レース・アクセサリーの妙

作者:柊透胡

「あなた達に使命を与えます。この街の郊外に『レース』を使ったアクセサリーを作るクリエイターが居るようです。その人間と接触し、その仕事内容を確認。可能ならば習得した後、殺害しなさい。グラビティ・チェインは略奪してもしなくても構わないわ」
「はーい! わっかりましたー、ミス・バタフライ♪」
「サテン、その態度は失礼だと何度言ったら……承知致しました、ミス・バタフライ。一見、意味の無いこの任務も、巡り巡って、地球の支配権を大きく揺るがす事になるのですね」
「その通りよ、タフタ。2人共、しっかり励みなさい」
 螺旋の仮面を着けたマジシャン風の女――ミス・バタフライの前には、相似の双子。片や道化師の少女は小悪魔めいた笑顔を浮かべ、片やジャグラーの少女は幾つものビーンバックを無表情に弄ぶ。
「必ずや、ミス・バタフライのご期待に沿って見せましょう」
「キッポウを待っててねー♪」
 同時に螺旋の仮面を被った双子は、夜闇に溶け入るように姿を消す。
 ミス・バタフライも同じく――無人となった深夜の公園は、仄かに花の香りが漂っていた。

「レースのアクセサリー? わあ、可愛い! とっても素敵ですね」
「レース自体も、色々と種類があるようで興味深いです」
 タブレットの画像に歓声を上げたのは、若草色の髪に紅緋の瞳の少女。集まったケルベロス達の視線に、恥かしそうに俯いた。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 徐に口を開く都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)。
「螺旋忍軍の大きな動向と言えば、現在、東京23区が騒がしいですが……本件は、ミス・バタフライの一件となります」
 ミス・バタフライが起こそうとしている事件は、直接的には大事では無い。しかし、巡り巡って大きな影響が出るかもしれないという、ある意味、厄介な事案となる。
「今回狙われたのは、愛知在住の女性です。『レース・アクセサリー』を製作している、ハンドメイドクリエイターですね」
「レース職人さんの繊細な技術が狙われたりしないかなって、心配していたんだけど……」
 手袋を嵌めた両手を組み、ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)は小さく溜息を吐く。
「イェルさんの懸念が、私の案件にヒットしましたので、皆さんに集まって戴いた次第です」
 ハンドメイドクリエイターの名前は、水瀬・佳澄(みなせ・かすみ)。愛知県は名古屋市郊外に住んでおり、オンラインショップで手作りのレース・アクセサリーを販売している。
「主にクロッシェレースやタティングレースを使っているようです。素材のレースも、勿論本人の手編みです」
 ミス・バタフライの命を受けた螺旋忍軍は、珍しい職業の一般人の所に現れて、その仕事の情報を得たり、或いは、習得した後に殺そうとする。
「この事件を阻止しないと、謂わば『風が吹けば桶屋が儲かる』そのままに、ケルベロスの皆さんが不利な状況に陥ってしまう可能性が高いのです」
 勿論、デウスエクスに殺される一般人を見逃す事は出来ないだろう。
「皆さんには、水瀬さんの保護とミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破をお願いします」
 基本はターゲットの水瀬・佳澄を警護し、現れた螺旋忍軍と戦う事になるが、事前に避難させると敵も標的を変えてしまう。
「水瀬さんには、事件の3日前から接触が可能です。事情を話すなどして技術を教えて貰えば、螺旋忍軍の狙いを皆さんに変えさせる事が出来るかもしれません」
 囮になるには、見習い程度の力量を要する。短期間で技術を学ぼうとするならば、相応に努力しなければならないだろう。
「まあ、『見習い程度』の腕前ではありますから、全てを完璧に習得する必要はありません。何かレース・アクセサリーを1つ、完成させれば十分です。皆さんでで合作するのも良いかもしれませんね」
 如何に魅力あるレース・アクセサリーを作ろうとするかが重要だろう。
「囮になる事に成功すれば、訪ねて来た螺旋忍軍に技術を教える修行と称して、有利な状態で戦闘を始める事が出来ます」
 配下の螺旋忍軍2体を分断したり、一方的な先制攻撃などが可能となる訳だ。
「デウスエクスにも、ケルベロスと同じく『眼力』はありますが……一芸に秀でた一般人も似たようなものと思い、特に怪しまずに接触してきますので」
 螺旋忍軍は、10代半ばの双子の姉妹か。鳶色の髪に淡緑の瞳と、その容貌は似通っている。
「道化師の少女は、サキュバスの種族グラビティに似た攻撃を好みます。ジャグラーの少女が持つビーンバックは、爆発するようですね」
 佳澄の自宅はこじんまりとした一戸建て。庭やガレージもあるので、外の方が戦い易いだろう。
「えっと……『風が吹けば桶屋が儲かる』みたいな現象を『バタフライエフェクト』っていうんですよね?」
 小首を傾げるティスキィに、創は静かに頷く。
「物事には何らかの『発端』があるものです。その『発端』の時点で阻止すれば、それ以上の問題は起こりません」
 つまり、螺旋忍軍を倒して狙われた人を助ければ良い。やる事はいつもと変わりない。
「そう言えば……ジューンブライドも近いですね。気になる方は、来月に因んだ作品に挑戦してみては如何でしょうか? 皆さんのご健闘を祈っています」


参加者
クロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)
神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)
来栖・カノン(夢路・e01328)
ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)
ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)
ティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)
ミスル・トゥ(本体は攻性植物・e34587)

■リプレイ

●『珠糸』にようこそ
 愛知県名古屋市郊外――目的の家は通りから奥まった処にある。
「レース、作った事無いなぁ」
 癖っ毛がふんわり揺れた。旅団として雑貨屋を営むクロノ・アルザスター(彩雲のサーブルダンサー・e00110)。器用さにはちょっと自信がある。
(「同じ模様を同じ大きさで正確に編んでいく。繊細な作業を習得するのは難しそうだけど……物作りのプロなんだから、負けてらんないわ」)
「綺麗だなぁ!」
 歓声を上げたのは、ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)だ。掌上の立体画像は、可憐なレース・アクセサリーの数々。アイズフォンで色々調べた為らしい。
「こんなに繊細で素敵な作品を作る魔法の手、絶対に守ろうね」
 隣から楽しげに立体画像を眺めていたティスキィ・イェル(ひとひら・e17392)は、一転して真剣な面持ち。けして犠牲者は出さない、そんな決意の表れ――ちょいと少女の袖を引いたテレビウムのトレーネが、応援動画を流した。
「なあ、俺には?」
 だが、ゼロアリエの期待の眼差しはスルー。相棒限定でつれないのも相変わらず。
「ボクは、白猫のブレスレット、作りたいんだよね」
 風にそよぐように、白い翼がゆうらり。空色の瞳が眠たげな来栖・カノン(夢路・e01328)だが、意欲はあるようだ。抱き枕のようにギュッとされるボクスドラゴンのルコは、些か憮然の呈だけど。
「オレは……チョーカーだな」
 淡々と呟くヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)には、明確なデザイン案があるようだ。
(「淡い桃色の花、幾つか繋げて……青い蝶が一羽、花に留っている」)
「んー……アタシはどうしよう」
 贈り物は何が喜ばれるのか――楽しい悩みに、ムジカ・レヴリス(花舞・e12997)の足取りも軽やかだ。
「確かに、レース編みは興味あるけどな……いい加減、ミス・バタフライは何とかならんかね?」
 到着の前から賑やかな仲間を横目に、神城・瑞樹(廻る辰星・e01250)は唇を尖らせる。
「風吹けば桶屋が儲かる理論は判るけど、めんどくさくなってきた」
「相変わらず基準が酷いというか……今の螺旋忍軍に、こんな事してる余裕もないでしょうに」
 螺旋忍軍に思う所があるのか、ミスル・トゥ(本体は攻性植物・e34587)はもっと辛らつだ。
(「そんな事は知らんとばかりに、事件を起こしてるな……」)
 常ならば柔和なミスルの表情も、不機嫌そう。
「あ、あの家かな?」
 程なく――ティスキィが指差したその一戸建ては、『水瀬』の表札に並ぶ看板が目を引く。
 レース・アクセサリー工房『珠糸』――レースの意匠が繊細な、愛らしい看板だった。

●レース編みの妙
 現れたのは、ぽっちゃりした30代前半の女性――水瀬・佳澄は、螺旋忍軍の企みを聞かされ目を瞠る。囮とその為の修業の申し出に、丁寧に頭を下げた。
「中の事はお任せします」
 唯一、修業しないミスルと別れ、ケルベロス7人+サーヴァント2体は、佳澄のアトリエに招かれる。
「結構広いんだな」
 興味津々に見回すゼロアリエ。早速、ケルベロス達で大きなテーブルを囲む。
「素材に、私のレースを使っても構いませんよ」
 最初にそう言ってくれた佳澄だが、レースも自作したい。という訳で、クロッシェレースとタティングレースに分れて、修業開始。
「クロッシェレースの基本は4つ。鎖編み、細編み、長編み、引き抜き編み。この4つをマスターすれば、大抵の物が作れます」
「それって……」
「ええ、違うのは糸と針の細さだけ。毛糸のかぎ針編みと全く同じです。かぎ針編みを知っているなら、クロッシェレースも取っ付き易いでしょうね」
 一気に敷居が低くなった気配だが……1番の問題は、レース用の糸が細かい事。長時間編むにも、コツが要りそうだ。
 まずは、基礎をみっちりと。基本の編み方4種で作る方眼編みのドイリーは、最初の練習にぴったりだ。
(「マスターしたら又1つ手に職が就くし、頑張ろっと」)
 平編みの次は四角のモチーフ、更に円形のコースターを――ステップアップしながら、基礎の習得に専念するクロノ。糸も徐々に細くしていく。
「んんん、ゲームで指先は鍛えてるつもりだけど、また別の難しさなんだよう」
 同じく、カノンもちまちまとかぎ針を繰る。
「……わわわ、これ、どうするのかなあ?」
 ごちゃっと絡まり、慌てて佳澄にSOS。コロンと落ちた糸玉を、ルコが拾い上げる。
(「出来る事を、1つずつ増やしていけば良いよね」)
 ティスキィの目標は桜のモチーフ。細かい作業は得意だし、花への情熱は人1倍だから、円形のコースター作りで反復練習。律儀に、完成した花のモチーフを横一列に並べていく。
「……なるほど。モチーフを繋げばリボンになるわね」
 合点がの入った表情で頷くムジカ。同時に、何を作るか、浮かんだ模様。
「アタシにもご教授お願いしマス、佳澄先生」
 作品が完成すれば囮になれる。標的の佳澄も危険に晒さずに済むのだから、より気合も入るというもの。
「これが、シャトル?」
「舟みたいな道具を使うんだね~。不思議!」
 一方、タティングレース組は、舟形の小さな糸巻きを渡された。このシャトルを使って指に掛けたレース糸を結ぶように編んでいく。
「うまくできる、かな」
 太めの木綿糸は初心者向け。幅一杯までレース糸を巻いたシャトルを右の親指と人差し指で持ち、左手で作った糸輪にシャトルを通して表目、裏目と編んでいく。
「え……あれ?」
「もう1度やってみますね」
 揃って目を瞬く瑞樹、ゼロアリエ、ヴィンセントの3人。佳澄は何度も、お手本を見せる。
「芯になる糸を間違えないように。正しくはシャトルに巻いた糸を芯にして、左手の糸が絡んで結ばれます」
 シャトルに巻いてある芯糸を軸にダブルステッチが動けば、正しく編まれた証拠だが……がっちり動かなくなったダブルステッチを解しては、やり直し。少年3人揃って難しい表情で糸を凝視しているのが、笑みを誘う。
「……理解した」
 元より小物系の職人を志すヴィンセント。手先も器用なのか、ケルベロスでは最初にコツを掴んだ様子。
「慣れるまでが面倒だけど……手に馴染んだらスイスイいけそうだな」
 続いて、瑞樹のシャトルも滑らかに動き出す。流石は、親譲りのハンドクラフトが趣味だ。
「ゼロ、大丈夫?」
「あ、ああ! 勿論!」
 その実、内心はちょっぴり焦るゼロアリエ。尤も、感覚を掴むのも結局は数の問題。持ち前のチャレンジャー精神で取り組む内に、全体のバランスにまで気を回せるようになっていた。
 ちなみに。トレーネは必殺仕事人も斯くやの手捌き。シャトルの扱いも最速で要領を得ていたという――主に敏捷的な比較で。

●レース・アクセサリーの妙
「……この辺りが死角でしょうか」
 当日は、のこのこやって来た螺旋忍軍は庭に誘い出す算段。奇襲を成功させるべく、実地検証に勤しむミスル。潜伏場所も慎重に選定していたその頃――。
 1日と半分、レース編みの練習に費やしたケルベロス達も、続々と本番に取り掛かる。
「これって……」
「ヘッドドレスなら、半日もあれば完成するでしょうけど……レースも自作なら、そろそろ始める方が良いと思います」
 最後の1日で作品を作り上げる算段のクロノだったが、レースは花をモチーフにひらがなを回転させて重ねていくという、独特のデザイン。確かにオリジナリティ溢れるが……問題は、どんな編み方をすればデザイン通りに編めるのか。
「基本4種の編み方で大体再現したつもりですけど、複雑なのは確かです。頑張って下さいね」
 渡されたのは、クロノのデザインから描き起こされたレースの編み図――懸命なクロノへ佳澄からのプレゼントだ。
 そうして、黙々とレースを編み、形にしていくケルベロス達。細やかな作業に目も酷使すれば、適時、佳澄は休憩を入れた。
「えっと……ピコット、だっけ? 大きさがバラバラだと編み込む時にリングが綺麗に揃わないかも?」
「あー、そうだよなぁ」
 休憩中に、作品を見せ合うティスキィとゼロアリエ。ティスキィのレース桜を飾られてご満悦なトレーネに羨望の眼差しを向けながら、青年は恋人の指摘に頬を掻く。
「ピコットゲージを使えば、均一になる。使うか?」
「そんな良い物があるんだ!?」
 睦まじい2人の様子に表情を和ませるヴィンセントの助言に、身を乗り出すゼロアリエ。クスリと笑んだティスキィは再びレース編みを再開する。
(私も、自信作を渡せるように頑張らないと!」)
 だけど、次の瞬間、紅緋の瞳がまんまるに。
「ムジカさん、それって……」
「ガーターベルトよ、可愛いでしょ」
 悪戯っぽく笑うムジカ。ガーターベルトと言えば艶やかなインナーの代表格だが、クロッシェレース故か、普段使いにも出来そうな優しげな風合いだ。
「恋する乙女はいつお嫁さんになってもねって思うから……結婚する時は改めて、ガーターリングを作るわ。今は可愛い彼女さんへプレゼント☆」
「け、結婚!?」
 忽ち真っ赤になるティスキィが微笑ましい。一方で、ウェディングと聞けば、ゼロアリエも余計に気合いが入るというもの。
(「キィに似合うのをプレゼントするんだー!」)
 初心者なりに見栄えのする編み方を教わりながら。ゼロアリエのレース・ブレスレットは、少々不格好でも、結んだリボンに手間と愛情は沢山篭っている。
 そう、(自分も含めて)誰かの為に少しずつ形作っていくのは、とても楽しい。
「ヘッドドレスも、いいよね。ウェディングの時とかにこう、飾ってさぁ……ウェディング、うぇへへ♪」
 出来立てのレースを早速縫い付けながら、クロノの頬も緩みっぱなし。お手製のヘッドドレスを着けた自身を妄想、もとい想像しながら、幸せ一杯夢一杯だ。
「カノンちゃんは、どんな事考えて編んでるのカシラ?」
「むえ、なんで白猫にしようと思ったの、かあ……」
 ブレスレットを拵えながら、ムジカの問いに少女は暫し考え込む。
 試行錯誤の末、漸く白猫を1匹、作り上げたカノン。耳の部分がちょっと大きいのもご愛嬌。
「えっと……時間になるとにゃーんって鳴いて報せてくれる、黒猫の目覚まし時計をもらったんだ。でも、1匹だと少し寂しそうな気もするから、お友達を作ってみたいと思って。あ、名前はね――」
 ユキと名付けた。おすましの白猫は、手首に乗ってお散歩するのがお気に入り。
(「……うん、やっぱり俺がやると目が飛びそうだな」)
 女の子達のクロッシェレースを横目に、瑞樹が編み上げたタティングレースは幅10cm、長さ30cm程。リング同士をピコットに編み入れて繋いだシンプルなモチーフは、生成りの木綿糸なので素朴な仕上がりだ。
「確か、真ん中に髪ゴムを通せば良いんだっけな」
 これでシュシュを作る。もっと大物に挑戦したかったが、完成を優先した。
「濃い色の方が、銀髪に映えるんじゃない?」
「ああ、自分で着ける訳じゃないんだ」
 クロノの言葉に頭を振る瑞樹。シュシュは下宿先の従妹へ。母の日のプレゼント代わりに。
(「似合うといいな……」)
 脳裏に大事な人を思い浮かべながら……ヴィンセントのチョーカーもプレゼントだろうか。リング編みとブリッジ編みを組み合わせて淡桃の花を、リング編みを組んで青の蝶を作る。連ねた花の一輪に蝶が留れば出来上がりだが、凝り性故に完成までまだ暫く掛かりそうだった。

●蝶の羽ばたきは
「野外教室はどう?」
 ケルベロス達の力作を、佳澄は褒めてくれた。全員で囮も良かったが、ミスルが潜伏場所を選定していたので、男性陣とサーヴァント伴うカノンが潜伏。果たして、訪れた螺旋忍軍2人、サテンとタフタは疑う素振りすら無くクロノ達の誘いに応じた。
「あんた達もう逃げられないわよ? 最後まで付き合ってよね」
 庭先で突如、拳の稲妻をタフタへ打ち付けるクロノ。その一撃を合図に、飛び出したミスルよりストラグルヴァインが迸る。ヴィンセントの轟竜砲が爆ぜ、ムジカのテイルスイング、の代わりにスターゲイザーが奔った。ティスキィのガラスの靴が煌くに至り、これでもかと足止めを食らったタフタは、堪らず片膝を突く。
 その間に、エンチャントも抜かりなく。瑞樹の鎖が守護陣を描き、ゼロアリエの紙兵が舞う。同時に、カノンはオウガ粒子を放った。
「ターちゃん、ガンバレ!」
 奇襲攻撃に察したのだろう。サテンの声援に無表情で頷き返し、タフタは次々とビーンバックを投げる。
 ――――!!
 連鎖的な爆発が前衛を舐めるも、ゼロアリエと瑞樹がクラッシャー2人を庇えば、カノンのジョブレスオーラがすかさず瑞樹を癒す。
「花こそ散らめ」
 ゼロアリエが振るのは、満開の桜枝。舞う花弁が自らに降り注いだ。
 奇襲を浴びて倒れぬ体力からして、タフタはディフェンダー。サテンはメディックだろう。打ち合せ通り、まずタフタへ集中打を浴びせるケルベロス達。
「……ターちゃん、拙くない?」
「いざとなったら、単身で逃げろ」
 螺旋忍軍の短い会話に、ティスキィは胸を突かれた面持ちになる。
(「双子の絆……ごめんね」)
 込み上げるものを呑み、炎の御業を編む。ここで攻撃を控える訳にはいかない。
「とっておきだぜ!」
 風に乗り舞うが如く、連続回転蹴りを叩き込む瑞樹。サテンにヒールの暇があればこそ。
「素敵なレースアクセサリー、世に送る先生を奪わせはしないワ」
 一瞬にしてグラビティのリストが脳裏を巡るも、ムジカは特技の螺旋描く一蹴で引導を渡す。
「……っ」
 憎々しげにケルベロスを睨むサテン。だが、逃げる素振りなく、倒れたタフタに駆け寄る。
「さあ、奥の手をくれてやる!」
 螺旋忍軍に慈悲は無い。荒っぽく言い放ち、種を弾丸の如く発射するミスル。着弾と同時に爆発を起こす。
「唯、断ち切る刃と成れ」
 強力な暗示と呪詛を帯びたヴィンセントの魔法の刃は、狙い過たずサテンを切り裂いた。

「延々と振り回されるなんてご免です。いい加減、ミス・バタフライ自体をどうにかしないと」
 消え行く双子の螺旋忍軍を、冷ややかに見下ろすミスル。
「未だに影すら掴ませない黒幕を炙り出すには、ある程度目星を付けないと」
 庭の修復にサークリットチェインを描く瑞樹の言う通り、事後行動の範疇だろう。片付けるムジカは苦笑混じりに肩を竦める。
 ともあれ、蝶の最初の羽ばたきは阻めた。カノンとルコに呼ばれて戻っためた佳澄は、安堵の表情だ。
「助けて戴いて、ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったわ」
 作品を大事に仕舞いながら、笑み満面に応じるクロノ。ゼロアリエも大いに首肯する。
「だが、もう少し、習えるだろうか。まだまだ聞かないとうまく作れない、から」
「私も! 花嫁用のレースの手袋を作りたいです」
 ヴィンセントの言葉にティスキィも声を上げる。やる気溢れるケルベロス達に、佳澄は嬉しそうに微笑んだ。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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