痕から地獄の炎が迸る最中、敵がねむねむの魔法を放った。
 病魔の動きに逸早く感付いたマキナが仲間を庇い、惑いの力を代わりに受ける。揺らぐ視界、思わず傾ぎそうになる身体。
 しかし、マキナは堪えて反撃に入った。
「社会的な死はある意味死ぬより辛い道を歩みかねないわ」
 それゆえに此処で病魔を祓い、正道なる人生を取り戻してみせる。マキナはバールのようなものを振りあげ全力で敵に振り下ろした。
 雫はメルに視線を向け、仲間が受けた傷を癒しにかかる。
「皆さんを、守ります。絶対に」
 床に描いた守護星座に願いを込めれば、雫からの加護が仲間達に拡がった。同時にメルが海の属性を力に変えて翼を広げる。
 匣竜の聡明そうな眼差しを受け、うるるも攻撃に入った。
「こういうのって本当は自分で区切りをつけなくてはならないのだけどね」
 だが、病魔の仕業となれば話は別。うるるは壁を蹴って天井まで跳躍し、旋刃の一閃を放つ。きゃう、と羊少女から悲鳴が上がったが容赦はできなかった。
 ミミもテレビウムに攻撃を願い、身構える。
 凶器攻撃が振るわれる中、ミミはじっと五月病の病魔を見つめていた。
「五月病……わらわには関係ないかもしれんのぅ」
 毎日、遊ぶことも勉強もある。じっとしているなど難しい、と思いを述べたミミは竜槌を砲撃形態へと変え、ひといきに攻撃を放った。
 攻防は巡り、戦いは激しくなりゆく。
 メロゥは敵が揺らいだ瞬間を狙い、五月病へと指先を向ける。
「恐ろしい病だわ。罹ってしまったらひとたまりもないものね」
 軽く首を振ったメロゥは詠唱を花唇にのせ、無数の星々の力を顕現した。光は雨の如く敵に降り注ぎ、周囲に煌めきが散る。
 天上の火が病魔を穿っていき、其処に雨音も続いてゆく。
「五月病って人がだるい~とか言い出す病気かにゃ? というか、だるい~って、暑い夏になったらそうなるよにゃ」
 にゃ、と自分なりの思いを言葉にした雨音は斬霊の一閃を敵に見舞った。
 ジゼルは病魔を更なる力で縛るべく、手にした杖から雷撃を放つ。迸る衝撃は見事にねむねむ羊を貫いた。しかしジゼルは反撃が来ることを察する。
「気を付けて、ううる嬢、雨音嬢。そちらを狙っているようだ」
 ジゼルは仲間に注意を促すが、言の葉には仄かな信頼が宿っているようだった。その声を聞いたうるると雨音は機を見計らう。
 そして、ひらりと毒攻撃を躱したうるる達は明るく笑った。
「平気にゃ!」
「大丈夫よ。彼が病をこじらせちゃう前に、病魔とさよならしましょ!」
 その為に自分達が来たのだから、と強く言い放ったうるるは拳を握り締め、降魔の力を宿した一閃を撃ち放つ。
 だが、その隣ではマキナを庇ったフラッタリーが痛みを堪えていた。
 病の気を受けた彼女はぐらぐら揺れ出し、咆哮をあげる。
「――ルゥaAァア鳴呼アア!」
 戦闘状態に入ったフラッタリーの狂乱の声は鋭く響く。マキナは自分の分まで痛みを受けた仲間に礼の視線を送り、己の胸に触れた。
「五月病という病の内容にそぐわぬ攻撃ね……」
 されど負けてはいられない。
 マキナは己のグラビティから胸に輝く蒼い菱形クリスタルと同様の物を生成し、仲間達に向けて放り投げた。蒼水晶から放たれたのは癒しの波動と守護のシールド。
 前衛に拡がった回復に合わせ、雫も力を紡いでいく。
「援護させて貰いますね。さあ、メルも一緒に」
 雫が呼びかけるとメルがフラッタリーに癒しを重ねた。雫は仲間に更なる力を与える為に爆破スイッチをぽちりと押す。
 途端に広がる色彩豊かな煙。それらは皆の後押しとなり戦いの加護となる。
「うぅん……」
 そのとき、ベッドで眠ったままだった青年が気持ちよさそうに寝返りを打った。これだけ騒がしくしても起きないのは五月病の所為だろうか。メロゥは青年が無事であることを目で確かめ、こくりと首を縦に振った。
「お布団にくるまっていたい気持ちはよくわかるわ」
 心地良さそうではあるが早く助けてやらなければいけない。メロゥは古代語魔法の詠唱をはじめ、魔法の光を解放した。
 きゅう、と鳴いた羊少女が目をぱちくりとして痛みに耐える。
 うるるは思わずきゅんとしてしまったが、敵は敵。ただの病が形になっただけに過ぎない。すかさずテレビウムが追い打ちで攻撃を放ち、ミミも更なる連撃を打ち込まんとして身構えた。
「みかけだけでは判断してはだめじゃな。とにかくだらだら過ごすなど無駄じゃし早いところ楽にしてやらんとのぅ」
 決して気を抜くまいと決め、ミミは光の翼を大きく広げる。
 刹那、光の粒子となったミミが敵に突撃した。軌跡を描いた一閃の衝撃が病魔を傾がせる。その隙を突き、ジゼルは不可視の獣を召還した。
「――来たれ冥府の獣。終わりの日に始まりを告げ、長き夜を駆けよ」
 ユールタイドの真冬の晩、二頭の獣は蹄の音を響かせて、霜が降りる冷たい風を運ぶ。雪月の蹄が敵を穿ち、大きな痛みを与えた。
 雨音は素早く立ち回り仲間に続く。
「遠慮せずにガンガン行くにゃ。これはどうにゃ!」
 軽いステップを刻み、踏み込んだ雨音は怒涛の攻撃を繰り出していった。雨音が振り下ろした絶空の刃は仲間達が与えた不利益を一気に増やしていく。
 それらによって病魔はふらふらと体勢を崩した。
 あと少し。きっと間もなく敵は倒れるはず。メロゥがそう感じているのと同様にマキナや雫も敵が弱っていると察している。
 ケルベロス達は戦いの終結を目指し、其々に思いを強めた。

●病魔の眠り
 眠りの波動、身体を蝕む毒、そして動きたくなる痺れ。
 よく考えればどれもが病らしい攻撃なのかもしれない。そう思い直したマキナは如意棒を軽やかに回し、鋭い突きを放った。
「もうすぐね。でも、気を付けて……来るわ」
 刹那、マキナは敵が更なる攻撃を放つ気配を感じ取る。
 その呼び掛け通り、伸ばされた敵の手から痺れを齎す魔力が戦場に拡がった。雨音が咄嗟に身構えたが、痺れは容赦なく襲い掛かる。
 雫は仲間が完全に動けなくなる前に、と思いを歌に乗せていった。
「皆さんに、届いて」
 紡がれた旋律はやさしく、甘い歌声となって響く。
 貴方の心が凪ぎますように。
 そんな願いと共に奏でられた唄を聴き、メロゥは攻勢に入った。雫の聲が天上の歌声ならば、此方は火。
「これからの人生に関わることだもの。未来は、メロたちが守ってあげましょうね」
 メロゥがひとかけらの言の葉を口にすれば、天井もとい天上にさんざめく星々。光が満ちてゆく中で病魔は弱々しい声をあげていた。
 其処に目を付けたフラッタリーはまるで羊の毛刈りの如く、切り刻む勢いで鉄塊を振るいあげた。羊じゃなく病魔な女の子ならば獄炎で滅菌するのみ。
「――灼ケヨ」
 霞の構えの如く武器の先端を相手に向け、額を擦り付けたフラッタリーは膨大な地獄の炎を封じ込める。そして瞬きの平穏の後、限界まで絞り切った膂力と狂奔が開放された。雲耀の間、閃光の如く眼前の敵が穿たれていく。
 ジゼルは畳みかけるべき時だと察し、銃口を敵に向けた。
「終焉を与えてしまおうか」
 短い言葉と共に放った銃弾は敵の羊めいた角に当たり、その一部を砕く。今だ、とジゼルが呼びかければミミが大きく頷いた。
「みーこ、ごーなのじゃ!」
 ミミは猫のぬいぐるみに自分の力を宿し、全力で投げつける。宛ら猫が羊を追いかけるかのように向かった一閃は見事に直撃する。其処に合わせてテレビウムが凶器で羊を滅多打ちにしていった。
 うるるはふわりと笑み、仲間の攻撃に賞賛を込めた眼差しを向ける。
 それから、うるるは拳を強く握った。宿していくのは己が喰らってきた様々な病魔の力。目の前の病になど負けないと心に決め、うるるは力を解放していく。
「病は気からだって、ママが言っていたわ」
 だから、この気で吹き飛ばしてあげる。苛烈な降魔の一撃が振り下ろされ、力は激流となって迸った。
 マキナは敵が膝を突いたと告げ、ジゼルもあと僅かで終わりだと頷く。
 するとメルが飛び出し、果敢に体当たりに向かった。ずっと皆を支え続けていた雫の分まで担うような一撃は病魔を追い詰める。
 そして、好機を掴み取った雨音は両手を獣化させた。
「ふわふわ……もふもふ……なんか、理解してしまう気がするにゃ。でも、もふもふならこちらだって負けないにゃ! 最後の一撃、いっぱい喰らえにゃ!」
 瞬刻、ぷにぷにのにくきゅうあたっくが放たれる。
 そうして――羊めいた少女はその場に倒れ込む。目をぐるぐると回した病魔が倒れる様はまるで、眠りにつくようにも見えた。

●空の蒼色
 こうして戦いは終わり、薄くなった病魔の姿もやがて消え去る。
 それとほぼ同時に今まで眠っていた青年が目を覚ました。よく寝た、と腕を伸ばしかけた彼は周囲の様子に気付いてそのまま固まってしまう。
「え? ……誰?」
「血の巡りが悪いとー、気落ちしやすいものですのー」
 フラッタリーは青年をベッドから起こし、体操を促した。あまりの突然のことに事態が理解できていな青年に対し、ジゼルとマキナは事情を語ってやる。
「全ては病魔が原因で、君の気怠さもその一部だったんだ」
「倦怠ややる気のなさ、いわゆる五月病の症状が貴方に出ていたの。でもそれは病魔によって過剰に増幅されていたわ」
 その説明ですべて納得した彼は、ありがとう、と番犬達に告げた。
 しかし、ただ家で惰眠を貪っていたことを思い出した青年は肩を落とす。どうしようかと思い悩む顔をミミと雨音が覗き込んだ。そして、雫は問いかける。
「学校、行きたくないんです?」
「いいや、そんなことはないんだ」
 学校で友人と過ごす時間は今しか味わえない、貴重なもの。そう思う雫はメルを撫でながら、自分も頑張りたいと口にする。
 メロゥも淡い笑みを浮かべ、落ち込む必要はないと伝えた。
「大丈夫、大丈夫よ。休んでしまった分は、これから取り返したらいいわ。あまり悲観しないで、頑張りましょ?」
 応援するから、とメロゥが掌を握る。
 うるるも過去を悲観するだけでは進めないと考え、言葉を続けた。
「学校をサボってしまったものは仕方ないわ。だから、今日はもういっそ、いっぱい遊んじゃいましょ!」
 ずっと休んでいると学校に戻り難いだろうが、やはり仲間がいてこそ日々が楽しくなる。ミミは青年を見上げ、まずは外に出ることからだと話した。
「わらわが遊んでやってもいいんじゃがそれじゃ楽しくなかろう。人には居場所があるはずなのじゃ」
「やる気スイッチどこかにゃ? 雨音の尻尾もふもふさせてもいいにゃ。美味しい食べ物いっぱい食べて、元気出してにゃ♪」
 雨音は尻尾をゆらゆらと揺らして無邪気に笑い、ジゼルも小さく頷く。
「そうだな、今日は大学の友人を誘って、美味しいものを食べに行くと良い」
「五月病の一番の薬は忙しさに身を置く事、つまりは行ってしまう事ね。大丈夫、みんなも分かってくれるわ」
 マキナも励ましの言葉をかけ、青年が次に踏み出せるよう願った。
 そうして、フラッタリー達は荒れてしまった部屋を片付けると申し出る。壊れてはいないが物が散乱している現状にやっと気付いた青年は、少し困ったような顔をして――それから、可笑しそうに笑った。
 うるるはもう彼は平気だと感じ、双眸を細める。
「大丈夫よ。明日にはきっとあなたはもう前を向いているから!」
 ね、と微笑んだうるるは窓辺から見える空を振り仰いだ。
 眩い陽射し、流れる白い雲。
 蒼天の透き通った色はきっと、明るい未来を指し示しているはずだから。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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