ゴリラが砕く、お色気の道

作者:こーや

 輝く太陽。青い空。好天気だ。
 春も終わりの昼下がり、青年はお気に入りのキーホルダーをぶら下げたリュックを背負い、のんびり散歩をしていた。
 『爆殖核爆砕戦』直後は怖くてとても近寄れなかったが、大阪城の攻性植物に動きはない。
 危機感が薄れていた青年は散歩のルートを大阪城の近辺に定めていた。
 しかし、雑木林の側を通ると――。
「ん?」
 女の声が聞こえた気がした。
 気のせいかとも思ったが、聞き流すにはあまりにも魅力的な声だった。
 青年は進行方向を変え、雑木林の中へと足を向けた。
 そこにはフルーツがたわわに実った一本の木。それと一体化したような、ぷるぷるでたわわなおっぱいという果実が目立つ裸の女。
 青年は誘き寄せられるように、ふらふらとおっぱいへ手を伸ばす。
 裸の女は青年を迎えるべく腕を広げるも、一瞬、ぴくりと身を竦めた。
 しかし、女は意を決したように男を抱きしめる。
 抱きしめながらも、女は青年の『ゴリラ』のキーホルダーを手早く取り除く。
 邪魔者がいなくなったとばかりに、女は心置きなく――そう、心置きなく青年の色んなものを搾り取ったのであった。

「ちょっと、ううん、大分、困ったことになります」
 困惑を顔いっぱいで表現しながら、河内・山河(唐傘のヘリオライダー・en0106)は切り出した。
 『爆殖核爆砕戦』後、大阪城に残った攻性植物の調査を行っていたケルベロス達から、新たな情報がもたらされたのだ。
 大阪城付近の雑木林などで、男性を魅了する『たわわに実った果実』的な攻性植物『バナナイーター』が出現しているようなのだ。
「バナナイーターは、15歳以上の男の人が近寄ると現れるみたいです。それで、その、はい、果実で魅了して……あの、絞りつくして殺害して、グラビティ・チェインを奪いつくしてしまいます」
 奪ったグラビティ・チェインを使い、攻性植物は新たな作戦を行うつもりなのかもしれない。
 このバナナイーターを撃破し、誘惑されてしまう犠牲者を救わなくてはならない。
「被害者の男の人が攻性植物に出会う場所に先回り出来ます。攻性植物を出現させるには、そのまま一般人の男の人を誘惑させるか……男の人を避難させてから、男性のケルベロスが囮になる必要がある思います」
 バナナイーターは、囮となった人数に応じた数を出現させるようだ。
 拠点となっている大阪城から地下茎を通じて送り出しているのだろう。
 ただし、1体目以外は戦闘力が低いらしい。ある程度数を出して、一気に叩くことも可能だ。
「気をつけなあかんところが1つ。攻性植物が出現してから3分以内に攻撃をしかけてしまうと、地下茎を通ってすぐに撤退してしまうんです」
 囮となった者は3分程度、攻性植物と戦闘せずに接触する必要があるという訳だ。
 幸いにも、攻性植物側もその間は攻撃を行わない。
 対象の男性を誘惑死にかかる為、囮が一般人であってもすぐに殺されるということはない。
 攻撃手段は3つ。
 1つ目は、バナナを投げつけ、ずしゃー、しゅばーって感じで切り刻む。
 2つ目。大量にバナナの皮をばら撒いて、すっころばせてあいたたた。
 最後は、巨大なバナナががぱっと開いてばくっと噛みついてくる。
 そこまで言うと、山河はさらに困ったように頬に手を当てた。
「うちが見た攻性植物は……なんやゴリラが苦手みたいです」
「え?」
 黙って話を聞いていた朝倉・皐月(萌ゆる緑・en0018)が、思わず声を上げる。
「被害者の男性がつけてたゴリラのキーホルダーを怖がっとったんです。せやから、それを利用したら……3分の間に、攻性植物を弱らせることが出来るかもしれません」
 戦闘中でもゴリラを嫌がるかもしれない。
 ただし、ゴリラに怯えて逃げることはないだろうと山河は言い添える。
「なるほど……。わかったよ、山河さん! つまり、ゴリってゴリってゴリりまくって、攻性植物を消耗させればいいんだね!!」
 意気揚々と皐月はケルベロスを振り返った。拳が力強く握られている。
「やろう、皆! 皆でゴリれば怖くない!!」


参加者
東名阪・綿菓子(五蘊盛苦・e00417)
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ゴリずむルーチェ・e04143)
ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)
空舟・法華(ゴリラっ子クラブ・e25433)
上里・藤(レッドデータ・e27726)
篠村・鈴音(ゴリラの地球人・e28705)

■リプレイ

●ゴリラッション
 輝く太陽。青い空。好天気だ。
 つまり――。
「絶好のバナナ日和ですね」
 空舟・法華(ゴリラっ子クラブ・e25433)の緑色の眼には一片の曇りもない。
 例えラフレシアを見かけたとしても、今の法華なら路傍に咲く可愛らしい花のように愛でることが出来る。
 そんな彼女はチンドン屋スタイルで決めている。トリコロールカラーの服と背負った太鼓が法華のバナナへの意気込みを感じさせられるような気がしなくもない。
「そうっすね、ゴリラにとってはパラダイスな一日の始まりっすよ」
 昨晩と今朝、鏡の前で1時間ずつ自分はゴリラだとセルフ洗脳をかけてきた上里・藤(レッドデータ・e27726)はいろいろ吹っ切れすぎている。
 抱えきれないほどの量のバナナがその何よりの証。
 篠村・鈴音(ゴリラの地球人・e28705)の意気込みもすごいもといヤバい。
「ゴリラアーマー略してゴリラ―マー! こんな事もあろうかと、あらかじめ作っておいたのさ!」
 ゴリラの着ぐるみを着込み(おそらく)ドヤ顔の鈴音。わざわざ戦闘用の防具として作ってきてるからヤバい。
 なによりも着ぐるみが鈴音だけじゃないというのがヤバい。
 ルーチェ・プロキオン(魔法少女ゴリずむルーチェ・e04143)はこれから自分が成さなくてはならないことに、抵抗感があるらしい。
「ママー、なんであの人たちゴリラなのー?」
「しっ、見ちゃいけません!!」
「ううっ……」
 人通りが少なすぎるせいで、かなり離れたところにいる通りすがりの幼女とママの会話が丸聞こえ。ルーチェの胸にずどんと突き刺さる。アサルトならぬゴリルト。
 大丈夫だよ、とほほ笑みを浮かべた朝倉・皐月(萌ゆる緑・en0018)がルーチェの肩を叩く。
「地球はゴリラの愛で満ちてるんだから」
「皐月おねえもゴリる気一杯じゃな」
 そこへウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が戻ってきた。被害を受けるはずだった青年を逃がしてきたのだ。
 これで、準備は整った。
 ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)が毅然と顔を上げた。
「破廉恥な所業を断罪しに行くとしよう」
 ロウガと共に囮を買って出た藤がこくり、頷く。沢山のバナナを抱えて――。

 ヘリオライダーの予知通り、雑木林の側を通った時に女の声が聞こえた。
 囮である導かれしゴリラの戦士(以下ゴリ戦)たるロウガと藤は雑木林の中へと足を踏み入れる。
 果たしてそこには、木と一体化したぷるぷるでたわわなぼいんの女の姿が2つあった。
「いらっしゃい、いらっしゃい」
 声に誘われるように、ふらふらと女へと吸い寄せられる藤。
「こっちの蜜はあま――」
 しかし、女の手が藤の頬に触れた瞬間。
「っ、ああっ!!」
 藤は胸を押さえ、蹲る。
 それに合わせ、赤いネクタイとゴリラのマスクをすぽっと無駄に手早く被るロウガ。
 途端、バッと藤は立ち上がった。
 それはケルベロスに残された(人として)最後の手段。そう、ゴリラ化の始まり。
「ホオオオオオオオウッ!」
 2人によるドラミング音が雑木林に木霊する。
 びくーーーっ、怯むバナナイーターだがこれはゴリラが苦手じゃなくても普通はビビる。
 目の前の人間がいきなりゴリラになったらそりゃビビる。とんでもプレイを悦ぶタイプなら別かもしれないが。
「ウホッ!」
 ロウガ、無駄にさわやかな笑顔。地面を手で叩く、エア・タル投げなどの威嚇を繰り出す。
 藤も負けじと地面を叩き、頭上で高らかに手を打ち鳴らし。この間、歯茎は剥き出しのゴリ魂。
 取り出したバナナに勢いよく齧り付く。口で乱暴に皮をはぎ取るワイルドさが圧巻のゴリラである。
 バナナイーター達もといおっぱいーズは怯える通り越してドン引きである。
「うわっ……私の獲物、ゴリすぎ……?」
「どうしてこうなったの……やだ、ゴリラ怖い……」
 ゴリラが苦手じゃなくてもそんな爽やかな笑顔でゴリり始めたら普通はビビる。
 ぼいんとばいんが身を寄せ合ってばいんぼいんになっててぼいんがぶるぶる震えているぷるん。
 初心なロウガはたわわを意識の外に追い出すべく、さらに激しく獰猛なゴリラへと変貌していく。
 バナナイーターを嘲笑うように、新たなゴリラじゃないケルベロスが続々とはせ参じた。
 勿論、ナックルウォーキングで。
 先頭を走るゴリラは東名阪・綿菓子(五蘊盛苦・e00417)が高らかに咆えた。
「ウッホーウ!」

●希望のゴリモア
 2頭と1体のゴリラがバナナイーターの周囲をゴリゴリウホウホと徘徊する。
 鯖寅・五六七(ゴリライダーのレプリカント・e20270)とウイングキャット『マネギ』は4分の1カットしたレモンを上唇の下に含んで膨らませることによって完全なゴリ顔をものにしている。
 マネギは五六七の上に乗っかっているが、これは子ゴリラアピールであって動きたくないからではない。デブだから動きたくないとかでは決してない。
「ウホッホッホッホッホッホ!」
 五六七は人語を捨てたようだが、かつてゴリラ推しビルシャナの教義をゴリでゴリしてゴリった身なのでなんの問題もない。
 むしろゴリラとして当然のことだ。
 一方、もう一頭のゴリラこと鈴音は穏やかな雰囲気を醸し出しているがこれはこれで怖い。
 ファスナーを上げ下げし、妙に癖になる音を出すことで攻撃するつもりはないと意志表示。
 リズムに合わせてゴリ語を紡ぎ出すのは忘れない。
「ウッホー、ウッホー、ゴリー、ゴリー」
 友好的なゴリラと敵対心剥き出しのゴリラがぐるぐるとバナナイーターを囲むさまは、まるで脳内の天ゴリ使と悪ゴリ魔の化身だ。
 ふいに五六七は皐月を振り返り、手招く。
 皐月は力強く頷くと、第4のゴリラ(子ゴリラ含む)として野生を解き放ち、ボコボコと己の胸を叩く。
 そんな仲間達の姿を目の当たりにしたルーチェの体に稲妻が走った。
 真面目な少女は今、確信したのだ。
 皆、人々の為にゴリラへと変身している(趣味でやっているのも何人かいるが気付かない方が幸せである)。
 つまり――。
「ゴリラは、魔法少女と同じなんですね……!」
 ゴリラの理に導かれ、ルーチェは今、ゴリラへ進化を果たす!
 ゴリラの着ぐるみを身に纏う、魔法少女ゴリずむルーチェ。
 着ぐるみ着用は羞恥を隠すためではない。身も心もゴリラとなる為の儀式。魔法少女がコスチュームを身に纏うのと同じ理屈なのである。
 ゴリずむルーチェはナックルウォーク包囲網に加わるために力強く駆けだした。
 一方。
 綿菓子は激怒した。必ず、かのバナナイーターに琵琶の音を聞かせなくてはならぬと決意した。
 綿菓子には弾き方が分からぬ。綿菓子は、ケルベロスのゴリラである。
「ホアアアアアアアアアッ!!」
 優雅な仕草で取り出した琵琶を、地面に落ちていたバナナに叩きつけようとするがすんでのところで思いとどまる。
 なぜならここはゴリラで満ち満ちている。
 ゴリラは紳士的な生物。理不尽な怒りを見せはしないのだ。
 ドゴドゴと掌を地面に打ち付け、綿菓子もナックルウォーク友の会に加入。入会申請書は必要ないんです。
 5頭と1体でぐるぐる回るうちに、綿菓子も新たな境地へと辿り着く。
 弾けぬなら、叩いてしまえ、ドラミング。
 打つという原始的な演奏法を以てして、綿菓子は祇園精舎を奏でる。
 それは、先ほど潰されかけたバナナを拾いに来た法華の手が止まるほどに、純日本風な調べ。
 とはいえそれも一瞬。法華はすぐにバナナを回収し、もぐもぐむしゃむしゃ。
 法華の頭の中はバナナのことでいっぱいなのだ。字数で表すと200文字分くらい。
 落ちていたバナナはバナナイーターのものではなく、藤のビニール袋からぽろりしたものである。
 ラッキースケベならぬラッキーバナナってやつだ。
「ふむ、最近の若者の男性は最高級バナナを持ち歩くのが流行しておるとは知らなかったのじゃ」
 ウィゼ、髭を扱きながら見学の構え。
 その流行を知っているからバナナイーターは男性を狙って襲うのだろうなどど持論を述べ、ゴリラとバナナを眺める。
 バナナイーターはゴリラに怯えながらも、精一杯あはんうふんと色仕掛けを試みるがゴリラ達は己のゴリラ魂を高めることで歯牙にもかけない。
 おっぱいをゴリラでブレイクしている訳だ。
 そうこうしてる間に魔の3分間が終わりを告げる。
「そろそろじゃな」
 万が一にも一般人の目に留まらぬようにと、ウィゼが特殊なバイオガスで戦場を覆う。
 それを合図に、ゴリラ達は一斉に獲物へと跳びかかった。

●ゴリキックアブソーバー
 穏やかな鈴音ゴリラはもういない。
 今、ここにいるのは穏やかな鈴音ゴリラ(そっと激しい怒りを添えて)である。
「愛する者を守るため、私は闘いますゴリッ! ホオオオオオオオオオウッ!!」
 人間としての尊厳を墓場に送ってゴリラの力をどうのこうの。
 色素の薄い、見るからに弱い方のバナナイーター(以下、ばなないーたー)をゴリラの足(着ぐるみ)で貫く。
 ゴリイィィィィィィッ!!
 ……という打撃音は自分で叫んで演出。勿論、森の賢者たるゴリラ達は1頭たりともツッコみませんとも。
 ゴリリ、ロウガは黄道十二星座の星辰を宿した剣――ゾディアックソードを抜き放ち、口を開く。
「バナーナパ――」
「それ以上は駄目っ! 『そこ』は迂闊に触れるの無茶苦茶危ないって、おばあちゃんが言ってた!」
 鬼気迫る皐月がやらせるものかと声を張り上げた。デリケートゾーンどころかデンジャラスゾーンらしい。
 ただならぬものを感じ、ロウガは言葉を飲み込む。
 代わりに紡ぎ出すものは己の技への調べ。
「ゴリリ、ウホホ――ホーウッ、ホウ!! ゴリィ!! ウホゴリウホホホホーーー!!」
 訳『時の秩序、闘いの調和――乱し刻む我が剣戟、この世に断てぬ退路無し!! 受けよ!! 時を切り開く活殺の刃!!』。
 居合いは空ぶるも、刃が生んだ衝撃波がばなないーたーに襲い掛かる。
「い、いやっ! 何から何までゴリラなんて、そんな雄嫌ぁぁぁぁぁぁ!」
 悲鳴を上げるバナナ弱イーターの視界に、さらにヤバいゴリラの姿が飛び込んだ。
「バナナバナナバナナバナナバナナバナナバナナバナナバナナ」
「バナナ以外の私を見てええええええええええええええええええええええっ!!」
 四足歩行で迫る法華。バナナへの愛が、その執念が。彼女をばなないーたーへ走らせる。
 ゴリラにとってバナナイーターは無限バナナの樹も同然。
 法華が生んだ銀色の蟷螂型ローカストの幻影が、静かに放った殺気がばなないーたーを刻む。
 完全に怯んだばなないーたーを支援すべく、バナナイーターがバナナをシュート!
「バナナァァァァァァァ!」
「「ひぃぃぃぃぃ!?」」
 重なる悲鳴。
 藤めがけて投げられたバナナに食らいつくべく、法華は跳んだ。
 バナナへの愛ゆえに、ゴリラは狂う。バナナがざしゅざしゅとその身を斬り裂くが、勢いを失ったところをがぶりんちょ。一心不乱でバナナを食べる姿は、例えチンドンスタイルでも間違いなくゴリラ。
 黒い戦闘服に身を包んだ藤の姿も、やはり間違いなくゴリラ。
「ゴリイイイイイイッ!」
 藤の視線がバナナイーター達を射抜く。
 2体は本当になんで逃げないのかさっぱり分からないレベルで怯えきっている。
 いや、違う。
 逃げないのではない。逃げられないのだ。
 何故ならば――。
「バナナにゴリラを食べることなんて出来ないっす。バナナは、何があってもゴリラに食べられる存在なんっすよ!」
 そう、圧倒的なゴリラの前にバナナは無力。
 逃げる力さえ奪われてしまうのかもしれない多分きっとそうそういうことにしとこう。
 バナナの皮をばら撒くばなないーたーだが、皮が落ちた瞬間、愕然とした。
「バナナが……!?」
「ふぉふぉふぉ」
 唯一の人類の笑い声が響く。
「ようやく気がついたようじゃの、お主のバナナの異変にの」
 隙を突いて、敵の武器に小細工を施し威力を鈍らせる。それがウィゼ独自の技。
 この敵の武器はバナナ。
 つまり、バナナを何本か失敬してもぐもぐしたというわけである。
 ナックルウォークで戦場を駆ける五六七、ふと思う。
 ゴリラが苦手なバナナということは。
「ゴリッ、ホホホウ、ホオオオオオウッ!」
 訳『迂闊にバナナしていたらゴリラ的なゴリラにゴリラされたような事なんかがあると見たっす。ゴリ同人誌みたいに! ゴリ同人誌みたいに!』
 ドコドコ胸を叩いてたら胸部が変形してなんかがビーっと出た。
 コアブラスターってやつである。ゴリラブラスターではない。
 なお、戦闘BGMは千里・雉華が担当している。
「ッンンホッッ、ンンホッ、ッンンホッ、ンンホッ、ッンンホッ、ンォンォンォ、ンォンォッァァァアアア」
 ゴリ心をくすぐる実に素晴らしい歌声である。
 言うまでもなく、ポコポコポコポコとドラミングでビートを刻んでいる。
 ゴリラの戦場でこれ以上のBGMを望めるだろうか、いやない。
 戦争における士気高揚を目的とした音楽を軍楽というならば、これはゴリラ楽といえるだろう。
 日柳・蒼眞もバナナを要求するゴリラとしてぽこぽこと。
 バナナを渡せと言わんばかりの無言の、それでいて雄弁な視線という圧力。
 そうこうしている間にばなないーたーがばたりと倒れた。
 地面に『ごりら』というダイイングメッセージらしきものが書かれているが、何故そんなものが書かれたのかは誰にもわからない。
 これがゴリラの狩りなのだ。
 ゴリラの狩りは弱いものを見定めるところから始まる。ゴリラは基本的には草食だとかそんなことは些細なことだ。
「ウホッホホホッ!」
 ダンッと綿菓子がゴリラに相応しい跳躍を見せた。灼熱を纏う黄金の右足がバナナイーターのおっぱいにどごんっと。
「っ、せ、せめて、ちゃんと話して……!」
「ホウッ!」
 訳『必要ないわね』。
 綿菓子含め、何頭ものゴリラが高度な意思伝達手段である言語を封印あるいはオミットしている。なんという野生。
 おっぱいは柔らかく、全てを包む母性の象徴。
 だけどガッて力入れられたら無茶苦茶痛い部位だ本当に痛い。
 だからこそ、魔法少女ゴリずむルーチェは慈愛に満ちた笑みを浮かべて見せた。
 ゴリラ着ぐるみのルーチェを包んでいたオウガメタル『ラスター・ルイテン』はいわばメタルゴリラ。
 そのメタルゴリラがバナナイーターの自由を奪う。
「嫌、ゴリラは嫌っ! 男じゃなくてもいいからせめて人間にしてっ!!」
 ふわり、ルーチェが抱き着いた。ぎゅーっと、ぎゅぎゅーっと、魔法と書いて力技でぎりぎりと。
「大丈夫です、あなたにも私の愛のパワーは届きます! 植物とて自然を生きる命なのだから……」
 ゴリラと同じように。
 そう囁くと、ルーチェはベアバッグじゃなかった魔法少女のハグでやさしく、やさしーーーーーく粉砕してみせたのだった。

「ば、バナナー!!」
「ホオオオオウッ!?」
 皐月のガントレットがバナナに見えて来たらしく、ガントレットにかじりつく法華。
 一心不乱にビニール袋のバナナを貪る藤。
 ルーチェも木に登り、森に還る準備は万全だ。
「何なのだこれは……」
 荒れた戦場をヒールするロウガは、この惨状に呆れ返っている。
「これは山河おねえに、ゴリラ暴走者救出作戦の予知をお願いするしかないのう」
 髭を扱きながらのウィゼ。
 きちんと二足歩行に戻り、優雅な仕草から人間らしさを感じさせる綿菓子がこくりと頷いた。
「ウホ、ウホウホウッホウッホホ……ホギャッギャッ……!」
「ホウ、ゴリホウッ!」
 愛する者を守って見せた鈴音が天高く燃える太陽を指さすと、ゴリラ達は一斉に走り出した。
 ゴリゴリしながら己の住処へ戻る為に――。

作者:こーや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 33/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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