逃げろ、鎧が走る!

作者:baron

「わー、かっこいい鎧がたくさんあるよー。一つくらいほしいなー」
 蔵を開けよつんばいで秘密の扉を開くと、そこには色とりどりの鎧が有った。
 赤い鎧、青い鎧、緑の鎧、橙の鎧もあれば小豆色に茶色まであるではないか。
「んー、コレなんかかっこうよいよねー」
 中でも凄く強そうだったのは、白い鎧と黒い鎧だ。
 ビシっと中央にあって、剣を掲げている。
「あれ、いま動かなかった? だーるまさんが、ころんだ!?」
 ちょっと変だったので、止せばいいのに振り向いてみる。
 そしたら鎧が合体して、大きな悪そうな大鎧になっていた。
「に、逃げないと、逃げないと! わーん、追いかけて来るなー」
 必死で逃げようとよつんばいになって蔵の扉をくぐるのだが、敵は何mもあって直ぐに追いついてしまう。
 扉はどうやって通ったんだろうと思った瞬間、目が覚めたのである。
「あれ? 夢か……。そうだよな、ヨロイがうごくなんてそんなことないよな」
 きっと蔵を開けた時に、人形が怖かった思い出のせいに違いない。
 そう思った時である。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『驚き』はとても新鮮で楽しかったわ」
 そこには胸に鍵を刺しにやって来た、変な女の子が居たのであった。
 そして、どこかで見たような……。


「ビックリする夢を見た子供が、ドリームイーターに襲われ、その『驚き』を奪われてしまう事件が起こっているんです」
「どうしてこうなちゃったんですかねー? 最初はただの夢だったんでしょうけど」
 セリカ・リュミエールが説明を始めると、卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)は首を傾げて分析してみた。
 当然答えはドリ-ムイーターのせいと言うほかない。
「その『驚き』を奪ったドリームイーターは既に姿を消しているようですが、奪われた『驚き』を元にして現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしています。これを退治すれば子供も目を覚ましますので退治をお願いしますね」
「うーん、まあダモクレスよりは楽しそうかな。了解ですー」
 紫御たちは笑ったり苦笑いしながら、奇妙なドリームイーター退治の話を始めた。
「敵は一体で、被害者宅の近くに居ると思われます。相手は驚かせたいようで、鎧の話をしていれば襲ってくるでしょう」
「どんな能力を持って居るんですか?」
 セリカは地図を渡しながら、頷いてメモを書き始めた。
「剣で戦うとき仮面の部分に、襲われた人しか判らない変身をしてきます。次に、二本目の剣を取り出すと、蝶や流星が襲って来る様な幻覚を持ち居ます。最後に普通に戦い、手元や足元を狙ってこちらの力を削いできます」
「なるほど、基本的にはドリームイーターなんですね」
 セリカはケルベロスたちの話題に頷きながら、ブレスを吐いたりはしないと教えてくれた。あくまでドリームイーターのバリエーションであり、範囲や属性の差はあるかもしれないが、ほぼ同じ物だと言う。
「子供の無邪気な夢を奪って、ドリームイーターを作るなんて許せません。害者の子供が、再び目を覚ませるように、ドリームイーターを倒してくださいね」
「スケジュール次第ですけど、頑張りますね。それにしても鎧が合体かぁ……ロボみたいというか、やっぱり子供の夢だからですかねー」
 セリカが出発の準備を始めると、紫御たちは作戦の相談を始めたのである。


参加者
シルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)
アクセル・グリーンウィンド(緑旋風の強奪者・e02049)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)
結城・勇(贋作勇者・e23059)
カシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468)
櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)
レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)

■リプレイ


「これで良いですかね」
「あとは一般人が紛れ込んでないかを確認して戦うとするか」
 櫂・叔牙(鋼翼骸牙・e25222)がテープで通りを封鎖すると、結城・勇(贋作勇者・e23059)は周囲を見渡し始めた。
 その様子に叔牙は片目を閉じて、ネットを参照した。
 事前にブックマークしておいた資料が、その瞬間に表示される。
「なら、おびき出す予定の広い場所に向かいつつ、既に入り込んでる人を探す感じですね」
 叔牙は予め調べておいた場所を指差しながら、そこへおびき寄せようと提案した。
「確か今回の敵って、色とりどりの鎧ですか。鎧ってカッコいいですから、憧れる気持ちは分かります」
「そうですね。西洋鎧は、儀礼化するまで。地味な物、多いですが……日本の鎧は、美々しいですよね。更に、実用性も。高いのが……格好良いです」
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)が話を合わせて来たので、叔牙は頷いて東西の差を説明した。
 湿気などの理由から東洋は軽く初期から装飾加工し易い物が多く、反対に西洋は鉄板であるため特に色彩面で加工し難い。
 旗や羽飾りなどはどちらも似た様な派手さで演出し、自らの武功を誇ろうとするのは同じだ。

 そんな風に話していると、月が雲間に隠れ闇夜に閉ざされる。
 その中を、ナニカが、カシャンカシャンと歩いて来る音が聞こえた。
「アクマアーマー、ですか。悪の幹部をイメージ、とのことですが、喋ったり、倒されたときに爆発したりするのでしょうか?」
「いよいよ鎧との対面ですね。……どちらかというと特撮風ということですから、色々と参考にはしたいものです」
 卯真・紫御(扉を開けたら黒板消しポフ・e21351)が耳を澄ませると、カシオペア・ネレイス(秘密結社オリュンポスメイド長・e23468)が期待を込めて頷いた。
 自爆には浪漫があるが、そんな浪漫を共有できる相手と出逢いたいものである。
「参考とな? もしや鎧に興味が……アクマアーマーとは実にシンプルでよい、敵っぽい敵じゃな、楽しみじゃよ」
「いえ。子供の斬新な想像力を参考に、主人のデザインの足しになればと」
 展示場巡りでもしないかとレオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)はデートの提案をした。
 だが、カシオペアさんは当然のことながらスルー。
 レオンハルトは主人という言葉を旦那さんと言う意味に勘違いし、寂しさを扇子を拡げ口元を隠す事で補ったのである。

 そして、雲の隙間の月を仰ぐ時、やって来る瞳はルビー。
 赤く燃え上がる目が、暗黒の中に浮かび上がる。
「ふぎゃ! うわ、う、うごいてりゅーー」
 アクセル・グリーンウィンド(緑旋風の強奪者・e02049)が驚いたフリをしながら、黄金の加護を授け始める。
 いささか大げさだが、ドリームイーターが驚かす為に平常心の者を狙うというなら仕方あるまい。
「にげるっすよー。なんーちゃって」
 ここで驚いて見せて、壁役の者が驚かない作戦なのだから。
 シルフィリアス・セレナーデ(ごはんはポテチの魔王少女・e00583)も演技しつつ、髪を魔物のように延ばして戦いの準備を整えた。
 やがて月光と共に黄金の光が辺りを照らし、敵の正体が顕わになって行く……。


『あ、ア、悪魔。アクアマーマー!? ダンダンダダン』
「……はっ!? なるほど……このような鎧もあったのですね……」
 まるで歌舞伎役者が見えを切って登場するように、カシオペア達の前に大きな鎧武者が現われた。
 各部位が鎧であり、全て違う色なので芸術としても防具としても、随分奇妙である。
 カシオペアの放つチェーンが巻きつく異様な様子が、逆にシックリくる怪人ぶりだ。
「色の数だけ鎧が組み合わさっているとしたら……一体どれだけの数の鎧が集まっているんですか!?」
 紫御が呆れるほどに獄色彩のオンパレードだが、右手は緑の鎧、左手は黄色、足は青に橙色。胴体は赤だ。
 なお反対側から見ると胴体が朱色、四肢は茶色に小豆色など全体的に渋い色。
 特徴的なのは、顔が白い面と黒い面の前後二つあることであろうか。

 ここで見え切りに見栄で返すように、ケルベロス達も相対する。
「竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
 レオンハルトはパチンと扇子を鳴らして恰好をつける。
 僅かに残る、美しき女性達とも思い出を反芻することで、驚きでは無く勇気をグラビティで鼓舞するのだ(と、主張しております)。
『けけけ、ケンザン。見参! 剣斬』
「うおっ、なんだよあれ! ってな。いかにも悪役っぽい鎧が相手たぁ、勇者としちゃ俄然滾るってもんだわな」
 勇は素早く抜刀すると、猛然と切り掛って行った。
 彼が開戦の火蓋を本格的に切ると、仲間達も追随して襲いかかる。
「これは……随分と。禍々しいですね……」
 叔牙は形の上では驚いて見せながら、掌にある電撃端子を全開にした。
 片手ではまだ足りない、両の手で同時に打撃を与えることで、内部で飽和するほどの電撃を浴びせるのだ。
『ぶぶぶ、無礼千万な? 武礼旋盤! ブレイデッド』
「鎧が合体したら、こんな形になるのですね……何とも禍々しい。ですが、素早い動きは、さっさと封じてあげますね、この飛び蹴りを食らいなさい!」
 綴は仲間目掛けて振り降ろされる剣の機動に割って入りながら、蹴りを浴びせて動きを止めに掛る。
 乗せられたグラビティこそ抵抗されてしまったが、その視線は確かにこちらへ向いた様だ。
 こうしてケルベロスとドリームイーターの戦いが本格的に始まった。

「まずは守りを固めます。前衛の皆さん、よろしくお願いします」
 紫御はグラビティで光の屈折を捻じ曲げると、壁役達の位置情報を誤魔化した。
「相手の状態異常攻撃は危険です。しっかり対策していきましょう」
 同じ姿が複数存在し、本来の位置には偽者を、本物は別の場所に嘘っぽく表示させる。
 流石にデウスエクスを完全に騙せはしないが、こうすることで本人の防御力を上げる為だ。
『あ、ガリ。アガリ。いっちょア、ガリ!』
「お嬢さん怪我はないかの? 我の目の、……髪の黒い内はやらせぬよ。ゆけ、ゴロ太!」
 鎧が両手で繰り出す剣をグラビティを流した扇子でバシン。
 レオンハルトは日本の慣用句を途中で止めると、少しだけ修正してフサフサな前髪をクルリと指先で巻き取った。
 そして相手の剣に達向かいつつ、ゴロ太スラッシュ! と流体金属でワンコを振り回し合体技で反撃するのである。
「かいふくするよー。キミ、ゴロ太って言うんだ~」
「いや、食らったのは我じゃからの? をーい」
 アクセルが気力を移すというなのモフリ行為をしようとした時、レオンハルトは思わずヘルプを要請した。
 そんなこんなな冗談みたいなやりとりではあるが、前衛が道を塞ぐようにして立ち塞がり、そこを仲間達がバックアップする形で支え始めたのである。


「悪くはありませんが、これは見慣れないから異様なだけです」
 なんとなくカシオペアはこの様式に見覚えがあった。
 四肢のパーツが別の鎧で、色彩も獄色彩……。
 つまりこれは、ジャンクだ。誰かさんがジャンクパーツで製造しようとするナニカに良く似ている。
 それが丸ごと鎧を使った贅沢な一品であるだけで、言うほどの凄さは無い。
「私としては、主人に着用して貰うとするならば、無駄な装飾過多の方が様式美があっていいように感じられますね。まあ、同じ方は二人も要らないのですが」
 彷彿とさせると言うか、発明品の方、まんまだ。
 カシオペアはそう苦笑すると、出逢いの差というものを実感した。
 既に主人と定めた者が居るなら、似たような奴は余計でしかないと、砲弾を容赦なく撃ちこんで行く。
「様式美ですか……。鎧とは、何かしら……様式美、ある物ですが……。こうも無意味に、幾つも……くっつくと。軽く、台無しですね……」
 叔牙としては呆れるほか無い。
 これが意味あってこんなデザインならまだしも、単にくっついて居るだけなのだ(子供の夢だから仕方無いが)。
「ともあれ……ここから先に、行かせるわけにはいきません」
 叔牙は周囲に爆風を起こし、続いてソレを取り巻くように棍を回転させる。
 そして爆風が直撃し、仲間の攻撃を避けようとする敵の方向に、棍を伸ばして行った。
「少しでも、動きを阻害させてもらいます」
 紫御は敵の剣に向けて気合いを叩きつけることで、動きを鈍らせに掛る。
 その際に体を前に沈めて、いつでも踏み出せるようにして、槍を深く構えた。
「このまま包囲に移行しますね。どんどん戦い難くしちゃいましょう」
「うむ、挟み討ちじゃな。しびれさせてくれよう。色んな意味でのう」
 綴はレオンハルトの反対側から包囲網を作る為に踏み込んだ(決してナンパから逃げた訳ではない)。
 電撃が唸る様に鎧に炸裂するのと前後して、少女が突撃して行く。
「私だって、やればできます。明日にはがんばりますね!」
 ためらいながらも綴は、いつか出そうと思っていた然良くを明日出す事にする。
 やる気を少しだけ前借りして、今日生き伸びる為に頑張るのだ。
 簡単にいうと、大パンチでパコーンある。


「どのみち、てめえはここまでだ。だったら俺が全身全霊の一撃、お前にみせてやるよ!」
 勇は天を巡る星座の力を剣として形取ると、体内のグラビティと合わせて十二の剣として召喚した。
 それは彼の周囲に配置され、あたかも太陽を巡る星々のように回り始める。
「んじゃ、ラストダンスの始まりだぜ」
 行けと勇が手を降ろして合図すると、十二の剣は一斉に、あるいはリズムを刻んで踊り始める。
 戦女神も驚くような、一人で十二の集団、十二の剣で一人として襲いかかったのであった。
『ぬううん。目にはメインディッシュを、歯にはサイドデッシュを。数にはオカズでリベンジ!』
 アクマアーマーは両手に二本の剣を構えると、駒のように回転。
 鱗粉とも流星とも見えるような光を放ち始める。
 それは目が眩むようなことなどないが、周囲が醜くなってしまっていた。
「気脈を見切りました、レアメタルの指を……むむ。これはいけません。みなさん、吸い込まないようにしてくださいね」
「あきゅ~。それは難しいと思うの。もっかい、ぴかーん」
 爪を突き刺そうとしていた綴は、相手が仲間であることに気が付いて手を止める。
 アクセルはノリで喋っているのか(?)擦れてる彼女にツッコミを入れてから、治癒に掛った。
 再び黄金の輝きが照らし出され、強烈な光が鱗粉を駆逐していく。
「残りは私がやります。……身体を巡る気よ、空高く立ち昇り癒しの力を降らして下さい」
 綴の気合いが一閃!
 地面に叩きつけられた拳の周囲から、闘気の奔流が竜のように天へと目指す。
 そして、にわか雨が暑さを晴らすようにグラビティを流し去って行ったのである。
「行きますよ。これが終わったら、後は怪我しないように、詰めの作業ですね」
「撃ち貫く……さあ、止められるか……!」
 ここで雨の中を紫御が槍を構えて走り出し、叔牙が延ばした棍と並んで突進を掛けた。
 突き刺した槍を軸に紫御は回転し、分身しながら後方に到着。
 叔牙が再び掌に雷電を灯したことで、華やかなスパークが咲き誇った。
『ぬおおおお』
「このまま頭を押さえます。最終フェイズまで二十、十、十八……」
 カシオペアはアームドフォートを器用に操って、砲口からのグラビティを絞って速射を掛けた。
 圧縮された重力弾は相手の防御幕を突破、剣の片方を弾き返したのである。
「ここで、この我の真骨頂よ。いま、ひっさつの! ……ゴロ太よ、たまにはちゃんと働かんかい! 鉄拳をくらええいい!」
 レオンハルトは攻撃をはずしたワンコに文句を言いつつ、ふたたび流体金属で攻撃をしかける。
 巨大な金属の手が、蠅たたきの用にアクマアーマーをぶったたいたのである。
「うおおおおお! こいつでえええ……トドメだああ!」
 最後に勇はダイナミックなキックで決めようとして、蹴り技を忘れたので普通に切ることにした。
 だがそれではあまりにも寂しいので、十二の剣を一本に束ねると、まるで必殺技の用に真っ向唐竹割りで真っ二つにしたのであった。

「お、やったっすね」
「おう。終わり良ければ全て良しだ」
 仲間がねぎらうと、勇は頭を撫でてやった。
「今回も、無事。解決、出来ましたが……連中は、何を……欲して。こういう行動、取るのでしょうね……」
「喪失した何かを埋めたいというのかのう。確かに驚きなど久しく感じておらん」
 叔牙が消え去る敵を見ながら首をひねると、レオンハルトは肩をすくめて回復中の女の子達(男子含む)の方に飛んで行った。
「では回復して帰りましょうか」
「そうですねー。ぼくらが協力してパパっとやりましょーかー」
 綴が雨を降らせて周辺の修復を始めると、残った怪我を直していたアクセルも協力。
「のう、終ったらお茶でもせぬか? 何を隠そうこの我は治癒と修復の達人でな。手伝う故……」
「そうですか。治癒の達人なら、被害者のケアをお願いします……。あの鎧のモデルでもあると良いのですが」
 ナンパを始めるレオンハルトを捉まえて、カシオペア達が被害者宅にレッツゴー。
「もう大丈夫です。怖いものは私達がしっかり退治しました。怪我はしていませんか? 無理はせずに、ゆっくり休んでくださいね」
 全部終った後で、紫御はまるで保険の先生のように、ベットの脇で微笑むのであった。
 こうして、怖い夢は終わりを告げたと言う……。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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