●わが社の命運を賭けて
大企業グループ『羅泉』の所有する、巨大なオフィスビルの一室にて。
「代表取締役社長、鈴木・鈴之助である。今、我が社は千載一遇のビジネスチャンスを掴んだ」
その日、羅泉の超エリート社員達に社長から直々の命令が下った。一見して、どこにでもいそうなサラリーマン風の彼らは、しかしただのサラリーマンではない。
羅泉に勤める超エリート社員は仮の姿。その正体は、螺旋忍軍の雑用兵。そしてまた、羅泉の代表取締役である、鈴木・鈴之助の正体も。
「螺旋帝の一族が東京都内に潜伏しているという情報を得たのだ。お前達エリート社員は豊島区を虱潰しに捜索せよ」
紛うことなき、螺旋忍軍に他ならなかった。
「万が一、他者の妨害が入るようならば、速やかに排除せよ。エリート社員ならば、給料分の働き、してみせるのだ!」
「了解です。では、吉報をお待ちください」
眼鏡の奥に鋭い眼光を宿しながら、5人のエリート社員達は空中に飛び上がり、姿を消した。
その一方、時を同じくして、『株式会社スパイラルハート』の一室では。
「傾注! これより、我が部署は24時間残業体制に突入する。下忍社員は4~6名の班を作成! 都内全域を分担して調査活動を行うように」
角付きの覆面をした螺旋忍軍の上忍が、配下の下忍達に指示を出しているところだった。
「調査対象は、東京都内に潜伏中と思われる、螺旋帝の一族その人である。諸君達には、主に豊島区域を中心に調査を行ってもらいたい。調査中、他忍軍の調査部隊を発見した場合は、最優先で他忍軍の排除を敢行せよ。健闘を祈る」
螺旋忍軍の中でも、諜報を得意とする一派、螺心衆。奇しくも、会社経営を隠れ蓑にした二つの螺旋忍軍が、豊島区にて激突することになるのであった。
●忍ばないサラリーマン?
「召集に応じてくれ、感謝する。東京都心部で、複数の螺旋忍軍組織が大規模な活動を展開し始めたようだ」
このまま行けば、遠からず螺旋忍軍同士の戦闘に発展する。デウスエクス同士が争うだけなら放置してもよいが、この戦闘により都心が破壊され一般人の犠牲者が出るとなれば、話は別だ。そう言って、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に、事の次第を説明し始めた。
「お前達には、争い始める螺旋忍軍の撃破を依頼したい。周囲の被害を抑える為には、両者の戦いに介入した上で、敵を連携させないように片方の忍軍を撃破し、返す刀でもう片方の忍軍を撃破する必要がある。忍軍同士を戦わせて疲弊した所を叩くという作戦も可能だが、この場合は市民の死傷者が出る可能性が高くなってしまうから、介入のタイミングには注意してくれ」
加えて、呉越同舟となった敵は協力してケルベロスに敵対してくるため、忍軍同士の戦いを長期戦に持ち込ませて疲弊させる工夫がなければ、却って戦況は不利になってしまう。その辺りも踏まえ、くれぐれも慎重に対応して欲しいとクロートは告げた。
「今回、お前達に向かって欲しいのは、豊島区巣鴨の地蔵通り周辺地域だ。市民の避難を先に進めることは可能だが、なにしろ年寄りが多い場所な上に、螺旋忍軍の連中は周囲の被害を顧みず戦うからな。介入のタイミングが遅れれば遅れる程、市民に被害を出す結果になり兼ねないぞ」
適切な避難誘導を行うことができれば双方の螺旋忍軍を激突させて疲弊を狙えるが、失敗すれば被害も増える。また、疲弊させた忍軍は協力してケルベロス達に対抗して来ることが予想されるため、それぞれの忍軍を個別に撃破することは難しくなる。
一方、最初から市民の被害を最小限に食い止めるため、どちらかの忍軍に肩入れして片方を撃破した後、返す刀で残りを撃破することになる。この場合、戦闘の初期から介入することで短期決戦に持ち込み、流れ弾による被害を防ぐことは可能だが、敵は疲弊していないため、双方の忍軍に協力されると勝利することが難しくなる。敵にこちらの意図を悟られないよう工夫する必要があるため、その点にだけは気を付けねばならない。
「俺が予知した未来によると、巣鴨地区で戦闘を始めるのは大企業グループ『羅泉』の誇る超エリート社員達と、『株式会社スパイラルハート』に所属する螺心衆の下忍達だな。前者はサラリーマン風の男が5名、後者は忍び装束に身を包んだ男が5名……合わせて10名の構成だ」
どちらも企業を隠れ蓑にした螺旋忍軍同士の激突である。互いに螺旋忍者のグラビティと同じ技を使用する他、羅泉の社員は爆破スイッチを、螺心衆の下忍達は日本刀を好んで使用する傾向にある。
「連中が争う理由を知りたいところだが、戦場に現れるのは下っ端ばかりだろうからな。大した情報も持っていないだろうし、そもそも連中がお前達に真実を告げる可能性の方が低い」
下っ端とはいえ、忍者は忍者。任務に忠実であるからこそ、最後までこちらを謀ろうとするだろう。
とりあえず、今は一刻も早く敵を撃破し、街に平和を取り戻すことが先決だ。そう結んで、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。
参加者 | |
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水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393) |
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448) |
ヤクト・ラオフォーゲル(銀毛金眼の焔天狼・e02399) |
揚・藍月(青龍・e04638) |
淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447) |
メルティア・フルムーン(レプリカントの鎧装騎兵・e20543) |
バン・トールマン(番頭するマン・e25073) |
アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330) |
●下町忍者バトル!
東京、巣鴨の地蔵通り。『お婆ちゃんの原宿』の異名を持つその町は、今や忍ばない忍び達が互いに鎬を削り合う戦場と化していた。
都電の上で睨み合う、サラリーマンと黒服の忍者。何の前触れもなく起きた凄まじい爆発によって駅が吹っ飛び、黒服の忍者達の放った氷結の螺旋によって、猿田彦大明神を祀った祠の入口が、瞬く間に氷に包まれて行く。
「この先は危険だ。近寄らないで!」
庚申塚駅の側にある踏切を背に、淡島・死狼(シニガミヘッズ・e16447)は懸命に避難誘導を続けていた。だが、とにかく老人が多いため、なかなか避難が進まない。
「なんでこの人達、探し人が巣鴨にいると思ったのか……。そして、何で此処で戦闘始めちゃうかな~!」
周囲の状況も顧みずに暴れ回るサラリーマン忍者達の姿に、水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)は苛立ちを隠し切れない様子で呟いた。もっとも、そんな彼女の言葉など、今の螺旋忍軍達にとっては雑音程度にしか聞こえていないのだろう。
「ふふふ……今の時代、忍者もハイテクを使いこなせねば生き残れません。あなた方の戦い方は、古いんですよ」
「笑止! 爆破しか能のない貴様達の技など、我らにとっては児戯同然よ!」
案の定、互いに罵り合いながら、今度は都電の線路上で戦いを始める始末。ある者は電線の上に飛び乗って、またある者は電柱の上から攻撃を繰り出して、その度に街が壊れて行く。
「いい年した社会人が人様に迷惑かけるんじゃないわよ」
あまりに見境のない戦い方に、メルティア・フルムーン(レプリカントの鎧装騎兵・e20543)は物影から呆れ顔で戦いの行末を見守っていた。同じく、アルト・ヒートヘイズ(写し陽炎の戒焔機人・e29330)もまた、どうにもコメントに困っているようで。
(「………サラリーマンなのか忍者なのか、はっきりしようぜ?」)
まあ、確かに忍者も組織によっては階級にうるさく、賞与をもらって生活しているという点で違いはないが。しかし、こうも白昼堂々と忍ばずに戦うのは、忍者として本末転倒ではなかろうかと。
「ひぃっ! た、助けてくれぇっ!」
「婆さん、早ぅ、こっちに来んかい!」
大通りから左右に伸びた路地裏へ、御老人達が散るようにして逃げて行く。路地裏はそこまで複雑な地形をしておらず、真っすぐ進めば直ぐに新中山道へと抜けられるのは幸いだった。
「えぇい、しぶとい奴らよ! 貴様達も忍であれば、太刀の一本でも抜いてみんか!」
「やれやれ……なんとも前時代的な方々ですね。そんなことでは、そちらの会社が株式市場から撤退するのも近いのでは?」
あくまで距離を取って戦うことを好む『羅泉』のエリート社員達が、眼鏡の位置を直しながら螺心衆に対して挑発するような言葉を返す。が、次の瞬間、そんなエリート社員達の真横から、突如として瓦礫の塊が飛んで来た。
「……どうやら、新手のようですね」
後頭部に直撃を食らったにも関わらず、エリート社員は何ら動じぬ様子で、瓦礫を投げたヤクト・ラオフォーゲル(銀毛金眼の焔天狼・e02399)の方へと向き直った。普通の人間であれば致命傷になるような一撃を食らっても、そこは腐ってもデウスエクス。グラビティ以外の攻撃では、何のダメージも受けていないようだ。
「我らと似たような風体の者達……何者だ?」
「大方、地球の忍か、我らに与する別の組織の者だろう。邪魔立てせぬというのであれば、放っておけ」
忍び装束に身を包んでいたことが幸いしたのか、螺心衆はケルベロス達のことを、敵と認識しているわけではないようだった。だが、敵対こそされなかったものの、螺心衆の一員として誤認させるのは、残念ながら無理があった。
そもそも、この地域を任されているのは、ここにいる螺心衆の下忍達のみ。他の地域へ派遣された下忍達には、その地域での任務を全うするという使命がある。
任務を全うしたのであれば、全軍に撤収命令が出されるはず。そうでなければ任務を放り出して援軍に駆け付けたことになるが、そんなことをする者は、最初から忍者として失格だ。
下っ端とはいえ、それでも忍者。一度、下された命令は、首領が死んでも消えることはないというのが、影の世界に生きる者達の定めであるが故に。
(「さすがは忍者……。格好や行動は残念でも、芯の部分では侮れませんね……」)
覆面の奥で歯噛みするレクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)。しかし、ここまで来たら、退くという選択肢は既にない。まずは螺心衆から敵対されていない現状を利用して、エリート社員達を叩かねば。
「助太刀致します。今は、任務に集中を……」
腰溜めに刀を構えたまま、レクシアは一気に間合いを詰めて敵を斬る。スーツのジャケット諸共に身体を斬られたエリート社員が体勢を崩したところへ、今度はバン・トールマン(番頭するマン・e25073)が死角から飛び出して斬り掛かった。
「くっ……なかなか、やってくれますね。ですが、それでこそ我々も戦い甲斐があるというものですよ」
斬られた上着を放り投げ、エリート社員の眼鏡の奥で眼光が輝く。どうやら、あちらも本気で来るようだ。ならば、少しでも戦いを有利に運べるようにしなくては。
ボクスドラゴンの紅龍に守りを任せ、揚・藍月(青龍・e04638)は手にしたスイッチを押すことで、仲間達の背後にカラフルな爆風を発生させた。それを見た『羅泉』のエリート社員達は、しばし訝しげな表情を浮かべたところで、何かを納得した様子で笑みを浮かべた。
「我々と似たような技……そして、こちらの身体に傷を付けることができる存在……」
「おまけに、小竜を手懐けている。……なるほど、解りましたよ。あなた方の正体が!」
呼吸を整え、横並びに立つエリート社員達。不意を突かれた際の動揺は既にない。非情なる企業戦士の本性を表し、彼らが手にしたスイッチを押したことで、ケルベロス達の足下に強大な爆風が巻き起こった。
●裏の裏の、そのまた裏
地蔵通りにて激突する二つの忍軍。だが、互いに力を拮抗させていた戦いは、ケルベロス達の介入によって徐々に流れが変わり始めた。
状況を有利と察して螺心衆が一気呵成に攻め立てるのに対し、『羅泉』のエリート社員達は、数の差から防戦を強いられている。おまけに、彼らの得意とする技は、その大半が複数を纏めて攻撃できるというもの。ある程度の数が固まっている敵には有効だが、数が増え過ぎた場合は逆に威力を拡散されてしまう。
「これは、思った以上にやるようですね……。ですが、調子に乗っていられるのも、今の内ですよ!」
エリート社員の一人が両手に持ったスイッチを押した瞬間、周囲で次々と爆発が起こり、ケルベロスか螺心衆の違いなしに紅蓮の炎へと飲み込んで行った。その攻撃を前に、とうとう螺心衆の内の一人が宝玉へと姿を変えてしまったが、それでも大多数の者は健在だった。
「定点攻撃に切り替えましょう。このままでは不利……っ!?」
纏めて殲滅するのは無理と察したエリート社員が仲間達に告げたが、その言葉を遮るようにして、今度は別の影がエリート社員達に肉薄し、至近距離から掌底を叩き込んだ。
「ぐっ……な、何者だ!?」
「……増援だ」
スーツを破られ吹っ飛ばされたエリート社員に、死狼が押し殺したような声で告げた。それだけでなく、今度は別のエリート社員の動きが突然止まり、果ては傷付いた螺心衆の身体に破壊のルーンの力が降臨した。
「なんだと! この期に及んで、まだ新手が!?」
避難誘導を終えて現れたアルトと、ビハインドの戒斗。その姿を確認したエリート社員は、いよいよ追い詰められたと悟ったようだ。
「これは好機だ! 一気に攻めるぞ!」
敵が弱ったことを知り、螺心衆達が一斉にエリート社員達へと殺到した。その流れに乗って、レクシアもまた美しい円弧を描き、敵の急所を抉るようにして斬り付ける……が、その一撃がエリート社員に止めを刺した瞬間、螺心衆が一斉に彼女と倒れたエリート社員を見比べた。
「我らと同じ存在を、宝玉にせず倒し切る……さては貴様達、番犬だな?」
螺心衆の一人が、絶命して動かなくなったエリート社員を見つめて言った。
デウスエクスとケルベロス。その最大の違いを見られてしまえば、気付かれるのも当然だった。
「構うな! 今は『羅泉』の者どもを倒すのが先だ。番犬であろうと、何であろうと、利用できる力は利用するだけよ!」
もっとも、当の螺心衆達は、ケルベロスよりも敵対組織の排除を優先しているようだ。
ここから先は、仕切り直し。残るエリート社員達も必死になり、自らの命さえも顧みず仕掛けて来る。
「……そこですね! それで隠れたつもりですか?」
飛来する氷結の螺旋を食らってもなお、社員の一人が凍り付いた腕のままスイッチを押す。瞬間、近くのマンホールの蓋が吹っ飛んで、隠れていたバンが叩き出された。
「さすがは忍者、と言ったところですかぜ? 闇討ちで仕留められれば幸いでありましたが……」
苦笑しつつ、口元の泥を拭うバン。いかに物影から狙撃を繰り返そうとも、敵を視界に捉えられる場所にいる以上、当然ながら敵からも位置を捕捉される。初撃の奇襲だけならまだしも、死角や射程外からの一方的な攻撃など、半永久的に続けることは不可能であり。
「番犬など捨ておけ! 敵の疲弊した、今が好機よ!」
それでも、ケルベロス達が引き付けている間に、螺心衆達は次々とエリート社員達に斬り掛かり、その力を容赦なく削いで行く。一進一退の攻防の果て、とうとう幾度目かの激突の末、藍月の蹴撃に紅龍のブレスが重なって、エリート社員の一人を焼き払った。
「テメェの臓腑。その全て、貪り喰らう餓狼の顎門に沈め!」
残るエリート社員の内の一人に、燃え盛る炎を両腕に纏ったヤクトが襲い掛かる。その様は、正に地獄の番犬、ケルベロスの如く。3頭を持つ魔狼の顎門が、容赦なく敵の身体を噛み砕き。
「遅れてごめんね! ここからは、僕も戦うよ!」
登場と共に気弾を放ち、合流した蒼月が駄目押しの一撃を放つ。衝撃で吹き飛ばされたエリート社員を、待ち構えていたレクシアの刃が斬り捨てた。
「これで……終わりです」
両断され、虚空へと消えて行く眼鏡の男。その様子を物影から確認したメルティアは、バスターライフルのロックを外すと、ライドキャリバーのギルティア共々、改めて敵の背後から狙いを定めた。
(「……さて、お仕事の時間。さっさと終わらせよう」)
●漁夫の利を得る者
『羅泉』のエリート社員達を葬り、後は螺心衆を残すのみ。だが、始めこそメルティアの奇襲が決まったものの、そこから先は、むしろケルベロス達の方が劣勢に追いやられていた。
「くそっ! 利害の一致とはいえ、さすがに敵まで回復させたのは失敗だったか!」
銀色に輝くオウガメタルの粒子を散布しつつ、アルトは自らの迂闊さを呪いながら叫んだ。
先の戦いでヒールを撒き過ぎた結果、敵は何もしなくとも、こちらの強化を根こそぎ破壊する術を得てしまった。そのため、いくらアルトが粒子を散布しようとも、その度に破壊されて堂々巡りだ。
「フハハハッ! 策士、策に溺れるとは、このことよ! 地球の番犬どもなど、恐れるに足らず!」
螺心衆の放った氷結の螺旋を受けて、アルトの隣にいた戒斗が、ついに限界を迎え消滅した。このままでは拙いと解っていたが、連戦による消耗は思った以上に激しい。避難と戦闘で役割を分担した結果、最初から戦い続けていた者達は、8人全員で挑んだ場合よりも深手を負ってしまっていたのだ。
「こいつら……いい加減、俺に狩られやがれ!」
「笑止! 正体を見極められて、我らの背後が奪えると思ったか?」
地獄の業火で包んだ戦籠手の一撃でヤクトが螺心衆を殴り飛ばしたが、その隙を狙い襲い掛かった別の螺心衆が、彼の胸元を太刀の一突きで貫いた。
「……ぁ」
叫ぶよりも先に、口元から激しく鮮血が溢れる。完全な相討ち。このまま戦い続ければ、双方に被害の生まれる泥試合になる。
「敵に付与された力は、こちらで破壊する。その隙に畳み掛けてくれ」
味方の回復を紅龍に任せ、藍月が脚を振るって近くにいた螺心衆をまとめて蹴り飛ばす。もっとも、そんな彼も紅龍も、既に限界寸前だったが。
「もう、とっておきを隠す必要もありませんね」
「太陽のきらめきも、月光の蒼明も、一瞬、死の伴奏と変わるが忍の運命。てめぇらも、覚悟は出来てるだろうな?」
こうなれば、死なば諸共だ。翼を広げたレクシアが舞い、鎖を両手に携えて死狼が跳ぶ。
「吹き抜ける風と燃え滾る想いに枷は要らない!」
「受けろ、奥義! デスバイハンギング!」
地獄の炎によって成された翼が敵を舞い上げ、続けて絡み付いた二本の鎖が敵を大地に叩き付けたところで、完全に螺心衆の息の根を止めた。が、安心するのも束の間。残る二体の螺心衆が、レクシアと死狼を倒すべく襲い掛かって来た。
「……っ! そうはさせない!」
済んでのところで、メルティアがギルティアと共に割り込んで、攻撃から仲間達を庇う盾となった。
身体を射抜かれ、凍結させられていたが、それに構っている暇はない。ギルティアの牽制弾に合わせて放ったメルティアのエネルギー光弾が、真正面から敵を捉えて灰燼と化し。
「逃がしやしませんぜ。忍法、影縫い」
残る敵は、これで一人。いつの間にか電柱の上に登っていたバンが、忍装束を脱ぎ捨てて番頭の姿となった。投げ付けられた下駄箱鍵が相手の影に突き刺さると同時に、敵は動きを封じられ。
「本当、こっちの身にもなってよ! そっちは手加減しないで、どったんばったん大暴れ出来るけど、こっちは、その暴れたの畳まなきゃならないんだよ!」
最後は、蒼月の影より出でし大小様々な猫が、雪崩の如く螺心衆へと襲い掛かって息の根を止めた。
「一先ずは、これで終わったようだが……」
辺りを見回し、藍月が言った。人的被害は最小限に食い止められたが、街の建物以上に、なによりも自分達の被害が最も甚大だった。
「イテテ……。何か食って、腹を満たしてから帰らねぇと、傷の治りが遅れそうだぜ」
胸元の傷口を抑えながら、ヤクトが口元の血を拭って立ち上がる。これだけ酷い手傷を受けて悪態が吐ける辺り、今回は彼自身のタフさに救われたということか。
「お疲れ様。できれば、この後に食べ歩きでもして帰りたいけど……」
そこまで言って、メルティアは徐に言葉を切る。美味しい下町の味を楽しむ前に、まずは街の修復が先決だ。
満身創痍の身体を叱咤し、ケルベロス達は立ち上がる。自らの守り通した巣鴨の日常を、再び御老人の笑顔が溢れる街へと戻すために。
作者:雷紋寺音弥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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