ヒゲマッチョから花束を

作者:天枷由良

●受け取って
 りんごんりんごん鐘が鳴る。祝福の鐘が鳴る。
 音色の下には、背を向けたウエディングドレスがいる。
 花嫁だ。花嫁は片手に携える花束を空へと放り投げた。
 そして放物線を描くそれは、少女の腕に収まる。
「やった! これで、わたしがつぎのおよめさんになれるのよね!」
「……おめでとうっ」
 可愛らしい少女を祝うべく、振り返る花嫁。
 けれども、ひとつ間違っていたのは――。
「グフッ、これであなたも筋肉のト・リ・コ! さぁ、一緒にパンプアップよぉぉ!!」
 なんと! 花嫁はヒゲのムキムキマッチョだったのです!!

「きゃああああああああああ!! ……あ、あらら?」
 ヒゲスマイルから悲鳴を上げて逃れた少女は、自室のベッドにいた。
「……はぁ、びっくりした。あれはぜんぶ、ゆめだったのね」
 躍動する上腕二頭筋や大胸筋が全て幻だったと悟り、少女はほっと息を吐く。
 だがしかし、安堵は束の間のものだった。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 パッチワーク第三の魔女・ケリュネイアに大きな鍵を突き立てられ、少女は力を失くして倒れ込む。
 その傍らから、少女が夢で見たヒゲマッチョの花嫁がゆっくりと、ゆっくりと筋肉を見せびらかすポーズを取りながら湧き出てくるのだった。

●ヘリポートにて
「パッチワーク第三の魔女・ケリュネイアの活動を確認したわ」
 ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は手帳を開き、ジルカ・ゼルカ(ショコラブルース・e14673)から情報を得て予知した内容を語り始めた。
「ケリュネイアは、人から『驚き』を奪ってドリームイーター化させるの。今回は小さな女の子が、夜中に飛び起きるほどびっくりような夢を見たところで襲われ、驚きを奪われてしまったわ」
 その後、ケリュネイア自身は行方をくらましたが、驚きから実体化したドリームイーターが新たに事件を起こそうとしている。
「被害が出る前に、このドリームイーターを撃破してちょうだい。無事に倒すことが出来れば、襲われた女の子も回復するはずよ」
 現実化したドリームイーターは一体のみ。少女の夢に出てきた花嫁を模している。
「花嫁衣装ってだけでも十分特徴的な気がするけれど、更に強烈なのはたっぷり蓄えた口髭、それから鎧のような筋肉。おまけに、ブーケまで携えているわよ」
 そんな怪しい格好で、ヒゲマッチョ花嫁は少女の暮らす住宅地を徘徊している。
「目的は誰かを驚かせること。皆の気配を察知したら、まずは女の子の夢と同じように背を向けた状態から花束を投げてくるはずよ」
 それをキャッチしたケルベロスの元に素早く詰め寄って、ご自慢のヒゲと筋肉を見せびらかすことで驚かせようとするのだろう。
「想像するだけでゾッとするわね。……でも、この性質を逆手に取ることが出来れば、戦いを有利に出来るかもしれないわよ」
 敵は驚かなかったケルベロスを、優先的に攻撃してくるらしい。
 方法はラリアットと、スリーパーホールドに、不快感を催すポージングだ。
「驚きから生まれただけあって、びっくりしない人は許せないのかしらね。ヒゲマッチョのパワー溢れる攻撃は厳しいものだと思うから、性質を利用するしないに関わらず、しっかりと耐えられるように備えはしておくのよ」
 ミィルは説明を終え、最後に念を押す。
「ヒゲマッチョ花嫁は戦闘中も、絶えず驚かせようとしてくるわ。ぱんっぱんに膨れ上がった腕で首を絞めつつ、髭面を近づけたり満面の笑みを見せたりするでしょう。……驚いてしまったら優先攻撃対象からは外れてしまうだろうから……き、気合と根性で頑張るのよ!」


参加者
篁・悠(暁光の騎士・e00141)
疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)
道玄・春次(花曇り・e01044)
凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)
木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)
オルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)
瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)

■リプレイ

●待ち受ける夢魔
「俺は普通の幸せな花嫁がみたかった……」
 疎影・ヒコ(吉兆の百花魁・e00998)が死に際のような台詞を吐く。
 花嫁。そう、これから戦うのは花嫁だ。ヒゲ生えてるけど。マッチョだけど。
 仕方ない。驚くような夢から生まれたドリームイーターだから。
「なんでそんな夢を……」
 変なテレビでも見てしまったのかと、木戸・ケイ(流浪のキッド・e02634)は驚きを奪われた少女を案じる。
 その手にはヒゲマッチョ写真(無料素材)。ケイは「本気でやるイメージトレーニングは、本当に効果があるんだ!」などと言い張って『その時』に備えていた。
 傍らでは相棒のボクスドラゴン・ポヨンが縮こまっている。やっぱり怖いのだろうか。
「……ある意味、ドラゴンを相手取るより恐ろしいわ」
「まぁ、筋肉と結婚するのは勝手やしえぇけど、見せびらかせんでほしいな……」
 敵を想像して口々に言い、ヒコと視線を交えたのはオルテンシア・マルブランシュ(ミストラル・e03232)に道玄・春次(花曇り・e01044)。
 付き従う磁器のようなミミック・カトルと、狐面に首巻きをつけたボクスドラゴン・雷蔵はそれぞれ驚くな・驚けと厳命され、緊張感を漂わせている。
「いや、一見すると多分面白いんだろうけどさ……」
 花嫁花婿どちらにもなれそうな容姿の少年、凪沢・悠李(想いと共に消えた泡沫の夢・e01425)が呟き、僅かに身を震わせた。
 数多の強者と渡り合う悠李も、今日は未知に等しい恐怖を感じ取ったようだ。二振りの愛刀を握りしめ、黙り込んでしまう。
 そこで真面目な考察をぶち込んだのは、瀬入・右院(夕照の騎士・e34690)。
「……花嫁姿ということは、誰かのお嫁さんになった屈強なヒゲマッチョということでニッチな需要はあると思う」
 ただ悲しいかな、その需要は此処にない。
 いや、右院にはあるのかもしれないが、言えばどうなることか。
 だから二の句は継がない。
 アウレリア・ドレヴァンツ(白夜・e26848)も伏目がちに憂いを醸し、閉口したまま。
 静けさの中に浮かぶ彼女の真白いシルエットを見ているだけなら、どれほど平穏でいられることだろう。
 しかし8人もいれば、沈黙は破られるもの。
「ふむ。まぁまぁひどいマッチョ話。ギャグの定番ではある」
 至極マイペースに、篁・悠(暁光の騎士・e00141)は言った。
 まぁまぁひどいで済むのかどうか。
 悠たちは未だ知らない。

●遭遇
 ケルベロスたちは路地を明かりで照らしながら進んでいく。
 そうしなければならないほどではない。けれど先に待ち受けるものを考えれば、今は仄かな光にすら縋っていたい。
「後ろ姿が見えたらブーケトスを警戒……」
 吐き出したパワーワードに耐えかね、再び口を噤むオルテンシア。
 ブーケトスを用心する機会は、一生に二度とないだろう。
 というか、いくらデウスエクスでも気安く変に尖った怪物を出さないでほしいところ。
 オルテンシアは予知に繋がる情報を提供した旅団仲間の顔を思い浮かべて俯き、彼の分まで頑張ろうと意気込む。
 そして前を向く。
 いた。
 そこに奴がいた。
 綺麗な逆三角形の肉体を、光り輝く布地に包むことで砂時計型に整えたパッションモンスターが。
 心臓がトランポリンみたいに跳ねる。
 こいつぁやべぇ雰囲気がぷんぷんする。逃げるなら今しかない。
 けれど彼らは勇敢だった。誰も逃げようとしない。
 覚悟完了である。いざ、審判の時。
 ――ふわり。
「親方ァ! 急にブーケトスが!」
 脱落者一号は右院だった。宙に舞う花束を指差して、ツッコミ混じりの驚きを示す。
 しかしブーケは止まらない。それにブレーキはついてない。
 みるみるうちに迫る筋肉披露宴招待状。
 腕を伸ばして受け入れる素振りを見せたのは、悠とケイ。
(「取りには行く。取りにはいくが……まだまだ身を固めるつもりはないぞ!」)
 土壇場で、ケイがバックを踏んだ。
 ブーケトスに付き物の競り合いは起こらず、花束は悠の手元へと収まる。
「……! はっ! つい取ってしまった!」
「ンフフ、何よぉキャッチする気マンマンだったく・せ・に!」
 ついでにヒゲマッチョも悠の懐に収まっていた。
 野太い声を漏らし、シンメトリカルエキゾチックなヒゲを見せつけ、露出の少ないウェディングドレス姿でも筋肉をアピールできるポーズ――いわゆる上腕三頭筋を強調する為に後ろ手組んで半身を捻るサイドトライセプスを決めながら、鼻が擦れ合うほど近くにいた。
「うわー、なんて……ってぇあああああぁぁぁぁああ?!」
 悲鳴が空気を震わせる。ただ、震源地は悠ではない。
 悠李だ。彼がここまで取り乱すのは、なんとも珍しい。
 珍しいものには価値がある。魅力がある。
「やだカワイイ子。ねぇ大腿二頭筋の鍛え方とか興味ない? ウェディングからのパンプアップしない?」
「しないしない! 生憎だけど花婿役は御免こうむるかな!」
「あらん残念」
 熱烈な勧誘に痛烈な驚きと拒否が示され、花嫁は悠李を伴侶候補から取り下げた。
 それからぐるりと、ケルベロスたちを見回す。
 ヒコは固まっていた。驚愕を塗りつけた顔から口元だけを何とか隠し、せめてそのヒゲがなければと世を恨んでいた。
 春次は無になっていた。青化粧の狐面で狭まった視界を埋め尽くすヒゲマッチョなど存在しないのだと、心を滅多刺しに殺し尽くしていた。隣には大口を開いた雷蔵が信楽焼の狸みたいに鎮座していた。
 オルテンシアもまた、表情を変えていない。寄り添うミミック・カトルは蓋が空の彼方まで飛びそうなくらい揺れていたが、主人に真顔で押さえつけられていた。ごめんねカトル。割れないでねカトル。
 そのカトルと同等に震えていたのはアウレリアだ。此方は美しい紫の双眸を零れてしまうのではと思うほどに限界一杯見開き、ついには耐えかねて成層圏を突き抜けるような悲鳴を上げた。これにはヒゲマッチョも大層満足な様子であった。
「カワイイ子の驚きは捗るわぁ。ほらヒゲも筋肉も喜んで跳ねてる」
「ワーオ、くっど」
 筋肉と同化しそうな距離にいても、悠が見せるのは花束を掴んだ頃から変わらず、気持ち程度の驚き。
「やぁねぇ。女の子でも淡白なのは嫌われるわよん」
「ははっ、こいつぅ」
 我道対我道、究極の対決は凡人に計り知れない高みで五分五分の平行線を辿る。
 無理くりにゴングを鳴らさねば、いつまでも終わりそうにない。
「おめでとう! 素敵なお嫁さんになれるといいな!」
 ケイが平静を装ったまま祝福して、場面の転換を図る。
 それを切っ掛けに、4人のケルベロスたちが夜空へ舞って流星と化した。
 次々と墜ちてくる者たちの先頭はオルテンシア。問答無用の蹴りが、悠とヒゲマッチョの逢瀬を裂く。
 双子星の如く引き寄せられて、ヒコも敵の脊椎あたりへ重力たっぷりの脚を打ち込む。
「そのヒゲ、剃り落としてやろうか?」
 挑発してみせるも、既に驚きを示したヒコには目もくれず。
 ヒゲマッチョはオルテンシアに向けて、地響きのような声で「乱暴ねぇ」と囁いた。
 それだけで胃もたれするほど濃厚濃密なカットだ。しかしブーケに夢見るような質でないオルテンシアは、顔面を石膏で固めたみたいに無反応を貫く。
 そして自身の女性らしい柔らかな肢体とは対象的な筋肉を蹴り上げ、ヒコと二人で怪物から間合いを取れば、降り注ぐ新たな流星はヒゲマッチョに動くことを許さない。
 いや、動いてほしくないというのが正確なところであろうか。
(「……じつに、濃い、わ……」)
 蹴るには近づくしかない因果と、ヒゲマッチョの存在感を噛みしめるアウレリア。
 右院も脚先から伝わる筋肉の頑強さに、思わず称賛の声を上げてみたくなる。
 ただ大変惜しいことに、目の前のそれはマッスル以外にも属性を盛っていた。
 ヒゲ、スマイル、ドレス。そしてオネェ口調。
「うふ、みんなして情熱的ねぇん」
「うわー!! やめろー!!」
 驚かせようとしてきたわけでもないのに、右院から絶叫が新生する。
 そもそもこいつはなんなのだ。
 花嫁と言うからには女であるのか。ヒゲが生えてるから男であるのか。
 マッチョメンなのかプリティウーマンなのか。判断がつかない。つけようもない。
 ただ確実に言い表せる単語は、ヒゲマッチョ花嫁。それだけ。
「中々のカオス! だが僕等はそのカオスに、カオスを叩きつけねばならない!!」
 類は友を呼ぶ。混沌は混沌を喚ぶ。
 息巻く悠はヒゲを蓄えた柔和な老紳士黄金像を担ぎ上げ、気を取り直して啖呵を切った。
「闇あるところ光あり……人あるところカオスあり……混沌よりの使者、ケルベロス参上!!」
「ふーん」
「つれない!!」
 小さじ一杯程度しか驚いていないというのにもう倦怠期だ。
 しょっぱすぎる対応に思わず、悠は路地を黄金像で叩く。
 そして投げた。マッチョでビッグで髪型がアレなゴールドスタチューをぶん投げた。
 反射的に、ヒゲマッチョも豪腕を唸らせる。
 モザイク製マッスルと芸術性マッスルは互いの価値を賭けてぶつかり合い、その熱量を相殺した。
 だが、激しい衝突の代償はすぐさま表れる。黄金像の首が、ギロチンにかけられたように転げ落ちたのだ。
「な……なんだよそれ!?」
 ケイが己の目を疑って声を上げる間に、花嫁は人差し指と小指を立てた腕を天に向けて「ウィー!」と叫ぶ。
 見た目がヤバイ。中身もヤバイ。攻撃力も半端ない。
 紛うことなき、アレはクラッシャー。
「頼むからそのまま、そのままで痺れとってや!」
 これ以上に悍ましいものを見なくて済むよう、春次が雷宿す精霊の力で降らせた光の矢雨に花嫁を飲み込む。
 雷蔵も一緒にブレスを噴きつけ、ミミックのカトルはようやく開けた蓋口から覗く、鋭い牙で齧りつく。
「……さ、さっさと終わらせようか! うん!」
 戦いの興奮に少々の動揺を織り交ぜ、上気した悠李は光に包まれる筋肉を四方から斬りつけた。
 誰もが皆、確かな手応えを感じ取る。
 それは、いかに面妖であっても殺せる相手だという証。
 ならば斬ろう。斬って裂いて燃やして、筋繊維の一片まで残さず消し去ってやろう。
 ケイは愛刀シラヌイに雷の霊力を込め、光の中に突き立てた。
 それが彼にとって、最大の不幸を呼ぶ要因となった。
 刃から伝わる感触が変わったことに気付いた瞬間、首周りに絡みつく双頭の大蛇。
 誰かがフォローに入る暇もなく、聞こえてくる悪鬼の囁き。
 骨が軋む音に抗って頭を動かせば、そこには満面のヒゲマッチョ。
「……そ、そんなに近づくなよ、キスするぞ!」
「ばっちこい」
 ヒゲが肌を撫で、唇がそっと重なる。
 アウレリアは連携を取れるようにと、視野を広くしていたことを悔いた。
 そして新しい悲鳴を上げた。

●夢の跡
 予想だにしなかった事態だ。
 まず間違いなく、ただでは済まない。首絞めはヒゲマッチョのグラビティである。
 盾役とはいえ、今のうちにケイを回復してやるべきか。
 右院は脳内会議にかけて、即座に却下した。
 何故ならば。今日使えるヒールグラビティは、在りし日のアスガルドを溢れんばかりに覆ったといわれるヴァナディースの花々、その幻影を生み出して癒やすというもの。
 此処で使えばどうなろう。咲き誇るのは赤い薔薇じゃなかろうか。
 それじゃ視覚的に死んでしまう。代わりに空の霊力を帯びた得物で一撃入れて抜けると、生気の欠けた細身の色男は解放された。
 息はある。口づけはただのおまけだ。
 だから生命は奪われなかった。ちょっと汚されただけで。
「ゲェー!!」
 のたうち回って、ケイは声を絞り出す。
「なんで、俺ばかりこんな目に……」
「ケイ、あいつぁいい奴だった――じゃねぇ、メディック! メディーック!!」
 ヒコが救急医療班を呼ぶ。今日の当直は――頼れるか否か、2匹のボクスドラゴン。
 先に雷蔵が属性の注入を図り、続いてポヨンが出しうる限りに水の力を放出。
 患者の顔は少し安らかになったが、立ち直るにはやはり足りない。
「わたしも、癒す、ね」
 先のことは忘れ、手を貸すべきと判断したアウレリアが力を分け与える。
 その合間にも躍動する筋肉。激しい抵抗を見せるケルベロス。
 揺れるヒゲ。なびくヒゲ。抜け落ちるヒゲ。
 ビジュアルは間違いなく敵の圧勝だ。
 けれど超筋肉的災害を何としても止めようと奮戦するケルベロスに、流れは傾いてきた。
「しっかり、もうすこし、よっ」
「お、おう……」
 治療の甲斐あって復帰するも、未だ青ざめた顔のケイをアウレリアが辿々しく励ます。
 そんな彼らはそっちのけで、ヒゲマッチョは春次に向けて仁王立ちからのマッスルアピールを始める。
(「……あ、あぁ……あかん……」)
 気持ち悪いのに、目が離せない。
「駄目よ」
 狐面の下で顔を引きつらせる春次に言って、素早く盾になるオルテンシア。
 途端、訪れる猛烈な不快感。
 込み上げるものを堪えて、オルテンシアは御業から炎弾を撃つ。
 春次も合わせて、竜の幻影を解き放つ。
 炎はひとしきり揺らめいて消える。
 ヒゲマッチョはこんがりと焼けた姿を露わにする。笑顔で。
「これ以上付き合ってられるか!」
 居合い一閃。ケイの斬り抜けた後には再び、桜色の炎が燃え上がった。
 その桜に、継ぎ足されていく花弁の嵐。
「――斬り裂け」
 アウレリアの囁きに吹き荒れる風が、花を刃に変えて筋肉を斬り刻む。
 斬り合いなら負けられない。悠李も風の中へ溶けるように、ヒゲマッチョの周りを幾度となく跳び跳ねて刃を閃かせる。
 そうしている内に興奮が動揺を上回る。頬を朱に染め笑みを浮かべて、マッチョを斬り続ける悠李――それはそれで恐ろしい。
「俺にゃ幸せに出来ねぇわ」
 ヒコの言葉の矛先はもちろん、ヒゲマッチョのことである。
 だからせめて、幸せな夢に還るといい。涅槃西風を纏った一蹴が花嫁を襲う。
 右院もまた、流星の如く降って蹴りつける。
 筋肉劇場の閉幕が近づいてきた。
「次元の門よ開け! 境界を穿ち、シリアスに風穴を開けよ! 混沌より顕れ出でよ、螺旋刻む未知の災厄ッ!!」
 謎の門から綺麗な紳士像を取り出して、悠がドリルのように回転させながら叩きつける。
「グワァー!!」
「来世は健全なマッスルに生まれ変われよ……!」
 祈る右院の前で悲鳴を上げて、花嫁は散っていく。

 路地を直して戦いの傷を癒やして。やっと訪れる安寧。
 一つ深呼吸をして頬の朱を消し、悠李は呟く。
「……嫌な夢を見た気分だよ」
 そろそろ快復したであろう、夢の源である少女もこんな心境だったろうか。
「だが、アレが最後のマッチョ花嫁ではない。第二第三のマッチョ花嫁的な生物は必ず――」
 花嫁の名残に一輪の薔薇を手向けながら、とんでもない予言を立てる悠。
 その言葉に、項垂れたケイのみならず皆が思うのだった。
 ……頼む、勘弁してくれ、と。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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