名刺VS護符! 螺旋カード絵巻

作者:雷紋寺音弥

●札付きの忍者?
 聳え立つ摩天楼、大企業グループ『羅泉』の所有する巨大なオフィスビル。
「代表取締役社長、鈴木・鈴之助である。今、我が社は千載一遇のビジネスチャンスを掴んだ」
 羅泉の中でも超が付く程のエリート社員達を前に、社長である鈴木・鈴之助は、直々に命令を下していた。
「螺旋帝の一族が、東京都内に潜伏しているという情報を得た。お前達エリート社員は、北区域の捜索へ向かえ」
 万が一、他の勢力の妨害が入るようならば、これを速やかに排除すること。その命令を受けている社員達は、何故か全員が手に持った名刺入れを胸元に掲げており。
「了解致しました。我らの名刺に刻まれた、『羅泉』の名に恥じぬ働きをご覧に入れましょう」
 それぞれが名刺入れを服の中にしまい、一瞬にして姿を消した。
 一方、同時刻、和風の香りが漂う木造の建物の一室にて。
「集まりましたね。では、指令を与えましょう」
 平安貴族の様な風体の男が、眼前に集まり頭を垂れている者達へと指令を下していた。
 黒螺旋忍軍の指揮官、【黒笛】のミカド。このような格好をしているが、立派な螺旋忍軍の一人である。
「東京、北区に異変の兆しあり。速やかにかの地に向かい、あらゆる異変をつぶさに調べ持ち帰るのです」
 他の忍軍の調査部隊を発見した場合は、やはり速やかに排除せよとの命を伝え。疾風の如く、課せられた使命を果たしてみせろと。
「はっ……畏まりました。この命に代えましても」
 水干に袴姿をした陰陽師のような男達が、ミカドの命を受けて頭を上げる。瞬間、周囲に白い煙が立ち上り、気が付くと彼らの姿は消えていた。

●忍軍、カード対決!?
「召集に応じてくれ、感謝する。東京都心部で活動中の螺旋忍軍組織に、新たな動きがあったようだ」
 活動中の忍軍には、敵対関係にあるものも多い。放っておけば、遠からず忍軍同士の戦闘に発展してしまうと、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に告げた。
「今回の依頼の目的は、争い始める螺旋忍軍の撃破だ。敵対しているとはいえ、連中にとって、お前達は共通の敵でもあるからな。闇雲に戦いを仕掛ければ、敵が一時休戦をした挙句、協力してこちらに向かってくる可能性が高い」
 忍軍同士の戦いを長期戦に持ち込ませ、疲弊させれば戦況も好転するだろう。しかし、あまり長時間に渡って彼らの戦いを放置していると、今度は市民に被害が出てしまう。また、残った忍軍は協力してケルベロス達に対抗してくることが予想されるため、狙った忍軍だけを先に倒すことは難しい。
 加えて、市民を逃がす際にも、従来の市街戦以上に適切な避難誘導が要求される。その一方、初期から介入するのであれば、片方の忍軍を徹底的に叩いた上で、もう片方の忍軍を叩くことも可能だ。もっとも、敵はまったく疲弊していない上に、こちらの意図を悟られて協力されてしまった場合、勝利すること自体が難しくなる。
「今回、お前達に向かって欲しいのは、北区にある王子稲荷神社の周辺地域だ。道幅の狭い住宅街な上に、南には学校が、東には新幹線の線路が、北には幼稚園や庭園がある。戦いの余波が飛び火した場所次第では、大惨事になり兼ねないぞ」
 クロートの話によれば、北区で戦闘を始めるのは大企業グループ『羅泉』の誇る超エリート社員達と、黒螺旋忍軍に所属する忍者とのことである。前者はサラリーマン風の男が5名、後者は平安時代の陰陽師のような格好をした男が5名の、合わせて10名。
「連中は、どちらも似たような武器を使うが、その使い方は異なっている。サラリーマン風の男達は金属製の名刺を螺旋手裏剣のように扱うが、陰陽師風の男達は、シャーマンズカードに似たグラビティを使ってくるぜ」
 同じカード使いでありながら、片方は物理、片方は幻術を好んで使うといったところか。だが、どちらにしても街が被害を受けることに変わりはない。
「連中が争う理由は未だ不明だが、戦場に現れる下っ端に聞いたところで、大した情報も得られないだろうからな。当面は敵の撃破に尽力し、街に平和を取り戻すことを優先してくれ」
 螺旋忍軍の目的については、敵から情報を聞き出すよりも、こちらで独自に行動を調査するのが望ましい。最後に、それだけ言って、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)
ハインツ・エクハルト(生体魔除け・e12606)
ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)
遠野・葛葉(ウェアライダーの降魔拳士・e15429)

■リプレイ

●仮初の業務提携
 東京北区、王子神社の付近にて。
 学校や住宅街に、新幹線の路線までが隣接する密集地帯。よりにもよって、こんな場所で螺旋忍軍が戦いを始めるとは、まったくもって最悪だ。
「まもなくこの区域は、激しい戦闘が発生します。直ちに避難してください!」
 近隣の住民や神社の参拝客達を、ジュリアス・カールスバーグ(山葵の心の牧羊剣士・e15205)は懸命に神社の東へと逃がしていた。
 間もなくも何も、既に神社の境内では戦いが始まっていた。志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)が神社の入り口に『立入禁止』のポールを立てたことで、とりあえず戦場に人が紛れ込む心配はなくなったが。
「ボク達はケルベロスだにゃ! 学生は先生の指示に従って、落ち着いて逃げるにゃ!」
 そう言って誘導をする藍自身にも、顔には出さないが多少の焦りは見える。
(「しまったにゃ……。もう少し、現場の地形を把握しておけばよかったにゃ……」)
 南北に人を逃がそうにも、そもそも北へ逃げるには、戦場となっている神社を横切って抜けねばならない。幸い、南へ逃げれば私立高校や区役所方面へと避難できるが、狭い道に人が殺到しては、思うように進めない。
「こちらにも逃げ道はあるぞ。さあ、我に着いてまいれ」
 逃げ遅れた御老人達を、遠野・葛葉(ウェアライダーの降魔拳士・e15429)が先導しつつ言った。左右に履けるようにして散れば、その分だけ避難誘導の負担も減る。
「おお、御狐様の化身じゃ! どうか、儂らをお助け下さい……」
 葛葉の姿に何かを勘違いした御老人が手を合わせながら着いて来たが、今は突っ込んでいる時間も惜しかった。彼女達が懸命に避難を続けている間にも、境内ではスーツ姿のサラリーマンと、時代掛かった衣装の陰陽師達が、奇妙な技を繰り広げて戦闘の真っ最中だ。
「ふむ……なかなか、妙な技を用いる方々ですね。しかし、我らの敵ではありません」
 サラリーマン風の男が投げた名刺が空中で拡散して陰陽師達の頭上に降り注げば。
「言ってくれるではないか、若造どもが! 我らの術、冥途の土産にしかと見届けよ!」
 陰陽師が護符を地面に叩き付けると、そこから竜牙兵さながらの骸骨武者軍団が現れて、サラリーマン達へと襲い掛かって行く。
 正に一進一退、両者の実力は拮抗している。だが、そんな殺伐とした境内に、ふらりと現れた人影が。
「見つけたぞ黒螺旋忍軍! ここで成敗してやる!」
 突然、スーツ姿で乱入し、ハインツ・エクハルト(生体魔除け・e12606)が陰陽師達を指差した。忍軍達は呆気に取られていたがら、ハインツは構わず近くに落ちていた名刺を拾い上げ。
「えーっ!? 羅泉の方々ですか!?」
 さも、驚いた様子で声を上げ、エリート社員達に声を掛けた。
「あいつらは卑劣な手でオレ達の会社の金を……。かの有名な『羅泉』のお力をお借りできたなら、これほど心強いことはありません! 急な申し出申し訳ありませんが、共闘願えないでしょうか!」
 戦闘中に、いきなりな申し出である。おまけに、『羅泉』のエリート社員達にとって、目下の任務はハインツの相手ではなく陰陽師達、黒螺旋忍軍の排除でしかない。
「共闘? あなた方は、この状況が理解できているのですか?」
「見たところ、少々は戦えるようですが……こちらの邪魔をしないというのであれば、お好きにどうぞ」
 共に戦いたければ勝手にやれ。それだけ言って、エリート社員達は再び黒螺旋忍軍達との戦いを再開してしまった。目の前の任務に忠実過ぎる辺り、忍者らしいと言えば、らしいのだが。
「ドーモ。同じく、株式会社Kの者です。加勢させて頂きます」
「同じく株式会社Kの者です。よろしく頼む……失礼、お願いします」
 水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)とパトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)がハインツの同僚を装って名刺を差し出したが、エリート社員達は訝しげな視線を向けて来るだけだ。
「株式会社K? 残念ですが、我らの取引相手はおろか、ライバル社の名前としても存じ上げませんね」
 偽の会社名を名乗っても、やはり食いついてくる様子はない。他者への好感度を高める地球人ならではの先天的な能力も、相手が定命の者でなければ効果を発揮しないようだ。
「……まさか、『羅泉』の社員さんともあろうお方が。既成概念に囚われない真のグローバルを標榜する我々の事をご存じない? サラリーマンの武器は1に情報2に人脈、でしょう?」
 このまま変に疑われては拙いと守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)が尋ねたが、エリート社員達は至って冷静な雰囲気を崩さないままだ。
「確かに、情報と人脈は大切ですね。しかし、得体の知れない営業マンの言葉に耳を貸す程、我々も野暮ではありませんよ」
 迫り来る骸骨武者の刀を金属製の名刺で受け止めながら、エリート社員の1人が返して来た。
 なるほど、これはなかなか強敵だ。仕事の優先順位を違えることもない。ちっぽけなプライドから判断を誤ることもない。正に、模範的なビジネスマンの鏡とも言える存在。世を忍ぶ仮初の姿とはいえ、エリート社員の名は伊達ではないということか。
「ご安心を。我々もビジネスです。お互いの利益の為良いお話が出来ればと。まずはその話し合いの為加勢させていただきたいのですが?」
 こうなれば、こちらも本気でサラリーマンとして接する以外にないだろうと、一騎は改めてエリート社員達に提案した。
「……解りました。ですが、先程も申し上げました通り、我々の邪魔をしないことが前提ですよ」
 こちらも好き勝手やるのだから、そちらも好きにやれば良い。戦いを通して、こちらの思惑を見極めようとしているのか、それとも他に考えがあるのか。
(「なんだか、悪に加担してるようで嫌な気分だなァ……」)
 敵の真意を探りつつも、アルレイナス・ビリーフニガル(ジャスティス力使い・e03764)は、今の自分の置かれた状況に靄のようなものを感じていた。
 この先、どこまで敵を騙した上で、互いに消耗させられるのか。誰にも答えが出せないまま、忍軍同士の戦いは、否応なしにケルベロス達も巻き込んで行った。

●番犬の証
 金属製の名刺が宙を切り裂き、召喚された百鬼夜行の妖怪達が、一斉に獲物を目掛けて襲い掛かる。なんとも混沌とした戦場だったが、戦いの流れは、やはり数の多い者達に優勢だ。
「凄い、なんという名刺さばきだ! やはり、『羅泉』の社員は格が違う!」
 大げさに叫びながら祝福の矢を飛ばすハインツの横で、オルトロスのチビ助が擦れ違い様に黒螺旋忍軍の内の一人を斬り付けた。続けて、足下を斬られバランスを崩した敵の顔面に、アンクの拳が襲い掛かる。
「私はサポート型のカラテ重点ですが……」
 そう、口では言っているものの、音速を越えた拳が巻き起こす衝撃波は凄まじい威力だ。現に、巻き起こる風の刃は黒螺旋忍軍の顔面を、情け容赦なく真横から捉え。
「こちらが本気です……弐拾五式、甲刃輪舞(レギオスブレイド)!!」
「……っ! お、おのれぇぇぇっ!」
 そのまま横殴りの拳と風に吹き飛ばされて、黒螺旋忍軍の一人が地に倒れ伏した。同時に、『羅泉』のエリート社員が投げた名刺も別の黒螺旋忍軍に突き刺さり、そのまま大爆発を起こしたのだが。
「むっ……!? 倒された敵が宝玉にならない!?」
「なるほど、あなた方はケルベロス、というわけですか」
 自分達の倒した敵と、アンクの倒した敵。その末路をの違いを見比べて、エリート社員達は一斉にケルベロス達へと告げた。
 デウスエクスとケルベロス。互いにグラビティを使える者でありながら、両者には定命か否か以外にも決定的な違いがある。それは、倒したデウスエクスを殺すことができるか否か。
 デウスエクス間の戦いにおいて、『死亡』という概念は有り得ない。だが、ケルベロスがデウスエクスを倒した場合、倒されたデウスエクスは宝玉化することもなく、完全に死亡してしまう。
「そちらの目的が何であるか、我々には関係のないことです。利害が一致する間であれば、互いに不可侵の関係を結んでもよいでしょうが……」
「くれぐれも、妙な気は起こさないことですね。戦いの最中、我々を後ろから討つようなことがあれば、あるいは……」
 エリート社員達から向けられる疑念の視線。こちらの思惑は完全にバレたわけではないにしろ、これでは戦いの終わった後の隙を突いて奇襲を仕掛けるのは無理だ。
「えぇい! 我らを放って戯言に興じるでない!」
 一時的に無視されていた黒螺旋忍軍が再び仕掛けて来たが、正直なところ、今は彼らの相手をしている場合でもなかった。
「こうなったら、まずはあいつらから倒すまでだ!」
 ボクスドラゴンのティターニアが放ったブレス攻撃に合わせ、パトリックの燃え盛る蹴撃が炸裂し。
「もう、隠す必要もなさそうだからね。貴様達にも、僕のジャスティス力を見せてあげよう!」
 懐から取り出した赤ハチマキを巻き直して、アルレイナスが力任せに戦籠手で殴り付けた。
「な、なんということだ! このままでは……」
 黒螺旋忍軍の陰陽師達も懸命に抵抗するが、それでも数の差は絶対だ。おまけに、彼らもエリート社員達も、自らの傷を癒す術を持っていない。完全攻撃特化型の戦術は、力の均衡が崩れた場合、防戦になった方が圧倒的に不利である。
 一人、また一人と、黒螺旋忍軍達は王子稲荷神社の境内に散って行った。エリート社員達の手によって宝玉化した者も、その宝玉をケルベロス達によって砕かれてしまえば復活はできなかった。
「お前で最後だ。まさか、逃げられるとは思っていないだろう?」
 社の壁際に追い込まれた最後の一人を、一騎のブラックスライムが飲み込んだ。捕獲された陰陽師はしばらくもがいていたが、やがて全て消化されてしまったのか、衣服の残骸を残して消滅した。
「さて……。とりあえず、こちらは片付いたようですが……」
 目下の敵を下し、エリート社員達が改めてケルベロス達の方へと向き直る。
 互いに口には出さずとも、このまま終わるとは思っていなかった。デウスエクスとケルベロス。その関係性から考えれば、行き着く答えは、ただ一つ。
「やーっと私の出番が来ましたね」
「こっちの避難は終わったにゃ。もう、何も遠慮は要らないにゃ!」
 人々の避難を終え、ジュリアスと藍が合流した。同じく、御老人達を無事に逃がせたのか、いつの間にか狐の面を被った葛葉が鳥居の上に立っており。
「東国三十三国稲荷総司、王子稲荷で狼藉を働こうなど許せんな! お稲荷さんに代わって、我が成敗してくれよう!」
 音も無く境内へ舞い降りれば、それは第二ラウンド開始の合図。
「そろそろですね……クリスティ流神拳術、参ります。申し訳ありませんが、覚悟して頂きますよ」
 右腕の地獄を解放し、アンクが告げる。どちらともなく身構えると、双方は社を横目に石畳の上で激突した。

●刃の心
 黒螺旋忍軍を撃破し、残るは『羅線』の誇る5人のエリート社員のみ。だが、先程は数の暴力によって圧倒できたが、今度はそう簡単に話が進まなかった。
 互いに消耗した状態での戦い。しかし、個の強さではエリート社員達の方がケルベロス達を少しだけ上回る面もある。避難誘導に人員を欠いた結果、連戦を強いられることになった者達の負担もまた、全員で戦っていた場合より大きい。
 ティターニアもチビ助も、敵の猛攻の前に消滅させられていた。主人が無事なら復活できるとはいえ、この状況で手数が減ったのは痛すぎた。
「どうしたのですか、ケルベロスの皆さん? 我々を倒すのが、あなた方の仕事では?」
 エリート社員達の投げる名刺が、驟雨の如くケルベロス達の頭上に降り注ぐ。その勢いで足を止められたところに、今度は刺さると起爆する名刺が飛んで来た。
「……っ!?」
 味方を庇って前に出た一騎が、爆発に巻き込まれて倒れ伏した。盾役を減らした布陣が災いし、連戦による疲労は仲間の身代わりとなる一騎の負担を激増させていた。
「まだ……戦える……」
 それでも魂を奮い立たせて身体を起こし、拳より生み出した黒い波紋の力で体勢を整える。が、次の瞬間、再び飛来した金属製の名刺が胸元に突き刺さり、今度こそ一騎の身体を大地へと沈めた。
「起き攻めを狙うなんて、流石は忍者……汚いやり方だね!」
「なんとでも言いなさい。敵は倒せる時に倒す。それが、我々のやり方です」
 歯噛みするアルレイナスの蹴りを受けつつも、エリート社員達は何ら動じる様子さえ見せない。忍者の忍は、刃の心。勝利のためなら、時に味方さえ欺き、利用する。彼らからすれば、卑怯こそが正義であり王道でもあるのだ。
「冗談じゃねぇぜ! こんなところで、やられてたまるか!」
 味方の背後で極彩色の爆発を発生させてハインツが叫ぶが、しかしエリート社員達も退き下がらない。先の戦闘で、彼らまでまとめて回復したことで、余計な力を与えてしまったのは致命的だ。
「ぐっ……。相手が遠距離攻撃ばかりでは、後方位置でもきついですねえ」
 額の汗を拭きつつ、ジュリアスは改めて後方から戦場を見渡す。周囲の被害も気になるが、それ以上に仲間達の消耗が思ったよりも激しい。
「我が結界を張る。その内に、やつらを成敗するのじゃ!」
 巫女服の裾からケルベロスチェインを解き放つ葛葉。それが突撃の合図となって、残る面々は一斉にエリート社員達へと猛攻を開始した。
「ドゥエェーイ!!」
 地球の重力と共鳴させたジュリアスの脚が、真正面から敵の身体を蹴り抜いて。
「抜けば玉散る氷の刃!!」
 パトリックの抜き放った刀身が冷気を放ち、冬の嵐を以て敵を凍らせる。
「ボクの炎はただの炎じゃないにゃ、敵を浄化する迦楼羅炎にゃ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前……炎よ浄化せよ!」
 突き出された藍の拳に合わせて御業が火を噴き、敵の身体を丸焼きにする。
「ば、馬鹿な! どこに、そんな力が……!」
 気が付けば、気迫で負けたエリート社員達は、次々とケルベロス達の手に掛かり沈黙して行った。ここまで来たら、もはや守りに入る意味もない。ただ、ひたらすらに全力で殴り合うのみ。長引く泥試合を打破するためには、攻撃こそが最大の防御だ。
「あなたで最後ですね。決めます……! 外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!」
 足刀で相手を浮かせてからの、打ち下ろす様な右拳の追撃。アンクの切り札が炸裂し、白炎に飲まれた敵の眼鏡が砕け散り。
「これで状況終了ですか……」
 最後の敵が倒されたところで、ジュリアスが思わず溜息を吐いた。
 街も人々も守れたが、代わりに自分達の方がボロボロだ。調査をするにしろ、何かを食べて帰るにしろ、まずは自分達の傷を癒す方が先になりそうだ。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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