東京忍者騒乱

作者:天木一

●忍者暗躍
 多くの人が集まる新宿。そこで闇夜に紛れた忍びの戦いが幕を開く。
「代表取締役社長、鈴木・鈴之助である。本日はよく集まってくれた!」
 年配のスーツ姿の男の言葉に、若いリーマン達が傾注する。
「今、我が社は千載一遇のビジネスチャンスを掴んだ。螺旋帝の一族が東京都内に潜伏しているという情報が入ったのだ。ならばするべき事は一つ」
 リーマン達の間に緊張が走り、じっと鈴之助に視線を向ける。
「ここに集まった者は新宿区を虱潰しに捜索せよ。万が一、他者の妨害が入るようならば、速やかに排除せよ。『羅泉』の誇るエリート社員の名に恥じぬ働きを期待している!」
 鈴之助が言葉を終えると、リーマン達は一礼し、早足で部屋を出た瞬間からその姿が消えていった。

 煙管を手にした白い犬のような顔をした人物が、ふぅ、と紫煙を吐くと、ぱんぱんと手を叩く。
「さぁさぁ、あなた達仕事よぉ。スナッフマニアさんがとっておきの情報を仕入れてくれたわよぉ。あの螺旋帝の一族が、この東京に現れたのですって」
 集まった女物の服を着て化粧を施したガタイの良い配下達が黙して聞く。
「螺旋帝の一族をうちが確保しちゃったら、真理華道の名が一気に上がっちゃうわよ! この機会を逃す手はないわ! あなた達は新宿区の捜索に行くのよ。もし邪魔者がいれば、見敵必殺。おねぇの意地を見せつけてやりなさい」
 期待してるわよとヴァロージャ・コンツェヴィッチが笑みを浮かべると、一見して男と分かる女装した配下達が野太い声で返事をして一斉に飛び出していった。

●東京忍戦
「東京都心部で、複数の螺旋忍軍が活動を開始したようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が新たな事件についての説明を始めた。
「どうやら東京を舞台に螺旋忍軍同士が大規模な戦いを行うようです。デウスエクスが消耗しあうのは望ましい事ですが、残念ながらその戦いの被害は一般の人々にまで及んでしまいます。皆さんにはこの戦い合う螺旋忍軍を撃破してもらいたいのです」
 戦いが激化すれば街が破壊され、戦闘に巻き込まれてる人も出てくるだろう。
「皆さんにお願いする場所では2つの勢力が争っています。被害を抑える為には、両勢力の戦いに加わって、敵同士が手を組まぬように立ち回り片方を先に倒し、残った敵をその後に倒すという方法が有効です」
 上手くすれば片方ずつと戦える。だが立ち回りに失敗すれば両者を同時に相手取ることになるだろう。
「もう1つ方法はありますが、そちらは敵同士を戦わせて疲弊させてから襲うというもの。ですがそちらは一般人に被害が出る可能性が高くなってしまいます。一般人を巻き込まれぬよう、そして敵に察知されぬよう動く必要があります」
 敵は一般人を敢えて狙う事もないが、巻き込むのを躊躇う事もない。そして様子見しているケルベロス勢が居ると分かれば一時的に手を組んで共闘するだろう。
「敵が争うのは東京の新宿区です。勢力は大企業グループ『羅泉』と真理華道の2つ。『羅泉』の超エリート社員はスーツ姿に眼鏡を着用したどこにでも居るような地味な容姿をしています」
 超エリート社員という名の螺旋忍軍雑用兵が6名。螺旋手裏剣かエアシューズで武装をしている。
「真理華道の方は30代後半くらいの一見して男性と分かる、女装した大柄のおねぇタイプの忍者のようです」
 どこからどう見てもオネェな忍者が4名。ルーンアックスかドラゴニックハンマーで武装をしている。
「戦場となるのは繁華街の屋上で、同じような高さの雑居ビルの上を移動しながら戦うようです」
 地上には飲食店が多く、大勢の人で賑わっている。大きな物が落下すれば怪我人が出るし、下手をすれば死者まで出てしまうだろう。
「何故、螺旋忍軍が争っているのかは不明です。ですが戦場で戦っているような下忍では重要な情報は無いでしょう。ですので今は撃破と一般人の保護を優先してください」
 よろしくお願いしますとセリカが頭を下げて出発の準備に向かう。それに続き、ケルベロス達も被害を出さぬ作戦を練りながら準備に取り掛かった。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)
八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)
桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)
テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)
丹羽・秀久(水が如し・e04266)
プロデュー・マス(禊萩・e13730)

■リプレイ

●新宿暗闘
 仕事帰りの人々で賑わう夜の繁華街。誰も気付かぬその屋上で暗闘している者達が居た。
「本日の就業時間は既に終わっている」
「手早く終わらせてサービス残業を切り上げるぞ」
 スーツ姿に眼鏡をきっちりと掛けた男達が身軽に飛び交い手裏剣を投げる。
「みんな同じ顔しちゃって!」
「イイ男は好きだけど、あなた達みたいな無個性な量産型は嫌いなのよ!」
 それに対するは筋肉質でガタイのいい女装した男達。戦斧を振るい凶刃を弾く。闇夜に紛れリーマンとおねぇの螺旋忍軍による死闘が繰り広げられる。
「バッカみたい!」
 敵同士のくだらない争いは人様の迷惑にならない場所でやってろと、屋上を見上げた月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)は悪態を吐く。
「ドラゴンは生きるか死ぬかの問題抱えてるのに螺旋忍軍は平和だな……」
 その隣でヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)も頷き、同士討ちしている敵に呆れた声を漏らす。
「ここは戦場になります。皆様速やかに避難してください」
 テレサ・コール(ジャイロフラフーパー・e04242)は地元の警察と連携を取り、繁華街の避難を開始させる。
「こんな街中で派閥争いだなんて……、とにかく今は一般の方々の安全を確保しないと!」
 屋上から地上へ視線を戻した丹羽・秀久(水が如し・e04266)は、避難の混乱に倒れた酔っ払いを軽々と担いで運び出す。
 そうして後は警察官に避難を任せると、ケルベロス達はビルの元に集まる。
(「今後の事もある。――失敗出来ない」)
 ルビーク・アライブ(暁の影炎・e00512)は真剣な表情で仲間と共に雑居ビルへと足を踏み入れた。
「螺旋忍軍って個性的ですね、けももふオネエまでいるとは……二ッチな性癖カバーしまくりですよ」
 急ぎ階段を上りながら、八王子・東西南北(ヒキコモゴミニート・e00658)は今回の事件で姿を見せた様々な螺旋忍軍の情報を思い浮かべる。
「でも子供に優しいのは好感度高いです……結局どっちも倒すんですけど」
 例え好感の持てる相手であっても敵であれば手加減はしないと気持ちを入れ替える。
「面倒くせぇが……やるしかねぇな」
 被害が出るなら放っておくわけにもいかないと、桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)は屋上へ続く鍵の掛かった扉を蹴り開けた。
「やるなら人に迷惑かけないようにやれよ……」
 はた迷惑な同士討ちにプロデュー・マス(禊萩・e13730)は深い息を吐き、屋上へと飛び出した。

●共闘
「我々の調査の邪魔をするなら、このまま排除する!」
 数で勝るリーマンが慎重にダメージを積み重ね、おねぇ達を劣勢へと追い込んでいく。
「自分に自信がないからって数に頼っちゃって、男ならもっと堂々としなさいよ!」
「そうよそうよ!」
 おねぇ達は何とか一発逆転を狙い攻撃を凌ぐ。
「多勢に無勢とは卑怯な! 弱い者いじめは許しません!」
 そこへ割り込んだ東西南北が手裏剣を棍で弾き劣勢のおねぇに味方する。
「社畜に女装男か、現代の闇を見ている気になるな……、デウスエクスも知らずに地球の文明に染まってきているのか?」
 その異様な光景に目を奪われプロデューはなんとも云えぬ表情となる。そして首を振って戦いに集中し、ミサイルポッドを展開し小型ミサイルを大量に撃ち出した。リーマン達を爆撃し注意を引き付ける。
「無暗に争うつもりはない、俺達の目的は一般人の保護だ」
 おねぇにそう告げたルビークはリーマンに視線を向ける。その声は風に混じり祈りとなって仲間達を守る。
「奴等は、この先にある夜間営業の保育園を襲う可能性が濃厚だ。俺達はそれを阻止しに来た!」
 朔耶は背に翼の生えた巨大な獣の御業を呼び出し、リーマンに向けて雷を放つ。それと同時にオルトロスのリキが駆け出し、感電した敵を銜えた刀で斬りつける。
「そうです、このままだと子供たちが犠牲になってしまいますよ!」
 その台詞に同意するように秀久も割って入り、小型のドローンを幾つも飛ばしてリーマンからおねぇを守るように立ち塞がる。
「なんですって!?」
「それは聞き捨てならないわね!」
 口々に子供を害するなんて許せないとおねぇが激高する。
「説得は任せた、こちらはこいつで語らうとしようか」
 仲間が説得している邪魔はさせないと、ヴォルフが獣のように咆哮すると空気が震え敵の足が竦む。そこへ偃月刀を閃光のように突き入れた。
「詳しいことは言えませんが、羅泉は人間の子供に被害の出るビジネスを行おうとしているという情報もあります。我々としては見過ごせません」
「な!? そんなもの我々は……」
 それらしく話しをでっち上げてテレサがおねぇを説得すると、暗躍を主とする螺旋忍軍ならばそんな計画の一つや二つ身に覚えがあるのか、リーマンが顔を合わせて口ごもり僅かに動揺を見せる。
「そんなに動揺して! 本当の事なのね!」
 おねぇ達が怒りに筋肉を膨張させて得物を握る。
「あのな、下の繁華街にあんたらも行きたくなるような洒落た喫茶店とかメシ屋とかあるぜ? 冷静に考えてみ、あまりにドンパチやり過ぎて下に被害がでりゃ当分閉店するし、家族と楽しみにして遊びに来たガキ達も落ち込むぜ」
 敵の真ん中に飛び込んでリーマンを蹴り飛ばし、綾鷹は少し頭を冷やさせようと冷静に状況を語る。
「まぁぶっちゃけ、あんまし騒ぎ立てられてもあんたら忍者の流儀に反するだろうし、俺らもあんまし暴れられちゃ困るわけ。そーいう事で、協力してくんね?」
 そしておねぇに顔だけ向けて綾鷹が協力を申し込む。
「守りたい者の為に戦う。……嘘はない」
 真っ直ぐにおねぇ達の目を見たルビークは足元から鎖を広げて魔法陣を描き、仲間を守護しながら傷を癒す。テレビウムの小金井も動画を流してそれを手伝った。
「そうね、下で飲んでるようなイイ男を巻き込む訳にもいかないもの、ここは手と手を取り合って一緒に戦いましょ!」
 真っ直ぐ目を合わせたおねぇが微笑んだ。
「ならば纏めて排除するまで!」
 リーマン達が一斉に投げた手裏剣が分裂し雨のように降り注ぐ。
「自分の後ろへ攻撃は一切通しません」
 へし切り長谷部に似た刀を抜いた秀久は、傷を負いながらも手裏剣を弾き一投たりとも背後の仲間には届かせない。
「このようなところで手間取っている暇はないぞ!」
「急がねば終電までに終わらなくなる!」
 動き回るリーマンはすれ違い様に蹴りを放っていく。
「普段はリーマンをしているのか、見た目はどこにでも居そうな……同じ顔をし過ぎてないか?」
 ヴォルフは獣化させた腕の一振りで蹴りを払い、突っ込んで反対の腕を薙いで敵を吹き飛ばした。
「相手の特徴も姿も判ってない奴を探すって……随分と気の長い話だな」
 呆れたように言い捨てながら、朔耶は鬼火のように幾つも炎を放ちリーマン達を包み込む。その中から螺旋の軌跡を描き手裏剣が飛び出した。
「美しい女性が困っているのを放っておけません」
 それを棍で受け止めながら東西南北が敵を睨みつけると、魔眼に魅了されたリーマンが仲間に手裏剣を放ち傷つける。
「ケルベロスである前にボクも一人の男ですから」
「ヤダッ素敵! 結婚して!」
 精一杯イケメンを装った東西南北がカッコをつけると野太い歓声が上がる。
「眼鏡ですが……仕方ありません」
 眼鏡を掛けたリーマンを惜しく思いながら、迷いを断ち切ったテレサは一気に加速して間合いを詰め、勢いのまま撥ね飛ばした。回避しようとリーマン達は散開して距離を取る。
「どれだけ素早かろうがこいつからは逃げられない」
 プロデューの放つ鎖が獣のようにどこまでも伸びて追いかけ、身体に巻き付き拘束した。
「跳び回るなら、動きを封じりゃいいんだぜ」
 綾鷹は敵の着地位置に黒い液体を広げ、別のリーマンの足を絡み取って動きを封じる。
「やっちゃうわよ!」
「乙女の力を見せてあげる!」
 そこへおねぇ達が殺到しハンマーを叩き込み、斧でぶった斬ってリーマン達に致命傷を負わせた。
「このままでは査定に響いてしまうぞ!」
 リーマンは顔を青くして挽回しようと手裏剣を飛ばしおねぇ達を傷つける。
「気にする必要はない、どうせお前らはここで終わりだからな」
 跳躍して躱した朔耶は蹴りを浴びせ、その反動でもう一度宙に舞い次の敵を蹴り倒す。
「連携はなかなかのものだが、一度崩れれば脆いな」
 その隙に踏み込んだヴォルフが、大きく振りかぶった偃月刀で斬り伏せた。
(「お前らが自分の利だけではない、愛す事をただ知っていたなら……俺に罪悪感はあったかもしれない」)
 表情を変えぬままおねぇを騙し続ける為に、ルビークは竜の如きオーラを飛ばして傷を癒しその身の穢れを浄化する。
「肩をお借りします」
 テレサはおねぇの肩を借りて大きく跳び上がり、頭上から円形のマスドライバーを構えて弾丸を射出し、高速弾がリーマンの頭を吹っ飛ばした。
「こちらも蹴りには自信があります」
 刀で蹴りを受け流し、秀久はスピンするようにして足に火をつけリーマンの体を宙へと蹴り上げた。
「空中では避けられまい」
 アームドフォートを展開したプロデューは砲撃を行い、弾が敵の胸を撃ち抜いた。
「お前で最後だぜ」
 そこへ給水タンクを駆け上って跳躍した綾鷹が、矢のように蹴りを放ち打ち落とす。
「エリートは敵! リーマンは敵! ヒキコモゴミニートの底力を思い知れ!」
 私怨の籠った叫びと共に東西南北は棍を叩き込み。止めを刺した。

●不意打ち
「やったわ! 私達の勝利ね♪」
「可愛い子供達の笑顔を守ったわ!」
 嬉しそうにキャッキャッとおねぇ達が飛び跳ねる。
「悪りぃが、あんたがガキ達の顔を拝める日はねぇよ」
 気配を消した綾鷹がおねぇの背後に回り込み、不意を突いて黒い太刀を振り下した。紫の霊気を纏う刃が背中を深く斬り裂きおねぇが崩れ落ちる。
「キャー――! マリー!?」
「何をするの!?」
 野太い悲鳴を上げて倒れたおねぇに駆け寄る。
「共闘はここまでだ、好き勝手に戦われると迷惑なんでな、ここで消えてもらう」
 朔耶はおねぇに向かって植物を伸ばし足に蔓を絡みつかせる。
「申し訳ありませんが、ここからは皆様を倒させていただきます」
 ばつが悪そうにしながらも、そこへテレサは突っ込んでおねぇをよろめかせた。
「そんな!? あたし達の純情を裏切ったの!!」
「騙し討ちしてごめんなさい ボクも心が痛みます」
 怒りと共に振り下ろされたハンマーを東西南北は棍で受け止めながら謝り、心を鬼にして高圧電流を流しておねぇを感電させる。
「許せない! ぶっ殺してやるわ!」
「知っていたろうに。お前達は嘘しか知らないのだから」
 鬼の形相で襲い来るおねぇに、ルビークが魔弾を放つと命中した武器から腕へとどんどん石化していく。それでもおねぇは力を振り絞って斧を振り抜く。
「裏切り、奇襲は戦の常、そもそも街で派閥争いを行って被害を出す事自体に義はありません!」
 秀久は斧を刀の背に手を当てて受け止め、地面を強く蹴って押し返しながら、切っ先で胸を貫いた。
「エリザベス! よくも!」
 体当たりするように突っ込んできたおねぇの前で、リキは蒼い炎を起こして目を晦ませる。
「お次はパワーファイターか、当たれば痛そうな攻撃だ。当たればだがな」
 ヴォルフが咆哮で威圧し、敵が斧を振り上げた状態で敵の動きを止めた。
「街中で暴れるような奴等を放置はできないんでな」
 そこへプロデューは鎖を腕と胴に巻き付けて縛り上げた。
「あたし達が勝てば争いなんてなくなるわよ! イイ男も可愛い子供も選り取り見取りよ」
 服が張り裂けんばかりに筋肉に力を込めておねぇはハンマーを振り回すと、周辺に破壊痕が刻まれコンクリの破片が地上へと落下していく。その前で小金井はフラッシュを焚いて妨害した。
「お前らがそんな風に暴れれば、その大好きな男や子供も傷つける可能性があるって事だ」
 その隙に朔耶の背後に現れた獣の御業が雷を放ち、おねぇを感電させた。
「あなた方は自分の力が周りにどれだけ被害を与えるか理解するべきです」
 テレサはマスドライバーから弾丸を撃ち出し、おねぇのハンマーを撃ち砕いた。
「騙したのは謝りますが、内輪揉めなら母星でやってください! 迷惑なんですよ!」
 東西南北は紅蓮の炎を纏った棍を振り回して飛び込み、容赦なく薙ぎ倒す。
「燃え尽きろ」
 プロデューはコアとブラスターの地獄の炎を高め、レーザーの様に発射して倒れたおねぇを焼き尽くす。
「騙され傷ついた乙女の底力、見せてあげるわ!」
 最後のおねぇが起き上がって斧をフルスイングした。
「騙し打ちは申し訳ねぇけどよ、あんたらは迷惑すぎるんだよ」
 綾鷹は太刀を振り抜いて斧を弾き、炎を纏った蹴りを脇腹に叩き込んだ。
(「騙し騙される、それが螺旋忍軍の生き方……」)
 ルビークは黒銀の軍刀を振り抜き、生み出された風の刃が敵を薙ぎ払った。
「ゆるい覚悟で俺は生きない」
 幾重にも舞う風刃がおねぇの全身を切り刻む。それでもおねぇは最後の力を振り絞ってスカートを翻し斧を振り回す。
「人々の安寧の為に、ここで倒します!」
 振り抜かれる斧を前に、秀久は刀の刀身を手の指で挟み、体を屈めて攻撃を躱しながら、流れる水のように刃を走らせ左腕を斬り落とした。
「あたしまだ彼氏も居ないのよ! こんなところで死ねないわ!」
 突破口を開こうとおねぇが突っ込みその体でケルベロス達を撥ね飛ばす。
「これで終わりだ、逃げられるものなら逃げてみろ」
 ヴォルフが突進し大振りで振り下ろされる斧を最小限の踏み込みで避け、大型のシースナイフを胸に突き立てた。

●闇を照らす者
 ヒールを済ませたビルは修復され、地上では人々の賑やかさも戻り始めていた。
「敵とはいえ、共闘した相手を倒すのは後味が悪いです」
 おねぇの遺体に向け、テレサがぺこりと頭を下げた。
「螺旋忍軍の素顔もだけど、奴等の着てる服の素材が気になる……」
 忍装束の素材や構造はどうなっているのだろうと、朔耶は興味津々に倒れたリーマンとおねぇの遺体を検分する。
「やれやれ……」
 そんな様子にヴォルフは肩を竦め、こうなってはどうしようもないと諦観の眼差しを向けた。
「それにしても……螺旋帝ってなんなんでしょうか。スパイラスは謎が多いですが、これから螺旋忍軍の策謀が活発化するんですかね」
 こんな事件が長く続くと大変だと、東西南北は溜息を吐いた。
「まったく、さっさとこんな騒動終わらねぇもんかねぇ」
 綾鷹も頻繁に騒ぎを起こされては面倒で仕方ないと、人の集まる新宿の街を見下ろした。
「記念写真でもどうですか?」
 気分転換にでもと、秀久が夜景をバックに仲間達と写真を撮る。
「さて、帰るとするか」
「そうだな……帰ろう」
 プロデューが遺体に背を向けてビルの扉を開ける。それに続くルビークは左腕の地獄の炎で暗闇を照らした。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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