毒蛇の如く

作者:紫村雪乃


 冷たい静寂の滲む薄闇。
 部屋の中央に据えられた実験台があった。その上、燭台の光に浮かび上がる一人の男の姿がある。
「喜びなさい、我が息子」
 実験台の側に佇んだ不気味な仮面を着けた黒衣の男――竜技師アウルが目覚めを呼び起こすように語りかけた。
「実験は成功だ。お前はもはや人間ではない。ドラゴン因子を植えつけられた事でドラグナーの力を得たのだ」
 横たわる男の目がうっすらと開いた。それに気づいたのか、さらにアウルは続けた。
「しかし、未だにドラグナーとしては不完全な状態であり、いずれ死亡するだろう。それを回避し、完全なドラグナーとなる為には、与えられたドラグナーの力を振るい、多くの人間を殺してグラビティ・チェインを奪い取る必要がある」
「ドラグナー……。俺には力があるのか?」
「そうだ。お前は人間を超えた存在だ」
「そうか」
 男はニンマリと笑った。
「これで、奴らを皆殺しにできるんだな?」
「できる」
 アウルが頷いた。すると男の笑みがさらに深くなった。魔的な笑みだ。
「俺はどのみち死ぬつもりだった。だから今さらこの世に未練などはない。ただ奴らを皆殺しにできるなら十分だ。殺し尽くしてやる」
 男は立ち上がった。暗黒の怒りを胸に抱えて。混沌化した両腕からは膨大なドラグナーの力がわきあがっていた。
「なんという邪悪さ。彼奴、いいドラグナーになるぞ」
 闇に溶けるように佇んだアウルもまた笑った。それは男のものよりもさらに邪悪な笑みであった。


「ケルベロスの皆さん、ありがとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は004)は集まって来たケルベロス達に声をかけた。
「ドラグナー『竜技師アウル』によってドラゴン因子を移植され、新たなドラグナーとなった人が事件を起こそうとしているようなんです」
 セリカはいった。この新たなドラグナーはまだ未完成とでも言うべき状態で、完全なドラグナーとなるために必要な大量のグラビティ・チェインを得ようとしている。そのためにもドラグナー化する前に憎悪していた人々を復讐と称して殺戮しようとしているのだった。
「ドラグナーの名前は上地祐介。いわゆるストーカーです。狙っていた女性に拒絶され、またその女性の恋人や警察に邪魔され、絶望していたようです。それで、いよいよ女性だけでも殺そうと思っていたところをアウルに接触され、実験に荷担したようです」
 上地は女性宅へ赴き、女性と家族、その後に恋人、さらには警察や無関係な人々を虐殺しようとしていた。その行為を阻止することは人間には不可能だ。
「皆さんには女性宅にむかっていただきます。そこで待ち伏せて斃してほしいのです。女性を先に避難させたいところですが、ドラグナーがやってくる前に人払いしてしまうと予知が変わり別の場所を襲撃してしまうので、戦闘と避難誘導は同時に行わないといけないでしょう」
 その場合だが、やはり役割分担は必要だ。戦闘役と避難誘導役との。
「女性宅の前の道路は広く、戦闘に支障はありません。またドラグナーは未完成なため、ドラゴンへの変身能力は持ち合わせていないので、その点の心配はいらないと思います」
 武器は大鎌です。セリカは告げた。
「彼は歪んだ復讐に狂っています。その彼がグラビティ・チェインを蓄え、完全なドラグナーとなる前に、撃破をお願いします」


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
珠弥・久繁(病葉・e00614)
八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)
ミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)

■リプレイ


 ドアを開けた女性は怪訝そうに眉をひそめた。玄関前に見知らぬ三人の男女が立っていたからだ。
 男は十代半ばほどの少年であった。女と見紛うばかりの美少年である。真っ直ぐな眼差しの持ち主であった。
 残る二人は女だ。
 一人は少年と同じ年頃。快活そうな可愛らしい少女であった。何の苦労も知らずに育ったように見えて、実は家族をなくしている。が、それを感じさせぬ明るさをもつ少女であった。
 もう一人は三十歳ほどの女だ。緑の髪のせいでもあるまいが、どこかもつ妖しい雰囲気をもった美女であった。青の瞳には冷たい光。が、良く見てみれば、その奥に暖かな虹が煌めいていることを見てとれるだろう。
「どちら様ですか?」
 女性が問うた。すると、彼らはそれぞれに名乗った。暁星・輝凛(獅子座の斬翔騎士・e00443)、マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)、バジル・サラザール(猛毒系女士・e24095)であると。さらに輝凛と名乗った少年が付け加えた。
「僕たちはケルベロスだよ」

 居間に通されると、バジルが狙われている娘と両親に事情を説明した。
「そんな――」
 娘が息をひいた。
「ドラグナーは私たちが斃すわ。だからお願いしたいことがあるの」
「願いとは?」
 父親が問うた。
「このまま待機していてほしいの。あなたたちが避難してしまうとドラグナーは現れなくなるの。そうすれば違う機会にあなたたちをきっと殺すわ」
「大丈夫だよ」
 マイヤが微笑みかけた。見ている方も微笑みたくなるような笑みだ。マイヤは続けた。
「こわい思いをさせちゃうけど……でも、わたし達が絶対守るよ! だから信じて安心して欲しい」
「……わかりました」
 父親が首を縦に振った。


 娘の自宅付近。降る闇の中に潜む影は五つあった。
「ストーカーの末に警察沙汰になって、その挙句にドラグナー化して全員惨殺計画とはまた……」
 ため息混じりに吐き捨てたのは二十歳の若者であった。華奢で長身の美青年だ。闇の中でも鮮やかに光る桃色の瞳が特徴的であった。名を八剱・爽(エレクトロサイダー・e01165)という。
「思い通りにいかねえで駄々っ子が通じるのは就学前までだっての」
「まったくだ」
 若い狼を思わせる鋭い目の青年がうなずいた。そして皮肉めいた笑みをうかべた。
「だからこそ女にふられたというのがわからないんだ」
 若者――八代・社(ヴァンガード・e00037)はいった。すると凛然たる若者が悲しそうに首を振った。
 ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)。勇者の血をひく竜種のケルベロスである。
「それにしてもストーカーとは」
 ギルボークは言葉を途切れさせた。
 彼にも愛する者がいる。その者のためにギルボークは全てを捧げ尽くすつもりであった。その想いが報われることはないかもしれない。けれど、それでもギルボークは愛し続けることを誓っていた。それが本当の愛だと彼は思っている。
「我が儘というんだよ、それを」
 薄く笑った男がいった。二十歳をわずかに過ぎたばかりの年頃。綺麗な碧の髪をもった美青年であるのだが、その美貌はどこか人形めいていた。
 その美貌にはしるのは青い閃光。刺青のようではあるが、違う。魔力と電力のサーキットなのだった。
 それは自己愛だ。名を珠弥・久繁(病葉・e00614)というレプリカントの青年は続けた。
「上地が愛しているのは、所詮自分だけなんだよ」
「殺す」
 低く、闇に染み入るような声音で、その少女は独語した。十歳ほどなのだが、妙に大人びて見える。それは彼女の出自によるものかもしれなかった。
 ミレイ・シュバルツ(風姫・e09359)。風姫の異名を持つ、シャドウエルフで構成された螺旋忍者一族の末裔で少女は再び独語した。
「デウスエクスに利用された被害者……けど、その身勝手な願いを叶えさせはしない」
 ちらりとミレイの目が動いた。暗殺術に長けた彼女にはわかる。異様な気配が接近してくることが。
 ケルベロスたちは闇に身を隠した。その前を男が一人歩きすぎていく。
 外見は普通の青年だ。が、ケルベロスたちのみは感得した。青年から放散される妖気とも鬼気ともつかぬ異様な邪気を。
 次の瞬間、マズルフラッシュが闇を切り裂いた。銃声が轟き、熱弾が疾る。振り向いた青年の足がはじけた。着弾したのである。
「止まりな、ストーカー野郎。モテない男はどうも、引き際ってのが分からねえらしいな」
 物陰から飛び出した社が告げた。その手には魔法のような手並みで現出させたリボルバー拳銃が握られている。
「……なんだ、お前達は?」
 青年が睨みつけた。すると爽がニヤリとした。
「ケルベロスだ」
「ケルベロス?」
 ふふん、青年は嗤った。
「番犬か。邪魔だ。失せろ」
「勝手な真似はさせない。あなたの相手はわたし達、ケルベロス。かかってくるといい」
「ほう」
 青年――上地祐介は、いや今やドラグナーとなった彼の口が邪悪にゆがんだ。その身を中心に殺気の風が巻き起こる。
「ぬっ」
 ギルボークが呻いた。凄絶の殺気に吹きくるまれたためだ。常人ならばそれだけで卒倒しかねないほどの圧倒的な殺気であった。が、ギルボークは退かない。守るべきものがいる限り。
 と、ミレイは身裡で殺気をたわめた。悽愴の殺気を放つ。二つの殺気がぶつかりあい、空間がミシミシと音をたてた。
「ドラグナー……ドラゴンの力をもつ者」
 久繁ほどの男がごくりと喉を鳴らした。そして呟く。
「……強いねぇ、君は」
 けれど、と久繁は続けた。
「勝手にストーカーになって、勝手に逆恨みして、それでドラグナーになって殺しに来るなんて。少なくとも君は男としては情けない人だねぇ」
「……黙れ」
 ドラグナーの口から軋るような声がもれた。いつの間にか彼の手には禍々しくも巨大な鎌が握られている。

「ストーカーだって……こわいね、ラーシュ」
 ボクスドラゴンをぎゅっと抱きしめ、マイヤは眉根をよせた。
 その時だ。何かがはじけるような音が聞こえた。ケルベロスたちの超聴覚のみ音の正体を看破してのけている。それは社の銃声であった。
「……来たみたい」
 マイヤが表情を引き締めた。その背後では娘たちがびくりと身を震わせている。
「復讐に狂った男とそれを裏で利用する竜技師。腹立たしいわね」
 バジルが吐き捨てた。すると輝凛が娘たちに奥に隠れているよう促した。
「僕達が戻ってくるまで絶対に外に出ないように。だいじょーぶ、皆の事は絶対守るよ! 耳を澄ませて、待ってて!」
 娘たちに輝凛が微笑みかけた。次の瞬間、その笑みが光となる。娘たちが目を見開いたとき、すでに輝凛の姿はなかった。


「元ダモクレスとして、奪った分の命を救うためここにきた。君も元人間だけど、一の命を救うために俺が殺す」
 久繁が静かに告げた。するとドラグナーが嘲笑った。
「できるか。犬ごときが竜に刃向かえると思っているのか。馬鹿が」
 ドラグナーの手から大鎌が飛んだ。それは風車のように旋回しつつ久繁めがけて疾る。さしもの久繁も躱すことは不可能だ。
 血しぶきがあがった。久繁の――いや、彼を庇って前に滑りでたギルボークの。旋回しつつ戻った大鎌をドラグナーの手ががっしと掴んだ時、腹を切り裂かれたギルボークの身がゆっくりと崩れ伏した。腹からは腹圧におされて内蔵がはみ出しつつある。
「くそっ」
 社が光を放った。石火の威力を秘めた魔法光だ。が、無造作にドラグナーは大鎌ではじいた。
 そこに飛び込むは爽である。流星の煌きを散らせつつドラグナーの胸めがけて蹴りを放つ。
 規格外の衝撃によろけつつ、しかしドラグナーは大鎌を一閃。爽を切り捨てた。
「弱いなあ、犬っころ」
 地に落ちた爽めがけ、なおもドラグナーは大鎌の刃を振り下ろした。
 戞然。
 闇に雷火のごとき火花が散った。空で二つの刃が噛み合っている。それは奇しくも同じ大鎌の刃であった。
「その程度?」
 大鎌を手に、ミレイがドラグナーを冷たく見据えた。その顔はしかし、恐怖に強ばっていた。
 かかる場合、通常ならばミレイの脚がはねあがる。が、その足があがないのだ。あげることができないのだ。恐るべきドラグナーの膂力であった。
 逆にドラグナーの足がはねあがった。蹴りの衝撃にミレイが吹き飛ぶ。
 その時であった。ぬう、とドラグナーの眼前に現出した者がある。
 久繁であった。その右手はドラグナーのものに似た禍々しくも美しいい大鎌が握られている。
「奇遇だね、俺も同じような武器を使うのさ」
 久繁の大鎌が唸りをあげた。咄嗟にドラグナーが跳び退る。
「ううぬ。きさま……」
 地に降り立ったドラグナーは胸に指を這わせた。断ち切られたそこからは黒血とともに生気が噴出している。不気味なことに、その生気は久繁の大鎌に取り込まれていた。
「彼女の命を奪うつもりだったんだろう? なら、文句を言っちゃあいけないな」
「いってくれる。なら、まずはきさまの命をもらおうか」
 その叫びが終わらぬうち、ドラグナーの姿が消えた。久繁が気付いた時、すでに彼の目の前で銀光が走っている。
 刃の閃。倒れる久繁。
「はっはは。とどめを刺してやるぜ」
 ドラグナーの大鎌が翻った。巨刃が久繁の首めがけて疾る。
 ギインッ。
 鋼と鋼が相博つような音を響かせ、ドラグナーの大鎌がはねあげらた。はじいたのは脚である。それは、いまだ光の粒子をまとわせた輝凛の蹴りであった。
「僕が来た。もう誰も傷つけさせはしない」
 輝凛の紫の瞳がぎらりと光った。


「よくも邪魔してくれたな」
 憎悪の目でドラグナーが見下ろした。見上げると輝凛の瞳には、この場合、むしろ憐憫の光があった。
「辛かったと思う……痛かったと思う……それでも、君は間違ってる!」
 刹那、輝凛は身を旋転させた。目にもとまらぬ蹴りを放つ。その鋭さに、さすがのドラグナーも躱しきれなかった。
 蹴りをぶち込まれ、ドラグナーは地を削りなから後退した。同時にドラグナーの手から大鎌が飛んだ。輝凛の首めがけて。
 鈍い音が響き、大鎌が空を舞ってドラグナーの手にもどった。そして輝凛を庇ったラーシュが消滅する。
「ちっ、またしても邪魔を」
 ドラグナーが舌打ちし、再びその刃を振りかぶり――。
 マイヤがスイッチを押した。次の瞬間、ドラグナーの肩が爆発した。
 そのドラグナーの隙をつくようにバジルが動いた。喪神したギルボークに座標軸を固定。グラビティを発動させた。呪術的にギルボークの肉体を切開、分子レベルで再生する。
「大丈夫!? あまり無理はしないでね」
 そしてバジルはドラグナーに目を転じた。
「やってくれたわね。お返しはこれからよ。じわじわと苦しめられる気持ち、味わってみる?」
「ほざけ」
 空を切り裂きつつ光輪が飛んだ。ドラグナーが放った大鎌だ。
 しぶく鮮血。がくりと膝をついたのは、バジルを庇ったギルボークであった。慌てたのはバジルである。
「無理はしないでっていったでしょ」
「しますよ。無理でもね」
 ギルボークは血笑をうかべた。
 刹那だ。輝凛は足に力を込めると大地を蹴り一条の流星となってドラグナーを蹴りつけた。
 するとドラグナーは蹴りの衝撃を利用し、跳躍。着地と同時に大鎌で輝凛に反撃した。切り裂かれつつ、輝凛が跳び退る。
「もう。無理するなっていう方が無理みたいね」
 バジルがスイッチをおした。すると仲間の背後で爆発が生じ、鮮やかな色彩の爆風が吹き荒れた。風にうたれたケルベロスたちの傷が癒えていく。
「これが私たちの力だよ」
 マイヤが叫んだ。
「誰かに信じてもらえるから、わたし達は頑張れるんだ。一緒に戦っている皆とも、それは同じ。わたしには、よく判らない。あなたは一方的な事をしてるって判っていたのかな」
「黙れ、犬っころ」
 ドラグナーが嘲笑った。
「声は届かないんだね。もう戻れないんでしょ?」
 哀しげにマイヤはナイフを掲げた。その刃にゆらりと何かが映った。
 ドラグナーは何を見たのか。悲鳴のような声をあげ、ドラグナーはよろめいた。
「哀しいな」
 社が拳銃の銃口をむけた。ドラグナーをポイントする。
「悲鳴をあげなければならないほど惨たらしい過去。が、愚かにもお前は未来をも惨たらしいものにした。――歪め。おれの魔弾をくれてやる!」
 社の右腕に雷光のごときものが走った。彼の右腕の魔術回路に膨大グラビティが流し込まれたのだ。
 社がトリガーをひいた。膨大な破壊熱量が白光と化して疾る。
「ぐあっ」
 光に飲み込まれたドラグナーが吹き飛んだ。地を転がり、それでもとまらずコンクリート塀に激突。ようやくとまった。
「くっ。くそが」
 コンクリート片を撒き散らし、ドラグナーが立ち上がった。その眼前、するすると迫るものがあった。久繁だ。
 今、再び相対する大鎌と大鎌。一人は守るために、一人は破壊するために、それをふるう。
 旋風と化して二つの刃が疾った。ともに狙うは首である。
「はっはは。俺の勝ちだ」
 ドラグナーがニンマリした。彼が一撃の方が久繁のそれより迅い。大鎌の漆黒に濡れた刃が久繁の首に薙ぎつけられ――。
 ぴたりと大鎌の刃がとまった。久繁の首寸前で。刃をとめたのは、それにからみついた鋼糸であると見とめえた者がいたか、どうか。
「裂け、彼岸花。――させない。あなたはもう、人ではないから」
 ミレイが告げた瞬間、久繁の大鎌の刃がドラグナーの首を薙いだ。断ち切れた傷から黒血が噴く。が、まだドラグナーには息があった。のみならず戦う力も。
 大鎌が鋼糸をぶちり断ち切った。
 刹那である。ミレイの脚がはねあがった。
「鎌鼬」
 ミレイの蹴りがドラグナーの腹に突き刺さった。視認不可能な速度で。
 ぶちまけられた衝撃に、たまらずドラグナーの身が空に浮いた。その目は、舞い降りてくるものを見とめている。
 空を飛翔する美影身。爽であった。
 反射的にドラグナーは大鎌をかまえた。が、間に合わない。光の粒子をまとわせ、爽は蹴りをぶち込んだ。
「ぐはっ」
 凄まじい破壊力の爆発に、ドラグナーは地に叩きつけられた。衝撃に地にめり込む。その傍ら、音もなく爽は降り立った。
「終わりだぜ。アンタの悪夢は。せめて安らかに眠りな」
「愛するとは、相手の幸福を願い、それに至った時、喜ぶ心。そういう気持ちをわからなかったあなたの事は少し哀れに思います」
 息絶えたドラグナーを哀しげにギルボークは見下ろした。しかし、はっきりと告げた。後戻り出来ないなら斬るしかなかった、と。
「けれど人のこころに闇がある限り、それがデウスエクスに力を与えるんですよね」
「そうだけれど……ともかくは一人だよ」
 久繁がいった。
 すると輝凛とマイヤが駆け出した。怯えて待っているであろう娘のもとへ。
 悪夢を終わりを告げる鬨の鐘が鳴り響くのはもうすぐであった。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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