
「おぉっと、ここでドロップキック!」
「いいぞ~ッ!」
「ミカエル・エリカ、そのまま片エビ固めに入る! カウント1、2……なんとか返したッ!」
「おぉ~ッ!」
行楽の季節。四国の西部にあるこの街でも、様々な行事が行われている。そのうちのひとつが、近県の大学サークルによる学生プロレスである。
学生と侮るなかれ、なかなか動きはよく本格的で、集まった観客は拍手と歓声で彼らを称えていた。
会場が、またいい。
この街は闘牛が盛んで、専用の屋内闘牛場が高台に建設されている。
すり鉢状になった観客席に、入退場の花道まである。プロレスの試合会場としても実にお誂え向きだから、しばしばプロの興行にも使われていた。
その施設を利用することが出来たのだ。おかげでかなり本格的に見える。
いま行われているのは、女子の部だ。
「こいよ、サタンーッ!」
「調子に乗るなぁ!」
「おおっと、ここでタッチを受けたサタン・サクラコが登場だぞー!」
背格好はほぼ同じ。コスチュームは白を基調として、ふわりとした羽のような装飾をつけたエリカに対し、サクラコはレザー素材の黒。実に対照的。
わかりやすくベビーフェイスとヒールに色分けされたふたりが、リング中央をゆっくりと廻りながらにらみ合う。
「違う違う! そんなコスチュームで敵味方を演出なんて、笑っちゃいますよー!」
突如、場内に甲高い声が響きわたった。
予定にはない。観客も、リング上の二人までもが、きょろきょろと周囲をうかがう。
『そいつ』は花道から現れた。
「プロレスのコスチュームは、水着! 水着であるべきなのです! シンプルかつシックな紺のスクール水着で!」
悪の軍団よろしく、信者どもを引き連れてビルシャナがリングに襲いかかる!
セコンドの後輩たちはあわてて逃げ出し、リング上の二人だけが取り残された。反射的に応戦の構えを見せたふたりだが、ビルシャナはトップロープを軽々と飛び越え、襲いかかった。
あっという間にコスチュームを引き裂かれ、二人はへたり込む。
「キャアアアアア!」
「イヤァッ!」
「さぁ、はやくこっちのコスチュームを着ろ! 女子プロレスは、スク水でくんずほぐれつすべきなのだ!」
「リングに乱入なんて聞けば、黙っていられないじゃない!」
拳を握りしめて声を張り上げたのは、稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)。ビルシャナがよからぬ動きをしていると感づいたのは、彼女である。
「そうねー」
崎須賀・凛(ハラヘリオライダー・en0205)が頬張っているのは紙に包んだコロッケかと思ったら、どうやら違う。
「もぐもぐ……。
じゃこ天よ、じゃこ天。名物だっていうし、食べてみたくなって」
どこで買ってきたのか、ホカホカの揚げたてをあっという間にぺろりと平らげ、肝心の事件について話し始める。
2枚目を手に取りながら。
「どうやら、敵は『女子プロレスはスクール水着で行うべき!』っていう主義主張でビルシャナ化しちゃった人みたいね」
「バカみたい」
「もぐもぐ……。
私に言われてもなぁ」
肉感的で艶のある唇を突き出して、凛が不平を言う。艶は、テカってる揚げ油だけど。
ともあれ、敵にとってはレスラーたちは許せない対象らしく、信者どもを引き連れて襲いかかってくるのだ。急ぎ会場に向かい、彼女らを守らなくてはならない。
信者どもは、ビルシャナの思想に共感した一般人である。人数は8人。例えるならサーヴァントのようなもので、デウスエクスほど強くはないが、ケルベロスを傷つける力を得ている。
「ビルシャナさえ倒せば元に戻るんだけど……この人たちがまとわりついてきたり盾になったりすると、戦いにくいと思うわ」
と、凛は細長い何か……今度はちくわをつまんでいた。
会場はただの体育館ではなく、観客席は花道よりも数段高い位置にある。また、その間はコンクリートの壁や手すりで遮られているのだ。
万が一にも牛が暴れては大惨事となる闘牛場では当然かもしれないが、その狭い中が信者であふれてはうっとうしい。
「信者かぁ……。殺したくは、ないね」
「もぐもぐ……。
そうねー。ふつうにグラビティ使うと致命傷になるから、それは避けたいわね。
ビルシャナにしても信者たちにしても、もともとプロレス好きなんでしょうね。どこをどう間違ってあんなことになっちゃったのかわからないけど。
……あ、この蒲鉾の味なら、醤油とかワサビとか、よけいなものいらないなぁ」
と、わざわざ切って皿の上に並べた蒲鉾に箸を延ばす。
「なにか、ビルシャナの教義から離心させられるようなことがあれば、ビルシャナを倒す前に洗脳を解くことができるかもね」
「プロレスは、エロ男どもへの見世物じゃないんだからね!
コスチュームも、レスラーの個性なんだから!」
憤慨した晴香は、
「返り討ちだぁ~ッ!」
と、息巻いた。
参加者 | |
---|---|
![]() 稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734) |
![]() 星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256) |
![]() 仰天斎・ドラゴン(リング荒らしの爆裂龍・e03057) |
![]() アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715) |
![]() ジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073) |
![]() 綺羅星・ぽてと(耳が弱い・e13821) |
![]() エルヴィーラ・アクセル(なれなかった忍び・e35415) |
![]() 安海・藤子(オフ会出没・e36211) |
●乱入!
「その見苦しいコスチュームを脱ぎ捨てるのです~ッ!」
エプロンサイドから軽々とトップロープに飛び乗ったビルシャナは、ミカエル・エリカに飛びかかった。
ボディアタックで相手を倒したあとはフォールの体勢に持ち込みつつ、衣装の背中を掴むと一気に引き裂く!
「きゃああッ!」
傷つける意図はないようで技そのものは加減していたが、衣装は簡単に引き裂かれ、尻が露わになる。
「ひぃ!」
「逃げるな!」
サタン・サクラコの後方からタックルして倒したビルシャナは、足を固めつつフェイスロック。サクラコがもがくや、くるりと身体を入れ替えて下になり、腋の下から手を伸ばして胸元を引き裂いた。豊かな胸が、露わになる。
「あうぅぅ……」
「恥ずかしいでしょう? だったら早く着替えを……」
「ちょっと待った! リングはストリップ劇場でも生着替えイベントでもないわよ!」
声を張り上げ、稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)が場内へと乗り込んできた。観客席から大きく跳躍して、流星の煌めきを宿したドロップキックをお見舞いする。
「お前の、勝手なイメージを押しつけるな!」
星野・優輝(戦場は提督の喫茶店マスター・e02256)もリングに飛び上がり、魂を喰らう拳をビルシャナに叩きつける。
「……目のやり場にも、困るじゃないか」
「おぉッと、強烈な不意打ち! この戦いにゴングは無用だぁ!」
仰天斎・ドラゴン(リング荒らしの爆裂龍・e03057)が大げさに声を張り上げた。
ふと目をやると誰もいなくなった放送席があったので、マイクをひっつかむ。
「ケルベロスめ!」
「ほほぅ、場外乱闘でござるな!」
飛びかかってきた信者を小脇に抱え、ヘッドロックをお見舞いしてやる。
「させま、せん!」
レスラーたちを追うビルシャナを狙って、天井近くからアンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)が急降下してきた。
「おふたりは避難してください、です!」
アンジェラは大きく踏み込むと、音速の拳をビルシャナに叩き込む。致命傷には至らないにせよ、敵はよろめいた。
エリカとサクラコはコクコクと頷き、衣装の切れ端をかき集めるようにして肢体を隠し、リングから降りる。
「逃がすものですか!」
ビルシャナの叫びに応じて、信者どもがふたりの方へと押し寄せる。
「そういうのが見たいなら、その手の店へ行け!」
「お店……? お店で、売ってる、の?」
信者どもの前に立ちはだかったジャック・スプモーニ(死に損ないのジャック・e13073)は、小首を傾げるエルヴィーラ・アクセル(なれなかった忍び・e35415)の疑問には答えぬまま、敵の腕を掴んでひねりあげた。
「ジャックさん、それ以上、いけない」
エルヴィーラも合点がいかぬままではあるが、体当たりしてきた信者をひらりと飛び越え、その背を踏みつける。
「よくわからないけどさぁ……試合は選手にとっちゃ神聖なものでしょ?」
と、安海・藤子(オフ会出没・e36211)が肩をすくめる。
「それを汚すのは……いただけんなぁ!」
面を取った藤子の口調ががらりと変わる。
「彼の者たちに、永劫の眠りを与えよ!」
呼び出された氷河期の精霊が、ビルシャナに襲いかかる。さほど深い傷ではないが、相手の羽毛が凍り付いて肉に食い込んでいく。
「術の実験台になってもらわねば、ね」
ビルシャナが嘴の奥から、「くけぇ」と奇妙な音を漏らした。
「……まさか、まさかとは思いますが、スク水の良さがわからないと?」
「スク水は……若い子だけが着ていいもの! 30にもなってスク水写真集なんか出しちゃ、いけないの! いくら相手方の強い意向でも!」
綺羅星・ぽてと(耳が弱い・e13821)が、うつむいて歯ぎしりする。
「そんなことやってたのか……」
優輝が頬を引きつらせて苦笑いする。
「あげくタイトルが『ロリBBA』! 『BBA無理するな』の煽り! どれだけネタにされて弄られたかぁ!」
「ぽてとさんなら、可愛いと思う、です。ねぇ?」
「うん……。きっと、似合って、る」
アンジェラとエルヴィーラ。ふたりの『少女』が、心から慰めるが。
「ありがと。
でも、貴様らはぶっ飛ばすぅッ!」
鬼の形相で、ぽてとは大鎌を振り下ろした。
「グゲェッ!」
肩口から袈裟懸けにされ、真っ赤な血がリングに飛び散った。
●闘魂!
敵は晴香を見て、
「あなたは見込みがありますね? さぁ、私に従うのです」
と、笑った。晴香は、競泳型のスクール水着を着込んでいたのだ。
「ははん? 私の体型じゃ、似合わないでしょ? 一度くらいはウケたとしても、ね」
晴香はそう言って、ぽてとに視線を巡らせる。
「地味なスク水に、これ以上のインパクトがだせるかぁッ?」
ぽてとは叫ぶや、彼女の纏うラスボスクロスをはじめとした武装が、アルティメットモードへと変化していく! コーナーポストに駆け上がってからの跳び蹴りが、ビルシャナの胸板に命中した!
「げげぇ~ッ! いったい衣装と身体、どちらが本体なのか? まさしくこれはラスボスの登場だぁ~ッ!」
ドラゴンが闘牛場に声を響かせると、信者どもはどよめいて顔を見合わせた。
しかし、立ち上がったビルシャナが叱咤して抑える。
「こけおどしのコスチュームの、どこに魅力があるのですか!
紺のスク水こそが、もっとも美しい姿なのですよ!」
瞳を焼く閃光が、ケルベロスたちに襲いかかった。皆が、苦痛に呻く。
「衣装……ひらひら、ふわふわしてると、いいなと、思います。いろいろ、見たいな、って」
エルヴィーラは翼を広げて宙に浮かび上がりつつ、
「レスラーさん、たちは、衣装にこだわらずとも、魅力的です、よ?」
と、ケルベロスチェインをリングに這わせて魔法陣を描いていく。
「そうそう。みーんな同じじゃ、遠目から見たとき、すぐにわからないじゃない。
それぞれの個性を光らせてこそのコスチュームでしょ!」
ふさぎきれない傷は、藤子がバトルオーラを溜めて援けた。
「レスラーにとって、コスチュームは戦闘服であり勝負服。それを統一されては、たまったものではありません。
例えるなら、マスクマンはすべて黒の目出し帽にしろと言っているようなもの!」
同調したジャックは極限まで精神を集中し、敵を睨む。突如として爆発が巻き起こったが、敵はすんでのところで身を翻し、コンクリートの壁を砕いただけに終わる。
「個性が大事だとは、わたしも思います、です」
と、アンジェラ。
「もし、スクール水着を売りにしようとするレスラーさんがいたら? みんながそれだと、せっかくの個性が……」
「なにぃ! どこだ、どこにいるそのレスラーは!」
「たとえば! たとえばの話、です!」
「ふん……。どれも同じ格好ですって? 見分けもつかないのですか、お馬鹿さん!
こちらは股間の布が分離したダブルフロント! いわゆる旧スク!
対してこちらはワンピース型! いわゆる新スク! 背中だってU字型なのと、Y字型と! ぜんぜん違うでしょうが!」
「いや、正直よくわからんでござる」
ドラゴンが思わず素に戻って、首を傾げた。
「わかんないわよねぇ」
と、藤子も目を細めて難しい顔になる。
「わからないですって?」
ビルシャナは怒声を上げ、大きく息を吸い込んだ。毒霧よろしく、紅蓮の炎が吹き付けられる。
仲間の間に立った優輝はそれを浴びた。肩口で、炎が燃えさかる。
それでも優輝はビルシャナを睨みつけ、指を突きつけた。
「水着は本来、泳ぐためのもの!
旧スクもスク水! 新スクもスク水! そこに何の違いもありはしないだろうが!」
「違うのだ!」
優輝の放った電光石火の蹴りを、敵はギリギリで避ける。コーナーポストが、すさまじい威力でへし折れた。
「あなたたちなら、そう言うとは思ってたけど……」
と、ぽてとが渋面を作る。
「でも、考えてみてよ。私と晴香ちゃんが対戦して、私が負けちゃったら?
さんざんスク水を否定した私が、スク水レスラーに負ける……。みんなが同じコスチュームなら、こんなドラマは生まれないのよ?」
「スク水に嫉妬しているのですか? 心配いりません。ババァでも、スク水は優しく包んで美しくしてくれるのです!」
「なにおぅ!」
「もういいよ、ぽてとさん。
私には、やっぱりこっちのコスチュームが似合うでしょ!」
と、晴香はマントを一度羽織ったかと思うと、改めて見せつけたのはおなじみの専用リングコスチューム。
「おぉ~ッ! 皆があなたを待っていた! 正統派美少女レスラー、稲垣晴香、ここにありぃ~ッ!」
ドラゴンが、バンバンと放送席の机を叩きながら絶叫する。観客のいなくなった闘牛場で、その声はどこまでも響く。
「真にプロレスを愛しているなら、見るべきは何か!
奇抜なコスチューム? 華麗な技? 熱い血潮と燃える闘魂?
そう、正しい! すべて正しいッ! 一点だけでなく、すべてを楽しむ! それがプロレスの醍醐味だぁ~ッ!」
ドラゴンのマイクパフォーマンスが最高潮を迎える。
「いつだ? それを味わえるのはいつだ? 今でしょ! 今しかない、今、この場でしかそれは味わえないぞ~ッ!」
「くらえ~ッ!」
晴香が、動揺する信者どもに向かってボディアタック! 信者はそれを顔面で受け止めるような格好になり、転倒した。
むにゅり。
なにやら、幸せそうな表情で鼻血を流しながら、信者は気を失う。
「あの大胆なコスチュームが拝めなくなるんですよ、いいのですか? 私は、嫌です!」
と、ジャックが晴香の胸元を指さしながら叫ぶ。
「お願いします!」
「お願いします!」
すると信者どもは顔を見合わせ、晴香の前に整列。
「……? まぁ、いいや。1、2、3、くらえー!」
と、次々にボディアタックを繰り出していく。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「けっきょく、試合なんてどうでもいいエロ小僧じゃないの! ジャックくん、あなたも……?」
ぽてとが、ジト目で睨んできた。ジャックは憮然としつつも目をそらし、
「違う。誤解がある。
……さっさと退場してもらいましょうか」
背を向けて、並ぶ信者どもに迫る。
「そうだな」
黙っていると、とばっちりがきそうである。優輝も指を骨を鳴らしながら、信者に近づく。
「え、いや。俺はあっちの人の方が……うぐぐぐぐ!」
「だまれ」
腹いせのように、ジャックは信者どもを片手でそれぞれ持ち上げ、首根っこを締め上げた。
優輝も背後から首に手を回し、窒息させる。無論、加減はしつつ。
●カウントスリー!
信者どもは(正気に戻った者も含めて)ことごとくKOされた。ある者は幸せそうに。
「おのれ~ッ!」
「リング上では、基本的に武器はダメ、だった気がします、です。
せっかくですし、それらしく、戦います、です!」
アンジェラは、構えていたバールのようなものを投げ捨ててリングイン。
ふんわりとしたワンピースも脱ぎ捨てると、現れたのはミニスカートが付いた水着風のリングコスチューム。
「もう、逃がしません、です♪」
アンジェラの背中の翼が巨大化する。それで相手を追し包むようにしてそばに引き寄せ、そこに。
鋭い膝蹴りを叩き込んだ! 可愛らしい外見に似合わぬ、えげつない一撃である。
「ぐぶぅ!」
「火が好きだったな? これではどうだ。
我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。そは怒れる焔の化身……!」
藤子が呼び出した焔は、狼の姿に変じてロープから跳ね返った敵に襲いかかった。牙爪がその身に食い込むたびに、炎が吹き上がる。
「クロス!」
主の声に応じ、オルトロス『クロス』がうなり声をあげ、敵を睨みつける。
「我がドラゴン道プロレスリング術を、とくと味わえィ!」
丸太のように太いドラゴンの足から、炎を纏った蹴りが繰り出される。
三者の放った業火が、ビルシャナの全身を炎に包んだ。
しかしビルシャナは癒しの力を持つ光を放ち、炎はいまだくすぶっているものの、雄々しく立ち上がったではないか!
「しぶといな。……だが、いいぞ。術の実験台になってもらうのに、そうそう簡単に倒れてもらっては困る」
と、藤子が口の端を釣り上げた。次は、大槌を両手に構える。
「すべての女子レスラーにスク水を着せるのです!」
闘牛場を揺るがす大声とともに、ビルシャナはまばゆい閃光を放った。
……が。戦場にひらひらと舞う紙兵が閃光を遮り、いったんは怯んだケルベロスも、すぐに立ち直った。
ビルシャナが、エルヴィーラを睨む。
「エルが、みなさんを援けま、す」
そう言ってエルヴィーラは、懐に手をいれた。握りしめたクナイを振りかぶり、ビルシャナに向け、次々と放つ。
敵もさるもの、リング上を転がって避け、1本が肘のあたりに突き刺さっただけに終わるが。
クナイを抜く敵の傍らに、ぽてとが立つ。
「芸能界の闇を解き放つ……ため込んだストレスの暴威を受けよッ!
さっきの、あなたの暴言のぶんも含めて!」
握りしめた大槌を大鎌をめったやたらに振り回し、容赦なく蹴りを浴びせ、ビルシャナを打ちのめす。
「ふ~、スッキリ!」
「……お前は、犬の餌だ!」
ジャックのブラックスライムが巨大な黒犬のごとき形をとり、敵に喰らいつく。
「グゲェェェッ!」
ビルシャナは右肩から先のあたりを食いちぎられ、リングをおびただしい血で汚し、下に転がり落ちた。
「凶器攻撃? えぇ、私、ヒールの方が好みでしてねぇ……!」
と、ジャックが薄笑いを浮かべてリング下を見下ろした。
ビルシャナの腰に、晴香が手を回す。
「ふんッ!」
渾身の力を込め、腰で投げるバックドロップ! マットも何も敷かれていないコンクリートの階段に向けて、ビルシャナの後頭部を叩きつけた!
これでとどめ! ……かと、歴戦のケルベロスでさえ思ったのだが。
なんと敵はまだ立ち上がり、血走った目で睨んだかと思うと、今まで以上にすさまじい炎を吐き出してきたではないか!
「すさまじい威力だが……フィニッシュムーブにするには単調すぎる技だな!」
炎に巻かれながらも、優輝は前進を止めない。
「いくぞ、大罪と制裁の鎌!」
氷と炎、ふたつの魔力を同時に発生させて生み出された鎌を手に、優輝は飛びかかった。
修復の終わった闘牛場では、試合が再開されていた。
ケルベロスたちの激闘に比べれば、可愛らしく微笑ましいものではあるが。
「頑張れー!」
「今のは、勝ちじゃ、ないのです?」
「いや、あれはカウント2.95」
アンジェラやエルヴィーラは観戦を楽しみ、優輝は腕組みしてそれを解説する。
「私も……!」
「怪我人が出るでござる!」
ドラゴンが、飛び入りしようとする晴香を羽交い締めにした。
「ちゃっかり、最後にビルシャナをフォールしたから満足なんでしょ!」
「わはは!」
「そこ、依頼的にはどうでもいいわよ」
藤子が呆れ声で呟いた。
作者:一条もえる |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2017年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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