忍者の闘争は水源を血に染めて

作者:青葉桂都

●下町の忍者事情
 東京都葛飾区にて、二組の忍者たちによる争いが始まろうとしていた。
 一方は少女たちで構成された忍軍。
 とある神社の境内に、明らかに一般人ではない服装をした少女たちが集まっていた。
「はいはい注目ー。それじゃあ指令を伝えるよ」
 やたらと露出の多い忍者装束に身を包んだ女は、覆面で顔の下半分を隠した白装束の少女たちに呼びかける。
「螺旋帝の一族が都心部に出現したって情報が入ったの。本当だったら、大チャンスって感じ? だよね?」
 髪型くらいしか差が見られない、個性のない顔立ちをした白装束たちは、指揮官である魅咲・冴の言葉に聞き入る。
「これから魅咲忍軍の総力を挙げて捜索するよ。あなたたちは葛飾区に向かって、草の根を分けてでも探し出して。いいね!」
「はーい!」
 5人の少女たちが、声を合わせて応じた。
「よし、それじゃ行動開始! あ、他の忍軍の捜索部隊を見つけた時にどうするかはわかってるよね? 問答無用で皆殺しにしちゃっていいからね」
 物騒な指示だが、螺旋忍軍である彼女たちにとっては応じるまでもないことだった。
 境内の石畳を蹴って、少女たちはすでに駆けだしている。
 ほとんど同じころ、魅咲忍軍と対峙することになるもう一方の勢力もまた、都内の別所に集まっていた。
 静謐な雰囲気に包まれた和室で静かにたたずむのは、忍者というよりも陰陽師と呼んだ方が似合いそうな1人の男。
「――集まりましたね」
 黒螺旋忍軍を率いる【黒笛】のミカドが告げた。一瞬前にはいなかったはずの者たちが畳の上に座している。
「葛飾区にて異変の兆しあり。速やかにかの地に向かいなさい」
 ミカドの指令に、紫衣の陰陽師たちがゆったりと頷く。
「あらゆる異変をつぶさに調べ上げ、持ち帰るのです。もしも他の調査部隊を発見した場合は、速やかに排除しその目論見を阻止しなさい」
 手にした笛をどこか……おそらくは行くべき方角へと向ける。
「疾く、行きなさい。そして使命を果たすのです」
 畳の上に座したまま、5人の陰陽師たちは1人、また1人と姿を消していった。

●ヘリオライダーの依頼
「どうやら螺旋忍軍が動き出したようだ」
 ザイフリート王子はケルベロスたちに告げた。
 東京の都心部で複数の螺旋忍軍が活動しており、彼ら同士の戦闘に発展している。
「彼奴らがあい争うだけならば、むしろお前たちにとって都合がいいことだろう。だが、残念ながら高みの見物とは行かぬようだ」
 当然ながら、螺旋忍軍たちは周囲のことなど気にせずに戦う。
 一般人に被害が出ることは避けられない。
「お前たちには、被害が出る前に螺旋忍軍を撃退することを依頼したい」
 王子は一度言葉を切った。
 とはいえ2勢力を同時に相手取って勝利することは、ケルベロスといえども難しい。
 戦いに割って入ったうえで、敵を連携させないようにしながらまず一方の勢力を撃破した後、もう一方の勢力を相手取る形になる。
 忍軍がケルベロスを利用して敵を排除しようと考えるように仕向けなければならない。
「敵同士が協力してお前たちを倒そうとしないように工夫する必要があるだろうな」
 あまりあからさまに漁夫の利を狙っていると思われれば、敵は協力してケルベロス側をまず排除しようとする可能性もある。
「もしも難しいようなら、敵同士を戦わせておいて、疲弊したところで戦いを挑むという選択肢もある」
 とはいえ一般人に被害が出そうになれば介入せざるを得なくなる。
 この場合、ケルベロスたちが避難活動に協力することで、介入するタイミングを遅らせることができるだろう。
 なお、消耗した状態でケルベロスが現れることになるため、敵はまず協力して皆を排除しようとすると考えられる。
 いずれにせよ、余計な寄り道をしなければ螺旋忍軍同士が戦闘を始める頃には現場に到着できるだろう。
 王子は次に、敵戦力について説明を始めた。
 一方は『魅咲忍軍』、もう一方は『黒螺旋』と名乗る忍軍だという。
 いずれも人数は5人だ。
「魅咲忍軍は全員が白い忍者装束を身に着けた女性の姿をしている」
 全員がクナイと忍者刀を持っている。おそらくは螺旋手裏剣と日本刀に相当する武器だろう。もちろん螺旋忍者のグラビティも使用してくる。
 単体の戦闘能力は高くないが、連携に長けている。前衛が2人、中衛が1人、後衛が2人という陣形でそれぞれきちんと役割分担をしているようだ。
「黒螺旋のほうは、外見は……この国の古代の貴族が身に着けていたものと似ているようだ。忍者にも様々な者がいるようだな」
 彼らは護符……すなわちシャーマンズカードに似た武器を用いて戦うようだ。
 また、九字を切ることで不可視の手を生み出して敵を捕縛する攻撃を行ったり、あるいは見えざる鎧を生み出して身を守ることができるらしい。
 こちらは前衛が2人に後衛が3人という構成だ。
「敵が交戦を開始する場所だが、葛飾区に端にある水元公園なる場所だ」
 細長い大きな溜池に沿って作られた公園だという。時間は夕刻だが、観光客や地元の住民がまだそれなりに残っているようだ。
 時間が経過すれば、戦場は公園のみならず周囲の市街地にも広がっていくという。
 公園施設など建物の被害については、ヒールすればいいので気にする必要はないが。
「螺旋忍軍が戦う理由が気になるかもしれないが、前線の兵士に重要な情報を与えるほど甘い奴らではあるまい。速やかに撃破してもらいたい」
 重要なのは、彼らの戦いによる被害を防ぐことだ。調査のことは後で考えればいい。
 よろしく頼むと、ザイフリート王子は告げた。


参加者
サラ・エクレール(銀雷閃・e05901)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
泉宮・千里(孤月・e12987)
イアニス・ユーグ(ディオメデイア・e18749)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)
川北・ハリ(風穿葛・e31689)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)

■リプレイ

●静かだった川のほとりに
 ケルベロスたちは葛飾区の端にある公園にたどりついていた。
 広い公園は住民たちの憩いの場となっているのだろう。少なくない人影が見える。
「よりによってこんな街中……忍者なんだから忍べよ……」
 イアニス・ユーグ(ディオメデイア・e18749)が呆れた声を出す。
「い、一般人の方たちは、ぜ、絶対守ります、から……!」
 ちょっぴり気弱な相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)だったが、怖くても逃げるわけにはいかない。
「ええ、螺旋忍軍同士潰しあってくれる限りは良いのですが、流石に一般人に被害を出す訳にはいきませんね」
 少女とは違う落ち着いた声で言ったのはサラ・エクレール(銀雷閃・e05901)だ。
「それにそれぞれの思惑についての情報を得たいところでもありますね」
「確かに気にはなりますね。……情報以外にも、気になることもありますが」
 川北・ハリ(風穿葛・e31689)は愛用のリボルバーを手にし、無表情に周囲を見回す。
 ケルベロスたちの行く先で、激しい水音が上がった。
「急ぎましょう。すぐに介入しないと、周りの人たちが危ないですし」
 朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)の言葉に頷いて、ケルベロスたちは加速する。
 サラが殺気を放って周囲にいる人々を避難させようとする。
 愛が声を張り上げて逃げていく人々に呼びかけていた。
「さてさて、うまく騙されてくれるといいのだけど。まあ、まずは人払いをしようか」
 四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)も剣気を放って人々を無力化している。
 後の避難は警察が来るのに任せ、黒螺旋を間に挟み込むように戦場に加わる。
 風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)だけは魅咲忍軍のほうに近づいていた。小太りの体を立ち木に隠し、黒螺旋に見つからないようにする。
 魅咲忍軍の1人と目が合った。
(「狙った相手だけに声を届けるような技でもあればいいんだけど……」)
 割り込みヴォイスは他の音に邪魔されず声を届けられるが、声はちゃんと相手に届く大きさで発さなければならない。
「ねえ、話を聞いてくれないかな?」
 ともあれ錆次郎は声をかけた。
「僕らは、一般人に害を出したくないし、平和的に別れられれば、お互い被害が無く依頼を達成できそうだよね?」
 魅咲忍軍の女は答えずに目を細める。そして、仲間になにか声をかけた。
「ここは、一度、共闘して、黒螺旋を倒さない?そうしてくれたら、僕らが持つ螺旋帝の情報を教えるよ? 了解なら、首を小さく縦に振って」
 女はすぐに首を縦に振った。
「迷うなら後押しするつもりだったが、いらない心配だったかい」
 泉宮・千里(孤月・e12987)は日本刀を構えて呟く。
(「あっさりしすぎてて、逆におかしい気もするがねぇ」)
 ともあれ、まずは手はず通りに黒螺旋の撃破を狙うべきだろう。
 彼女は刀を振り上げた。

●黒螺旋包囲網
 陰陽師の姿をした忍者のうち幾人かがケルベロスたちへ牽制のつもりか符を向ける。
「さあ、一緒に黒螺旋を倒しましょう!」
 錆次郎に声をかけられた女が呼びかけてきた。
「……魅咲の、なんのつもりか?」
「あんたたちを片付ければ、螺旋帝の情報をくれるんだって。聞こえてたんでしょ?」
「彼奴らの言葉が信用できると思うのか?」
「あんたたちよりはね。ケルベロスなら嘘はつかないんじゃない?」
 符によって呼び出された怪物の攻撃を浴びながらも少女たちは攻撃を繰り出している。
 黒螺旋の攻撃はケルベロスたちにも及んだ。
 愛は自分に向けて伸ばされた手を見て、首をすくめた。
 だが、素早く九字を切った直後に環が愛の前へと割り込む。
 不可視の手により環の体がひねりあげられる。
「きゃあっ!」
 悲鳴を上げたのは、攻撃を喰らった環ではなく愛の方だった。
「大丈夫ですよー、大したことないですから」
「あ、あ、あの、ごめんなさい」
 あっけらかんと告げる環だったが、思わず愛は謝っていた。
 環から目を逸らして愛は走り出した。
「まあ、恨むなら状況に乗り損ねた自分を恨むのだね」
 四方・千里が巨大ぬいぐるみ型のハンマーを砲撃形態に変えると、防衛役らしい動きを見せている黒螺旋の前衛に叩き込む。
「我が護り貫くこと能わず!」
 彼女を含めたケルベロス側の前衛にサラが鉄壁の守りを施す。
 その護りを飛び越えて、愛は”革命の”エシューという名を持つ靴で跳躍した。
「ごめんなさい、倒れてください!」
 重力を操った蹴りが先ほど砲撃を受けた黒螺旋をとらえた。
 足が止まったところにイアニスの両手に構えたライフルからビームが放たれ、ハリの銃から淡緑色の魔力弾が放たれて痛打を与える。
「倒れてる暇はないんです!」
 叫んだ環が前衛まで戻ってくるのと入れ替わるように、愛は敵から距離を取る。
「さて、一つ術比べと洒落込もうか」
 泉宮・千里が告げると空から黒螺旋の後衛へと剣が降り注いだ。
 魅咲忍軍も当然ながら黒螺旋の攻撃を受けている。
 錆次郎はそんな彼女たちに近づいていった。
「まだなにか用?」
 彼女は怪訝な……というより不快そうな顔を向ける。
 だからこそ行動でも味方であることを主張して見せなくてはならない。幾人かはそう考えていたし、錆次郎はその1人だった。
「あ、あの……ケガ、してるみたいだから、ね?」
 親し気に浮かべて見せた表情に、白い忍者装束の彼女は眉をしかめた。
「回復してくれるつもり?」
「うん、直してあげるよ。さぁ、全てを僕にゆだねてみようよ? 大丈夫、何もしないから。さぁさぁ」
 レプリカントである彼の腕からは医療用のマニュピレータが飛び出していた。
 それを不気味に蠢かせ、座った目で見つめながら彼女へ近づいていく。
「いい……まだ、平気だから回復しなくていいっ!」
 黒螺旋の攻撃にも、ケルベロスの介入にも動じなかった少女が、涙目になっていた。
 先ほどの愛に劣らぬ悲鳴を上げながら、彼女はマニュピレータにまとわりつかれて傷の手当てをされていた。
 魅咲忍軍とケルベロスの双方から攻撃され、黒螺旋の陰陽師たちは劣勢に陥っていく。
 ハリは弱った敵に狙いをつけていた。
 今のところ、狙撃役である彼女の攻撃は一度も外れていない。
「手練の忍者は機関銃の掃射も躱すと聞きましたが、そうでもないみたいですね」
 デウスエクスは総じてケルベロスよりも格上で、能力は敵の方がほぼ確実に上回っているが、後衛からしっかり狙った攻撃はそう外れるものではない。
 忍者なら話は別かとも思ったが、そうでもなかったようだ。
(「次は魅咲忍軍さんたちにも試させてもらいましょう。……楽しみです」)
 巫術を用いて改造した愛用の銃から、淡緑色の魔力弾を放つ。
 傷ついていた黒螺旋の背中へと弾丸は貫通し、最初の1人がまず倒れた。
 残る4人の黒螺旋もケルベロスや魅咲忍軍の攻撃に追いつめられ、倒れていく。
 攻撃がケルベロス側に向かうことが多い気がするのは、螺旋帝の情報を持っているという偽りが影響しているのか。
 四方・千里の手により1人、魅咲忍軍の手で2人……合計3人の黒螺旋が倒れて、最後の1人ももはや瀕死。
 イアニスはライフルに空の魔力をまとわせる。
 最後の黒螺旋が負っている傷に銃口を突っ込み、銃身を横薙ぎにして斬り広げる。
 血をまき散らしながら敵が倒れていくのを、イアニスは無言で見下ろした。
 一息ついたら、情報を渡すふりをしてだまし討ちをしかける……予定だった。
 けれど、弛緩した空気が流れかけた瞬間、前衛のケルベロスたちへと魅咲忍軍から手裏剣が降り注ぐ。
 さらに2人が錆次郎に接近し、弧を描く斬撃を放った。
「ちっ……!」
 舌打ちしてイアニスは片方の攻撃からかばう。
「……情報、いらないの?」
「だって、嘘でしょ?」
 問いかけた錆次郎に少女が答える。
「ケルベロスは大事な情報を敵に渡してまで人を守りたいって考えるような、とっても優しい人たちなのよね」
 日本刀を構え直す。
「でも、そんないい人たちが、どうして私たちとだけ平和に解決しようとするのかな。黒螺旋にも情報を渡せば、誰とも戦わずにすむって考えなかった?」
 もちろんなにをしても平和な解決などありえないとケルベロスたちは知っている。けれども知っているということを、魅咲忍軍は知らないのだ。
 魅咲忍軍だけに共闘を持ちかける理由を用意してあればまた違っただろうか。
「まあこっちの支援もしてくれるみたいだから、騙されたふりをすることにしたけどね」
「あ゛ーーーーーあんま喋らないようにして損したぜ……!」
 余計なことを言わないようにずっと黙っていたイアニスは思わず大声をあげていた。

●魅咲忍軍強襲
「お、女の子たちがみんなで僕のことを追いかけてくるなんて……僕、僕……手に汗、にぎっちゃうよ~!
 なぜか錆次郎にやたらと容赦のない攻撃がくわえられ、最後に居合によって両断するほどの勢いで切り捨てられた。
「あー、せいせいした!」
 吐き捨てたのは、あろうことか錆次郎が先ほど回復してやった1人だった。
 だが、錆次郎に過剰な攻撃が加えられているうちにケルベロスたちは2戦めの態勢を整えていた。
「ま、騙し討ちは忍者の十八番だ。あっさり騙されてくれないほうが安心ってもんだぜ」
 泉谷・千里は不敵に笑いかけてみせる。
 敵前衛の動きを値踏みする。一方が打撃役で、もう一方はそれを守ろうと動いている。
 どちらを先に倒すべきかと言えば防衛役のほうだろう。
 だからこそ、彼女は打撃役を狙う。
「煙に巻け」
 隠し持っていた手裏剣を投げる。刀で弾こうとした瞬間、それは煙のように消え失せる。
 隙を逃さず敵を包み込むのは幻惑の焔。熱を持たぬ焔は、それ故に体温を奪い取る。
「帝探しは代わって俺達が成し遂げてやるさ――安心して眠りな」
 敵は連携を得意とするという魅咲忍軍。妨害役として敵の連携を崩すのはより重要だ。
 わずかに青ざめた敵は、すでに狐につままれていた。
 警戒していた敵の余力は十分……だが数の利はまだケルベロスの側にある。
 サラは回復を続けて仲間たちを支えていた。
「不利な状況ですね」
 冷静な彼女の目は、けして楽観的な結果をはじき出しはしない。
「確かになあ。けどよ、まだなんとかなるだろ」
「ええ。粘り強くいきましょう」
 悪そうな笑顔をイアニスが見せたと言葉を交わす。
「そうだな……痛みさえも、糧にしてやる」
 前衛の仲間たちを地獄の炎が包む。
 けれどもイアニスが生んだ焔は攻撃のためではない。
 炎の中で、傷は重力の鎖へと変化していく。
 敵の5人はどうやらキャスターを除く5つの役割が1人ずついるようだ。
 狙撃役は範囲攻撃でまんべんなく前衛全員の体力を削り、前衛の2人はイアニスと環のどちらかへ2人がかりの攻撃を重ねてくる。
 だが、単体への回復は環も行ってくれている。
(「……それよりは中衛の攻撃に対処が必要」)
 ジャマーは主にサラたち後衛への妨害を行ってきているようだ。
 新月神楽を振るい、雷の壁を生み出して螺旋力による呪縛を防いだ。
 ケルベロスたちは敵の防衛役へと攻撃を集中し続ける。
「来たれ、大いなる力。巨人のかいなよ。我が目前に在りし万難悉くを打ち砕け」
 愛の魔術により空間を突き破って巨大な腕が出現する。
 巨人の一撃は傷ついた魅咲忍軍の1人を叩きつぶしていた。
 連携を崩しても、敵は必死に反撃を続けていた。
 瀕死の打撃役がイアニスを深々と突き刺す。
 けれど、彼はそれをこらえきった。体内のグラビティ・チェインをライフルにこめて、放った一撃が打撃役を吹き飛ばす。
 敵を倒した色黒の青年へと柔らかな手が触れた。
 注ぎ込まれた螺旋によって、イアニスの体内を破壊される。口の中に血の味が広がったかと思うと、おびただしい血が公園の地面を染めた。
「ちっ……流石は忍者だな。けどもう、ろくな連携はできないだろ」
 倒れこみながらも彼は言った。
 次にケルベロスたちは中衛を狙った。
 傷ついた彼女は、冷気を感じたように動きを止めた。妨害を役目とするはずの彼女だが、むしろ自分自身がすでにがんじがらめになっている。
「撃たれたいなら、仕方ありませんね」
 ハリの銃撃が止めを刺して、残りは2人になった。
 容赦のない攻撃が一気に敵を追い詰める。
 環は拳を握って後衛へ接近した。
 仲間を守り続けていた環の体力もすでに危険な域にあったが、退くわけにはいかない。
「これで終わらせます! 私の『狂気』ごと全部! くれてやりますっ!」
 本能に身をゆだね、魂をまとう猫の手足を敵が動かなくなるまで繰りだし続けた。
 他の者たちはどうか知らないが、環は連携を得意とする彼女たちはケルベロスに似ていると感じていた。だからこそ、共闘相手に魅咲忍軍を選んだということもある。
「でも、似てるからこそ、厄介なんです」
 それももう終わりだ。1人では、連携などできないのだから。
「せめて……1人だけでもっ!」
 最後の1人は攻撃を喰らいながらも環へと掌を押し付ける。
 螺旋の力を注がれた少女が倒れた。
 四方・千里は仲間を倒した敵に背後から接近した。
 手の中にあるのは妖刀”千鬼”――千の鬼を屠ったとか、千の鬼が宿るとか言われているが、彼女にとってはどちらでもいいことだ。
 必要なのは敵を葬ること。背後からでも騙し討ちでも。
 弓を引き絞るように刀を引く。
 振り向いた敵と目が合う。
「せっかくこっちの嘘を見抜いたのに……結果は同じだったね」
 受け止めよう伸ばしてくる手は、まるで命乞いをしているようだが、関係ない。
 鋭い突きが敵を貫く。
「嘘といえばもう一つ……私は正義の味方じゃあない……残念だったね……」
 重力エネルギー塊が体内で反発を起こし、最後の少女が爆発四散した。

●水源は再び静かに
 妖刀が鞘に納められる硬い音が響き渡る。
 戦いが終わり、公園は静寂を取り戻していた。
「無事に片付きましたね。どうやら、私の銃は忍者にも通じるようです」
 ハリは緑色の瞳で忍者たちがすべてもう動かないことを確かめる。
「み、皆さん、大丈夫でしょうか……」
 愛が心配げに倒れた3人の手当てをしている。
「公園もヒールしていかなければいけませんね」
 戦場となっていた範囲を改めて確かめているのはサラだ。
 泉宮・千里も彼女を手伝い始める。
「忍がこうも表立って抗争たァ、けったいなこって。……それ程迄に形振り構ってらんねぇ一大事、って訳か。番犬としても同業としても、こりゃ益々以て見過ごせねぇ」
「そうですね。何度もこんな事件を起こされては困りますし」
 修復しながら2人は言葉を交わす。
「……厄介事が増えねぇように、此方も調査を進めるとしよう」
 首を軽く振ると、肩口で結わえた黒髪が揺れる。
 1つの事件は終わっても、状況からは目が離せそうになかった。

作者:青葉桂都 重傷:イアニス・ユーグ(休眠・e18749) 風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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