白月に散るは影華か

作者:月見月


「……螺旋帝の一族が東京に身を隠したらしい。物見の報告によれば、板橋区に潜んでいるとのことだ。他の忍軍も同様の情報を掴んで動き出したという情報も上がっている」
 何処ともしれぬ場所。室内の様子も伺いしれぬ暗がりの中、蝙蝠の翼を思わせる具足をつけた螺旋忍者が配下たちに指示を出していた。その者の名は『機巧蝙蝠のお杏』、螺旋忍軍の一派である月華衆を束ねる指揮官である。
「一刻も早く、我らが月華衆が、他の忍軍に先んじてその御身を保護せねばならない。お前達は板橋区の探索を行い、どんな些細な情報でも報告せよ。もし、他の忍軍と遭遇した際には……」
 最優先でこれを討て。そう冷徹に告げる。同じ螺旋忍軍と言えども、所属が異なり、同じ目的で競うとなればそれは敵。躊躇う気など微塵もない。
「他の忍軍に奪われるわけにはいかぬからな……必ずや任務を果たせ、良いな」
「「はっ!」」
 下知が終わった瞬間、配下たちは瞬きのうちに闇の中へと消えてゆくのであった。

 そうして、月華衆が行動を始めたのとほぼ同時刻。別の螺旋忍軍も行動を開始せんとしていた。月華集の黒い装束とは正反対の、白で統一された集団。白影衆の名で知られる螺旋忍軍も、今まさに命令が下されているところであった。
「……螺旋帝潜伏の報せを受け、都内で複数の忍軍が動き出しているようです。今こそ、白影衆の力を見せる時ですね。彼らの意識が螺旋帝に捉われている今が好機……横合いから狩り取りましょう」
 頭目、雪白清廉は無機質な表情のまま、何の感慨もなく同族殺しを宣言する。彼の目的は螺旋帝の確保ではなく、螺旋忍軍の殲滅。白影衆とは雪白の信念の元に活動する集団であり、頭目の言葉に否やを唱える配下は存在しない。
「我々の目的はただ一つです……螺旋忍軍滅ぶべし」
「「螺旋忍軍滅ぶべし! 螺旋忍軍滅ぶべし!」」
 かくして、白き忍びも行動を開始するのであった。


「螺旋忍軍の東京都内での活動が活発化し始めたみたいっす。その影響で、螺旋忍軍同士での抗争も激化しているみたいで……デウスエクス同士で削り合ってくれるなら万々歳っすけど、このままじゃ早晩一般人の犠牲者が出てしまうっす」
 それを防ぐため、螺旋忍者達を撃破してほしい。集ったケルベロスたちへ、ダンテはそう口火を切った。
「螺旋忍軍は互いに相争っているっすから、時間が経てばたつほどに疲弊していくっす。その状況で介入すればこっちに有利な状況で戦えるっすけど、タイミングが遅れれば一般人の死傷者が出てしまうっす」
 それを待たずに両者の戦いへ介入するという選択肢もある。一方に肩入れしもう一方を殲滅、返す刀でもう一方も叩く、というのが理想形だが、うまく立ち回らなければ双方を相手取る羽目になるだろう。余り手早く殲滅してしまっても、全快状態の螺旋忍軍と二連戦、という可能性もある。
「どちらにするにも、慎重な判断が必須っすね」
 彼らが現れるのは東京23区の一つ、板橋区。駅前の噴水で遭遇し、戦闘を開始する。
 今回、争い合うのは月華衆と白影衆の二勢力だ。
「まず、月華衆からは黒鋤組が5名っす。技量は平均をやや下回るっすけど、入念な下準備と事前調査で成果を上げている連中っす」
 螺旋忍軍としての能力に加え、二名が日本刀、三名がエアシューズで武装している。戦闘能力こそ平凡だが、得意とする情報収集能力を生かした対応戦術で耐久力に優れる。派手さはないが、長期戦に持ち込まれれば泥沼になりかねない。
「もう一方は白影衆は4名。同じ螺旋忍軍を目標としているだけあって、攻撃的な戦術を取ってくるっす。それこそ、多少の無茶も辞さない手も取るような」
 白影衆はそれぞれ二名ずつが日本刀と螺旋手裏剣を装備している。人数こそ白影衆より一人少ないが、個々の戦闘力に関してはこちらが上だ。更に、自身に反動ダメージが来る代わりに捨て身紛いの強力な攻撃を放ってくることもあり、隙を見せれば手痛い一撃を受けるだろう。
「片や防御的、片や攻撃的。それぞれだけでは一長一短すけど、もし手を組まれたら厄介なことになるっす」
 どちらかに肩入れするにも、両方を叩くにも、無策で戦うには少々厄介な相手である。それに街中で戦闘が発生する都合上、一般人の避難についても対策が必須だ。戦闘に至るまでの流れを十分に想定しておくべきだろう。
「螺旋忍軍が争う理由を知りたいっすけど……戦場に現れる忍者は下っ端っすから、重要な情報は持っていないでしょうね」
 よしんば何かを聞けたとしても、それが正しいか確かめる術は無く、そもそも謀略と暗躍の螺旋忍軍、馬鹿正直に情報を吐くとは思えない。情報収集に労力を割くよりも、彼らの行動から独自に調査を進めるべきだろう。
「まずは目先の争いを防ぐこと、そこに全力を注いでくださいっす!」
 そう話を締めくくると、ダンテはケルベロスたちを送り出すのであった。


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
春日・いぶき(遊具箱・e00678)
エレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)
グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)

■リプレイ

●調べる者、討ち狙う者
 麗らかな日差しが差し込む5月の東京、板橋駅前。本来であれば多くの人々が行き来するその場所だが、今日この日だけは少々趣を異にしていた。
「周りに被害なしの忍者同士で抗争して自滅してくれるとケルベロス的にも楽でいいよね。そんなにうまくいかないっぽいけど」
「身内のごたごたでしたら、本拠地でやってくださいってお話ですよねー、なんて言えたら、楽ですかねえ……」
 急速に人気のなくなってゆく駅前を眺めながら、赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)とエレ・ニーレンベルギア(追憶のソール・e01027)は呆れ混じりに嘆息する。それもそのはず、目の前では駅前のロータリーを主戦場に螺旋忍軍が闘争を繰り広げていたのである。
「事前に駅員や警察に協力要請を出しておいて正解でしたね……丁重にお引き取り頂ければ良かったのですが、叩き出すしかないようです。仕方ないですよね」
 そう胸をなでおろす春日・いぶき(遊具箱・e00678)の表情こそ穏やかだが、声音にはやや不機嫌そうな色が混じる。そこへ、僅かに残っていた人々の誘導を警察に引き継ぎ終えたシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)が合流する。
「敵に察知されることを警戒したことで、避難誘導を出来るのがギリギリになってしまったからな……ともあれ、これで周囲に一般市民は居なくなった」
「なら、もう待っている必要はないわね。さっさとこんな仲間割れ終わらせてやりましょ。喧嘩両成敗よ。行くわよ、九十九!」
 螺旋忍軍の行動はケルベロスや一般市民を狙ったものではないが、眼中にない分周りへの被害も大きく、たちの悪さではこちらが上だ。カチャリと、橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)は真紅のリボルバーを抜き放ち、足元ではテレビウムも臨戦態勢へと入るや、両者の戦いへと割って入る。
「む、何やつ!?」
「ケルベロスか、ええい、こんな時に!」
 突如現れた闖入者への驚愕と忌々しさが滲む声が、両方の螺旋忍軍より上がった。ケルベロスはデウスエクスにとって不倶戴天の敵。すわ三つ巴の戦いになると両者が覚悟した時。
「さて、と。それじゃあ相手をしてもらおうか……月華衆の黒鋤組さん?」
「な、なんだと!?」
 ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・e01329)は手にしたハンマーの矛先を、月華衆へと向けた。赤い頭巾姿のビハインドに背後を警戒させてはいるものの、月影衆に背中を向ける形だ。予想外の事態に、両派閥に困惑が滲む。
「……如何なる心算か」
「利害の一致というやつだ。こちらは早急な事態の収束と一般人の安全確保が目的だが、そちらは螺旋忍軍殲滅が狙い……違うか?」
「是なり……いや、しかし」
 グレッグ・ロックハート(泡沫夢幻・e23784)の言葉に、白影衆は躊躇する。搦め手禁じ手を使わせれば右に出る者がいないのが螺旋忍軍だ。それだけに、後ろを刺されるという危険性にも人一倍敏感である。そんな相手の懸念に対し、西村・正夫(週刊中年凡夫・e05577)は懸念を否定することなく言葉を紡ぐ。
「そちらもプロでしょう? 利用できるものは利用、潰すのは役に立たなくなってから……それ位の事は考えられでしょう。そちらの最優先事項はなんですか?」
 突如として現れた相手と信頼関係など築きようがない。であれば、リスクを呑めるメリットを提示するしかない。そして白影衆は、同じ螺旋忍軍殲滅を掲げる異端の螺旋忍軍。
「危険だ、危険ではあるが……目的達成は確実」
「立ち回り次第で懸念はどうとでも。下手な世辞より信用出来よう」
 であるがゆえに、ケルベロスの助力という要素は無視できない。ケルベロスに向けられていた警戒心が僅かに緩み、その分月華衆への殺意が鋭さを増した。
「奴らを打倒するまでは、積極的に攻撃は仕掛けない」
「ええ、それで結構です」
 戦うべき相手が一つだけに限定されるだけで十二分。対して月華衆の口ぶりは苦々しい。
「おのれ、ケルベロス、白影衆……だが、容易く落とせると思わないことだ」
 それでも逃走を図らぬのは、勝利の道が見えているということ。数で勝ろうとも、決して安堵できる保証はどこにもなかった。

●二つ陣営、三つ巴
「ケルベロスの戦力は未知数、まずは戦闘力の分析を……!」
「お得意の情報収集に徹するのは良いが……攻めてこないのであれば、こちらから仕掛けさせて貰おう」
 地力に劣る分、事前準備でそれを補う黒鋤組だが、反面突発事態への対応は不得手だ。故にケルベロスの力量を見極めようとする相手に対し、グレッグは機先を制して攻めかかる。まずは手近な日本刀使いへと、電光石火の脚撃を叩き込んだ。
「ほう、中々に良き体裁き」
(「あー、見られてますよね、やっぱり……」)
 グレッグを逃すまいと攻撃を集中させる黒鋤組に対し、ふわふわとした毛並みのウイングキャットが光輪で攪乱する。更に視界を遮る様に爆煙を生み出すエレだったが、そこに紛れた白影衆の呟きを耳がとらえた。互いを利用し合っている以上、次を見越して行動するのは当然だ。だが、それはケルベロスとて同じこと。
「螺旋忍軍、滅ぶべし!」
「この狂人どもが! 貴様らであれば能力は割れている!」
 煙幕を破り、白影衆の日本刀使いが切り込んでゆく。対する黒鋤衆は同じ螺旋忍軍であれば問題なしと、対応戦術でもって迎え撃つ。
「このまま削り合ってくれれば楽なんですが、楽をしようとする時ほど存外楽ができないってのも世の常ですかね」
「あんまり露骨だと、手を組んで先にこっちを倒そうとしかねないからね……疑われない程度にこっちも攻めるわよ!」
 紙兵を散布しながら防御を整えてゆく正夫の横で、芍薬がリボルバーを構える。敵味方入り乱れる戦場だが、地面や壁といった障害物に当たって跳ね回る銃弾は、黒鋤組の背後へ襲い掛かった。
「避けられん、くそ、誰か援護を、ぐぅっ!?」
 それを好機と見た白影衆が眼前に迫り、挟撃された黒鋤組が助けを求める。だがその叫びも虚しく、居合いと銃弾を受けた黒鋤組が一体、消滅した。
「守りを固めつつケルベロスを狙え。奴らが一番の不確定要素だ!」
 日本刀を手に白影衆と切り結んでいる黒鋤組が、仲間の空靴使いに指示を飛ばす。しかし、その動きは白影衆と比べるとどうしても劣っており。
「このまま守っていてもジリ貧だっていう考えは合ってるけど、それに実力が見合っていないみたいだ、ねっ!」
 ロベリアの放った轟竜砲が足元を捉え、爆発が地面ごと黒鋤組を飲み込んだ。全身を焼け焦がせながら、何とか空靴使いは炎の中から転がり出る……が。
「いまだよ、シヴィルちゃん!」
「ああ、任された! 受けるがいい、カジャス流奥義……サン・ブラスト!」
 それは致命的に過ぎる隙だった。攻撃によって態勢を崩した黒鋤組へ、シヴィルは前傾姿勢のまま翼をはためかせ肉薄する。黒鋤組は、ただそれを受けるより他なく。
「想定外が、多す、ぎ……た」
「ええい、攻撃を続行する!」
 上下に分断され、死体を残すことなく消滅した。その光景にもう一人の空靴使いは一瞬怯むも、後には引けぬと攻撃続行を決意する。素早い身のこなしで地面を擦りあげるように蹴りを放つと、瞬く間に暴風が吹き荒れた。
「一先ず、こちらの陣形を崩すつもりのようですね……この状況になっても、戦闘を続ける心意気は認めますが」
「おおおおっ、取ったっ!」
 暴風に乗じての頭上からの強襲。重力を込めた踵落としがいぶきの頭蓋目掛け叩き込まれんとする……が、ビキリとその体が硬直した。攻撃の瞬間、いぶきの魔力を込めた視線が螺旋忍者を縛めたのだ。そうして落ちる先には、拳を構えた緋色の姿があった。
「そんな状態じゃ、避けられないよねー? 小江戸の緋色が退治してあげる!」
「お、のれぇぇぇ!」
 音速をこえる拳が、黒鋤組の顔面にめり込む。落下のスピードも相まって凄まじい威力を発揮した一撃によって天高く打ち上げられ……哀れ、中空にて爆発四散するのであった。
「これで三体だねー。残りが逃げちゃうって可能性は……」
「いや、どうやらあちらも終わったみたいです」
 月華衆の逃走を警戒する緋色だったが、いぶきはその心配はないと否定する。見ると白影衆に切り捨てられた残りの月華衆が倒れ伏すところであった。肉体が崩れ、コギトエルゴスムへと変じてゆく。
(「可能であれば捨て身攻撃の一回も使わせたかったが、そう上手くはいかないか」)
 グレッグが見たところ、白影衆もそれなりに体力を消耗しているが、十二分に戦闘続行可能な範囲だ。戦闘の合間に生まれた束の間の空白。弛緩と緊張の入り混じった空気をうち破ったのは。
「シッ!」
「っとぉ!」
 放たれた螺旋手裏剣と、それを打ち落とすビハインドの大鎌だった。攻撃の主はもちろん、白影衆。
「こっちも見逃す気はないけど、随分と性急だね」
「……どちらも消耗していますし、これで戦闘は終わり、はいさようならって訳にはいきませんかね?」
「愚問なり。はて、役に立たなくなれば潰せばいいというのは、誰の言葉であったかな……ゆくぞ!」
 ロベリアと正夫の言葉に対するは明確な拒否。彼らとしても疲弊している相手は確実に叩いておきたいのだろう。それを皮切りに、戦いは瞬く間に第二戦へともつれ込んでゆく。
「これより後に憂いなし。全力で行くぞ!」
「望むところだ。貴様らの月下美人の華と、我らがシンボルとする向日葵の花。最後まで残る花はいったいどちらか、いざ勝負!」
 躊躇なく切りかかってきた日本刀使いに対し、シヴィルも漆黒の星辰剣にて応ずる。重力を帯びた斬撃と素早い剣閃が鍔ぜり合う。相手も相応に消耗しているが、まだ奥の手である捨て身攻撃を温存している以上、油断は禁物である。
「ですが、手の内を隠しているのは貴方たちだけではありませんよ。生とは、煌めいてこそーー粉硝子」
 一方、温存しなくてもよいのはケルベロスも同様だ。いぶきは戦場一帯へきらきらと輝く硝子の粉塵を振りまくや、それらは仲間たちの皮膚を被膜のように覆ってゆく。
「小癪なり、その程度の守り、月華衆同様打ち砕いてくれる!」
 手にした手裏剣を頭上高く投擲する白影衆。無数に分裂した手裏剣がケルベロスたちへと降り注ぎ、その間隙をぬって日本刀使いが距離を詰める。弾幕からの接近、乱戦によって数の不利を補おうという目論見だ。
「……この程度で怯えていたら、ケルベロスなんて名乗れないからな。そちら同様、一撃で決める」
「ぬぅ、この攻撃の中を突き進むか!? 否、その意気やよし!」
 だが、そんな弾雨をグレッグは意にも介さず突き進んでゆく。対する日本刀使いも避けては通れぬ相手と悟り、正面より相手をする覚悟を決める。日本刀の切っ先を突きつけた、捨て身の構え。対するは紅蓮に燃え盛る龍と化した拳。
「我が命をもって、貴様の命を討つ!」
 交戦は一瞬。螺旋忍軍の刃はグレッグの脇腹を深々と串刺し、対する灼熱の拳は忍び装束の鳩尾を貫いていた。
「かはっ、最低でも相打ちを狙いたかったが……無念、なり」
「なに、重畳である。これにて仕舞いよ」
 末期の言葉を残し、消滅した日本刀使い。だが、捨て身の攻撃によるダメージも決して軽いものではなかった。ぐらりと体をよろめかせるグレッグの命を刈り取るべく、もう一人の日本刀使いが電光石火の居合を解き放つ。
「……螺旋忍軍滅ぶべし、なんでしょ。だったら自分たちだけを棚に上げて、こっちを巻き込まないでくれる?」
 刃が届く寸前、足元まで駆けつけていたテレビウムが跳躍、小柄な身を挺して攻撃を引き受けた。斬撃はテレビウムを切り飛ばすも、軌道がずれてしまい最早命中させることは叶わない。
「回復はこっちに任せて。代わりに冥土の土産として、地獄の果てまでぶっ飛ばしてやって!」
「ええ、任されました。ごめんなさいね、でも、貴方たち自身だって螺旋忍軍ですし、ね」
 往生際悪く後方から螺旋軌道の手裏剣が放たれるも、芍薬の生み出した光の盾が悉くそれらを弾き返した。仲間の治療に専念する彼女の横から、エレが一歩前へと踏み出す。
「無傷であればそこまで脅威ではないでしょうけど、いまならどうかしら」
 カチリと押されるは爆破スイッチの起爆ボタン。距離を取っていた手裏剣使いならまだしも、至近距離にいた日本刀使いはその爆炎をもろに受けてしまう。
「おのれ、月華衆の二流どもが無駄に粘りさえしなければ、この程度でぇぇぇっ!」
 地面に転がった白影衆は断末魔の叫びを残し、煙と共に消え去っていった。
「……こうなれば最早是非もなし。最早勝ちは望めずとも」
「一人でも道連れにし、戦力を削ぐことこそ最後の務めよ」
 残された手裏剣使いは、淡々と己の為すべき事を定義する。戦力差が歴然である以上、勝利はもはや望めない。あるのは己が命と引き換えに、僅かでも打撃を与えて散る事のみ。
「残念だけど、それは無理だよ。だって、ヒーローが悪者なんかに絶対負けないんだからねー!」
「ほざけっ!」
 自らに分身を被せてなけなしの体力を維持しながら、螺旋忍者はケルベロスの只中へと飛び込んでくる、一人は地を這うように駆け抜け、もう一人は天高く舞い上がる。対して狙いを定められた緋色が取った行動は、頭上の敵と同じ跳躍。
「っ、我を足蹴に、より高く!?」
「ふははははー。くらえーひっさつPS-CC! どかーん!」
 敵を足場に更なる上昇。驚愕する敵へグラビティチェインを乗せた一撃が命中、大爆発を引き起こし真下へと叩き落とす。その落下地点に待ち受けるはロベリア。
「ここで終わらせるよ……地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる」
 刃と化した両腕の地獄が生み出すは、剣刃の嵐。巻き起こる風は螺旋忍者の全身を切り刻み、地に落とすことなく微塵へと変えるのであった。
「不甲斐なし。せめて、我だけでも……!」
「自分の命を捨てる一撃と、誰かを守ろうとした拳……なんて表現は、おじさんちょっとカッコつけ過ぎですかね。いやぁでも、私こっちの方が得意なんですよ」
 最後に残った白影衆は同胞の最後に歯噛みしながらも、疾走を緩めることはない。その前に立ちふさがるは、正夫。気の抜けた笑みとは裏腹に、握られた拳は何よりも重い。首筋を狙う手裏剣と顔面へと吸い込まれる拳撃……その交差の結果は。
「む、ねん……」
 仮面を砕かれた白影衆、彼の手にした手裏剣は相手の首筋を薄く裂くに留まっていた。敗北を認めた白影衆の体がぐらりと傾くや、はらはらと消滅してゆく。それはまるで、日に照らされた影のように、跡形もなく消え去るのであった。
 ーー斯くして、板橋駅前で行われた三つ巴の乱戦は、ケルベロスの勝利にて幕を閉じる。ケルベロス達は損壊した駅前をヒールで修復すると、日常へと戻った戦場を後にするのであった。

作者:月見月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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