五月病事件~卑小、矮小、些末な自分が生きている意味

作者:質種剰

●無気力な日々
 アパートの一室。
「はぁ……」
 鳥貝修二は、平日であるにもかかわらず布団の中でダラダラしていた。
 今年、第一志望の大学へ合格、念願の独り暮らしを始めたにもかかわらず、最近はキャンパスへとんと足が向かない。
 大学をズル休みする自体は、人によっては普通の事だろう。
 だが、修二の場合、『ズル休みして得た時間でやりたい事』が無いのが問題だった。
 友達とフェスやイベントに行くわけでもない。
 家にこもってゲーム三昧に勤しむわけでもない。
「……俺は何の為に生きてるんだろう……」
 ぽつりと呟く。
「必死に勉強して大学に入ったところで……講義が特別楽しくもない、彼女もできない、やりたいサークルも見つからない……」
 修二はぼんやりと天井を見つめたまま、嘆いた。
「何もかも面白くなくなってきたし……俺なんて生きる価値無いんじゃねーかなぁ……」
 やけに厭世的な思考ばかり浮かべている彼は知らなかった。いつの間にか自分の心を五月病が蝕んでいる事など。
●恐ろしい病気
「ゴールデンウィークも終わりましたが、世間では五月病が大流行しているようであります……誰しも生きる意味を見失うことは起こり得るでありましょうからね……」
 小檻・かけら(藍宝石ヘリオライダー・en0031)が、黒猫のぬいぐるみを抱えたまま話し始める。
「アイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)殿をはじめとした、多くのケルベロスの方々が調査なさった所、五月病の病魔が大量に発生していると判明したのでありますよ」
 五月病が病魔のせいであるなら、ケルベロスの手で討伐しない事には患者の完治を望めない。
「そこで、皆さんには、五月病の病魔の撃破をお願いしたいのでありますよ」
 ぺこりと頭を下げるかけら。
「五月病の病魔に侵されている患者さんは、大学へ行かずアパートの部屋に閉じこもってますが、意識はありますので普通にご自宅を訪ねれば会えると思うであります」
 ご本人が居留守を使う場合もありますが、鍵を壊して踏み込んでも大丈夫でありましょう——かけらはにっこり笑顔で断言した。
 五月病の患者へ接触した後は、参加者にウィッチドクターがいれば、患者から病魔を引き離して戦闘を行う事が可能だ。
「ウィッチドクターがいない場合でも、現場の地域の医療機関に協力しているケルベロスのウィッチドクターが臨時にお手伝いして下さいますので、どうぞご心配なく♪」
 今回倒して欲しいデウスエクスは、その五月病の病魔1体だけである。
「五月病の病魔は、頭に生えた2本の角を活かして、『世界拒絶タックル』をお見舞いしてくるであります。竜爪撃によく似た攻撃です」
 また、『ブチ切れ癇癪』という尻尾を振り回した斬撃も見舞ってくる。テイルスイングにそっくりだが射程はあちらよりも長い。
「更には、『深淵具現』……割れた鼻提灯の中から黒いオーラを拡散してダメージを与えてきます。惨劇の鏡像に似ていますが、理力に長けているのが特徴であります」
 そこまで説明して、彼女なりに皆を激励するかけら。
「五月病は、怠けているだけという誤解をされやすい病気であります……ケルベロスの皆さんが病魔を撃破して五月病を治すことで、その誤解が解ければ良いでありますよねっ♪」
 そして、被害者へのアフターフォローについても、ひと言つけ加えた。
「五月病は再発しやすい病気のようであります。可能ならば、病魔撃破後は、救出なさった患者さんのお話を聞いてあげるなどして、再発しないようフォローなさると良いかもしれません」


参加者
キーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080)
星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)
ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)
篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)

■リプレイ


 年季の入ったアパート。
「自宅警備員なボクでも本当に何もやる気がない時はあんまりないから5月病としては重傷だよね」
 アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)は、そんな分析をしつつアパートの管理人の部屋へ向かう。
 さらさらした金のロングヘアと赤い瞳が愛らしい、ぼんやりとしたオラトリオの少女。
 その容姿はまさに人形みたいな可愛らしさだが、自分から動きたがらない性質らしく、余計に人形っぽく見える。
 ミミックのボックスナイトの役目はそんなアストラのお目付け役で、彼女がサボろうものなら容赦なく噛みつく、因果な性分である。
「あ、管理人さん? ボクね、鳥貝さんに用があって。良かったら部屋の鍵を貸して貰えないかな?」
 今も、ボックスナイトに尻を叩かれながら、管理人へ懸命に頼み込むアストラ。
「はいはい、鳥貝さんの知り合いの方ですか?」
 プラチナチケットの効果もあってか、管理人の婦人は愛想良く応対してくれた。
「実は、鳥貝さんと知り合いでは無いのですが……私達、こういう者でして」
 と、上品な所作でケルベロスカードを取り出すのは、キーラ・ヘザーリンク(幻想のオニキス・e00080)。
 腰まで届く絹糸のような銀髪と妖艶な光を湛えた金の瞳が美しいオラトリオの女性で、藍色のフードとロングドレスがよく似合っている。
 占い師として日銭を稼いでいたが、彼女自身は占いを人を救う為でなく人間観察の手段と考えているのだとか。
「まぁ、ケルベロスの方」
「ええ。鳥貝さんのお部屋の鍵を拝借致したくお願いに参りました」
 そんな姿勢もあってか、物静かな雰囲気に違わず人へ比較的淡々と接するキーラだから、表情の変化も少ない。
「そうなんです。五月病の病魔に冒された方を助けに来まして」
 霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)も、礼儀正しい彼らしく深々とお辞儀、丁寧に事情を説明している。
 漆黒の髪の下から覗く青い瞳が理知的な光を放つ、整った顔立ちの鹵獲術士の若者。
 見た目に違わず性格も穏やかだが、意外とマイペースな一面もある。
 力を扱う際には冷静・冷徹な思考を心がける寡黙な男だが、同時に己の中では狂気が囁いているそうな。
 独り暮らしをしつつケルベロスと高校生活を両立していたが、遂に3年生となった現在、進路について悩んでいる模様だ。
「あ、それと、駐車場とかありますか? もしおありでしたらそちらもお借りしたいのですが」
 そう続ける和希。アパートの室内で戦わずに済むよう、患者を先に駐車場へ移してから、病魔召喚を行うと皆で決めていた。
「駐車場がなければ、代わりに、近くで戦場として使えそうな広い場所を教えてくれないか。患者の部屋で戦う訳にもいかんのでな」
 加えて、エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)が、凛とした風情で補足する。
 吊り目がちなサファイア・ブルーの涼やかな瞳に、長く伸ばしたハニーブロンドの髪が華やかさを添えている、オラトリオの女性。
 髪に咲いた薔薇や背から伸びた一対の翼は眩しいほど白く、彼女の気高い雰囲気に拍車をかけていた。
 豊満な身体にフィットして冴えた輝きを放つ銀の鎧も、まるでエヴァンジェリンの騎士道精神を体現しているかのようだ。
「どうぞ、鳥貝さんの部屋の鍵です。駐車場は右の自転車置き場から」
 管理人から鍵を借り受けた8人は階段を昇って、いよいよ鳥貝の部屋の前へ立つ。
「五月病にも病魔っているんだな……」
 ドアノブへ掛かったままの回覧板や郵便受けからはみ出した新聞の束を見て、思わず呟くエヴァンジェリンだ。
 ぴんぽーん。
「鳥貝さーん、宅急便ですー!」
 とりあえずは、星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)が、宅配業者を装って声を張り上げる。
 豊かな青い髪と煌めく瞳が可愛らしい、巫術士の少女型レプリカント。
 白と青のボディスーツの上から義父の形見だという白衣を羽織った姿が、彼女の清楚な雰囲気を高めている。
「ボク自身も断片的にしか覚えてないんだよねー、病魔。ダモクレスだった頃、なんとなく地球侵略の妨げになったよーな?」
 返答を待つ間、ユルは小首を傾げて、失った記憶を探る。
 今回蔓延した五月病の病魔に対して2種類もの出現を予感していた為、この依頼にかける想いも人一倍強い。
「鳥貝さーん、お荷物届いてますよー」
 篁・メノウ(わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903)も、こんこんとドアをノックして言い募った。
 茶色いツインテールと黒く円らな瞳が特徴的な、球体関節ドールの如き外見をしたレプリカントの少女。
 性格は天衣無縫で天真爛漫、基本的に考えなしで猪突猛進する、言うなれば我が道を行く系女子である。
 その一方、年齢に似合わぬ大人びた考えを持ち、子どもらしからぬドライな対応をする事も少なくないようだ。
「いらっしゃいませんかー? これ、マジで出てこないっぽいなぁ」
 メノウは生来の人懐こさもあってか、物怖じせずに声をかけ続けている。
「やれやれ……まさかとは思っていたが、出ないな」
 ベルンハルト・オクト(鋼の金獅子・e00806)は、深い溜め息をついて肩を竦めた。
 暖かな色味の金髪と思慮深い趣の黒い瞳が印象的な、地球人の少年。
 性格は実年齢に反して大人っぽく、情に流されぬよう感情も抑えてクールに装っているが、いかんせん未熟な面も残っている。
 年頃の少年にしては素直に他人の意見を聞き入れ、自分のものへ昇華しようと努めているが、その分、柔軟さに欠ける所もあるとか。
「仕方ない。鍵を使うぞ」
 部屋の主がうんともすんとも言わないのへ焦れて、借りた鍵で侵入するベルンハルト。
「あ~あ……男の独り暮らしって感じはしますけど……まだ大学生でしょう?」
 室内の惨状に思わず呆れるのは、妹島・宴(交じり合う咎と無垢・e16219)だ。
 万年床の周りにお茶やスポドリのペットボトルが散乱し、空のカップ麺容器が積み重なっているのだから無理もない。
 それでいて、部屋の隅にあるゴミ箱がティッシュで溢れている事はなかった。
「今年もまた流行るとは思っていましたが……五月病……しぶとそうですね」
 宴は納得顔になって、万年床の主、鳥貝を見やる。
「誰?」
「ケルベロスですよ。寝たままでも良いですけど、その代わり暴れないで頂けますか?」
 そう笑顔で説明するや、状況を飲み込めない鳥貝を、和希、ベルンハルト、宴の3人で抱え上げる。
 なんとか鳥貝を駐車場まで運んで、病魔召喚の準備完了。
 周囲の一般人やアパートの住人に対してはメノウが剣気解放して、野次馬等が容易に近づいて来ないよう無気力に仕向けた。
 ユルも立入禁止テープを駐車場の出入口に張って封鎖する。
「では……」
 黒衣の誘い手を羽織る宴——メノウが施術黒衣をうっかり忘れてきた故の代打である。
「さ、病魔よ、その姿を現せ! って言いたかった……!」
 密かに地団駄踏むメノウだ。
「姿を見せなさい、五月病の病魔……」
 宴は少し迷ってから、患部を頭と心臓と見定め、手を当てて念じる。
 程なくして、真っ黒な胴体に臨時休業の白抜き文字が浮かぶ『牛型の五月病の病魔』が、姿を現した。
「五月病にも色々種類があるみたいだから、取り敢えず病魔ヤスモーとでも名付けとく?」
 ユルの提案に、皆異論なく頷いた。


 五月病の病魔もとい病魔ヤスモーは、患者の体内から引き摺り出されてご立腹なのか、早速長い尻尾をがむしゃらに振り回してきた。
「仲間は守る。俺がどうなろうともな」
 すかさずベルンハルトがアストラを庇って、代わりにダメージを受ける。
「さぁ、いこうか……」
 エヴァンジェリンは自らを奮い立たせんと呟くや、高速演算を用いて見抜いた病魔ヤスモーの構造的弱点を、痛烈な一撃でぶち抜いた。
「病魔の牛さんは焼いてもあまり美味しくなさそうだし、みんな、頑張って倒してね!」
 と、手にしたスマホからコメントの弾幕を超スピードで送信するのはアストラ。
 大抵は仲間の応援や助言なのだが、当人曰く役に立たなかったり、煽りコメントも多いそうなので鵜呑みする前に注意した方が良いとの事だ。
 ボックスナイトも、エクトプラズムで具現化した白銀の剣で斬りつけ、病魔ヤスモーの動きを鈍らせた。
「Die Welt, die sich erhebt」
 ベルンハルトは、病魔ヤスモーの力の片鱗を吸収し自らの糧とする事で、先程の打撲を癒して体力を回復させる。
 病魔ヤスモーとの戦いは熾烈を極めたが、それでも鳥貝が戦闘を恐がる様子もなくぐったりと寝たままなのは異様であった。
「牛の姿してるとなんか複雑な気分ですねーっ」
 何とも言えない微妙な表情をしつつも、刀身にグラビティの雷を帯びた紫電を振るうのは宴。
 飛ばした雷刃は電光石火の速さで病魔ヤスモーを追尾、牛の顔面へ見事命中した。
「清き風、邪悪を断て! ――回復術、”禍魔癒太刀”!!」
 メノウは斬霊黒刀 夜一文字を正眼に振り下ろして真空の刃を発生。
 病魔ヤスモーの頭からバッサリと斬り裂いて、激痛を齎した。
「――動くな。壊せないだろうが」
 異形の術式が蠢き産み堕とした蒼い魔法剣を操るのは和希。
 禍々しく揺らめく複数の片手剣は狂気を囁きながら病魔ヤスモーへ殺到。寸胴の身体を侵徹し、呪詛を染み込ませ容赦なく蝕んだ。
「Is de tijd van het oordeel……」
 タロットから引いた『審判(XX)』に念じるのはキーラ。
 遠くの空より呼び捨てた裁きの雷を、病魔ヤスモーの頭上へと的確に落とし、焼けるような強い痛みを与えた。
「我が魔力、汝、太陽の恩恵を受けし御身に捧げ、其の聖剣を以て、我等が軍と理想を守らん!」
 殆ど同時に、数々の戦場で聖剣を振るい敵を退けた忠義の騎士のエネルギー体を、一時召喚するのはユル。
 騎士の鑑と言われた忠節を何よりの力に、太陽騎士は病魔ヤスモーの巨体を聖剣で打ち砕き、遂に奴へトドメを刺したのだった。
 黒い靄のように、暑い空気へ融けて消え逝く病魔ヤスモー。
 仲間達はそれぞれ、戦闘で荒れた駐車場のヒールへ勤しんだ。
「ほら、もう終わったよ。部屋へ戻ろう?」
 メノウが促すと、鳥貝は渋々ではあるが自分で立ち上がり、アパートの階段を昇り始めた。
「さて、五月病……か。故郷ではあまりその名はあまり聞かないが、似たような症状はあるのかもな」
 部屋に通されたベルンハルトが、汚い室内を見渡して考える。
「ともあれ、ヤル気を出させないとな……」
 そう頷いて静かに向かったのは台所だ。
「……えっと、何か、命を助けて頂いたようで……ありがとうございました」
 鳥貝が布団の上に座って頭を下げる。
「今は無気力かも知れないけど……それでも大学入学までは頑張ってたんでしょ?」
 そんな彼へ優しく声をかけるのはユル。
「ええ、まぁ……」
「なら、昔の知り合いに逢って見つめ直すのも良いんじゃないかな」
「知り合いか……考えもしなかったです」
 ユルのアドバイスを聞く鳥貝の目には、微かに生気が戻ってきていた。
「ならば、高校の友達に会ってみたらどうだ? 色々と話してスッキリすれば気分転換にもなるんじゃないか?」
 そこへ更に助言するのはエヴァンジェリン。日頃から厳しく己を律している彼女が語る気分転換法だ。含蓄があるのも頷ける。
「小さいことでもいいから、何か目標を作ってそれに向けて日々努力するように生きてみたらどうかな?」
 そう言葉を添えるのはメノウだ。どんな時でも元気な彼女だけに説得力がある。
「目標……目標……」
 何があるだろう、と真剣に考え出す鳥貝。ずっと思考停止していたのに比べれば確かな進歩だろう。
「きっとその内やりたい事も見つかるよ」
 その様に内心安堵しながら、アストラが明るく励ます。
「大学にいる間だって、やりたい事は探せるんですよ。だいたい、例えば文学部にいて文学関係ある仕事つく人の方が珍しいですから」
 宴も具体的な道筋を示して、鳥貝へ考えるヒントを与えた。
「そうですね。折角進学されたのですから、『自分は何をやりたいのか』探してみるのはいかがでしょう」
 和希は、控えめな態度を崩さぬまま、静かに自分の考えを語る。
「手当たり次第で良いと思います。見て、聞いて、体験して……」
 今は大学への進学も視野に入れて進路に悩んでいる為、とても鳥貝を他人事と思えず気の毒に感じている和希。
「……それで何か見つかれば良し。そうでなくても、何もしないよりずっと多くのものを得られるはずです」
 なればこそ、和希は我が事のように真面目に思案、現在の鳥貝の身の上に寄り添ったアドバイスができたに違いない。
「はい……ありがとうございます」
 同年代の男子2人へも素直に礼を述べる鳥貝。
「先ずはご飯だ、食べてから考えよう」
 そこへ、ベルンハルトが手製の雑炊を運んできた。
「それから何かやりたい事だな、遊びでもなんでも始めてみよう」
「あ……有難うございます、頂きます」
 鶏の出汁がよく出た雑炊を啜りながら、鳥貝はぽつりと洩らした。
「……積みゲーがあったから、それを消化しようかな。いきなり彼女作るとかはハードル高いし」
「何、最初から上手くやる必要はない。何事も楽しむことが大事だ」
 ベルンハルトは彼の立てた小さな目標を聞いて、微かに口元を綻ばせる。
「彼女も……頑張ればできますよ。頑張ればね」
 そう珍しく微笑んで言うのは宴。男女の機微に関しては——男女に限定しなくとも——この男は強い。
「大事なのは清潔感と楽しそうにしてるかどうかっす。いいなって思った子を見つけたら、サークル合わせてみたりしたらいいじゃないすか」
「清潔感と、楽しそうに……」
「無趣味のいいとこは、新しい趣味を探せるところです」
 元々恋愛話が大好きな宴だけに、心底楽しそうに鳥貝へエールを送った。
「ごく簡単なことを意識的に成功体験へ結びつけていくことも、良い対策になります」
 キーラも相変わらずの淡々とした口調ながら、鳥貝へ親身になって教え諭した。
「つまり、どんな小さいことでも実行したら『うまくいった』『やり遂げた』と強く思うようにすることです」
「どんな小さいこと……ゲームのダンジョンひとつクリアしたとか、ボスを倒したとかでも?」
「そうです。多少大袈裟でもいいのです。繰り返すことによって、少しずつ自信が持てるようになります」
 噛んで含めるように言い聞かせるキーラの声音は温かい。
「あとは、そうですね、軽い運動でも気分が前向きになります。外に出なくても、屋内で軽いストレッチをするだけでも結構違うものです」
「なるほど、ストレッチ……やってみます」
 鳥貝が話を聞く姿勢も、次第に真剣みを増している。
 ケルベロス達8人は、旨そうに雑炊を食べる彼を見て、確かな快復の兆しを感じ取ったのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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