五月病事件~逃避してもいいですか?

作者:七凪臣

●現実は逃避するためにあるんだって先人も言ってた(多分)
 斎乃・才佳(いつきの・さいか)は、この春にとあるIT企業に就職したばかりの22歳の青年だ。
 新人研修を終え配属されたばかりのチームは、世間様で言う所のゴールデンウィーク前半にシステムリリースを迎え、才佳も事務手伝いとして駆り出された。
 そんなこんなで無事に大仕事を成し遂げた彼らは、少し遅めのゴールデンウィークを堪能するのを許された。でもって、この日がその休み明け一日目。
 ――なのだが。
「……あぁ、かわいい」
 スマホにうっとり見入って甘い嘆息を零す才佳は、Tシャツ短パン姿でベットに転がりごろびたん。
「ヤバい可愛い萌え死ぬ……今回のイベント最高だわぁ……」
 タップが止まらぬ先に表示されているのは、可愛いお嬢さんの笑顔が眩しいソシャゲ画面。才佳はスマホに顔を近付けてはにへらと笑み崩れたりもしつつ、
「はぁ……癒される。仕事のつらさを、忘れさせてくれる……神かよ、神だな……、っ」
 先ほどから時折表示される無粋な電話着信をぶちんと断ち切っていた。
 それが上司からのものだというのは、表示される名前で分かっている。
 無断欠勤は、良くない。
 仕事にも、ちゃんと行かなくちゃいけない。
 理解してはいるのだ。ただ、ベッドに沈んだ体は怠惰を求めるし、脳は愛しい『推し』との時間を求めて止まない。
「明日……うん、明日は出社する……」
「まぁ、少しくらい給料引かれるようなことになっても……何回かガチャを我慢すれば……いいだけだし……」
 かくて才佳は幾度目かの電話着信に無視を決め込むと、現実逃避にどっぷり耽る。
 これこそ典型的な五月病の症状であるのに気付かずに――。

●現実が楽しい事ばかりでないのは知っている。だが逃避ばかりしていては以下略。
 ゴールデンウィークが待ち遠しくあればあるほど、終わってしまえば現実の辛みは重くのしかかるもので。
 結果、流行るのが『五月病』。
 そこに着目し、ジゼル・クラウンをはじめ、多くのケルベロス達が調査した結果、五月病の病魔が大量に発生しているのが判明した。
「皆さんにはこの病魔退治をお願いします」
 真剣な顔でリザベッタ・オーバーロード(ヘリオライダー・en0064)は「五月病も侮れませんね」と息巻くと、自身が知り得た五月病患者の一人――才佳について語り出す。
 才佳が現在居るのは、一人暮らしのアパートの一室。
 仕事へ行かず引き籠ってはいるが意識はしっかりしている。
「普通に来訪すれば出迎えてくれるかもしれませんし。応対拒否されても……そこは、まぁ。鍵を壊して踏み込んでしまえば」
 強硬策を言い淀んだのも僅か、それこそが事態解決策だと識る少年紳士は、穏やかに微笑むと続きを紡ぐ。
 曰く、才佳に接触した後はチームにウィッチドクターがいれば、病魔を引き剝がして戦闘を行う事が出来る。ウィッチドクターがいない場合も、地域医療に協力しているケルベロスのウィッチドクターが臨時に手伝いをしてくれるので心配無用。
 才佳の部屋の間取りは1LDKで、一番広いLDKには物もあまり置かれてないので戦闘も問題なく可能。
 敵は実体化すると黒い影のような姿を取り、現実逃避を誘う攻撃をしかけてくるのだとか。
「現実逃避したい方にとってはちょっと厄介な敵になるかもしれませんが、皆さんなら大丈夫だと信じています」
 全幅の信頼を瞳に輝かせたリザベッタは必要な情報を開示し終えると、「そうだ」と付け足す。
「五月病は再発しやすいようなので。病魔退治が無事に終わったら、斎乃さんがそうならないよう発破をかけてあげて下さい。きっと皆さんの心にも響く時間になると思いますから」


参加者
キリト・スカイ(厄払い・e02956)
アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)
天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)
花露・梅(はなすい・e11172)
栗島・リク(ムジカホリック・e14141)
コルト・ツィクルス(星穹図書館の案内人・e23763)
ヨハネ・メルキオール(マギ・e31816)

■リプレイ

●嫁来臨
「五月病かぁ」
 上へ伸びた階段の影に隠れ、宅配業者を装うキリト・スカイ(厄払い・e02956)は薄青に晴れ渡った空を見上げた。
「新生活に慣れて緊張が緩んだり、逆に疲れが溜まって罹るのかもしれないけど。病魔として出現するとなると、明確な病なのかなあ」
 自然発生なのか、デウスエクスの仕業なのか。
 それは医者でありウィッチドクターでもあるキリトとしては至極当然の気掛かり。だが、万一に備えて動物変身で小柄な豹に転じた天宮・陽斗(天陽の葬爪・e09873)が――傍目には、少し大柄な猫――欠伸をするくらい、絶好の現実逃避日和。階段に座した栗島・リク(ムジカホリック・e14141)も頬杖をついて、どこか眠たげに溜め息を零す。
「気持ちは分からなくもないけど。結局、それじゃ何も得られないよね」
 そうだ。五月病は誰にでも潜む病。だって現実は優しいばかりじゃないもの。
「現実は逃避するためにあるんだそうですよ、ゴースト――……お前もあまりよく解っていなさそうですね」
 けれどコルト・ツィクルス(星穹図書館の案内人・e23763)はその辺の機微を理解らないらしく。傍らのシャーマンズゴーストを見遣ってみたが、のんびり屋さんな従者も主同様のようで。こてり首を傾げる仕草が、妙に愛らしい。だがしかし(二重逆接)。ヨハネ・メルキオール(マギ・e31816)にとって可愛らしいのは、肩の上ににょろりと這う白蛇。正しくは白蛇型のファミリアで、名前はヨル。
「ま、人間頑張り続けると疲れるのは必然だしな。そして休み過ぎて起き上がる機会を逸するのもあるある、だな……」
 そんな感じで、にょろにょろ返る反応がまた堪らず、語りかけていたヨハネの語尾が遠く掠れる頃。いつもの魔女っ娘服姿のアイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)は、お裾分けのお菓子を詰めた籐のバスケットを腕に才佳宅の呼び鈴をピンポン。
「御機嫌よう、お裾分けを貰ってくださいな」
 覗き窓の向こうに気配を感じて、アイヴォリーは上目遣いにニコリと笑う。
「ええ、同じアパートの――」
「アイたん!?」
 そこから先はまさかの怒涛の展開。可愛さを全面プッシュした『開けて☆』アピールをアイヴォリーが続けるより早く、才佳はがばぁっと扉を全開(奇遇な事に、彼の推しとアイヴォリーが似ていたらしい。しかも名前まで)。さすればケルベロス達は瞬間着火。あっという間の突入。からの、施術黒衣をひらり羽織ったキリトの病魔引き剥がし迄の流れは淀みなく。
「時間掛からないから、ちょっと離れてて」
「あ……はい」
 リクの忠言に、腰を抜かした才佳は呆と頷いた――のだけど(次章に続く)。

●戦端と珍妙の略述
 『タマ、取らせて貰うぜ』と動物変身を解くや否や、昔取った何とやらな勢いの陽斗が殴り掛かったのを皮切りに、ケルベロス達は実体化した病魔と戦闘開始。同時に、才佳は部屋の隅で丸くなった。
 だが!
「嫁ぇっ!」
 ヨハネのドラゴニックミラージュが炸裂した直後、青褪めた彼は強制腰復活を経た猛烈ダッシュで病魔の背後を取って、アイヴォリー似のフィギュアを抱き締める。見れば、未だ殺風景な室内には同じ顔のグッズがちらちら。つまりは、お察し。されど堅物熟年ドラゴニアンなガイスト・リントヴルム(宵藍・e00822)は一味違った。
(「そうか、嫁を貰ったのか。ではなおさら確りせねばな」)
 ソシャゲとは何ぞや、のおっさん。完全に勘違いしていた。あと、愛しい妻子が居た身なので、変に燃えた。
「征くぞ」
 そんなこんなで、被る陣笠放り投げて電光石火の蹴りをドゴォン。但し、嫁の似姿へは余波を喰らわせぬよう細心の注意を払って。でもって、
『……オイデ』
「ゴースト」
「!」
 才佳の煩悩を反映でもしたのかもしんないアイヴォリー狙いの病魔の囁きは、コルトの神霊が庇い。守られた少女は「ありがとうございます」と礼を述べつつ、奇遇の産物は見なかった事にし、病魔をあっと言う間に氷塗れにした。
 と、その時。
「五月病はおそろしい病です……」
 低い天井を物ともせずに流星の蹴りを敵へ見舞った花露・梅(はなすい・e11172)が、ぷるり震え、
「画面の向こう側の彼女もかわいいと思います……! 画面の向こう側の彼女は心の支え」
 才佳への理解を示したかと思うと、
「わたくしは梅おにぎりが現実逃避の品なのです。ああ、なんでこんなにも美しいフォルムをしているのでしょう」
 ……どっかに(思考が)飛んだ。
 いや、梅ちゃんいつもは天真爛漫ないい子なのよ。ただ今日はその天真爛漫さが変な方向にいっちゃっただけなの!
「病魔の影響でしょうか?」
「彼女の事は僕に任せて」
 従者を癒す序に最前線へ破壊の加護を与えるコルトの懸念に、キリトは胸を叩くと梅を含めた自分達の前に雷の壁を構築する(自浄効果が梅を正気に戻す助けにならないかなあって思いつつ)。
「……む」
 そうして初手の終いは、何時の間にやら不機嫌になっていたリクの一撃。思いの他、素早い病魔に躱され、巨大ハリセン(型のハンマー)が壁に穴を開けちゃったのはご愛敬☆

●混沌
 まぁ、五月だし。陽気は抜群だし。予兆がなかったではない――にしても。
「あっ、あっ! この立体映像! オフィスに飾りたい!!」
 推しの幻が見える攻撃を喰らったアイヴォリー、イイ感じに見悶えていた。ぶっちゃけ、アイヴォリーも最近ソシャゲに嵌ったクチ。
「でもわたくし、課金は家賃までと決めていますしおすし」
「いや、十分やべぇだろ。あとその語尾、寿司が喰いたくなる」
 思わず飛んだ陽斗のツッコミ。そのお陰か、推しの余韻を振り切ったアイヴォリーは、ずびしぃと病魔を指さした。
「……そうです、騙されたりしませんよ。それに、罪悪感をもやっと抱えたまま回すガチャなど笑止千万。全力で働いて! 全力で回す! 現実に立ち向かって勝利した先にこそ、清々しいガチャが待っているのです!」
 台詞の一部太字で強調したくなるくらい、正々堂々言い切るアイヴォリー。何か良いコト言った風だ。
「怠惰は蜜の味、だけれど。続くと飽きますもの――ねぇ?」
 続く真理は蜂蜜のようにとろりと甘く。ふわり芳醇なバターの香しさを漂わせ、デウスエクスの命を煮詰めて溶かした……のだけれど。直後に、思わぬ反論が!
「いいえ、おにぎりは飽きません!」
 『飽きる』に反応したお梅ちゃん、相変わらずおにぎりワールドなう。
「わたくしはおにぎりと一緒に過ごしたいのです! ですが外にも美しいおにぎりがありますし……学校にも行かなければなりません……」
 ああ、ああ、おにぎり。おにぎり。
「あなたはどうしておにぎりなのでしょう!」
「いや、だから」
「忍法・春日紅! おにぎりばーじょんっ」
 最早ツッコミ担当と化した陽斗の嘆息を華麗にスルーし(というか、聞こえてない)、梅は乱れ飛ぶ花弁だかおにぎりだかの幻影の合間を縫って敵背後を取り、薄っぺらい黒霧の急所と思しき場所を斬り裂く。
 戦場は完全カオスと成り果てていた。
「僕には五月病とか無縁なんで、良く解りませんが」
 皆さん大変そうですと完全他人事状態でアイヴォリーの怪我を癒すコルトも。真の姿は、生活費は知人に養って貰い、歌と本に囲まれ日々を過ごし、働きたくないし勉強もしてない、超絶無自覚圧倒的現実逃避万年五月病タイプ(美人さんなのに勿体ない)。更に言うとドS。
「取り敢えず、うざそうなので倒します。五月病さん、ご機嫌よう、さようなら」
 何処までも自分を棚に上げ、コルトは淡々とデウスエクスへ別れを告げる。で、動いたのは神霊の方。今までののんびり具合が嘘みたいな神速の爪が病魔をずさぁっ(というか、これだけが例外が正解)。
「仕事も放り出していると聞いたぞ。愛する者に苦労をさせるのか? それでは其方も、あいたんとやらの嫁ごも幸せにはなれぬ」
 続・勘違い中のガイストは、底抜けに真面目に背中で才佳を叱咤し、冴えたる刃を閃かす。但し、巻き起こった太刀風が嫁ポスターを傷付けないよう留意して。お陰で、ガイスト渾身の一撃は、病魔の余力のみをどどどんっと削った。
 そして真面目で忘れちゃいけない、キリト先生。
「そりゃあ僕だってプレッシャーで逃げ出したくなる時もあるけれど。自分の選んだ道だからね。決して退いたりはしないと誓っているんだ」
 病魔とは違う意味で心配になる面々にもめげず、医者としての矜持を胸に、キリトは優しい笑顔で癒しの雨を戦場に降らす。これで皆が真っ当になってくれればいいのにね。
 ともあれ、なんやかんやで攻撃は確り決まっていたので。病魔は見る間に弱り。
『ケド、自堕落ナ現実逃避ハ』
「五月蠅い」
 反撃の誘惑さえ、途中でリクのハリセン(氷付き)に遮られる始末。つーか、リクの不機嫌は極まってる。何故なら――。
「アンタに何が分かるの。ポッと出の俄かニート風情がデカい面するなってぇの! オレは生まれてから22年一度も働いた事なんてないしやる気なんて出た試しないんだから。酒とつまみとゲーム三昧の生粋のニートだ! 真正ニート舐めんなっ」
 ……そこは威張って言うことじゃなくね?
 どんだけ突っ込んでも届きゃしないと悟った陽斗、胸裡だけで愚痴り、溜めてしまった鬱憤を晴らす為に病魔に突進(八つ当たり)。
「確かに5月は一番働きたくねぇ、たが大人は24時間年中無休で常に働きたくねぇ。この気持ちを届けるぜ……ヤクザキックでな」
 繰り出す技は、所謂旋刃脚。けれど様々が籠ってやんちゃした過去が顔を覗かせた一蹴は強烈。あと、陽斗以外ツッコミがいないから、誰も何もつっこまない(寂)。
 かくて命運は、ヨルと戯れていた(現在進行形)ヨハネに託された。
「休むのも大いにありだ。だがな……」
 いちゃらぶしてたヨルを杖へと転じさせ、ヨハネはイケ顔を決めて。
「惰眠を貪った後、時間を見た時の虚しさと言ったら筆舌に尽くしがたいとは思わないか!」
 正論ちっくなコメントを振りかざし、【聖邪のアポカリプス】を唱える。
「終焉を謳え、音楽の天使よ!」
『ッ!』
 顕現したのは、翼携えし天使。彼女が紡ぎあげた天上のアリアは聖なる力で邪を祓い――つまりは病魔に永遠の終焉を齎した。
「ふふん、俺の歌姫はどんなSSRの美少女よりも美しいだろう?」
 自慢気ヨハネ氏、何気にソシャゲーマーでいらっしゃったようデス?

●結論
 戦いは終わった。壁に開いた穴やらも粗方ヒールし、ちみっと疵物になった嫁には陣笠目深に被ったガイストが御免して。
 でも。
「画面の向こうの彼女が握ってくれたおにぎりも、きっと美味しいのでしょう。わたくしだってこのまま外に出ずおにぎりを食べて過ごしたい。だって外には危険がいっぱいですから……!」
 梅ちゃんは未だ帰って来ておらず。
「嘗ての俺は無限の時間を生きていたが、今の人生の時間は限られている――この無駄に休んだ時間を他の事に充てられたというのに……と、こんな風に後悔してからじゃ遅いんだ! 人生にはメリハリが大事だ。……まぁ、俺も魔導書を読み耽り食事を忘れる事が多々あるのは反省するが……」
 切々と説いていた筈のヴァルキュリアヨハネは反省モードに突入し。結果、
「だよなー。色々ダメなのは解ってるんだけど、ついなー」
 病魔は駆逐されたけど、いまいちシャンとしきってない才佳と意気投合。だが、嫁を貰った男のそんな言い分をガイストが許す筈があろうか、いやない(反語)。
「其方、何を言っておる。家になど篭り何とする。恋人か嫁が居るのならば、確りと二本の足で立ち、愛した者に背中を見せるのが男ぞ!」
 二足歩行な竜派ドラゴニアンさん、語りは熱い。あと『嫁』だったのが『恋人か嫁』に変わったってことは、微妙な違和感をそろそろ察したのかもしれない。なお、ど真面目ガイストの愛あるお説教が繰り広げられる傍らで、「それが原因で労働が出来ないということなら、燃やせば解決でしょうか」とコルトが才佳からスマホを取り上げようとし、「それはやめてさしあげて?」とソシャゲーマーなアイヴォリーにそっと止められてた。そんな事したら、爆死しちゃう。廃人は廃人を知る。
 それはさておき。
「とにかく、だ。仕事は大変だろうけど、ゲームの為に頑張るって事でいいんじゃないかな」
 真面目バトンをガイストから受け取ったキリトは、優しく現実を説く。
 生きてくのにはお金は必要だし、燃え尽きない為にも程々が一番。そして――。
「自分のペースでいいと思うよ。会社の為じゃなくて、自分の為に頑張るって事で」
「自分の為っ!」
 キリトが発した心地よい一節に、才佳は食い付いた。
「そーそー。才佳もさ、推しのあれやこれやのカード欲しいでしょ? なら、働けばいいじゃん」
 怒りから解き放たれ、菩薩と化したリクも言う。
 全ては自分の為、ひいては推しの為。さすれば嫁との邂逅機会は自ずと増え、才佳が会社で怒られる事もナイ。良い事尽くめぢゃないですかー(悟り)。
「あとな。課金は無(理のない)課金がデフォな。嫌だろ、借金で鮪漁船に乗せられるの。推しにも会えなくなるぞ?」
 またしても昔が匂う陽斗のアフターフォロー(一部理想論)に、才佳の顔が「Σ」ってなる。そこへ、反省を終え心理に至ったヨハネが続けた。
「全ては推しの為。課金とは、即ちその娘の生活を稼ぐにも等しい崇高な務め――愛の為に頑張れるだろう?」
「!」
 ヨハネの激励に才佳ついに立ち上がり、
「そうですわ。働いて遊んで懸命に生きて。推しに誇れる姿でガチャに挑む。それでこそSSRが来てくれるというものです――わたくしは、それで当てましたよ」
「マジで! 行く行く今すぐ仕事いくわ俺!」
 アイヴォリーのドヤ顔決定打に、いそいそとシャツとスラックスを引っ張り出した(その様子にコルトは「ああ、会社に行かれますか。じゃあ、スマホ燃やすのは止めてさしあげましょう。残念ですけど」って肩落としてた。燃やすの諦めてなかったのね、流石ドS)。
 そして才佳の奮起は、梅を現実(?)に連れ戻す。
「あぁ、才佳様は征かれるのですね。そうですね、いつまでも引き籠ってはいられませんしね。おにぎりも食べなければ腐ってしまいますし……わたくしも一歩を踏み出します!」
「共に頑張ろう、友よ!」
「えぇ!」
 魂の双子ちっくな二人、がっつり握手で前のめり。そんな若人らへガイストは「戦前の腹ごしらえだ」と春爛漫弁当を差し入れ、全ては一件落着。
 こうしてケルベロス達は家路につく。
「さあ、コルト。帰りましょうか。今日も沢山働きましたし、三十連くらいは回してもいいかしら!」
 アイヴォリーはガチャ魂を燃やし、
「ま、働くのって面倒――むぐぅ」
「美味しいですよね!」
 実は不労所得で生きてるリクの危険ワードは、梅がおにぎり差し入れで封殺し(ぐっじょぶ)!

作者:七凪臣 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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