母性と良心の狭間

作者:ハル


「ママーー! 助けてーーーーっっ!!」
 愛媛県今治市にある、全校生徒300人余りの小学校では、今、子供達の日々を楽しむ笑い声に変わって、悲鳴が支配していた。
 空から降り注ぐ炎塊により、ガラガラと轟音を立てながら、ゆっくりと崩壊を始める校舎。
「皆、こっちよ! 列を乱さないように、先生達に着いてきて! こんな時こそ、避難訓練の時に学んだ『おかし』を思い出すの!」
 そんな悲惨な状況の中でも、先生達は必至に子供達を救おうと、泣き叫ぶ彼らをなんとか宥めようとしている。
 だが、子供達を避難させるのは、決して容易な事ではない。
 その時――!
「きゃあ!」
 女子生徒の悲鳴が上がる。悲鳴が上がった辺りに目を向けると、一人の女教師が、子供を掻き分けるようにして、脇目もふらずに逃げ出そうとしていた。
「へぇ! 悪くないじゃない」
 その女教師の背中に、泣き叫ぶ小学生と同じ体格程度の少女が、ニヤリと口角を吊り上げる。
「ひっ、きゃっ、ああああああっ!」
 次いで、また悲鳴が上がる。今度は、逃げた女教師の口から上がったものだ。上空から眺める少女――濁った瞳に残虐性を露わにするシャイターンが何か行動を起こすまでもなく、女教師は崩落に巻き込まれて片足を潰されたのだ。
「ずっと成長を見守ってきた子供達を放って、一人だけ助かろうとする精神性。なかなか見所があるじゃない?」
 女教師が動けない事を確認したシャイターンが、嬉々としてその眼前に降り立つ。無論、崩落は未だ続いており、女教師の顔が苦痛と絶望に染まっていく。
「い、家には私の帰りを待つ子供がいるのよ! あの子達も可愛いけれど、でも、それでも私の子のために生き残らないといけないのよ!」
「そう、でも考えてもごらんなさい? きっと貴女の子供は、大事な生徒を見捨てた人殺しの帰りなんて、待ってないんじゃない?」
「たとえそうでも、私は帰るの!」
「……ふふ、ブレないか、見込み通りね」
 煽ろうとも生き残ろうとする女教師に、シャイターンの少女の笑みも深まる。
 そして――。
「……な、何を……?」
「見込み通りだと言ったでしょう? 喜びなさい、エインヘリアルにしてあげる」
 シャイターンの少女は、女教師の頭部に向かってゾディアックソードを振り下ろした。
「……なーんだ、外れね」
 だが、何も変化が起こる様子がない事を悟ったシャイターンの少女は、すぐに亡骸に背を向け、その場を去るのであった。


「皆さん、集まってくれてありがとうございます。早速ですが、今回のお仕事について話させてもらいますね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、集まったケルベロス達に軽く頭を下げると、すぐに資料を配る。
「出現したのは、ヴァルキュリアに代わって死の導き手となったシャイターンです。どうやら、新たなエインヘリアルを生み出すことを目的としているようですね」
 その方法とは、多数の一般人が中にいる建物を崩壊させ、その事故で死にかけた人間を殺す事。
「シャイターン……どうやら、『シャーリー』と名乗っているらしい個体が襲撃を予定しているのは、愛媛県今治市の小学校です。繊細な子供達ですから、すぐにでも助けてあげたい所なのですが、事前に避難させてしまうと、襲撃場所が別の建物に変化してしまう可能性が非常に高いです」
 そうなれば、大惨事は免れないだろう。
「そこで、皆さんには小学校の中で潜伏して頂き、襲撃の発生と共に行動を始めてもらいたいのです」
 襲撃が発生したなら、シャイターンが選定対象に気を取られている間に、他の一般人の避難誘導を行ったり、崩落しそうな場所にヒールをかけて崩落を止めて欲しい。
「その後、シャイターンが選定対象にトドメを刺してしまう前に襲撃場所に向かい、シャイターンを撃破してください」
 セリカが、手元の資料のページを捲る。
「300人近い子供達を避難させなければならないとあって、非常に大変かと思われます。ただ、選定された女教師の方に知られる訳にはいきませんが、それ以外の先生方となら、事前に簡単な方針を決めておく程度の事はできると思います。あとは、火事の時などに使用する救助袋も設置してあるようですので、状況に合わせてお使いください」
 敵は、シャーリーと名乗るシャイターン1体で、ゾディアックソードを装備している。避難さえ無事に終えてしまえば、苦戦するような相手ではないだろう。
「とにかく、子供達の心の傷を大きくしないよう、迅速な行動が求められます。ニヤついたシャーリーと名乗るシャイターンに、目に物を見せてあげてください!」


参加者
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
植田・碧(エンジェルハイロゥ・e27093)
レーヴ・ミラー(ウラエウス・e32349)

■リプレイ


「連中も芸がないぁ。ま、仕事に困んないなら別にいいけど」
 空き教室の椅子に腰掛けたスウ・ティー(爆弾魔・e01099)は、リラックスするように脚をブラブラさせながら、同室で待機している鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)と植田・碧(エンジェルハイロゥ・e27093)に顔を向けた。
「仕事とはいえ、子供達が巻き込まれるのは気分がいいものじゃないわ」
 何しろ、一連のシャイターンの行動は、碧の生まれ、ヴァルキュリアも、まったくの無関係という訳ではない。
「教師達には、パニックを起こさずに子供達を守って欲しいと伝えてある。後は、俺達の頑張り次第という訳だ」
 シャーリーとかいうガキを、一刻も早くぶちのめす! シズクは、掌と拳をガッチリと打ち合わせた。

「ハァイ。ヨロシク」
「え、え、誰ー?」
 3階にある5、6年生の教室にやってきたハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)は、好奇心を露わにする生徒達に軽く手を振りながら、笑顔で挨拶をする。
 すると、ハンナの隣にいる教師が、スラックスと白シャツ姿という、らしい格好をした彼女を、新任の外国語指導助手であると説明してくれた。
「ハンナ先生、どこから来たの?」
「わー、綺麗ー」
(……まったく、ガキは悩みがなさそうでいいもんだ)
 脳天気な事を思いつくまま口にする子供達に、そんな彼らの相手が不得手なハンナは、胸中で深く溜息をつく。
 ――と、ハンナは子供達に隠れてインカムを操作し、レーヴ・ミラー(ウラエウス・e32349)と七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)に連絡を入れた。

「そっちの状況はどうだ?」
「ええ、こちらも滞りなく。え、あ、はい、レーヴと申します。よろしくお願い致します」
 教師達の手引きの元、1階の教室に紛れ込んだレーヴは、ハンナとの応対の最中も、クラスメートに囲まれていた。インカムを見て、「それなーに?」と疑問符を浮かべる彼女達が伸ばす手を躱しながら、自己紹介を交わしている。
「こちら綴です。聞いている限り、ハンナさん、レーヴさん共に順調そうで安心しました。学校内の出入り口を確認しておきましたので、後で情報を送りますね」
 綴は綴で、学校内の見回りを進めていた。
「例の女教師以外の方ともお話しましたけど、そうしてみると、やはり自分一人だけ助かろうとする彼女は許しがたい……そう思いました」
 最も、確実にそれ以上に許し難い敵もいる。綴が、物静かで落ち着いた口調に、僅かな怒りを滲ませたその時――!
「ロリっ子の姿を確認したぜ、行動開始だ!」
 インカムから、他のすべてのやり取りを掻き消すように響いた空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)の声が、学校が戦場に変わった事を報せた。


(……母親ってのは、難儀なもんだね)
 空牙の報せを受けた塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)は、自嘲するように笑う。他の者に比べれば、女として経験がある分、例の女教師に肩入れしてしまうのだ。保健室周辺から空を見上げれば、幾つもの炎塊が降り注ぎ、校舎を崩壊に導かんとしている。
「ママ、助けてー!」
 騒ぐ幼い生徒達。
「落ち着いて避難しておくれ、「おはしも」って習ったろ?」
 翔子は彼らを捕まえると、とにかく落ち着かせて行動させる。教師陣にはすでに情報をある程度開示していたおかげか、すでに行動を開始してくれている。
「空牙、今どこだ!」
「2階の渡り廊下だ!」
 翔子は、崩落しそうな場所を見つけては、オーラを溜め、空牙に現在地を確認する。
 その時――。
「きゃあ!」
 インカム越しに、女生徒の悲鳴が聞こえた。恐らくは、選定対象の女教師が、女生徒を突き飛ばしたのだろう。翔子は急いで、階段を駆け上がった。

「私達はケルベロスでございます! 私達と、先生方の言うことを聞いて下さい!」
「レーヴさんの声、皆さん聞こえましたね。外まで誘導するので、後についてきてください!」
 一階では、割り込みヴォイスを駆使したレーヴと綴が、それぞれ気力を溜め、気功を操ることによって崩落を防ぎつつ、広い運動場へと生徒達を連れ出している。
「お前さん等、避難袋使いな。使い方は分かるだろう? 碧ちゃん、そこの上の所、ヒール頼んだよ」
「オーケー、任せて。ほら、皆落ち着いて!」
 2階では、スウが避難袋の用意をしていた。碧も子供達に声をかけながら、崩落を防ぐ事でスムーズに動けるように支援している。
(……あっちね)
 碧はそうしながら、チラリと渡り廊下方面に視線を向けた。先程、翔子がそこを通過していった所なのだ。
「落ち着いて、先生の言うことを聞いて行動してくれ。あたしらケルベロスが来たからにはもう安心さ」
 空から炎塊が落ちるたびに、校舎が揺れる。3階ともなれば、その振動は一際大きなものだ。震える子供達を、ハンナが割り込みヴォイスで勇気づけ、懸命に校舎へヒールを施す。
「先生……大丈夫かな……」
 小学校高学年ともなれば、状況を多少理解しているのだろう。三階の窓際からは、2階渡り廊下の様子が見えてもいた。その中央には、足止めを担当するケルベロスとシャーリー、そして選定された女教師の姿。
「大丈夫だ。先生は俺達が助けるし、悪い奴にも必ず勝つぜ」
 心配する子供達のため、シズクは歯を見せて、ニカッと笑った。

「悪いなロリっ子。邪魔すんぜ?」
 螺旋隠れによって女教師を追跡していた空牙は、女教師を庇うような立ち位置で、シャーリーと対峙していた。首筋にかけていたヘッドホンを頭にかけ直し、集中を高めている。
「ハイ残念でした。その人を連れて行かせはしないよ」
 その傍には、翔子の姿もある。
「あ、あの……」
 呆然と、女教師が顔を上げた。翔子は軽く振り返ると、「ここは任せて逃げな。……アンタの気持ちも、分かるからさ」そう無傷のまま助けることができた彼女に告げる。
「……っ」
 女教師は迷ったようだが、自分の存在は邪魔になるだけだと悟り、その場を離れる。
「せっかく救いをあげようと思ったのに、残念ね」
 その女教師の背中を眺めながら、口惜しげにシャーリーは呟く。そして、無造作に振り下ろそうとしたゾディアックソードは――!
「させないって言ったろう?」
 翔子のライトニングロッドによって阻まれた。
「そういう事。そんじゃ、狩らせてもらうぜ? 悪いが悪く思うなよ」
「たった二人だけで? ふふ、大言壮語もいい加減にした方がいいんじゃない?」
 空牙の「砲撃形態」に変形した異装旋棍【銃鬼】から、竜砲弾が放たれる。シャーリーはそれを、ゾディアックソードを盾のようにして受ける。
 シャーリーの意識がこちらに向いた事で、すでに炎塊は止んでいる。いずれ避難誘導を終えた仲間がやってくるだろう。
「シロ、耐えるよ」
 それまでは、厳しい戦いを余儀なくされるだろう。翔子が達人の一撃を放つと、シロが順番に属性を注入する。
 その時、今まで校舎に向かっていた炎塊が、ケルベロスに向いた。眼前迫る熱気と、圧力をものともせず、
「まずは援軍一番手って所かしら」
 碧の電光石火の蹴りが炎塊を吹き飛ばし、その余波をシャーリーにまで及ぼした。
「二人も三人も、たいして変わらないのよ。痛めつけてあげる!」
 昼下がりの小学校で、その幼げな容姿からは想像もできない、まるでヘドロのように濁ったシャーリーの眼光が、立ち塞がるケルベロス達の肌を刺すように貫いた。


 すでに満身創痍。空牙、翔子、碧の状況を一言で言い表すならば、恐らくはそういった表現になるであろう。
「やはり口だけだったわねッ!」
 最もダメージを負った者――空牙にゾディアックソードが振り下ろされ、重ねがけしてあったBS耐性の一部が弾け飛ぶ。
「……っ! ほらよ、死角ができてんぜ?」
 反撃に、攻撃後の隙を狙った空牙も、螺旋の力を用いた死角からの一撃で、シャーリーの体勢を崩そうとするが、即座にシャーリーの身体は守護星座に守護されて、深手までには至らない。
「それ以上はさせないわ!」
 空牙の状態が悪いと見るや、碧がKami-Tamisu:Igarimaに「虚」の力を纏わせて、シャーリーの首筋を抉り、翔子が気力溜めを、シロが属性を空牙に注入する。
 これまでの幾度ものやり取りを経ても、戦力的に不利な形勢は変わらない。むしろ、次第にヒールの頻度が増えている。幸運だったのは、シャーリーがこちらの悲鳴を引き出すために、ジワジワと傷つけている事だ。
 そのシャーリーの性質的な要素、守りに徹した事により――。
「おっまたー♪」
 間一髪、間に合った。
「しまった、増援!?」
 スウの軽い調子の声。対照的に、時間をかけすぎたと焦るシャーリーの周囲には、いつの間にやら水晶型の「見えない機雷」が設置されており……。
「逃さないよ」
 スウがスイッチを押すと同時に起爆し、爆発がシャーリーを襲う。
「ガキみたいなナリしてても、てめえに容赦はしないぜ」
 シズクの両手には、二刀の斬霊刀。まずはシャーリーの防御を崩すため、シズクは体内のグラビティ・チェインを斬霊刀に乗せると、力の限りシャーリーに叩き付ける。
「ぐっ、あ!」
 ここまで有利に戦闘を進めていたシャーリーが、初めて苦悶の声を漏らす。だが、無論ケルベロス達に容赦をするつもりなどは毛頭なく、
「悪いな。ガキは得意じゃあない。特に、生意気なヤツはよ」
 ハンナの回し蹴りが、シャーリーの頭部左右から、続け様に叩き込まれる。弧を描く美しい蹴りは、見惚れる程の絶技だが、シャーリーにはそれを悠長に鑑賞している暇などないようだ。
「……よくも、燃やし尽くしてあげるわ!」
 シャーリーもまた、炎塊を放つも、受け止めるのは消耗している翔子ではなく、綴である。火傷を負いながらも炎塊を弾き飛ばした綴は、
「貴女の素早い動きを封じてあげますよ、これでも食らいなさい!」
 素早く反転すると、流星の如き煌めきと重力を宿した飛び蹴りを放った。
「空牙様、翔子様、碧様……よく耐えてくださりました。これからは、私達の出番でございます。そうでしょう、プラレチ?」
 レーヴに応えるように、プラレチは一鳴きすると、前衛に向けて羽ばたく事で邪気を払う。そしてレーヴは、空牙に祈るようにオーラを捧げた。
「さァて、反撃開始だ」
 翔子の言う通り、勝負はここから……!

「どうしたお嬢ちゃん、もっと粘っておくれ。これじゃ奴との予行演習にならないぜ」
「調子に乗ってるんじゃ……ないっわ……よぉッ!」
 シャーリーは、スウの見下すような哄笑が気にくわない。それはまるで、自分を通して背後に別の誰かを見ているようで。
「ここで殺してあげる。貴方に次はないわ!」
 星座の紋章が浮かび上がったゾディアックソードが、スウの脇腹に向け一閃! その瞬間、スウはニィィと嗤った。
「次がないのはあんただろ、ガキ」
「しつこいわね!」
 その笑みの原因は、庇うように伸ばされたハンナの如意棒。ぶつかり合った武器から、派手に火花が散る。横槍を入れられて怒りに顔を顰めるシャーリーだが、ハンナに弾丸を浴びせられると、そんな感情を発露させる暇さえなくなる。さらに、いつの間にかスウが召還していた暴走ロボットに吹き飛ばされ、運悪く足止めのBSが増殖してしまう。
 シャーリーは、次第に鈍くなっていく動きをなんとかしようと、守護星座を纏う。
「好き勝手やられた借りは、きっちり返させて貰うぜ?」
 だが、BS耐性を必要以上に重ねさせるわけにはいかないと、空牙の潤沢なグラビティ・チェインが乗せられた異装旋棍【斬刹】が、シャーリーの身体を穿った。
「このッ!」
 苦し紛れにシャーリーが放った炎塊が、身を後方に反らした綴の、カールした毛先を炙る。
「その気脈、見切ったり。この一突きを受けなさい」
「……バッ!?」
 攻撃を避けられたことに目を見開くシャーリーとは対照的に、綴は一切顔色を変えることなくシャーリーに接近し、指一本にてシャーリーの動きを一瞬だけ停止させた。
(皆様、さすがでございます)
 形勢は、一気に逆転した。どころか、今では一方的に押しこんでいる。万全ならば、この程度は造作もない相手なのだ。
「さぁ、子供達のため、もうひと頑張りするといたしましょう」
 レーヴは、そんな彼らの一員となれた事に目を細め、誇るように頬笑むと、前衛にケルベロスチェインを展開し、魔法陣を描く。次いで、プラレチが尻尾から放った輪が、無防備に固まるシャーリーの両脚を深々と切り裂いた。
「イ゛!」
 吹き出る鮮血に、シャーリーは思わずしゃがみ込もうとする。
「そういや、アンタ――」
 しかし、そうはできなかった。翔子に、襟首を掴まれていたからだ。
「あの女教師に、子供は帰ってくるのを待っていないとか言ってたね。でも、そんなの可笑しな話しさ。子供なら、何に付けても母親に生き延びて欲しいと思うもんだろ」
 そんな当たり前の話しすら理解できていないから、アンタはガキなのさ! 翔子の怒りに呼応するように、魔力の込められた激しい強雨がシャーリーを襲う。
「……翔子さん。そうね、きっと私も同じように思うわ」
 母親は、どこまで行っても母親だ。碧はその事をまだ理解していないが、よく識っている。
「そしてだからこそ、貴女を私は逃がさないわ!」
 碧のグラビティ弾が、シャーリーを校舎の壁際まで追い詰める。
 もう、逃げられる場所も、体力も彼女には残ってはいないだろう。
「子供達と約束しちまったからな。必ず勝つと!」
 約束した以上は、守らねぇとな――クールな仮面を剥ぎ取って、その一瞬だけ、快活にシズクは笑った。
「来るな! 来るなああああっ!」
 左右から奔るゾディアックソードを二刀で捌き、シズクは超速で二刀の斬霊刀で空間を切り払う。同時に巻き起こった衝撃波は、瞬く間にシャーリーを飲み込み……。
「……何よこれ、何で私が悲鳴上げてるの? 悲鳴を上げるのは、そっちの――」
 負けを認められぬ惨めさごと、二刀の元に斬り伏せるのであった。

「自分の生徒たちの無事も、先生の仕事でしょう。そこを忘れないで下さい」
「……ごめん、なさい」
 無事に平穏を取り戻した小学校の空き教室で、遥かに年下の綴に言われた言葉に、女教師は深く肩を落としていた。その肩を、翔子が優しく叩く。
「皆、よく頑張ったわね」
「これから何かがあっても、必ず私達が駆けつけますからね?」
 生徒達のケアは、主に年の近い碧とレーヴがしていた。憧れの視線で見られ、碧は満更でもない様子。
「ハンナ先生!」
「――っと!」
 一服しようと、一足先に校門を出たハンナは、タバコを咥えた所で声をかけられる。短いながらも教室を共にした彼らに、ハンナはタバコの火をもみ消すと。
「やれやれ、教師ごっこは疲れるな。……ま、素直なガキなら悪くない、か」
 そう言って、シニカルな笑みと共に別れを告げた。

作者:ハル 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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