ゆめのでぃなーたいむ

作者:つじ

●『興味』
 某日、深夜。郊外に建つ、とある料理店の扉が開かれる。
 裏口から入ってきたのは一人の少年。外見からすると中学生くらいだろうか、言うまでもなく不法侵入である。
「あの先輩、荒唐無稽だとか本の読み過ぎだとか、好き放題言いやがって……」
 口をついて出たのは、小さな恨み言。この年頃の少年は、他者の評価に敏感だ。それを刺激する何かが、この行動の理由だろう。
 片付けられ、照明の落とされた店内を覗き込み、少年はそこに誰も居ないのを確認する。
「噂は本当か確かめて、見返してやるんだ。この店は深夜、お客を料理して食べてしまうんだって――」
 手にした懐中電灯のスイッチを入れると、そこには。
「なるほど、面白いですね」
 いつの間に現れたものか、フードを被った女が立っていた。
「ひっ」
 短い悲鳴を遮って、女は少年の胸に鍵を突き立てる。刺さる音も血飛沫もなく、その鍵は静かに心臓を貫いた。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 鍵を手にした女――第五の魔女・アウゲイアスがそう呟くと、気を失って倒れた少年の隣に、エプロンをした給仕姿の女性が現れ出でた。
 黒髪の下で光る目に、大きな口、どこか蛇を思わせる顔の女は、腹部にモザイクを抱えている。
「おなかがすいたわ、とても……」
 そうして、新たに生まれたドリームイーターは、包丁と鍋をその手に取った。

●人食い
「ドリームイーターの出現が予知されたわ」
 集まったケルベロス達に向けて、リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)がそう告げる。
「人間が食べたいだなんて、悪食よね」
 人のグラビティ・チェインを欲しがるのはデウスエクス共通だが、今回の敵の場合は少々意味合いが違うようだ。
 正確だが端的な台詞を、後ろでお茶を飲んでいた白鳥沢・慧斗(オラトリオのヘリオライダー・en0250)が引き継ぐ。
「えーっと、事の発端は『客を料理に見立てて食べようとする料理店がある』という噂話みたいですね! この辺はリィさんの情報提供によるものです!」
 慧斗の操作に応じて、スクリーンに資料が提示される。映し出されたのは洒落た佇まいの料理店だ。
「これに『興味』を持っていた方が、実際にこの場所を調査しようとしたところ、魔女の被害に遭ったようです。やったのはパッチワークの魔女の一人、第五の魔女・アウゲイアスで間違いないでしょう!」
 件の魔女は人間の『興味』を奪い、ドリームイーターを生み出している。恐らくは今回もその流れだろう。
「敵は給仕のような姿をしたドリームイーターです。今のところはこの料理店に居るようですね」
 訪れる者に「食べたいものは何か」と問い掛け、料理名を答えると、その人を『そういう形』に料理してしまうという行動をとるようだ。
「ちなみに、「食べたいものは人間」と答えれば料理はされないようです。無茶な話ですね!」
 この辺りは、戦闘目的でこの場所に向かうケルベロスには関係の無い話か。
 しかし、今は夜間だから良いものの、夜が明ければ次々と人が訪れ、この被害に遭う事になる。
「このドリームイーターが被害を拡大させる前に、皆さんの手で撃破してください!」
 『興味』を奪われた少年も、放置すれば意識を失ったままだが、このドリームイーターを倒しさえすれば目を覚ますはずだ。

「戦う際は調理器具と、口の形にしたモザイクを武器にして攻撃してくるようです。丸呑みされないように気を付けてください!」
 敵の増援、配下などはいない。シンプルな戦いになりそうだが。
「それと、皆さんも敵の食欲の対象になっています。『美味しそうか否か』で敵の態度が変わるようですので、その辺りも留意しておいてくださいね!」
「ふぅん、好き嫌いはダメよね」
「……本当ですね!!」
 リィの言葉に、完全に自分の事を棚上げした調子で慧斗が返す。
「具体的には、『前菜』、『主菜』、『デザート』の三種類のどれかに対し、その人が相応しいかどうかを見ているようです。ドリームイーターの視点ですからこの辺は僕にもよくわかりません!!」
 どうにも投げやりに聞こえるが、この辺りは無視して倒す事も十分可能だ。しかし挑戦することで、より有利な状況を作れるかもしれない。
「この魔女にしろ、新たに生まれたドリームイータ―にしろ、人を食い物にするなんて許せない話です! 是非ともこの企みを阻止してください! よろしくお願いします!!」
 威勢の良い声で激励し、慧斗はケルベロス達を送り出した。


参加者
一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
カロン・カロン(フォーリング・e00628)
リィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)
アルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)
サイファ・クロード(零・e06460)
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)
灰縞・沙慈(小さな光・e24024)

■リプレイ

●おーどぶる
「いきますよー! 皆一緒に、『おいしくなあれ』っ!」
 戦いを前に、メイド服を着込んだピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)の声が響いた。
「……何か変わったのでしょうか?」
「そうねえ、いつもより美味しそうにみえるかも?」
 褐色の乙女、人派の姿で赴いたクロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)の問いに、カロン・カロン(フォーリング・e00628)が笑みを浮かべる。実際の効果のほどは後々分かる……はずである。
「よし、オレからも最後の仕上げだ」
 サイファ・クロード(零・e06460)もまた、一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)をはじめとする一同の服を順に叩いていく。
 クリーニング効果ものせて、ケルベロス達は戦場の扉を開いた。

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ……」
 ホールの中央で、給仕姿のドリームイーターが頭を下げる。その接客するような言葉に調子を合わせ、最初に口を開いたのはアルベルト・アリスメンディ(ソウルスクレイパー・e06154)だった。
「沢山乗ったフルーツタルトはどうかな?」
「果物が八種類、かしら? 丁度良いメニューね」
 それに対して女は首肯し、両手を広げる。そこには、いつの間にやら包丁と手鍋が握られていた。
「早まらないで。あなたにはちゃんとコース料理を振る舞ってあげる」
 そう応じたリィ・ディドルディドル(悪の嚢・e03674)をはじめ、一同も武装を展開する。
「本当? それは楽しみね」
 突き出される包丁。迫る刃にその身を割り込ませたのは、灰縞・沙慈(小さな光・e24024)だ。
「最初はあなた?」
「えっと、そう。私は美味しい前菜だよー」
 その身に纏ったオウガメタルで攻撃を受け止めつつ、彼女は何とかそう応じた。こんな自己紹介をする事などそうは無いだろう、戸惑うのも当然と言えば当然か。
「赤身のサーモンならぬ、赤身のドラゴニアンです。あ、赤身のウイングキャットもいるよ。私は食べたことないけど、きっと美味しいよ」
 サーヴァントのトパーズも紹介に付け加える沙慈に、刃を押し込みながらぺこりーぬが値踏みの視線を注ぐ。至近距離からのそれに、沙慈は居心地悪そうに身を逸らし……。
「オススメは、えーと、尻尾!」
 テイルスイングで敵の足元を狙う。跳躍してそれを躱す敵に、今度はサイファが仕掛ける。
「一緒にサラダもどうかな?」
 放たれた氷の螺旋が敵を捉え、視線がサイファの方を向く。
「あなたも前菜?」
「そうだよ。と言っても、アピールポイントは……」
 しかし、続く言葉の歯切れは良くない。背は平均以下だし、容姿も体型も学歴も人並み、などと並べた末に。
「あ、胃もたれしない控えめさとかどう?」
 そう言って見せるが、勿論敵の反応は芳しくない。
「……大丈夫? 二人とも、そんな調子で美味しいカルパッチョになれるのかしら?」
 推す点が曖昧で、いまいち判断が付かない、そんな様子でぺこりーぬが首を傾げる。そこに挑みかかっていったのは、青く燃える輝き。
「追加の前菜、冷製スープ、ビシソワーズ、です!」
 二葉の掲げた鏖殺剣“絶対零度”が冷気を振り撒く。さらにエアシューズからの旋風が冷たい嵐を巻き起こし、テレビウムと共に敏捷に寄せたステータスを証明する。
「ぴちぴち新鮮な採れたて12歳! つやつやお肌はまさにむきたてのジャガイモのようだろう、です!」
「さっぱりしていて、良さそうね」
 明確な主張に頷いた敵は、二葉に明らかな隙を晒す。
「皆殺したるや魔王の剣、竜の吐息は鏖殺の証。かくて斬り裂け世界を刻め――鏖殺剣」
 掲げられていた刃が走り、凍結の力を伴うそれがぺこりーぬに炸裂した。
「……少し冷えすぎかしら」
「ご希望があれば、セルフで炙る事も出来るよ?」
「優しいのね。でも、私は自分で焼きたい方だから」
 沙慈の言葉にそう返すと共に、敵の手鍋が炎を纏っていった。

●すいーつ
 炎はそのまま、前衛に向けて燃え盛る。品評と共に始まった戦いに、ケルベロス達は厚めに前衛を敷いた構成で挑んだ。
「うーん、デザートを炙るのはどうかと思うよ?」
「なら割り込んで来ないで。熱が通りにくいわ」
 仲間を庇いに入ったアルベルトに、敵が軽く眉を寄せる。ついでに、その対象に興味が湧いたか。
「あなたは、フルーツタルトだったわね」
「そうだよ、一人でもこの通り、さ!」
 問いに答えると、アルベルトは大きく翼を広げて見せる。それはまるで南米の鳥。羽の色は一色ではなく、先に行くにつれ移り変わっていく。
「赤はイチゴ、青はブルーベリー、黄色はリンゴや洋梨ってところかな!」
 どうだとばかりに胸を張る彼に、見惚れるようにぺこりーぬは目を細めた。
「素敵ね。とてもカラフルで、デザート向きよ」
「良かった! どうせなら美味しく食べてもらいたいからね!」
 朗らかな笑みと共に、時を凍らせる弾丸が隙だらけの敵に喰らい付く。
 ダメージは確かにあっただろう、しかし敵は構わず次の動きに移っている。そこに気付いたのは、仲間にマインドシールドを展開していたリィだった。
「ピリカ、止められる?」
「はいっ! えーっと……?」
 隣で共に前衛を支える役を担っていたピリカが、勢い任せで迂闊な返答をする。そしてしばしの黙考の後、とりあえずピリカは光る事にした。
「次の品は、わたしです!!」
 前向きな輝きは味方を癒し、そして敵からの注目も呼ぶ。
「そう、それで、あなたは何?」
「私の大好物、プリンですっ!」
 輝くグラビティで卓越した理力を示し、ピリカは頭に付けたさくらんぼとクリームの髪飾りを指さす。
「ほらっ! どう見たってプリンアラモードですよっ!」
 さらに三食プリンのみを食べる事で、お腹の中までプリン一色。――その体は、きっとプリンで出来ていた。
「そうね、あなたはデザートに丁度よさそう。 ……でも偏食は身体に毒よ」
 血潮までプリンになったら血糖値がまずい。そんな様子で警戒を解いた敵に、ピリカのライトニングロッドが向けられる。
「それは後で考えます! プリン光線をくらえ~っ!!」
 そして迸る稲妻が、対象を打ち据えた。

 続く戦いの中、サイファの放った螺旋掌が、敵の鍋底に波紋を生み出し、炎の行く先を歪ませる。前衛から一歩引いた場所に位置取り、敵の動きを妨げるのが彼の役割だ。
「嫌な手ね……スマートな立ち回りと言うべきかしら?」
「それはどうも。ここからは主菜の出番かな?」
 賞賛を受け流すその様に、逆に敵の視線が引き寄せられる。
「さっきまでと、雰囲気が……?」
 それは、サキュバス特有のラブフェロモン。デウスエクスに効くものではないはずだがだが……。
「お楽しみはこれから。きっと凄くおいしー体験ができるから、期待してて?」
「うう……」
 色気ある仕草にぺこりーぬが唸る。『控えめである事』と『控えめさを推す事』、混同しやすいがその違いは極めて大きい。退くようにして煽る、その言葉の効果は覿面だった。
「やるわねあなた。とってもそそるわ……」
 よだれを拭いつつ、認めるように敵が頷く。
「さすがは玄人、ですね」
「いや、こういうの普段はしないんだけどな……」
 クロハの賞賛に目を逸らしつつ、無防備な敵に、サイファがスターゲイザーを放つ。特徴的なエアシューズが、店内に赤い流星を描いた。

●にく
「主菜の味わいに傷はつけさせねー、です!」
 激化する敵の攻撃に、二葉が立ち塞がる。品評も半分以上が終わり、戦いもまた佳境に至っていた。
「まだまだ、満足できないでしょ?」
 カロンが手にしたカードで簡易魔術を発動。蠍の一刺しが効果を示すのに合わせ、さらにクロハが旋刃脚を見舞う。厚い前衛陣の中で攻撃を担ってきたのはこの二人だ。そして――。
「そう、あなた達がメインね?」
「もう一人居ますが……そうなりますね」
 一歩下がり、体勢を整えながらの問いに、クロハが応える。
「貴女は変わり種料理は好きかしらぁ? 今人気のジビエってヤツよ」
 こちらも両手にナイフを構えつつ、カロンが主題に言及、皿の核心に迫る。
「ジビエ。野生のモノを狩って食べるアレね。……で、もう一人は出てこないのかしら?」
「医食同源と言うでしょう、これも大事な仕事よ」
 残る一人、リィが呼び掛けに応じる。もう言うまでもないだろうが、この三人が担うのは肉と肉と肉だ。
「系統の違う肉が3種。中々豪勢でしょう?」
「食べ比べてみる?」
 そんな言葉に、敵もまた興味深そうに首肯した。
「良いわね。それじゃまずはあなたから」
「私は、猪肉です。野性味ある味はお好みですか?」
 言いつつ、ガントレットの一指を敵へ向ける。
「歳は今年で33、そして最近は禁煙禁酒を徹底し、野生のもの以外は口にしていません。家畜の豚では味わえない、ジビエの醍醐味を提供してみせましょう」
 指天殺の一撃を受けつつ、敵も至近距離で見定めにかかる。
「そのこだわりは気に留めておくわ。それに量も熟成具合も素敵ね、悪くない」
 脇腹を削り取らんとする動きを察し、クロハが刀身を逸らし、下がる。追うように振られた鍋は、炎を以って後衛を照らし出した。
「こっちは、随分若いのね?」
「そうね、確かにリィは熟成肉には至らない……けれど、それは臭みの無さに繋がるわ」
 軽く足元を炙られながらも、リィはそれに堂々と応じる。
「そしてこの1週間、毎日牛乳を飲み続けてきた……今のリィは乳飲み牛、いえ――乳飲みドラゴン」
「……おなかを壊していないかしら?」
「平気よ」
 胃の丈夫さを誇りつつ、彼女の主張はその能力に至る。一極集中とは違う、味方を癒す中で示された、柔らかな理力。
「これはそう、サシ」
「……!?」
 理解が追い付いていない様子の敵に、畳み掛けるようにリィは仕上げの一手を放つ。
「イド!」
 主の呼び掛けに、ボクスドラゴンが属性インストールを発動。BS耐性という名のスパイスがリィの身体を包み込んだ。
「どうかしら? この身こそがドラゴン界のシャトーブリアン、至高のドラゴンステーキよ!」
 少々無理矢理な感はあるが、重ねた勢いはそれを押し切るに足るものだ。
「そ、そうかしら。そう言われるとそんな気も……」
 悩まし気に答える敵に、続けてカロンが炎を跳び越え、斬りかかる。
「最後は私、ローストカラカルね!」
「こっちは、随分変わり種なのね……」
「大丈夫、他には真似できない珍しいお味を体験させてあげる」
 疑わしげな相手に彼女が誇るのは、毎日の鍛錬とブラッシングで得たしなやかな肉体だ。
「さっぱりめだからいくらでも食べられるんじゃないかしら」
「そう……本当に?」
 言動はどうあれ、分かりやすい肉質で負けている分主張が弱いか。迫る刃を受け止めて、調理器具が金属音を響かせる。
 それに対し、カロンは目に愉し気な光が宿らせた。
「それとね、お肉は戦場に立つこの瞬間にも成長し、熟成していくの」
 自由自在に、舞うように。一対のナイフが複雑な曲線を描き出す。そして連続する斬撃とともに、彼女は歌い上げる。
「ほら、貴女も一緒に『おいしくなあれ、おいしくなあれ』」
「おいしくなあれ? ……なるほどね」
 調子を合わせて包丁を踊らせたぺこりーぬの口の端が上がる。鋭い刃のやり取りは、否が応でも気分を昂らせるものだ。
「煽るのが上手なのね。三人とも素敵よ。お腹がすくわ、とても、とても……」
 陶酔するように敵が呟く。戦いの舞いの中で、その給仕服が一度、大きく捲れ上がった。
「ああ、でも責任はとってね? いただきまぁす」
 露になった腹部からモザイクが伸び、巨大な口を形作る。意図は明らか。捕食だ。
「危ない……!」
 そこに沙慈が庇いに入る。それを一瞬窺って、モザイクの口は急速に食いつく場所を『選んだ』。
「――!?」
 予期せぬ動きに、言葉にならない声が上がる。口がかじり付いたのは、沙慈の長い尻尾だった。
「んん、スマートでなかなかのお味……」
 そのまま獲物を引き寄せようとするモザイクをひっかき、トパーズが敵を威嚇する。敵の捕食攻撃は強力だが、食欲に駆られたその動きは、見る者が見れば隙だらけ。
「つまみ食いはダメよ」
「最高級の肉を前にして、失礼なのでは?」
「ほんと、仕方ないわねぇ」
 リィの手で束ねられた闇が槍と化し、クロハの握ったククリナイフが炎を纏う。そしてカロンが両手のナイフを閃かせ――。
 リィの黒蛆をはじめとする三者三様の攻撃が、モザイクに叩き込まれた。
 ダメージは甚大。モザイクの口はたまらず沙慈を解放し、元の場所に収まる。
「残念。でも、あなたは良いカルパッチョになりそうよ」
「うう、召し上がれとは言ったけど……」
 ふらつきながらも賞賛の言葉を告げる敵に、沙慈がその爪でやり返した。

「そろそろ決着ですよっ!」
 ピリカの手によるカラフルな爆発。その煙を突き抜けて、アルベルトが重傷を負った敵に迫る。
 さあ、命のやり取りを。赤い殺意を宿した弾丸と、振るわれ続ける調理器具。火花散るそれらの音色を楽しみながら、アルベルトは尋ねた。
「ね、君はコース料理だったら、なんの料理なの?」
「……何を言っているの?」
「考えた事もないかな? 僕は、君みたいな視点で戦うのも楽しめたけどね」
 言いつつ、敵のさらなる足掻きを避けるように後退。敵をどんな風に食べるか、それは彼にとっては新鮮な思考だったようだが。
「君達はいつもこんな感じ?」
「あら、興味あるの?」
「何を――」
 その鮮やかな翼の影から踊り出で、カロンが敵へと迫る。そして言葉の意図を察せていない敵へと、笑みを向けて。
「降魔拳士の私からしたら、食材は貴女ってこと。――いただきます」
 虚を突かれたような目をする敵に、魔を喰らう拳が振り下ろされる。
「困ったわね。まさか、私が食べられるなんて……」
 とどめとなる一撃に、嘆くような、面白がるような、そんな声を置いて、ぺこりーぬは力尽きた。

●ごちそうさまでした
 戦闘終了、そして皆の無事を確認し、リィが小さく溜息を一つ。
「……みんなを見てたらお腹空いてきちゃった」
「食事の話ばかりでしたからね……」
 クロハもそれに同意を告げる。
「それに、漸く禁酒禁煙の解除です、どうせなら美味い食事と一緒が良い」
「私もそろそろちゃんとしたごはんをっ」
 同じく食生活を縛っていたピリカも拳を握る。そして一息ついたカロンとサイファも、その流れに乗る事にしたようだ。
「あ、食事? なら私もいくー」
「どこが良いかな。やっぱ洋風メニューが充実したレストランとか?」
「やっぱり食べられるより、食べる方がいいよね!」
 軽い調子のアルベルトに、沙慈が神妙に頷く。その呟きには、どこか実感がこもっていた。
「今なら少し分かります。美味しい食材には、感謝して食べないといけませんね……」

 こうして、各自に色々な実感と経験をもたらし、食事を巡る奇妙な戦いは幕を下ろした。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 5/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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