コーポレート忍法帖

作者:青葉桂都

●螺旋の企業闘争
 東京都千代田区……ビルが立ち並ぶオフィス街の一角で、争いが起ころうとしていた。
 二組のデウスエクスは、そこにいる人々の都合など考えずに動き始めようとしている。
 どことも知れぬ会議室を勝手に拝借して集まっているのは企業グループ『羅泉』のエリート社員たちだ。
 その前に立つのは、スーツに身を固めた男。
「『羅泉』代表取締役、鈴木・鈴之助である! 君たちに重要なプロジェクトへの参加を命ずる」
 社員たちは無言で頷いた。
「我が社は今、千載一遇のビジネスチャンスをつかんだ。螺旋帝の一族が東京に潜伏しているという情報を得たのだ。この捜索に君たちも加わってもらう」
 言葉にならぬざわめきが社員たちの間を走る。
「ここにいる4名に担当してもらうのは千代田区だ。虱潰しに捜索し、邪魔する者あらばすべて抹殺せよ。今回の成果は今年度の査定に大きな影響を与えるだろう」
 質問は、と鈴之助は問うた。ありません、と1人が答える。
「ならば行け。報連相を忘れるな」
 号令一下、エリート社員たちは音もなく椅子から立ち上がり、一瞬にして影も残さずに会議室から消えていた。
 同じ頃、もう一方の勢力もミーティングを行っていた。
 どこかのビルの屋上で、角のついた額当てを装備した男は柵の上に立って部下たちを見下ろした。
「傾注!」
 彼らは株式会社スパイラルハートなる企業を隠れ蓑に活動する螺旋忍軍の一派、螺心衆。
 黒い忍び装束に身を包んだ下忍社員は膝をついて上忍の言葉に耳を傾ける。
「これより我が部署は24時間残業態勢に入る。下忍社員はチームを組み、都内全域の情報収集を行うものとする!」
 彼は6名の下忍に千代田区を担当することを命じた。
「調査対象は都内に潜伏中と目される螺旋帝の一族の所在! また、もし調査中に他忍軍の調査部隊を発見した場合は、最優先でこれを撃破せよ!」
 下忍たちは声を合わせて了解を告げる。
「行け! 螺旋帝の一族、必ずや我らが保護するのだ!」
 音もなく跳躍し、下忍社員たちはビルから飛び降りていった。

●巻き込まれ型の事件
 集まったケルベロスたちに、螺旋忍軍に大規模な動きがあったと石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)は告げた。
「活動しているのは東京の都心部、23区内の各所です。複数の忍軍による活動が確認されており、螺旋忍軍同士での戦闘が発生しているようです」
 デウスエクス同士が争って勝手に戦力を減らしてくれるのなら望むところだが、残念ながら放置はできない。
 周囲の被害を省みず戦闘に巻き込まれて、多数の死傷者が出てしまうからだ。
「皆さんにはこの戦いに介入していただき、両者とも撃破していただきたいのです」
 とはいえ、2つの勢力を同時に相手取って勝利するのは非常に難しい。
 各個撃破するには、敵がケルベロスを利用してもう一方の敵を狙うように仕向ける必要がある。
「立ち回りを誤れば、敵同士が協力して皆さんをまず撃破しようとすることも十分に考えられますので、注意してください」
 確実に撃破しようとするならば、忍軍同士に戦わせて疲弊したところを叩くという手もある。
 とはいえ、自由に戦わせれば一般人に死傷者が出る。被害が出そうになれば介入せざるを得ないだろう。
「皆さんがうまく指示して避難させれば、被害が出るタイミングを遅らせて、その分疲弊を誘うことができるでしょう」
 警察も駆けつけているはずなので、利用するのも1つの手だ。
 ただし、ケルベロスがいることに気づかれたら、戦闘に介入しなくても敵は対処しようとしてくるかもしれない。
 また、消耗したところでケルベロスが現れればまず間違いなく敵同士で手を組んでくる。十分疲弊させてから行動しなければ逆に厳しい戦いとなることだろう。
 いずれを選ぶにせよ、余計な寄り道をしなければ螺旋忍軍同士が戦闘を始める頃には現場に到着できる。
 芹架は次に、敵戦力について説明を始めた。
「敵は『羅泉グループ』と『螺心衆』という忍軍のようです」
 いずれも企業を隠れ蓑にした忍軍らしい。
 スーツ姿に眼鏡で顔を隠しているのが羅泉グループのエリート社員、忍者らしい黒装束が螺心衆の下忍社員だ。
 当然ながら敵はすべて螺旋忍者のグラビティを使用する。また、他に武器も装備していると芹架は説明する。
 羅泉グループは4体出現する。彼らがはいている靴は一見普通の革靴に見えるが、実はエアシューズになっているらしい。
 2体が前衛で、中衛と後衛が1体ずつという構成だ。
 もう一方の螺心衆は6体現れる。
 日本刀を装備した者が前衛3体と後衛1体、日本刀と螺旋手裏剣の二刀流が中衛に2体配置されているらしい。
「戦闘が発生するのは午後のまだ明るい時間帯で、場所はオフィス街の一角です」
 超高層とは言わないが、それなりの高さのビルが並んでいる区画だ。建物内で仕事している人はもちろん、道行くビジネスマンも少なくはない。
 戦闘が発生するのはとあるビルとビルの間の路地。そこから戦場はどんどん広がっていく。人だけでなく建物も壊れるが、そちらは後でヒールすればいいので気にする必要はない。

「何の目的で争っているかは気になるところですが、どちらも雑兵のようなので大した情報は持っていないでしょうね。下手に聞くと、撹乱のために偽情報を吹き込もうとしてくるかもしれません」
 今はまず、確実に敵を撃破して欲しいと芹架は言った。


参加者
ミシェル・マールブランシュ(肉親殺し・e00865)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
鏡月・空(藻塩の如く・e04902)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)
アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)

■リプレイ

●忍者たちの内乱
 オフィス街には人通りが多く、今はまだ人々が平和に過ごしていた。
「昼間の街中でって、お互い忍者なら忍んで戦ってよね……」
 氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)がため息をついた。
「そうだぜ。こんな所で暴れられると大変なことになるんだぜ」
 タクティ・ハーロット(重力を喰らう晶龍・e06699)が周囲を見渡す。
「忍者のはずなのにどうしてこうも堂々と争えちゃうのかな。もうちょっと忍ぶとか……あぁ、忍者映画見せてあげたいんだよ……」
 スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)が肩を落とした。
「その気持ちはわかるよ、スノーエル。仲間内の内戦は大いに結構。だけど、それに俺たちを巻き込まないで欲しいものだね」
 彼女のそばにそっと寄り添いながら移動している執事姿のレプリカントが、声をかけた。
 白い翼のオラトリオは、ミシェル・マールブランシュ(肉親殺し・e00865)がその服装に似合わぬ言葉で語りかける唯一の相手だ。
「うん。迷惑な連中はやっつけちゃおう。今回は久しぶりにミシェルと一緒だし、張り切っちゃうんだよ」
「頑張れ。でも、張り切りすぎてケガはするなよ」
 心配してくれる大切な人に、スノーエルは笑顔を見せる。
 戦闘が起こると言われていた場所にさしかかる。
「警察の人たちはまだ来てないみたいだねー」
「ああ。けど、連絡はしてあるからすぐ来てくれるはずなんだぜ」
 黒豹の少年の言葉にタクティが応じる。
 一般人に過ぎない警察の動きはケルベロスほど早くはないが、彼らも急いで動いてくれているはずだ。
 ドン、と目的の路地から音がした。
 路地を覗き込んだケルベロスたちが見たものは、超人的な動きで壁を蹴り、宙を駆けるサラリーマンと忍者たち。
「……同じ種族でも殺し合うとは」
 改めて確かめた敵の姿に、アト・タウィル(静寂に響く音色・e12058)が眠そうな目をいつもより少し大きく開いた。
「同じ種族なのに仲良くないなんてヘンなの。でもある意味チャンスだよね。うまく倒していくよ」
 敵にまだ声が届かないうちに、ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)は仲間たちに告げた。
「螺旋忍軍が血眼になって探してるのってなんなのかしらね……? 螺旋忍軍のアイドルなのかしら……?」
 愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が呟く。
「なんなんだろうなだぜ。戦ってるうちに何狙っているのかくらいポロっと言ってくれねーかなだぜ。……いやでも忍者なら人知れず忍んで戦えよ……」
 タクティも首を傾げるが、考えている暇はない。
「こ、こんなところにデウスエクスが!? あんた達、螺旋忍軍と戦ってるってことはケルベロスでしょ? あたしのファンにしてあげるからこいつら倒すの協力してよ!」
「こいつらを見逃すわけには行かないんだぜ! 手を貸してほしいんだぜ!」
 瑠璃やタクティが、忍者装束の向こうにいるスーツの男たちに声をかけた。
「あいつら、人数も少ないし押されてるんじゃないか? 大変だ! すぐに助けるからなっ!」
 ルアが言った。
 スーツの男たちを仲間だと思い込んだ振りをして、ケルベロスたちは口々に声をかける。
「……」
 スーツ姿の忍者たちは、一秒の半分にも満たない時間、考えたようだった。
「すまない、俺たちだけじゃ戦力が足りないようだ! 助けてくれるとありがたい!」
「貴様ら、なにを……!」
「黙れ螺旋忍軍め! 今こそ正義の鉄槌がお前たちを奈落の底へと落とす時だ!」
 何か言いつのろうとした忍者装束の1人を、スーツの1人が大きな声で遮る。
「螺旋忍軍の人が出たと聞いていましたが、この方たちに間違いはないでしょう。さて、では加勢と行きましょう」
 アトが静かにハーモニカを奏で始める。
 他のケルベロスたちも次々に武器を手に羅心衆へと襲いかかっていく。
「そうか、現代の忍者はリーマンも兼ねているのか……」
 大変なんだなあ、と鏡月・空(藻塩の如く・e04902)はしみじみ呟くと、神殺しの魔人のごとくアスファルトを蹴った。

●螺心衆殲滅
 すでに戦いは始まっており、二組の忍者たちは互いに傷を負っていた。
 もっとも、いずれも深い傷ではない。
 空が剣ではなく鞘を振りかぶって、忍者装束の1体に殴りかかった。
「こちらも始めるといたしましょう」
 続いてミシェルが妖精弓から矢を放ったかと思うと、スノーエルの放つ空間を凍結させる弾丸も同じ敵に命中する。
 ルアは黒い太陽を具現化し、羅心衆たちへと絶望の黒光を照射する。
 仲間たちはもちろん、羅泉グループも足の止まった敵を抜け目なく狙い始める。
 かぐらがドローンを展開して仲間たちを守っている。羅泉グループも守らせるつもりだったようだが、ケルベロスと別の動きをする螺旋忍者を同時に守ることはできなかった。
 支援を受けるタクティの爪や瑠璃のアックスが忍者装束の1体を追いつめていく。
 アトは負傷しているスーツ姿の前衛を癒やす調べを奏でているようだ。
 螺心衆は両方の陣営に反撃をかけてきた。
 回復を受けたばかりの前衛が、再び日本刀や手裏剣を浴びるのが見えた。
「大丈夫か!?」
「ああ、問題ない。まだまだやれるさ」
 仲間だと思い込んでいるように見せるためのルアの言葉に、まるで本当に仲間のような顔でスーツの男は答える。
(「利用しといて言うのもなんだけど、ホント、ヘンな奴らだなあ」)
 ケルベロスたちの演技に騙されているのか、それとも騙された振りをしているだけなのか……いずれにせよ、彼らが迷うことなくこちらの言葉に乗っかってきたのは確かだ。
 ガトリングガンを忍者装束に向けながら、ルアは思った。
 狭い路地で18人ものケルベロスと忍者がいつまでも戦っていられるものではない。いや、サーヴァントも勘定に入れればさらに4体か。
 戦場が路地の外に移るまで、数分もかからなかった。
 スノーリアは避難状況を横目で確かめる。
 警察はもう動いているようだが、まだ避難は完了していない。
「流れ弾には気をつけなきゃいけないんだよ!」
 拳を握り、気合いを入れ直す。
 言っているそばから、螺旋の風が戦場の外へと向かった。
 羅泉グループの1人が仕掛けた攻撃を、螺心衆が回避したのだ。
「危ない!」
 そう叫んだ直後には、ボクスドラゴンのマシュが動きだしていた。
 薄桃色のボクスドラゴンは、攻撃を体で受け止めて一般人をかばう。
「ありがとう、マシュちゃん」
 サーヴァントにねぎらいの声をかけてやるが、まだまだ油断はできない。
 ミシェルの起動した爆弾が、傷ついている忍者装束の足を止める。その機を逃さすに、スノーエルは召喚の魔法を使う。
「こんなことも出来るんだよ? 出ておいで、いくよっ! ……そーれっ!!!」
 使わなくなった魔導書が敵の頭上に出現する。
 本の角で強打された忍者は、激しく吐血して倒れた。
 一人目の敵を撃破したのと前後して、別の忍者装束を後衛のスーツが撃破した。中衛と前衛が1人ずつ倒れている。
 羅泉グループ側は前衛の男が守りを固めて攻撃を引き受けている。
 かぐらは日本刀による斬撃からスーツの忍者をかばった。
「すまないな。少し危なかった」
 スーツの男の姿がちらついて見える。分身をまとって身を守っているようだ。
(「……悪いけど、後でしっかり剥ぎ取らせてもらうわよ」)
 内心の考えを隠してかぐらは笑いかけて見せた。
「気にしなくていいわ。仲間でしょ?」
「……ああ、そうだな」
 もちろん、ケルベロス側が受けているダメージもけして低くはない。
「私が全体を回復しますので、傷の大きい方を治してあげてくださいね」
「うん、わかってる。プロデューサーさん、よろしくね」
 後方でアトが瑠璃と言葉を交わす。
 アトのハーモニカが奏でる行進曲や、瑠璃のサーヴァントであるプロデューサーさんが起こす清浄な風が、かぐらたち前衛を支えてくれている。
 まだまだケルベロスたちも倒れることはなさそうだ。
「敵の人数も多いけど、こっちもなかなかの数よね……。ここ以外にもいっぱいいるのに普段は全然気付かないなんて、相当厄介な相手だよね……」
 嘆息するかぐらの後ろからルアが輪ゴムを飛ばした。
 螺心衆の前衛が、痛みに悲鳴を上げる。
「どう? 効いてる? ごめんね~♪」
 楽し気なルアの声を背に聞きながら、チェーンソー剣を構えてかぐらは突撃をかける。
 うなりをあげる剣で残った1人の前衛を蹂躙する。
「ハーロットさん、お願い!」
「おう、止めを刺させてもらうんだぜ!」
 右腕のガントレットから光の剣を生み出し、タクティが敵を叩き切った。
 残り3人の螺心衆を、ケルベロスたちと羅泉グループの忍者たちが追いつめていく。
 空は颶風をまとった大鎌を構えて敵に接近した。
 残っているのはいずれも後衛だが、もはや彼らを守る前衛はいない。
 もっとも傷ついている1人の眼前で少年の体が回転を始める。
「捉えて離さない!!」
 回転しながら斬りこんだ空の動きが竜巻を起こす。勢いのままに彼の体は錐もみしながら上昇していく。
 鎌を振り下ろしながら敵を地面に叩きつけると、もはや動くことはなくなった。

●羅泉グループを片付けろ
 ろくな反撃もできないまま、スーツの忍者によって残る2人のうち1人が倒れる。
(「まったく容赦がありませんね……」)
 アトは心の中で呟いた。
 同族を追いつめているのにもかかわらず、羅泉グループの動きに躊躇はない。
 螺旋忍軍の仲間意識が薄いのは知っていたが、これほどとは思っていなかった。
(「感情がないダモクレスのほうが、まだしもましなのでしょうか」)
 戦いは螺心衆を倒して終わりではない。
 驚きながらも、次なる戦いに備えてアトはさらにハーモニカを奏でる。
「皆さんが動きを止めぬよう、私から送る曲です。どうぞ……」
 低音から高音へ、テンポよく響いていく行進曲は、仲間たちの体力を向上させる。
 ルアのばらまくガトリングガンの弾が、最後の1人を片付けた。
「どうやら、片付いたようだな」
 前衛を担っていた羅泉グループの忍者がケルベロスを振り返る。
「さて、先ほどまで援護してくれた礼をしよう。……苦しまぬように殺してやる!」
 エアシューズである革靴で強く踏み込む。
 タクティは地を走る炎を前に立ちふさがって仲間をかばい、両腕のガントレットを打ち合わせた。
「ま、実際にお前らも忍軍ってことは知ってたのだけどねーだぜ」
 サーヴァントであるミミックも威嚇するように彼の前に出た。
「前菜はお仕舞い。ここから先は主菜で御座いますよ」
 ミシェルは優雅に一礼し、武器を向ける。
「なっ、なんだとっ! 我らの正体はばれていたと……いうのか……」
 後方の3人は表情を動かさないが、前衛の男は驚愕をあらわにする。
「悪いけどそういうことよ! あたしのファンにする代わりに地獄のゲリラライブを聞かせてあげるから許してね!」
 宣言した瑠璃が片目をつむってみせる。
 ケルベロスたちが攻撃態勢に入る。
 後方の敵は後から動き出したにも関わらず、味方より早く攻撃を仕掛けてきた……が、防衛役のメンバーが攻撃を散らして集中放火を避ける。
「はいはい分身、分身」
 前衛の男がまとう分身を空の蹴りが吹き飛ばす。
「わははは! 逃がさないよ~!」
 ルアが飛ばした輪ゴムから傷だらけの男が仲間をかばう。
 中衛を狙うケルベロスに対し、ディフェンダーらしい前衛が必死にかばう。だが、攻撃のすべてを受けきることができるわけではない。
「こういうときは楽しかったぜぇ! お前達との共闘ぅ! とでも言っとけばいいのかなっとだぜ」
 前衛の頭上を飛び越えたタクティが、左腕にまとわりつくオウガメタルを変形させる。
 結晶化した鋼の拳が、スーツの男を打ち倒した。
「ちっ、せっかく守ってやっているのに、ろくに仕事もできないうちに倒れるとはな」
 前衛の男が吐き捨てた。
「仲間に対する物言いでは御座いませんね」
 ミシェルは背筋をしっかりと伸ばし、彼に弓を向けた。
 守りを固めていることを差し引いても、もはや彼には限界が見えている。
 分身をまとおうとしていたが、まとう度に空やかぐらの攻撃がそれをはぎ取っていた。
 傷ついた忍者をケルベロスたちが狙う。彼は集中攻撃に耐えてみせた。
 だが、一度が限界だった。
 敵を追尾するミシェルの矢がスーツを貫いた。
「スノーエル、頼む!」
 倒しきれなかったと感じて彼が叫ぶのよりも早く、愛しい人はすでに動いていた。
 ミシェルの体を竜の幻影が覆い隠す。
 業炎が敵を包み込み、一瞬にして焼き尽くす。
「やったよ、ミシェル!」
 スノーエルの言葉に片手を上げて応じると、ミシェルは服についた埃を軽く払った。
「道が開いた! ありがと、ミシェルさん、スノーエルさん」
 間髪入れずにかぐらが後衛へ突撃をかける。
「俺も当たったことあるけど、地味に痛いんだよね~。今度はアンタに当ててあげるね♪」
 敵の足を止めた突撃の効果を、グラビティをこめたルアの輪ゴムがさらに補強する。
 敵の反撃は確実にケルベロスたちを捉えていたが、誰も倒れるにはいたらない。
「後一息です。油断せずに……終わらせましょう」
 アトとプロデューサーさんによる回復が確実に攻撃の効果を減じていた。
 空が竜巻を巻き起こしながら敵を切り裂く。
 瑠璃は最後の1人に装飾過多のライフルを向けた。
 銃身が長く、取り回しが悪く、反動もでかいパンクな銃。
 けれども後衛からしっかりと狙えばちゃんと当たる。
「じゃあなだぜ!」
 タクティの拳がスーツを引き裂いた。
 破れた服ではケルベロスの攻撃は防げない。
「違う形で出会っていたら、あなたもあたしのファンにしてあげられたのかもしれないのにね」
「アイドルに……興味はない……!」
 最後の忍者は、発した言葉ごと氷付けになった。

●謎はいつか解ける
 町は再び静けさを取り戻していた。
「無事に片づいたね」
 空が仲間たちに声をかける。
「スノーエル、ケガはない? 皆様も、お疲れ様で御座います」
 妻の様子を確かめてから、ミシェルは他の仲間たちにも声をかけた。
「大丈夫なんだよ。ミシェルもお疲れさま」
 夫を見上げてスノーエルは微笑む。
「だいぶ壊れちゃったね。直していかないと」
 かぐらが街の様子を見やる。建物の被害は大きいが、人の被害はないようだ。
「帝が何者かはやっぱりわからなかったわね」
 アイドルではないみたいだけど、と瑠璃は言う。
「漏らしてくれたらありがたいけど、まあ期待はしてなかったんだぜ」
 タクティが言った。
「ま、いずれはわかるんじゃない?」
 気楽な口調でルアも言う。
「どんな目的があっても、身内同士で不協和音を奏でている間は怖がることはないでしょう。もちろん、油断はできませんが」
 アトの言葉に仲間たちは頷いた。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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