月華衆が棟梁、機巧蝙蝠のお杏が配下達に告げる。何れも螺旋の仮面をつけた年若き5人の少女達だった。
そう、彼女達こそ月華衆が一門、黒鋤組だったのだ。
「螺旋帝の一族が東京都心部に現れた。一刻も早く、我らが月華衆が、その御身を保護せねばならない。お前達は渋谷区の探索を行い、どんな些細な情報でも報告せよ」
お杏の言葉に黒鋤組は一糸乱れぬ様相で頭を下げる。言葉は不要だ。上忍の命は絶対。それは忍びの掟である。
「既に他の忍軍も動いていると思われる。もし、他の忍軍と接触した場合、最優先でこれを撃破するのだ。他の忍軍に奪われるわけにはいかぬからな」
その言葉が終わると同時に、黒鋤組達は散開する。残されたお杏もまた、闇に消えていくのだった。
そしてまた、別所。
ここにもまた、螺旋忍軍が集っている。その名を螺心衆と言った。
「傾注! これより、我が部署は24時間残業体制に突入する。下忍社員は4~6名の班を作成、都内全域を分担して調査活動を行うように」
上忍の言葉に5人からなる下忍衆はうんざりした顔をする。だが、言葉は不要だ。上司の命は絶対。それが社畜の悲哀である。
「調査対象は、東京都内に潜伏中と思われる、螺旋帝の一族その人である。調査中、他忍軍の調査部隊を発見した場合は、最優先で他忍軍の排除を敢行せよ。それでは、検討を祈る」
上忍はそれだけを告げると闇に消えていく。下忍び達もまた、顔を見合わせ、悲しげに視線を交差させると夜闇に消えていくのだった。
「東京都都心で、螺旋忍軍が活発に活動を開始した。それはみんなも聞き及んでいると思う」
ヘリポートに集ったケルベロス達を前に、リーシャ・レヴィアタン(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0068)は、その文言を告げる。
「複数の螺旋忍軍の組織が大規模な活躍を行い、螺旋忍軍同士の戦闘にまで発展し始めているわ。まぁ、デウスエクス同士の戦いだけだったら、放っておくだけなんだけど……」
強力な力を持つ螺旋忍軍同士が衝突すれば、周囲に甚大な被害を撒き散らしてしまう。人口密集地帯である東京都内では、建屋の崩壊は即、人命への損害に繋がってしまうだろう。故に、放置する事は出来なかった。
「順当に考えれば、二つの軍勢の争いを静観、それなりに疲弊した所で双方とも討つべきだけど、さっき言ったように、それだと周囲への被害は免れないわ」
もしも、それを避けたいのであれば、最初から戦闘に介入するべきだろう。
「例えば片方の螺旋忍軍に協力を持ち掛け、他方を撃破。返す刀で最初に味方した螺旋忍軍を撃破する、とかね」
権謀術策渦巻く螺旋忍軍だ。ケルベロスの力を利用する事に忌避感がある筈も無い。
「ただ、この場合、みんなが漁夫の利を狙っていることが判れば、双方の螺旋忍軍は協力し、みんなの撃破に乗り出す可能性が高いわ。だから、そう悟らせない作戦は必要よ」
10人に膨れ上がった螺旋忍軍との戦闘は容易ではない。おそらくそうなれば敗北は必至だろう。その為、その回避手段は必要不可欠だった。
「みんなに向かって貰うのは渋谷区。そこで月華衆黒鋤組と呼ばれる下忍と螺心衆と呼ばれる下忍びが衝突するわ」
人数は双方とも5名ずつ。螺旋忍者と同じグラビティの他、月華衆は螺旋手裏剣を、螺心衆は日本刀を得物とするようだ。
「月華衆は全員がクラッシャー、対して螺心衆は2人ディフェンダー、2人がスナイパー、1人がメディックの構成のようね」
どう戦うかは皆に任せるが、参考にして欲しいとの事だった。
「繰り返しになるけど、皆の立ち回り次第では螺旋忍軍は呉越同舟とばかりに共闘して戦ってくるわ。でも、裏を返せば、みんなの行動次第では各個撃破も難しくないと言う事。みんなで意思統一した作戦は必要になるだろうけど、倒せない敵ではない事は忘れないで」
それと、とリーシャは言葉を続ける。
「もしも螺旋忍軍の目的を知りたいのであれば、螺旋忍軍から話を聞くんじゃなくて、その行動を調査する方が賢明よ」
下忍が正しい情報をケルベロス達に伝えるとも考えられない上、彼らに伝えられている情報もまた、正しいとは限らないのだ。
「それじゃあ、行ってらっしゃい」
そうして、リーシャはケルベロス達を送り出すのであった。
参加者 | |
---|---|
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484) |
エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968) |
楡金・澄華(氷刃・e01056) |
月見里・一太(咬殺・e02692) |
鉄・冬真(薄氷・e23499) |
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654) |
レミ・ライード(氷獄騎兵・e25675) |
キャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717) |
●忍者に番犬は吠える
渋谷区幡ヶ谷。
新宿も程近いこの場所は企業達による新興のオフィスと、昔からの住宅街が同居する、いわば商業と住居の混在地域であった。
その午後八時ともなれば、帰宅を急ぐサラリーマンの姿もちらほらと見受けられる。
だが、この時間にあって未だ消えぬオフィスの光は、社畜と化した人々の業務が終わらないと、告げる証のようでもあった。
「どんな理由か、知らないケド、迷惑よ」
商店街の明かりを後にしながら、エヴァンジェリン・エトワール(白きエウリュアレ・e00968)はぽつりと呟く。人々の営みが繰り広げられるこの場所が螺旋忍軍による内輪揉め――内部抗争の舞台となる。それを看過できない想いは彼女の形の良い眉を顰めさせるのに充分であった。
視線の先にいる7人の仲間は、いずれもは同じ思いを共有している。
「抗争、するなら、人のいない所で、して欲しい、と思う、です」
レミ・ライード(氷獄騎兵・e25675)の憤慨はもっとももだった。勝手に争う分は問題ない。だが、そこに被害者が生まれる事は許せない問題であった。
「もしもこれが人のいない場所なら……」
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)の独白はしかし、その仮定は無意味だと自身で否定する。
既にヘリオライダーの予知でこの場所が戦禍を被る事は告げられてしまった。ならば、その被害を最小限に収める事が自分達の仕事だと続けた言葉は、鉄・冬真(薄氷・e23499)からの首肯で促される。
「利用できるものは、全て」
ただ放置すれば被害は拡大の一手を辿るだろう。そして、口惜しくも全てを排除出来る程、彼らは強くない。侵略者たるデウスエクスは一人一人が一騎当千の兵達ばかりだ。一つの勢力ならば五分で排除出来るだろう。ならば、二つの勢力のぶつかり合いならば?
「ま。せやから、うちらが介入するんやけど」
止める事は出来なくとも、流れをコントロールする事ならば出来ると、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)は微笑う。その為の策は練って来た。成功失敗如何はこれから接触する相手次第だが、必ず成功するだろうと確信を以って呟かれる。
「時間だ。そろそろ準備を始めよう」
人々に無用な警戒心を抱かせない為か、黒狼の獣人型から白い肌の優男と言う人型へ身を転じた月見里・一太(咬殺・e02692)の言葉に、ケルベロス達はコクリと頷く。
「それでは、ご武運を」
「そっちもな」
散開する避難誘導班の4人を送り出すキャロライン・アイスドール(スティールメイデン・e27717)の言葉に返って来たものは、忠告とも返礼とも取れる短い言葉だった。
「さて、お手並み拝見と行きたいところだが」
螺旋忍者が故に螺旋忍軍の戦いが気になるのだろう。遥か彼方に視線を向ける楡金・澄華(氷刃・e01056)の言葉は、何処か期待感を伴って、紡がれていた。
●番犬、社畜と相見える
「ケルベロスが我ら螺心衆に何用だ?」
薄明りの路地裏に、男の声が響く。強きその声はしかし無個性。別れた瞬間、彼の声も、そして容姿すら忘れてしまうのだろう。それは人々の中に溶け込む忍びとして優位な物に思えた。
螺心衆との接触はすぐに叶った。ヘリオライダーによって出現が予知されている以上、後はそれらしい風貌の存在を探すだけで事足りた。捕捉した5人が、一般人にしては強い殺気を纏っていた事も幸いした。
(「人目を憚る気はないと言う事か。それとも……」)
敢えて殺気を撒き散らす事で、敵対勢力である月華衆黒鋤組を誘っているのか。
冬真は抱いた疑問を飲み込み、説得の言葉を紡ぐ。今、それを言及する意味はなかった。
「ここに月華衆を討ちに来た螺旋忍軍がいると聞いてね」
帝の名前は出さない。あくまで自身らの狙いは月華衆であるとの虚言を重ねる。
「今だけ、手伝ってアゲル。月華衆とは、因縁があるのよ。……一般人を巻き込まずに、早めに混乱を、収めたいだけ」
「成程。ケルベロスの情報収集能力は侮れんな」
エヴァンジェリンの言葉に対し、不敵に螺心衆の一人が笑う。浮かべたそれは敵であるデウスエクスですら利用する豪胆さへの畏怖か、それとも、一般人の犠牲を生みたくないと言う甘さへの嘲笑か。
(「ヘリオライダーの事が露見している……と言うわけではなさそうだが」)
螺旋忍軍の情報網に浮かぶ澄華の憂いはしかし、それを言及する訳にいかない。仮にそれが事実だとしても、敵も表に出す愚行はしないだろう。まして、そんな化かし合いをする時間は、双方に残されていなかった。
過去に月華衆とケルベロスが争った事実がある。そして、ケルベロス達が地球人たちを巻き込むことを嫌う事は、諜報活動を密としているデウスエクスには周知の事実だろう。何より、デウスエクスにとってケルベロスは弱者。群れねば何もできない犬だと言う侮りは、そう簡単に払拭出来るものではない。
だから、釣れると確信があった。一時的な共闘関係を持ち掛けるには理想の相手であると思わせる条件は揃っている。
「早く終われば今日の残業はなし……」
「……それは魅力的な提案だ」
一瞬の逡巡はしかし、結局、キャロラインの囁きの元、屈する結果となった。社畜である彼らに残業手当が出ているのか否か。それは不明だが、そんなものよりもさっさと残業を切り上げ、帰宅する方が大事のようだった。
斯くして、螺旋忍軍と地獄の番犬との共闘が結ばれる。呉越同舟の関係なれど、今はそれで十分だった。
「上手く行ってればええんやけど」
「大丈夫、だと、思い、ます」
瀬理の呟きに、確証に近い肯定をレミが返す。
エヴァンジェリンらが螺心衆に共闘を持ち掛ける間、彼女達が人々の避難誘導を行う手筈となっていた。
呼び掛けは警察関係者の協力もあって、スムーズに進んでいる。ケルベロスの名とデウスエクスの襲撃情報は、もはや人々にとっては日常茶飯事の出来事だ。パニックの発生だけが心配だったが、そこは瀬理やレミ、一太の防具特徴で押さえる事が出来た。
「デウスエクスの襲撃は駅周辺です。まずは駅から離れて下さい」
割り込みヴォイスを用いた茜の言葉が周囲に響く。
手筈通りならば、避難誘導が完了しない限り仲間達は螺心衆と行動を行わない。それ故、螺旋忍軍同士の抗争が始まる筈も無い。
だが。
(「それでも、迅速に終わらせなければ、ね」)
仮に月華衆が螺心衆を発見すればその限りではない。戦闘の開始は誰にも遮る事は出来ないだろう。
だから、避難誘導を急ぐ必要があった。
「こっちだ。慌てず騒がず、だけど、拙速に、ってな」
一太の誘導に、人々の波が動いていく。
●社畜は月華、夜に舞う
剣戟の音が響く。手裏剣と日本刀がぶつかり合い、火花を散らす。鍛えられた刃同士の接触は、甲高い金属音を周囲に響かせた。
「軒猿の上忍の技量、見せてやろう」
澄華の放つ斬撃の衝撃波は月華衆の一人を切り裂き、その足を止める。
「見事!」
賞賛の声は螺心衆から上がった。共に殺到する月影を思わせる二振りの残光は、彼らが紡ぐ日本刀の斬撃だった。
切り裂かれた月華衆の少女から呻き声が零れる。三度に渡る斬撃に、しかし、コギトエルゴスムと化さないのは流石だった。
だが。
「うちらとも遊ぼうや」
疾風を思わせる回し蹴りを敢行した瀬理の台詞に、少女は整った顔立ちを歪めた。自分達以外の螺旋忍軍の存在は想定していたが、それに与する勢力がある事は予想外だと、その表情が告げていた。
「地球で暴れて、ケルベロスの介入がないと、思ってた?」
呆れ混じりの言葉は、回転斬撃を繰り広げるエヴァンジェリンから紡がれる。竜巻と見紛う旋撃に、跳躍して活路を見出そうとする月華衆はしかし。
「――くっ」
流星の煌きを纏う黒狼の一撃――一太の跳び蹴りに撃ち落とされる。
「さぁ。僕らを使うといい」
「地球で争う愚を思い知りなさい」
「抗争は、別のところで、やって」
立ち上がった彼女へ殺到するは、無数の日本刀が織りなす刃。そして冬真によるハンマーの一撃と茜の炎を纏う前蹴り、レミによる槍の投擲だった。
それらを一身に受け、月華衆の身体が光の粒子へと消えていく。
「――ケルベロスっ!」
月華衆の放つ怨嗟の言葉はしかし、螺旋衆による斬撃によって掻き消された。
「余暇も睡眠も、断ち切るその強い心で、今ここに 咆哮をあげよ」
キャロラインによる激励のメッセージ――あらがいし番犬(社畜応援エディション)が響いていた。彼女によるヒールはケルベロス、螺心衆を問わず、その傷を癒していった。
(「判っていたけれど、やはり、私たちが優勢ですね」)
デウスエクス同士の戦いに、しかしケルベロスの介入でここまで優劣に差が付くものかと戦慄する。
連携の取れた動きで月華衆が螺心衆を攻撃すれば、返す刀の螺心衆は社畜らしく、役割分担された堅実な攻撃を行っていた。ケルベロスの介入が無ければおそらく、二者は均衡状態。被害ばかりが広がっていただろう。
だが、今や、この街の避難誘導は完了し、そもそもキャロラインの進言によって今や戦場は駅近くの駐車場に絞られていた。数台、車や周りの建屋が犠牲になるだろうが、その程度はヒールで回復できるから、問題ないものと切り捨てる。
そしてやはり彼らにとっての問題は、そしてケルベロス達の利は、デウスエクスが弱者とケルベロスを侮っている事に由来した。仮に月華衆がケルベロスを脅威とみなせば、螺心衆より優先して排除しただろうし、共闘状態とは言え、螺心衆もその防御に回ったりはしなかっただろう。
だが、月華衆の攻撃の全ては螺心衆に向けられ、彼らもまた、それが当然と受け止めている。故に、ケルベロス達の介入は。
「当然、こうなります」
スナイパーへ投擲された手裏剣を鉄製竹刀で叩き落した茜が独白する。無数の傷を負う彼は眼だけを伏せ、短い礼を行った。
その傷を癒す筈のメディックの姿はもはやない。月華衆の連続した刃が真っ先に向かったのは、その役を担う螺心衆だったのだ。
(「ヒーラーから潰せはセオリーですが」)
コギトエルゴスムと化し、地面に転がる姿をなんと思えばよいか。冬真の嘆息に、気付くものはいなかった。
だが、お陰で共にヒーラー不在の状況を早々に作り出す事が出来た。漁夫の利を狙うケルベロスからしてみれば、願ったり叶ったりの状況であった。
また一撃、螺心衆の一撃を受け、月華衆の一人がコギトエルゴスムへと転じていく。
「……ここで、好き勝手出来るなんて、思わないで」
迷惑、とのエヴァンジェリンの声が染み入る様に、ケルベロス達に届けられていた。
●終業の鐘は鳴る事がない
やがて抗争も終焉へと向かう。此度のそれは、月華衆の全滅によって迎えられていた。
「おのれ、螺心衆。ケルベロスの力を借りるなどと……」
最期の一人による怨念とも言うべき文句はしかし、螺心衆にとっては何処ぞ吹く風。
「如何なる手段を用いようとも自身の望みを手にする。貴様も螺旋忍軍の一員ならば、それは身に染みている筈」
日本刀の一太刀がその意識を刈り取る。コギトエルゴスムと化した事で、反論は紡がれないまま、消滅していった。
(「2人、やな」)
残った螺心衆は2人。双方とも攻撃手を担っていたスナイパーだ。対してこの場にいるケルベロスは8人。デウスエクス同士の戦いに介入した為、全員が無傷とは言い難いが、それでも戦闘不能に陥る程の怪我を負ってはいない。
ここが分水嶺だと瀬理は独白する。それと同時に。
「本来ならば礼を言う場面ではあるが」
コギトエルゴスムを拾った螺心衆は視線を合わさず、二の句を紡ぐ。
「目撃者は消さねばならぬ。それが一時の共闘相手と言えど、我らを知る存在が残るのはよろしくないな」
ある意味、その文言は忍びの鑑だった。権謀術数を是とする彼らにとって、裏切りは日常茶飯事。掌を返す事に忌避感を覚える筈も無かった。
「それはそちらも同じだろう?」
不意打ちを行わなかったのは、それが共闘の礼とでも言うつもりなのか。
「2人で私達8人に勝てるとでも?」
故に、澄華は問う。そもそも8人で討つべき相手だ。共闘故に情が移ったとも言うつもりもない。だが、その覚悟は聞いておきたかった。
「舐めるな、犬風情が」
「社畜風情が吠えますね」
キャロラインの応戦が、呼び水となる。そして、残った螺旋忍軍は散開とばかり、二手に分かれ、宙を舞う。
響く金属音は日本刀、そして銀の鉾がぶつかり合う音だった。
鍛錬に鍛錬を重ねた二つの刃は折れず、欠けず、ただ、互いの全てを叩き付け合う。
「アタシが、守るわ。……守ってみせる」
銀色の得物で一撃を受け止めたエヴァンジェリンは宣言の如く呟くと、更に詠唱を重ねた。
「祈る時間は、あげない」
守るべき者の為、斬撃は光となって螺旋忍軍を強襲する。銀光に焼かれ、零れた悲鳴はしかし、それでも終焉には遠いと言わんばかりの裂帛の気合に置き換えられる。
だが。
「太陽を喰らった魔狼の咢、味わってけよ」
横合いから彼を襲ったのは一太による熱を喰らう一撃だった。
「騙して悪いな。番犬だって頭を使うんだ。奈落で悔いてくれ」
咢と化した拳は螺旋忍軍を梳り、その部位を凍結させていく。悲鳴すらも凍結させた一太はにやりと笑う。
「次は、貴方達の、番、です。――嘆きも、悲しみも、全て凍らせ、静寂へと誘え」
そして戦乙女の一撃が、その命を刈り取る。冥府の冷気を孕む槍撃はその命を凍結し、そして粉々へと砕いていく。コギトエルゴスムと化す事のない本物の死に、残された一人の気配が粟立つのを感じた。
「この世界にお別れを……!」
その彼に突き刺さるのは、茜の飛ばす深紅の鋼線だった。貫き、切り裂くそれは彼女の抱く負の感情。一切合切の情をかなぐり捨てた一撃は、螺旋忍軍の身体を大地へ固定する。
「疾走れ逃走れはしれ、この顎から! ……あはっ、丸見えやわアンタ」
「この技、避けきれるかな……?」
動きの止まった忍びが捕食者から逃れられる道理はなかった。
ネコ科の狩猟者を思わせる動きで肉薄した瀬理の得物が、空間に刻まれた多角の魔法陣から展開される澄華の刃が、螺心衆の身体を切り裂き、無へと帰していく。
それはまるで、無数の牙を突き立てられる姿に何処か似ていた。
「残念だが、キミ達に終業の鐘が鳴り響く事は無い。――宮仕えは何処も大変だな」
冬真による葬送の言葉は労いの如く響く。
それが、彼に届いたのか。その答えを示すことなく、螺心衆はその身を光へと転じて行く。
それが螺旋帝を巡る月華衆と螺心衆の最期。
ただ、番犬の笑みだけが、その場所へ残されたのだった。
作者:秋月きり |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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