月と黒紫の螺旋の交錯 

作者:なちゅい

●2グループの螺旋忍軍
 そこは、とある薄暗い空間。
 多数の忍者が頭を垂れる中で前に現れたのは、機械模様の羽根を背にし、手足に大きな鉤爪をのついた器具をつけた女性。その顔には、螺旋の仮面が装着されている。
「螺旋帝の一族が東京都心部に現れた。一刻も早く、我ら月華衆が、その御身を保護せねばならない」
 彼女の名前は、『機巧蝙蝠のお杏』。この月華衆の指揮官だ。
「お前達は北区の探索を行い、どんな些細な情報でも報告せよ」
「「「はっ……」」」
 揃って声を上げる忍者達。黒装束を纏う彼らもまた、その顔には螺旋の仮面が装着されている。
「既に、他の忍軍も動いていると思われる。もし、他の忍軍と接触した場合、最優先でこれを撃破するのだ。他の忍軍に奪われるわけにはいかぬからな」
 お杏の言葉に頷く忍者達は、一斉にその場から姿を消した。

 こちらは、どこかの建物内。
 木造で和風の造りをした屋内、畳の上で平伏する男達の前に立つのは、平安時代の貴族を思わせる衣装の男だ。
「集まりましたね。では、指令を与えましょう」
 彼は黒螺旋忍軍の指揮官、【黒笛】のミカドだ。
「北区に異変の兆しあり。速やかにかの地に向かい、あらゆる異変をつぶさに調べ持ち帰るのです」
「「「ははっ」」」
 従えるのは、紫色の水干に袴に纏った者達。陰陽師と言われるとそうかもしれないと思わせる姿をしている。
 ゆっくりと立ち上がる彼らへ、ミカドが思い出したように続けた。
「他の忍軍の調査部隊を発見した場合は、速やかに排除しその目論見を阻止しなさい」
「「「おまかせあれ……」」」
 小さく了承の返事をした和服の男性達はそうして、ミカドから背を向け部屋から去っていくのだった。

 螺旋忍軍の内部抗争。それが東京都心部で繰り広げられ、一般人にも被害が出るという予見があった。
「複数の螺旋忍軍の組織が大規模に活動していて、螺旋忍軍同士の戦闘に発展し始めているようだね」
 ヘリポートにはすでに多くのケルベロスが集まり、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が説明しているところだ。
「一般人に被害が出る前に、この螺旋忍軍両グループを撃破したいね」
 周囲の被害を抑える為には、両者の戦いに割って入った上で敵を連携させないように片方の忍軍を撃破し、返す刀でもう片方の忍軍を撃破する必要があるだろう。
「忍軍同士を戦わせて、疲弊した所を叩くという作戦も可能だけど……。一般人の死傷者が出る可能性が高くなってしまうから、慎重に判断してほしい」
 呉越同舟という言葉があるが、場合によっては、両者が協力してケルベロスへと敵対してくる。
 戦いを長引かせて敵を疲弊させる工夫が無ければ、かえって戦況は不利になる恐れがある。こちらの作戦をとるならば、十分に検討してから臨みたい。
「次に、争う螺旋忍軍だけど……」
 まず、一つ目、月華衆所属、黒鋤組。こちらは6人で行動している彼女達は、『機巧蝙蝠のお杏』の式の元で動く。
 月下美人の模様を彫りこんだ螺旋手裏剣を所持しており、しっかりとした下準備、そして、堅実な調査を地道に行い、成果を挙げる忍者達だ。
 もう一つ、対するグループは黒螺旋と名乗る、【黒笛】のミカド直属の螺旋忍軍4人だ。
 紫色の和装を纏う彼らはやや古風な喋り方をし、符術のようなグラビティを操る者達だ。
「東京都北区、赤羽駅の西口前広場で遭遇した両者は、そのまま争いを始めてしまうよ」
 ケルベロスはこの直後から介入することは可能だ。人通りの多い場所ということもあるし、個々のケルベロスにもそれぞれ考え方がある。どういった作戦を取るかはケルベロスの判断に任せたい。
 説明を終えたリーゼリットは、もう一つと付け加える。
「螺旋忍軍の争う理由がわかれば、いいのだけれどね……」
 ただ、戦闘を行うのは末端構成員でしかなく、重要な情報は持っていないと思われる。螺旋忍軍を速やかに撃破した上、独自に調査を行う方が有益な情報を得られる可能性は高い。
「螺旋忍軍の活動を止めねばな」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)もまた、依頼に臨む様子。参戦するメンバー達は思い思いに自身の考えを語りながら、ヘリオンへと乗り込んで行くのだった。


参加者
シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)
ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)
七星・さくら(陽溜りの桜・e04235)
機理原・真理(フォートレスガール・e08508)
浦戸・希里笑(黒鉄の鬼械殺し・e13064)
夜殻・睡(氷葬・e14891)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)

■リプレイ

●内部抗争を行う2つの螺旋忍軍
 東京都北区赤羽。
 この地で繰り広げられるという螺旋忍軍の抗争。
 特徴的な髪型の浦戸・希里笑(黒鉄の鬼械殺し・e13064)は、全く表情を動かすことなく愛用のマフラーを揺らして首を横に振る。
「やれやれ、街中で戦闘なんて……。仮にも忍なら、もっと忍んでほしいよ」
 それに、おかっぱ髪のリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)が呟く。
(「螺旋忍軍同士の内輪もめ? 双方で潰し合うだけなら良いけど」)
 一般人にまで被害が及ぶならば、話は別。その抗争から住民達を守る為、そして、螺旋忍軍を殲滅する為にケルベロス達はやってきているのだ。
 感情を露わにしないメンバーが多く、淡々と言葉を掛け合う今回のチーム。
 速やかに戦いに介入し、被害を最小限に抑えなければ。口を開かないが、リティはそう仲間達へと示すと、ミチェーリ・ノルシュテイン(青氷壁の盾・e02708)もまた、この作戦を淡々と完了させようと仲間達へ促す。
「今回の件でケルベロス側、地球側に靡いてくれる一派がいてくれればいいんだけれどもね」
 片方の螺旋忍軍に一度協力し、もう片方を殲滅という作戦。そんな作戦に、希里笑は淡い期待を抱く。
(「……まさか、ケルベロスになっても螺旋忍軍と共闘する日が来るとは思わなかった」)
 女性多めのメンバーということで、女性恐怖症の夜殻・睡(氷葬・e14891)は仲間から距離を取ってはいるものの、少なからず作戦に同意を見せる。
「どんな思惑があろうとも、その過程で人の命を奪おうとするなら地球の敵でしかありませんからね……」
 ただ、片方を倒しきったら、その後は協力していたグループを倒す作戦。一房だけ色の違う髪を揺らす、機理原・真理(フォートレスガール・e08508)は作戦に穴が出ないようにと、自身の役割を確認していた。
 そして、目の前に見えてきた螺旋忍軍の2グループ。メンバー達は目配せし、駆け出す。
「雛形さん。改めて、よろしく御願いします」
「こちらこそ。頼りにしている」
 清潔な身なりの鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)の言葉に、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)が応じる。
「貴様らの好きにはさせませんよ……!」
 全身をフルフェイスとフィルムスーツで覆う、シルフィディア・サザンクロス(この生命尽き果てるまで・e01257)はデウスエクスに対するこみ上げる怒りを抑えつつ、仲間と共に作戦を開始するのである。

●月華衆との共闘
 赤羽駅西口前。
 そこでは2つのグループが対峙し、睨み合いを行っている。互いに探り合い、騙し合うという螺旋忍軍達だ。
「邪魔はさせません、……覚悟」
「あなさはるものども、矢庭に打ち倒してみせやうぞ」
 一方は女性ばかりの月華衆、黒鋤組。そして、もう一方は紫の和装を纏う男達、黒螺旋忍軍だ。
 ぶつかり合う両者。素早く動く少女が月下美人の模様が刻まれた螺旋手裏剣を投げ飛ばし、符を手にした黒螺旋が蛇や御業を呼んで応戦する。
「デ、デウスエクス……!」
 この場に居合わせてしまった人々がこの場から逃げ出そうとする中、首のチョーカーが目に付く七星・さくら(陽溜りの桜・e04235)がパニックテレパスを発動させた。
「逃げて!」
 その上で、さくらが混乱する一般人に呼びかけると、人々はこの場から背を向けて走り出す。
「皆さん、急いで広場の外へ!」
「ここは危険だ。早く外へ避難を……!」
 奏過、リュエンも避難誘導を始める。合わせて、彼らは飛んで来る手裏剣や炎弾に注意し、人々を庇おうと動いていたようだ。
 他のメンバー達は、両者の抗争に直接介入していく。
「敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
 リティはグラビティによって生み出したドローンを展開し、月華衆のフォローへと当たらせていく。
(「うまく、各個撃破に持ち込みたいね」)
 直接の援護によって、味方として。最悪利用価値のある手勢として、月華衆に認識されればとリティは画策する。
 ライドキャリバーのプライド・ワンは炎を纏い、黒螺旋に突撃していく。父のように感じるサーヴァントに心強さを覚える真理。彼女もまた黒螺旋の前に立ちはだかる形となり、アームドフォートの主砲を一斉発射させていく。
 睡もまた仲間に合わせて斬霊刀「雨燕」を抜刀し、黒螺旋へと卓出した剣捌きを見舞い、斬撃痕をグラビティによって凍らせていった。
「誰そ、名乗りたまえ」
 黒螺旋は月華衆や新手の前衛を纏めて影の蛇で縛りつけようとする。
 しかし、それらに絡まれるミチェーリ、真理、希里笑らは身を張りながらも素性を明らかにはしない。
(「胡散臭い陰陽師モドキよりは……ね」)
 後方からは、さくらの桜の花びらを優美に舞わせて。
「……降り注げ、桜雷雨!」
 直後、雷の矢が黒螺旋忍軍の体へと雨のように降り注ぎ、敵の体に痺れを走らせる。
 一度それを確認したさくらは朗らか笑顔で、月華衆の面々へと声をかけた。
「わたし達も事情があって、【黒笛】のミカド直属の忍軍を追っていたの」
 戦いながらとはなるが、月華衆も黙ってさくらの言葉を耳にはしている。騙す前提にはなるが、彼女も本心を隠して更に続けた。
「強敵そうだし、ここはちょっと手を組まない?」
 持ち掛けられた共闘に、月華衆は戸惑う。こういった状況に対する指令は受けていないのだ。
「落ち着いて避難を」
 その間も、リュエンの声が響く。ある程度人がいなくなったのを見計らい、奏過は広場の広場に入る場所へとピンポイントでキープアウトテープを使って塞いでいった。
 月華衆は疑いを払拭できずにはいたが、新手が共闘してくれているのは事実。サポートの泰地がメインメンバーに合わせて降魔の拳を叩き付けたところへ、睡がそいつへと螺旋を込めた掌で軽く触れる。
 黒螺旋の体内で巻き起こる螺旋の嵐。それに、敵は体力を奪われて。
「なん、と……」
 倒れる黒螺旋忍軍は煙のように消え去る。睡はその間も、月華衆の不意打ちに警戒を怠らない。
「黒螺旋は『一族』の情報を持ち逃げするつもりです。この場で始末しなければ我々だけでなく貴女がたも不味いことになる」
 ミチェーリは攻防一体の四肢で盾となっていた為に、声掛けが少しばかり遅れてしまったが、それでも、月華衆へと協力の意思をしっかりと示す。
「そは異な事を」
「しらばっくれるな」
 それを耳にした黒螺旋が反論するとミチェーリはすぐさま反論する。徒手空拳で敵へと特攻した彼女は、装甲ブーツを履いた脚を黒螺旋へと叩き込む。
「……いいだろう」
 月華衆の敵意が消えたわけではなかったが、それでも、この場は黒螺旋殲滅を優先と共同戦線を張る。
 そうなれば、数で圧倒される黒螺旋に勝ち目などあろうはずもない。
 呼び出す御業から炎を飛ばすも、希里笑のライドキャリバーがしっかりと受け止めて月華衆を庇い、希里笑が荷式電撃銃『雷公』から凍結光線を発射する。
 月華衆も徐々に気を許しているように見える。だが、あくまで一時的なものと希里笑は鋭く視線を走らせた。
 女性達の飛ばす手裏剣。それが1体の黒螺旋に命中し、体内に毒を流し込むと。弱ったその男が符を構えるより早くシルフィディアが飛び掛り、赤熱の鉄塊で敵の胸を貫く。
「おおぉぉっ……」
 よろけて崩れ落ちる紫の男を見ることもなく、シルフィディアは月華衆への殺意を押し殺したまま、別の黒螺旋へと仕掛けるのである。

●気の休まる間もなく……
 ケルベロスの介入した戦場に、避難誘導をあらかた終えた奏過らが駆けつけてきた。
「ちょっと此方にも事情がありまして……、あちらは仲間が追っている集団なものでね」
 さらなる手勢に訝しむ敵へ、彼はただの戦闘医ですよと柔和な笑顔を浮かべて自己紹介する。
「それと……探しているもの。……それについての情報を売りたい」
「…………!」
 しかしながら、その探しているものは月華衆の探しているものと同じ。ならばこそ、警戒を強める結果となってしまう。
(「逆効果でしたか……?」)
 少々苦い顔をしつつも、奏過は態度で示そうと雷を纏った鎖を発現する。
「ちょこまかと!」
 彼の意のままに鎖は黒螺旋の動きを拘束し、痺れさせていく。
 そこにプライド・ワンが激しくスピンし、敵の足を引き潰した。
 足を止めた和服の男へ、惨殺ナイフを振り回す真理が傷口を深く抉り、トドメを刺してしまう。
 残り1体となった黒螺旋は最後まで応戦し、呼び寄せた神霊を暴れさせ、ケルベロスと月華衆の体力を削る。
 それによって傷つく月華衆の姿を目にしたさくらが緊急手術を施し、体力を回復させていく。
「人数が多いですから、1人ずつ、ね」
 さくらはライトニングウォールも活性化してはいた。ただ、彼女達は後々戦う相手だ。異常耐性がつくことを避ける為、彼女は1人1人の回復で効力を高めることをアピールする。
 そんな中、残る黒螺旋の男性は息が絶え絶えになっていて。
 螺旋の軌跡を描く月華衆の手裏剣の直後、リティはそいつに殺神ウイルスを叩き込む。その効果は絶大だ。
「いかで、このやうなるに……」
 意識を失い崩れ落ちる黒螺旋忍軍。その全ての討伐を完了する。
 …………しかし。
「これで、やっと半分ですか……では、残り半分もさっくりブチ殺してやりましょうか!」
 シルフィディアはすぐに怒りの炎を燃え上がらせ、女性達へと襲い掛かった。完全に警戒を解いていなかった月華衆は身構えたものの、燃え上がる彼女の蹴りに完全な防御態勢が取れずに蹴り飛ばされ、その跡を炎で焦がすこととなる。
「……やはり、味方なはずはないか」
「味方なわけないでしょう。……馬鹿ですか?」
 月華衆も警戒を怠ってはいなかったようだが、冷淡に返すシルフィディアらの掌返しにやや驚いていた様子だ。
 螺旋忍軍を敵とは思えど、完全に嫌う事ができぬ睡にとっては内心複雑な状況である。
「まぁ、嘘だからな」
 それでも、睡はまたも雨燕で手近な月華衆……敵の体を切り伏せ、グラビティの力で切りつけた箇所を凍りつかせていく。戦いにおいては、彼の女性恐怖症は起こらないらしい。
 さらに、精霊魔法を操る奏過は氷河期の精霊を呼び出し、敵軍へと特攻させる。凍る体を気にする月華衆も反撃を開始し、大量に分裂した手裏剣を投げ飛ばしてきた。
 それまで、守っていたミチェーリや希里笑が今度はケルベロスと盾として布陣し、手裏剣の雨からできるだけ仲間を守ろうと動く。
「騙し騙されは、忍びの常でしょう。恨むなら自分自身の迂闊さを恨みなさい」
 変わり身の早さもあくまでクールに。ミチェーリは比較的、仲間の攻撃から何を逃れていた中央の敵目掛け、流星の蹴りを喰らわせる。
「さて、もう気付いてると思うけど、ケルベロスだよ」
 希里笑は、矢面に立っていた敵へと素性を明かす。
「このまま引いてくれると助かるけど……って、何もしない訳は無いよね」
 後方の仲間から支援が間に合っていることもあり、彼女も荷式電撃銃『雷公』を携え、魔法光線を発射した。
 それを受けた月華衆の1人がよろけて倒れる。図られたと察した女性達は螺旋手裏剣を振りかぶり、ケルベロスへと投げ飛ばしてくるのだった。

●後は全力で殲滅を……!
 ケルベロスの作戦は功を奏していた。
 月華衆は残り5人と数の上でも優勢、その上、相手は黒螺旋からのダメージが残っている。
 冷気のオーラを纏うミチェーリは敵の手裏剣をキッチリと捌き、両腕の可変式ガントレットの掌底部に強制冷却機構を展開していく。
「震えることすら許さない……! 露式強攻鎧兵術、“凍土”!」
 ミチェーリは触れた相手の熱を、瞬時に奪いつくす。それは氷の状態を通り過ぎ、石のように固まらせてしまう。
 動かぬ身体に戸惑う女性へ、シルフィディアが迫る。
「逃がさない……!」
 デウスエクスへと並々ならぬ怒りを抱くシルフィディアは両腕の地獄を蛇腹剣と化し、伸縮自在に操る。逃れようと跳びすさる敵を逃がすことなく、彼女の刃はそいつの体を寸断してしまう。
 自分はああはなるまいと、抵抗を続ける月華衆は手裏剣を投げ飛ばしてくる。生成された毒を伴う斬撃。しかし、プライド・ワンが真理を守るように飛び出して受け止めた。
 続々と攻撃を仕掛ける敵。今度は真理が身を呈して血を流す。
(「何もかも、守る……」)
 月華衆は決して、弱い相手ではない。その身に食い込む刃が深いと判断した真理は両腕の指先を変形させ、自らの体に集中治療を施していく。
 希里笑もまた、ライドキャリバーと共に仲間の盾となる。
 長期戦になっていたこともあって、多少傷ついている自覚のある希里笑。ただ、メディックとして動くさくらがここぞと雷の壁を構築して癒しと守りをもたらす。リュエンもまた後方から電気リョックを飛ばして仲間の賦活してくれていたようだ。
 それに安堵し、希里笑は攻撃に集中する。
 両腕をドリルのように回転させた彼女が敵の体へと抉るように殴りかかると、相手は完全に意識を失って力なく倒れていったのだった。

 歯噛みする3人の月華衆へ、ケルベロスは攻撃を続ける。
「そう慌てないで下さい」
 いきり立ち、半ば破れかぶれになって襲い来る女性達へ、オウガメタル『鬼瓦』の力で奏過は黒太陽を具現化し、黒光を放射する。
 強力な光に足を止める女性達を、リティが後方から狙う。
 これは、無関係の人々を危険に晒した報い。そんなリティの想いと共に放たれた焼夷弾が敵軍を包み込む。炎に焼かれた1人が耐え切れずに倒れていたようだ。
「いくぜ、降魔捷拳!」
 さらに、駆けつけていた泰地が敏捷性を最大限に活かし、降魔の拳を月華衆へと叩き込む。重い一撃にくらつく敵へ、睡が攻め入った。
「天に満ちるは数多の雫 咲くは四十九(しずく)の刃也――」
 仲間が敵の足を止めてくれたこともあり、睡は空中に氷の刃を作り出し……、大上段に構えた雨燕を睡は振り下ろす。
 四十九振りもの氷刃。いくら素早い螺旋忍軍といえ、傷ついた体で避けられるはずもない。刃をその身に食いこませたそいつは言葉すら発さずに付していく。
 残る1体には、シルフィディアが猛攻を仕掛けていた。流星の蹴りによる猛襲に、月華衆の顔が引きつる。
 回復の必要性が薄まったことで、さくらが「Lightning Blossoms」を敵に向けて振るう。放たれた凍結する弾丸は女性へと命中する。
「……ごめんなさいね」
 可愛い女の子を騙すのは気が引けると考えていたさくら。されど、彼女は確実にそのデウスエクスの鼓動を止め、この抗争に幕を下ろしたのだった。

●事後処理をしながら……
 螺旋忍軍を倒したケルベロス達。
「ひ、被害が出なくてよかったです……」
 クールダウンしたシルフィディアはおどおどしつつ、周囲を見回して呟く。一行の素早い判断と対応もあり、一般人に被害はほとんど及んではいない。
「さて、怪我した人がいないかの確認と……。壊れた建物のヒールにいってきますね」
 とはいえ、直接の被害はなくとも、避難誘導中で起こる二次被害まで把握できているわけではない。そちらには、ウィッチドクターとして手当てが得意だと奏過が主張し、リュエンと共に向かったようだ。
 残るメンバーは、赤羽駅西口公園の修復に当たる。
 ヒールグラビティを用意していない睡は瓦礫の片づけを始めていたが、時に居眠りしかけていたようだ。
 リティは再度ドローンを展開させ、芝生の補修を行う。同時に、この近辺で怪しい者がいないか、また、螺旋忍軍らの探し人がいないかなど、リティは時折視線を走らせていた。
 希里笑は敵の残骸を探っていた。とはいえ、そのほとんどが煙のように消え去っており、有益になりそうなものは見つかりそうもないが……。
「忍者なのに、首領や頭領じゃなくてミカドね」
 気になることを口にした希里笑は、さらに探索を続けるのである。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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