夜のビル街、今夜もあの窓の灯は消えない

作者:ともしびともる

●残業開始
 某日某所、都内に潜伏するビジネスマン姿の螺旋忍者の一派に、一本の通信指示が入った。
「代表取締役社長、鈴木・鈴之助である。我が社が掴んだ千載一遇のビジネスチャンスを物にすべく、お前達エリート社員に以下の指示を出す。東京都内に潜伏している螺旋亭の一族を捜索せよ。お前達の担当は千代田区の高層ビル街だ。該当区域を虱潰しに捜索し、万が一、他者の妨害があった場合はこれを速やかに排除しろ。1の指示で10働き、100の成果を挙げてくるのがお前たちエリート社員だ、わかっているな? 速やかに行動を開始せよ」
 同日他方、黒装束の螺旋忍者の一派では、上忍から下忍へと作戦通達が出された。
「傾注! 我が部署は24時間残業体制に突入した。 下忍社員は4~6の班を作成、都内全域を分担して調査活動を行うように。調査対象は、東京都内に潜伏中と思われる、螺旋帝の一族その人であり、千代田区担当の諸君には、手始めに高層ビル街の調査を指示する。なお、 調査中に他忍軍の調査部隊を発見した場合は、最優先で他忍軍の排除を敢行せよ。以上、検討を祈る」

●ビル街の平和を守れ
「東京の23区を中心に、螺旋忍軍が活発な活動を開始したようです。彼らの末端戦力達は、なにやら無茶な労働を要求されているようですね」
 ミルティ・フランボワーズ(メイドさんヘリオライダー・en0246)が掌に立体映像を投影しつつ、やや困り顔で事件の説明を始める。
「どうやら複数の螺旋忍軍組織が同一地域内で大規模な捜索活動を行っているようで、そこで鉢合わせした別派閥の螺旋忍軍同士は、お互いを潰し合おうと戦闘を始めてしまうのです。千代田区の高層ビル街でも同様の事件の発生を予知しているのですが、彼らはひとたび衝突を始めると相手勢力の排除のために周囲をお構いなく破壊し、巻き込みながら戦闘をし続けます。周囲の市民への非難活動は行われていますが、困ったことに、近隣で働く会社員の中には『安全』と『仕事』を天秤にかけ、つい後者を取ってしまうような人もいるようなのです。そんな影響もあり、戦闘を放置すれば逃げ遅れた人達の中から、犠牲者も少なからず出ると予想されています。皆様には該当の高層ビル街に向かって頂き、そこで衝突する螺旋忍軍達の戦闘に介入し、敵を撃破してしまってほしいのです」
 戦闘することになる螺旋忍軍は両派閥とも5人組だ。彼らはビル街のとあるビジネスタワーで鉢合わせ、戦闘を開始する。彼らは1階から5階まで吹き抜けたエントランスホールでしばらく戦闘し、やがてビルから飛び出して街中での戦闘へと移っていくと予知されている。
「戦闘に介入するタイミングは主に2つ、『戦闘開始直後から介入しどちらか一方の派閥を先に殲滅する』か、『両者が疲弊した頃を見計らって介入、弱った両陣営を一気に叩く』のどちらかを採用するのが有効と思われます」
 戦闘序盤に介入すれば、戦場はビルのエントランスホール内となり、被害の規模を抑えやすくなるだろう。反面、疲弊していない10人の敵を相手取る点に注意が必要だ。
「敵軍同士に協力されてしまうと勝利は難しく、危険です。敵同士が争い合っていることを利用し、先に一方の陣営だけを狙い撃ちにすれば、もう一方の陣営を利用することも難しくないはずです。ただ、最終的には全員を倒すことがこちらの目的ですので、あからさまに両者の疲弊を待つような戦闘と取ると、狙いを見抜かれ、敵陣営の結託を招いてしまうかもしれないので注意が必要です」
 敵の疲弊時を叩く場合は、高層ビルの街中が戦場となるだろう。弱った敵と戦える点が有利だが、前述の通り、街の被害について考慮する必要がある。
「……デウスエクスにとっては、同じ螺旋忍軍に負けるのとケルベロスに負けるのではリスクが段違いですので、疲弊時を狙った場合は、敵陣営は間違いなく結託して皆様に向かってくると思ってください。介入のタイミングが遅いほど戦闘は有利になりますが、遅すぎれば多数の死傷者が出ることに繋がります。人命を最優先することを前提として、敵の疲弊を待つ間、いつまでもビル内に居留まるような人達に対しても適切な避難誘導を行うことができれば、安全に介入タイミングを遅れさせて、より有利な状況で戦闘を始めることも可能かもしれません」

●働く末端構成員
 ミルティが投影する資料映像が切り替わり、敵対する螺旋忍軍の情報へと説明が移る。
「一つ目の陣営、『鈴木・鈴之助』率いる大企業グループ『羅泉』からは、『超エリート社員』と呼ばれる人達が5人派遣されています。ビジネススーツをピチッと着こなし、かっちりした眼鏡と髪型でいかにもやり手エリート! っといた感じの人達です。革靴風のエアシューズを用いて、スタイリッシュに攻撃を仕掛けてくるようですね。2つ目の陣営は『螺心衆』から派遣された、下忍軍団5人衆です。こちらは黒装束に黒頭巾に額当て、わかりやすく忍者な人達ですね。今回の集団は、日本刀の扱いを得意とする人達で結成されているようですよ」
 両陣営とも相応の連携を以て戦闘に臨むようだ。両者の実力はほぼ拮抗していると見られている。
 そこまで説明したミルティは映像を消し、困った表情のまま頬に手を当てた。
「どうして螺旋忍者同士で争っているのか気になるところですが……戦闘中に彼らに聞いてもおそらく有力な答えは得られないでしょう。嘘の情報を掴まされる可能性もありますし、尋問などは考えずにさくっと倒してしまう方が良さそうです。……それでは皆様、いってらっしゃいませ!!」


参加者
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)
ディーン・ブラフォード(バッドムーン・e04866)
湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
一瀬・栞里(博学篤志・e27796)
桔梗谷・楓(オラトリオの二十歳児・e35187)

■リプレイ


 夜の帳が降りた午後8時の千代田区高層ビル街。無数のビルが立ち並ぶ光景を見渡せば、今なお働く人間がいることを示す明るい窓がちらほらと見受けられた。
「24時間残業体制……。大変そうですね……」
 一瀬・栞里(博学篤志・e27796)が呟く。莫大な数の高層建築が連なる都内を、螺旋忍軍達が寝る間も無く捜索しているのだと思うと、敵ながら同情を感じなくもない。
「事情はともあれ、ケンカ両成敗ってね。迷惑だから大人しくしてもらおう」
 シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)が現場の敷地出入り口にキープアウトテープを手早く貼ると、ビル内からはガラスの割れ散る音が聞こえてきた。
「……戦争が終わったばっかりだってのになんつーか、はた迷惑な奴等だな。むさい野郎共の相手なんかサクッと終わらせちまおうぜ」
 桔梗谷・楓(オラトリオの二十歳児・e35187)がため息混じりに言い、ケルベロス達は足早にビル内へと突入した。

 ビルの中では忍者姿の『螺心衆』下忍の5人と、揃いのスーツと眼鏡姿の『羅泉』超エリート社員5人が、1階中央で対峙していた。彼らが戦闘を開始しようとしたその時、正面玄関のガラスドアを豪快に割り破り、ケルベロス達が一斉にビル内へと突入した。
 響き渡った甲高い砕音と、乱入した第三勢力に、螺旋忍軍達が一斉に振り返る。注がれる視線を受けつつ、ディーン・ブラフォード(バッドムーン・e04866)はたっぷりと間を溜めながら彼らを一瞥した。
「さて、この場合どちらに味方するべきなのか? ……ふむ、そこのビジネスマン。俺達を傭兵として雇う気はないか? 報酬は終わってから相談と言う事で」
「螺心衆捕捉、排除開始……オープンコンバット」
 ディーンが言い終わるやいなや、武装を展開したミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)が下忍達に向けてレーザービームを次々と放つ。牽制された下忍達が大きく飛び退き、ケルベロス達はエリート社員達の左側へと陣取る。
「ええい、厄介な連中が増えたでござる!!」
「一体、何のマネだ?」
 敵軍双方から動揺じみた声が上がる。ビーツー・タイト(火を灯す黒瑪瑙・e04339)は軽く右手を差し出し、訝しげなエリート社員を制するようにする。
「貴殿達を邪魔立てする気はない、一時共闘というのはいかがだろう」
「螺心衆は他派閥の撃破を優先しているそうですし、とりあえず共通の敵としませんか?」
 ミオリも続いて言い、イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)は口元に手を当ててくすりと笑う。
「敵の敵は味方、なんて言うつもりはないけど。お互い無駄な消耗は避けたいでしょう? ここはひとまず、共闘というのはどうかしら」
 ケルベロス達が一様に装着した揃えのチョーカーを見て、敵達も即座に状況を理解する。
「おのれ2対1とは卑怯なり……! ひ、引くでござる!」
 不利を感じて逃げ出そうとする下忍達の退路を、エリート社員が回り込んで塞ぐ。
「想定外の事態にも速やかに対応してこそのエリート。チョーカー軍団との業務提携を承認しよう」
 眼鏡を指で直しながら言うエリート社員に、湯島・美緒(サキュバスのミュージックファイター・e06659)がごく軽く会釈する。
「ご理解頂けて、助かります。……それでは、始めましょう」
 ギターを構えた澪の唇から明るいメロディが紡がれだし、それを合図として総勢18人の戦闘が本格的に始まった。


 ケルベロス達が初手グラビティで戦闘態勢を整える間に、下忍軍のうち2名がジャマーへと戦闘スタイルを変えていた。5対13という絶望的な状況に、方針を妨害重視へと切り替えて、強引にでも隙を作って逃走を図る気なのだ。下忍達は手近な相手に対して月狐の斬撃を繰り出し、美緒が手にしたギターでその軽くない太刀筋を受け止めた。
「……見たところ、ジャマーは3人ですか? 数で有利とはいえ、油断はできない状況ですね……」
「面倒ね。邪魔な連中からさっさと落とすのが良さそうだわ」
 イリスは気だるそうな声音と裏腹に、手にした槍を鋭く振るってジャマー達めがけて強烈な回転斬撃を繰り出した。薙ぎ払われて足をもつれさせる下忍達に、エリート社員が駆け寄って容赦なく追撃を加える。
 被弾による足の鈍りを感じつつ飛び退いた美緒を、楓が創り出した光のヴェールが包み込む。前衛全体に癒やしの光を振らせながら、楓は美緒とシエラシセロに向け、輝くような紳士的スマイルを送った。
「二人共、大丈夫か? 回復は俺に任せてくれ! ……あ、お前らも効果範囲内だぞ、良かったな」
 男性陣には一転淡白な表情で言い捨て、「お前な……」という表情で睨み返される。美緒とシエラシセロが曖昧な笑みを返している所に、ミオリが冷静な報告を入れる。
「……羅泉は螺心衆を逃さぬよう、1対1で立ち回っているようです」
「成程。俺達は自由に暴れて構わない、という訳だな」
 ディーンはそう言ってごく薄く笑むと、その眼光の先に一人の下忍を捉えて駆け出す。
(「螺旋忍軍は殺す。この戦いが俺の当たり前を奪った連中への復讐の一手目だ」)
 内なる決意を胸に秘め、ディーンは漆黒の槍、『イヴィルブラッド』を構えて跳躍した。狙われた下忍は飛び込んできた黒槍の刺突と稲光を浴び、ふらつきながら階下へと逃れていく。
 敵の状態異常攻撃は面倒ではあったが、ケルベロス達が支援・防御に重点を置いた布陣であったこともあり、なんとか対応しきれていた。シエラシセロはばら撒かれる妨害効果を降り注ぐオーロラ光で打ち消しながら、冷静にフロア全体を見渡す。
「……そこのお兄さん! 挟まれてるよっ!!」
 挟み射ちされかけているエリート社員に気づき、シエラシセロが叫ぶ。エリート社員は彼女の声に反応して咄嗟に吹き抜け側へと飛び降り、下忍の攻撃を間一髪で躱した。
 こちらを見やったエリート社員に、彼女はただ小さく笑みを返した。たとえ敵でも、共闘している間は仲間として扱う、と彼女は内心で決意していたのだ。
 共闘戦線は滞りなく運び、ついに一人目の下忍が、エリート社員によってコギトエルゴスムに変えられる。
「こうなれば、拙者一人でも」
 エリート社員の追跡から逃げ回っていた下忍の一人が、単独逃走を図ろうと窓に向けて大きく跳躍する。エリート社員は舌打ち、さらに下忍に追いすがる。下忍が窓に体当りする寸前、突如彼の眼前に巨大な土人形が現れ、その行く手を完全に阻んだ。
「……何ィ!?」
 下忍は為す術無く土人形に激突し、もんどり打って仰向けに倒れる。反対側の通路に立ち、土人形を召喚していた栞里が叫んだ。
「よおし、バッチリ! エリートさん、スタイリッシュに決めちゃってください!」
 栞里の計算通り、エリート社員が倒れた敵に拳を叩きつけてとどめを刺す。下忍の姿は消え、コギトエルゴスムが転がった。
 他方でも、エリート社員が下忍を追い詰めて引導を渡そうとしていた。ビーツーはそれを横目に確認しながら、自らの右腕に力を込める。
「……これもついでに頼む」
 言うやいなや、ビーツーは自身が対峙していた下忍の顎に音速のアッパーをお見舞いし、下忍の身体が吹き抜けの中央へと飛ばされる。投げ出された下忍の身体に今度はボクスが勢いよくタックルをかまして、エリート社員の攻撃範囲内へと吹き飛ばした。直後にエリート社員の回し蹴りが放たれ、彼の周りに2つのコギトエルゴスムが転がった。
「……ラスト1体。片付けてしまいましょう」
 ミオリが静かな声で宣言し、ケルベロス達は頷く。残された下忍がやけくそ気味に放つ螺旋の波動を、ミオリは柱の陰に隠れて躱す。
「ええい、せめて刺し違えて終わるでござる!!」
 柱から飛び出して下忍から遠ざかろうとするミオリに、下忍は追いすがった。しかし、飛び出したミオリは囮だった。下忍が柱の脇を通り過ぎようとした瞬間、そこに隠れていた美緒が下忍の足を思い切り払った。見事に転がった下忍に掌を向け、すかざず業炎の弾を創り出す。
「……仕留めます!」
 灼熱の炎が弾けてフロア全体を一瞬の光と熱が覆い、最後の下忍は完全に燃え尽きた。


 下忍がトドメを刺された瞬間、エリート社員達はにやりと笑い、一人が音もなくビーツーの背後に忍び寄ってその後頭部に向けて回し蹴りを放った。
 ガアン!と激しい衝撃音が響いたが、エリート社員の笑みはすぐに曇る。ビーツーは左腕を掲げ、その鱗で振り返りもせずに敵の攻撃を受け止めていた。
「不意をついたつもりだろう。突っ立っている俺はいいカモに見えたか? ……残念だったな」
 ビーツーは振り向きざま、力強く左腕を払って敵の脚をはじき飛ばす。それを見つつ、ディーンが黒き剣『クイーンデッド』を抜いて笑った。
「では約束の報酬の話をしようか、だが薄々感づいているのだろう? ……俺達の求める報酬はお前ら全員の命だ、とな」
 ディーンは言い放ち、剣を床に突き立てて転がるコギトエルゴスムを破壊した。エリート社員達を包囲したケルベロス達がコギトエルゴスムを次々に砕く音が響き、エリート社員が苦々しい顔を浮かべる。
「お前ら、やはり……!」
「あら、出し抜こうとしたのはお互い様でしょう? むしろこの状況で自分達が包囲されていることに気づかないなんて、はっきり言って間抜けだわ」
 意地悪に笑うイリスへと、激高したエリート社員の一人が殴りかかった。イリスはにやりと笑んでその拳を難なく躱し、逆にその背へと冷徹なる手刀の一撃を叩き降ろして倒れ込ませる。さらにイリスを狙って敵の一人が襲いかかったが、今度はシエラシセロが庇って入った。拳を受け止めたシエラシセロは、悲しげな表情で敵の顔を見返した。
「騙してごめんね……。ボク達は敵同士。それでも、裏切るのはやっぱり辛いや……」
「……ちょ、君? 我々はその……へぶあ!?」
 シエラシセロの表情に狼狽する敵の顔面に、ボクスドラゴンのヘルがゼロ距離でブレスを吹きかけた。ヘルは主人を諭すような視線で振り返り、シエラシセロも彼女を見て笑顔を返した。
「うん、わかってるよ。守るための戦いだもんね」
 連戦による体力の消耗はお互いに軽微だったが、状態異常への対策が厚かった分、ケルベロスの方が動きが軽快だった。敵は数の不利に対抗するべく、分身の術による強化を図ってくる。
「あっ! ……思い通りには、させませんよ!」
 栞里が分身をかき消すため、水晶剣召喚の詠唱を始める。栞里の様子に気づいたエリート社員が、彼女を止めようと一気に駆け寄って蹴りを放ったが、彼女は敵を寸前まで引きつけた上で上半身を反らせ、紙一重で蹴りを躱す。
「ふっ……と! わたしもスタイリッシュに決められたかな?」
 予想外に蹴りが空を切り、敵が体勢を崩している間に栞里の詠唱が終わる。煌めく水晶剣が群となって召喚され、飛び交う晶剣が敵の分身の幻影を次々と消し去った。ケルベロス達は敵の作戦を次々と潰し、徐々に相手を追い詰めていく。
「視界が駄目なら聴覚、嗅覚? そんなのに頼ってちゃ永遠に夢から醒めないぜ? 夢幻と踊ってな」
 楓が吹き抜け上部で滞空しながら『馨夢幻影(ケイムゲンエイ)』の魔法弾を無数に放つ。撒き散らされた魔弾は衝突と同時に炸裂して周囲を破壊し、辺り一面にガラス片と花の香りが広がる。
「おっと、やりすぎか? まあ残骸で足場も視界も悪い方が戦いやすいだろ?」
 破壊の限りを尽くし、満足気に笑う楓。トラウマに苛まれ、降り注ぐガラス片に顔を背けた敵へと向けて、ミオリがアームドフォートを構えた。
「目標捕捉…全データインプット。電磁弾、投射」
 巨大な砲身が発射の反動で鋭く跳ね上がり、放たれた電磁爆弾が敵の中心で炸裂した。凄まじい轟音と閃光、電磁パルスが周囲に放たれ、衝撃に全身を痙攣させた敵の一人が、命運尽きて動かなくなった。
 体のしびれに足が止まった敵を見極めて、ディーンが漆黒の剣を構える。
「武装展開、魔力解放。収束――」
 彼が魔力を展開収束させた剣を振り上げると、その刀身は月をも両断するという巨大な剣へと変化する。
「アスガルドより盗みし秘儀、冥土の土産に照覧あれ……まぁこいつはその劣化版だがな!」
 吹き抜けの踊り場を次々と斬断しながら、巨神剣が振り下ろされる。標的となったエリート社員は恐怖の断末魔を上げる間もなく、その刀身に押しつぶされて事切れた。その衝撃にビル全体が揺らぎ、動揺を見せたエリート社員へと、ゲシュタルトグレイブを構えた美緒が突撃する。美緒は桃色の髪をなびかせて雷撃の一突きを繰り出し、胴を刺し貫かれたエリート社員はその場で力尽きて倒れた。
 残された2人のエリート社員は顔を見合わせ、一目散に正面玄関に向けて逃走を始めた。
「ヘル! お願い!」
「……今だ」
 主人の合図に、瓦礫に身を潜めていたボクスとヘルが姿を現す。飛び出した2体のブレスが敵の全身を焼き払い、一人は燃え尽きて姿を消し、一人は息も絶え絶えに仰向けに倒れた。虫の息となった敵の元へと、ミオリが素早く駆け寄る。
「………帝とは、何ですか」
 ミオリがアームドフォートを突きつけたが、倒れたエリート社員は割れた眼鏡を直し、笑っただけだった。
「ま、腐っても忍者よね。貴方たちが情報を吐くとも思えないし、もうご退場願うわ」
 敵を見下ろしたイリスは黒茨の攻性植物を槍型へと変化させ、その先端をエリート社員の胸部へと容赦なく突き刺した。茨は彼を苗床として全身から生え茂り、養分とされた彼の身体は砂に変わって、サラサラと崩れ去った。


「敵性存在消滅、クローズコンバット、皆さんお疲れ様でした」
「あー、よく暴れた! みんなお疲れー」
 ミオリと楓の言葉を皮切りに、ケルベロス達が緊張を解いていく。戦闘によって破壊されたビル内を、彼らは念入りにヒールして回った。
「やっぱり、彼らは『帝』を上に言われたまま当てもなく探しているだけみたいですね」
「螺旋帝か……。そういう存在居たんだな。あまりのフリーダムさに、トップは居ないものと割と本気で思ってたぞ」
 ヒールしながら、美緒とディーンが事件の見解を交換し合う。
「螺旋帝が地球に亡命、潜伏しているならば、こちらが先に見つけないとその螺旋帝って人は危ないということですよね?」
「……それともアレか? 各忍群を争わせて蟲毒の真似事でもやってるのか? 忍軍同士でも平気で殺し合うってのは、これで証明されたようなものだしな」
「……あらゆる可能性が想像できますね。本当に、輪郭の掴めない人達ですから」
 二人の考えを聞きながら、栞里が答ため息混じりに呟いた。考察を巡らせつつ戦場を後にしたケルベロス達は、眼前に広がる摩天楼の景色を見上げる。夜空高くに昇った月は、夜はまだ始まったばかりだと告げているかのようだった。

作者:ともしびともる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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