エリート忍、月下に相対す

作者:七尾マサムネ

 ある月の見える夜。
 大企業グループ『羅泉』の代表取締役社長、鈴木・鈴之助は、新たな指令を下していた。
「螺旋帝の一族が、都内に潜伏しているとの情報をつかんだ。お前達超エリート社員は、豊島区をしらみ潰しに捜索。万一、妨害が入るようならば排除せよ。『超』エリート社員の名に恥じぬ働き、期待している」
「承りました」
 社員達は、明瞭な応答と共に、闇の中へと消えていった。

 同じ月の下、テング党を統べるマスター・テングも、同様の指令を下していた。
「我が精鋭、シタッパ・テングズ達よ。次代の螺旋忍軍の期待の星たるお前達を見込んで、豊島区の探索任務を与える。目的は、降臨された螺旋帝の一族の発見。その元に最初に参じるのは、我がテング党を置いて他にない。他の忍びなど蹴散らしてしまえ!」
「ハハーッ!」
 急角度のお辞儀と共に、シタッパ・テングズが夜の街に出撃した。

 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)により、東京都心部において、螺旋忍軍の新たな動きが察知された。
「今回は、豊島区での、大企業グループ『羅泉』とテング党のぶつかり合いを阻止して欲しいんす」
 忍軍同士が街中で力を振るえば、周囲の一般人や建物への被害は不可避。食い止めなければなるまい。
「『羅泉』とテング党が決着した後に介入すると、被害が大きくなりすぎるっす。それに、両者のダメージが大きくなっていると、手を組んでケルベロスを攻撃してくるかもしれないっすから、介入タイミングは慎重に決めて欲しいっす」
 敵が連携しないよう工夫した上で、片方ずつ撃破していくのが理想的だろう。
 2つの勢力がぶつかるのは、豊島区は池袋、高層ビル周辺である。基本的には屋外での戦いだと考えていいだろう。
 『羅泉』の超エリート社員は、4名。エリートと言っても、実際は社員の中でちょっと飛びぬけた感のある平社員にして雑用兵。簡単に代えが利くことをわかっているため、任務に失敗して評価を下げられる事は避けたい様子。螺旋忍者、そして螺旋手裏剣のグラビティを得意とする。
 一方、テング党のシタッパ・テングズは、6名。天狗面の忍者で、下っ端と言いながら、優秀さを買われてスカウトされたシノビメイツだというからあなどれぬ。手を組むのなら、高めのプライドを傷つけぬように言葉をかけるのが有効だろう。なお、螺旋忍者と日本刀のグラビティの使い手だ。
「抗争の理由を詳しく知りたいところっすけど、今回の相手は下っ端。たとえ知っていたとしても、腐っても忍び、口を割るはずもないっす。今回は、調査よりも戦闘を優先させてほしいっす。よろしくっす!」


参加者
マイ・カスタム(レアリティは星二弱・e00399)
日色・耶花(くちなし・e02245)
黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)
池・千里子(総州十角流・e08609)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ホルン・ミースィア(超神聖合体ホルン・e26914)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
カリン・エリュテイア(白花舞踏曲・e36120)

■リプレイ

●同盟のお誘い
「螺旋忍軍が忍びもせずに争おうとは……厄介極まりないですね、色々と」
「何を企んでいるかは知らないが、それが我々人類に仇なすものならば全力で阻止するまでだ」
 黒江・カルナ(黒猫輪舞・e04859)や池・千里子(総州十角流・e08609)が、しのばぬ忍の姿を求め、夜の池袋を行く。
「螺旋忍軍同士の抗争なんて、ホームグラウンドでやってほしいね。地球で……人の庭で暴れるのは礼儀に反するよ」
 仲間に相槌を打ちながら、レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)は、初任務の緊張で体をこわばらせるカリン・エリュテイア(白花舞踏曲・e36120)をそっと励ましていた。
「わざわざ定命化する地球でやらなくても自分の母星でやればいいのにね」
 マイ・カスタム(レアリティは星二弱・e00399)がぽつり呟く先、相対する2つの忍軍の姿が見えてくる。
 街並みに違和感のないスーツ姿の社員……『羅泉』。
 一方、違和感バリバリ、テング面……テング党。
 二者は、今まさに一触即発の様相。
「さあ始めるわよ……こちらリリー、天狗は地に伏せた」
 つい最近も訪れた街並みの中、リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)の合い言葉を受け、ケルベロス達が介入を始めた。
「テング党、恐れるに足らず。真に優秀な者が『シタッパ』を名乗るものか!」
「『羅泉』だか知らぬが、使い捨ての超エリート社員とは笑わせてくれる!」
 テング党のシタッパ・テングズから放たれた螺旋の秘技は、しかし虚空にて跳ね返される。
「何奴!」
「趣味で忍者やってる様な連中がビジネスマンに刃向おうなんて。少しは経済活動に貢献しなさい! 故に、義によって助太刀するわ、『羅泉』!」
 月を背に、高所より降り立つリリーに、両忍軍の視線が集中した。
「『羅泉』のオジサン達、こんばんわっ! 協力するよっ!」
 こちらは、元気に超エリート社員の側に立つホルン・ミースィア(超神聖合体ホルン・e26914)だ。
「まだオジサンではない!」
「えっと、なら……その、おにーさん? で?」
「……まあ、いいだろう」
 いいらしい。
「ケルベロスが我々に手を貸すと言うのか」
「俺達は一般人に被害を出すのは避けたい。高飛車なテング党には話が通じない、その点効率主義のキミたちとなら協調できると踏んだ」
 不信に満ちた視線を向ける社員に、レスターが答えた。『羅泉』は効率を重んじるエリート集団。成果さえ上げられれば、余計なトラブルは避けたいはず。
「そう、お前たちは他の忍軍とは違い、話のわかる者のようだからな。いたずらに事を構えて目的を達せないのは、双方にとって得策ではない。ここは共にテング党を排除しよう」
 千里子の説得に、顔を見合わせる社員達。この件は一度持ち帰って上司に……などとのんきな事を言っている場合ではなさそうである。
「私達の任はあくまでこの騒ぎを早く収める事。ご協力頂けるなら損はさせませんし、邪魔もしません」
「それに、多勢に無勢は気に入らないわ」
 相手に迷う隙を与えず、カルナや日色・耶花(くちなし・e02245)も説得の波状攻撃。
 耶花は、自分と同じ社員という境遇に親近感が……というわけでもない。別に。

●ケルベロス・ニンジャ・ユニオンVSテング・クラン
「お仕事を効率的に成功させたいのなら、折角のチャンスは貰わなきゃ損やと思うんよ」
 カリン達の言葉に含まれた、損得を匂わせるフレーズに、社員達は心動かされたか。
「ケルベロスと螺旋忍軍の共闘、ニンジャ・ユニオンというわけだな」
「いい響きだ。そうだな……今夜、我々は出会う事はなかった。『そういう事』でいいな?」
「今夜の共闘はお互いの胸に秘めて、って事か。了解したよ」
 マイが頷き、アームドフォートの砲口をシタッパ・テングズに向ける。
「ケルベロスの助力を請うとは、しょせんは代わりの利く社員風情よ」
 シタッパ・テングズの1人が、鼻で笑い飛ばした。
 その『代わりの利く』という部分に、プライドを傷つけられたのであろう。超エリート社員達は、一斉に攻撃に転じた。
「ガンバローね、おにーさん達!」
 鎧装を展開し巨大化したホルンが、ヒールドローンを起動させる。
「ここで失敗しちゃったら大変なことになっちゃうんでしょ? 大丈夫、ボクがちゃんと守るよっ!」
 ……テング党を倒すまでだけど。
 テング党の斬撃が、氷の波動が。そして『羅泉』の手裏剣が、戦場を飛び交う。
 隣に立つ仲間を護り、眼前に立つ敵を葬ることこそ自らの務め。今は『仲間』である超エリート社員達へと、千里子が、命を吹き込まれた紙の兵達を飛ばす。
 刀傷を受け、地面に転がる社員を見たカリンが、気力溜めで癒す。
「礼は言わん」
「いいんよ、そんなの」
 むしろ話しかけられると、こちらの目論見がバレていないかと、冷や冷やしてしまうカリンである。
 そして、『羅泉』や仲間と狙いを合わせ、力を振るうカルナ。
「罪無き人々を巻込む真似を、許す訳には参りません。その鼻、折って差し上げましょう」
 放ったカルナの幻竜が、後方にいたシタッパの1人を炎で焼き尽くした。
「この調子で、さっさと片付けちゃいましょ、オジサマ」
「オジサマ……サマならまだいいか」
 エリート社員と背中を合わせるようにして、リリーが鎌を投じる。
「螺旋忍法殺刃術! 尖風刃!」
 死を運ぶ刃が、テング面を襲う。
「おのれ」
「ぬ、これは忍犬ならぬ忍猫かっ!? 回復などさせぬ!」
 シタッパが追い払ったのは、ホルンのウイングキャット、ルナである。
 交渉は仲間に任せていた分、戦闘では皆以上に力を振るわせてもらう。跳び回る敵を、マイのゴーグルのモノアイが捉える。
「そこだ!」
 火を噴く主砲。見事敵の体を貫通し、爆発四散させる。
「ケルベロスなど何するものぞ!」
 テング党の凶剣が迫る。だが、それを受けたのはホルン。
 その巨体の背後から急襲をかける『羅泉』のクラッシャー。掌に集めた氷の気を相手に叩きこみ、これを討ち取った。
「むむむ、優秀なシノビ・メイツである我らが任務を果たせぬなど!」
 強がったところで、シタッパ・テングズの劣勢は変わらぬ。
 シャーマンズゴースト・カジテツの爪撃をかわしたものの、耶花の開いた胸元が、テング党の視線を釘づけにした。断じて下心ではない。そこに宿る破壊の力のせい。
 耶花の光線に飲み込まれたシタッパが、その命を異星の地に散らす。
 その後方では、レスターが、スナイパーと攻防を繰り広げていた。
 相手の動きを見切ったところで、バスターライフルのトリガーを引く。砕けたテング面が、虚空に舞った。

●急襲
 当初は『羅泉』に数で勝っていたシタッパ・テングズだったが、ケルベロスと『羅泉』共闘軍の前では、多勢に無勢。
 リリーの螺旋の舞に導かれた磁気嵐に五体を封じられ、シタッパ・テングズ、最後の1人が散華する。
「障害の排除、完了……次会う時は敵同士だ。ケルベロス達よ……ってぐあああっ!?」
 言い捨て立ち去ろうとするエリート社員の胸を、一条の光が貫いた。
 軌跡をたどれば、ホルンのバスターライフルの銃口が、魔力の残滓を帯びていた。
「お……のれ……!」
 どさり、倒れる同士を目の当たりにして、エリート社員達がすかさず身構えた。
「汗臭そうな天狗よりはマシだけど、ココからでも臭うよ? その加齢臭」
 意図して挑発めいた言動を取るホルンに、エリート社員達が牙を剥く。
「ゴメンなさい、アタシ達も仕事なんでね……『義』によって助太刀したけれど、『偽』によって返り討ちよ!」
「申し訳ないけど、見逃したら後々怖いし」
 応戦するリリーに続き、素直に謝るカリン。
「まあいい、テング党は排除できた。あとはケルベロスさえ始末すれば、昇進間違いなし!」
「ニンジャ・ユニオンという響きはよかったがな!」
 スコールの如く降り注いだ手裏剣が、ケルベロス達の攻勢を刹那、抑えると、更に様々な手裏剣が降り注ぐ。
「っ……まだまだ!」
 手裏剣に仕込まれた毒を受けても、余裕を崩さず、マイがアスファルトの上を駆ける。
「マイちゃん、よろしくね」
 高速回転した耶花の腕が、社員のガードを崩すと、マイの五指がその顔面をわしづかみにした。
「……ファイア!」
 直後、肩部のミサイルが爆発。その衝撃をまともに受けた社員が吹き飛ばされ、ビルの壁面にその身をうずめ、動きを止めた。永遠に。
 後方では、カリンの歌声に誘われた魂の欠片が、仲間達に癒しと加護を与える。
「おのれ、テング党と同じ末路をたどるわけには!」
「我等に失敗は許されない! ……リアルに」
「リアルに」
 切羽詰まったものを若干にじませながら、社員達は、ケルベロス後衛に狙いを定めた。 遠距離攻撃はお手の物、回復してもらった恩など関係ない。
 だが、カリンを狙う社員の手裏剣を阻むべく、レスターが銃撃を加える。
 弾丸から逃れようとした社員の動きが、一時、止まる。振り返れば、影を黒い猫が押さえているではないか。
 カルナの呼び掛けに応じて現出した猫の幻影……それを振り払おうとした一瞬が、命取り。千里子が懐に入るのを許してしまう。
「慄くがいい。お前がその目に映す最期の存在が、私の拳だ」
 社員の体を、連打が揺さぶる。
 千里子自身の姿が変わるわけでも、オーラをまとうわけでもない。だが、秘められし力ゆえに禁忌とされる技が、超エリート社員をまた1人、闇へと葬り去ったのである。

●最後に笑うものは
「もうオジサマ1人だけよ! バーニングエルフキィィック!」
 リリーの繰り出したキックをかわせぬと判断したか、社員は両腕をクロスさせ、ガードする。
「ま、待て、先ほど我々の傷を癒してくれたのを忘れたのか」
 追い詰められたエリート社員が、突然何か口走り始めた。
「知っているぞ、お前達ケルベロスはデウスエクスに対しても慈悲のあることを。我々を攻撃するのも本心ではないのだろう?」
 良心的なものに訴える作戦に出た超エリート社員に、迷う素振りのカジテツ。どうするべきかと振り返った耶花は、首を横に振っていた。
「喧嘩両成敗よ。人のいる所で暴れるなんてお行儀が悪いわ」
 主がそういうのなら是非もない。カジテツが炎をお見舞いした。
 そして、耶花の狙いすました一発の弾丸は、身軽さが売りの忍者さえも逃さない。
「確かにおっしゃる通り、良心が痛む様な気もしますが、敵は敵。貴方達のお仕事は私共が引継ぎます――安心して、お休みなさい」
 幻影を巧みに操りながら、カルナが告げる。容赦なく社員を包み込むと、その肉体を焼く。この痛みは、幻などでは、ない。
 そして、絶好のチャンスを得て、レスターがカリンに視線を送った。さすがは旧知の間柄、その意味するところはすぐに伝わった。
 顔右半分に浮かぶ刺青。レスターの魔弾が敵を追撃し、これまでに受けた炎や氷を増幅させていく。
 その時既に、カリンの両腕の刺青も、地獄を帯びている。
 炎で構築された花弁が、社員にまとわりつくと、爆炎で飲み込んだ。街に咲いた熱の花は、肉体のみならず影さえも焼き尽くしたのである。ケルベロスの、勝利だった。
 戦いの終結を確認すると、ホルンが鎧装を解除し、元のちみっこ状態に戻る。
「なんとか初仕事、成功させられたようやね」
 一気に脱力するカリン。目立った傷もないようで、レスターも一安心である。
 傷ついた街並みは、カルナやリリーがヒールしていく。
「こんな事が続かぬように……私達も警戒と捜索に尽力しましょう」
 カルナは思う。新たに忍軍が現れようとも、必ず食い止めてみせると。
「それにしても、螺旋帝ね……裏切り・謀略待ったなしの螺旋忍軍にも尊重すべき権威があるってのが不思議なものだけど」
 マイがつぶやくそばで、目を伏せる千里子。
 それは、僅かな間とはいえ、共闘した『羅泉』への敬意。
(「その死を哀れみはしない。ただ、冥福だけを祈る……それだけだ」)
 激化する螺旋忍軍同士の争い。それはやがて、新たなる段階を迎えることになる。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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