ミッション破壊作戦～降り立つは竜の領域

■リプレイ

●富山県黒部峡谷
「空挺降下は御家芸！　ドラグーンの称号は伊達ではない！！」
　言って、宙へ舞ったのは、リーフ・グランバニア（サザンクロスドラグーン・e00610）だ。
　続くようにヘリオン内のケルベロス達も次々と、甲板を蹴り空へと踊り出す。この、黒部峡谷の『強襲型魔空回廊』を破壊する為に。
「私達も行きましょう。前は、任せたから」
　二人残った、スヴァルト・アール（エリカの巫女・e05162）は、既知であるディークス・カフェイン（月影宿す白狼・e01544）の肩を軽く叩く。
「……任せろ」
　華紋様の刻まれた仮面を被っている為、表情こそ読めないが、ディークスの短い言葉にはスヴァルトへの強い誓いが込められていた。
「背を任せる、アルト」
　言葉と共に降下するディークスを笑顔で見送ると、スヴァルトも表情を引き締め宙に身体を落とす。
（「……為すべき事を為し…… 一人も欠けることなく帰ろう。無事に帰ることも、大事なことだから。……私も大切な人の傍へ、必ず」）
　御影・有理（書院管理人・e14635）は風に煽られ胸から姿を現した、銀の薔薇のペンダントに軽く触れ、強く心に誓う。
（「……ドラゴンにも色々な竜がいる。……誇り高い武人、暴れるだけの獣、残酷な怪物、仲間想いな戦士。今回の竜がどんな竜かは分からない……でも、必ず討つ……！」
　今回のこの魔空回廊へのアタックは４度目。過去3回の攻撃を無駄には出来ない。皆が紡いだこの機会を絶対に無駄にはしない。
　その思いで、リーナ・スノーライト（マギアアサシン・e16540）は、グラディウスに魂の力を込めて行く。
　普段は無口な少女……だが、胸に秘めたる思いは……。
「……集え想い。……これまでに紡がれた全てを以て……この回廊、破壊する……！！」
　リーナの振り下ろしたグラディウスは、魔空回廊のバリアと接触すると、雷光と爆炎を生じさせ、バリア内を混沌の場と成す。
（「ドラゴニアンである私と竜種『デウスエクス・ドラゴニア』……どれほどの違いがあるのでしょうね……」）
　宙を優雅に舞いながら、巴江・國景（墨染櫻・e22226）は、ぼんやりと考えていた。
　遥か昔の歴史を調べたところで直接的な因果関係を調べる事は今の地球の科学力では出来ない。ただ一つ分かっていることがあるとすれば、サーヴァントであるボクスドラゴンがケルベロスと心を通わせる事で破壊衝動を鎮め、小型化したドラゴンの個体と言うことだけだ。
　ドラゴニアンと竜種の因果関係に関しては詳しく分からない……だが、その可能性が國景の胸に蜘蛛糸程ではあるが、侮辱のような不快感を生みだす。
（「それを思ってもせん無いこと……」）
　唇に笑みを作ると、國景はグラディウスを抜き放つ。
「……さて。此の地へも四度目かと記憶しておりますが、今回で決着をつけたいところですね。……ドラゴンとは……こうもあさましい種族だったのでしょうか。求めるものが憎悪と拒絶でしかないなどと……求めるものが人の子のそれであると言うならば――良いでしょう」
　國景の魂に呼応するようにグラディウスの輝きが増す。
「それを、そのままお返しするまでですよ」
　静かな太刀筋、静かな叫び……そして、静かな國景の怒りはバリアに一筋の亀裂を生む。
（「黒部峡谷、この場にもう一度来る機会が訪れるとは……今度こそ必ず、魔空回廊を破壊して見せるであります」）
　青白に輝く光の翼を広げ、騎士然とした鎧を見に纏った、クリームヒルト・フィムブルヴェト（輝盾の空中要塞騎士・e24545）が、今一度与えられた『グラディウス』を強く握る。
（「如何に強靭であろうとも、諦めなければ……必ず打ち砕けるはずであります！」）
　自身も参加した二度目のアタック……斬り裂ききれなかった『魔空回廊』……幾度も繰り返す作戦……クリームヒルトとて分かっている。
　それでも、この地を開放出来なかったという思いは忘れられなかった。
（「定命化の対処として、人類を虐殺し憎悪と拒絶を求めるドラゴンは、人類最大の脅威であります！　一刻も早く倒す為、魔空回廊を破壊し最終決戦勝率を上げねばなりませんっ！」）
「前回は力及ばなかったでありますが、今回こそ絶対に破壊するであります！！」
　クリームヒルトの固い意志のこもったグラディウスは、伝説の聖剣のように光を長大にし、バリアに襲いかかった。
　……バリア内部の、轟音は更に激しさを増していた。

●竜を否定し者達
　――力には力を。
　――絶対的な強者で在れ。
　――脅威は総てを喰い破る。
　踏破せよ、略奪せよ、蹂躙せよ――傷を重ね苦痛を乗り越え、精神の病すらも取り込み飲み干せ――簡単に死ぬ事は赦されない……。
　ディークスの内で繰り返される言葉。
　それは、戒めの鎖かもしれない。
　だが、それを糧に生きてきた自身を否定することは許されない……今の自分が今此処にあるのだから。
（「生れ落ち……只、其れだけを望み強いられ、時を生きた。知識を重ねた研究と試行、訓練と教育の末……嘗てのデウスエクスとして“略奪民族の後継者として”苦しみ狂った多くの犠牲、妹弟達…… 大切な者達を看取る事しか出来なかった……お前達の様な“略奪者”など居なければ、俺の様な仔は産まれなかった」）
　略奪を良しとする全てのデウスエクス……それらはディークスの憎しみの対象。
「死に臨め……」
　仮面の下から漏れ出るディークスの言葉。
（「略奪しか能の無い……愚かな種族を根絶やす。あの想いは繰り返させてはならない……」）
「壊れろォォ！！」
　思いの丈の全てをグラディウスに込め、ディークスが吠える。
（「戦艦竜から八竜……っとに、毎度毎度……見せ場のねーことでもどかしいですね」）
　過去に数度、ドラゴンと対峙の経験があるスヴァルトだが、戦績と言えば誇れるものではないと、スヴァルト自身思っていた。
　傷を負い、戦線離脱するしかなかった自分……それでも他の誰かが目的を遂げてくれるのなら、それは意味のある負傷……けれど。
（「今回は下がれません。膝は付けない」）
　バリア内に入れば、否応なくドラゴンとの戦闘が待っているだろう。
　その戦場で、回復を担わなければならない自分が膝を付くことがあってはならない……スヴァルトは強く思っていた。
　勿論、相手はドラゴン。万全の態勢を整える為に、國景も回復役として戦闘準備をして来ている。
　だが、回復役が２枚から１枚に減った時、仲間の負傷率が格段に上がることは間違いない……だからこその、スヴァルトの決意だ。
　スヴァルトは改めて黒部渓谷を……いや、この地球と言う星を空から見下ろし思う。
（「蹂躙なんてさせない。決意もその為の力も、抱いているけれど……目に見える見返りがある訳じゃない。解放しようとするのは、ただの自己満足。守る力があるから、守りたいと思ったから……正義なんて気取りはしない。単に気に入らない……この星がデウスエクスに蝕まれることが」）
　ケルベロスとして生きることを決めた時、ケルベロス達はそれぞれ何のために戦うかを決めるだろう。
　自身の為。愛する人の為。弱き人の為。地球の為。それ以外にも……。
　だからスヴァルトは思う。
（「白銀の世界、白い闇、全てが凍りつく大地より生じたこの命があの景色を失いたくないと――例え戻る場所が、もう無くても」）
「理由なんてそれでいい。 そしていつか『奴』を滅する。奴に辿り着くその時まで、神を焼き尽くそう！」
　迷い無くグラディウスを一条の光として、スヴァルトはバリアにその切っ先を突き立てる。
（「過去３回のこの地の攻撃には、何れも友が参加している。皆の想いを繋ぎ先へ進む為に、私の全力で」）
　グラディウスを握り、繋いだバトンをゴールへと導く為の思いを心に描く、有理。
（「竜十字島が発見された日――命が、涙が零れ落ちていった日のこと……絶対に忘れない、忘れるものか。ドラゴン共が幾度、憎悪と拒絶を求め、攻めて来ようとも必ず守り抜き、前へ進み、竜十字島への道を切り拓いてみせる――」）
「これは其の為の一太刀だ！」
　散って逝った仲間、それでも前に進んできた自分達を信じ、有理は刀のように伸びた光を横に薙ぐ。
「グラディウス……剣の姿を持つならば、絆と思いを力にすると言うのなら！　この『伝説』と呼応して見せろ！！　来たれ我が守護、大白鳥よ！　湖の乙女が鍛えし王の聖剣を我が手へ」
『星の聖剣』を作り出す自身のグラビティをグラディウスに込め、リーフは大剣と化したグラディウスを大きく掲げる。
「穴倉に潜む天魔共！　我が声が聞こえるか！　この光が見えるか！　これはケルベロスの業ではない！　この星に生きとし生ける、愛を知る民草の力だ！　定命を恐れる貴様等に、この星に踏み入る資格無し！　命、愛、絆たる天獄の番犬が糾弾す！　天魔！　覆滅！！」
　リーフの叫びと共に振り下ろされる聖剣。
「ローエングリン！　グラディウス……ッ！　カリバァァァ！！」
　神の雷が落ちるかのように真っ直ぐに大きな落雷がバリアの中に落ちる。
（「皆の思い、最後に私がこのバリアを砕くことで繋ぎましょう」）
　静かに優しい笑みを浮かべ、ヘリオンから降下していた、刑部・鶴来（狐月・e04656） が懐からグラディウスを取りだす。
「私が破壊作戦に挑むのは此度が初めてだが、これまでの攻撃を決して無駄にはしない。正直なところ、魔空回廊自体にそこまで思い入れは無いが、ドラゴンが関わるというのなら話は別。未だ単身で竜を斬ることは叶わぬが、いずれ成し遂げてみせる。全身全霊を込めたこの一振りこそが其の証明」
　握るグラディウスに決意を込めれば、鶴来は白光の輝きでグラディウスの刀身を包み込む。
（「今日のこの一撃は、その初太刀也」）
「一方通行など知った事か！！　斬り裂け、グラディウス。魔空回廊を越え、その先の竜十字島まで！！」
　渾身の鶴来のグラディウスによる斬撃……だが、グラディウスがバリアを斬りつけた時、鶴来は気付いてしまった。
　足りないと……このままでは、魔空回廊は破壊出来ない。
　その考えが過った次の瞬間、鶴来は腰に差した刀を抜くとグラディウスの力を増す為、一気に振り下ろした……しかし、魔空回廊のバリアはグラディウスでしかダメージを与える事は出来ない。
　鶴来の刀は空しく宙を斬る……直後、バリア下の爆発がケルベロス達も飲み込むと辺りを白煙が覆った。

●フロストワイバーン
　白い煙が薄く晴れ、鶴来は仲間達が３０メートルと離れず、無事に着地しているのを確認した。
　だが、それと同時に苦い思いを全てのケルベロス達が抱いていることも分かっていた。
『黒部峡谷の魔空回廊を破壊出来なかったという事実』
　そのことを皆、悔しく思っている……だが、今はその思いに囚われている状況ではないことも、鶴来の冷静な部分が理解していた。
「フロストワイバーンが１体接近です。撃破後、この場を離脱します」
　言うや否や、鶴来は５０メートル程先から飛来する蒼き身体の飛竜に御業で作り出した炎弾を飛ばす。
　仲間達もすぐに陣形を整えると、各々の得物を手に取り構える。
「今回は破壊出来なかった。だが、諦める訳ではない。ドラゴンの略奪は必ず終わらせる」
　友の形見である『八卦龍紋刻之小柄』を左手に強く握り、有理は刀で月弧を描くとワイバーンに斬りかかる。
「ディークス、攻撃の要だって分かってるよね？」
　スヴァルトの言葉にディークスは静かに頷くと『静謐の槍』を構える。
「分かってるなら、大丈夫。頼んだよ」
　白銀の粒子がスヴァルトから放たれると同時に、ディークスは迅雷の如き動きでワイバーンを串刺しにする。
「タングステン、ボクと共に守りを固めるであります。魔空回廊を破壊出来なかった以上、全員無事に帰り、グラディウスを次のチームに渡すことが最重要であります」
　相棒のボクスドラゴン『甲竜タングステン』に言いつつ、クリームヒルトは盾となるドローンを宙に飛ばす。
「私も護りの力を優先しますが、皆さん相手はドラゴン。踏み込み過ぎないようになさってください」
　光の盾をディークスに飛ばしながら、國景が言えば、リーナは無言で答えるように自身の気配を朧気にする気流を発生させ『降魔刀『叢雲』』をワイバーンに振り下ろす。
「貴様如きと戯れている暇は無い！」
　ドラゴンの鱗すらも削り落とす一撃を放ち、リーフが言い切る。
　リーフの言うとおり、ここでワイバーン如きに手こずっている余裕等ケルベロス達には無い。この黒部渓谷を開放する為に……必ず、帰還しなければならないのだから。

●明日を拓く為に
「集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす……！　滅せよ……黒滅の閃光！！」
　リーナの全身全霊を込めた黒き刃がワイバーンを切り裂いたかに見えた……だが、ワイバーンは長い首を動かすと強烈な冷気のブレスを吐き出す。
　リーナが膝を付き倒れたのを見ると、後手に回れば不利と有理と鶴来が瞬時に動いた。
「己の成したいように成し、守りたいものを守る。それが御影の一族の……私の在り方だ！」
　一時的に祖先のドラゴニアンの力を借り闇色の翼を広げ、獰猛な爪でワイバーンを引き裂く有理。
　ワイバーンの蒼き鱗は酷く傷つき、地に落ちるのも時間の問題のように見える。
　だが、戦闘開始から１３分。
　ワイバーンを相手にケルベロス達が無傷で通せた訳でも無い。
　防御に周っていた、有理の相棒のリムとタングステンは既に消失していたし、リーナも意識こそあれ戦線復帰は出来ないだろう。
　比較的軽傷なのは、ディフェンダーに上手く護られていた鶴来とメディックの二人のみで、他のメンバーは國景かスヴァルト、どちらかの回復が追いつかなくなった時点で、何時膝を付いてもおかしくない状況だ。
（「どんな状況下にあっても、一人の剣士として私は生きます」）
「このツルギ、たとえ何であろうと全て斬り裂いて見せる！！」
　鶴来の斬閃が最後の猛攻の合図となった。
　リーフの聖剣が、クリームヒルトの流星を思わせる蹴りが、連続で決まる。
　そして、最後衛のスヴァルトと國景も攻勢に移る覚悟を決めた。
　國景が高く掲げた斧を振り下ろした次の瞬間、スヴァルトが神にも等しい炎の力でワイバーンを呑み込む。
「……その命、糧としよう。唄え」
　ディークスが生み出した光球は石化の光線を放ち、蛇のような執拗さでワイバーンを絡め捕り、最後には完全にワイバーンの動きを止めた。
　時間にして数秒……誰かが１つ息を吐くのが聞こえた。
　だが、まだ終わりではない。
　この場に留まれば、二度目の勝利は無いだろう。
　ケルベロス達はそれぞれのグラディウスを確認すると視線を交わし、歩けずにいるリーナを庇いながら黒部渓谷を離脱した。
　次の作戦でグラディウスがこの地の未来を切り拓くことを信じて……。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年5月21日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。