●指令
ミス・バタフライに呼び出された螺旋忍軍2人が、頭を下げる。
「お呼びでしょうか、ミス・バタフライ」
「風鈴職人という、風鈴をつくる仕事を生業としている人間がいるようなのです」
螺旋忍軍の2人は、静かにミス・バタフライの次の言葉を待つ。
「風鈴職人と接触して仕事の内容を確認しなさい。可能であれば、技術を習得した後に殺害するのです。ああ、グラビティ・チェインの略奪については任せるわ」
「かしこまりました。一見すると、意味の無いように見えるこの事件も、巡り巡れば地球の支配権を大きく揺るがす事になるのでしょう。私たちにお任せください」
「では、行きなさい」
ミス・バタフライがうなずくと、螺旋忍軍2人は煙のように消え失せた。
●ヘリポートにて
「ミス・バタフライが風鈴職人を狙っている」
ヘリポートで説明するウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)の声を聞き、平坂・サヤ(こととい・e01301)がうなずく。
「サヤの警戒していたとおりになったのですね」
「どうやらそのようだ。ミス・バタフライが起こそうとしている事件そのものは大したことはない」
ただ、巡り巡れば大きな影響が出るかもしれない、という厄介な事件だ。
「今回、ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍は『風鈴職人』のところに現れて、仕事の情報を得る。そして仕事の技術を習得した後に殺そうとするようなのだ」
この事件を阻止しなければ、巡り巡ってケルベロスに不利な状況が発生してしまう可能性が高い。それがなくとも、螺旋忍軍に殺されようとする一般人を見逃すことはできない。
「一般人の保護と、ミス・バタフライ配下の螺旋忍軍の撃破。それが今回の仕事内容というわけですね?」
柵夜・桟月(地球人のブレイズキャリバー・en0125)が同意を求めると、ウィズは静かに肯定した。
「今回の依頼の流れだが……基本的には、狙われる風鈴職人を護衛し、現れた螺旋忍軍と戦うことになる。ただ、事前に説明して職人を避難させてしまった場合、螺旋忍軍は別の対象を狙ってしまうだろう。結果、被害を防げなくなってしまうので気をつけてくれ」
また、事件の3日ほど前から風鈴職人に接触できる。事情を話して仕事を教えてもらえれば、囮となって螺旋忍軍の狙いを変えさせられるかもしれないという。
「仕事を教えてもらって囮となるには、風鈴職人『見習い』程度の力量を求められることになる。しっかりと、本気で取り組む必要があるかもしれないな」
次は戦闘のための情報だ、とウィズが告げる。
「戦闘となる螺旋忍軍は2体。両者ともに命中率が高く、ジャグリングのような攻撃を得意としているようだ」
戦闘は工房内でも可能だが、付近には公園もある。囮になれたら、そこまで誘き寄せるのもいいだろう。
「また、囮になることに成功した場合は、螺旋忍軍に『技術を教える修行』と称し、2体の螺旋忍軍を分断したり、一方的に先制攻撃を加えたりと、戦闘を有利に進められる」
螺旋忍軍自体は、一般人に比べてケルベロスが強いことはわかるが、一芸に秀でた一般人ならばこんなものかと、特に怪しまずに接触してくるようだ。
「情報は以上だ。作戦などは君たちに一任する、よろしく頼む」
「風鈴職人さんのためにも、がんばらないとですねえ」
ヘリポートに集まったケルベロスたちを見渡し、サヤが微笑んだ。
参加者 | |
---|---|
フェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357) |
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107) |
平坂・サヤ(こととい・e01301) |
朝霧・美羽(アルカンシェル・e01615) |
ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134) |
茶野・市松(ワズライ・e12278) |
ジャスティン・ロー(水玉ポップガール・e23362) |
呉羽・楔(無貌の歌い手・e34709) |
●吹く音
『風野風鈴堂』の引き戸を開けると、店主の風野・宗二が出迎える。店内に釣り下げられた数々の風鈴は圧巻だ。
「おう、いらっしゃい。団体さん……ということは、体験教室を希望かい?」
人懐っこい笑みで歓迎する宗二に、朝霧・美羽(アルカンシェル・e01615)が事情を説明する。
「螺旋忍軍が風鈴職人を狙っていて、宗二さんが危ないんだ。ボクたちが囮にるために、風鈴づくりの技術を教えてもらいたいんだよ」
「あなたが命を落とすのを、黙って見過ごすわけにはいきません。どうか、あなたの技術を私たちに教えていただけないでしょうか?」
呉羽・楔(無貌の歌い手・e34709)も丁寧に言葉を重ねる。
説得をする二人の後ろから、ヴェルセア・エイムハーツ(ブージャム・e03134)が宗二の目をじっと見る。いろいろ思うところはあるのだが、本性を出して不況を買うよりはという配慮からだ。
腕組みをして考え込んでいた宗二は、やがておもむろに顔を上げた。
「……命には代えられねぇよな。わかった、教えてやろう。それに、ケルベロスにはお世話になってるしな」
にかっと笑う宗二に、平坂・サヤ(こととい・e01301)がぺこりと頭を下げる。
「ちりんて鳴ると、夏がきたってわかってすてきなのですよ。サヤにとってよいものなのです。螺旋忍軍などに渡さないよう、がんばらせてくださいねえ」
作業場に移動して説明を受けた後は、熱したガラスを先端につけた竿を渡された。竿を回しながら息を吹き込み、ガラスを膨らませてゆくのだ。
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)は宗二から竿を受け取り、黙々とガラスを膨らませて修行に励む。
同じく竿を受け取ったフェクト・シュローダー(レッツゴッド・e00357)は、得意気に胸を反らせた。
「ガラスを膨らませるコツはゆっくり長く息を入れること!」
だよね、と、宗二をちらりと見ると、笑顔が返ってきた。ヘリオンでの移動中にスマホを利用して予習してきたことも自信へと繋がっているようで、フェクトは臆することなく息を吹き込んでゆく。
「サヤちゃんガラス膨らませれる? 肺活量足りる?」
「硝子を吹くのは、さすがにはじめてなのです」
膨らまし終えたフェクトが問えば、少しばかり緊張した面持ちでサヤも硝子を膨らませてゆく。竿を回しながら、厚すぎず、薄すぎず。
「……ううう、むずかしい。美羽はどうですか?」
「これでもミュージックファイターの端くれ、肺活量にはソコソコ自信があるのよ、うふふん。——へえ、溶けた硝子って飴みたいね、不思議」
微笑み、美羽は受け取った竿の先端をじっと見る。テレビウムの「ベル」に視線を落とせば、同じようにガラスをじっと見ている。美羽の視線に気付いて、ベルは笑顔の顔文字を写し出した。
難なくこなす宗二の動きを参考に美羽も膨らませてゆく、のだが。
「いざ自分でやってみるとちょー難しい! でも! 体力と根気が続くかぎり努力を惜しまずにやってくのよっ」
意気込む美羽にガラスをつけた竿をまた渡し、宗二は助言する。
赤く溶けたガラスに目を細めつつ、楔も息を吹き込んだ。
「確かに難しいですね。でも、楽しいです」
吹き込む空気が形になる様子は面白く、誰もがついつい夢中になってしまう。
「お前さんも初めてかい?」
「海の向こうから遥々技術を学びに来たんダ。だガ、器用さには自信があるゼ。誰より上手くやってみせてやろうじゃねぇカ」
宗二の問いに自信満々に答えるのは、ヴェルセア。口も素行も手癖も悪い怪盗だが、技術を盗むのは専門外。黙ってハチマキを巻き、寡黙な弟子に徹するのだった。とはいえ、人相も相まってチンピラに見えないこともないのだが。
「見てナ、俺の繊細な職人技ヲ」
言って膨らませるヴェルセアを、宗二はと興味深そうに見つめる。
「おお、なかなか上手じゃねえか」
宗二の賞賛に得意気な表情を見せるヴェルセアであったが、続く宗二の言葉を聞いて。
「一つの工程に三年は修行する必要があるんだが、どうだ、本格的に修行してみないか?」
「冗談じゃねぇゼ!」
と返せば、フ作業場に宗二の笑い声が響くのであった。
●描く音
ガラスを吹く工程はなかなかに難しく、二日目も集中的に行うことになった。
「絵を描くのも難しいけどよ、形を作んのも難しいよなあ。つーか、形から作らねぇと絵付けもできねぇからよ」
そうつぶやくのは、茶野・市松(ワズライ・e12278)。周囲の仲間の様子を確認すると、コツをつかんでいる者、ゆっくりだが着実に上達している者など、進捗はさまざまだ。
「熱い硝子を扱うの、少し飴作りに似ているわね。熱さは随分違いそうだけれど」
微笑む繰空・千歳に、市松がうなずいた。
「風鈴作りはまず硝子を吹く所から始めるんだと。これがなかなか難しいみてぇでよ、力を入れ過ぎてもいけねぇよなあ」
「市松は、力を抜いて、っていうの、苦手そうよね」
千歳に言われながらも、市松はガラスを膨らませてゆく。市松なりに強さを意識して吹き込むのだが、なかなかガラスの厚さが均等にならない。難しいなあ、と首をひねると。
「他に吹く奴はいるかー?」
宗二がガラスのついた竿を持って呼びかけている。
「ほれ、千歳もどーぞ」
「それじゃあ、私も」
受け取り、少し強めに吹いた後は力を抜いてくるくると回せば、綺麗な形ができあがる。
「ほら、どう? なかなかうまく出来たと思わない?」
千歳が膨らませたガラスを見て、市松は飴細工みてぇだ、とこぼした。
来栖・カノンとともに何度も挑戦するのは、ジャスティン・ロー(水玉ポップガール・e23362)。不慣れな様子で膨らませるカノンに、ジャスティンは慌てて声をかける。
「か、カノンちゃん大丈夫!? 熱いし火傷してない!?」
そんなジャスティンの心配をよそに、ふふんと自信のある表情で返すカノン。ぎゅっと力こぶしを作……ろうとして、もちろんできないため形だけのポーズを取った。
「でも、やっぱり難しいね。どうすれば上手くできるかなあ?」
「力加減を変えてみようか。あっ、センセーいいところに! 吹き方のコツ教えてー!」
ジャスティンが宗二をつかまえ、さらなる助言を求める。些細なことも聞き逃さないようにと、カノンは相づちをうちながら話に聞き入るのだった。
そして3日目。それぞれが吹いた硝子をカットして、絵付けを始める。
「私は、神様らしく十字架の絵を入れよーっと!」
ガラスの内側に筆を滑らせ、線を描くフェクト。
「ここが一番難しいね……曲面に十字架ってめっちゃ難し……何とか……何とか綺麗に……!」
一方のサヤは、お手本をよく見ながら描いてゆく。薄い青の流れは、いかにも涼しげだ。
「きれいに描けましたねえ。皆様はどんな風鈴になりました?」
「ボクはベルの絵を描いたよ! どうかな?」
と、かたわらのサーヴァントの絵が描かれた風鈴を見せる美羽。
「私は金魚の絵を。ちょっと工夫して、下から見ると薔薇に見えるようにしてみました」
風鈴をくるりと回し、楔が微笑む。次々と完成させていく仲間を横目に、市松はため息をついた。
「形を作ったら絵を描かにゃあならねぇ。風鈴作りって、終始難しいなあ……飴つくりみてぇに繊細だよな」
「本当、なかなか細かい作業が多いわよね」
千歳も小さく息を吐く。しかしほぼ最後の工程、気力を振り絞って市松は筆をとる。
「よーし、夏らしく金魚の絵を描くぜー。……つゆに食べられそうだけどなあ」
「それじゃあ私は……夏らしく花火といきましょうか。皆でまた、お祭りにも行きたいわね?」
暦のうえでは、既に夏。もう少ししたら、夏祭りもたくさん開催されることだろう。
「カノンちゃん、絵柄はどーしよ? 夏っぽいものが多いみたいだよ」
「んうう、夏かあ……」
「僕は花火にしよっかな」
「じゃあじゃあ、ボクはすいかにするんだよー! おっきいやつ!」
ジャスティンとカノンが向かい合い、ガラスに絵を入れる。真剣にやっていても、輪郭がゆがみ、不格好なすいかになる。それでもどうにか完成にこぎつけ、カノンはまじまじと風鈴を見た。
「ま、まあこれも味があるってやつなんだよ!」
「僕も完成! かな!? そういえば、もう夏も近いんだねー。……ねえねえ、今度花火見に行こうよ!」
ジャスティンに言われ、カノンは驚く。
「……! うん! 一緒に見にいきたいんだよ! えへへ、花火……夏が来るのが待ち遠しいんだよう……」
カノンは笑顔を浮かべ、できあがった風鈴を指でつついた。
●守る音
3日間の修行を終えたところで、囮役を決定する。宗二の話も交え、サヤ、楔、フェクトの3人が囮として店頭に立つことになった。
店内に風鈴を吊しながら、来訪を待つ。引き戸の開く音で入り口を見れば、軽業師のような格好をした者が二人。螺旋忍軍だ。
「私たちに風鈴の作り方を教えてくれ」
来店するなり、そう告げた。
「良い風鈴を作るには、まず音の違いを知らなくては。近くの公園で聞き比べてみましょう」
答えるサヤに、螺旋忍軍は疑問を呈する。
「ふむ……一理あるが、なぜ公園?」
「公園はここより静かです。静かな場所で聞く方が、より音の大切さが解るのです」
落ち着いた所作で、楔が答える。楔のあまりにも堂々とした態度に、螺旋忍軍は納得しているようだ。
「それじゃ、音を聞きに公園まで行こうー!」
フェクトが拳を掲げ、店を出た。ケルベロスと螺旋忍軍たちは、連れ立って公園へと向かう。
双子の姉である楔から『公園に移動する』という連絡をもらった呉羽・律は、小さくため息をついた。
「頭の傷の治療が終わってないのにこの依頼に行くって言い出した時はどうしようかと思ったが……上手くやれているようで何よりだ」
と、茂みに潜む相棒のジョルディ・クレイグと視線を交わす。
そして、囮役たちが到着するまで公園に立ち入ろうとする一般人に離れているようにと都度告げるのだった。
囮のケルベロスと螺旋忍軍が公園に着くや否や、楔は螺旋忍軍に向き直った。
「では始めましょうか!」
そう言われ、何も疑問に思わず手にした風鈴を鳴らす螺旋忍軍。
「始めるのは『修行』じゃなイ——『戦闘』ダ」
ヴェルセアによる流星の一撃が、螺旋忍軍の一体を蹴り飛ばす。
「戦いを始めます——竜の吐息を」
ほのかが掌から竜の幻影を放てば、螺旋忍軍が炎に包まれる。「火力を集中して一人ずつ倒しましょう。ルヴィルさん背中は任せます」
「任せろ!」
ほのかの後ろに寄り添うように立つルヴィル・コールディが、敵に向けて針状のものを投擲する。
「この楔は打ち抜く楔、心惑え、その場にとどまれ」
ルヴィルの楔が敵を貫くと、テレビウムの「櫛々」が敵にした凶器で敵を殴りつけた。
さらにフェクトがエアシューズで蹴り抜けば、サヤと美羽による達人の一撃も加わる。主が敵と距離を取るのを確認すると、ベルは動画を流して応援に回る。『この動画で合ってる?』とでもいうような顔文字に、美羽は笑顔でうなずいた。
また、ジョルディはダイナマイトモードを発動して通常時よりも重装甲、かつ金色の姿となる。
鉄塊剣「Thunderbolt Edge Mk-1」を振るい、ジョルディは集中攻撃を受けていない方の敵を引きつけようとする。
「抑え役を買って出るとはおこがましいな!」
律も同じ相手をゾディアックソードで螺旋忍軍を斬りつければ、続く楔をちらりと見る。目深に被ったフードから目だけを動かして律に微笑みを向けた後は、敵に向き直り。グラビティ・チェインを惨殺ナイフに乗せ、斬りつける。
「ケルベロスとしての初めての依頼……ちょっぴり緊張します」
攻撃が当たったことに安堵し、小さく息を吐く。仲間が集中攻撃を仕掛けていない方を抑えるのが、楔の役目だ。
奇襲攻撃が続く中、ジャスティンは仲間の援護をしようと声を張り上げた。
「補助展開コード:鷹の目――千里を見透す眼となって!」
前衛の眼前に展開されるのは、眼鏡に似たホログラフィ。ホログラフィのジャスティンがそれぞれに合った見た目のものになっている。
「センセーも日本のデントーも僕達が守るんだからね!」
ジャスティンの言葉にうなずき、ボクスドラゴンの「ピロー」が主に属性を注入する。
「カリッと噛み砕け!」
そして、市松はほのかへかりかりラーメンを提供。食べれば不思議、ほのかの命中率が向上する。ウイングキャットの「つゆ」も前衛へと風を送って状態異常への耐性を高めれば、続いて柵夜・桟月(地球人のブレイズキャリバー・en0125)がケルベロスチェインを展開して防備を高めた。
ケルベロスたちに、追い風が吹いている。
●風の音
奇襲を受けた螺旋忍軍は、どうにか体勢を立て直そうと奮戦する。しかし、対象を絞りながらもかたや抑えに回るといった立ち回りをするケルベロスを前に、螺旋忍軍は終始不利なままであった。
螺旋忍軍2体に、市松が炎の息を浴びせる。主に続いて、つゆが1体をひっかく。
「我が瞳の前に全てを晒せ! ゆけっ! ドローン!」
攻撃の合間に、ジョルディは回復の支援を行う。グラビティ・チェインで作られたカメラ型の子機が敵周囲を飛び交えば、その情報が前衛の味方が装着したゴーグル型の親機に届いて攻撃を命中しやすくする。
「夜の帳纏いし紫の歌よ…彼等から奪い給え!」
楔の様子を気にしながらも、律は七番目の「歌」を歌う。紡がれるテノーレの声色は、螺旋忍軍のから命を奪う呼び声だ。
楔も弟に負けじと妖精弓を絞り、追尾する矢を敵へと放つ。桟月が魔導書を紐解き、強化の術をほのかに施す。
螺旋忍軍2体は、やぶれかぶれとも取れる動きでナイフを放つ。
「やらせないよ!」
と、ルヴィルがほのかの前に割って入り。
「重騎士の本分は守りに有り!」
と、ジョルディが楔の前に割って入る。相棒の姉である楔には傷一つつけさせない、という意気込みだ。楔が攻撃を仕掛ける相手の前に立ち塞がり、極力自分が攻撃を引き受ける構えである。
「ルヴィルさん、ありがとうございます」
視線を敵に向けたまま、ほのかが礼を述べる。
「滅びという名の救済を」
続けてほのかが古代語を詠唱すると、無数の流星にも似た光線が螺旋忍軍を貫いた。
「ローさん、コンビネーションです!」
「まっかせて!」
応え、ジャスティンは先ほど盾となった仲間の前に雷壁を構築した。ピローもがうがう鳴きながら、ルヴィルを癒す。
「ほっぴんぐ!」
美羽がステップを踏む度に、虹色に輝く丸い泡が現れる。ゆらりゆらりと浮かぶ泡はやがて弾け、戦闘能力を増幅する七色の雫がヴェルセアに降り注いだ。
「神様も続いて!」
「おっけー! これは天罰であるぞよ!」
フェクトが跳躍し、二本のライトニングロッドで螺旋忍軍を殴りつける。流れる電流に、螺旋忍軍は膝を突きそうになる。
自身を見上げるベルに気付いた美羽は、こくりとうなずいて笑顔を向けた。
「ベルは動画を流してあげて!」
美羽の呼びかけに応じ、ベルはジョルディに向けて動画を流す。
次の瞬間、ヴェルセアが螺旋忍軍の真後ろに出現した。
「お前ハたちまち消え失せテ 二度と誰にモ会うことはなイ」
言うが早いか、ヴェルセアによる必殺の一撃。直後、螺旋忍軍は為す術なくその場に倒れ伏した。
「こっちも行けそうなのです」
サヤが大きく踏み出し、残る1体の真正面でつぶやく。
「――ようこそ」
『死の可能性』を集約し反映させれば、最後の螺旋忍軍が消し飛んだ。
公園に、穏やかな沈黙が訪れる。ケルベロスたちの、勝利だ。
「それじゃあ壊れたところをヒールするね」
「む、戦闘は終わりか……さらばっ!」
ジャスティンがヒールに取りかかるのを見て、ジョルディは素早く退散した。
修復が終わり、気付けば金色の鎧が不在。楔は首を傾げつつも、仲間へ告げる。
「念のため、風野さんの無事を確認しに行きましょう」
「そうですね。せっかくですし、ゆっくり風鈴を見ていきたいです」
ほのかが同意し、店に向かって歩き始めた。
「僕はもうちょっと風鈴作りしたいなあ。お願いしたらやらせてもらえるかなあ?」
ジャスティンは竿を回す動作を交えながら、楽しそうにスキップをする。
来た道を戻り、店に到着すると、傷一つない宗二が出迎えた。すかさずジャスティンが深々と礼をする。
「センセー、今回はありがとう! おかげで無事に螺旋忍軍を倒せたよ!」
「こっちこそありがとうな。大きな怪我した奴もいないようで、俺も安心したよ」
仲間と話す宗二の横を抜け、ヴェルセアは先日つくった風鈴を手に取った。素早く文字を書き入れ、店内に吊るす。揺れる風鈴に描かれたのは『怪盗スナーク参上』という文字。と、鴉の意匠だ。
「せっかくだからナ、記念品ダ」
「ほう、ケルベロスの作った風鈴か、なんだか縁起がいいな」
ヴェルセアがにやりと笑えば、宗二が豪快に笑う。
「風鈴の音、もう少し聴いていたいです」
「おお、そうか。じゃあ、こうしよう——」
楔の言葉に、宗二は引き戸を外した。
心地よい風が勢いよく店内に入り込むと、たくさんの風鈴が、いっせいに鳴り響く。
それはまるで、本格的な夏を呼び寄せるかのような音だった。
作者:雨音瑛 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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