日本の首都、東京のどこか。
奥側の壁に大きな通信パネルを備えた小会議室のような部屋に、ビジネススーツ姿の男性が、五人並ぶ。パネルには、仕立てのいいスーツを着た初老の男性が映し出され、五人の男性を値踏みするような目で見回す。
それだけなら、特に変哲もない普通の会社の普通の通信会議と見えたかもしれない。しかし、初老の男性が下した指示は、普通の会社では絶対にあり得ないものだった。
「『羅泉』代表取締役社長、鈴木・鈴之助である。今、我が社は千載一遇のビジネスチャンスを掴んだ。螺旋帝の一族が東京都内に潜伏しているという情報を得たのだ。お前達特任エリート社員は、豊島区池袋近辺を虱潰しに捜索せよ。万が一、他者の妨害が入るようならば、速やかに殲滅、排除せよ。『羅泉』が誇る特任エリート社員の名にふさわしい働きを、期待する」
そう、彼らは人間ではない。大企業グループ『羅泉』として暗躍するデウスエクス、螺旋忍軍の一党なのだ。
一方、やはり東京のどこか。
その部屋の設備は、大企業グループ『羅泉』とほとんど変わらない。奥側の壁に通信パネルを備えた小部屋に、五人の人物が並び、パネルに映し出される上位者の指示を仰いでいる。
しかし、部屋にいる者たちの風体は、濃灰色の忍者装束に烏天狗の面という異装であり、パネルに映っている上位者も、筋骨隆々な半裸に天狗の朱面というド変態……いや、その、まあ、異様なものであった。
彼らは『テング党』と名乗る螺旋忍軍であり、通信螺旋忍術の伝授で仲間を着々と増やしている、ある意味恐ろしい集団である。そして、マスター・テングと名乗る上位者は、配下のシタッパ・テングスに向け告げる。
「良くぞ集まった、我が精鋭達よ。今、東京都には『螺旋帝の一族』が御降臨なされておる。我がテング党こそ、他の忍軍に先駆けて、その御前に参じなければならぬ」
重々しい口調で言うと、マスター・テングは面の金瞳を光らせて続ける。
「通信螺旋忍術を優秀な成績で身に付けたお前達こそ、次代の螺旋忍軍を支える星である。そのお前達を見込んで、豊島区池袋の捜索という重大任務を与える事とする。他の忍軍どもを倒し蹴散らし踏みにじり、『螺旋帝の一族』を見つけ出すのである!」
「テング!」
五人のシタッパ・テングスは、一斉に声を揃えて応じた。
「東京都心部で、螺旋忍軍が活発に活動を開始しているようです」
ヘリオライダーの高御倉・康が、難しい表情で告げる。
「何が起きているのかは分かりませんが、複数の螺旋忍軍の組織が大規模に活動しており、螺旋忍軍同士の戦闘に発展し始めています。デウスエクス同士が争うだけならやらせていおてもいいですが、周囲の被害などまったく考えない連中が都心で暴れるので、放置しておくと一般人の巻き添え犠牲者が大量にでる可能性が高いのです」
そう言って、康はプロジェクターに地図と画像を出す。
「皆さんに急行していただきたいのは、ここ、東京都豊島区池袋駅東口駅前です。この場所に、大企業グループ『羅泉』の特任エリート社員忍者五名が一般人に紛れてやってきますが、待ちかまえていた『テング党』のシタッパ・テングス五名が建物の屋上から飛び降りてきて奇襲を仕掛け、大乱戦となります。一般の人々は慌てて逃げ散りますが、螺旋忍者たちは縦横に走り回って闘い、巻き添えも相当に出ます」
緊張した口調で告げ、康は一同を見回す。
「対策の方法は二通りになると思います。一つは螺旋忍者は勝手に闘うに任せ、一般人の避難に努める方法。この場合、避難しているところへ戦闘中の螺旋忍者が乱入してこないよう、相当に注意が必要となります。もう一つは、片方の螺旋忍軍を攻撃し、手早く壊滅させたところで、もう片方の忍軍を返す刀で斃す方法。こちらは、片方の螺旋忍軍をいったんフリーにしてしまうので、その間に何か小細工をされると厄介、という点が問題です。特に、そのタイミングで背後を襲われ挟撃されたら目も当てられないので、何かの対策は必要だと思います」
そう言って、康は小さく首を振る。
「螺旋忍軍が争う理由を知りたい所ですが、前線に出てくる下っ端忍者に問いかけても、意味はないでしょう。まず情報は得られないでしょうし、得られたとしても偽情報の可能性が高いので……むしろ、下手に時間をかけると、戦場が拡大して一般人に被害が出たり、冷静になった螺旋忍者たちが皆さんを共通敵として結託する可能性もあります。速やかに斃すべきだと、私は思います」
どうか御武運を、と、康は頭を下げた。
参加者 | |
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葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830) |
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528) |
彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456) |
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348) |
一目・深山(黒焦げ・e18929) |
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973) |
●ニンジャに汚名を、容赦なく
「ん……あれね」
東京都豊島区池袋駅東口。雑踏の中、足早に人ごみをすり抜けようとするサラリーマン風の男に、彼方・悠乃(永遠のひとかけら・e07456)とリリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)が前後から詰め寄る。
一般人の目には、何の変哲もないサラリーマンのように見える男だが、ケルベロスである悠乃とリリーには、彼に対する攻撃命中率が一般人ではありえない数値になっているのが分かる。
「そこのあなた、止まりなさい。私は、埼玉県警の捜査官です」
「何っ?」
正面から来た悠乃に制止され、男は眉を寄せて悠乃を見やる。
「……警官?」
「そうです。あなたには、三年前埼玉県警管内で起きた、小学生男子わいせつ目的誘拐殺人の容疑がかかっています」
胸元から出した警察手帳と捜査令状……実は公印や使用者の名義、容疑内容などが未記載の予備品だが、警察と裁判所から借りてきた歴とした本物なので、かなり細かく見ないと効力がないとは分からない……をさっと提示し、悠乃は割り込みヴォイスを使った毅然とした声で告げる。
「なっ……!」
その最悪な犯罪容疑に衝撃を受けたのか、男は不覚にも棒立ちになり、何事かと足を止めかかっていた周囲の人間が一斉に引く。
「な、何かの間違いだ! 私は、そんなことはしていない!」
「申し開きは署で伺います。また、あなたには黙秘権と弁護士を呼ぶ権利があります。すみやかに、同行願います」
悠乃が告げる間に、リリーが背後から男の腕を取り、手錠をかけようとする。
すると男は、ほとんど反射的にリリーを振り払った。
「触るな!」
「きゃあっ!」
(「かかった!」)
本来、下っ端忍者に易々と振り飛ばされるようなリリーではないが、ここは演技の見せどころ、思いっきり大仰に吹っ飛ばされながら叫ぶ。
「何こいつ!? 人間の力じゃない!?」
「お、おのれ、抵抗するか!」
言いながらも、悠乃はたじたじと後退してみせる。
そして男は、半分やけっぱちのような感じで怒鳴る。
「貴様らこそ、命が惜しければとっとと退散するがいい。私は、貴様ら人間のくだらん法などに拘束されるような者ではない!」
「……デウスエクスかっ!」
悠乃が叫び、リリーは通信端末に向かって告げる。
「本部、本部! デウスエクスが出た! 小学生男子わいせつ目的誘拐殺人容疑者は、デウスエクスだった!」
「やっとらん! 私は、人間に性的興味など持たん!」
男は叫ぶが、もちろん誰も聞いちゃいない。蜘蛛の子を散らすように逃げ出す群衆を、要所で待機していたケルベロスたち……葛葉・影二(暗銀忍狐・e02830)アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)一目・深山(黒焦げ・e18929)軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)がすみやかに誘導する。
そして、駅ビルの屋上から飛び降りてきた五人の異形……烏天狗の面をかぶり忍者装束で全身を包んだ者たちが、器用に人波を避けて殺到してくる。
「小学生男子をわいせつ目的で誘拐殺人するとは、忍者の風上にも置けない面汚し! 我らテング党の手で成敗いたす! テング!」
「ええい、濡れ衣だ! 間違いだ! くそっ、何でこんなことに……!」
呻きながら応戦する男のもとに、さすがに見殺しにするわけにもいかなかったのだろう。サラリーマン然とした男たちが四人、人間離れした身のこなしで集まってくる。
「こうなっては仕方ない、馬鹿天狗どもをとっとと潰すぞ。……しかし貴様、ずいぶんと大それたことをしてくれたな」
「やってない!」
仲間にまで疑われ、不幸な男は悲鳴のような声で叫んだ。
●ニンジャに死を、区別なく
「こちらはケルベロスです。池袋駅東口で、デウスエクス同士が戦闘を始めました。大変危険ですので、池袋駅に電車を入れず、前の駅で止めるようお願いします。駅に入ってしまった電車は、可能であれば乗客を降ろさず、次の駅へすみやかに抜けてください」
避難誘導と並行し、アゼルがアイズフォンで関係諸機関に連絡を取る。
「はい、可能な限りすみやかに、デウスエクスは排除します。御協力、よろしくお願いします」
まったく傍迷惑も甚だしいですよね、と呟き、アゼルはニンジャたちが闘っている方向を窺う。五対五の集団戦になっているようで、お互いに仲間のカバーやフォローをする関係上、ニンジャらしい派手な動きはあまり見られないようだ。
(「デウスエクス同士で戦うならご自由に……だけど、あれ? エリート社員忍者の方が優勢かな?」)
自分の担当範囲にいる人々を地下街へ誘導して逃がし終え、入口のシャッターを下ろしたアンセルムが、戦況を窺って軽く首を傾げる。
螺旋忍者本来のグラビティには列攻撃はないので、エリート社員忍者は名刺型螺旋手裏剣のシュリケンスコール、テング党忍者は高下駄型エアシューズのレガリアスサイクロンを使うが、シュリケンスコールの付帯効果は足止め、レガリアスサイクロンの付帯効果はブレイク。状況にもよるが、基本的にはシュリケンスコールの方が有効だ。
そして、テング党忍者は攻撃より仲間の回復を優先する傾向があるが、使える回復グラビティは単体回復の分身の術のみ。列攻撃でダメージを受けた者をいちいち単体回復していたら、攻撃の手数が極端に減ってしまう。
更に、エリート社員忍者のポジションはキャスター、テング党忍者はディフェンダー。攻撃が命中した際のダメージは、確かにテング党の方が少ないが、テング党の攻撃はなかなか当たらない。攻撃の手数が少なく命中率が悪いのでは、いかにダメージを減らして粘ったところでジリ貧になる。
(「今はまだ五対五だけど……こういう同数の集団戦って、一人欠けたら一気に形勢傾くんだよね」)
テングは有利でも不利でも結束して戦うだろうけど、エリートは必要ないと判断したら分散しかねないもんなぁ。そうなったら厄介だよね、と呟くと、アンセルムは一般人の前では大きめの肩掛け鞄に隠しておいた少女人形を取りだし、彼女を通じて仲間に連絡を取る。
「こちらアンセルム・ビドー。エリート優勢のようなので、テングに加勢してもよろしいかしら?」
「ん……もう少し待って。まだ、避難が終わってないところがあるわ」
っていうか、できればどっちか全滅寸前まで待ちたいんだけどな、と、リリーが戦況を窺いながら唸る。
だが、テング優勢ならともかく、エリートが優勢に乗じて分散したら、確かに厄介だ。
そして影二が、冷静な口調で告げてきた。
「避難完了。テングに加勢する」
「……そうね、やりましょう。鎖を放て」
リリーが応じ、ケルベロス全員が一斉に動く。
真っ先に戦場へ飛び込んだ影二は、いきなりエリート社員忍者の一人を雷の霊力を帯びた日本刀で貫いた。
「ぐはっ!」
自爆する間もなく、エリート社員忍者は一撃で絶命する。
この凄まじい攻撃に、エリート社員忍者のみならず、テング党忍者も慄然とする。
「し、死んだ!? 封印もされずに!?」
「貴様……ケルベロスか!?」
憤怒より恐怖の色の濃い声でエリート社員忍者たちが呻き、影二は重々しい口調で応じる。
「いたいけな子供を誘拐し、わいせつ行為を為し殺害するとは……まさに最悪の外道、断じて許さぬ」
「そうとも! 貴様らは忍者の面汚し! 生かしちゃおかん! テング!」
テング党忍者の一人が、どこかほっとしたような口調で言い放つ。
するとエリート社員忍者の一人が、悲鳴のような声で叫ぶ。
「馬鹿者! ケルベロスは全螺旋忍軍……いや、全デウスエクス共通の敵だ! 忍軍同士で争っている場合ではない! こいつを先に……ぐはっ!」
「恥知らずにも、程がありますね」
余計な口は封じなくては、と、冷やかに言い放ち、悠乃がオリジナルグラビティ『刹那の瞳(セツナノヒトミ)』を発動。一瞬先の未来を見通した回避困難な蹴撃を叩き込み、一撃でエリート社員忍者の頸骨をへし折る。
そしてアゼルが、残る三体のエリート社員忍者にガトリングガンを向け、遠慮会釈のない銃弾の嵐を叩き込む。
「ぐぐぐ……」
「自爆する? まあ、どっちでもいいけど」
無雑作に言い放ち、リリーがオリジナルグラビティ『耀星伝承・第三節【天柱】(ユーバーリーファルング・ドライ)』を放つ。
「応じ来られよ、外なる螺旋と内なる神歌に導かれ、その威光を以て破壊と焦燥を与えん」
シャドウエルフのリーゼンフェルト家に代々歌い継がれた妖精伝承歌を、宇宙を巡る螺旋の秘伝で強化した奥義は、あんたたちみたいな三下には勿体ないけど、とリリーは嘯く。
強大な呪歌は荒れ狂う磁気嵐を雷状に解き放ち、直撃されたエリート社員忍者は黒焦げになって斃れる。
続いて双吉が翼のブラックスライムを解き放ち、エリート社員忍者を丸呑みにする。
(「……別に、エリート社員に含むところはないぜ? そりゃまあ、就職活動がうまくいかなかった頃には、怨みがましい気持ちがあったけどさ。ケルベロスになれて結構幸せだから、決して八つ当たりとかじゃないぜ?」)
誰に対して言っているのか、双吉は口の中で少々言い訳がましくぶつぶつ呟く。
その割には、攻撃には遠慮会釈のカケラもなく、ブラックスライムに呑まれたエリート社員忍者は、ぐちゃぐちゃに粉砕、溶解されて吸収される。
そして和希は、最後の一体のエリート社員忍者を無視し、味方前列にオウガ粒子を放出、命中率を高める。そして、無視された最後のエリート社員忍者を、アンセルムが斬り斃す。彼は刃物を持たないが、攻性植物で斬ったのか、あるいはブラックスライムで斬ったのか、動きが素早く密やかすぎて分からない。
そして深山が残ったテング党忍者に対し、痛烈な挑発を放つ。
「おい、まさかてめーらは犯罪者じゃねーから無罪放免してもらえるとか、能天気な期待しちゃいねーだろーな? デウスエクスは地球の敵、犯罪者だろうがテングだろうが、断固殲滅するしかねーんだよ」
「なっ……」
目を剥くテング党忍者の前で、深山が二人に増える。オリジナルグラビティ『分身殺法「ブラックアウト」(ブンシンサッポウブラックアウト)』だ。
「忍者を名乗るなら、このぐらいは見抜け……俺の本体がどっちか、わかるか?」
「ぐむむむ……」
唸ったテング党忍者は、二人と三人に分担し、二人の深山に攻撃を仕掛ける。しかし、攻撃された深山は二人ともブラックスライムと化し、死角から打ちおろされた如意棒の一撃が、テング党忍者の頭を文字通り粉砕する。
「ぐばっ!」
「お勤めご苦労さん、じゃーな」
嘯く深山に、テング党忍者たちは怒りに震えて向き直る。
「よ、よくも、我らが血盟の同志を……テング!」
「安心しろ。すぐに同じ所へ送ってやる」
冷然と告げた影二が、オリジナルグラビティ『葛葉流・螺旋虚影刃(クズハリュウ・ラセンキョエイジン)』を発動させる。
「実は虚であり、虚は実……我が刃は影を舞う」
「ぎゃあっ!」
敵に接近した瞬間、螺旋状の気流に包まれ影二は姿を消す。其の刹那に死角へと回り込み、大鎌で易々と両断する。
「く、くそおっ……」
忍者としての格が違いすぎる相手を前に、残る三人のテング党忍者たちは、怒りと恐怖で震えるが、逃げようとはしない。
「……友誼に篤いのは結構ですが、ならばなぜ、デウスエクスなどになったのです?」
なぜであっても、もはや手遅れですが、と吐息をつき、悠乃が重力蹴りを叩き込む。消耗した敵を狙ったが、は別のテング党忍者が飛び出して庇い、一撃で潰れはしなかった。
「そういえば、ディフェンダーポジションでしたね。ならば、これで確実に潰しましょう」
アゼルが呟き、オリジナルグラビティ『近接戦闘用刀身射突ユニット(パイルバンカーユニット)』を作動させる。
「ユニット固定確認…炸薬装填…セーフティ解除……目標捕捉、これより突撃する!」
「ぐあっ!」
アゼルの必殺攻撃をまともに受け、テング党忍者の一人が胴中をぶち抜かれて絶命する。
そして双吉が、どことなく気の毒そうに告げる。
「テングならテングらしく、ひと気のねぇ山に籠ってりゃ良いものを……。こっからならレッドアローで秩父まであっという間だぜ?」
そう言うと、双吉はオリジナルグラビティ『黒液投影・可憐なる夢双の乙女(スライムシアター・アイドルガール)』を発動させる。
「本願投影。シアター、展開(オン)!」
「むっ!? こ、これは!?」
残る二人のテング党忍者の前にブラックスライムが霧状に展開され、霧のスクリーンにフワフワしたピンク髪をツインテールに束ねたアイドル然とした美少女……双吉の『美少女転生願望』が映し出される。その姿に気を取られた隙をついて、黒い霧に紛れた双吉本人が愛用のナイフ『火花小柄』で斬撃を加える。
双吉は二体のうちダメージが深そうな方を狙ったが、もう一体が飛び出して庇い、斃すには至らなかった。
「お、おのれ、幻影で惑わすとは卑怯な……」
「おいおい、忍者に卑怯は褒め言葉だぜ」
特に幻術使いにとってはな、と、双吉は苦笑混じりに嘯く。
そして和希が.冷やかに告げる。
「……軋峰さんの術で死んでおけば楽だったのに。僕の手にかかったら、楽には死ねないよ」
そう言うと、和希はオリジナルグラビティ『白き狂乱の霧(シロキキョウランノキリ)』を発動させる。
「……狂え。狂ってしまえ」
「ぎゃあああああっ!」
脈動する異形の術が白い霧を喚び寄せ、二人のテング党忍者を包み込む。それに宿された呪詛と狂気が触れたものの心身を急速に苛み、二体のうちダメージの大きい方が身もだえて狂い死ぬが、最後の一体はかろうじて耐える。
「はあ……はあ……はあ……」
「あらあら、和希くんの術で死んでおけば、まだしも楽だったのに。後になればなるほど、酷い術が来ますのよ?」
少女人形の宣告に続き、アンセルムがオリジナルグラビティ『白鞘の供犠(シロサヤノクギ)』を発動させる。
「其は、幾世彷徨う無銘の刃。流離いし汝に微睡を与えよう」
「が……あ……あああああああああっ!」
人形を通さず、アンセルムが自分の言葉で唱えた呪文に応じ、最後に残ったテング党忍者の体内に次元の門が開き、異次元を彷徨う水晶の剣が召喚される。
そして安息を求める剣は、門となった者を『鞘』と見做し、其れに収まろうと贄の体を斬り裂き、骨を叩き割る。
テング党忍者の残り体力が少なく、剣が鞘に収まる前に絶命したのは、むしろ慈悲だったかもしれない。
そしてアンセルムは笑顔で、しかし冷やかな声音で告げた。
「戦うなら、それこそ秩父の山奥ででも戦えばいいのに。一般人を巻き込むような場所で戦うから、まとめて殺されるんだよ」
作者:秋津透 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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