●ぬくもりのコート
「寒がりな雪男さんは、どこにいるのかな?」
早朝。まだ桜の残る公園を少女が歩いていた。
「いないなぁ。震える雪男さんに着てもらおうと、暖かいコートを持ってきたのにな」
少女は手にしたコートをギュッと握りしめ、辺りをキョロキョロと見渡す。
「噂は嘘だったのかなぁ?」
ため息をつくと首を左右にふる少女。しかし、その身体が不意に前へと倒れた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
静かな声が響く。少女の胸には鍵のような何かがつきたてられていた。奪われた少女の夢はみるみるうちに『雪男』へと姿を変える。新たに誕生したドリームイーターは腕を抱きかかえ、震えながら公園へと姿を消した。そして、悪夢がはじまった――。
●寒がりな雪男を退治せよ
「ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)さんから頂いた情報をもとに捜査した結果、寒がりな雪男が出るという噂を聞き探していた少女の『興味』が奪われるという事件が発見されました。奪われた夢により誕生した寒がりな雪男により、事件が起こされようとしています。被害が出る前に、ドリームイーターを撃破して下さい。撃破する事ができれば、『興味』を奪われてしまった少女も、目を覚ましてくれるでしょう」
予言を終えたセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)に、銀髪のヴィルフレッドが楽しそうに声をかける。
「寒がりな雪男が公園に出る情報も把握済みさ……なんてね」
ドヤ顔で手にした蜂蜜いりのホットミルクを飲むヴィルフレッドに、セリカは感謝を込めてお辞儀をすると、事件の概要を伝えはじめた。
「寒がりな雪男は単独で行動しており仲間はいません。また、自分の事を信じていたり噂している人がいると、その人の方に引き寄せられる性質があります。うまく誘い出すことができれば、戦いを有利に始めることができるはずです。例えば、うまく誘い出せた寒がる雪男にコートを何枚も着せ、動きを鈍らせても良いかもしれませんね」
セリカは説明をしながらハニー・ホットミルク(シャドウエルフの螺旋忍者・en0253)にコートを何枚も重ね着させ、帯で締めて転がして見せた。転がるハニーを見つめるヴィルフレッド。その赤い瞳がイタヅラを思いついた少年のようにキラキラと輝き始める……。
「よいではないか~よいではないか~」
「あ~れ~。ヴィルフレッド様、おやめください~♪」
ノリノリで帯をひっぱるヴィルフレッドに、雪男役のハニーが嬉しそうに応える。
「そこまで戦いを有利に始められるかはわかりませんが、参考にして頂けば幸いです」
セリカは微笑むと、説明を終えた。
「ヴィルフレッドさんがもたらして下さった情報のおかげで、手遅れとなる前に事件を予言することができました。生み出されたドリームイーターの討伐、よろしくお願い致します」
セリカはそう言うと、丁寧にお辞儀したのだった。
参加者 | |
---|---|
蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229) |
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658) |
ヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020) |
草間・影士(焔拳・e05971) |
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366) |
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920) |
伽藍堂・いなせ(従騎士・e35000) |
沖田・ありあ(白のラメンタビーレ・e36935) |
●雪男登場
「ハニーさん、お願いします」
沖田・ありあ(白のラメンタビーレ・e36935)の、小鳥のような美しい声にこたえ、ハニー・ホットミルク(シャドウエルフの螺旋忍者・en0253)は殺気を放った。
早朝。雨上がりの公園。人払いをすませたケルベロス達は噂話を始めた。
「しかし、寒がりな雪男なんているのか? 居たとして、それは雪男と言えるのか?」
「雪男が寒がりなのか……。それってもう『雪』男なのかな?」
ワイルドな草間・影士(焔拳・e05971)の疑問に、猫好きな小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)も小首をかしげて不思議がる。
「寒がりと言ってもそろそろ暖かくなってきたと思うけどな。夏に現れても寒がっていたのか?」
影士の疑問は続く。涼香もロシアンブルーな見た目をしたウイングキャット『ねーさん』を撫でながら、噂話に花を咲かせた。
「寒がりな雪男と聞くと毛が全く無……、さっさと倒しましょうか」
その隣では、巫女装束を纏った白狐の蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)が、何かを言いかけ咳こむ。
「雪男かあ~~。もうすぐ夏だというのに季節外れですね。やっぱりけむくじゃらなんでしょうか? ちょっと怖いですけど……ボクも対人恐怖症赤面症コミュ障なので、体質に悩まされる点は同情しないでもないですね」
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)は黒縁眼鏡をクイッと直し誰にともなく呟いた。視線は青いテレビウム『小金井』の映す白あざらしのアニメに固定されている。
「雪男の方は無論毛皮を備えていらっしゃるのですよね? どちらがよりもふもふな毛皮か、比べるのが楽しみです」
タキシードを優雅に着こなすチベットスナギツネ型ウェアライダーのイグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)は、口元を緩め楽しそうだ。
「この時期に雪男っつーのも、また時季外れだよなぁ。しかも寒がりって。最近結構暑いよな? ドリームイーターに季節感求めんのも違うんだろうが、すげー違和感が……。なんつーか、憐れみを覚えちまうなァ……」
伽藍堂・いなせ(従騎士・e35000)は台詞こそ柄が悪いが、その行動のふしぶしから優しさがにじみでていた。ウイングキャットの『ビタ』をもみくちゃにしながら渋い顔をする。
「この季節でも寒いなんて可哀想ですね。戦うのは正直こわいんですが……少しでも温まっていってくれればよいですね」
淡い桃色の髪にかすみ草をつけたありあも、いなせに続き雪男に同情的だ。
「5月に入ったとはいえ雨が降ると寒いからね。ホットミルクとかあったかい物が身に染みるね……。そういうわけだから、ぱぱっと倒して、あったかい物食べに行こう」
もこもこの防寒具に身を包んだヴィルフレッド・マルシェルベ(路地裏のガンスリンガー・e04020)が、気さくに笑ったその瞬間……。
「お寒いねえ……。常識にとらわれているようじゃ器が知れるぜ?」
野太い声が公園に響いた。
「まっ、寒がりな俺に言わせりゃ、暖かくなるまで外に出ないのが常識だけどな?」
剥げ落ちた毛皮にモザイクのかかった雪男。その目が微かに光っていた。
●奇襲の結果は?
周辺を警戒し意識を研ぎ澄ます影士の前に、勢いよく東西南北が飛び出した。その手には持参した萌え萌え痛シャツが握られている。
「お寒いねえ……、どうせ罠だろう?」
はりついた笑みを浮かべシャツを差し出す東西南北に、雪男は冷たく言い放った。その目は凍死しそうなほどに冷たい。ガックリ膝を折る東西南北。その肩を、ありあは優しく叩くと雪男のほうへと向かった。
「寒かったでしょう? 体の中から温まるの、大事ですよ。召し上がってください」
爽やかな笑顔でホットコーヒーとおでんを差し出すありあ。
「お寒いねえ……、どうせ毒いりだろう? 俺は騙されないぜ?」
冷たい雪男に、ありあは静かにかぶりを振ると熱々の卵にパクリとかじりついた。
「やっぱり寒い日のおでんはたまりませんね。せっかく雪男さんに用意しましたが召し上がってくださらない様子。仕方ありません。私たちで食べてしまいましょうか」
ありあは緊張で微かに震える身体を気づかれないように注意しながら、雪男を誘った。
「……待ちな。どうやら毒は無いようだ、疑って悪かったな」
雪男は低い声でぶっきらぼうに謝ると、ホットコーヒーとおでんをひったくった。
「おお! これは……、冷えた身体が温まりやがる!」
ホットコーヒーに目をほそめる雪男。ガッツのある東西南北は、今が好機とばかりに近づき、無言でシャツを置いて立ち去った。
「坊主、疑って悪かったな。この可愛らしい絵が描いてあるシャツも使わせて貰うぜ」
雪男はゴミを投げ捨てると、ドキメモグラフティー大戦と書かれた痛シャツを着た。
「周囲の視線が痛いでしょう。身悶えて恥ずか死ねばいい!」
小さくガッツポーズを取る東西南北。
「どうぞお寒いのでしょう、こちらもどうぞ」
脱いだ上着を紳士的に被せるイグノート。静葉といなせも内側にカイロをしこんだボアコート、コート、マフラーを雪男へと被せていった。
「わぁ~~。雪男、本当にいたんだ! 春になったと言っても寒いよね。良かったらこれも使って!」
ヴィルフレッドも上着を脱いで被せ、雪男をモコモコにしてしまう。更に涼香が毛布をバッサバッサとかけ拘束。
「おお、いつのまにかこんなに暖かく! おまえら優しいな。俺、泣いちゃうぜ?」
雪男はおおげさに涙をぬぐう。しかし、すぐに殺気を宿らせ宣言する。
「でも、俺としてはもっと格好いいコートが欲しいわ」
口元にニヤニヤ笑いを浮かべる雪男。ヴィルフレッドがワクワク顔で雪男の身体にさりげなくマフラーを巻いているが、ゲス顔の雪男はまるで気がつかない。
「黄金の毛皮か……、白金の毛皮か……、どちらが俺に似合うと思う?」
イグノートと静葉を濁った瞳で見つめる。
「……お寒いねえ。悪党に優しくするなんて、間抜けだぜ!!」
雪男は飛び掛ろうとするが、毛布に身体を取られ転んでしまう。
「あー、間抜けってお前の事じゃねえの?」
いなせは憐れみのこもった瞳で雪男に告げた。雪男は不思議そうに後ろを見る。その目がヴィルフレッドの目とかさなった。表情が消える雪男。笑みを浮かべるヴィルフレッド。
「ふはは~。よいではないか~よいではないか~!」
ヴィルフレッドの嬉しそうな声を開戦の合図に、かくして戦いの火蓋はきって落とされたのであった。
●連携、連携、また連携
フラフラと立ちあがる雪男。ぶつぶつ文句を言いながら首をふる。
その隙に、ヴィルフレッドは地面に守護星座を描き、影士も攻性植物を変形させる。輝く蠍の赤い光と、攻性植物が放つ白い光が仲間たちを優しく包みこんだ。
「では参りましょうか」
静葉はありあ達に優しく声をかけるとドラゴニックハンマーから竜砲弾を放ち、ふらふらしている雪男の頭を射抜く。
「ギャー!?」
悲鳴を上げる雪男。そこに涼香、ねーさん、東西南北、イグノートが殺到する。稲妻を帯びた涼香の突きが雪男の頭をかすめ、その体勢を崩し、ねーさんの爪、東西南北の如意棒、イグノートのエクスカリバールが、ふらつく雪男の頭を力いっぱい打ちつける。雪男は顔をしかめて頭をおさえると、着こんだコートを大急ぎで脱ぎ身軽になろうとした。その隙に、いなせの紙兵とビタの羽ばたきが、仲間の耐性を高める。
「ちょっと強引 笑っちゃう 正攻法ならイケると思ってる?」
さらに、ありあもガールズロック風のメロディを歌い味方を鼓舞。その歌にあわせ、ハニーとチョコも爆発などで味方の士気を高めた。
「その素晴らしい白銀の毛皮。俺にこそ相応しい!」
ようやくコートを全て脱ぎ、シャツだけになった雪男は偉そうに声をあげると、静葉に向けモザイクを飛ばす。
「静葉さん!」
モザイクが静葉を包みこむ寸前。東西南北が体をすべりこませ、代わりにモザイクの中へと姿を消した。悪夢を受け眠る東西南北に、雪男は口の端を吊り上げ邪悪な笑みを浮かべる。追撃をかけようとする雪男。
「雪男君、君の弱点はやっぱり氷だね!」
「……お寒いねえ。当てずっぽうは無しだぜ?」
ヴィルフレッドは弱点を指摘することによって、雪男の足止めを試みる。
「僕にかかれば君の弱点なんてお見通しさ!」
「ヴィルフレッドさんが言うのであれば、間違いないでしょう」
畳み掛けるヴィルフレッドに静葉も加わり、雪男は完全に足を止めた。その隙に、ありあは東西南北の治療にあたる。ありえったがハート型のバリアで包み、ありあが前向きな歌を全力で歌う。
「う~ん、ここは?」
毛布の中で目を覚ます東西南北、すぐ側にはお守りが落ちていた。
「何だこのお守り、全然効かないじゃないか」
不満をあらわにする東西南北だが、すぐに思いなおす。
「そういえばこのお守りは、あの時のお守りか……」
不思議そうに東西南北を見る美女に、納得顔で頷く東西南北。小金井が流す熱い動画、背後におこる爆発、東西南北の士気は再度高まる。
「ありあさん、治療ありがとうございました」
東西南北はお礼を言うと、独自の理論から導きだした究極の一撃を雪男へと放った。
「みんなで温めているところ悪いが凍り付いてもらうとするか」
東西南北の治療が終わったのを確認するや、影士も雪男に駆け寄ると鋭い拳撃でその身体を吹き飛ばす。雪男は今やシャツがむきだしの状態だ。可愛らしい絵が描かれた腹に攻撃を受けゴロゴロと転がる。そんな雪男に、静葉は氷のように透き通った白いキツネの手を襲い掛からせ、その身体を押しつぶした。つぶれた雪男の腹に涼香が拳をうちこむ。さらに、ねーさんが尻尾の輪を、イグノートが弾丸を同時に雪男の顔へとぶつけた。ピクピク揺れる雪男と対峙する仲間たち。その後ろに爆風が上がり清浄な空気がたちこめる。いなせとビタのサポートで仲間の士気は更に上がる。
「っち、今度こそ! その白銀のコートは俺にこそ相応しいんだよ!」
滅多打ちにされた雪男だったが、モザイクを巨大な口の形に変えると目を輝かせ静葉へと躍りかかった。
「君が攻撃するって情報も、既に把握済みさ……。なんてね」
ちょこまか動くヴィルフレッドは、静葉を優しく押しのけると代わりにモザイクへと飲み込まれる。
「またか!」
不機嫌そうに足をふみならす雪男。静葉は剣を一閃。音も影も無い太刀筋を、雪男は防ぐことかなわず肩をおさえうずくまる。一方、傷を負ったヴィルフレッドは、ありあのオーラとハート型のバリア、爆発に動画といった治療をうけ回復する。
「ありあさん、ありがとう」
ヴィルフレッドは頼もしげにお礼を言うと戦線に復帰し、目にも止まらぬ速さで弾丸を雪男へと放った。腕に弾丸を受けひるむ雪男。
「そこで大人しくしていろ。すぐに片づけてやる」
影士は静葉とヴィルフレッドが生み出した隙を見逃さなかった。すかさず深紅の槍を出現させ雪男を串刺しにし、動きを封印。加速し雪男の腹へと打撃をあびせる。そんな影士に、涼香、ねーさん、東西南北、イグノートも一斉に続く。稲妻を帯びた涼香の突きが雪男の足を貫き、ねーさんが爪で追撃。足をおさえる雪男。そこに如意棒をかまえた東西南北と拳をかまえたイグノートが接近。雪男の頭を如意棒と拳で叩きふせた。
「皆やるじゃん」
いなせは呟くと爆破スイッチを起動。爆風をおこし、ビタと共にサポートに徹する。
「それにしてもおまえ、俺の攻撃を受ける勇気も無いのか? お寒いねえ……」
「その手にはのりません。私にはあなたの攻撃を受ける必要が無いでしょう?」
形勢不利と見るや挑発を始める雪男。しかし、静葉は冷静だ。軽く受け流された雪男は地団太を踏んで悔しがる。
「ならば、俺に相応しいもう1つの毛皮。黄金の毛皮を手に入れさせてもらおう!」
雪男は叫ぶとイグノートに向けモザイクを飛ばした。避けきれないと目を閉じるイグノート。しかし、ありえったがすんでの所でその体をすべりこませる。
「ありえったさん、ありがとうございます」
イグノートは丁寧にお辞儀をすると、雪男へと視線を向けた。静かに睨みあうイグノートと雪男。しかし、その後ろから影士がチェーンソー剣をふりあげ、雪男へと無慈悲な斬撃をくらわした。斬られてよろめく雪男。その隙を静葉は見逃さない。氷のように透き通った白いキツネの手を雪男へと飛ばし、その体を鷲づかみにする。
「さて、また一斉攻撃ね」
涼香の呟きに頷く仲間たち。拘束され動けない雪男へ、涼香、ねーさん、ヴィルフレッド、東西南北、イグノートが一斉に射撃する。涼香の黒い魔力弾とねーさんの輪が右肩、ヴィルフレッドの黒い弾丸が左肩、東西南北の黒い魔力弾が右足、イグノートのオーラで出来た弾丸が左足を打ち抜き、雪男はたまらず倒れこむ。
「お前ら、もういっちょ強化いくぜ」
いなせの爆破スイッチにより、涼香たちの背後に再度爆風がまきおこる。士気の上がりはとどまることを知らず、仲間たちはみなぎっていく。
「ありえった、頑張ったね」
ありあは誇らしそうにありえったを労い歌いだす。羽ばたき、動画、爆発。そして、ありあの美しい歌声。ありえったの傷はみるみるうちに癒えていく。
「……お寒いねえ、今時熱血路線は流行らない、常識だぜ? 正義は一回負けるべき。というわけで、とっとと俺に相応しい毛皮をよこしやがれ!」
雪男は殺気を放つと、モザイクを巨大な口の形に変えイグノートへと襲い掛かる。回避を試みるイグノート。しかし怨念のこもった雪男からは逃げ切れない。間一髪といった所で涼香がその体を盾にイグノートをかばった。
「涼香さん、感謝いたします」
一礼するイグノート。雪男は更に攻撃を加えようとするが、ヴィルフレッドの放った弾丸に阻まれ追撃を断念。苦々しげにふりかえる。
「ここで決めるっ! 白狐四天・弧月無影閃っ!!」
ヴィルフレッドの狙撃により足を止めた雪男へ、静葉が踊りかかった。
「ありがとう。ありあ」
ありあ達の治療により回復した涼香は颯爽と立ち上がる。まきあがる爆風。そして始まるコンビネーション。
「キャンプファイヤーだっ!」
東西南北が放つケルベロスチェインは火柱をあげ、まるで不死鳥のように雪男へとせまり、その体をシャツごとつらぬく。そこに、影士がはなった真紅の槍が殺到。動きのとれなくなった雪男の頭に、影士の拳、涼香の槍、イグノートのエクスカリバールが勢いよく命中した。
「……。俺に相応しい毛皮、取り損ねちまったか。まったく……、お寒いどころか、芯の熱いヤツラだったな」
雪男は何故か満足そうに呟くと、その姿を消滅させていった。
「世界の中心東西南北ここに在り!」
戦闘の終焉。東西南北の勝ち台詞が明るく響いたのだった。
●響きわたる歌声
「私の毛皮。分けてあげらればば良かったのですが」
イグノートは静かにそう言うと、戦闘場所のヒールをハニーやチョコたちにまかせ、発見した少女のもとへ向かった。
ありあの歌を中心とした治療活動により、目を覚ます少女。
「キミの優しさは素晴らしいけど、危ない事はしちゃだめですよ。ボクたちケルベロスとの約束です」
目をさました少女に、東西南北は優しく語りかけた。
「今回はついてなかったが。折角興味を持ったんだ。雪男でも何でも探してみるのも良いんじゃないか」
目をふせた少女に影士は笑う。目をキラキラと輝かせる少女。
「皆さん、よければティータイムはいかがですか? ホットミルク、チョコクッキー、コロッケ、オニギリなどなど。色々用意してきました」
ヒールを終え合流したハニーは、ドヤ顔でバスケットを開いた。
「あっ、そういえば雪男が着ていたせいでボロボロになったシャツですがヒールしておきました。朝は寒いですし、良ければお召しになってください」
「そっ、それは!?」
ハニーの手には東西南北が用意したあのシャツが握られていた。ハニーから距離を取る東西南北。
「あの~、汚れた服を着たくないのでしたら、雪男さんのために用意したコートをお貸ししましょうか?」
おずおずとコートを差しだす少女に、東西南北は両手を祈るようなしぐさで掲げコートを着せてもらう。
「どうぞお寒いのでしょう、こちらもどうぞ」
「私のコートも使ってくださいね」
「俺のコートも使うといいんじゃねえの?」
仲間たちも次々と東西南北へコートを着せる。
「……あれ? こ、この流れは、まさか?」
「ふっふ~ん♪ どうだろうね?」
焦る東西南北に、ヴィルフレッドが鼻歌を歌いながらマフラーを巻きつけた。逃げる東西南北。追うヴィルフレッド。静葉、いなせもヴィルフレッドに加わり、東西南北はあっという間に追いつめられる。涼香、影士、イグノート、ハニー、ねーさん達は、既に好みの食べ物を手にティータイムを楽しんでいる。東西南北、絶体絶命のピンチ! 手をわきわき動かし迫るヴィルフレッド。しかし、その動きが急に止まった。不審がる東西南北。小首をかしげ辺りを見渡すと、いつのまにかマフラーを掴む白い手が……。微笑むありあ。親指を立てるヴィルフレッド。どこか嬉しそうな顔の東西南北。そして――。
「よいではないか~♪ よいではないか~♪」
澄んだ歌声が、公園内に響きわたったのであった。
作者:ハッピーエンド |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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